嫁げば都のコスモス荘
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「到着〜〜。茶畑ノ原〜〜。茶畑野原〜〜。」

 

 

『さお〜〜ゃ〜〜さぉだけ〜』と叫ぶ竿竹屋を、かなり事務的にしたような車掌の裏声が車内に響く。

そんな車掌の声に見送られ、ひと組みの男女が並んで車両からホームへ降りる。

 

 

「はぁ……、やっと到着かよ。なんで静岡駅から数十キロの場所なのに2時間近くも掛かるんだよ、鈴雄」

「そ、そんな事、僕に言われても知るわけないだろう」

 

 髪を掻きむさる紫髮の女の言葉に、不満げな表情を見せながら返事をする男は。

 身長、体重とも平均に近い「下」、顔のほうは愛嬌が有るともいえるし、締りが無い「ボケ」顔とも言える、まあ、これも平均に近い「下」である。そして、最期に残った性格だが、これはその顔に劣らず、「ボケボケ」しており、明確に「下」である。

 

 対して、女のほうは。

 体重は平均に近いが、身長のほうが若干高めである。いやっ、隣に居る男よりは高いので、女性にしては若干というより「かなり」高めであるとも言えるかもしれない。顔のほうは、これはかなり「上」に属する物で、鋭い目つきが気になるが。後ろ縛りのポーニテルーと、白過ぎもせず、黒すぎもしない、健康的な肌と相成って、実に「爽快」なイメージ漂う美人である。そして、最期に残った性格だが…。

 

 

「しっーかし、冗談みたいに、なにもねえんだなー。お前の田舎」

 

 

 ……、隣に居る男の田舎を「冗談みたい」と言ってしまうような。

 これもまた実に「爽快」な性格である。

 

 

「悪かったな。どうせ、茶畑しかないよ、僕の田舎は」

 

 

 自分の田舎が、「冗談みたい」と評され。

 この人のよさそうで、人畜無害そうなボケ顔の男も、流石に腹にきたらしく憮然とした表情をするが。

 

 

「まあ、まあ、そんなに、怒るなよ、鈴雄」

「ちょっと、いたっ! いたいよ! 朝香」

 

 

 女に、肩をバシバシと叩かれて。

 すぐさま、元の情けない顔に戻る。 

 

 ……、先ほどの会話の中で、名前が出てしまったが。

 確認がてら、男と、女の名前を紹介する。

 

 

「……うーぅ、肩がヒリヒリする」

 

 

 肩を擦る男は、桜崎鈴雄。

 神奈川外れにある、中空町に住む、保父を目指す専門学校生(落第×1)である。

 

 

「なんだ、ちょっと、叩いたぐらいで。なさけないぞ、鈴雄」

 

 

 女は、野菊朝香。

 鈴雄と同じ、専門学校で保母を目指す学生だ。

 ちなみに、二人は住む場所も同じで…。

 

 あっ、いやっ、元ネタを知らない諸兄。そこで勝手に「同棲! =つまり、破廉恥な!」等と、盛り上がらないで欲しい。

 残念ながら、二人は『コスモス荘』というマンションに住む、「ご近所さん同士」という意味で、同じ場所に住んでいるのだ。

 

 諸兄の碌でもない期待を裏切ってすまない。

 

 

 とにかく。

 二人は、同じ専門学校に通う生徒同士で、ご近所さんという関係なのである。

 

 とはいえ、なぜ、そんな二人が。

 特に、タダのご近所さんである、朝香がこんな所。

 

 鈴雄の地元に、揃ってきているかというと。

 

 

「まあ、此処に、嫁に来るんだし。こんな何もない所を好きにならねえとなー」

 

 

 ……、ナレーション?より、先に朝香、本人が口にした通りの理由である。

 

 

「あ、朝香〜」

 

 

 朝香が口にした「嫁」との単語に、三流経済大学の三流学生が『リーマンショック』に対し、「どう考えるか」と訪ねられた時のような、情けない声を出す(ちなみに大方の答えは「大変だと思う」である、実に灰色な答えだ)。

 

 

「そろそろ、やめてよ。その性質の悪い冗談」

「なんだ、鈴雄。お前、俺が嫁になるのがいやだってか」

 

 

