サテライトウィッチーズ 第二話
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第二話「一人なんかじゃない!」

 

 

ネウロイと戦った後、ガロードは再び501の基地に収容され、次の日に取り調べ室のような場所でミーナ達の尋問を受けていた。

 

「だからー、俺はどこの軍にも所属していないって、信じてくれよー」

「信じろって言われてもね……あのような兵器を個人で作れる訳がないでしょう? 一体何なのあの兵器は?」

「だからガンダムだって、もうめんどくさいなー」

 

そう言ってガロードは“もうこれ以上話は聞かない!”という意思表示の為に机の上に突っ伏する。

 

「はあ、どうしたもんかしらね……」

「苦戦しているようだなミーナ」

 

そこに、先日ガロードと顔見知りになった美緒が取調室に現れる。

 

「美緒?」

「あ、アンタ確か黒いの……ネウロイと戦っていた人?」

「坂本美緒だ、あの時は助けてくれてありがとう、おかげで私達も扶桑海軍の皆も大した被害が出なくてすんだ」

「いやあ、自然に体が動いただけさ、あのリーネって子がサポートしてくれたおかげでもあるし……」

 

そう言ってガロードは照れ笑いを浮かべ、頭をぼりぼり掻いた。それを見た美緒はいきなり豪快に笑いだした。

 

「わっはっはっは! 面白い奴だ! それとミーナ、あの白い機体を調べていた整備兵達から報告が来たぞ」

「そう、それで結果は?」

「正直さっぱりだそうだ、魔法力どころかこの世の技術すら使われていないんじゃないかと言っていたぞ、私も見させてもらったがあんな物この世界で作るのは不可能だと思うぞ」

「そう……」

 

そんな二人のやり取りを傍で聞いていたガロードは、うーんと首を捻って悩みだす。

 

「あー、やっぱ俺異世界に来ちゃったのかなー、地球軍も革命軍も無いし、ネウロイなんて化け物がいるし、アンタ達は空飛ぶし……ん?」

 

その時ふと、ガロードはミーナ達の格好を見てある事に気付く。

 

「ところでアンタ達、なんでスカートなりズボンなり履かないの? 正直目のやり場に困るんだけど……」

「「は?」」

 

ガロードはミーナ達がズボンを履かずにパンツ丸出しの状態でいる事を指摘する、対してミーナ達は「何言ってんのこの人?」と言いたげに不思議そうに首を傾げた。

 

「ズボンならもう履いているだろ、なあミーナ?」

「そうよねえ」

 

ミーナ達の発言に、今度はガロードが混乱しだす。

 

「え、いやだってパンツ丸見え……」

「これはズボンよ」

「ズボンな訳ないだ「ズボンよ」そ、そうですか」

 

ガロードは無表情に威圧してくるミーナを見て、何かこれ以上詮索するとヤバいと思い口を噤んだ。

 

 

「中佐、少佐、少しよろしいでしょうか?」

 

その時、取調室に扶桑軍の白いシャツに土色のズボンという軍服を着た男が現れた。

 

「どうした? 今我々は取り調べ中なのだが?」

「それが基地に軍の上層部の方々が御出でに……そこの少年と話がしたいと」

「なんですって?」

 

 

 

 

 

数十分後、ガロードは兵達に連れられて会議室のような所に連れてこられた、そこには坂本達のとは違って高級そうな軍服と、いくつもの勲章を取り付けた中年の男たちが座っていた。

 

(成程、こいつらがあいつらの上司って訳ね)

 

ガロードはかつて出会った革命軍や地球軍の身勝手な上層部の人間と、目の前にいる軍人たちが重なって見えて苦い顔をする。

 

「君の事とあの機体の事は報告書で読んでいる、素晴らしい戦闘力だな」

「そりゃどうも」

「でだ……君の力を我々に貸してほしい、それとあれをどうやって作ったのか我々にも教えてくれないか? アレが量産できればウィッチを必要とせずともネウロイを殲滅できるのだ」

「まあ、確かにねえ」

 

頷いてみせたガロードであったが、彼は目の前の軍人たちがDXを良からぬ事に使う気満々だと言う事を見抜いていた。

 

(もしネウロイとの戦いが終わったら今度は人類同士でってか、どこの軍のお偉いさんも考えることは一緒な訳ね)

 

