真・恋姫 呉伝 −為了愛的人們−第五十四話 |
『赤壁編』
― 程普Side ―
「・・・・・・っふ!」
鋭い突きがわたしの腕を掠める。
わたしの身体は既に傷だらけ。
程公・・・なんて大層な二つ名で呼ばれるわたしがこんなに無様な姿になってる。
相手が強い。
ちがう。
わたしが弱くなっただけ。
「・・・・・・お主は本当にあの程公か?」
距離を取り、槍を構えた敵将がそう声をかけてくる。
「・・・・・・そうだよ〜」
わたしは力なくそう返す。
本当に程普徳謀だけど、程公と呼ばれた程普徳謀はもう居ないのかも・・・・・・。
「・・・・・・見込み違いと言うことか」
その言葉にむっとする。
だけど実際そうなのかもしれない。
今の私は唯の抜け殻。
わたしの天命はここまでなのかも。
でも、わたしがここで死ねば右翼が崩れる。
そうなれば皆が・・・。
一刀くん。
少しでいいから力を貸してくれないかな?。
一刀くんが言ってたように皆を守るだけの力を・・・。
わたしは一刀くんの顔を思い浮かべながら((矛|ほこ))の柄を確りと握り直した。
『現代編』
― 曹操Side ―
「公孫賛が居なかったそうね」
帰ってきた趙雲の報告を聞いてそう問い返す。
「牢に居た形跡は?」
「ありましたな」
脱獄?
いや、公孫賛の性格からして自ら脱獄しようなんて思いもしないはず。
となると、手引きした物が居る・・・・・・と言うことになるわね。
趙雲が・・・いえ、それもないわね。
公孫賛を私から隠す理由がない。
それにおかしいわ。
公孫賛も脱獄したのなら私の所に現れてもいい筈。
真面目な人物と言うのなら尚更。
麗羽も見当たらないと報告を受けた。
恐らく麗羽はお供の二人が逃がしたのでしょうけど・・・・・・。
もしかしたら麗羽達に付いていったのかも・・・・・・。
御人好しと名高い公孫賛ならありえない話でもない。
お互いに馴染みの関係だというし・・・・・・。
「ねえ、趙雲。余り言いたくはないのだけれど・・・・・・」
「なんですかな?」
「麗羽達に付いていったと言う事はありえないかしら?」
「・・・・・・ありえますな。なんせ超が着くほどの御人好しで・・・」
そう言って溜息をつく趙雲。
苦労しているようね。
とりあえずは捜索隊を出すとしましょう。
私はその((旨|むね))と趙雲の今後の扱いを公孫賛が見つかるまでの間、客将として扱う事とすると伝える。
趙雲が下がった後、一人玉座で溜息をついていたところ、桂花が現れた。
「お疲れのところ申し訳ありません、華琳様」
「気にしなくていいわ。・・・それよりも報告があるのでしょう?」
「はい。・・・・・・荊州で動きがあるようです」
今度は荊州・・・・・・ね。
桂花の報告はこう。
劉表の死。
跡継ぎ争いによる家臣団の分裂。
詳しい理由はわからないけれど、劉j側に付いていた一部の将が内紛を起こしたらしい。
「それで?」
「それでとは?」
「孫呉はどう動くつもりなのかしら?」
そう。
荊州の内乱よりも重要な事。
孫家と劉表との確執を知らない者は居ない。
袁術とは和解したようだけれど劉表相手ではそうは行かないでしょうね。
今まで集めた情報に寄れば一部の将が卑怯な手を使って孫堅を亡き者にしようとしたらしい。
事実、その事があって孫堅は数年間行方を暗ましていた。
その事も含めれば、孫家と劉表の対立は避けられないでしょうしね。
