勇神伝説 第3章 救世神ガイアストーム
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 ゲイジャードを連れ戻すとアルティミスタはおかしそうに笑った。

「やっぱり、泣いて帰ってきた!」

「う、うるさい……あの時はたまたま油断しただけだ!」

 苦々しく顔を歪めるゲイジャードにアルティミスタはニヤニヤした。

「どうだか……あたしが助けないと、アンタ、死んでたかもよ?」

「き、貴様、俺を愚弄する気か?」

「本当のことを言ってるだけよ?」

 やれやれと首を振った。

「一度死なないと、その筋肉バカは治らないのかしら?」

「まったく、その通りだな……」

「ザムジード?」

 長い髪をふさっとなびかせ、ザムジードはゲイジャードを睨んだ。

「運命神を蘇らせた責任……どう取る気だ?」

「あ、あれはアルティミスタのミスだ……」

「あら……」

 アルティミスタは意外そうに口を押さえた。

「あたしの目的は常に一つよ……あの方の目的なんて、二の次の話よ?」

「それは、聞き捨てならんの、アルティミスタ?」

 後ろに立つ老人の杖がビシッと突き出された。

「ファイファル?」

 突き出された杖をゆっくりと手でどけ、アルティミスタは目を細めた。

「我々の目的は全て、あの方の意思のもと……お前が探している妹など、知ったことでない」

「なんですって!?」

 掴みかかろうとするアルティミスタにザムジードの涼しい声が響いてきた。

「ケンカする位なら、アルティミスタ、次はお前が戦陣を切ってみてはどうだ?」

「ザムジード……」

 一瞬、敵意を見せるアルティミスタにザムジードは嘲笑った。

「わかったわよ……ただし、結果は保証しないけどね?」

 

 

第三章『救世神ガイアストーム』

 

 

 その日は雨が強かった。

 差してる傘もほとんど役に立たず、横風が強く、少し肌寒かった。

 平次はグズッと鼻をすすり、寒さに耐えた。

「にしても今日は降水確率三十パーセントって言うとったのに、見事な土砂降りやん?」

 天気予報はなにしとるんやと愚痴る平次に一人の少女の姿が映った。

「……?」

 雨に打たれ、ぶるぶる震える少女に平次はそっと近づき、顔をのぞいた。

「誰や……お前?」

 持っていた傘を少女にかぶせ、雨をさえぎると平次は確かめるように聞いた。

「どなんしたや……こんな雨の日に?」

「……うぅ」

 寒さのせいか、うまく喋れない少女に平次は困ったように頭の後ろをかいた。

「……」

 平次はパサッと傘を仕舞うと、少女の身体を優しく抱き上げた。

「……熱い?」

 持ち上げただけでわかる。

 この娘は酷い熱に犯されてる。

 手に持った傘を投げ捨て、平次は急いで自分の家まで走っていった。

 

 

 部屋に着くと、平次は自分の布団を敷き、そっと彼女の身体を寝かしこんだ。

「相当、弱っとるの……病院に連れて行ったほうがええか?」

「あ……病院はちょっと」

 少女の訴えに、平次は困ったように聞いた。

「いかんって、症状がわからんで?」

「お、お願いします……」

 泣き出しそうな顔をする少女に平次はどうしたものかと考えた。

 なにか訳がある……

 ただの家出なら、とっくに音を上げてるはず……

 帰るところがない……

 平次は色々な考えを交錯させ、考えるのをやめた。

「理由は聞くからな?」

「あ、ありがとうございます……」

 ニコッと微笑む少女の額に手を置き、平次は自分の額にも手を置いた。

「相当熱いな……しばらくは安静やな?」

「も、申し訳……」

 そっと、彼女の口をつぐみ、平次は優しく微笑んだ

「気にせんでええから、今は早う風邪を治しや?」

「はい……」

 少女はようやく安心したように目を瞑り、布団に包まった。

「すぅ〜〜……」

「眠ったか……」

 少女が眠るのを確認すると平次は置いておいた手を離し、考え込むように立ち上がった。

「まずは服やな……ワイは男兄弟の一人暮らしやし、どうしたもんか?」

 う〜〜んと考えをまとめ、平次は苦笑した。

「仕方あらへんな……?」

 自分に言い訳をするように平次は部屋の受話器に手を置いた。

 

 