ガロードの頭の中にこの世界が自分の世界のように、戦争の果てに死体で溢れかえる死の世界に変わる様子を想像する。

 

(そんなことはさせない……過ちは繰り返させない)

 

自分に大切な事を教えて死んでいった男の事を思い出し、ガロードはこの世界で自分のすべきことを決めた。

 

「解った……俺はアンタ達に協力する、ただし条件がある」

「条件? なんだね言ってみたまえ」

「アンタ達の希望通り、俺はガンダムDXでネウロイと戦ってやる、その代わり衣食住はちゃんと用意してくれ、それとDXの整備は俺自身がやる、あれは結構デリケートだから知識の無い奴が動かすと壊れるからな、そして最後……俺が一番最初に流された島に他のMSの残骸があるからこの基地に持ってきてくれ、残ったエネルギーをDXに移す為にな、俺からの要望は以上だ」

 

ガロードの要望を聞き、軍人たちは互いに顔を見合わせて話し合い、再びガロードの方を向いた。

 

「すぐに兵達に伝えよう、君はこの基地に留まり第501統合戦闘航空団と共にネウロイの迎撃に当たってくれ」

「商談は成立って訳ね、んじゃ後はよろしく」

 

そう言い残してガロードはここにはあまり居たくないと言わんばかりに、さっさと会議室から出て行った……。

 

 

 

 

「よろしいのですかマロニー大将? あんな少年を信用して……しかも501の連中と一緒になさるのですか?」

「無論、信用はしておらんさ、まずはしばらく泳がせて奴が何者か、あの兵器がどこで作られた物かを徹底的に調べるのだ、それに501の基地は最前線だ、あの機体の戦闘データも沢山取れよう、もし不都合な事があれば……」

 

そう言ってマロニーと言われた男は、顔に歪んだ微笑を浮かべていた。

 

 

 

 

一方会議室から出たガロードは、懐にしまっていたGコンを取り出し、それを上に投げてポンポンとお手玉した。

 

「さて……当分の間はここにいて元の世界に帰る方法を見つけないと、ぐずぐずしていると俺消されちゃうしな〜」

 

ガロードはこの世界の軍にDXを調べさせる気はさらさらなかった、そして元の世界に帰る方法を見つけ、タイミングを見計らってこの基地から逃げるという計画を立てていたのだ。

 

「問題は帰る方法があるのかどうかだ、この辺に資料ってないかな」

 

 

 

それから一時間後、ガロードはミーナによって他のウィッチ達が集まるブリーフィングルームに案内された。

 

「という訳で、今日からこの基地で私達と一緒に戦ってくれるガロード・ラン君よ、皆仲良くしてね」

「えーっと、皆よろしくな」

 

そう言ってガロードは目の前にいるウィッチ達に挨拶する、対してウィッチ達はそれぞれガロードを好奇の目で注目していた。

 

(ひゃー、皆女の子じゃん、おまけにパンツ丸見えだし……ていうか昨日会った子ばかりだ)

 

その時、前の方に座っていた腰まで伸ばした金髪に、少女たちの中で唯一メガネをかけている、少しツンツンとした雰囲気を醸し出す少女……ペリーヌ・クロステルマンが不満そうにガタリと立ちあがった。

 

「中佐! 私は認めませんわ! 私達の部隊にこのような山猿を入れるなんて!」

「山猿って……失礼な奴だなお前」

 

悪口を言われてむっとくるガロード、しかしペリーヌは彼に対する罵声をやめない。

 

「第一彼は男でしょう!? ワタクシ達と共同生活なんかしたらいつ男の本性を剥き出しにして襲いかかってくるか!」

「大丈夫、俺はそういうことしない(そんなことしたらティファに嫌われるじゃん)」

 

ガロードは自信満々……というより永遠に揺るがない決意をもってそう答えた。

 

「これは上層部の命令だ、従うんだペリーヌ」

「く! 坂本少佐が言うのでしたら……!」

 

ガロードの隣にいた美緒の一言で、ペリーヌは納得しなくても口を噤み座る。

 

「では各々ガロードに自己紹介しろ、まずは……」

 

するとペリーヌの後ろにいたツインテールの少女が手を上げる。

 

「私フランチェスカ・ルッキーニ! よろしくねガロード! 私の隣にいるのは……」

「シャーロット・E・イェーガーだ、シャーリーって呼んでくれ」

 