でも、いくら呉の『王』だからと言って表面的には漢王朝の臣。
どう動くつもりなのかしらね・・・・・・。
そんな事を考えていると思わず笑みがこぼれる。
そんな時だった。
「それは私がお答えしましょう。・・・・・・孫家は動きます」
「・・・・・・あら、断言するのね?」
「はい」
突然入ってきた男がそう口にする。
男・・・・・・司馬懿は目をそらす事無く私を見ている。
桂花に睨み付けられながらもその隣に立ち言葉を続けた。
「荊州の内乱・・・・・・乱を起こした張本人は黄祖・・・と言う将だそうです。
放っていた細作によれば、黄祖は長沙に攻め入っているとの事。
長沙の太守は黄忠漢升・・・この将は今回の跡目争いに置いてどちらにも付かなかった様子。
そしてそのどちらにも付かなかったことが災いし、反乱を起こした者達から攻められ、そうでない方からの救援を受けられずにいる・・・」
「なるほど・・・・・・どちらにも付かなかったのが災いしたという所ね。
となれば、長沙を守る為には孫呉に援軍を求めるしかない・・・と言うところかしら。
どちらにしろ孫呉には好都合な状況と言うわけね」
「そう言う事です」
私の言葉を肯定し、司馬懿は((漸|ようや))く視線をさげる。
「いかがいたしますか?華琳様」
「放って置きなさい。・・・今回の事は後にも先にも跡目争いでしかないのよ。
それに長沙に援軍を出すとなれば、私達漢王朝の臣がその跡目争いに加担する事になるわ。
それくらいは貴方にもわかっているでしょう?桂花」
「はい。・・・・・・しかし、孫呉は・・・」
「長沙が援軍を求めるのであれば、確実に孫家は動くでしょうね。
そのまま長沙を孫家に組み込む事になるでしょうけど一気に攻め入ったりはしないはずよ。
フフ・・・長沙を攻める反乱軍を撃退・・・で、済めばいいけれど」
孫家もその辺は確りと考えている筈よ。
終わるにしろ終わらないしにしろ、私は介入するつもりはないわ。
こう言ってはなんだけれど、国対一州牧の軍・・・・・・結果は見えている。
そもそも、事なかれ主義の劉表が家臣をまとめていなかったのが原因だといえるのでしょうしね。
孫家を巻き込む羽目になったのは自業自得としかいえないわ。
・・・・・・これで孫呉は更に力を増す事になるわね。
これ以上差を広げられる訳にも行かない。
早急に今回の戦で得た地を纏め上げる必要があるわね・・・。
私は立ち上がり、早速桂花に指示を飛ばす。
私の行く手を塞ぐ大きな壁を乗り越える為に・・・・・・。
― 黄祖Side ―
「なにぃ!?長沙と揚州の国境に呉の軍が現れただと!?」
俺は自分でも信じられないほどの声を上げる。
まさか!!
まさか、ここで孫家が出てくるだと!?
くそっ!!
どうしてこうなった!!
ふざけるな!!
やばい・・・・・・やばいぞ・・・・・・。
俺が反乱軍の長だと知れば孫家の奴らは容赦しないはずだ・・・・・・。
俺はこんな所で死ぬわけにはいかんのだ!!
「貴様ら!!遠慮はいらん!!全力を持って城を攻め落とせ!!!!そこぉ!!!グズグズするな!!!!!」
っくそ!!何もかも蔡瑁の所為だ!!
あいつが欲を張って独り占めにしようとするからこうなったのだ!!
あの男もあの男だ!!
何故俺ではなく蔡瑁なのだ!!
突然遣いを寄越してきたと思ったら全権を蔡瑁に任すだと!?
ふざけるな!!!
くそ!!
