【南の島の雪女】第4話 キジムナーの少女(2)
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【家に行かせて】

 

「え? わたしの家に行きたい?

 茜が?」

 

「雪女いるんだよね、風乃の家。

 見せてちょうだい」

 

「いいよ」

 

風乃は怪しみもせず、あっさり承諾した。

 

「ただし」

 

「ただし…?

 なんなの、その手は?」

 

「入園料プリーズ」

 

「ど…動物園!?」

 

「開園1週間記念だから、

 入園料を半額にしてあげよう」

 

「しかも半額!?」

 

「なんと、今、雪女を見に来れば

 この洗剤もおまけについてきます!」

 

「それはお得だね!」

 

「いいから早く行こうよ…」

 

茜はうんざりしながら言った。

 

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【風乃の家に到着】

 

「ここがふーのーの家?

 ふーん、ずいぶん学校から近いんだ」

 

「そうだよ。

 っていうか、隣だし」

 

「自宅と学校が隣同士っていうのも

 なんかすごいね」

 

風乃は茜と緋那を連れ、自宅前まで来ていた。

 

茜は、風乃の家と学校を何度も見比べ、

そのあまりの距離の近さに唖然としている。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい」

 

「お母さん、どうしたの、

 その恰好。

 なんだか、いつもよりきれいだね」

 

「あら? 今日、先生の家庭訪問の日でしょう?

 忘れたの、風乃」

 

「あれっ、そうなんだっけ?」

 

「あきれたわ。自分の家庭訪問予定ぐらい

 おぼえておきなさい」

 

「ごめんねー。

 わたしの記憶、風が吹くと飛んじゃうの」

 

「おかあさんも最近、物忘れしやすくてねぇ。

 トイレットペーパー買い忘れたの。

 家にいるときは、ちゃーんとおぼえてたのに。

 春風のいたずらかしら。記憶が飛んじゃったわ」

 

「わたしも春風のいたずらで、頭すっからかんだよ!」

 

風乃は頭の横で、人差し指をクルクルさせる。

 

「…親子って似るんだなぁ」

 

茜はあきれたようにつぶやく。

 

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【キジ】

 

「むっ、後ろのあなた。ちょっと」

 

「な、何でしょうか」

 

母親は、風乃の後ろにいる、茜と緋那を

じろじろと見つめる。

 

「あなた、キジ…」

 

「キジ…? ば、ばれた!?」

「うそっ!?」

 

茜と緋那は、自分たちがキジムナーであることを

ばれたと思い、たわたわとあわてだす。

 

「生地がほつれてるわよ」

 

母親は、茜の制服を指差す。

制服のそでから、少し糸が出ていた。

 

「…はぁ、そうですか。

 ありがとうございます」

 

「び、びっくりしたぁ」

 

ほっと胸をなでおろす緋那。

 

「ほつれがひどくなる前に直しちゃいなさい」

 

「私たち、ほつれの直し方、

 よくわからなくて」

 

「そうなの。困ったわねぇ…

 あ、そうだわ。白雪!」

 

母親は、白雪の名を呼んだ。

 

白雪の姿は、母親の周囲には見えない。

2階かトイレにいるのだろう。

 

「うぃー。なんだ」

 

トイレのドアの内側から、けだるそうな声がした。

 

「今、風乃のお友達が来てるんだけど、

 制服がほつれてるの。

 トイレ掃除終わったら

 ほつれを直してちょうだい」

 

「わかったー」

 

「ほつれを直すのが終わったら、

 買い出し、料理、洗濯の取り込みに

 庭の掃除に、あと、

 冷蔵庫の整理整頓もやってちょうだい。

 あ、明日のゴミ出しの準備も…」

 

母親は1、2、3、4、5と指折り数えながら

残りの家事をするよう命じるのだった。

 

「お義母さん、明日はゴミの日じゃないぞ」

 

「あら、そうだったかしら」

 

「白雪、家事をするのがだいぶ板についてきたね…」

 

風乃は、少しだけ感心しながら言うのだった。

 

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【風乃のお友達】

 

風乃の部屋には、

白雪、茜、緋那、そして風乃の4人が座っていた。

 

「今日は、友達を連れてきたんだよ!」

 

風乃は、両隣にいる、茜と緋那を

白雪に紹介する。

 

「こっちが茜。こっちが、ひーなー」

 

「お前にも、友達いたんだな」

 

白雪は皮肉るような口調で言う。

 

「何なの、その失礼な言い方!