そう言ってオレンジ髪の周りと比べて背が飛びぬけて高い少女……シャーリーは大きな胸をブルンと揺らして挨拶する。

次に、通路を挟んだ隣の席に座っていた金髪のショートヘアの少女と、茶色がうっすら混じった黒髪を後頭部で二つに結び、目を上に釣り上げた少女が自己紹介を始める。

 

「私、エーリカ・ハルトマン! こっちの仏頂面がゲルトルート・バルクホルンだよ!」

「……よろしく」

 

次に、彼女達の前に座っている美しい銀髪に肌は雪のように白い少女二人(片方は長髪で、片方はショートヘア)が、互いに眠そうな目をこすって自己紹介を始める。

 

「私は昨日独房で会ったな、エイラ・イルマタル・ユーティライネンだ」

「私はサーニャ・リトヴャク……ふあああ」

 

そして前の方に座っていた2人のウィッチが、ガロードに向かって自己紹介した。

 

「ふん! ペリーヌ・クロステルマンですわ!」

「リネット・ビショップです、昨日はどうも……」

 

そしてセーラー服を着た黒髪のショートヘアの少女が、ガロードに向かって元気よく挨拶した。

 

「宮藤芳佳です! よろしくガロードさん! 私も今日入隊したばっかりなんです!」

「あ、お前昨日ネウロイと戦っていた……」

 

ガロードは宮藤の姿を見て、昨日ネウロイと戦っていた時に自分が助けたウィッチだという事に気付く。

 

「覚えていてくれたんですね! あの時は本当に助かりました!」

「ほう、仲がいいなお前達……よしリーネ、自己紹介も終わったことだし二人に基地の中を案内してやれ」

「は、はい! 判りました!」

 

リーネは戸惑いつつも、上官である美緒の命令にはっきりと答えた。

 

 

そしてガロードと芳佳はリーネによって基地の至る所を案内されながら、互いの身の上について話の花を咲かせていた。

 

「へえ、じゃあガロード君って私の一個上なんだ、なんだか親近感が沸くなー」

「そうなのか? 俺も周りに同世代の奴はあんまりいなかったからなー、お前はいくつなの?」

「え? わ、私も15です」

 

いきなり話しかけられ、戸惑いながらも返答するリーネ。

 

「おー同学年だー、なんか共学の学校みたいだねー」

「俺学校行った事ねえから判んねえやー、あはははー」

「うふふふー」

「……」

 

ガロードと芳佳がにこやかに笑う中、リネットはただただ黙り込んでいた、それを見た二人は堪らず彼女の背後でコソコソと話し合いを始める。

 

(んー、なんかリーネはノリが悪いなー)

(私ももっと仲良くしたいと思っているんですけどね)

 

 

 

そして三人は基地で一番高い場所……管制塔にやってきた。

 

「うわ〜! すご〜い!」

「ここは基地で一番高い場所なんです」

「島全体が基地になっているんだな」

「はい、ドーバー海峡に突き出した島、それがウィッチーズ基地、そしてあれがヨーロッパ大陸、でも大半は敵の手に落ちて……」

「こんなに静かなのに、ここも戦争しているのか」

「ここも?」

 

宮藤はガロードの“ここも”という発言に食いつく。

 

「俺のいた世界もつい最近、人類同士で戦争してたのさ、俺はその真っ只中にいてさ……生き延びるのに必死だったよ」

「へえ、すごいんだねー」

「……」

 

リーネはそんなガロードの顔を見て何故か俯いてしまった……。

 

 

 

 

 

その日の午後、ガロードは格納庫でDXの整備を行っていた。

 

「えーっと、あと一回飛ぶぐらいのエネルギーは残っているか、バスターライフルの方は弾切れか」

 

そう言ってガロードは使っていたプラスドライバーを床に置き、そのままレンチを手に取ろうとする。

 

「レンチ、レンチはっと」

「ほい」

「お、サンキュー……って」

 

ガロードはその時初めて、エーリカが自分の傍で整備の様子をしゃがみながら観察している事に気付く。

 

「……何?」

「観察してるの、珍しいじゃんこの機体、あーあ、私も動かしてみたいなー」

 

そう言ってエーリカはじりじりとガロードの距離を詰める。

 

