双子物語-21話-
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〜夏休み編

 

 夏休みには寮が一時閉鎖され、よほどの事情がない限り帰郷しなくてはいけなくなり

感情に任せて家から出た身としては彩菜に会うことが少し怖くなっていた。

 臆病風に吹かれていたときに、少しだけ仲良くなった美沙先輩が半ば強引に

私の家を見たいとついていくことになった。だが、逆にそれがよかったのやもしれない。

一人でいるとどうしても考えなくても良い方向に考えるかもしれない。そうなると、

家に帰ることが精神的に困難になる。そんな思考を寄せ付けないようにしてくれてるのか

普段よりテンション高めの先輩のトークが私の迷いを打ち消してくれている。

 そんなやりとりを新幹線の中でしていると、客の中で見知った顔が私と合わせる。

私のほうは白髪のなりをしていたからわかりやすかったのだろう。一見地味な幼馴染の

顔も私はすぐにわかった。

 

「久しぶり、雪乃ちゃん」

「あっ、うん。大地君、ちょっとみない間に体逞しくなってるね」

 

 一瞬戸惑いながらも握手をすると、中学時代のことを思い出し。少しずつ話が

弾んでくる。ちょうど、客もいないし私の正面に彼は座る。どうやら野球の全国試合の

予選で敗退したらしく、帰る時期とぶつかったみたいだ。よくみると同じくらいの

年頃の男子があちこちに座っている。そして、大地君は相変わらず美人に弱いらしくて

私の隣に座っていた美沙先輩に色目を使っていた。

 

「誰この美人さん」

「学校の先輩」

 

 苦笑しながら簡単に説明をすると、先輩の腕が私の首本に絡みつき先輩の胸元まで

引き寄せられる。頭部に接触した胸の部分が柔らかくて瞬間的にドキッとした。

 

「黒田美沙です。この通り、澤田雪乃さんLOVEです」

「は、はぁ…」

 

 圧倒されている大地君。私は力を入れて先輩の腕から抜け出ると先輩に抗議する。

私にその気がないことを大地君の誤解を解かないと後々面倒なことになるからだ。

その私の必死さが何故か先輩の機嫌を損ねてしまい、先輩は窓の外を見やっていた。

 何とか大地君の脳裏に浮かんだ私と先輩の関係の勘違いを解決した後は先輩の

ご機嫌取りをしながら、我ながら何をやっているのかと自分自身に苦笑していた。

 

「大地君はただの幼馴染なんですよ」

 

 あまりに、大地君に脈がないことを言うと大地君は軽く凹んだらしく軽く俯いていた。

すると、先輩の方が若干震えてることに気づく。「あっ」そこで私は気づいた。

 遊ばれていたことに。

 

「ふっ…ふふふっ…」

「先輩…」

 

 笑いを堪えきれずに遂に声が漏れてしまい、私は後ろ向きになっている先輩をジト目で

睨むと振り返った先輩は目に涙を浮かべながら両手で口を押さえていた。大地君は先輩と

出会ったことでとんだ災難を受けたものである。

 

「はぁ…二人とも面白い」

「…」

「ほらっ、先輩のせいで大地君落ち込んでるじゃないですか」

 

「あらっ、それは必要以上に雪乃ちゃんが拒むからじゃない?」

 

 まぁ、確かにそうかもしれないけど。だが、嘘を言っても誰の為にもならないし。

大地君だって仮に私に好かれたとしても嬉しくは無いだろう。しかし、そうだとしたら

この軽く凹んでいる意味がわからないことになるが。それはそれ、思春期の男の子の

複雑な心境ってことで片付けることにした。

 

「大地君とはそういう関係になりえませんし」

「がーんっ」

「はぁっ…雪乃ちゃんにも鈍い所があるものねぇ」

 

「失礼なっ」

 