「平次くん、お邪魔するね?」

「邪魔するぞ、平次?」

 アパートの部屋に無作法に入ってくるクルミと大助に平次はスマンなと謝った。

「悪いな、二人とも……古い服を貸してくれって頼んで?」

「いいよ、そんなこと?」

 ガサガサと紙袋に入れた服を取り出し、クルミは平次に手渡した。

「はい、これクルミの昔の服……サイズ合うといいけど?」

「ありがとう、クルミはん……」

「ついでに、これは俺の古いジャケットな? 一応持ってきたんだが……?」

「あ、ありがとう……」

 手渡された男物のジャケットを見て、平次はどう答えたらいいか迷った。

 どの世界に年頃の女の子が、男物のダサいジャケットを貰って喜ぶか……

 そんなの未だに着て似合っとるのは、アンタだけや……

「仕方ないだろう、他に持ってくるもの思いつかなかったんだから……それよりも」

 大助は確かめるように眠っている少女の顔を覗き込んだ。

「この娘か……身元のわからない少女って?」

「まあな……」

 布団の中で気持ち良さそうに眠っている少女を見て、平次は困ったように頭をかいた

「家出かもしれんが……病院を嫌っとるから訳ありなのはたしかやけど?」

「それ以上は目覚めるのを待つしかないのか?」

「まぁな?」

 自嘲気味に頭を押さえる平次に布団からかすれた声がもれた。

「うぅん……」

「目覚めたようだな?」

 平次の顔を確認した。

「もう大丈夫か……?」

「……お腹空きました」

「腹減ったんか?」

 泣き出しそうな顔でもう一度いった。

「お腹空きました」

「わかった、なにか作ったる!」

「本当ですか!」

 ガバッと起きだす少女に一同の目が点になった。

「あ……」

 顔を真っ赤にし、少女はまたゴホゴホと咳き込みだした。

「き、気にしないでください……」

 布団に入り込もうとうする少女の肩を……

「待て!」

 ガシッと掴んだ。

「な、なんですか?」

 困ったように顔をしかめる少女に平次は黙ったままおでこをくっつけた。

「あ……あの?」

 いきなり異性におでこをくっつけられ、恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にする少女に平次は意外そうな顔をした。

「もぅ、風邪が治っとる?」

「本当か?」

 慌てて大助もオデコをくっつけようとするとクルミの手が彼の肩をつかんだ。

「なにしようとしてるの……?」

「あ……いや、べつに」

 顔を赤らめ、そっぽを向く大助にクルミは呆れたように頬を膨らませた。

「まったく、大ちゃんは……」

 ふぅとため息を吐くと少女は子犬のように鼻を鳴らした。

「ご飯は?」

「ああ、今、作ったる……そんな不安そうな顔をするな!」

「やった!」

 嬉しそうに手を上げると少女は顔を真っ赤にし胸元を隠した。

「私、下着姿のまま……?」

「二人とも、顔を背ける!?」

 ゴキッと大助と平次の首をムリヤリ、ひん曲げた。

「ほら、君……私と一緒に行こう?」

 クルミは慌てて少女を風呂の脱衣所へと連れ込んだ。

「目を閉じる!」

「は、はい!」

 慌てて二人は目を閉じ、背中を向けた。

「なぁ、平次……俺って信頼ないのかな?」

「安心せい……ワイも警戒されてる時点で、同類や!」

 

 