(う……)

 

ガロードはそれを見て思わずエーリカから顔を反らす、なぜなら自分の視界にしゃがんでいるエーリカが履くパンツのようなズボンが入ってしまったからだ。

 

「ふっふーん、なんで目を反らすのかなー?」

「て、てめえ! わざとやってるな!?」

 

そう、エーリカはガロードの反応を楽しむ為にわざと彼と距離を縮めたのだ。

 

「おーいガロードー」

「あ! エーリカもいるー!」

 

するとそこに、様子を見に来たシャーリーとルッキーニが現れた。

 

「お、二人も観察―?」

「おう! メカ好きとして是非ともこれの中身がどんなふうになっているのか調べたくてさー」

「私もコレ乗りたーい!」

 

するとルッキーニはピョンピョンと跳ねてDXの中に入っていった。

 

「あコラ! 勝手に入っちゃダメだろ!? 何かの拍子で動き出したらどうするんだ!?」

「あー、その辺は大丈夫だよ」

 

注意しようとするシャーリーをガロードは止める、そして数分後、コックピットからつまらなそうにしているルッキーニが這い出てきた。

 

「にゅー! どこ押しても動かないからつまんなーい!」

「ははは、お前達にDXは動かせねえよ、これに乗るには特別な資格ってもんが必要なんだよ」

「何それ!? 教えてー!」

「私も知りたーい!」

「いやあ! こればかりは教えられねえなあ!」

「「ぶー!!」」

 

拒否されたルッキーニとエーリカは不満そうに頬を膨らませる。

 

その時、基地の外からパアンと銃弾が放たれる音が鳴り響いた。

 

「ん? なんだ今の銃声?」

「きっと坂本少佐が芳佳とリーネをしごいているんだよ、ちょっと見にいこーぜ」

 

そしてガロードはシャーリー達と共に、滑走路先端で狙撃訓練を行っている芳佳、リーネ、美緒の元にやってきた。

 

「おーやってんなー」

「あ、ガロード君、それに皆も……」

「今リーネが訓練中なのか?」

「はい、海の上にある的に当てる訓練なんですけど、的が遠すぎて全然見えないんです」

「へー、どれどれ……ぶっ!!?」

 

ガロードは後ろからリーネの狙撃している態勢を見て、思わず顔を真っ赤にする、なぜなら今の彼女の格好はうつ伏せになったままライフルを構えている態勢なのだが、ガロード達の位置からだとちょうど尻、というかパンツ(ズボン)に纏われた股が丸見えなのだ。

 

(いかんいかんいかん! 邪な事考えるな俺!)

 

するとそんなガロードの様子に気付いたエーリカ達が、彼を一斉にからかいだした。

 

「おや〜ガロード君? リーネの尻見てなんで顔赤くしてるのかなー?」

「ガロードのエッチ〜」

「ウブだねぇ〜」

「ええええ!? ち、違う! 誤解だ!」

「お前達静かにしろ、訓練中だぞ」

「「「はーい」」」

 

美緒に一喝で注意され黙りこむガロード達、そして辺りが静まりかえった時……リーネはライフルの引き金を引いた。

 

放たれた銃弾が海面を駆け遥か先の的に向かう、その様子を美緒は右目の眼帯を避けて観察する。

 

「うーん、右にずれたな、もっと風を読め」

「はいっ!」

 

(ええ!? 今の見えたのかよ!? 俺には遠すぎて判らなかったぜ!?)

 

美緒が遥か彼方の的の様子を把握しているのを知って、ガロードは彼女の眼の良さに驚いた。

 

(ウィッチは魔法使いだからな、坂本少佐は魔眼っていう固有魔法が使えるんだ、ちなみにリーネは弾道安定、私は超加速、ルッキーニは光熱攻撃、エーリカは疾風だな)

(そーいやリーネの頭にネコ耳みたいなのと尻に尻尾みたいなのが生えているけど何?)