 そんなくだらない話を続けているうちに目的の駅に着いた。ここは私が一度

彩菜との関係に一区切りつける気持ちが強かった場所。今ではその傷も徐々に

和らいでいる気がする。ただ、しばらく会ってないってだけで少し緊張も

するんだけど。

 携帯でのやりとりではお母さんとでしかしていない。学校の子たちにも

すぐ会えるからほとんどこれは使用していないのだが。

 降りてから少し辺りを見てしんみりしていると後からうなだれた大地君が

降りてきた。先輩はこの地は始めてだから遠足を楽しみにしている子供みたいに

そわそわしている。大人っぽい外見でラフなスタイルの割には良い意味で

子供っぽさが垣間見える。良い意味でっていうのはいつでも何でも楽しめることだ。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 私が先に歩き出して先輩は嬉しそうに私の後ろについてきて、いきなり私の腕を先輩が

自分の腕と絡ませてきた。互いに袖がないので肌がくっつき合う。この暑苦しいときに

するものだから汗ばんで湿った肌が少し気持ち悪い。そして少し離れたところで大地君が

私たちを見ながら少し赤らめ地面に顔を向けながら歩いている。なにやっているんだ。

 

「私たち、こうしてるとカップルに見えないかな?」

「見えません」

 

「即答…」

 

 いつもよりテンションが高いせいかえらくベタベタくっついてくる先輩。少し鬱陶しい

が拗ねられると面倒なので軽く流す。知り合いに見られるのもなんか嫌なので少しずつ

見覚えのある場所まで歩いてくると先輩の絡まれた腕を振り解く。

 

「ちぇっ」

「先輩、子供じゃないんですから」

 

 呆れ気味に言うと先輩は大きな胸を張って威張って言う。

 

「私たち成人じゃないからまだ子供だよ!」

「…なんか屁理屈にしか聞こえませんが?」

「はははっ」

 

 学校で見かける「かっこよくてみんなの憧れる先輩」のイメージはもはや見る影もない。

それは私には心を許してくれていると捉えていいのだろうけど、いつもよりはしゃぎ

すぎている。注意しながら向かっていたせいか、我が家に近づいてきてもさっきまで

あった緊張がほどよく解れている。

 そして、少しの間しか別れていないのに、なんだかちょっとだけ大人びて見える

彩菜の姿を確認した。少し動きが固まった私の腕を掴んで先輩が引っ張っていく。

 

「こんにちわー」

「えっ…誰?」

 

 どんどん進んでいって引きずられるように家の前まで来ると先輩が彩菜に声を

かけて驚く彩菜。それはそうだ、先輩の情報は帰宅する今日まで報告していないし、

彩菜には会うまで連絡を取ることすら禁止していたから。目を真ん丸くしていた

彩菜は先輩の後ろにいた私を見て更に驚いていた。本当に目の前にいる私が

本物だとは信じられないというような顔で。徐々に、嬉しさが滲み出てくる。

 以前、私を襲った彼女とは様子が違っていた。

 

「雪乃…」

「彩菜…」

「おかえり」

「ただいま」

 

 今までずっと一緒だったのに少し会えなくても会うとこんなに嬉しくなるとは

思わなかった。いつの間にか先輩は引っ張っていた私から離れていて動きが固まる

私たち。徐々に戻る緊張感。だけど、その瞬間。彩菜は私を優しく抱いて引き寄せた。

 

「ほんとによかった…」

 

 

 彩菜が私をそっと解放してくれてからみんなで玄関の扉を開けて中に入る。

なんだか久しぶりな感じだ。この空気も、そしてパタパタと駆けてくる音も。

大地君が空気みたいな存在になっていることも…。

 

「おかえりー!」

 

 メールでのやりとりはしていたけど、その姿は相変わらずな母に私は自然に笑みが

出た。本当にどこも変わらず、年齢の割に若い…。

 

「ただいま、お母さん」

「えっ、おかあっ…。お姉さんじゃなくて!?」

「あらっ、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

 そして、いつも以上にテンション高くキャピキャピしている母。見た目が若いだけに

妙に似合ってるのが娘として怖い。母は私にドヤッと言わんばかりに胸を張り、

私のために気合を入れて料理を作ってくれたらしい。それを聞いて反応が二分した。

 怯えまくる二人と喜ぶ二人。もちろん、前者は彩菜と大地くん。後者は私と先輩だ。

先輩は母がどんな料理をするかわからないだけに好奇心のみで喜んでいるのだ。

そのワクワクも案内された先で絶望の表情と変わった。当然、母は作り過ぎている

ことを私は予想できていたから私は平然としていた。

 全10種類以上の料理が山のように積み重なっているのだ。並の人なら吐き気も

出ることだろう。しかし、これでも多くないかもしれない。何せ今日はみんなが

集まる日だから。

 