 「にしし」と笑う、朝香の表情に。

 鈴雄は、口を閉ざす。まったくもって止める気がないのが明らかだからだ。

 

 

「しょうがねーだろ、俺は「負けた」んだし」

 

 

 鈴雄が「性質が悪い」と思っている、その冗談は。

 朝香が、とある人物に「負けて」から始まった。

 

 

 それは、夏が冬に喧嘩を売って出来た。

 いやっ、上は、完璧に元ネタの借用になるのでやめて……。

 

 それは、夏が冬に喧嘩を売る前に、子分をけしかけて戦わせている季節。

 つまり、子分=秋の事だった。

 

 その子分(秋)が、親分である夏にから、『地球温暖化』っていう最強の鉄砲を渡され、奮戦している中。

 

 鈴雄の祖父である、桜咲次郎長が中空町に鈴雄を訪ねにやってきたのだ。

 わざわざ、静岡(鈴雄の田舎)から神奈川くだりまで、次郎長の出てきた目的は、孫である、鈴雄を静岡に戻し、実家の茶園を継がせる為であった(ちなみに、その発端は鈴雄の落第である)。

 

 ただ、それだけの事なら。

 鈴雄の将来と、家業を心配した。老人の「老婆心」とでもいう、よくある話なのではあるが。

 

 問題は、この祖父が只者ではないという事だ。

 そもそも、静岡生まれで『次郎長』という辺りで、只者ではない事が明らかで。更に、具体的な例を挙げると、熊に「ガンつけ」で勝利したことある朝香を、その眼力で黙らせ。ナイフを持った引っ手繰りを、得意の柔道で投げ飛ばし。宇宙レベルの催眠を、その頑なな意思で拒む。

 まさに、人であって、人でないような老人であった。

 

 カテゴリーとしては、『北斗の○』や『男○塾』に属するタイプだろう。

 

 そのような、祖父の「老婆心」、実態は「一睨み」によって。

 鈴雄のコスモス荘生活は、風前の灯。静岡への帰郷に直結しそうだったのだが。

 その、風前の灯火を何とかしようと立ち上がった者が数名いた。

 

「ドッコイダーとしてのバイトを続けさせるため(当時の、鈴雄は、宇宙の玩具メーカ『オタンコナス社』の開発したパワードスーツ『スットコドッコイ』のモニターであった※詳細は元ネタで)」

「仲良くなったご近所さんだから」

「鈴雄(さん、ちゃん、コーチ)を、実家に帰したくないから」

 

 

 それぞれの思惑の違いはあったが。

 共通していえる事は、立ち上がったのは女性ばかりであった事だ。

 

 そして。

 今、鈴雄の隣にいる朝香も。その女性達の一人であった。

 

 とはいえ、他の、女性陣が一様に。

 次郎長を脅かし、早々に静岡に引き返させるという手段を使用したの対し(彼女らの多くは、宇宙犯罪人で常人なら国外逃亡を図らんとするまで怯える、「戦闘ロボ」、「怪獣」「猛獣」を用い入れた)。

 

 朝香は、彼女らしいといえば彼女らしい手段をとった。

 次郎長相手に、「決闘」を申し込んだのだ。

 

 内容は。

 朝香が勝てば「鈴雄は実家に戻らず、次郎長は直ぐに静岡に戻る」

 そんなシンプルな内容であった。

 

 そして、結果も実にシンプル、数秒で決まり。人であらざる者の前に、朝香の身体は宙を舞った。

 

 朝香が弱かったわけではない。 

 強者同士の戦いは思ったより呆気ないもので、漫画みたいな前口上や、脇役キャラの説明も不要。最初の一手で「止め」を刺す。戦いは「速さ」である。漫画は「速さ」を、口でこそ尊重するが。実際は無視する。ほんとに、「速さ」を尊重するなら、数秒、数行で事足りるのだ。

 

 ……まあ、喧嘩もまともにした事がない素人の意見であるが。

 

 とはいえ、そんな二人の決闘直後。

 他の女性陣が、先に述べた手段と手法を用いて、次郎長を襲い。

 その後も、色々と有り(特に、次郎長が犯罪者の一人である栗三郎に酒で真実<中空町で、犯罪者とドッコイダーが戦っている事>を吐かせた)、次郎長は、鈴雄の滞在を認めた。