(アレは使い魔だよー、私達ウィッチは使い魔を憑依させて魔法を使うんだー)

(ふーん……)

 

シャーリーとルッキーニのウィッチに関する解説にウンウンと頷くガロード、するとその様子に気付いた美緒はにやりと笑った。

 

「ガロード、お前もやってみるか?」

「え? 俺が? へへへしょうがないな〜、俺の実力見せちゃうよ〜」

 

そう言ってガロードはリーネからライフルを受け取って、先ほどの彼女と同じ態勢でライフルを構える。覗き込むスコープの先には遥か彼方に立てられているオレンジ色の的が映っていた。

 

(えっと、風の具合とこの銃の弾道、後は……)

 

ガロードは集中力を高めて引き金を引く、そして弾は遥か彼方の水平線に吸い込まれていった。

 

「どう!? 当たったか!?」

「ほぉ……角にかすったか、一発目でコレとは見事なものだ」

「えええ!? ガロード君スゴイ!」

 

直撃とは行かないまでも、ガロードの中々の射撃センスに一同は驚く。

 

「いやあ、こんなもん勘だよ勘、リーネには遠く及ばないって」

「は、はあ」

 

そう言ってガロードはリーネにライフルを返し、そのままDXの整備の続きをするため格納庫に戻っていった。

 

「すごいなーガロード君……」

「よし、次は宮藤、お前が撃ってみろ」

「え? は、はい……」

 

ガロードの射撃のセンスに関心する芳佳だったが、自分の番が回ってきたことに気づき暗い顔をする……。

 

 

 

 

 

その日の夜、ガロードは与えられた寝室で寝ていたが、中々寝付けず基地の周りを散歩していた。

 

「ったくよ〜、こう暑いと寝れないよ」

 

ふと、ガロードは空を見上げる、空には満天の星空と、美しく輝く月が浮かんでいた。

 

「綺麗な空だ……ティファにも見せたかったなあ」

 

ガロードは離れ離れになった自分の大切な少女の、優しく微笑む顔を思い浮かべていた。

 

「……絶対にお前の元に帰るからな、待っていてくれよ……ん?」

 

その時、ガロードは自分の元に誰かが近寄ってくる事に気付く。

 

「リーネ……?」

「あ、ガロード……さん……?」

 

それはリーネだった、彼女は何故か眼に涙を浮かべていた。

 

「お、おいどうしたんだよ? 泣いてんのか?」

「……! なんでもないです……!」

 

リーネは涙を拭ってそのまま走り去って行った。

 

「どうしたってんだアイツ……?」

 

するとリーネと入れ替わりで、今度は芳佳がガロードの前に現れた。

 

「あ、ガロード君……」

「芳佳か? 今リーネが走っていったけど……何かあったのか? もしかして喧嘩?」

「あ、あの実は……」

 

そして芳佳は先程、リーネを励ますつもりが逆に怒らせた事をガロードに話す。

 

「リネットさん、自信が持てていないみたいだから励ましてあげようと思ったんだけど、『最初から飛べたアナタとは違う!』って言われちゃって……私、そんなつもりで言ったんじゃないのに……」

 

そう言って芳佳は落ち込んで俯いてしまう。

 

「うーん、難しいよなそういうの……今はそっとしておいたほうがいいかもな、もしかしたら何かがきっかけであいつも変わるかもしれないし」

「“あいつも”?」

「こっちの話さ、それじゃ俺はもう眠いからいくぜ、ふあああ……」

「あ、私も行くよ、一緒に帰ろう」

 

ガロードは大きなあくびをするとそのまま芳佳と共に基地の方へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

次の日の明朝、501の基地にネウロイの襲撃を告げる警報が鳴り響いた。

 

「監視所から報告が入ったわ、敵、グリット東114地区に侵入、今回はフォーメーションを変えます」

「バルクホルン、ハルトマンが前衛、シャーリーとルッキーニは後衛、ペリーヌは私とペアを組め!」

「残りの人は私と基地で待機です」

「了解〜」

「了解」

 

そう言って美緒達はストライカーユニットを履いてネウロイと戦いに出撃していった。

そしてその様子を芳佳とリーネ、そしてガロードは見送った。

 

「いっちゃったね」

「……そうですね」

「いやー、俺のDXが弾切れを起こさなきゃ手伝えたのになー」

「今私達に出来る事ってなんだろう?」

「足手まといの私に出来る事なんて……!」

 

リーネはそう言って芳佳達の元を走り去って行った。

 

「お、おいリーネ!?」

「リネットさん……!」

 

すると芳佳とガロードの元に、先ほどのやり取りを見ていたミーナがやってくる。

 

