双子物語11話
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 小学5年生の冬。クリスマスに近づくたびに冷やかしていた春花にいつもの元気がなく

声をかけても上の空で、どうしたのか気にはなるが授業が始まってしまうので

私は自分の教室へと向かった。休み時間に彩菜だけが遊びに来たがそこには春花の姿が

なく、彩菜も心配そうにしていた。

 

 給食は自分の教室でないと食べれないので春花は彩菜に任せて、私は目の前にある

ものから片付けを始めることにする。いただきます。昔懐かしいあげぱんを頬張り

幸せを噛み締めつつも、なんとも量が足りない。余ったのを堂々と奪いにくる

男子が少し羨ましかったりする。私の席は後の方なので教壇の近くになる

ストーブのあったかいのが自分の方になかなか来ないので少し寒いのがネック。

 給食を済ませると、体育の時間。そして私は保健室の時間。先生が私の体のことで

気を遣ってくれてのことだったから、私は指示通りにヒロ先生のもとでゆっくり

することにした。他の生徒からは不満げなオーラがむんむんしたけど。

 

ヒロ「え、悩み?」

雪乃「はい、春花とかなんか相談とか来ませんでしたか?」

 

ヒロ「そうね、来てないわよ。第一、私に相談するくらいなら真っ先にあなた達にしてると思うわよ」

雪乃「ですよね〜」

 

 いつになく興味がありそうな表情でヒロ先生は対面に座っている私の近くまで乗り出し

てきて聞いてきた。

 

ヒロ「何かあったの?」

雪乃「それはこっちが聞きたいのだが」

 

ヒロ「それはそうね。ごめんごめん」

雪乃「大人なんだから返事は一回!」

 

ヒロ「はーい」

 

 ここ最近、先生のテンションは高く元気がある日も多い。それこそ何かあったのか

聞きたかったけど、先生は先生の事情があるのだろうから聞かないことにした。

体育の時間が終わるまで先生とおしゃべりをしてから教室へと戻った。

 昔は慢性的な貧血だったけど、最近はそうでもなくなってきたような気がする。

前よりは動けるようになったし、体育の授業もずっとじゃないけど少しずつ増えてきて

何より自分の体が徐々によくなってきてる感じはする。椅子に座って残りの授業を

こなし、放課後まで待つ。どうにも春花の態度が気になって仕方ないのだ。

 

 キーンコーンカーンコーン…

 

彩菜「おつかれ〜」

雪乃「おつかれ」

 

 授業が全て終わり教室で待っていると彩菜と春花が入ってきた。いつもはこうやって

少し教室でおしゃべりした後に帰るのだが、今日は徹底的に春花を調べ上げようと思う。

誰もいなくなりシーンッと静まりかえった教室内で何の遠慮もない状況。

グラウンドで少し子供たちの声が聞こえる程度では邪魔にもなるまいよ。

 

雪乃「ねぇ、春花」

 

 普段笑顔なんてつくらない私が無理するものだから、ぎこちない笑顔を作りながら

春花に近づいていくと、ボーッとしていた本人も目を覚ますほど怖かったらしく。

 

春花「じゃ、さいなら…!」

雪乃「逃げるな!」

 

 スッと手を挙げてくるっと回って私に背を向けて歩き出そうとしたものだから

私は首根っこを捕まえて、さっきまで立っていた場所に連れ戻した。

 

彩菜「最近、春花元気ないよね。どうしたの?」

 

 ともあれ、聞かなくては何にもならないとばかりに彩菜は気になっていたことを

直球で春花に聞くと、私に対してとは正反対に目をキラキラさせながらネコみたいに

彩菜に擦り寄る。

 

春花「別にぃ? 何でもないよぉ?」

雪乃「嘘つくなっ」

 

春花「…!」

 

 まるで見抜かれたような顔をして落胆した表情で春花は軽く俯いた。すると、

体が震えたかと思えば春花の目から涙がぽろぽろと床に一粒、二粒と落ちていく。

それを見た私と彩菜は驚いてすぐ傍まで寄る。ただ泣いてばかりではやはり

わからない。私は、彩菜を一度教室外まで連れ出してからここで見張ってるように

言い渡した。

 そして再度、春花の傍について聞くことにした。多分、彩菜の前では言い辛い

ことかもしれないから。

 

雪乃「だいじょうぶ?」

春花「うっ…、わ、わたし…」

 

