GROW4 第二十三章 空中庭園での光空決戦 |
1
結と驚殿下の試合。まずは互いの探り合いから始まったのだが、驚殿下の場合はこれから見せる力こそが本当の能力。
裏三大要素の一つ、光の魔法。身体自体には対した変化は見られないものの、驚殿下の余裕の笑みから察するにかなりのものなのだろう。対して、結のほうも一気に100%まで能力を高める。
今回のフィールドは、巨大な空中庭園。全体に薄い霧がかかり視界が悪く、空気もかなり薄い。建造物は何もなく、ただ地面にちらほらと苔のようなものが生えているくらいだ・・・
外壁はなく、フィールドの下は雲がかかって全く見えない。
「随分と殺風景な所よな。つまらん」
「勝敗を決するのに対したフィールドなんてわたしにはいらないよ。それよりも注意をしないといかんね騎士王。ここはわたしに有利過ぎる」
「ほほう。どう有利とな?どれ、貴殿に見せて見よ」
両手を広げ高らかに笑う驚殿下。防御態勢などは見られない。
結は警戒しつつも攻撃態勢に入る。
「一撃入れさせてもらうわ。お言葉に甘えさせて・・・
圧空気(アンドル・ド・エア)、皋剣云(そうけんうん)」
「成程、空気の剣か・・・」
ヒュン
「なっ!?」
「死圧迫(ミルガン・セーシル)」
ベコーーーーーー
バキバキバキバキィィィ
「ぐあああああああああああああああああああっ」
「残念♪ “その魔法”に対してわたしの攻撃は防げない・・・」
ドシャァァァァッ
空気による圧迫により骨がばらばらになってしまった驚殿下。結の攻撃は完全に空気と同化しているため防ぎようがなかったのだ。
シュゥゥゥゥ
「ん?消えた?」
「驚いたよ小娘。光の魔法の誇る絶対防御障壁が無効化された上に実体まで捉えられるなんてな・・・」
「とっさに偽物を置いてはずしましたか。しかし、光の魔法では100パーセントのわたしには勝てない」
とっさに偽物を置いて凌いだ驚殿下。どうやら相性的には結に分があるようだ。
しかし、未だに余裕が見える驚殿下の表情。まだ何か隠している。
「今度はこちらから行かせてもらうぞ。光の先帝(ひかりのせんてい)」
ふわっ
ギラッ
「いつの間に懐に!?わたしの風魔結界を破って!?」
「お互いに“結界”類は素通りのようだな。ならばこちらが有利だろうに。天使の姥羽(ルーゼフ・フレン・アンジュ)」
ボボボボボッ
バサバサバサバサッ
「なにこの大量の白い羽は?か、身体が動かない!?」
驚殿下の両腕から発した巨大な羽が結を取り囲む。羽に触れた結の動きが著しく鈍くなってしまう。
驚殿下は攻撃を続ける。右手が完全に結の急所を捉えた。
「聖白火浄艶(エミラード・ミラン)」
ボッ
「ああああああああああああああああああああああああああっ」
「浄化するんだな、小娘・・・」
巨大な白い炎が結を完全に覆い隠し煌々と燃え盛る。熱を帯びないその炎は結自体には全くのダメージを与えていない。一体何が目的なんだ?
「貴殿の魔法は攻撃を目的とした魔法ではない。悪を善へと変える究極魔法。つまり、貴様が貴殿に向かって放つ魔力を浄化し無にするのだ。一度光に敵対した力は、無条件に完全浄化される。どんな強力な魔法も、善を残してすべてな・・・」
「光は甘っちょろいね。善の気さえあればこんなのただの空気だよ。気化宴舞(ブレット・サヴァリアス)」
シュボッ
「なっ、抜け出した・・・だと!?」
「わたしは生憎悪ではないんでね。勝手な思想なんかで消えたりはしない」
「ばかな!?貴殿と敵対した時点でもはや浄化対象だ」
「さて、そちらも卑怯な手を使ったんだ。こちらも少しばかり本気を見せないとね・・・」
「本気だと!?」
「さっきみたいに絶対に逃がさない。いや、逃げることができないか・・・」
「ふははははっ。貴殿の肉体は実体を消せる。空気圧変化ではどうにもならぞ!!む?ぐあああっ」
「真空領域(イマーグブレンド・フィールデス)」
「貴様ぁっ、空気を消しやがったな!!」
首を抑え苦しみ出す驚殿下。真空状態に陥ったため呼吸ができなくなってしまったのだ。
「無様ですね。“呼吸を奪われた程度で”・・・」
「や、やめ・・・ろ」
苦しみ出し結に手を伸ばす驚殿下。顔は青ざめ意識は飛びかけだ。
「さっきあなたが悪の気を浄化するとか何とか言っていましたが、できるわけがないですよね。空気を浄化なんかしてしまったらこうなってしまうんですから・・・」
ドサァッッ
「しょ、勝者、馬慈魔結」