 わたしにだって、友達の1人や2人はいるよ」

 

「わかったわかった」

 

「他にも、目に見えない、たくさんのお友達もいるし…」

 

風乃の頭上に、無数の「たましい」がぞろりと現れる。

 

「ひぃっ!?」

 

たましいの存在を察知した茜と緋那は、おびえ、抱き合う。

 

「わかった、わかったから!

 そっちのお友達は今日は帰ってもらえ!」

 

白雪は、頭上の「たましい」たちに

引き取ってもらうようお願いしたのだった。

 

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【ほつれ直し】

 

「ところで、制服がほつれているんだろう?

 ほら、早く制服を貸せ」

 

白雪は、茜に呼びかける。

 

「う、うん」

 

茜は、制服の袖のほつれを確認すると、

制服を脱ぎ、白雪に渡した。

 

「どれどれ」

 

白雪は針と糸を取り出すと、ほつれを直し始めた。

 

「あの…」

 

茜が、白雪に声をかける。

 

「なんだ?」

 

「あの、あなた、

 ユキオンナ、なんだよね」

 

「なっ!

 なんで俺のことを知っ…あいってっ!」

 

動揺した白雪は、針を指に刺してしまった。

 

「ふっ、お前の素性なぞ、

 この私にかかれば、軽くお見通しだ。

 雪女よ、痛い目にあいたくなければ

 おとなしく捕まるがいい!」

 

茜は、白雪をびしりと指差し、部屋に響く大音量で、

かっこよく言い放った。

 

「なぁ、ふーのー。

 バンソーコーを貸してくれ。

 指を刺してしまった…」

 

「無視ですか!?」

 

白雪にスルーされて怒る茜さんであった。

 

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【白雪、正体を見抜く?】

 

「むっ! お、お前ら…」

 

白雪は、怪しいものを見るような目で、

茜と緋那をにらんだ。

 

「な、なに? その鋭い目つき。

 まさか。私たちの正体がばれ…」

 

「高校生にしてはずいぶん小さいな。

 小学生か?」

 

「わたしたちは小学生じゃない!。

 キジムナーだ!」

 

小学生といわれたことが嫌だったのか、

茜は大声で、自分がキジムナーであると主張する。

 

「あかね! 

 ばらしちゃダメだよ!」

 

「あっ、ごめん…」

 

「あ? 今なんつった?

 キ、キ、キ…

 キルヒナー?」

 

「キルヒナーじゃない!

 キジムナーだっ!」

 

茜は激昂して、自分がキルヒナーではなく

キジムナーであると主張した。

 

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【本当にキジムナー?】

 

「ばれたからには仕方ない。

 そう、私と緋那はキジムナー。

 人間じゃない」

 

「ねぇ、茜。ひーなー。

 わたし、信じられないよ。

 本当にキジムナーなの?

 どう見ても人間にしか見えない」

 

風乃は、茜や緋那がどうしても

キジムナーであるようには見えず、疑いをもつ。

 

「キジムナー?

 なんだそれは?」

 

白雪は、キジムナーという単語が理解できず、

きょとんとしている。

 

「白雪。

 キジムナーって言うのは、

 沖縄の樹の精霊だよ。

 赤い髪を生やしていて、

 背が低くて子供みたいなの」

 

「なんと…精霊なのか。

 しかし、目の前の奴らは、

 どう見ても人間じゃないのか?髪も黒いし」

 

「髪が黒いのはウソ。

 わたしたち、人間にばれないよう

 しっかり化けてるから」

 

茜は、ポニーテールの髪留めを片手で、

ゆっくりとほどいていく。

 

「証拠を見せてあげる」

 

茜の髪が、それまでの形を失っていく。

ふぁさり、と長い髪が、腰までのびていく。

 

真っ赤な絵の具を、頭のてっぺんからたらしたかのように、

上から下へ、上から下へ、赤く染まっていく。

 

「す、すごい…

 髪の毛が真っ赤っかだぁ」

 

「ほう…」

 

風乃と白雪は、茜が変化していく様を目の当たりにし、

ぼうぜんとした。

 

「どう? びっくりした?

 これが私の正体」

 

茜の髪は、毛根から毛先まですべて赤くなっていた。

黒い部分はどこにもない。

すべて、目が痛くなるような、赤、赤、赤。

 

「おもしろい芸だな。

 もう1回見せてくれ。

 ほら、10円やるから」

 

「やめろ、見世物じゃない!」

 

「よかったね、あかねぇ。

 お金もらえて」

 

緋那はにっこりと笑う。

 

「よくないってば!」

 

「白雪! 10円じゃ少ないよ!

