真説・恋姫†演義 北朝伝 終章・序幕
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 それは、一体“何度目の”時だったろう。“彼女”がその問いを、“彼”から聞かされたのは。

 「……なあ、貂蝉」

 「あら、どうしたのかしら、ご主人様?あ、もしかしてとうとう、私を受け入れてくれる気になったのかしらん?いやん。貂蝉ちゃん嬉しい!!」

 「……俺は一体、後何回、繰り返せばいいんだ?」

 「……っ!!」

 その瞬間。彼女の体は硬直し、先ほどまでの飄々としたお気楽な表情は、その十分以上に美しいと言える顔から消え、替わりに悲痛とも取れる表情へと変化した。そう。彼女がご主人様と呼んで慕うその青年から発せられた言葉は、ある意味、彼女が待ち望んでいたものだったとしても、出来うる事ならされたくは無かった問いであった。

 「……正直さ。もう、さっきのが何度目かすら、俺は覚えていない。少なくとも、百を超えた所ぐらいから、数を数えるのはやめたよ。……けどさ、“今回の外史”を終えたその瞬間、俺の脳裏にふと湧き上がったんだ。……何時まで俺は、役割を果たし続けないといけないのかってさ」

 「そ、それは……」

 「……悪い。お前にそれを答える権限は無いんだったっけな。……すまん、忘れてくれ」

 「……」

 そう。彼女には、彼のその問いに答える権利が与えられていなかった。初めて彼と出会ったあの外史の時から、永劫とも言える時をともにして尚、彼女に許されていることは彼を導き、見守る事だけだったから。

 「さてっ、と。それじゃあ次の世界に行くとしようか。……今度はどんなところだ?蜀か?魏か?呉か?それとも南蛮、いや、西涼かな?両袁家のどっちかって事もあるか。はたまた当時の倭国、五胡に所属ってパターンも」

 「……ご主人様」

 「ん?」

 「……私では、確かにご主人様の問いには答えられないわ。でも、一人だけ、それが出来る人物が居るわ」

 「……っ?!……ほんとか?」

 「ええ。……正確には、さっきの問いに答えると言うよりも、ご主人様をこの永劫の輪廻から外せる者、って言った方が正しいけど」

 「……何……だって?」

 永遠の牢獄ともいえる、彼に背負わされたその宿命。その罪業ゆえに架せられたくびきから、自身を解放出来る者が居ると。彼は貂蝉からそう聞かされ、一瞬己が耳を疑った。そしてそのすぐ後、彼は思わず貂蝉の肩をその手で掴み、必死の形相で問いかけていた。

 「誰なんだそれは!?俺をこの無限のループから出してくれる、そんなことが出来る奴が、本当に居るって言うのか?!」

 「え、ええ。居るわ。……私はね、ご主人様。貴方がさっき言ったあの言葉、『一体何度繰り返せばいいのか?』というその言葉を、貴方が自らその口にした時、この事を教えるよう、その人物から言い含められていたの。……永遠ともとれるこのループ、その行為にご主人様自らが疑問を抱いた時こそ、“時が来た”、その証になるからって」

 「時が来た……?一体何の事だ?」

 「それはご主人様自身で、『彼』の口から聞いてちょうだい。……今から、『彼』の居る所に回廊を開くから」

 す、と。自身の肩を掴んでいる青年の手を優しく解き、貂蝉は自身の片手を彼の背後に、手のひらを開いて突き出した。すると、その先に一筋の光が現れ、それはそのまま一つの扉へと変わった。

 「……さ。あの先に、その『彼』が居るわ。……行きましょう?貴方の旅の終わりを示す、その人の元に」

 「……ああ」

 貂蝉に示されるまま、彼はその扉のノブに手をかけ、ゆっくりと回す。そして開かれたその先から、眩いばかりの光が彼の目を眩ませ、その視界を遮る。

 「……連れてきたわよ、――。貴方がお望みの状態となった彼を。あの外史の中心を担うにふさわしい存在となった、北郷一刀を――――」

 

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 「……夢……?……私ったら、何時の間に寝ちゃったのかしら。……それにしても、なんだか随分久しぶりに、“あの時”の事を夢で見たわね……」

