真・恋姫†無双 〜夢の中で〜 第十一話 『誘い』
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「五胡で将軍をやらせてもらっています。」

 

 

((司馬懿|しばい))

 

目の前の青年はそう名乗った。おまけに蜀に侵攻している五胡の将軍とも言った。

 

何で五胡の将軍がすでに蜀の城にいるんだ?とか、【男】は五胡と繋がっているのか?とか、考えたいことがあったが、詩織は一つだけ大きな疑問を抱いた。

 

(司馬仲達って魏の人間じゃかったっけ?)

そう。

史実において司馬仲達は魏の人間であり、魏に大きな功績を建てて、魏の中枢にいた人間のはずなのだ。

『実は五胡の人間だった。』何て聞いたこと無い。

 

 

「貴女のことは『詩織さん』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。お好きに。」

 

聞くべきか?本人に直接。しかしどう聞くべきだろう。

いや待て。((外史|このせかい))は正史とは違っている。現に桃香さん達は性別が違う。他にも三国乱世の結末や、その過程。そして『天の御使い』の存在も。

何が正しくて何が間違っているのか分からない、完全に『部外者』の私が『司馬さんって確か魏の人ですよね?』と聞くなんて無理だ。

 

私は一旦この件は保留にして、相手の話を聞くことにした。

「それで?司馬さんは私に用があるんですよね?」

「ええもちろん。色々と準備が整いましたので、詩織さんにお話を、と。」

準備?

「お話?」

疑問が浮かんだが、まずは相手の本題を聞くことにした。

 

「はい。…長々と前置きはしたくありません。単刀直入に言わせていただきます。よろしいでしょうか?」

「…ええ。こちらとしてもそっちの方がありがたいです。」

ニコニコと微笑みを絶やさない司馬に警戒心を抱きながら、詩織は話を促した。

 

 

 

 

 

 

「私は貴女の味方なのです。」

 

 

 

 

 

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「…あそこか。」

己の愛馬から降りて愛紗は呟いた。

「ああ、あそこで間違いないだろう。」

同じく星も馬から降りて言葉を返した。

「……ご主人様、あそこにいる…?」

恋は2人より一足先に馬から降り、後ろにいる雛里達に手綱を託した。

 

目の前、すぐそこに【男】が五胡の兵を連れて入ったという城があった。その手前の林の中に愛紗達はいた。

「城の内部は把握しています。ここと、ここ。2つの裏口がありますが、今はそこは無視しましょう。」

雛里達は作戦前の最後の打ち合わせを始めていた。

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数刻前。

朱里が提案した策は、極めて単純なものであった。

『まず少数の人間で隊を組み、先にご主人様と詩織さんを救出します。その間、私達は出兵の準備を整えます。御2人を救出した後、後から出発した本陣と合流。城を奪回し、五胡との決戦に臨みます。』

当然だが異論はなかった。

この作戦が一番効率的だったからだ。

 

『そこで先発隊の編成ですが…。』

少数精鋭に求められるものは、何といっても素早く、効率的に、且つ強力な実力を持つ人間である。

 

一人目は恋。

二人目は星。

三人目は愛紗に決定した。

何人か(武将のほぼ全員が)反対したが、まず紫苑と桔梗は武器が今回の作戦に向いていないので却下。

焔耶も同じく。

鈴々は一命は取り留めたが、当分は戦えないので当然却下。

翠と蒲公英がいなくなると騎馬部隊を指揮する人間がいなくなるので却下。

 

というわけで先発隊は愛紗、星、恋、指揮は雛里と15名の一般兵に決定した。

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「み か た ぁ ?」

いきなり訳の分からない事を言った司馬に対して、詩織は間の抜けた声を出してしまった。

「ええ、そうです。正しくは『味方になりたい』ですがね。」

「?どういう事?説明してくれない?」

さらに意味の分からない事を言う司馬に詩織は疑問を重ねた。

 

「貴女がこの世界に来たという事は、((于吉|かんりにん))達には会いましたね?」

「…ええ。会ったわ。あの人達にここに連れて来てもらったのよ。」

別に秘密にすることも無いだろうと思い、隠すことなく話した。

 

 

 

え?

 

 

「え…っていうか…え!?」

「ふふふ…。」

面白そうなものを見たようにして、司馬が笑う。

(この人…今!?)

 

 

「お察しの通り、私は管理人を知っています。なぜなら『私も』ですからね。」

 

 

「は!?」

管理人!?司馬仲達が!?

「何で!?司馬仲達は正史でも魏の人間として実在してる!!正史で存在した人間も外史には実在するはずでしょう!?なのに…!!」

『正史に実在した人間は必ず外史の人間として外史に存在する。』

と、この世界に来る直前に于吉達に言われた。なのに((目の前の男|こいつ))はそれを否定した。

「…どういうこと?…説明…」

「今はできません。…ですが、私の話を聞いてくれれば話しましょう。」

「……分かった。聞く。」

目先の事は置いとく。

…さっきから保留しまくりだね。私。

 

「まず私の目的…あ、私といっても『五胡』の、ですよ?ゴホン、…我々の目的はこの戦いを早急に終えることです。」

「ストップ。」

異議あり。は言わないでおいた。

「何でしょう?」

「戦いを終える…って五胡が蜀に攻めてきたんでしょう?それを『早急に終える』っておかしくないですか?」

「ああ、その事ですか。」

「その事…って。」

軽く言った。取るに足らないって顔をしている。

「必要なことなのです。この戦いは。だから50万の軍勢を用意しました。」

「必要…?」

『用意』って言葉も気になる。ただ出兵した、とは違う何か他の意味を持っているような…。

「私はね、((外史|このせかい))を終わらせたいのですよ。」

 

 

「異議あり。」

「却下します。」

「何で?」

「質問は最後まで話を聞いてからでお願いします。」

しょうがない。っていうかこの人何気にノリがいい。管理人ってそういう人の集まりなんだろうか?

