双子物語-15話-
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 大会当日。開催場所は愛知県にある球場を使うことになった。たまにプロ野球選手が

遠征場所に使っている球場である。そこで各地から選ばれたチームが戦いあうのだ。

選ばれる基準は何も勝率だけのことではないみたいで、実力が様々な人たちがいた。

 私たちも十数チームの中の一つで、どんなところか確認のために球場に訪れていた。

今日は私たちのチームの試合はないが、どんな試合をするのか気になる部員たちは

本日始まる一試合を観戦することにした。

 北海道中学VS鹿児島中学の試合は大振りの強打者中心の北海道は投手中心の

鹿児島に完全に抑えられ点を叩き出せない。鹿児島は足で掻き回すチームらしく、

後半やや疲れてきた北海道のエースの甘い球を見逃さずセーフティーバントを成功。

盗塁・バント・内野ゴロの間に1点をもぎ取った。最終回は、鹿児島のエースの抜群の

スタミナで制球は乱れず、そのまま試合終了となった。

 

彩菜「鹿児島中、地味〜…」

雪乃「でも、エラーらしいエラーは無し。けっこう強いよ」

風上「こうやって他の試合を見ていて参考になるか?」

雪乃「知らないより知っていた方が後々有利になると思いますので」

風上「だよな」

 

 我が部の部員は練習のために、この試合以降は宿舎に戻り私は残りの試合を観戦

することにした。わかったことを手元のノートに書きこみ、おおまかな成績を残して

おく。その後、面倒くさがりの先生に結果を伝えるという役目をもらったのだった。

 簡単に買える愛知で簡単なのを彩菜に買いにいかせて私はジッと観戦するのだった。

 

 

 

彩菜「う〜ん、これでいいかな」

小夜子「私も手伝うわ」

彩菜「えっ、いいの?」

小夜子「ええっ、頼まれているモノ全部持っていくの大変そうだし」

彩菜「うん、雪乃よく食べるから…」

 

 味噌カツバーガーにひつまぶしサンド、ういろう・・・。適当でいいっていっていた

から団子系とバーガー系は他にも複数。米粉パンもいいかも。そして、コンビニの

味噌カツおにぎり…を十数個。飲み物小さいボトル5本くらい。

 

小夜子「大変なわりには嬉しそうね」

彩菜「雪乃の美味しそうに食べる姿が好きだから」

 

 でも、あらかじめママからお金もらっていなかったら私たちの財布じゃ破産してるよ。

そう思いながら買った重い荷物を二人で分けて球場に戻った。すると、最初の頃より

ほどよく空いた雪乃の隣の席に置いて買い物を済ませたことを告げるとさっそく一つ

バーガーを取り出して食べながら野球を見ている。

 毎回不思議なのだが、大口や食べる速度が特別速いわけじゃないのにいつの間にか

大量の食料が消えてなくなるのが驚きだ。小夜子先輩は買ってきたものを置いていったら

そのまま帰っていった。選手達の管理をしないといけないらしい。私も戻りたいのだが

雪乃一人を置いていくわけにはいかない。

 

雪乃「帰っていていいよ?」

彩菜「あのねぇ、一人じゃ心配で帰れないでしょ」

雪乃「?」

彩菜「今の世の中、女の子一人って危ないじゃん」

 

 なんか苦笑いしながらノートにメモっている雪乃。わかっちゃいないんだ。雪乃は

世界一可愛いんだから、一人にしたらあっという間に飢えた狼達に食べられちゃう。

そんな私の心配をよそに雪乃は少しずつノートにつらつらと字を連ねていく。

 そんな、ぶつかりそうなチームの成績をノートにとっている雪乃の横顔を眺めて

大半の時間を潰したのだった。帰ってからの雪乃のノートを見た県先生は。

呆れた顔して笑ってみていた。本当にあたりそうなチームのデータを細かく書くとは

思っていなかったらしい。雪乃はがんばった分その反応は面白くなかったようだ。

 

雪乃「まったく、あの先生ときたら・・・」

彩菜「おつかれさま」

 

 疲れた仕草でため息など吐くものだから、私は雪乃の肩揉みを始めた。最初は

痛がっていたから調節していたときに、雪乃が聞こえるか聞こえないか程度に呟いた。

 

