うそつきはどろぼうのはじまり 3
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時の流れとは早いもので、世界を駆け巡ったあの旅から五年が経とうとしていた。

エリーゼは今年十七。俗に言う、適齢期を迎えていた。級友の多くが貴族階級に属しているだけに、既に婚約者がいる者も少なくない。誰彼が、長年の付き合いの末、貴族の子息と結納を交わした、などという噂もちらほら耳にするくらいだ。

エリーゼはそういった色恋沙汰とは無縁であった。これは彼女の友人一同が不思議がることなのであるが、男の影がまるでなかったのである。

これで顔の造作が不恰好であるとか、性格に難ありであるとか、何かしらの欠点があるならまだ納得できる。だがことエリーゼに至っては、難癖つける箇所を探す方が難しい。

柔らかく光る、落ち着いた色合いの金の髪。妙齢の女性らしく、肩より少し下まで伸ばされていて、彼女の挙動にあわせ愛らしく揺れる。

緑の瞳は、それまでの数奇な運命を物語るかのように、少しばかり憂いを帯びていた。だが湛える光は常に輝いており、見る者に並々ならぬ芯の強さを訴えかける。

その意志の強固さは表向きだけのことではない。それは彼女と少し話せばすぐに分かることであった。エリーゼは、その外見からは想像できないほど生存術に秀でており、決して守られるだけのか弱い少女ではないことを、名実共に示してみせるのだった。

確かにエリーゼに身寄りはない。体面を気にする貴族からは、倦厭されても致し方ない要因ではある。

だが彼女の後見人として、その身分を保証しているのは、あの六家の一つ、シャール家の領主なのである。名門中の名門がお墨付きを与えているにもかかわらず、身寄りのなさをとやかくいうのは、それこそシャール家に対する冒涜だ。

輝くばかりの美少女で、且つ大貴族の後ろ盾を持つエリーゼのことである。当然、言い寄る男は後を絶たず、また子息の両親からも引く手数多であることは間違いない。それなのに今日に至るまで、浮き名の一つも流れてこないのである。

近しい友人達が首を傾げるのも当たり前であった。

「本当、不思議よね。あれだけの美人なのに、お相手がいないなんて」

「どなたか紹介しましょうかって、声を掛けたこともあったけど、笑って断られてしまったわ」

誰か、意中の相手でもいるのかしらね、と噂する少女達の視線の先には、窓を見上げるエリーゼがいる。彼女は青い空の中に、待ちわびた姿が見えはしないかと、事あるごとに晴天を眺めているのだった。

手紙では、カラハ・シャールに立ち寄る、とあった。伝書鳩によって齎された短い書簡に、予定として書かれていた日付が今日だったのである。

エリーゼは、この日をどんなに待ち詫びていたことか。

授業が終わるや否や、少女は校舎を飛び出した。裾を乱して走りこそしなかったものの、寄り道もせず、真っ直ぐ屋敷に戻る。

「ただいま戻りました。――お客様は?」

玄関に駆け込むなり、少女は近くにいた侍女に尋ねた。

「いいえ、まだお越しになっておりません」

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うそつきはどろぼうのはじまり 3
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