「いやぁ、サブちゃんたちも手伝ってくれてね。みんなに振舞おうと思って」

「恐縮です…」

 

 いつの間にか母の背後で私たち4人にお辞儀をしているサブちゃん。見た目の

いかつさから先輩が軽く悲鳴をあげていた。内面の優しさは接しているうちに

なれるだろうから、と私は先輩をフォローすることはなかった。

 今はサブちゃんとサブちゃんの部下さんたちしかいないけど、もうすぐここは

親しい人たちで集まるのだろう。私の帰宅祝いと称して呑みに来る人もいそうだ。

幸い、来る人は家が近い人と。遠くてもある程度なら自宅に泊めるくらいのスペースは

詰め込めばある。もちろん、先輩の部屋を入れても。

 

「じゃあ、雪乃。先輩さんを部屋に案内してあげて」

「うん、わかった」

 

 いつもの言葉遣いに戻ると先輩はなんだか嬉しそうににやける。何なのだ一体。

そんな先輩を無視して部屋に案内する。中は和室で畳の匂いが充満していた。

そうか、張替えしてたのかと思い横になりたい衝動を抑える。が、先輩は遠慮なしに

転がって私を誘ってきた。

 

「おいでおいで」

「…」

 

 悔しいけど、少し疲れていたから横になりたかった。エアコンがほどよく効いていて

気持ちよかったから尚更だ。私はせめてもの反抗で先輩から離れた位置で横になる。

あぁっ、畳の香りに包まれながらちょうどいい温度管理の中で目を瞑るとまるで

中に浮いたように体がふわふわしている感覚がして気持ちがいい。このまま寝て

しまいそうだった。というより、徐々に意識が遠ざかり文字通りに私は寝てしまった。

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 どのくらい眠っていたのだろう。彩菜にそっと起こされた私は上半身を起こして少し

呆けているとおなかがすいていたことを思い出した。外が少し賑やかになっているが、

時計を見るとそんなには経っていないようだ。少し寝ていたせいか体が気持ち楽になった

気がする。

 彩菜と共にお客さん用の少し広めな部屋に行くと懐かしい顔ぶれとあまり見たことない

人もいた。はて、あの子は誰だったかな。その、見知らぬ子が近づいてくると呆けている

私の額をデコピンしてきた。地味に痛い。

 

「何、初対面みたいなことを考えてる顔してるのよ…!」

「ほぇ…?」

「春花よ、春花!」

「え、えぇぇ。あの春花?」

 

 その子は自分に指を向け盛大にアピールしていた。確かに春花な気がしなくもないけど

3年間も会ってないとこんなに印象が変わるものだろうか。彼女はすっかり明るい雰囲気

に包まれていたのだ。それまでは非常に暗い気を背負っていたような気がしたが。

 

「まぁ、私もさすがにあなたのそれを見て少しびっくりしたけど…」

「それ…?ああっ、髪?」

 

 言われて思い浮かぶのは彩菜に襲われてショックを受けた私は髪をばっさり切り

落としたのだった。今はそれでもちょっとだけ長くなったのだが、傍目から見ても

まだ大分ショートらしい。

 

「それに、あんたがいなくても別に寂しくなかったんだから…」

「ああっ、そのツンデレ具合はやっぱり春花ね〜」

「どこで区別してるのさっ…!」

 

 すると、春花の隣に彩菜がくっついた。その様子から察するに、彩菜が大人しくなった

理由がなんとなくわかった気がする。私は胸の内で密かに春花に祝福をした。

 

 私の視線に気づいた春花は苦笑しながら嬉しい報告と哀しい報告を私にしてきた。

 

「雪乃は上手くいったかと思っているようだけど、素直に喜べない事情もあるのよね」

「えっ?」

 

