日々、徒然と
[全1ページ]

 昼過ぎの台所は、賑やかで明るい声に溢れていた。

「桐、それ何の形なの?」

「ビスケットー!」

 えへへ、と満面の笑みで手に持ったものを薄蛍に見せる桐。釣られて薄蛍も笑ってしまう。

「今作ってるのビスケットじゃないのよ」

「賑やかだな」

 台所から聞こえる声が気になって、のぞき込んできたのは利剱だった。

「あー利剱だー」

 わーいと声を上げて、利剱に桐と桜は駆け寄る。

「こら、桐、桜!」

「構わないが」

「でもズボンが……」

 利剱のスボンには、可愛らしい白い手形がうっすらとついている。

「今、パンを作っていたので」

「ああ、その粉か」

 台所にある台の上は、見事に粉まみれで様々な形のパンが並んでいた。

「遊び感覚で作れると聞いたので作っていたのですが」

「りけんー、泥遊びしてたのー」

「そうか。楽しかったか?」

『うんっ!』

 利剱の問いかけに、二人は満面の笑みで答えた。妖人であっても、幼子なのだと実感できる。無邪気で無垢だ。

「利剱様、お着替えは……それともお風呂にしますか?」

「もう沸いているのか」

「はい。桐と桜が粉まみれになると思いましたので、今日は早めに準備をしたんです」

「では俺も入るとするか」

「りけんも一緒に入るのー?」

 きゃーと嬉しそうに騒ぎ始める桐と桜に、薄蛍は慌てた。

「利剱様」

「俺も汚れたことだしな」

 言われて、利剱を見渡すと、小麦粉の粉はズボン以外の場所にも付着していて、利剱の顔を触ったのか、肌にも粉がついていた。

「ただまだ時間が時間だ。櫛松さんに伝言は頼めるか?」

「あ、はいっ。お着替えは」

「風呂上がりのいつもの服で頼む」

「わかりました」

 賑やかにしゃべる桐と桜を連れて、利剱は台所を去っていった。一人残されて、薄蛍は簡単に台所を片づけ終えて、櫛松の元へと走るのだった。

 

 誰もいなくなった台所に、ふふふと笑いながら足を踏み入れたのは鬼灯と雪洞だった。

「磨きがかかってますわね、雪洞」

「そうね、仲がよくてまるで新婚さんですわね、鬼灯」

「そうだね」

 突然背後から聞こえた声に、二人は驚いて振り返ると、そこには櫛松の姿があった。

「さきほど薄蛍が櫛松のところに行ったはずですのに」

「あァそこで会ったよ」

 慌てながらも嬉しそうに走っていく薄蛍。

 いつかは巣立っていくとはわかっていても。

 娘が成長していくかのように感じてしまう櫛松だった。

 

説明
おとめ妖怪ざくろ、利剱×薄蛍。この二人の夫婦っぷりに惚れた……! 初書きでございます。(2010/11up)
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1113 1113 0
タグ
おとめ妖怪ざくろ 利剱 薄蛍   

magaminarumiさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com