 微かに震えながら呟く春花に私はその言葉の意味がわかって、震える体をそっと

抱きしめた。本来、私よりも彩菜の方が喜びそうだけど、今そんな状態じゃない。

彼女は、ここを去らなくてはいけなくなったのだ。両親の都合によって、引っ越す

予定らしい。ただ、ここを卒業してからのことだということは私たちにとって

まだよかったかもしれない。

 気分が少し収まったのか私から少し離れた春花はハンカチを取り出してから目に

溜まった涙をふき取り、いつもの強気な態度をがんばってとろうとする春花を

私は健気に思えた。どうやら、その話が決まったのは1週間ほど前らしかった。

 後から聴いた彩菜も少なからず驚きショックを受けていた。大地くんは早めに

帰っているので今回は私たちは3人で下校をすることになった。

無言で歩き、近くのバス停まで春花を送る。そういえば、最初の頃は高級車

らしい車で送り迎えしてもらっていたのを思い出した。そういえばいつからだろうか、

春花が自分で学校に来ていたのは。友達になってからはあまりにも自然に変わって

いたから気づかなかった。

 

 家に帰ってからお風呂に入って足を伸ばす。昔は広々としていたように感じた

湯船も狭く感じて、その内に足を伸ばすこともできなくなるんだろうなぁとか

意味もないことを考える。ふと、春花の言葉を思い出した。

 

春花「せっかく…ともだちが…できたのに」

 

 あれだけ苦労して気を許せる相手が出来たというのに今度は全く知らない土地で

一から人間関係を作り直しだからなぁ。私も切なくなってきた。顔を半分湯につけて

ぶくぶくやってると勢いよく戸を開く者あり。

 

彩菜「とぉっ…!」

雪乃「わっ、ばか。跳ぶ…!」

 

 ザバァンッ!

 

 入り口から飛び出したかと思いきやいきなりジャンプをして湯船めがけて飛び込んで

きたものだから私はすぐさま端によって身を縮める。激しくお湯が叩きつけられる音が

して私は頭からお湯を被った。

 

彩菜「おー、マイラブゆきのー」

 

 ゴンッ!

 

彩菜「痛い!?」

雪乃「このバカ、そんなことしたら危ないじゃないか…!」

 

 こめかみをぐりぐりしながら彩菜を叱ると、さっきのことが気になって彩菜に

問おうかと思いきや、よほど痛かったのか頭を抱えながら「おおぉぉ」と唸っていた。

私はこめかみ部分をさすりながら涙目の彩菜に聞いてみた。

 

雪乃「春花のこと…どう思う?」

彩菜「どう思うって、そりゃびっくりしたよ」

 

雪乃「まだ時間があってもね、なんか寂しくなるんだよね」

彩菜「さみしくなるね。でも…」

 

 マジメな顔をしていた彩菜は一旦黙って私をじっと見ると急に私に抱きついてきた。

 

雪乃「なぁぁぁっ!?」

彩菜「私は、雪乃がいれば、それだけで、他は何もいらない…!!」

 

雪乃「やぁめぇ…!!」

 

 哀れだ、哀れすぎる、東海林春花。こんなのを好きになったばっかりに、報われない

恋をしてしまって。抵抗しながら私は春花のことを思っていた。その後、私はゆっくり

風呂にも入れないので、彩菜を置いてさっさと体についた水滴をふき取ってから服を着て

さっさとそこから飛び出した。

 私に冷たくされた彩菜はふてくされた表情で私の席の隣につく。今夜もまた母の手料理

でテーブルが埋め尽くされる。明らかに私用の量であった。あからさまにうんざりする

父。楽しそうにはしゃぐ彩菜。せめて、この楽しい空間はいつまでも続くといいなとか

思ったりした。

 

 リビングでテレビを見ていたら眠くなってきたので、私は自分の部屋に戻ってベッドに

潜り込んだ。そういえば、少し前にお母さんが言ってたっけ。中学生に上がったときには

部屋は別々にするって。嬉しいような寂しいような。まだ一年以上もあるのにそのことを

考えるのは早いか。

 

彩菜「ねぇねぇ」

雪乃「ん?」

 

 半分眠っているから私の意識はやや呆けている。そこに彩菜が声をかけてきたのだ。

はっきりとは聞こえないけど、クリスマスに関してだったから適当に頷いておいた。

 

雪乃「ん、そうだね。いいかも」

 

 

 何のことを会話していたのか覚えていない。朝起きて歯を磨いている最中に私は昨日

のことを思い出していた。うろ覚えだけど、確か家でやるクリスマス会についてのこと

だったような…。昨日の彩菜のことだから、春花のことは頭にないんだろうなぁとか

そんな、ひどいことを考えていた私は水で口をもごもごさせて水を吐き出した。

 登校中に何気なく彩菜に昨日のことを聞いてみたら「聞いてなかったの!?」と

軽くキレられてしまった。まぁ、ちゃんと聞かなかった私が悪いのだけれど。

 

彩菜「あのね、去年までは春花はウチでクリスマス会出なかったでしょ?