「お風呂、出たよ?」

「おぅ、クルミ、なんでお前も遅……いっ!?」

 大助は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。

「どうしたの、大ちゃん?」

 ふさふさと自分の髪をタオルで拭うクルミに大助は驚愕した。

「お前も、風呂に入ったのか?」

「うん、イリヤちゃん、一人で身体洗えないっていうから?」

 さも当然と微笑むクルミに大助は少し恨めしそうに少女を睨んだ。

 羨ましい奴め……

「クルミさんって、スタイルいいんですね? 私のこんなんだから、ちょっと悲しいです」

 ションボリボディーを眺め、落涙した。

「そのうちでかくなるわ……」

 用意した雑炊をテーブルに置き、食えと命じた。

「ありがとうございます」

「お前さんって、名前はなんっていうんや?」

「私ですか?」

 自分を指差し、ニコッと微笑んだ。

「イリヤです、助けてくれて、ありがとうございます!」

「気にするな、それよりも雑炊、早う食え?」

「そうさせてもらいます!」

 カチャカチャッと慣れない手つきでレンゲを雑炊に突っ込むとふぅふぅと息を吹きかけた。

「いただきます!」

 パクッ……

「お……おいしい!」

 顔をパァと輝かせ、イリヤは一気に雑炊を食べ始めた。

「よっぽどお腹減ってたんやな?」

「ぷはっ……」

 雑炊を食べ終えるとイリヤは満ち満ちた顔で畳部屋に倒れこんだ。

「お腹いっぱいです……ええっと」

「平次や!」

「平次さん……ありがとうございます」

 そっと起き上がり、イリヤは平次の顔をジッと見つめた。。

「こんなによくしてもらったの初めてです……」

「そっか……」

 平次も優しく微笑み、彼女の頭を撫でた。

「お前、どぅしてあそこにいたんや……」

「……」

 言いたく無さそうに口をつぐむイリヤに平次もそれ以上聞かない顔でいった。

「言いたくなるまで、ここにいていいぞ?」

「え……?」

 驚くように自分を見るイリヤに平次も顔を真っ赤にした。

「どうせ、男の一人暮らしや……ガキの一人や二人いたほうが張り合いがある!」

「素直じゃない奴……」

 ギロッと睨まれ、大助は口笛を吹いた。

「まったく……」

 気を取り直し、平次は見透かすようにイリヤの目を見た。

「嫌か……?」

「……いえ」

 ギュッと抱きつき、イリヤは泣きだしそうに頷いた。

「私、ここにいていいんですか?」

「悪ければ、とっくに追い出しとるよ……」

 平次の言葉を最後にイリヤはポロポロと大粒の涙を流し、感謝の言葉を連呼した。

「ありがとうございます……ありがとうございます……ありがとう」

 

 

「へぇ〜〜……」

 次の日、大助の話を聞いて、吉永は感心したように腕を組んだ。

「でっ……今そのイリヤって娘、平次の家にいるわけ?」

「ああ……中々、かわいい娘だったぞ?」

「そうかそうか……それじゃあ、今度、会わないとな?」

「会うって、相手は小さいぞ……下手したら小学生だし?」

「安心しろ、俺の守備範囲は広い……生物的に女なら、多少は目を瞑る」

「自分の人生に目を瞑る?」

「え……?」

 後ろを振り向くと、吉永の顔が真っ青になった。

「イ、イザちゃん……いつから、そこに?」

「さっきから、ずっと……」

 ニコッと微笑み、吉永の身体が殴り飛ばされた。

「ブギョバッ!?」

 壁に身体を叩きつけられ、そのまま襟首を掴むとイザナギは何度も吉永の顔面を殴りつけた。

 ひ、ひどい……

「それじゃあ、今日はその娘のために、平次くんは学校を欠席したの?」

 殴る手を止めず、大助を見た。

「まぁな……まだ、あの娘が心配らしく、当分は休学届けを出すらしい……」

「となると、生徒会長なしの学校生活ね? 開放的と言うか、なんというか?」

「なにも起きなきゃいいけどな?」

「まったく」

 アハハッと笑いながら、イザナギは止めとばかりに吉永の鳩尾をアッパーブローを浴びせた。

 

 

「ヤアッ! トオッ!」

「テヤッ! チェストッ!」

『YUO WIN!』

「だぁ〜〜……また負けた!」

 悔しそうにコントローラーを放り投げると平次は疲れたように倒れこんだ。

「ウフフ……また、私の勝ちですね? 今日の晩御飯はハンバーグがいいです!」

「まったく……」

 平次は悔しそうに唸り、起き上がった。

「ゲームキャラには負けたことないのに!」

「ゲームキャラは一定の動きしかしませんからね……私の動きはイレギュラーですよ?」

 嬉しそうに微笑むイリヤを見て、平次もどこか嬉しそうに微笑んだ。

「どうしたんですか……いきなり笑いだしたりして?」

「いや、いい笑顔だなと思って?」

「……姉譲りですから」

「姉譲り……?」

「いえ……」

 ごまかすように首を振り、微笑んだ

「それよりも、次はシューティングをやりましょう! 二人でやれば、全ステージも楽勝です」

「……そうやな?」

 ふと微笑み、平次はテレビを置くために設置した下のカラーボックスから一枚のゲームディスクを取り出した。

「んっ……?」

 不意に平次の脳裏に妙な感覚が襲った。

「どうしたんです……神妙な顔をして?」

「いや……」

 平次もごまかすように首を振り、天井を見上げた。

「今、誰かに、見られてた気がしてな……」

「ここに……」

 イリヤもつられるように天井を見上げた。

「よしてください……いくら、ここがボロ屋でもオバケはごめんですよ?」

「ボロは余計や!」

 イリヤの額をピンッとデコピンすると平次はクックックッと苦笑した。

 しかし、平次の直感は外れではなかった。

 平次の住むアパートの屋根の上で一人の少女が舌打ちをしていた。

「イリヤ……ようやく見つけたのに、なぜ、その男と……これも運命なの?」

 

 