 彩菜は別の来客の方へ早々と歩き出して馬鹿笑いしていた。そんな中、ちょっと

切なそうに顔を赤くしている彼女を見ていると、なんか青春してるなぁと羨ましくも

微笑ましい空気を発している。

 

「確かに彩菜とは付き合えるようになりました。だけど、あの子。私じゃなくても

よさそうだったのよね。その前には誰とでも付き合ってたようだし」

「はい?」

 

 某サスペンス長編シリーズの刑事二人の主人公の発音のように疑問を発する私。

それは意外すぎる報告だった。彩菜がそんな軽いことをするとは思えなかったからだ。

しかし、そうなる原因に私は何となく気づいていただけに少し罪悪感を覚える。

 

「しかも私、貴方の代わりかもしれないからね」

 

 自傷気味に微笑む春花を痛々しくて見ていられません。私は心の中で謝ってしまう。

いや、実際に謝っていたかもしれない。だって、春花の表情が少し慌てていたから

無意識のうちに動いていたのかも。

 

「でも、前から気づいていたし。彩菜の熱い眼差しの向こうにはいつも雪乃がいたから」

「恥ずかしい台詞…」

「うぉい」

 

 春花のツッコミにどう反応すればいいのかわからずにいると春花はカラッとした笑顔

でもう一度私の鳩尾にツッコミを入れる。今度は強めだったせいか少しむせた。

 

「だから言ったでしょ。前から知っていた上で彩菜と付き合うことになったんだって」

「それでいいの?」

 

「良いに決まってるじゃない。結果、私は一緒にいられるんだから」

「いい女になったね」

 

「な、なに。いきなり」

 

 驚きながらも照れくさそうにする春花を見て本当に良い方向に変われたのかと安心した。

だけど彼女がよくても私の腹の虫が収まらなかったから、彩菜の横を通りすぎるついでに

強めに頭を叩いておいた。

 

 まるでミニバイキング形式。そんな並んでいる料理たちを皿に盛ってから、

賑わっているおじいちゃんとこに歩みよる。昔酔いすぎて酷い目にあったことを

反省してかほろ酔い程度に呑んでいた。近くには部下さんたち数人とサブちゃんが

私を見て微笑んでくれた。

 

「お久しぶりです」

「雪乃ちゃんのおじいちゃんたち面白いわね〜」

「もう順応している…」

 

 おじいちゃんの反応を見る前に先輩が朗らかにして部下さんたちと話をしていた。

部下さんたちの何人かは顔を赤くしながら先輩を見ているのがちらほら…。意外とウブだ。

 

「おおっ、雪乃。こっちゃこい」

「もう、お酒。ほどほどにしてね」

「わかっとるよ…。菜々子も怖いしの」

「あははっ」

 

 どうやら恐怖すら植えつけてあったみたい。強面のおじいちゃんが背中を丸くして

怯えてる様が何か可愛かった。どこの状況を見ても変わらず平和そうでよかった。

山盛りだった皿も空になったとき、入り口から物音が聞こえた。どうやら新しい客人

がいらしたようだ。私はゆっくりと立ち上がり、盛り上がっている県先生、お母さん、

彩菜の隣を通り過ぎて玄関まで迎えるとそこには見知った人が立っていた。

 何となく気まずい空気が流れる。

 

「お邪魔します」

「あれっ、雪乃ちゃん。綺麗になったねー」

 

 メガネをかけた田之上さんとロリコン気味の金城さんのやはり変わらない感じがした。

なのに何だか不思議な気分だった。今でも好きな度合いが変わらない気がするけど

落ち着いている自分がいるのを感じた。

 

「いらっしゃい。せっかくだから盛り上がっていってください」

「久しぶり〜」

「金城さんはキモいので早く行ってください」

「くはっ、久しぶりにあったのに。この言われよう…」

 

 私の言いたいことが通じたのか、話し辛そうにしている田之上さんの顔を見て気づいた

のか、金城さんは中の方へ入っていった。でもそうしたところで話し相手がいないのを

わかっている私は意地悪だなと思った。

 

「あの…」

「はい?」

 