 んーんっ、と。東屋の椅子に座ったまま、腕を正面に伸ばしつつ体をほぐし、再び椅子の背もたれにその背を預けるその人物。艶やかなその黒髪を頭の後ろで三つ編み状態で束ね、どこか忍者を髣髴とさせる、黒い衣装を着た二十代後半ぐらいの容姿をしたその女性は、王?、字を彦雲という。

 一刀の側近である李儒こと、先の少帝劉弁の護衛兼相談役であり、その無二の親友とも言えるその人物は、現在ここ新野の地に滞在していた。つい先だって、一刀からの急使により、天下一の名医と言われる華佗を至急探し出し、この新野の地に連れてくるよう依頼された彼女は、その時運よく長安にいた華佗に事情を話し、その彼を連れ立ってこの地へとやって来た。そして現在、その華佗の手により、患者である劉gの治療が懸命に行われている。

 「……劉gちゃん、助かるといいのだけれど。……でも、例え助かったとしても、延命がいい所、でしょうね……。ふぅ。知識はあっても技術が無い以上、私には何も出来ないものね……。ほんと歯がゆいったら無いわねえ……」

 華佗をこの地に連れてきたその時点で、彼女に出来ることはもう無くなっており、今はただこうして東屋に座っているぐらいしか、今のところはやれることが無い。彼女の護衛対象である李儒も、姜維、徐晃、司馬懿の三人とともに、この日の昼ごろには新野に到着する予定なので、その彼女らが到着するまでの間、たまの休息をとっていると言うわけである。

 「……それにしても、今頃あの時の事を夢に見るなんて、やっぱり、“この物語”が終局に近づいているって事かしらね……」

 周囲に誰の気配も無い事を確認し、一人そう呟く王?。彼女自身、物語の終局を見るのは、何も今に始まった事ではない。それどころか、今までにそれこそ無数とも言える物語の終焉を、彼女はずっと見続けてきた。始まりの物語となったあの世界から、今存在しているこの世界に至るまで、彼女が主人と呼んで慕い続けるその人物、北郷一刀とともに。

 「……けど、よくよく考えてみれば、私自身が外史の登場人物として結末を迎えるのは、これが初めてじゃあないかしらね。今までは観測する側からしか、物語の終焉を見たことは無かったけど、この世界の物語が終わったとき、私は一体どうなるのかしらね……」

 す、と。王?は何気なく、その目を細めて空を見上げる。蒼い空はただ高く、今日は雲一つない快晴。その蒼空を時折横切るのは、数羽の鳥達のみ。

 「……やあね。懐かしい夢を見たものだから、なんだかちょっとおセンチ入っちゃった。さてっと!そろそろ白ちゃんも到着する頃でしょうし、本来のお仕事に戻りますか」

 椅子からすっくと立ち上がり、ひとつ大きく深呼吸をしたその一瞬の後、彼女の姿はもうどこにも見えなくなっていた。彼女の、この世界における“本来の役割”である、李儒こと劉弁その人を、その身命を賭して守る、そのために。

 

 そう、それは((嘗|かつ))て、彼女が交わした約束事。

 

 彼女が、彼女本来の姿で、愛する人の傍に居たいと願った時に、彼女が受け入れた制約。彼よりも先んじて、この世界に、この世界の人間として、生れ落ちる事を許されたその代償。……その約束が故に、愛しい彼の寵愛を受ける事も許されず、ただひたすらに見守る事しか、彼女には許されていなくとも、彼女は今、とても充実していた。

 

 「ご主人様と同じ世界に、一人の女として存在できる。それだけで私は幸せなのだから」

 

 始めに約束を交わしたその時、その場所で、彼女は笑ってそう言った。

 

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 そう。

 

 この物語は、ついにその終焉の時を迎えようとしています。一刀らが進むその路の先に、一体どんな結末が待っているのか?それはもう間も無く、皆様の目に明らかとなるでしょう。

 

 そして、その最後の戦いはすぐそこにまで、その足音を響かせています。その大舞台にて、最後の舞を舞うはこの者達。

 

 現実を認め、そしてそれを許容した上で、理想を実現させようとする者、劉玄徳。

 

 一族の為、江東の民のため、己が信念を貫き通そうとする者、孫伯符。

 