 一週間も経つとイリヤも平次の家にだいぶ馴染んだらしく、最近では平次の家の手伝いをするようにもなった。

「平次さん、もぅそろそろお昼ですけど、今日はなんですか?」

「今日か……?」

 テーブルの上で雑誌を閉じ、平次は考え込むようにイリヤの顔を見た。

「今日はカレーにしようかと思うんやけど?」

「カレーですか……私の大好物です!」

「でも……ニンジンきらしててな?」

「それなら、私が買ってきます……お小遣いください!」

 スッと手を差し出すイリヤに平次は困ったように頭をかいた。

「まったく……途中で買い食いするんやないで?」

「それは時の運しだいです♪」

「こら、やっぱり小遣い返せ!」

「い〜〜や〜〜で〜〜す♪」

 スッと平次の包囲網を抜け、イリヤは楽しそうに家を出て行った。

「あ、こら……まったく」

 すっかり、家族の一員となったイリヤに平次はどこか胸の中で充足感を覚えた。

 

 

「ルンルン♪」

 買い物袋を片手にイリヤは商店街の道を歩いていた。

「今日はカレーカレー♪ 私の大好物♪」

 どこかテンポのずれた歌も歌いながら歩くイリヤの姿はどこか滑稽で、かわいかった。

 そんなイリヤの背後から、どこか影のある少女が声をかけてきた。

「ちょっと待って……イリヤ?」

「うん……誰ですか?」

 クルリと振り返ると商店街の世界が反転したように色を失った。

「え……?」

 急に色を変えた商店街にイリヤは不安そうに顔をしかめ、身体を縮めた。

「なにを恐れているの?」

「……?」

 震える身体で顔を上げるとイリヤは驚いた顔で目の前の少女を見た。

「お、お姉ちゃん……い、生きてたんですか?」

 イリヤの言葉にアルティミスタは頬を膨らませ、怒鳴った。

「それはこっちのセリフよ! 生きてるんなら、なんで私に逢いに来なかったの!?」

「その事は、お詫びします。私もつい先日、蘇ったばかりですから……」

「そぅ……じゃあ、お姉ちゃんの言いたいことくらいわかるわよね?」

 イリヤは不思議そうに首を傾げた。

「あなたが、今、世話になってる男……勇神よ?」

「勇神?」

「どうやら記憶のどこかが、欠如しちゃってるみたいね?」

 悲しそうにアルティミスタは目を細め、イリヤに近づいた。

「勇神は私たち神の一族の敵、これ以上、奴の近くにいれば、不幸になるわ!」

 手を差し伸べ、アルティミスタは優しくいった。

「お姉ちゃんが守ってあげるから、戻ってきなさい……もぅ一人にしないから?」

 イリヤは戸惑うように声を震わせた。

「お、お断りします」

「イリヤ……お姉ちゃん、本気なの。場合によっては、あの男を殺さなきゃならないの」

「そ、そんな事、絶対にさせません! 平次さんは私が……」

「どう守るって言うの……なんの力もない、人同然のあなたに?」

「……」

 言葉を詰まらせるイリヤにアルティミスタは改めてもう一度、聞いた。

「戻ってきて……おねえちゃんを一人にしないで?」

「お、お姉ちゃん……」

 ふるふるとアルティミスタの手にイリヤの手が触れようとした瞬間……

 ズシュンッ……

「え……?」

 イリヤは自分の胸に生えた血にまみれた剣を見て、目を見開いた。

「そ、そんな……」

 剣が引き抜かれ、血を撒き散らすイリヤに、アルティミスタの悲鳴が上がった。

「イリヤァァァァァァァァァ!?」

 ドサッと倒れるイリヤを抱き起こし、アルティミスタは顔を上げた。

「ザムジード……貴様、なんで、こんなことを!?」

 血を吐き出すイリヤに、ザムジードは意外そうに聞いた。

「どうした、アルティミスタ……いつもの余裕がないぞ?」

「イリヤは、アンタの恋人だったんじゃないの!?」

「それが……?」

 ゴミを見るような顔をするザムジードにアルティミスタは切れたように立ち上がった。

「き、きさま……!」

 怒りを露にするアルティミスタにザムジードは剣をしまい、呟いた。

「さて……お前も使い物にならなくなった。ここで処分させてもらう!」

 ザムジードは自分の胸に腕を突き刺し、心臓を抉り出すように咆哮を上げた。

「グァァァァァァァァァァァッ!」

 ザムジードの身体がドス黒い血に覆われ、その身体を狼の姿へと変えた。

 パリィィィィィィィィィンッ……

 今まで静寂を保っていた色を失った世界にヒビが入り、ガラスが割れるように世界が元に戻った。

「なんだ、あのバケモノは!?」