「っくそ!っくそ!!くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
― 諸葛亮Side ―
私は今襄陽の城の中庭に立っています。
私の中でずっと疑問に思っていることを尋ねる為にとある人を待っています。
視界の端にその人物が写り私はそちらに身体を向けました。
「お待たせしました。諸葛亮様」
「・・・いえ」
現れた人物。
私達、劉備軍をこの荊州ひいてはこの城に案内してくれた人。
名を馬謖幼常さん。
私を慕って、私が仕える桃香様を是非襄陽に招き入れたいと言って私達を迎えに来た人。
初めは本当にありがたいと思いました。
ですが、道中に浮かんだちょっとした疑問。
その疑問は、ここ・・・襄陽に近づくにつれどんどんと膨らんでいきました。
襄陽に到着してその疑問が晴れたかのように思ったこともあります。
跡目争いに桃香様を利用する為だったのだ・・・最初はそう思っていました。
桃香様の理想を利用して民の心を一方に引き寄せようとしているのではないか・・・そんな事を考えていました。
ですが、実際はそうではありません。
私達は本当に蔡瑁さんに招かれただけで何をすると言う事もないんです。
おかしいですよね?
風の噂程度でしかありませんが、南荊州の方で内乱が起こっていると聞きました。
でも、此処襄陽からは援軍に出向く気配すらありません。
私を含め桃香様達も、ただこの城で日々を過ごしているだけ。
恐らくは雛里ちゃんも疑問に思っているはずです。
そして何より、つい数日前に突然此処に現れた白蓮さん。
おかしいです。
なぜ、漢王朝を抱えている筈の曹操さんの所に行かず、まっすぐにこの襄陽に来たのかがわかりません。
いくら戦で負けたとは言え白蓮さんは((薊|ケイ))の太守。
漢王朝に歯向かったわけでもないのにどうして?
私の中でどんどんと疑問が膨らんでいきます。
今考えてみれば、荊州に至るまでの国境を難なく通り抜けられた事、私達は漢王朝の直轄地から追放された身。
なのに荊州まで来る事が出来た。
考えれば考えるほど私の中に生まれた疑問は膨らんでいくばかり。
私はその疑問を目の前にいる馬謖さんにぶつけました。
ですが、帰ってきた答えは妙に納得できる物でした。
事前に通行許可を取っていた事。
国境を抜ける際に漢王朝の忠臣である劉表さんが頂いていた許可証を使っていた事。
私達劉備軍を招いたのは劉表さんの意向だった事。
内紛は自分達で決着をつけるつもりだという事。
白蓮さんに関しては自分達はあずかり知らないという事。
至極まっとうな答えばかり。
それでも私の疑問は拭えませんでした。
私の疑問に嫌な顔をせず答えてくれた馬謖さん。
話を終え、この場から立ち去る馬謖さんの背中を見つめながら私は拭いきれぬ不安を一人で抱え込むしかありませんでした・・・。
『太史慈放浪編』
― 凌統Side ―
「付いたぜ」
「すまんの」
俺は、手で気にするなと表しながら馬を下りる。
流石に厳顔を連れ、隠れながら移動しただけあってあれから多少日がたっていた。
日数がかかったのには訳がある。
厳顔をつれているから・・・と言う理由以外にも待ち合わせをしていた場所が成都から離れているのが一番の理由だ。
何かあっても直ぐに危機から脱する事が出来るように。
そう言った理由で南中・・・それも、交州との国境沿いにある小屋を集合場所としていた。
待ち合わ場所に指定されていた小屋・・・恐らく先に着いている筈だ。
「ここだ・・・・・・っと、やっぱり先に着いてたか」
「遅かったな。無事で何よりだ」
「なに、このくらい俺にかかればな」
「だろうな。・・・でだ」
小屋の中で座っていた太史慈が厳顔の方を見る。
厳顔は太史慈と俺のやり取りを見て少し驚いた様子だった。
「城では迷惑をかけたな」
「気にするな。ある意味楽をさせてもらったからお互い様だ」
「楽?儂が捕まっていた方が面倒であろうに・・・」
「捕まってなかったら素直に話に乗ったか?」
太史慈と厳顔はまるで古くからの仲の様に言葉を交わす。
俺は、厳顔の性格は少し苦手だ。
竹を割ったかのような性格。
恐らくはかなりの修羅場を越えてきたんだろう・・・どんな事にも動じない豪胆さを持った人物。
そんな相手に太史慈はまるで関係ないと言わんばかりの態度で接している。
俺ならもっと警戒するがなぁ・・・・・・。
「では、牢で聞いた話は本当なのだな?」
「だから、事実だと説明しただろう?