「二人とも……ちょっといいかしら?」

「あ、はい……」

 

二人はミーナから、リーネが戦えない理由を聞いていた。

 

「リーネさんは……このブリタニアが故郷なの」

「え……!?」

 

初めて知る事実に、二人は目を見開いて驚いた。

 

「ヨーロッパ大陸はネウロイの手に落ちているんだろう? それじゃリーネは……」

「欧州最後の砦、そして……故郷であるブリタニアを守る、リーネさんはそのプレッシャーで、実戦になるとダメになっちゃうの」

「リネットさん……」

 

リーネの故郷を想い苦悩する姿を想像し、芳佳は胸が張り裂けそうな思いをしていた。そんな彼女に対し、ミーナは優しい声色で問いかけた。

 

「宮藤さん……貴方はどうしてウィッチーズ隊に入ろうと思ったの?」

「はい、困っている人達の力になりたくて……」

「リーネさんが入隊した時も同じ事を言っていたわ、その気持ちを忘れないで、そうすればきっとみんなの力になれるわ」

 

ミーナは二人に励ましとアドバイスを送り、そのままミーティングルームの方に戻って行った。

 

「……」

「リーネ……」

 

 

それから数分後、二人はリーネのいる部屋の前にやって来ていた。そして芳佳はリーネを励ますため、自分の思いを彼女に話し始めた。

 

「リネットさん……私、魔法もへたっぴで叱られてばっかりだし、ちゃんと飛べないし、銃も満足に使えないし……ネウロイとだって本当は戦いたくない、でも私はウィッチーズに居たい、私の魔法でも誰かを救えるのなら、何か出来る事があるなら……やりたいの、そして皆を守れたらって」

『……』

 

扉の向こうのリーネは、芳佳達を追いだそうともせず、ただ黙って話を聞いていた。

 

「だから私は頑張る、だからリネットさんも……」

 

するとガロードも何か言いたいのか、芳佳の肩をポンと叩いた。

 

「芳佳……ちょっと俺、リーネに話したい事があるから、ちょっとミーナ中佐んとこ行っててくれ」

「う、うん、よろしくね」

 

芳佳はガロードの言葉に素直に従い、ブリーフィングルームに向かって行った……。

そしてガロードはリーネの部屋の扉に背を凭れ掛らせる。

 

「あのさ……お前もうちょっと肩の力を抜いたらどうだ? そう重く考えないで気楽にさ」

『……! 簡単に言わないでください! 人の命が掛かっているのに……特別な力を持っているガロードさんには解らない!』

「……」

 

しばらく二人の間に沈黙が流れる、するとガロードはポツリポツリと自分の身の上話を始めた。

 

「……俺に特別な力なんてないよ、むしろ俺の周りには……スゴイ奴が沢山いた、技術も、経験も、能力も……俺が一生かかっても追いつきそうにない奴ばかりでさ、DXに乗ってなきゃ、もしかしたら俺は一番弱かったかもしれない」

『え……?』

 

ガロードの話に驚くリーネ、そして彼女は自分から質問をぶつけてみた。

 

「ガロードさんはどうして戦っていたんですか? その、向こうの世界で……」

「うーん、始めは生き延びる為にかな? 両親も一緒に育った同年代の子達も次々死んでいったし、MS盗んで売ったり強盗やっつけて報奨金もらったりと色々やったなあ、でも……」

「でも?」

 

ガロードの脳裏には、自分の運命を変えた少女と初めて出会った日の光景が浮かび上がっていた。

 

「ある日……俺はティファに出会った、あの子はすごく特別な力を持っていて、色んな奴らに狙われていたんだ、だから俺は……ティファを守る為にガンダムに乗って戦った」

『たった一人を守るために……』

「あのさ……リーネも国とか世界とかそんな大仰なものじゃなくて、もっと自分の身近な物を守るつもりで戦えばいいんじゃないか?」

 

ガロードの言葉には妙な説得力があった、何故なら彼はそうやって戦い、激しい戦いを生き延びてきたのだから、いうなれば彼が生きていることがその証明なのだ。

 

『でも、それだと……』

「大丈夫、リーネには芳佳やウィッチーズの皆がいるじゃないか、一人じゃちょっとしか守れないけど、皆一緒ならもっと多くの物を守れると思うんだ、コレ、経験者が語るんだから間違いないぞ?」