「に、逃げろ!」

 変身したザムジードを見て、血相を変えて、逃げ惑う人々の姿にアルティミスタは泣き崩れるようにイリヤを抱きしめた。

「なんで……せっかく逢えた姉妹が、こんな目に」

 ギュッと力をこめるるアルティミスタに気の抜けた男の声が聞こえてきた。

「……イリヤ?」

 廃人のようにふらふらと歩み寄ってくる平次の姿にアルティミスタは涙を拭った。

「なにをしにきた……勇神!?」

 アルティミスタの憎悪の目も気にせず、平次は倒れているイリヤに膝を突いた。

「誰がやったんや?」

 キッと上空に浮かぶザムジードを睨み、平次は怒鳴り声を上げた。

「貴様か!? ワイの家族を手にかけたのは!?」

「家族……イリヤがあいつの家族?」

 ザムジードを指差す平次にアルティミスタはイリヤの身体を強く抱きしめた。

「イリヤ……」

 ポタポタと涙を流すアルティミスタに平次はギリッと奥歯をかみ締めた。

「へ、平次さん……」

「ッ……!?」

 寝言のように自分でなく、平次の名前を言うイリヤにアルティミスタは大粒の涙を流した。

「イリヤ……こたえて」

 イリヤの耳にそっと語りかけるようにアルティミスタは聞いた。

「あいつのもとに……勇神である、平次のもとにずっといたい?」

「……平次さん?」

 どこか虚空を見つめるイリヤにアルティミスタは確かめるようにもう一度聞いた。

「そぅ……平次のもとに、ずっといたい?」

「いたいです……」

 傷の痛みか……

 それとも、これから死ぬものの悲しみか……

 イリヤは子供のように泣き崩れ、なんども同じことをいった。

「いたいです……ずっと平次さんと楽しく暮らしていたいです」

「……」

 涙を流し、必死に訴えるイリヤにアルティミスタは悲しそうに身体を離した。

「お姉ちゃん……悔しいけど、あいつにお兄ちゃんの座を譲るね?」

「お、お姉ちゃん……?」

 気付いたら、イリヤの唇にアルティミスタはキスをしていた。

 その唇から、淡い光が流れアルティミスタは心の中で願った。

 どんな事があっても、平次……あなたがイリヤを守りなさい。

 それが実姉の最後の願いよ……

 

 

 平次の怒鳴り声に、ザムジードはおかしそうに笑った。

「血の繋がりのない者……ましてや、我らの裏切り者を家族と呼ぶとは滑稽だな?」

「裏切り者?」

 顔をしかめる平次にザムジードは意外そうにいった。

「知らなかったのか……イリヤは、我らの同胞――神の始祖の生き残りだ」

 ザムジードの言葉に平次はなにを言っているのかわからず、声を張り上げた。

「いったい、なんの話や!?」

「……どうやら、本当になにも知らないらしいな?」

「だったら、なんや?」

 ザムジードの狼の口がグワッと広がった。

「だったら、用はない……消えろ!」

「っ!?」

 迫りくる、ザムジードの腕を掴み、平次は震える腕に力をこめた。

「貴様だけは……貴様だけは絶対に」

 腕のへし折れる音が響き、ザムジードの悲鳴が上がった。。

「グァァァァァァァァァァァッ!」

「絶対に許さん!」

 砕け散った腕の骨を支え、ザムジードは洗練された狼の顔を醜く歪ませた。

「き、貴様……よくも……」

「ふぅ〜〜ふぅ〜〜……」

「ッ……!?」

 ザムジード以上に獣のような唸り声を上げる平次に背中に妙な寒気を覚えた。

 な、なんだ、こいつは……

 ただの人間の分際で、俺を恐怖させたというのか……

 そんなこと……

「絶対に許されないのだぁぁぁぁ!」

 感情に任せ、飛び掛るザムジードの顔面を殴り飛ばし、平次は追い討ちをかけた。

「まだや! ぶっ殺したる!」

 地面に転がるザムジードにマウンドポジションをかけ、何度も殴りかかった。

「お前なんか、生きる資格はない! このまま殴り殺してやる!? 死ね……死んでしまえ!?」

 最後の一撃を当てようと、右拳を振り上げると……

《やめろ……その感情は危険だ! 落ち着くんだ!》

 誰や。ワイに語りかけるのは……

 振り上げた拳が止まり、平次は頭の中に男の声が響いた。

《私の名前は救世神ガイアストーム……勇神と呼ばれる者の一人だ!》

 勇神……この前のあのロボットのことか。

《その仲間と言っていいだろう? 平次、怒りに囚われるな……落ち着くんだ》

 うるさい。お前にワイの気持ちがわかるのか。

《その怒りが身を滅ぼすことになるぞ……》

 知ったことか!?