   だから、今年は無理にでも誘おうよということを言ったの」

雪乃「へぇ〜、彩菜にしては珍しい。てっきり私がいればそれでいい!とか言うかと

   思ったけど。ちゃんと考えてるんだね。ごめんね」

彩菜「へへへっ」

 

 嬉しそうに表情をにやけてる彩菜は少し小走りに前を歩き出して私も後ろからついて

いった。そうだ、今から色々やって春花に楽しい思い出を作ってあげないと。

 この先、ただ辛いという気持ちで過ごして欲しくない。私はそう思っていた。

授業をまんべんなくこなして、ほどなく放課後を迎えた私は、今日は久しぶりに春花の

教室を訪れると彩菜がぎこちない笑顔で春花をこれでもかと押すように誘っていたけど

春花には戸惑いの表情が浮かんでいた。彩菜に誘われて嬉しいけど、慣れないせいか

人の家にお邪魔するのに抵抗があるといったところかもしれない。

 

彩菜「いーじゃん!」

春花「う〜ん…でもっ」

雪乃「別にいいんじゃない?来たくなければ来なくても」

 

 私が急に割って入ってきたから二人とも少し驚いて体が一瞬跳ねていた。

 

彩菜「雪乃?」

雪乃「そうよ、あなたが来ないのなら今年も彩菜といいことしちゃからね?」

春花「ううっ…」

 

 考えるように俯く春花を見て心配そうに私に視線を投げかける彩菜に私は耳元で

囁いた。私に任せといてと。

 

雪乃「その日は、私は彩菜にあーんなことやこーんなことして楽しんじゃうけどな」

春花「ちょっ…!」

 

 いつもより少し弾けた言い方をして、春花にその気にさせるように仕向ける。

よく考えればいつもと私の様子が違うって察知して騙されないだろうけれど、

今の不安定な春花だったらだいじょうぶだろうと踏んだ。だけど、慣れない言い方すると

ちょっと恥ずかしかった。

 

春花「うぅ…わかったわよ。行くわよ! 一人だけそんな思いさせるもんですか!!」

雪乃「はい、OK。参加ってことでいいわね?」

 

春花「あっ…」

雪乃「大丈夫、一人で来るの不安だったら待ち合わせにするから」

 

春花「うん…」

 

 日時と場所を決めているときに横から彩菜が感心したように私を見ていた。

私はどうしたのかとこっそり聞きにいくと。

 

彩菜「すごいね、すごいよ雪乃。私じゃこんなあっさり決められなかった」

雪乃「押してだめなら引くのよ。それがコツってもんね」

 

彩菜「全然引いてなかった気がするけど」

 

 そうして、日時日程を決めた私たちは途中まで春花と帰ることにした。

 

クリスマスイヴ前日

 

いつものように途中まで見送った後、私と彩菜はクリスマス会を開くための準備をする

のにすぐに家へと戻る。途中、近所の人に簡単に挨拶を交わして玄関まで辿り着くと

持っていた鍵を使ってドアを開けた。鍵が掛かっていることからすると、今日の母の

仕事は絶好調みたいだ。最近はクギがクギが言ってたけどひどく負けることはない。

 中に入るとあらかじめ用意しておいた多色の折り紙やはさみ、飾りつけ関係のものを

彩菜と私は手にとって作業を始めた。翌日に誘っているのはもっとも親しい二人。

大地くんと春花だ。

 いつも家族でやっているだけに少し新鮮で、いつも心がここまで揺れることない

私も少しだけワクワクしていた。それは彩菜も同じだったのか、すごい勢いで

飾りつけの輪っかをつくっていた。

 その後、しばらくしてから母が帰ってきて。それこそ子供のようにその作業を

楽しんでいた。いい年してからに…。ちなみに父は仕事の都合でその日、一日

会社で修羅場になるらしい。何でもマスターアップが近いとかなんとか。

私にはよくわからなかったけれど。

 

 当日。

 