 妄執に縛られたまま、自らの願望を成し遂げようとする漢の皇帝、劉伯和。

 

 その三者に相対するは、物語の主人公たる北郷一刀と、その絆深き仲間達。

 

 

 英傑はここに集結する。

 

 

 『赤壁の戦い』

 

 

 全ての決するその舞台にて、彼ら、彼女らに待ち受けるのは、果たしてどのような顛末なのか。

 

 

 真説・恋姫†演義 北朝伝。

 

 

 その最終章の幕を、今ここに上げさせて頂きます……。

 

     

 〜序幕、了〜

 

 〜一幕に続く〜

 

説明
ども、狭乃狼です。

北朝伝、ついに最後の章の、開幕です。

まずは序幕。

この外史の発端、その真実の一端と供に、ある人物の見た夢、そしてその独白より、始めさせていただきます。

であ。
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コメント
遂に最終章ですか・・・早いものですね。ここのレッドクリフはどのように展開されるか楽しみです。(mokiti1976-2010)
劉邦柾棟さま、改定前の方でもそうする予定ではいました。ただ、あっちはそこまで行きませんでしたけどねw(狭乃 狼)
何かいよいよ「クライマックス」という感じが出ていましたね。 ふと思ったのですが、この設定って大改訂前の「真・恋姫無双 北朝伝」でもあったのでしょうか?(劉邦柾棟)
のっけからこの物語の核心に触れる会話、真相の一端が そしてその結末の場がレッドクリフ、と  舞台に集った三者、それに我らが主人公さんがどう邂逅していくのか最終章読ませていただきます(村主7)
導く人物が及川なら、おもいっきり笑ってやるww 笑う事は・・・素晴らしい事だと・・・思うよ・・・(IFZ)
とうとう終章まで来ましたか...それにしてもまさかループしていたとは...どんな終わり方になるか楽しみだー( ´ ▽ ` )ノ(スーシャン)
とりあえず最初から本編を読み返してみた。これからの感想は全部終わってからの方が良さそうな予感(KU−)
おお、真の姿で傍にいられるのこういった理由があったからなんですねぇ。(shirou)
いよいよ終章ですか。どんな結末になるのやら…ループしてる割にはO☆SHI☆O☆KI&O☆HA☆NA☆SHIを、毎回喰らってるんですねw(アロンアルファ)
記憶そのままだと精神異常をきたすよな、会ったのに知らないんだから・・・・強いねぇ・・・・終わりの夜明けは近いか・・・・(黄昏☆ハリマエ)
紫炎さま、実際にはその都度記憶の処理やらなんやらして、精神の安定を保ってるはずですけどねwさて、一刀のこの旅路、終わりに導いたのは誰でしょうね?ww(狭乃 狼)
百を超えるループ。一つに一〜二年としても百年から二百年。実際はバラツキがあるだろうし五年六年かかりかねない。よって三百年はくだらない……かな?普通精神が壊れそうだ。 一刀の長い長い旅路の果てをもたらすものは……誰なのだろうか(紫炎)
アルヤさま、チートの秘密・・・まあ、八割方はそれが理由ですけどねww残り二割は・・・物語の最後でwww(狭乃 狼)
ループしてたのか・・・・・・チートの秘密が明かされる?(アルヤ)
patishinさま、ボク自身も今そう思っていますw なにはともあれ、物語もあと少し、駄文が続きますがお付き合いくださいませww(狭乃 狼)
ついに終幕か・・・・長い旅路だったけれど、案外短いものだな・・・なんてね(patishin)
ブンロクZXさま、ほんとはそのこと、物語の冒頭に入れると言うのが普通なんでしょうが、私的にはこれが最良のタイミングだったので、今になっての公開ってわけですw(狭乃 狼)
berufegoalさま、信じられないといっていただける、それが何より嬉しいですw結末まであと少し、ぜひ、お付き合いくださいませw(狭乃 狼)
Siriusさま、ハイ、ついに始まりました。まあ、登録タグについては、補足と言うか蛇足と言うかw とりあえず、頑張ってみますです♪(狭乃 狼)
始まりましたか。何気に登録タグに作中の補足が書いてあるようにも見えますがw 最後まで頑張ってください(Sirius)
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