雪乃「今日は付き合ってくれてありがとう」

彩菜「別に〜」

雪乃「動かないで見ていた彩菜の方が私よりも気持ちが疲れてると思うから」

彩菜「大丈夫、そこはホラ。私、ずっと雪乃の真剣な顔を見ていたから楽しかった」

 

 と、つい口がすべると「どこを見ていたの!」と叩くフリをして雪乃が軽く怒る。

そんな他愛ないやりとりも私にとっては幸せなひとときだ。

 

 

 試合当日一回戦。いきなり、上位有望と噂される埼玉のチームと当たったのだった。

我がチームのスターティングメンバーは。

1番・生田兄 2番・生田弟 3番・風上妹 4番・風上兄 5番・2年相馬

6番・1年高嶺 7番・彩菜 8番・1年竹橋 9番・大地

1から順番にショート・セカンド・キャッチャー・ピッチャー・ファースト

ライト・センター・サード・レフトという守備位置で始まった。

プレイボールの声がかかる。いやでも緊張が高まる。しかし、ベンチに控えている

雪乃がいる。みっともないことはできない。

 まずは先攻の相手チームから。最初の三人は風上兄妹によってあっという間に

三振・一塁ゴロ・遊撃飛で一回表が終了。ベンチに戻ると先輩達がいつもとは

違う真剣な眼差しで準備に取り組む姿がかっこよく見えた。

 兄がじっくり相手の球筋を見て四球を選ぶ。無死一塁で弟が気合を入れて

打席に立つと、いつもの調子でふざけてホームラン予告なんかして相手を刺激した。

 

大輔「ほらっ、真っ向勝負と行こうぜ?」

投手「・・・!」

 

 上手く挑発に乗せられた相手エースは思い切り振りかぶって投げた。ものすごい

伸びのあるストレート。これは打つのが難しいかと思いきや。弟先輩はフォームを

崩したかと思えばすぐさまバントの形を作って軽くバットに当てる。勢いを殺がれた

ボールは上手いこと捕手と投手の間に転がり、自慢の足を使ってギリギリセーフ。

 

雪乃「すごい」

県「見事なセーフティーバントだな」

彩菜「でもああいうの、むずむずしない。思いっきり打ちたいよね」

県「あのなっ、今日からまけたら終わりの大会なんだからフォアザチームでいきなよ」

彩菜「ぶぅ、わかってるよ」

 

 絶好のチャンスに楓夏先輩が打席に立つと今度は最初からバントの形に持ってきた。

送るつもりだろうか。上手くいけば1死2・3塁になる。悪くても一点は取れるはず。

その読みどおりに2球目で楓夏先輩はバントを華麗に決めて走者の塁を進めることに

成功した。後はエースで4番の。

 

風上「いくぜ」

 

 相手との読みの勝負。スクイズには行かずに本物の勝負に挑む風上先輩。

直球変化球と多彩に攻めていく相手投手。隙がないのがさすがだけど、最後に投げた

スライダーは抜けた瞬間を先輩が逃すはずもなく、レフト前にヒットを放ちタイムリー。

2点を先取した。この勢いを殺さずにエラーをしないことが肝要であり、特に守備に

不安のある大地くんは死に物狂いでレフトを守っていた。

 なぜなら先輩達の視線に物々しい雰囲気があったから。エラーなんてしようもの

なら後で何をされるかわからなかったのだろう。かわいそうに。

 大地くんの健闘のおかげか、幾度か点の取り合いになった後。結果的に9回まで

2点のリードを得たまま相手の攻撃で2アウトの状況になっていた。

走者は一塁のみ。風上先輩は緊張することなく、最後の一人を三振にとって

ゲームセット。

 

雪乃「おつかれさま」

彩菜「ありがとー」

県「よくやったな。相手は強豪の部だったから、大変だったろう」

 

