TOXアルエリ「ワイバーン搭乗組み合わせ」エリーゼ編
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それは傍から見れば、さぞ滑稽に映ったことだろう。

性別も年齢も出自もてんでばらばらな四人が、文字通り額を突き合わせての密談である。それも一様に額に汗し、眉間に皺を寄せているのだから、不審というより可笑しいことこの上なかった。

「おい。借りるはいいけど、誰が手綱握んだよ」

認めたくない事実を確認するかのように、男は肩越しに視線を投げる。アルヴィンが目で示してみせたのはワイバーンだ。

一行は戒厳令が敷かれた夜の都イル・ファンへ、空からの侵入を試みようとしていた。陸路と海路を完全に封鎖された今、上空より強行突破を図るしか方法はなく、その空路も魔物の助けを借りる必要があった。

全員が押し黙る中、男が疲れたように言葉を紡いでゆく。

「とりあえず、だ。天然で使役できちまってるミラはいいとして……」

天然というより、どちらかというと貫禄によってワイバーンを支配下に置いた精霊の主は、いち早く鞍の上の人となっていた。魔物に騎乗するなど初めてのことであろうに、手綱を握る様は中々堂に入っている。

そんな、何をやらせても大概の事はこなせてしまう精霊の主と並べられてはたまったものではない。

「いやいやいやいや、あたし普通の人間だからっ! 魔物と会話なんて無理だからっ!」

問うような視線を振られて、レイアは必死になって否定する。だがそんな弁明も、ティポの突っ込みに流されて終わった。

「んなこと知ってるよ〜」

「……です」

だがエリーゼは、友である縫いぐるみに同意しつつ、頭では全く別のことを考えていた。

(わたし……誰と一緒に乗れば……?)

一行に貸し与えられたワイバーンは三体。こちらの人数は六人だから、頭数で割れば一頭ににつき二人が同乗する計算になる。そのくらいの計算はエリーゼにもできたので、ジュードの後ろ辺りが妥当なところだろうかと思っていたのだが、当の本人は既にミラの後ろに跨っていた。

意外と気遣いがない、とエリーゼがジュードへの認識を改めているうちに、年配者同士の間で話が纏まっていた。

「まあ、ここは乗るしかないでしょう」

老体には堪えますな、と執事が腰を軽く叩く。男は肩を解しつつ、これに同意していた。

「だな。追っ手も迫ってることだし」

彼らはそれぞれ別のワイバーンに向かって歩き出した。どうやら女子供に操縦を任せるような自殺行為はしないことに決めたらしい。当たり前と言えば当たり前である。

檻から出され、飛び立つのを待つばかりのワイバーンが低い唸り声を上げている。その獰猛な音に、少女の肩がびくりと震えた。その肩へ、小さく触れてきた指がある。

「エリーゼ。あたしがあっちに乗るよ」

レイアは囁くようにそう言い、一匹のワイバーンを示してみせた。先程から不機嫌そうに唸っている魔物の横にはユルゲンスと、彼から説明を受けている傭兵の姿があった。

「いえ、大丈夫です」

少女は首を振っていた。首を横に振りながら、即答していた。

「その……さっきアルヴィンに結構言ってたみたいだったけど、いいの?」

罵倒を聞かれていたことを恥じて、エリーゼは少し身じろぎをする。だが、それでも決意は揺るがなかった。

「あ、あれは……。あれは、いいんです。ワイバーンに乗り込むこととは関係ない、です」

度重なる裏切り行為を責めたことと、アルヴィンとの同行の間に関係性はない。それとこれとは別問題だ。

だがこの自分の弁明には、まるで説得力というものがなかった。現にレイアは、頑なに言い張る己を怪訝そうに見ている。

「そ、そう?」

「そうです。レイアが乗るより、わたしが乗った方がいいはず……です。その……」

何か明瞭な、取り繕えるだけの理由はないものか。エリーゼは必死に頭を回転させる。

「その……そ、そうです、体重です!」

ワイバーンといえども、負担は軽ければ軽い方が良いに決まっている。従って一行の中で最も体重の軽いエリーゼは、最も重い人間と組になる必要があるのだ。

「なるほど〜。そっか、そうだよね。――じゃ、気をつけてね」

「レイアも」

納得顔で去っていく仲間に手を振り、エリーゼもまたワイバーンの元へ急いだ。

「乗せて、ください……です」

準備に追われる男の外套を軽く引っ張る。アルヴィンは振り返り、自分の姿を見た途端ひどく驚いた顔をした。

「いやそりゃまあ乗せるけどよ。……なんだって俺んとこ来たんだよ」

驚愕のあまり、傭兵の声は微かに裏返ってしまっていた。何をそんなに驚くことがあるのだろう。エリーゼには全く思い当たる節がない。

輪を掛けて分からないのが、同乗を申し出た理由を問うてきたことだった。そんなもの、体重の関係に決まっているだろうに。

小柄なエリーゼは、一行の中で最も重い人間と共にあるべきだと判断した。だから男に続いた。それだけのことだ。そう――他意などありはしない。

(凶暴なワイバーンでも、アルヴィンの前にいるなら安心できそうだなとか、レイアが一緒にいるところを見たくなかったからとか、絶対そんなこと、考えたりしてないんだからっ!)

エリーゼが気持ちを振り切るようにふるふると首を振った時、ワイバーンが嘶いた。見ると男の握る、手綱が勢い良く絞られている。いよいよ夜の都へ向け、飛び立つのだ。

風圧に圧され、咄嗟に抱きついた胸板の上で、エリーゼは二つの鼓動が混じった音を聞いた。

説明
ワイバーン搭乗組み合わせをエリーゼ側から。言い訳、がんばって考えた!
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TOX アルエリ テイルズオブエクシリア アルヴィン エリーゼ 

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