「安らかな眠りを、騎士王さん・・・」
2
続いての第三回戦第八試合。三澤薪南(流水1)VS六道輪廻(冷門3)の試合である。
輪廻の能力に薪南がどう対抗するかによってきまるのだが・・・
「どうやらさっきの試合はあたしが勝ったみたいね」
「やっかいな相手ね・・・」
「経験の浅いお譲ちゃんがここまで上がってきたのは奇跡だよ。でもここで終了・・・」
「軽いジョークね。あなたじゃわたしに勝てないわ」
「キミにあたしが倒せるかしら?」
「試合、始めっ」
「ほほう、ここは・・・時の終結所」
「時の終結所?」
「ここの主催者は鬼だよ。時を司る空間の終結地点。ここからの空間は道理の混沌へと導く・・・
ここでの時間はあたしの思うがままに動く」
「どういうことなの?」
「こういうことだよ。心停止(マインド・ストップ)」
すっ
ドクンっ、ドクンっ、ドッ、・・・・・
「く、苦しい」
「心臓だけをピンポイントで凍結させた。ま、この程度ならここじゃなくてもできる・・・」
すっ
「ゲホゲホッ。動いた!?」
「ここであたしは時間に流されない。つまり・・・
記憶が無くなるという輪廻の最大の短所が一時的に無くなったということだ。まさに運がないと言える。キミの攻撃はすべて無。こちらからは自由自在だよ」
「そ、そんなの反則じゃない」
「文句を言うなら運の悪かった自分に言うのだな。あたしは軽く次に駒を進めよう」
トッ
その場に座り込んであくびをする輪廻。そのまま目を閉じて寝てしまう。
「馬鹿にしないでよねっ。鼇魔雷砲(ごうまらいほう)」
バリバリバリバリィィィィィ
「残念。一時停止(デテッィック・ブロウ)」
ピタァァァァァッッ
「電撃が止まった!?時間を止めたの?」
「うーん♪自分も停止しないなんて妙な感覚だね。これじゃ本当に反則だよ。戻れ(レドルヴァ)」
ギュゥゥゥゥン
バリバリバリバリィィィッッ
「うっ」
「あーらら。さっきと同じ構えを維持しないから自分の電撃を喰らっちゃうんだよ」
片目を開けて忠告する輪廻。電撃も自由自在に操るらしい。
「こんなんじゃ・・・」
「まだ立ち上がるの?もはや勝てる可能性は残っていないのに・・・」
「そちらの反応速度を超えればいいこと。避雷燗電(マーゴルッセ・アーチボルト)」
ドォォォン
ガガガガガッ
フィールド全体に無数に避雷する雷。それに紛れ、薪南は雷速で移動を続ける。
「考えは悪くない。しかし、相手を間違えたね」
シャッ
「なっ!?いつの間に後ろを?」
「あたしが時間移動で速くなれば、キミはカタツムリ同然だ。もう済んだだろう」
「接近すればこっちのもの。神血情刹(かみちじょうせつ)」
ズガァァァァン
「この程度か・・・」
「顔面にまともに直撃したのに!!」
「黄土儀阿須(アブグレドアズ・フェルドー)」
ゴシャァァァァッ
ドゴォォォン
「ガフッ」
「あれを喰らってまだ立てるか・・・」
薪南の鳩尾に入った拳。連打を受けたように無数の穴があいてしまった。
ふらふらになりながらも立ち上がる薪南。身体はもう限界だ。
「ふふふ。驚かされるよキミには。この条件下でなければあたしが負けていた。もちろん再生はするけどね。あたしじゃおそらく次に当たるあの空気使いには勝てないだろうな。だからキミに勝ちを譲ろう」
「ゲホゲホッ。そんな戯言をわたしに飲めと?いや、戯言じゃなくただの欺瞞(欺瞞)じゃない。勝手に勝って、勝手に勝ちを譲って。そんなんで次に進んでもぜんぜん嬉しくない」
「そうか。とんだお節介だったようだな・・・」
「・・・・残念ね、ここで終わりみたい・・・」
ドサッ
「勝者、六道輪廻」
「全く。フィールドが解けた瞬間ダメージ来るなんて聞いてないよ」
ポタッ、ポタッ・・・
3
三回戦も終わり、いよいよ四回戦に入った。
第四回戦第一試合目。御波奈乃(辛羅1)VS籠山三尋(流水2)の試合である。
「この子はまだ未知数。さっきの試合で垣間見えた実力がすべてではない・・・」
「この方はかなりお強いです。『わたしが外壁援護に回る』」
「闇の支配はすべてを喰らうよ。長引かないといいね」
「正直関係ないですよ。わたしが支配しちゃうので」
「不気味な笑顔だよ」
「第四回戦第一試合目、始めっ」
「学校の校舎みたいです。現在地はグラウンドでしょうか?」
「闇に飲み込まれればどこも変わらないよ」
「面白いです。あなたの闇がどこまで支配できるのか、試してみましょうか・・・
『・・・・・・・・・・』」