つめたいひと
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私はなんて薄情な人間なのだろう。

「これ、お前がくれたやつだぞ。」

ああ、そういえば、そうかもしれない。思い出そうとして薄ぼんやりとした記憶の中を探しても、はっきりとはしなかった。

「しかも、最初に。」

そのピアスは小さなバツ印、多分十字架がモチーフとされている。

……ださい。

贈った(らしい)私が言うのもなんだが、褒められるようなデザインではなかった。というか私自身が十字架が嫌いで、まさか嫌いなものをGにあげるとは思いもしないだろう。でもGを見ると本当らしく、薄情なのはお前だろと笑った。

「あ─……すまんな。」

罪悪感も無いまま謝るのは人間として最低であるが、駄目なのだ、どうしても思い出せないのだ。そしてまさかGも、そんな古いものを未だ身につけているとは。奴の一途さと生真面目さにはただ頭が下がる。

よく見ればピアスには一点の曇りもない。銀は手入れをしないとすぐ黒ずむと聞く。なのにGの耳に付けられたそれは、今細工しました、今買ってきました、と言わんばかりに光を放っている。それだけ大事にしてくれたということ。

「本当にすまない。」

「あ?気にすんなよ。お前が忘れっぽいのは今に始まった事じゃない。」

Gは出来た人間だ。仮にも私達は恋人同士であるのだから、小言の一つ、いや男だから拳の一発でも私に食らわせればいいものの。そこまで私が諦められているのか、という残念な予想は捨てきれない。お互い女々しく罵り合う事は時間の無駄だと解っているし、拗ねた所でどうせ明日には仲直りしてしまう。歳を取ったと常々感じるのはここだ。

私達は随分と遠い所まで来てしまった。ピアス一つで達観してしまうとはおかしな話である。やられた方は一生なのに、やった方は一瞬。私はどうせ、すぐ忘れてしまう。

Gは誰よりもそれを知っている。だから怒らない。責めない。私も構わないと了解している。冷たい仲だと思うだろうが、ここまで来てしまったからには、現実として真摯に受け止めよう。間違わないで貰いたいのは、この「仲」が悪いというわけではないこと。

普通。私とGにとっては普通なのだから。まあ根本的な事から考えれば私が甘えきっている。構わん、とGは言うのだからいいのだ。

私は書物などに書いてある事は絶対に覚えない。書いていない事を覚えるようにしている。

しかし今回は書物には書いていない事すら忘れている。そろそろこの頭も限界か。甘えもな。

「お前は許容量が少ねえんだから、そのまんまでいいんだよ。」

「どういう意味だ。」

「言葉の通り。」

でな、と仕事の話を再開するG。ピアスを最後にもう一度見てやった。ああ、本当に、ださい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Gプリ、シリアス
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