 予定では昼過ぎたころの時間帯にと言っておいたのだが、私が思っていた時間より

早く、春花は気合の入れた服装でやってきた。普段の格好でいる我々がまるで

恥ずかしいではないか。そんなにがんばっていると。そう言うと本人はきょとんとした

表情で「これ普通だけど?」といってのけた。く、お嬢様め。

 まるでドレスみたいにヒラヒラキラキラしているのが眩しくて、普段から想像

できないくらいやんちゃなのに、こういうのを着るとまるで人形のように綺麗だ。

でも、私に対して強気の口調を聞いたらその気持ちも吹っ飛んだ。やっぱり、春花は

春花だった。

 それから少ししてから大地くんがやってきて、5人でテーブルゲームをすることに

なって。テレビゲームではなくせっかくだから自らの手で執行する擬似的に己の人生を

もじったボードゲームにすることとなった。ちなみに、春花はこの手のゲームをしたこと

がないので、母が楽しそうにわかりやすく説明をすると、春花はわかりましたと頷く。

 いつも思うけど、年の割にはなんでも楽しめるその性格がなんだか羨ましく感じる。

 

雪乃「うわっ、会社が倒産した」

春花「子供のくせに会社を構えようとするのがいけないのよ」

雪乃「や、マスに止まった時点で強制決行なんだから関係ないじゃない」

菜々子「まぁまぁ、私なんて5人の子持ちで借金抱えてるんだから」

 

 もちろんゲームの話で5人は単純ながら盛り上がったり熱くなったり罵りあったり

して大いに楽しんでいた。状況としては、一番お金持ちで有利な状況なのは春花・

大地・彩菜の順で、私と母は割りとどん底。

 

菜々子「にしても、私の方の父コマと母コマは元気がいいわね。5人も作るなんて。

   ビンビンッっていうか」

雪乃「お母さん、子供の前で…」

 

菜々子「はーい」

 

 もちろん、私と母以外の人間にはよくわからない会話になっていたみたいで

漫画的表現をすると「?」のマークがついていると思われた。あれ、なんで

私はそういうのを知っているのだろうか。

 

菜々子「にしても、雪乃はませてるというか、耳年増みたいね」

雪乃「んな」

 

 もしかしたら、近所のお兄さんの影響でマンガから得てる知識なのかもしれない。

最近のは、子供向けでも派手な展開が多いから毒されている気がする。

結局のところ、劇的な逆転劇など起こるはずもなく、順調にゲームは進んでいき、

ゴールしたころには春花が億万長者になって2人の子供に囲まれ幸せな人生を

送りましたという結果になった。実際も億万長者な気がしなくもないが。

 

 ある程度良い時間になったので、食事の準備が始まり。あらかじめ、買っておいた

ある人気店のケーキをテーブル中心に置く。すぐにでも無意識に手を出しそうな彩菜を

見張りながら会話に華を咲かせる。すると、料理を運んできた母が苦しそうにその

料理を置いた。一度に持ってくる量が一般からみるととんでもない多さなのだろう。

 それを見た大地くんと春花の目がまんまるとしていた。

 

春花「今回のイベント用に多いのよね?」

雪乃「まぁ、いつもよりは少し多いかもね」

大地「少し!?」

 

春花「こんな量、大人の男性がいない今。だれが平らげると?」

 

 すると、彩菜と母の視線が私にささり、その希望に応えて私は手を挙げる。

 

雪乃「私」

彩菜「妹」

菜々子「白い娘」

春花「そんな、白い恋人みたいに言われても…」

 

 とはいえ、ほどよくお腹が空きはじめたので食事を始めることにした。明らかに器の

大きさが違う私はこの時を楽しみにして、お気に入りの料理をボンボン乗せると

隣にいた春花の皿を見つめた。可愛らしく、少量の料理しか乗っていなく、何かの

アピールでもしてるのではないかと思う。

 

雪乃「あのさ、彩菜もけっこう食べるから遠慮しなくていいよ?」

春花「私はもともと、少食なんです。一緒にしないでください」

 

雪乃「そっか、私と同じ基準で考えちゃいけないよね」

 