 それから先生の労いの言葉とこれからの試合のことを簡単にまとめてメンバー全員に

気合を入れていた。特に野球に熱心な先生ではないのに、不思議と皆やる気になっていた。

兎にも角にも一戦は見事に戦い抜いた。私は隣にいた雪乃を見ると雪乃も私を見ていて

互いに嬉しそうに微笑んだ。

 ちゃんと練習をしながら、ミーティングを心がけ、少しずつだが優勝への道が

見えてきた。決勝前夜。中学3年である風上先輩は今年で卒業してしまう。今まで

平静に装ってきた先輩も最後の大会での決勝戦に緊張と感動が入り混じっている

表情をしていた。私たちもその気持ちがよくわかる。だからこそ、優勝させたい

気持ちは強かった。

 

風上「明日は泣いても笑っても最後の試合だ。完全燃焼でいくぞ!」

 

 この時の、風上先輩の姿は今までよりも一番心強く格好よかった。

 

 

 決勝当日。初戦から手強い相手だったからか、ここまでは割と危なげなく辿り着いた

がさすが決勝戦というか、王者のオーラがむんむんと出ている。これから対するチームは

前回の優勝校であり、史上初の連覇も達成している。負けるかもしれないけどここは

なんとしても勝っていかねばならないところである。

 風上先輩がマウンドに上がった。我がチームは後攻で開始した。相手のチームは

全体的に走攻守の全てがハイレベルで崩すのが難しいのだそうな。とはいえ、先輩も

そうそう打たれるような球を投げていないのでひとまずは安心だろう。その間、

野手専門である私たちがなんとかしないといけない。

 一回の表が終わり、私たちのチームの攻撃だが。あの生田兄弟でも上手くミート

できずに内野フライで終わってしまう。

 

楓夏「ようし、こいやー!」

 ズバンッ!

審判「ットライクアウッッ!」

 

 楓夏先輩は上手く球を見れなかったらしく、見事な見逃し三振をしてしまい

顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。なんか先輩なのに可愛く感じてしまった。

その調子でどんどこ回は進んでいき、後半の7回表まで0−0にまで引っ張っていた。

 

風上「はぁはぁっ、やってくれるなぁ・・・」

楓夏「お兄ちゃん、ごめん」

大輔「くそう、どうやったらアイツ崩せるんだ…」

 

 複数の変化球を駆使しているが直球の速度は速くスタミナもあるらしく疲れていそう

な雰囲気が全く感じない。逆に相手のホームラン、盗塁をマークしながらここまで

きていた二人の兄妹は神経をすり減らしていて気が散っているようだった。

 

県「いいじゃない。こういう相手の方が燃えると思わないか?」

 

 みんな沈みかけそうな気持ちを県先生は笑いながら話しかけた。

 

県「最後の試合だ。結果はともかく、後悔しないように楽しめよ」

 

 それまでどうすれば勝てるかしか考えていなかった私たちは最初の気持ちを

忘れていたのだろうか。県先生の言葉から何か気付かされた気分になった。

しかも元からあまり気にしていなかったであろう風上先輩はこの短い間に

随分と疲労を回復しているように見えた。

 

風上「楓夏、頼むぞ」

楓夏「まかせて!」

 

 先輩の一言によりみんなの士気が上がったような気がした。これならいける気がする。

しかし、相手のチームワークも一筋縄でどうにかできる代物でもなかった。それまで好調

だった私たちのチームもいい状況には作れはしたものの、相手の勝負強さで1点も

取ることができない。勝負の流れが揺れに揺れている。少しのミスをした方が負ける。

 そして、9回。一つのアウトをとって、流れが変わった。最悪、わたし達の方が不利な

展開となってしまった。先輩の思い切り投げたストレートが敵の打撃で先輩の腕に直撃

してしまったのだ。1アウト一塁でゲームが一時ストップがかかると蹲る風上先輩の下に

ナインが集まる。

 

楓夏「お兄ちゃん、大丈夫!?」

風上「くそう、骨折はしてないみたいだが。腕が動かない…」

 

 投げる方の腕に当たったみたいで、これではまともにプレイもできないだろう。

県先生が駆けつけ、選手の交代を告げる。だが、ここで誰が投げるのだろう。

ずっと風上先輩に頼っていたチームでは、それなりに投げれる人しかいない。

そこで風上先輩は一人の生徒を見て動くほうの手で指を差した。

 

風上「植草、お前が投げろ」

大地「いっ!?」

 