《平次!》

 ガイアストームの制止も聞かず、平次は止めた拳をもぅ一度、振り上げた。

「やめてください、平次さん!」

「えっ……?」

 腕を制するように抱きつき平次の焦点のあってなかった目に光がさした。

「イリヤ……?」

「はい、平次さん……」

 優しく微笑みかけるイリヤに平次は信じられない顔で聞いた。

「生きていたのか?」

「生きてます……平次さんのそばにいたいから」

 イリヤも自分の涙を拭い、ヘヘッと下手な作り笑いを浮かべた。

 そして、平次も下手な作り笑いを浮かべ、イリヤの身体を抱きしめた。

「阿呆……心配かけさせんな!」

「ごめんなさい……本当にごめんなさい!」

 泣きながら抱き合い、二人は見っとも無く泣きながら笑いあった。

 嬉しかった。

 大好きな人が無事だったことも、大好きだった人が自分を心配してくれたことも……

 全部嬉しくって、二人は泣いて笑うことしか感情を表現することができなかった。

 しかし、そんな二人の感動的な雰囲気をぶち壊すように一匹の獣の叫びが轟いた。

「イチャつくのもそこまだ!?」

 怒りを露にするザムジードに平次はイリヤを庇うように立ち上がった。

「ザムジード! この期に及んで、まだ勝負する気か!?」

「貴様に舐められたままでは光滅四天王の名が廃る……」

 ザムジードは砕け散った腕を下げ、奇声を上げた。

「ウァァァァァァァッ!」

 奇声が商店街全体に響き、ザムジードの狼の身体が次第に大きくなっていった。

「巨大化!?」

「貴様ら、全員、喰らい尽くしてやる……」

 巨大化したザムジードにイリヤは思い出すように目を細めた。

「相変わらず、キレるとエレガントさに欠けますね……ザムジード?」

「イリヤ……貴様も殺す! 私の手に収まりきらないものは全部、喰らい殺す!」

「イリヤ……!」

 イリヤの手を握り、平次は思い知った顔で聞いた。

「ワイ一人じゃ、また暴走してまう……一緒に戦ってくれるか?」

 コクリと頷いた。

「平次さん……その言葉、待ってました」

 平次の手を強く握り返し、イリヤは満面の笑顔を浮かべた。

「平次さんのそばにいられれば、私はなにもいりません……なにも」

「イリヤ……」

 イリヤの身体を片腕で抱きしめ、平次は右拳を高々と振り上げた。

「サモン、ガイアティラノ!」

 バンッと平次の拳が大地に撃ち放たれ、真っ赤な炎が大爆発を起こした。

 爆炎の中から赤い恐竜が現れ、ザムジードの砕け散った腕を噛み切った。

「ギァァァァァァァァァッ!」

 腕を引きちぎられ、悲鳴を上げるザムジードにガイアティラノは見た目にふさわ彷徨を上げた。

「救世合体!」

 ガイアティラノの身体が人型に変形し、平次とイリヤの身体を飲み込んでいった。

「救世神ガイアストーム!」

 ガイアストームに合体した平次とイリヤは左手の小さな刀を突き出し叫んだ。

「感じるぞ……平次の怒りもイリヤの悲しみも! 全ての元凶を絶てと俺を奮い立たせる!」

「クッ……」

 忌々しそうに舌打ちをし、ザムジードはハッタリをかけるように口を開いた。

「えらい口の訊き方だな? 昔の敵にもそれなりに礼儀があるんじゃないのか?」

「貴様に礼など不要! あるのは『消滅』の二文字のみ……覚悟しろ!」

 バンッと二本の刀を構えるガイアストームにザムジードは気に食わない顔をした。

「この凡骨が!?」

「甘い!」

 遅いかかかるザムジードの左腕を小刀で弾き、ガイアストームを両手の刀を十字に構えた。

「悪鬼義聖剣!」

「え……?」

 いつの間にか十字に斬られた自分の身体を見つめ、ザムジードは顔を青ざめさせた。

「ザムジード……言い残す言葉はあるか?」

 ガイアストームの最後の慈悲にザムジードは口から血を吐き、目を吊り上げた。

「貴様にやられるのが悔しい……」

「そうか……」

 ぶんっと右手の長刀を振り上げた。

「つまらん、辞世の句だ」

 振り下ろされる長刀にザムジードは目を瞑った。

 その瞬間、ガイアストームの剣とザムジードの間に凄まじい光が溢れ、大爆発を起こした。

「グァァァァァァァァッ……」

 巻き起こった爆風に吹き飛ばされ、ガイアストームはクルリと着地した。

「これは……」

「久しいの?」

 突然現れた老人の姿にガイアストームは舌打ちした。

「邪神官ファイファル!」

「覚えてくれていたとは光栄じゃ! まさか、こぅまで強くなっとるとは予想外だったがな?」

