戦の狼煙
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 まだ薄暗い空の下、朝日が登ろうとしていた。山並みが太陽の光に照らされて入るが、まだ辺りは闇に包まれているに等しい。

 それでも朝方とあって、手に桑を持ち畑を耕す農民や鳥の囀りが時折聞こえた。

「おはようございます、片倉様!」

「ああ」

 農道を歩く農民たちに挨拶をするのは、奥州伊達軍の竜の右目と呼ばれる片倉小十郎だった。刀ではなく桑に持ち替えて土を耕す。今日はようやく人参を収穫することができた。次は何を植えるかと考えていた最中、妙な気配を感じて桑を地面に置いた。

「誰だ」

「いやーさすが、片倉の旦那、気配を隠しきれないね」

 木々の中から姿を現したのは、真田忍隊の長である佐助だった。

「わずかな気配だけを出しておいて何いってやがる」

「怒らない怒らないっと。用事があってきたんだからさ」

 飄々とした口調の佐助に、小十郎は警戒心を怠ることはしない。相手は忍びだ、必ず何かある。

「野菜ほしいんだけど」

「……あぁ?」

 予想外すぎる佐助の言葉に、小十郎の態度がヤクザのように荒々しくなる。

「旦那の野菜は旨いって聞いたからさ」

「なんでてめぇにやらなきゃならんのだ」

「それに栄養もあるだろ」

「当たり前だ」

 妙なことを聞いてくる。何を探ろうとしているのか、真意が見えない。甲斐の虎は何を欲しているのか。

「いずれは知る所だろうから、言っておく」

 不意に佐助の気配が変化する。冷徹な忍びとしての空気を肌で感じた。

「親方様の容態が芳しくない」

 小十郎の目が驚きによって見開かれる。あの甲斐の勇猛な虎が不調だというのか。

「嘘か真かは旦那の判断に任せる。いずれにしても多方面に知られることとなる。そうなると」

「勢力図が激変するな」

 全国に名立たる武将が点在し、現在も戦は起こっている。誰か一人でも倒れれば、その隙を突いて攻めてくることもあり得る。絶好の機会を逃すことはしないだろう。

「それをなぜ俺に言う?」

「奥州は手負いの虎を食おうとはしないと思ったからさ。それに」

 頬を掻きながら、徐々に明るくなってきた空を眺めて呟く。

「真田の旦那がどうなるかもわからないからな。親方様が不調であることに不安を抱えている」

「そうだろうな」

 武田信玄と真田幸村の主従関係は強固であり、強い絆で結ばれているようにしか誰の目から見ても明らかだった。

 その虎が不調となると、幸村の心労は多大なものとなっているだろう。

「牙の失われた虎を伊達の旦那は……」

「政宗様は興味ももたれないだろうな」

「だから伝えた、それだけのことさ」

 有益ともいうべき情報ではあった。勢力図が変化しようとする前に、準備をすることができる。

「礼は言わん」

「だから野菜くれって」

 ほらっ、と手と手を合わせて皿のような形を作る。

「本気の虎と戦いたいだろ?」

「……」

 確かにそれは政宗が望むところだ。弱体化した相手を倒したいとは思わないだろう。

「ほらよ」

「えー」

 渡されたのは人参が三本、あまりの少なさに佐助は不服そうに頬を膨らませた。この忍びはどこまで相手を小馬鹿にするのか。

「もう少しくれよ、旦那〜」

「甲斐の虎だけに食わせるなら十分すぎるだろうが」

「俺の分は……ごめんなさい」

 小十郎から放たれる殺気に、佐助は口を閉じてその場を音もなく去っていった。

「伝えねばな」

 嘘か真かはわからない。だが甲斐の忍びが奥州にわざわざきてまで伝えてきた。何かある。

 地面に置かれた桑を片付け、側に置いておいた刀に手を伸ばした。

 

 

 竜の右目の眼光に光が宿る。

 

 

 

 今日もまた戦国の世に身を投じるのだ。

 

説明
戦国BASARA、片倉小十郎と佐助の小話。畑を耕していたところに佐助がやってきて……。初書きになります。
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戦国BASARA 片倉小十郎 猿飛佐助 野菜 

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