 

 

 そして、それから、月日がたち。

 最終決戦とも言える、『スイートピー騒動』が終わる。

 

 それと共に、鈴雄が『ドッコイダー』のモニターから外れ。

 朝香も、『ネルロイドガール』……、『ドッコイダー』のライバルパワードスーツのモニターを終え。

 

 全ての犯罪者達も宇宙に戻っていった。

 そして、地球に残った鈴雄と朝香は。あの騒がしい祭りのような、日々を懐かしむ事はあったが。

 

 二人の共通する夢「保母(父)」のため。

 代わり映えのない日常を、淡々と、だが、確実に歩み始めだしていた。

 

 まあ、淡々と言う割には。

 鈴雄が、傍若無人な朝香に絡まれ悲惨な目に合い過ぎていたが。

 そこは、まあ、別のお話……、面倒なので書かない。

 

 だが、今年の夏。

 鈴雄がアルコール中毒で、病院に運び込まれそうになった事を、はるかに凌駕する騒動が。

 盆休みが近くなった時に起こった。

 

 その騒動の元は、鈴雄の家に掛かった一本の電話だった。

 

 

「嫁を連れて、一回戻って来い」

「はっ?」

 

 

 次郎長の声だった。

 そして、何の脈絡もなく、次郎長の第一声はそれだった。

 

 当然、鈴雄の「ボケた」頭じゃ、理解できるはずも。

 頭と同じボケた、返事を返すしかなかったのだが。

 

 

「じいちゃん、ボケたか。僕には嫁はおろか、彼女すら……」

「「「「「「「「「喝!!!!!!!」」」」」」」」」

 

 

 「いないぞ」っと、続ける前に。

 電波より、早いのか。ずれて反響しあうように、次郎長の声がジャミングする。

 

 もちろん、その受話器を直接耳に当てていた。

 鈴雄の鼓膜は「破れるんじゃないか」って、ほどに震えた。

 

 

「な、なにするんだよ、じいちゃん! 僕の鼓膜がおしゃかになったらどうするんだよ!」

「ばかーもん!!! 誰がボケたか!!」

 

 

 鈴雄の反論は、再びジャミングしかねない勢いの(怒気が最程よりは薄れたせいか、実際には起こらなかったが)、次郎長の声で阻まれる。

 

 

「だって、いきなり嫁を連れて来いなんて。さっきも言ったけど、僕には彼女すら……」

「野菊朝香……」

「はっ?(なんで、朝香の名前が突然出てくるんだ。)」

 

 

 確かに、恋人の振りをしてもらって、じいちゃんと朝香に会わせた事はあったけど。結局、じいちゃんには、その嘘がばれたし。

 

 もしかして、その嘘だったて所だけを「ボケ」て忘れてるとか。

 だから、いきなり、朝香を嫁とかいいだしてるのかも。

 

 うん、そうなら…。

 

 

「じいちゃん、やっぱり一回病院に……」

「「「「「ばかもーーーーーーーーんん!!!!」」」」

 

 

 今度は、一回目と同じく、ジャミングした。

 

 …実際の所。

 次郎長は、ボケているわけでもなんでもなかった。

 

 実は朝香に決闘を申し込まれたさい。

 次郎長は、朝香に「条件」を出したのだ。

 

 

「負ければ、静岡に嫁(鈴雄の)に来い」

 

 

 鈴雄を中空町に引き止める・・。

 すなわち、鈴雄の人生を賭ける事になるであろう。

 朝香の申し込んだ決闘に、次郎長は朝香にも、自らの人生を賭けろというのだ。鈴雄の為に、決闘を申し込んだ。朝香を気に入った点もあったのであろう。

 

 そして、その申し出に、朝香は一つ返事で答えた。

 

 只者ではないとはいえ、老人に「喧嘩無双」の自分が負けるわけがないと思ったが為か。

 そのリスクを、背負ってまで、鈴雄を引き止めたいと思ったが為か。

 

 その、真意は不明である。

 朝香本人に尋ねても、はぐらかされるだけであろう。

 

 まあ、とにかく。

 前述の通り、朝香を決闘にて破った次郎長の中では。

 

 朝香=嫁(鈴雄の)

 の構図が完璧に出来上がっていた。

 