「貴様も、俺の弐天救世剣のサビにしてやろうか!」

「ほっほっほ……怖い怖い! お仲間さんが来たようじゃぞ?」

「え……?」

 自分に迫りくる二つの輝きにガイアストームは言葉を失った。

「勇気合体! 勇気神アラシード!」

「運命合体! 運命神サンフォーチュン!」

 バシンッと地面に着地し、アラシードとサンフォーチュンはガイアストームを中心に叫んだ。

「三勇神、ここに見参!」

 ブォンと熱気に近いオーラが回りに溢れ、ファイファルはニヤッと笑った。

「三勇神か……懐かしいの?」

「お前はファイファル!?」

「生きていたのか!?」

 驚くアラシードとサンフォーチュンに、ファイファルは愉快そうに口の端を吊り上げた。

「まさか、三勇神全員が目覚めるとは予想外じゃが……それも、またよし! あの方の飢えを満たすには丁度良い苦味じゃ♪」

「あの方!?」

 キッとファイファルを睨み、アラシードは叫んだ。

「破滅の光のことか!?」

「まぁ、お主たちの言葉を借りれば、その通りじゃが……その名前は気に入らん! これからは幼帝魔王様と呼べ!」

「幼帝魔王!」

「幼い皇帝……悪の心しかない破滅の光にはピッタリの名前だ!」

 サンフォーチュンの言葉にファイファルは額に青筋を立て、顎の髭をさすった。

「さすがに今の言葉は聞き捨てならん……少しお灸を据えなければならないようじゃな?」

「爺さん……アンタこそ、自分の状況をよく見るんだな!?」

 バッと運命剣のサヤに手をかけ、サンフォーチュンは中腰になった。

「こっちは三人! そっちはまともに戦えるのは、現役を退いた死に損ないだけだぜ?」

「口が悪くなったな、サンフォーチュン?」

 ピッと手に持った杖をサンフォーチュンに向けた。

「貴様らの相手など、一人で十分だ! 来い、ゲイジャード!」

「おぅ!」

 バシンッと地響きを上げ現れたゲイジャードにアラシードは癪に触った顔をした。

「我らを舐めているのか!? ゲイジャードごときでは我らの足止めにもならんぞ?」

 アラシードの叫びにファイファルは嘲笑した。

「どうする、ゲイジャード?」

「もちろん、勝負するぜ? どっちが舐めているか、思い知らせてやるぜ!」

 ドシンッと地響きを上げ、ゲイジャードは三勇神を睨んだ。

「さて、ワシらは去るか? 行くぞ、ザムジード?」

「クッ……覚えてろ!」

 姿を消していく二人にガイアストームは慌てて、後を追おうとした。

「おっと、通さないぜ!」

 目の前に立ち塞がるゲイジャードにガイアストームは苛立ったように叫んだ。

「邪魔だ、消えろ!」

 両手の刀を振り上げるガイアストームにゲイジャードはニヤッと笑った。

「これを見て、まだ強気でいられるか?」

「っ!?」

 上空から降り注ぐ雷光に撃たれ、ゲイジャードは悲鳴に近い叫びを上げた。

「これは……!?」

 サンフォーチュンに雷に撃たれたゲイジャードに驚きを見せた。

「ぐふぅ〜〜〜……武装完了!」

「ッ……!?」

 銀色の鎧に包まれたゲイジャードを見て、三勇神は驚いた。

「ゲイジャード、フルアーマー形態!」

「ゲイジャードが鎧を着た?」

 驚くアラシードにサンフォーチュンは一揆果敢に駆け出した。

「それがどうした? よぅは鎧を着ただけだろう……大して戦力は変わらん!」

「待て、サンフォーチュン!」

 アラシードの制止も聞かず、サンフォーチュンは天高く飛び上がり、腰の運命剣を抜いた。

「一撃必殺!」

 サンフォーチュンの運命剣がゲイジャードの脳天を切り裂こうとした。

 ガキンッ……

「なに!?」

 運命剣を弾き返され、サンフォーチュンは身体を縦に回転させ、後方に着地した。

「ぐははははっ……きかんな!」

「やろう……やるじゃねーか!? なら、これならどうだ?」

 グッと両腕をクロスさせ、一気に開いた。

「覚醒形態!」

 サンフォーチュンの身体に淡い緑色に光、天高く飛び上がった。

「いくぞ! 奥義……」

 運命剣を十字に斬り、サンフォーチュンは刀身に光を貯めた。

「天空一閃輪廻爆光剣!」

 運命剣の刀身から、光のエネルギー波が撃ち放たれ、ゲイジャードに襲い掛かった。

 あたりに大爆発が起こり、地面に着地した。」

「やったか!?」

「歯痒いな?」

「な……」

 ピンピンとしているゲイジャードにサンフォーチュンは信じられない顔で呟いた。