 なにせ、そこら辺の大人より食べるから。でも、美味しくごはんを食べるように

なってからは少し元気が出てきたような気がする。食事って大切なんだなと思う。

だから春花にも多く食べて欲しいと思うけど、胃壊したら大変だもんな。

 でもなんだかんだ言いながら、春花は食べだしたらけっこうな勢いでおかわり

していて、料理が口にあったみたいで安心した。なにせお嬢様だから。

普段からゴージャスなもの食べているかと思うから。

 クラッカー鳴らしたり、シャンメリーで乾杯したり。ほんとに小さいパーティー

みたいだけど、春花は普段からあまりみない喜びの表情を惜しむことなくさらけ出して

私は安心していた。家族でもいいけど、友達を誘ったこういうのもいいなって。

 だけど、後片付けの時間になったら春花の表情も少しずつ変化していって

今では少し悩んでいる表情に戻っていた。やっぱり、この先のことを考えてのこと

だろうか。

 一定の片付けが終わってさっぱりした顔をしながら戻ってきた母は春花を家に

送ろうと春花に声をかけたまではいいが、浮かない顔をしている春花を見た

母は微笑んで春花の目線まで下げて目を合わせて話し始めた。

 

菜々子「春花ちゃん、あんまり先のこと考えてもしょうがないよ。今は今を楽しむ

   ことが重要。ちゃんと勉強して、遊んで、思い出をいっぱい作りなさい。

   ずっと会えないわけじゃないんだから。それと…」

 

ごにょごにょと、春花の耳元で何かを囁くと。うにうにと母は春花の頬を

引っ張って遊んでいた。春花の目にはうっすらと涙が溜まってるように見えたけど、

どこか吹っ切れたようなスッキリとして顔を浮かべている。それを見た私もどこか

安心できるようになっていた。不思議と母の言葉には説得力がある。

 言葉で人を安心させられる、母を見て。私はそういうところも尊敬だったり

欲しかったりそんな気持ちになる。

 

 

春花「はぁ、一年って早いものね」

彩菜「限定されるとよけいにね」

雪乃「もう、旅立つのね」

 

 初めて会う春花の母親と春花のお見送りに私と彩菜と母は空港まで来ていた。

もうすぐ卒業だというのに、結局はそれより前に転校というか引越ししてしまう

とは忙しいことだった。移動先の学校の都合だったみたいで、春花の母親も

驚いていたという。それにしても、春花の母親は少しやつれているというか

疲れているような感じで、母が笑顔にしているのに対し相手は無表情だった。

 時間が来たので春花は歩き出した。今生の別れではないのだから多くは言わない

と言っていた春花は振り返って私たちをみて、何を言っていたのかはわからないが

口が動いていたのを見ると私は表情が緩んだ。

 

   「ありがとう、たのしかった」

 

 

 

 それから少ししてから、私たちの卒業式も始まる。長い校長、教頭先生の話も

聴いて、卒業証書ももらってから。各地ばらばらに散らばった生徒たちの中に

私はグラウンドの中心で立ち見上げた。春花は元気でやってるのだろうか。

 また、会えるかな。そんな、寂しげな気持ちをよそに彩菜が無駄に元気よく

私の肩を叩いた。

 

彩菜「雪乃、卒業おめでとう!」

雪乃「ありがと」

 

 悩みや感傷なんてなさそうな彩菜を見ているとホッとする。これから私たちは

中学生になって「制服」を着ることになる。今まで私服だったからなんだか

新鮮な気持ちで新しい人との出会いに触れることになる。まぁ、私はあんまり新しい

人たちとのことは期待しないけど。どうせ、この髪でいじられることになるんだろうし。

 新しい環境での不安と緊張と楽しみが同居する。そんな不安定な状態が味わえるのは

今だけだ。大いに満喫しようじゃないか。

 家への帰りの途中母が、私たちに思い出したかのように切り出した。

 

菜々子「あっ、そういえば。二人とも中学生になることだし、部屋を分けようと

   思ってるんだけど」

雪乃「それって、自分の部屋ができるってこと?」

彩菜「え〜、私雪乃と一緒にいたい!」

 

雪乃「それは御丁寧に遠慮したい」

 

 どっちにしろ、部屋分けはもう決まっていたみたいで、家に戻ったらいつもの二人の

部屋の廊下から正面にある部屋。これが私の部屋になるみたいだった。入ってみると

いつの間にか私物を運ばれベッドとか用意されていた。ほんとにいつの間に、だ。

私の不思議そうな顔に母は笑いながら種明かしをした。

 

菜々子「サブちゃんに頼んだのよ」

彩菜「便利だね、サブちゃん!」

雪乃「っていうか、いいように扱われて可哀想」

 

 制服もハンガーにかかっていて、それを見た私はその場に近づいてみた。少しデザイン

が変わっているセーラー服で、早く着てみたかった。服を撫でてこれからある学校生活

を思いながら残り穏やかな数日を過ごすのだった。

 

説明
うっかり風邪をこじらせてしまったため、新しいのが出せない状態。なので過去SSをUPらせていただきます^^; 読みにくさ注意。
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