 田之上さんから言葉が詰まりながらも何か考えてから言葉を出すようにしている

ようなのを見て、私は言葉を促した。

 

「なんですか?」

「また…いつかアシスタントしてくれるかな?」

「…」

 

 私も彼に向かって少し考える素振りをした。その間につかの間の緊張感を味わって

もらいたかった。私の答えはまだはっきりとはわからないが、どう答えればいいかは

一つしかない。

 

「無理ですよ」

「そうか…そうだよね」

「そうですよ。私の高校は遠いからいちいち手伝いに行けません」

「えっ…」

 

 一度、俯く田之上さんは私の次の言葉に少し驚いた様子で見上げる。私は少し顔を

田之上さんから背けながら呟いた。

 

「ここ3年間はガマンしてください」

「ああっ、そうするよ」

 

 おそらく田之上さんは私の気持ちに気づいても気づかなくても結果は同じなんだと

思う。だから私もいつかはお互い同じ気持ちの上で楽しくいられたらいいと思った。

手を伸ばして彼の手を握った後はみんなのいる間に案内するのが今の私の仕事だ。

 

 飲み食べに話に華が咲いた本日の宴会は外も暗くなったところでお開きとなった。

県先生とも今まで会えなかった分いっぱい喋って、普段あまり話さない私は少し

疲れてしまったようで、足元があまり安定していなかった。

 

「おっと、危ない」

「先輩、すみません」

「いやいや、もっとくっついていいんだよ。なぜなら、良い匂いがするから」

「…! さっきまでの立派な先輩はどこに行ったんでしょうかね…!」

 

 先輩に肩を貸してもらい、2階へ昇りながらいつものように話し合う私と先輩。

それを見ていた彩菜は不思議そうに私たちを見つめていた。

 

「こんなに自分をさらけ出すなんて、先輩さんやりますね」

「へっ?」

 

 支えられながら私は変な声を上げる。さらけ出す?そんなつもりは微塵もなかった。

いつものように振舞っていただけだ。それなのに、彩菜は嬉しそうな、切なそうな

複雑な表情をしていた。

 

「雪乃は気づいていないのかな。今の姿は私たち家族らにしか見せない顔だよ」

「!?」

「へぇっ、じゃあ私は雪乃ちゃんに認められたってことかな?」

 

 何を言っているのか。私はこんな変態な先輩には心を許すわけがない。そう

思いたかったのだけど、言われてみると部分部分に本性が混じっていた気がした。

それは、先輩を私のラインの内側に入れてしまったということ。田之上さんより先に。

 

「私は認めません…!」

 

 こんな先輩。見た目ばかりかっこよくて中身が幼いこんな先輩なんかには。

そう思い込みたがったのに思えば思うほど胸の内側の反応が激しくなる。顔が熱くなって

私は力を振り絞って先輩から離れた。そして、先輩に振り返って思い切り舌を出した。

 

「おやすみなさい!」

 

 そうして、私は自分の部屋に入って鍵を閉めた。静かで真っ暗な部屋の中で私の息と

鼓動だけが聞こえていた。何なのだろう、家族とも、田之上さんとも違うこの感覚は。

今まであまり感じたことのない、なんて表現するのだろうコレは。

 考えるだけで苦しいので私はベッドに倒れこんで布団を被って目を瞑った。

もうすぐ寝付けると思ったとき、着替えることを忘れていたことを思い出した瞬間に

睡魔によって意識が落ちていった。

 

** ***

 

 雪乃が慌てて部屋に入った後、私と先輩さんは少し気まずい沈黙を作ってしまった。

まさか、あんなに動揺するとは思わなかった。私は苦笑しながら先輩さんの横を通ろうと

したら腕を掴まれた。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 不敵な笑みに私は立ち止まり先輩さんと目を合わせる。何か企んでいる感じはしないが

なんだか変な気分になる。

 

「なんですか?」

 

 先輩さんは笑みを崩さずに一言だけ呟いた。その言葉に私は驚きを隠せなかった。

 

説明
過去作より。高校入って初の夏休みに入った雪乃。先輩も連れての帰郷と、彩菜との再会で愛されまくってどうなることやら。
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