「無傷だと!?」

 ゲイジャードは首をコキコキと鳴らし、いやらしく笑みをもらした。

「この程度か、運命神?」

「くっ……」

 言葉を失い、立ち止まるサンフォーチュンにゲイジャードは駆け出した。

「次はこっちから行くぞ?」

 盛り上がった筋肉を振り上げ、ゲイジャードはサンフォーチュンを狙った。

「必殺! 剛力連打殺!」

「ッ……!?」

 ゲイジャードの拳が連続してサンフォーチュンの身体を貫いた。

「クッ……鎧を纏っただけで、なんて強さだ!?」

「クククッ……これが俺の真の強さよ。恐れ入ったか?」

 殴り飛ばされるサンフォーチュンを見て、アラシードとガイアストームはお互いに剣を構えた。

「まだ、俺たちが残っているぞ?」

「鎧の力で強くなるとは、情けないお前にピッタリだな?」

 剣を構えるアラシードとガイアストームにゲイジャードは口元を緩めた。

「さっきので、俺の強さを理解しなかったのか?」

「それでも、勝つ!」

「貴様に負けるわけにはいかないからな?」

「クククッ……おめでたい奴らよ!」

 また、駆け出そうとするゲイジャードに上空に消えたファイファルの声が響いた。

『ゲイジャード、遊びすぎじゃ! その鎧は試作品……そう長くは持たん!』

「なに!?」

 ファイファルの言葉にアラシードは驚愕した。

「この強さで、まだ試作品だと……!?」

「そ、それでは、完成すればどれだけの力が……」

 言葉を見失うアラシードとガイアストームにゲイジャードのいやらしい笑いが響いた。

「そうだな? 完成品の力で完膚なきまでに討ち滅ぼしたほうが楽しみがいがある……」

 クククッと笑い、ゲイジャードの姿が霧のように消えた。

 

 

 戦いが終わり、平次とイリヤはお互いに部屋に戻ると、嬉しそうに笑った。

「無事で何よりや……本当に良かった?」

 自分の肩を優しく抱く平次にイリヤも嬉しそうに微笑んだ。

「きっと、助かったのかお姉ちゃんのおかげだったんです……」

「お姉ちゃん……あいつは」

「光滅四天王の一人です……今は、もぅいません」

「……」

「お姉ちゃんは死に掛けた私の命を自分の命を使って救ってくれました」

「アルティミスタ……あいつは一体?」

 イリヤは首を横に振り自分で語るのを拒んだ。

「……ガイアストーム、話せるか?」

《ああ……アルティミスタ。 光滅四天王の一人でかつては、神の一族の一人だった》

「と、言うことは、イリヤも?」

《そうだ! まさかの運命か偶然か? お前が助けた少女……イリヤは神の一族の末裔だ》

「末裔……なぜ、イリヤの姉が光滅四天王に?」

「そ、それは……」

 イリヤは言いづらそうに顔を伏せた。

《……》

 ガイアストームもこれ以上なにも言わず、黙り込み、平次の質問をたった。

「……話したくないか?」

 困ったように頭を掻き、平次はキッチンへと向かった。

「昼飯にしようか? ニンジン抜きやけど?」

「平次さん……」

 不安そうに自分を見るイリヤに平次は不安を吹き飛ばすようにいった。

「はい……それ以上は深い入り禁止。お前が離したくなるときに話せ?」

 いいなと、目で合図を送る平次にイリヤも嬉しそうに頷いた。

「はい! なにかお手伝いできることはありますか!」

「それじゃあ、テーブルを片付けてくれんか? ワイはその間に調理してまうから」

「はい! 任せてください!」

 せっせとテーブルの上を片付け始めるイリヤに平次はクスッと笑い、天井を見上げた。

 フルアーマー……あれで未完成、ようするにあいつらはさらに強く慣れるのか。

 フルアーマーの強さに平次は心の中でグッと拳を固めた。

「うきゃぁぁぁぁぁ!? テーブルの上が乱雑しました〜〜〜〜!」

「……」

 平次は心の中で固めた拳が萎えたのがわかった……

 

説明
実はこの小説、かなり前にアラシード達の設定を宇宙刑事にして、勇者シリーズのような合体メインの話にしようと努力してた時期がありました。その時、主役は平次でした。(今はデータが消失し、アップすることは二度と叶わなくなりました)
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コメント
もうちょっと、絵が上達したら頑張ってみますね?(スーサン)
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