 せめて100円だよ!」

 

風乃は、いつの間にか100円を取り出していた。

 

「カネの問題じゃなーい!」

 

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【緋那も変身して】

 

「ひーなー。何してるの。

 ひーなーも髪留めをほどきなさい!」

 

緋那の髪は、黒いままだった。

髪留めをほどけば、茜と同じように、

赤髪を現すことになるのだが、緋那はためらっていた。

 

「えー…

 だ、だって」

 

緋那は、しぶっている。

おろおろとしていて、頬が赤い。

恥ずかしくてしょうがない様子だ。

 

「どうしたの?」

 

「だって、

 見られるの恥ずかしいし。

 久しぶりなんだもの」

 

「何を言っているの。

 わ…私だって、ちょっと恥ずかしいんだから」

 

茜は、わずかに頬を赤くした。

久しぶりに正体を現したので、少し恥ずかしいようだ。

 

「ほら、早くほどきなさいってば」

 

茜は、緋那の髪につかみかかる。

 

「は、はなして。

 あかね、ちょっと、や、やだ!」

 

緋那は茜の腕を振りほどこうと、抵抗する。

茜も負けじと、緋那の腕を押しのけていく。

 

そうしているうちに、2人の脚がもつれる。

緋那の身体のバランスが崩れていく。

 

「あ」

 

ずどんと大きな音を立てて、背を床にたたきつけられる緋那。

緋那の眼前には、茜の顔が迫る。

 

「カンネンしろ! ひーなー!

 もう動けないぞ」

 

「あかね、ダメだってば!

 おねがい、やめてぇ!」

 

倒れてもなお、抵抗を続ける緋那。

 

緋那の上に、茜が馬乗りになっている。

緋那は自由に動けず、不利な様相だ。

ほどかれるのも時間の問題か。

 

「白雪。あのふたり、どっちが勝つと思う?

 1000円賭けよう!」

 

風乃はポケットから1000円を取り出した。

 

「未成年の賭博はダメだぞ、風乃」

 

「そういう問題じゃなくて!

 た、助けてよぉ!」

 

緋那は、茜の下でもがきながらも

苦しそうに突っ込むのだった。

 

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【2対1】

 

抵抗むなしく、緋那の髪留めはほどかれてしまった。

 

「うう…

 ひどいよ、あかね。

 ぐすっ」

 

髪を赤くした緋那は、目に涙を浮かべ、苦情を訴える。

 

「さあ、雪女。

 2対1じゃ分が悪いでしょう。

 ひどい怪我をする前に、

 おとなしく捕まって。ね?」

 

茜は顔をニヤつかせ、得意げに言う。

 

「うぬう…」

 

白雪は、緋那のほうをちらりと見る。

泣き顔で、おとなしそうで、しゅんとしてて

あんまり戦意はなさそうだ。

 

だが、茜の命令ひとつで

いやいやながら襲いかかって来るだろう。

警戒するに越したことはない。白雪は身構えた。

 

「白雪」

 

うしろで、風乃が白雪の名を呼ぶ。

 

「風乃。お前は少し下がっていろ」

 

「白雪!」

 

「なんだ、しつこいぞ!」

 

白雪は風乃のいる方向に顔を向ける。

 

「おかあさんが怒ってるよ」

 

風乃の横には、母親が立っていた。

眉を八の字にして、困ったような顔をしている。

 

いつの間に部屋に入り込んできたのか定かではないが、

ぷんすかぷんと怒っているようだ。

 

「さっきから2階がうるさいわよ。

 少しは静かになさい」

 

白雪たちはうるさいと注意されてしまった。

 

茜と緋那がドタバタしている音が、1階にまで聞こえてたらしい。

 

「あ、すんません」

「ごめんなさい」

「す、すいません…」

 

ぺこぺこと平謝りする白雪・緋那・茜であった。

 

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【たずねループ】

 

「あら、あなたたち、さっきまで髪が黒くなかった?」

 

母親は、茜と緋那に視線を向け、そう言った。

 

「ぎくぅ!」

 

茜と緋那はお互いに顔を見合わせ、

気まずそうな表情をする。

 

「すごく赤い」

 

じろじろ見られる茜と緋那。

 

「こ、これは」

 

茜はなんと答えていいか、言いあぐねる。

 

「これは?」

 

母親が茜にたずねる。

 

「こ…これは?」

 

茜が緋那にたずねる。

 