『ガロード……さん……』

 

リーネはガロードの言葉を聞いて、何か胸の奥の突っ掛りが取れていく気持ちになっていた。

 

「リーネは……一人なんかじゃない! だからもっと自信持っていけ!」

 

 

 

 

 

その時、ウィッチーズ基地に再び警報が鳴り響く。

 

「なんだ!? またネウロイが!?」

「ガロードさん!」

 

すると部屋の中からリーネが出てくる、彼女の顔は先ほどの自信なさげなのとは打って変わって、少し決意に満ちた表情に変わっていた。

 

「ブリーフィングルームにいくぞ!」

「はい!」

 

そして二人は頷きあい、ブリーフィングルームに向かって駆けていった……。

 

 

ブリーフィングルームではミーナが基地に残っていたエイラ相手に作戦内容を説明していた。

 

「先程美緒達から報告があったわ、新たなネウロイがこちらに向かっているそうよ」

「始めにでたのは囮か……」

「出られるのは私とエイラさんだけね、サーニャさんは?」

「夜間哨戒で魔力を使いはたしている、ムリダナ」

 

そう言って両手の人差し指で×マークを作るエイラ。

 

「そう……じゃあ二人で行きましょう」

「私も行きます!」

 

するとそこに芳佳が息を切らして駆けこんできた。

 

「まだ貴女が実戦に出るのは早すぎるわ」

「足手纏いにならないよう、精一杯頑張ります!」

 

ミーナに拒否されても、芳佳は食らいつく。

 

「訓練が十分じゃ無い人を戦場に出すわけにはいかないわ、それにあなたは撃つ事に躊躇いがあるの」

 

芳佳に対しあくまで厳しい言葉を投げかけるミーナ、しかし芳佳も負けじと食い下がる。

 

「撃てます! 守る為なら!」

 

「俺達も出るぜ、なあリーネ」

「はい!」

 

するとようやくガロードとリーネがやって来て、芳佳と共にミーナに出撃させてもらえるよう懇願する。それでもミーナは折れない。

 

「ガロード君はともかく、貴女達はまだ半人前なの」

「二人合わせれば一人分くらいにはなれます!」

「なあ俺からも頼むよ中佐さん、俺もフォローするからさ」

 

三人の懇願に、ミーナはしばらく黙り込んだ後……ついに折れた。

 

「……90秒で支度なさい」

「「はい!!」」

「さすが隊長! 話がわかるぅ!」

 

そう言って皆は自分達の武器がある格納庫に向かう、その途中でエイラがガロードに話しかけた。

 

「やるじゃんお前、リーネにあそこまで自信付けさせるなんてさ」

「なあに、俺はただ自分が言われた事をあの子に言ってあげただけさ、それに……」

「それに?」

「別に俺が何も言う必要は無かったかもな、芳佳の言葉もちゃんと届いていたみたいだし」

「そっか」

 

 

そして90秒後、ミーナ、エイラ、芳佳、リーネはそれそれストライカーユニットと銃器を装備し、ガロードはDXに乗り込んで、急速接近するネウロイに向かって飛行していた。

 

「敵は三時の方角からこちらに向かっているわ、私とエイラさんが先行するから、三人はここでバックアップをお願いね」

「はい!」

「はい!」

『はいはい』

「じゃあ頼んだわよ」

 

そう言ってミーナとエイラは先にネウロイの方へ向かって行った。

 

「宮藤さん……ガロードさん……」

 

するとミーナは恐る恐ると、一緒に飛んでいる芳佳とガロードに語りかける。

 

「うん?」

『なんだ?』

「本当は私……怖かったんです、戦うのが……」

「私は今も怖いよ、でも……うまく言えないんだけど、何もしないでじっとしている方が怖かったの」

「何もしない方が……」

『あー、なんか判るかもなそれ、ん……!?』

 

その時ガロードは、ネウロイがこちらに向かってきているのをモニターで確認する。

 

『二人とも! 敵が近づいてくるぞ!』

「え!? あ、はい!」

 

リーネは慌てて持っていたボーイズMkT対装甲ライフルを構える。

 

 

一方ミーナたちは基地の方角に向かって逃げる飛行機型のネウロイを、銃撃しながら追っていた。

 

「早い……!」

 

