魔理沙の天使騒動 (没)
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 霧雨魔理沙はとても弱い。

 

 体は妖怪に比べるべくも無く、魔力は魔法使い中最も低い。技も人の身なりのレベルでしかなく、心もじっくり耐え抜く強さを持たない。このように、どの要素を見てもトップクラスとはかけ離れているのだから、本来であれば幻想郷で戦闘行為を行い得るキャラクターではないのだ。

 しかし現実に、霧雨魔理沙は幻想郷でも有数の存在となっている。最強レベルの妖怪にも一目を置かれ、神様とさえ戦い得る能力を手に入れている。

 

 そもそも、霧雨魔理沙は人間なのだ。

 

 同じ人間でも博霊の巫女のように存在として別格というわけでもなく、紅魔館のメイドのように能力が極めて特殊というわけでもない。ただ、魔法を使う程度の能力を持つだけである。普通の魔法使いなのである。

 

 では、何故そのような者が妖怪たちと拮抗しうるのか。

 

 それも低いレベルの妖怪など相手にならないほどのレベルで、である。

 

 種を明かしてしまえば難しいことではない。古来より、天才に抗うは秀才と相場が決まっているではないか。

 

 そう彼女は、偉大なる彼女は。

 

 

 人よりも勤勉で努力家で、本当に、

 

 

 ――――負けることが大嫌いなのだ。

 

 

 

 

 

「たたたたた。ま〜た負けちまった」

「懲りないわね、本当に。いい加減疲れるんだけど」

「邪険に扱われると歯向かいたくなる性分なんだ」

「どんなものにも歯向かっているように見えるわ」

「人を天邪鬼みたいに言うなよ」

「そのままじゃない」

「違うぜ。私はいつも戦っているだけなのさ」

「じゃあ、私と戦るこだわりってのはないのね」

「いや、定期的に霊夢と戦うのは必須だぜ」

「何でよ」

「倒したいからだ。私が倒すまで戦いは続くのさ」

「負けていい?」

「その時は神社ごとマスタースパークだ」

「やめとくわ」

「また戦ろうぜ」

「考えとく」

「じゃあな」

 

 言うが早いか、魔理沙はいつもの箒にまたがると、物凄いスピードで飛び出していった。

 

「負けた直後にすっ飛んでいくなんて、どういう体力してるのよ……」

 

 呆れ半分で呟く霊夢だったが、魔理沙の実情とは異なっていた。

 戦い始めは牽制のお札を避け続けるためにグレイズを続けていたのだけれど、途中であと少しの踏み込みを得るためにミリ単位でかすらせる戦略を採ったのだ。おかげで傷や火傷が体中に出来てしまっている。魔理沙は対霊夢用の加工をした服を着用してはいたのだけれど、ほぼ素通しの威力だったということになるのだろう。

 

「まだまだ研究が足りないか……」

 

 さらにはお得意の必中ボムを喰らい続けたため、耐久力、体力共に激減。かろうじていくつかのスペルカードをヒットさせることが出来たが、その内訳が喰らいボム三つと相打ちが一つでは締まらない。魔理沙が攻撃を直撃させて勝利、という局面は終に訪れなかった。

 それもいつものことである。

 

「今なら妖精にだって勝てやしないだろうな……」

 

 戦闘が終わり次第、会話を打ち切り勢いをつけて一気に飛び出したのは、元気な姿を霊夢に見せ付けたかったからだ。まだまだやれると思わせておかなければ、次は手を抜かれるかもしれない。ボロボロにした相手に何度も本気を出してくれるほど、霊夢は甘くない。だから最後の力を振り絞って、できる限りの最高速度を出してやったのだ。

 

 しかしこれは、限界までマラソンをして、直後にダッシュをかけるようなものである。

 

 持つわけがない。

 

 ただ、魔理沙は知っていた。霊夢は魔理沙が飛び立てば、直ぐに自分の仕事に戻るのだ。平等な巫女は、去るものに興味を示さない。力を振り絞るのはほんの一瞬でいい、ということを知っていた。

『いつものスピードが一瞬だけ出ればいい』

 幻想郷最速を名乗ってたのは伊達ではないのだ。その一瞬だけでも、視界に捕らえ難い程度の距離をとることくらいは容易く出来る。ならば万が一、今の満身創痍な姿を見られようとも、状態を悟られることはない。後は出来る限りの速度で我が家を目指すのみである。

 

 しかし、

 

「これは、やられすぎたかな……」

 

 魔理沙が『たどりつけるのか?』と思った頃には、すでに高度が下がりつつあった。それでも耐えて耐えて、やっとの思いで森まできたところ。

 

 気が緩んだのだろうか。

 

 入り口に一番近い木へと向かって、ゆっくりと、さらに高度を下げていった――――

 

 

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 ベキベキッ――――という音とともに堕ちてきたのは黒い天使だった。

 

 少なくとも、男にはそう見えてしまった。

 

 それはただ白いエプロンが上手い具合に二つに千切れて、あたかも翼のように舞っていたからなのだが、事実は時に無意味なものである。その性格や態度からか、あまり言及されることはないが、霧雨魔理沙がとても美しい少女であることも災いした。

 金髪でふわふわな髪の毛や活発さに似合わない白い肌、精魂込めて整えられた人形のようでもある顔のつくりと、日々の努力で勝ち取った体型。自らの符に『恋』と名付けるような、隠しているつもりの少女らしさを、そのまま外面にも体現しているのだ。

 

『天から天使様が降りてきなすったぞ』

 

 はたして、幻想郷にもキリスト教は伝わっていた。

 

 こうして勘違いのままに物事は加速して、魔理沙が寝込んだ三日のうちにはもう取り返しのつかないところまで話は進んでしまった。阿求や慧音の元に話が来たのは魔理沙が目を覚ます直前のことで、噂を聞いて駆けつけた時には流石の二人も頭を抱える事態となっていた。

 

 つまりは、

 

「私のことを知っているとお聞き致しました。このように床に伏せたままで申し訳ないのですが、どうか私のことをお教え願いたく……」

 

 記憶が、飛んでしまったのだ。

説明
魔理沙が霧雨の家で歪まなかったら?という考えから、
生まれつつあったお話です。

没ネタです。
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