 

「この世界は、正史を基に造られています。なのに歴史が捻じ曲がっている…おかしくありませんか?」

「それは…まぁ。」

それは仕方ないんじゃないか?『基本』は正史を踏まえて歴史は進んでいるが、複製物というわけではないはずだ。

 

「多少の『ずれ』は仕方ないと思います。ですがこの外史は捻じ曲がりすぎなのです。」

「…だからその『ずれ』を修正するの?その為にまた戦争を起こすの?」

「いいえ。無駄な命を消したりはしません。『いらない部分』だけを修正します。」

「ふぅ…ん…。」

修正。

具体的にはどうするつもりなのだろうか?

人間を殺すのはできるのかもしれないが、もうすでに三国は手を結んだ。その中の数名を殺したとて、歴史が元通りになるとは思えない。

 

「分かっていただけましたか?」

「大体は、ね。…でもなんで私なの?私がこの世界に来たのは数時間前だよ?」

「ええ知っています。ですが、貴女しかいないんですよ。だからここにお呼びしました。」

「じゃあお兄ちゃんは?味方だというなら、すぐに返して。」

「それは出来ません。」

紅茶を啜りながら、すました顔で言う。詩織はイラッとし、声を荒げて言った。

「どうして!?あんたの言ってる事はさっきからおかしいよ!?」

 

「おかしくなんかありません。…強いて言うならば、『利用させてもらうため』…ですよ。」

「利用…!?」

 

「そうです。この外史がしてきたように、管理人達がしてきたように、大陸がしてきたように、蜀がしてきたように、劉備達がしてきたように。」

「…!!」

「私も彼を。『天の御使い』を利用させていただきます。」

「そんなこ…!」

咄嗟に否定しようとしたが、司馬は強い声で言葉を重ねてくる。

「他の人達はずっと、己のためだけに彼を利用してきました。そしてこれからもそうするでしょう。」

司馬はソファから立ち上がり、部屋の中を歩き始めた。無論、紅茶を持ちながら。

 

 

 

「私はそんな気はありませんよ。」

 

 

 

「え…?」

 

 

「卑怯だと思いませんか?詩織さん。彼ら…いや、彼女らはずっと一刀君を使ってきた。大陸の未来のため、皆を幸せにするため、戦いが起きることのない国にするため…。そんな綺麗事を使って一刀君の『優しさ』につけこんだ。」

 

 

カツ、カツ、カツ、

 

 

歩きながら司馬は言葉を紡ぐ。

 

「誰も一刀君の事を『知ろう』としない。理解する努力さえしてこなかった。…一刀君にも家族がいたのにもかかわらず。一刀君にも『天の御使いとして』ではなく『北郷一刀として』いるべき場所があるのに。」

 

 

カツ、カツ、カツ、

 

 

ゆっくりと、しかし激しさを持つ声で話す。

 

「分かるでしょう?彼女達の言う『皆を幸せにする』。その『皆』の中に一刀君は入っていません。…一刀君を利用している証拠じゃないですか。」

「そんなことない!!」

そんなことない、はず、だ。皆が、桃香さん達が、あの優しい人達がそんな事思っているはずない!

 

 

カツ、カツ、カツ、

 

 

「違いませんよ。…先程も言ったでしょう?彼女達も知っているはずだ。一刀君に家族がいることぐらい。…なのに『皆』はこの世界に彼をずっと縛り付けた!」

「…!」

ひざの上のスカートを握る手に力がこもる。

 

 

カツ、カツ、カツ、

 

 

「たった2年ほど一緒に過ごしただけで一刀君の事を知ったような顔でいる…。口を開けば『優しい』だの、『頼りになる』だの、『大切な人』だの…誰にでも当てはまるような言葉。上っ面しか見ていない事が丸分かりです。」

 

 

カツ、カツ、カツ、

 

 

司馬の声が心にすべりこんでくる。

「…生まれてからずっと一緒に、誰よりも一緒にいた貴女なら分かりますよね?」

 

 

「彼の気持ちが。」

 

 

「この世界の誰にも明かしてこなかった、心の奥底に秘められた彼の本心が。」

 

 

「あんな女達よりもはるかに。」

 

 

 

そうだ。

そうだ。

私が一番近くにいたんだ。

生まれてから、ずっと。

ずうっと。

 

 

誰よりも知ってる。

 

 

お兄ちゃんのことを。

 

 

 

司馬の足が止まる。

「私は貴女の願いを必ず叶えます。」

 

私の目をまっすぐに見て、真剣な表情で言う。

 

 

 

「手を貸して下さい。貴方たち兄妹がいるべき場所は((外史|ここ))でもない、((蜀|あそこ))でもないでしょう?」

 

 

いつの間にか目の前にいた司馬が、真剣な顔で私に手を差し伸べてくる。

 

 

その手を

 

 

背にしている窓から差し込まれる太陽の光を受け、まるで後光があるかのように見える彼の手を

 

 

 

 

私は

 

 

 

 

〈続く〉

説明
タイトルってのは『遠回りに話の中身を彷彿させる言葉』みたいなモンなのに!!(多分)
前回のは完全に言ってんじゃん!!『司馬』ってガッチリ!

えー、しっかり反省しましたので、どうか許してください。
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コメント
よわみ(脆い所)につけいるのがうまいなぁ・・・・次回はその手を?・・・・・(黄昏☆ハリマエ)
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