四条探偵社1 序
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 1・ロックオンスナイプ

 

 都内某所、とある高層マンションの屋上。人影が一つ。もちろんその場所はあまりにも目立たない場所であり、こんな場所に人が居るなどということは定期的にゴンドラをこの屋上から下ろす窓の清掃員ぐらいしか気が付かないだろう。

だがそんな従業員もこの宵闇の帳が降りた丑三つ時にいるはずもない。よってその場所に彼女は人知れずひっそりと忍びこむことができた。

 このビルの警備はどうやら相当薄いようだ。此処に来るまで監視カメラの一つもない。更に言えば各フロアのテナント入り口以外には警報装置すら無いのだから。

彼女は屋上で息を殺すように、留まり、ただ待っていた。

彼女の脇には大きなカバンがあり、その中身には大型の銃が入っていた。

それはバレットアームズ社の超長距離狙撃ライフル『バレット・M82』を元にカスタマイズされた『バレット・M82・リアズオリジナルカスタム』である。この銃ならば2キロ先の目標だって確実に仕留める事ができる。

それは彼女の愛銃と同じ型でもあり最も扱いやすい銃だからだ。

この銃を抱いていると、昔の記憶が今でもはっきりと思い出せる。だがそれは彼女にとって思い出したくない記憶でもあるのだが、今その記憶はこのカスタムライフルの手によって新しく生まれ変わるはずだった。

彼女は対象に向けて引き金を引くだけ。それだけでいいのだ。

彼女はおもむろに銃をセットすると時計を確認し、夜間用スコープを覗く。だがしかしスコープの蓋ははずされておらず、覗いても暗いだけで対象を見ることは敵わない。

だがそれでいい。対象や周囲にもし万が一、ネオンの輝きなどでレンズに気がついたらこの作戦自体が失敗に終わる。そうなった時彼女の記憶は永遠に戦場を彷徨い、行き場を失ってしまう。それでは意味が無い。

そうこれは彼女にとって儀式であり、新たなる一歩なのだ。この銃で目標を捕捉し、その引き金を引く。そうすることによりこの儀式は完了するのだ。

彼女は一呼吸すると時計を見る。対象が現れるであろう時間まで後、30秒。彼女はゆっくりとスコープの蓋を取り、対象が現れるであろう場所にその銃口を向け、スコープを覗き込む。そしてそこには対象となる人物がはっきりと写っていた。ビルの合間を縫うように対象とスコープ越しに一直線で繋がる。それは戦場で言うならばひとつの死線。

対象は男だった。中年の男性、年齢は40代、背丈は168といった所か、横には若い女性が彼と腕を組んでいる。そう、彼らはラブホテルから出てきたばかりなのだ。今夜は彼らにとって最後の最高の夜であって、明日には最悪の夜となるだろう。

目標までの距離1.3キロ。風向きは東に風速5メートルといった所か。だがそんなものは彼女にとって関係ない事だ。この銃の有効射程はには2キロ。この距離なら確実に対象を捉え仕留めることができる。それは彼女が特別なのではない。そういう訓練を積んできたものの勘、そして素質。銃を向けることでスコープ越しの対象との距離が零になっていく感覚。それがもし零になれば確実に仕留められる。そう彼女は考えているし、実際そうなってきた。心を無にしてただその男の顔を見つめ、対象が確実にスコープに収まると、彼女は銃の重い引き金を引いた。

その瞬間彼の全てが終わった。そう今まで積み上げてきた富も名誉も最早彼のものではなくなってしまう訳だ。

彼女自身に銃声は聞こえない。いや近隣住民すらそんな音聞こえてはいないだろう。

 だがそれでいい。これで彼女の儀式は終わったのだ。今後この銃が使われることはもう二度と無いだろう。

 自然と涙が溢れ出す。それは彼女が今まで殺してきた人々への懺悔から来るものだったのか、それとも引き金を引いた瞬間思い出された過去を忘れることのできない慙愧の念だったのだろうか?今の彼女には理解できなかったし、今後二度と理解しようとも思わない。何故ならば彼女は今日を持ってこのバレット・M82の引き金を引くことは無いのだから。

彼女は瞳から溢れ出す涙を拭うと、銃をバッグにしまい、ただ静かにビルを後にするのだった。

 彼女がスコープ越しに覗いていた男はどうなったのだろう?

 横にいた若い女性はどんな声をあげただろうか?

 きっと戦場ならば、逃げ出しているに違いない。だがここは都会のど真ん中だ。その場にうずくまって泣きじゃくっているかもしれない。恐怖のあまり動けずにいるかも知れない。

だがそんな事を考えること自体ナンセンスな事だ。それはそうだろう。今、彼女が狙撃した男はまだ生きており、横にいる彼女と共に何も知らずに明日を迎えるのだから。

 彼女はビルを出ると携帯電話を取り出し、何処かへコールする。相手はワンコールで通話状態になり、彼女は相手に今日の成果を報告する。どうやら相手も待ちくたびれたと言った感じで彼女の帰還の命を下す。いやこれは命令ではない。ただ彼女には帰る場所があるという確認であり、彼女が相手にとって単なる道具ではないという証の言葉。

『こんな時間までお疲れ様、ありがとね。さ、帰ったら次は私の番よ、これで私達もやっとあの男から解放されるわね。じゃ、事務所で待ってるわ。早く帰ってきなさいな』

 その言葉と共に通話は切れる。

そして彼女にとって、一ヶ月にも渡る男の追跡調査という仕事は終わりを告げた。

 

 

説明
練習、不定期連載第一話のプロローグです。

続き気になったらコメントに「続き早く書けよボケが!!」って罵ってください。
それ以外は意外と繊細な自分は書けなくなるので罵らないで上げてください(TwT)
お願いします。
また読んでいただき有り難うございますm(_ _)m
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