 誰しもその言葉に耳を疑ったが指を差している方向には大地くんしかいないので

もうそういうこととしか受け取りようがないわけで。練習でいっぱいいっぱいで

まともに打撃ができない大地くんには荷が重い気がする。うち、先輩が何人か

反論していた。1年の特に上手いというわけではないヤツに投げさせられない

と思うのも仕方ないことだろう。しかし、風上先輩は言い切った。

 

風上「俺を信じろ。今まで、遠投、投球の練習をしてきただろう」

大地「…」

 

 どうやら打撃よりも投げる方の練習をしていたみたいだ。だから、外野手だったのか。

思えばプロでも投手ができなくなって外野手に転向する人は何人かいたんだった。

一旦、大地と楓夏先輩と私が風上先輩をベンチに連れて行き、先生に説明をした。

 

県「わかった。そういうことだ、植草。腹をくくれ」

大地「でも」

県「風上が決めたことだ、失敗したところで誰も責めないだろう。だから、思い切って

 投げて来い」

雪乃「大丈夫、いつもの調子でやってきて」

彩菜「ほらっ、雪乃もこう言ってるんだから。しっかりしてよ」

楓夏「リードは全面的に任せて」

 

 頼りになる捕手からの言葉を受けて大地は緊張の度合いが激しいのか少し顔が

歪んでいたが、首を縦に振った。そして、一言。

 

大地「わかりました。でも、どうなっても俺は知りませんからね」

 

 風上先輩の言葉を聞く前に大地は弱気な顔を消して真剣な面持ちになり、ベンチを

出て行った。そして、ベンチから控えの選手から一人が風上先輩の変わりに出陣。

この状況で風上先輩が試合に出られることはまずなくなってしまった。

 マウンド上で軽く足で払い心を落ち着かせる。練習はしていても、実践で投げるのは

初めてだから当然緊張はするだろう。離れていて見てもその様子がよくわかる。

試合再開の合図が鳴り、大地くんは足を上げてやや斜め方向に腕を振って投げる。

 

 ズバンッ!

 

 球は大きく上に外れて楓夏先輩は腕をいっぱいに伸ばしてなんとかワイルドピッチ

を避けることができた。いきなりの大失態に大地の表情から自信がどんどんなくなって

いく。大丈夫、思い切って投げろと楓夏先輩はサインを交わす。

 しかし、それ以降でボールを繰り返しついには満塁になってしまった。ここでの失点

は敗北に繋がる。1アウト満塁。外野フライでも一点取られてしまう可能性が高い。

そこでベンチから大きい声で応援する女子が一人いた。三島先輩だった。

 三島先輩も今年で卒業してしまう。彼女に片想いをしている大地は拳に力を加える。

ここで怖気づいてどうする。今、がんばらなくていつするんだと気合を入れているの

だろうか。両手で顔を叩くとさきほどの不安そうな態度から一転するどい目で相手

打者をにらみつけた。

 色々と吹っ切れた大地くんはよく腕が振れていた。今までの腑抜けっぷりが嘘の

ようにバンバンストライクが入っていく。そしてあっという間に三振。

 後一人! 私も自然と手に力が入る。

 しかし、この一瞬がスローモーションのように流れていく。その静かな流れの

中でバットはボールの芯を捉えていた。その後の時間は通常のように戻り、その速さは

普通の数倍にも感じられた。

 それから懸命に取り戻そうとしても、呆気なく3アウトを取られて試合は終了した。

まるで魂が抜けたような気分の私たちに一番、大切だった試合のはずの風上先輩が

一番明るく振舞ってくれた。

 

 

 時間の流れは早く感じる。それこそ何かに熱心に取り組んでいると尚更早く感じる

ものだ。私たちは先輩達の卒業式の後に、部員達と共に集まって話しをしていた。

泣いたり、笑ったり、惜しんだり。忙しく変わるみんなの表情。そんな中、いつも通り

の三島先輩と風上先輩はすごいなと思えた。

 

小夜子「みんな、卒業を特別なものに見すぎるのよ」

雪乃「先輩は特別じゃないんですか?」

小夜子「ええ、だって。それであなた達との縁が切れるわけではないし」

 