 

「決闘だって、僕はそんな話しらないよ! なにを勝手に二人で!」

 

 

 とはいえ、そんな事を、当事者であるくせに一切しらされていなかった。

 鈴雄は当然。時代錯誤とか、無効とか色々わめきたてていたのだが。

 

 

 その様子を、鈴雄をヘッドロックして聴いていた朝香。

 ……なぜか、週に数回朝香は、鈴雄の部屋で酒を飲む週間があった。

 しかも、モニター時より、鈴雄の部屋に潜り込む回数が明らかに増大していた。

 

 そして、間が悪く。

 ちょうど、電話が掛かってきたその日も、朝香はくだをまいて、鈴雄の部屋で酒を飲んでいた。

 

 

 話を元に戻すが。

 自分を無視して、鈴雄が電話に掛かりっきりなのが、不満のようで。鈴雄にヘッドロックをかましていた、朝香が受話器を奪い取り。

 

 

「おう、じいさん。鈴雄を連れてそっちにいくから覚悟して待ってろ」

「……よかろう」

 

 

 そう、一言告げた後。

 ガチャッと受話器を置いた。

 

 

「へっへ、次こそは、あのじーさんと決着をつけて……、って、なにしてるんだ、鈴雄?」

「な、なんでこんな事に」

 

 

 そして、とにかく、一人蚊帳の外の。

 鈴雄は、頭を一人抱えていた。

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あとがき

 

元ネタでは。

本当には、決闘前に他の女性陣の襲撃が入るんですが。

 

IF物ですので、順序を入れ替えて。

決闘終了後に、女性陣襲撃の運びになってます。

 

今回は、その端折った説明ばかりだったんで。

残りの2−3話は、ギャグベースで書ければと思います。

 

元ネタがギャグライトノベルなので。

「萌え」は柱ですが薄めで。

 

 

……、てな、感じで考えてたんですけど。

続きが全然思いつかない……、なので続かない公算が高いです。

 

中途半端が過ぎるので。

一応、考えてた簡略な「あらすじ」だけ載せときます。

 

※あと、来週(下手すれば再来週)は投稿お休みの予定です。

『スカイリム』が手に入ったので(笑)。

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「仲の良い同級生」

 

 そんな関係だった彼女が。

 僕のおじいちゃんとの決闘に負けちゃって。

 

「僕のお嫁さん」

 

 そんな……。

 萌えに必死な、アマss作家が考えた他愛のないネタが。

 もし、現実になってしまったら。

 

 

「嫁!? ひゃほほーいい!!」

 

 

 と、叫ぶ「萌え族」を除けば。

 

 

「うわっ、なにそれ、ありえない……」

 

 

 叔父が経営するメイド喫茶のバイトを、親戚だから手伝えと言われた女子大学生が。

 明日から「萌えー」と叫ぶ、客に御主人様と言わないといけないのかと思うぐらいの頭痛必死の現実である。

 

 

 だが、そんな現実に対し。

 

 

「コーチ! 私というものが在りながら!」

「きぃー、ゆるさないわよ! 鈴雄ちゃん!」

「……、鈴雄さん」

 

 

 三人の宇宙犯罪者(女)が、地球から数万光年先の惑星から走り。

 

 

「なんで、わしらが付き合わされんといかんのじゃ」

「まあまあ、マロンフラワーさん、しょうがないですよー、影の薄い僕たち男性連合は、女性連合が言いただしたら止められませんし」

「面白くなりそうですね」

 

 

 三人の宇宙犯罪者(男)が、それに付き合わされ。

 

 

「またんかいー、お前ら!」

「待ちなさい−!」

 

 

 それを、犯罪者の目的を知らず、一人と一匹が追う。

 

 

 そして、地球では。

 朝香、次郎長という、竜虎がにらみ合う中。

 

 

「もう一度決闘をしろじゃと? ふん、お前は負けたはずじゃぞ」

「嗚呼……、だから、今度は、俺の「夢」を賭けてやるよ」

 

 

 そのど真中で。

 

 

「……、なんでこんな事に」

 

 

一人、鈴雄は相変わらず頭を抱えていた。

説明
『住めば都のコスモス荘』の二次創作SSです。

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タグ
住めば都 コスモス荘 ドッコイ 

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