恐らくは既に着いている筈だ心配しなくとも月・・・董卓は『天の御使い』の言葉を確りと守ってくれるさ」
「お主がそう言うのならば信じるとしよう・・・。
で、儂はこれからどうすればいい?なんなら手を貸すが・・・・・・」
「ありがたいが俺と影で大丈夫だ。・・・・・・生憎、厳顔が期待してるような荒事はないさ」
太史慈はそう言いながら苦笑い浮かべていた。
まったく・・・・・・。
俺もそれを見てっふっと笑みを零す。
苦笑いとは言え、太史慈の笑顔を見れたからだ。
太史慈と行動を共にするようになって俺は一度も太史慈の本当の笑みを見た記憶がない。
色々と考えていた事が解決したんだろう・・・・・・俺は勝手にそう解釈した。
「つまらんな・・・・・・牢にいたお陰で凝り固まった身体を解そうと思っていたのだがなぁ」
「残念ながら、後は届け物を届けに行くだけだ。
荒事ならそのうち嫌でも起こる筈だ・・・・・・それまでに少しづつ解しておくといいさ」
「お主がそう言うのならその機会を待つとしよう」
届け物か・・・・・・小屋の隅で静かに横たわっている二つのそれに視線をやる。
本当に下らない事をする奴がいたもんだ・・・・・・。
「儂は紫苑の所に向かうとして・・・お主達はこれからどうするのだ?」
「俺達は一度長安に寄った後北に向かう」
「長安に寄った後北か・・・・・・『魏』領に入るつもりか?」
小屋の隅に横たわるそれに布をかけながら、二人の会話に耳を傾ける。
『魏』か・・・・・・まぁ、『蜀』よりは揉め事が少ないだろうな。
届け物を届けるだけだ・・・多少面倒な事が起こりそうな気がしないでもないが・・・・・・。
囲炉裏を囲む二人はまだ酒を酌み交わしている。
ここなら襲われる心配はないだろう。
そう思いながらもいつでも動ける体勢をとりつつ俺は仮眠をとることにした・・・・・・。
あとがきっぽいもの
なんとなく うれしくなって かきあげた 獅子丸です。
53話を投稿して直ぐですが54話を書き上げてみましたw
なぜかと言うと・・・・・・。
53話でいただいたコメントが原因だったりします。
正直かなり嬉しいですw
待ってました等のコメントを読んで本当に嬉しかったですb
こんな拙い文章の作品でも待っていてくれる方がいると身にしみて感じました;;
皆さんありがとうございます!!
では、解説に・・・・・・と行きたいところなのですが・・・。
復習をかねてこの作品を読み返していた所、忘れていた事に気付きました(ぁ
この物語りもそろそろ佳境に入ってくるわけです。
だから、解説を控えると52話だったかに書いていたのをすっかりと忘れていましたw
52話でも書いていますがそろそろ謎(?)に触れそうな話が多くなるので解説を控えたいと思います。
気付いている方もいるでしょう。
何度も言いますが、そろそろ何かが繋がってくる筈です。
ですので、墓穴を掘らない為にもご理解いただけますようお願いいたします。
ってな訳で、今回はこの辺で。
次回も
生温い目でお読みいただけると幸いです。
説明 | ||
第五十四話。 前回のコメントに励まされ、調子に乗って書き上げました(ぁ 今回も 生温い目でお読みいただけると幸いです。 |
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コメント | ||
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