 桜の木から花弁が少し散っては、まるで卒業していく人たちを祝福するかのように

私たちに降りかかるのだ。綺麗な光景。はて、どこかで私もこんな不思議な光景を

目の当たりにしたような気がするが。先輩の微笑んでいる姿を見るとそんな瑣末なことは

どうでもよく感じた。

 

彩菜「そういえば、大地くん」

大地「なに?」

 

 風上先輩に挨拶を済ませた大地くんは私たちの傍まで来ると、彩菜が肘で軽く突き

ながらからかっていた。おそらくは、大地君の三島先輩への想いのことを言っているの

だろう。

 

彩菜「三島先輩に何か言いたいことあるんじゃなかった?」

大地「ばっ、ばか。そんなのないって」

小夜子「あらっ、ないの?」

 

 大地くんの目の前まで歩み寄ると、大地くんの緊張していた顔がより硬直してきた。

このまま血圧上がって血管が切れてしまうのではないかとこっちはドキドキしてしまう。

ただ、大地くんにそんな度胸を持ち合わせていないことを知っているから問題はない。

 

大地「そ、卒業。おめでとうございます!」

小夜子「ふふっ、ありがとう」

 

 ほらね。

 

 その後、部室に戻って先輩達は私たちに引継ぎやら、部長やらを決めて。

全ての仕事を済ませてからみんなでカラオケにいった。そういえば、カラオケに

行ったのは家族以外では初めてかもしれない。まぁ、家族もいるけど。

 私の隣に座ってはしゃいでいる彩菜を見て、私も笑う。みんな楽しそうでよかった。

湿っぽい空気にならなくて安堵したのだった。

 それからというもの、大地くんは人が変わったかのように練習に没頭することに

なる。それはそうだ、風上先輩からエース候補なんて言われちゃ、練習せざるを得ない。

しかも並の練習量じゃだめ。先輩に追いつけないからだ。それに元部長にそこまで

言われたら周りからのプレッシャーもすごいだろう。よく、押しつぶされないものだ。

彩菜なんて「私が選ばれなくてよかったー」と気楽なことを言っていた。

 でも確かに、彩菜にはあまり向いていないかもしれない。彩菜って実はプレッシャー

を強くかけると萎えてしまうからだ。私が傍にいる以外ではね。

 

 

田之上「何か描きたいものでもできた?」

雪乃「はい。今まで色々見てきて感じたものを描いてみたいなって」

田之上「そう、できたら俺にも見せてくれるかな」

雪乃「もちろんです!」

田之上「ははっ、元気なのはいいことだ」

 

 部活も一段落ついて、最近は田之上さんとこで本の作業の手伝いを再開させている。

田之上さんも助かるっていうし、私もなんだか嬉しいし。でもどこか、以前と違う気持ち

でいる私がいて。気持ちの変化なんて起きないと思っていたけど、まさか無意識で

考え方が変わるとは思いもよらなかった。描きたいのもそうだけど、今はそれ以上に

彼の傍にいたかった。まぁ、邪魔な同居人もいるんだけどね。

 

金城「ゆきのちゅわーん」

雪乃「寄らないでください」

金城「えーっ」

 

 邪魔な同居人を邪険にしながら田之上さんが間に入ってくれたり、そんないつもの

光景がずっと続くかと思っていた。でも、私の心の変化と違って彩菜の気持ちがずっと

今までと同じように変わらないのかとなぜ思っていたのだろう。

 

雪乃「ただいまー」

彩菜「おかえりー!」

 

 いつもみたいに、大袈裟に喜び迎えてくれる彩菜が私の手を握ってくる。

暖かくて柔らかくて気持ちいい。スポーツとかやっていると固くなりがちだが

彩菜はいつも子供のように手が気持ちいいんだ。

 

雪乃「今日はどうする?」

彩菜「CD買ってきたんだ。一緒に聴かない?」

雪乃「聴く」

彩菜「じゃあ、私の部屋に行こう」

 

 でも、彩菜の目がその変化を教えてくれていたのに。私は認めたくなくて、その

警告を無視していた。それが、お互いを傷つくことがわかっていても。私は無意識に

見えていたものを無意識に拒絶したのだった。

 

説明
過去作より。うっかり一つ話を飛ばしてしまい、修正修正。野球の話がクライマックスで徐々に姉の動きが不審なのを感じる妹。どうなることやら
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