「え? わたしに振るの!?」

 

どう答えていいかわからず、あたふたする緋那。

 

「こ、これは?」

 

緋那が白雪にたずねる。

 

「これは?」

 

白雪は風乃にたずねる。

 

「これはー?」

 

風乃は、母親にたずねる。

 

「これはカツラね!」

 

ごく普通の結論が導きだされるのだった。

 

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【押入れから】

 

「なんだ、カツラかぁ。

 びっくりした。

 髪が赤いから、てっきり不良にでも

 なったのかと思ったわ」

 

「そ、そう。

 カツラですよ。

 ちょっと、学芸会が近いので

 カツラをかぶって練習を…」

 

茜は半笑いの顔で、苦しそうに答える。

 

「学芸会やってたっけ?」

 

風乃が首をかしげる。

 

「余計なことを言わないで!」

 

茜は風乃の口を、手でふさいだ。

 

「じゃあ、お母さん、1階に戻るわね。

 そろそろ先生が家庭訪問に来るから」

 

「いってらっしゃーい」

 

風乃は手をふって、1階に下りる母親を見送った。

 

「これで邪魔は消えた。

 さあ、雪女!

 おとなしく捕まりなさ…」

 

茜は戦闘モードを再開させる。

 

と、そのとき。

 

「風乃や…」

 

突然、部屋の押入れが開いた。

 

押入れから「ぬっ」と、風乃のおじいさん(幽霊)が登場。

 

「きゃー!?

 お、押入れから人が!?」

 

押入れから出てきた老人を見て、

茜と緋那は抱き合い、部屋の隅にて全速力で固まる。

 

「オジイを幽霊にあったような目で見るんじゃない。

 まったく、とんだ娘どもじゃ」

 

「いや、実際、あんた幽霊だろ」

 

白雪は冷静な声で突っ込んだ。

 

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【オジイの言いたい大事なこと】

 

「オジイはのう、

 大事なことを言いにきたんじゃ」

 

おじいさんは、風乃にそう話しかける。

 

「大事なこと?」

 

「そうじゃ」

 

「聞かせて」

 

「こやつらはキジムナーじゃ」

 

「それもう知ってるから」

 

風乃の冷かな反応。

 

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【オジイの言いたい大事なこと2】

 

「オジイはのう、もうひとつ

 大事なことを言いにきたんじゃ」

 

「今度はなに?」

 

「白雪、そこをどいてくれんかのう。

 クソしに行きたいんじゃ」

 

「さっさと行け」

 

白雪の冷ややかな声。

 

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【捕まえる理由】

 

おじいさんは空中を浮遊しながら、トイレへと向かっていった。

幽霊の身であるにも関わらず、部屋のドアを開け閉めしていき、

ドアをすり抜けようとはしなかった。

 

「幽霊なのにドアをすり抜けないんだね」と風乃がつぶやいた。

 

「邪魔者はもういないね。

 さあ、ユキオンナ!

 おとなしくつかまりなさい!」

 

「ま、待て。待てって」

 

「なに?」

 

「ひとつ聞きたい。

 俺を捕まえに来た理由はなんだ?

 俺を捕まえて何の得があるのだ。

 教えてくれ」

 

白雪は、茜たちが、雪女たちから依頼を受けているのか

確認しようと思った。

そうでなければ、捕まえに来るはずがない。

 

「理由?

 賞金をもらえるからだよ」

 

「し、賞金だと!?」

 

「そうだ。お前には、

 1000万の賞金がかけられている」

 

茜は、白雪をびしりと指差す。

 

「な、何!?

 俺に賞金がかかっているのか!

 ちっ、あいつらめ…」

 

自分に賞金がかかっている、というのは初耳だった。

動揺を隠せない白雪。

 

白雪の頭の中に、不適な笑みを浮かべる「雪女たち」が現れる。

「雪女たち」は白雪に1000万の賞金をかけ、なりふりかまわず

捕まえようとしているらしい。

白雪は嫌悪感をおぼえた。

 

「わたし、1000万で北海道に旅行に行くんだ!

 そのために、捕まってもらう!」

 

「北海道くらい、バイトして行けよ!」

 

「うちの高校はバイト禁止なんだ!」

 

「な、なんだと!?」

 

 

次回に続く!

説明
【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

キジムナーである茜と緋名は、白雪の居場所をつきとめる。
白雪に会うため、
風乃に連れて行ってもらうようお願いするが…
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南の島の雪女 沖縄 雪女 妖怪 コメディ 

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