するとミーナ達の放った銃弾がネウロイのエンジン部分らしき場所を破壊する、しかしネウロイはその部分だけ分離し加速しミーナ達を振り切った。

 

「加速した!?」

「早すぎる!? まずいわね……!」

 

 

 

一方リーネは向かってくるネウロイを狙撃するが、弾が中々当たらずに焦って涙声になっていた。

 

「ダメ……全然当てられない!」

「大丈夫! 訓練であんなに上手だったんだから!」

「私……飛ぶのに精いっぱいで、射撃で魔法をコントロールできないんです……!」

『それなら俺が支えちゃうぜ!』

「え? きゃ!?」

 

ガロードが半ば強引にリーネをDXの掌に乗せる、リーネはDXの指に跨るような格好になっていた。

 

『これなら足元を気にせずに撃てる筈だ!』

「あ……はい」

 

すると皆の元にミーナから通信が入ってきた。

 

『三人とも、敵がそちらに向かっているわ、貴方達だけが頼りなの、お願い!』

「はい!」

 

リーネはライフルの標準をネウロイに定めようとする、そして彼女はある事を思いついた。

 

(西北西の風、風力3……敵即、位置を……そうだ! 敵の避ける未来位置を予測して、そこに……!)

 

そしてリーネは隣で飛んでいた芳佳にある指示を出す。

 

「宮藤さん! 私と一緒に撃って!」

「うん! わかった!」

『頑張れよ二人とも……!』

 

緊迫した状況に、ガロードは思わず操縦桿を強く握りしめる。

そしてリーネは接近してくるネウロイに標準を定めた。

 

「今です!」

 

次の瞬間、芳佳の持つM712シュネルフォイアーの銃口から銃弾が連射され、隣ではリーネが引き金を引いてはリロード、引き金を引いてはリロードを5回繰り返した。

彼女達の放った銃弾はまっすぐネウロイに向かって行く、そして芳佳が放った銃弾を上に飛んで避けたネウロイは、そのままリーネの放ったライフルの弾の直撃を受け、最後の五発目でコアを破壊されバラバラと砕け散った。

 

「「きゃあああ!!?」」

『うおっと!?』

 

 

その様子を遠くから見ていたミーナとエイラは安心してふうっと息を吐いた。

 

「リーネさん……出来たのね」

「へへ、あいつら中々やるじゃん」

 

 

「すごーい! やったねリネットさん!」

「やった! やったよ宮藤さん! ガロードさん! 私初めて皆の役にたてた!」

 

駆けよってきた芳佳を、リーネは喜びのあまり彼女に胸を圧しつけるように抱きついた。

 

「ふああああ!? リネットさん苦しい!?」

「二人のおかげよ! ありがとう!」

『なあに、俺達はアドバイスしただけさ、あとはお前の力だよ』

「それでもありがとう! あはははは!」

 

 

 

こうしてリーネはこの日、芳佳やガロードの助力を得てウィッチとして初めての戦果をあげた……。

 

 

 

次の日、501基地の廊下にて……。

 

「芳佳ちゃんガロード君、おはよー」

「おはようリーネちゃーん」

 

リーネは廊下で会った芳佳とガロードに朗らかな顔で挨拶する、そしてその様子を美緒とミーナは少し離れた場所で優しく見守っていた。

 

「どうやらミーナさん、宮藤さんと仲良くなれたみたいね、名前で呼び合うなんて……」

「ふ、まあ仲良くなることはいいことだ、戦場で背中を預けられるのは信頼し合う者同士のほうがいいしな」

 

 

その時、リーネと話していた芳佳は彼女のある変化に気付き話しかける。

 

「ん? リーネちゃんリボンの柄変えたの?」

「う、うん、似合うかなガロード君……」

 

リーネはそう言ってガロードの方を向く、何となく表情に照れが混じっていた。

対してガロードはそっけなく答える。

 

「似合うんじゃないの? にしてもなんでリボン変えたの?」

「そ、それはその……」

 

ガロードの問いに、リーネは何故か顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「……仲良くなりすぎるのも考えものね、これからどうなることやら……」

「あっはっはっは! まあいいじゃないか!」

 

美緒とミーナはリーネのガロードに対する感情の変化に気付き、彼女の予想外の変化に色々な思いを抱いていた……。

 

説明
リーネがメインの第二話です。
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