Destiny/Domhan Eagsula(デスティニー/ドムハン エアグスラ)  第11話    解き放たれしもの
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「う……う〜ん……」

 

恵生は目を覚ました。

 

「ここは私の部屋……」

 

恵生が起き上がろうとする。

 

「でもなんでここに?」

「目が覚めたようね」

 

側にはジュディスがいた。

 

「ジュディス…」

「あなたは昨日、右策とセイバーに襲われたのよ。覚えてない?」

「右策とセイバー……」

 

恵生はそのことを聞いて思い出す。

 

「そうだった……、それで小坂は?」

「あなたが意識を失った時、ひとまずあの神父の所に診てもらったわ。

あなたはあの泥の瘴気みたいなものに当てられただけで済んだみたいだけど、彼はそうはいかなかったみたい。

彼はあの神父に任せて私はあなたを家に運んでひとまず介抱をしてあげたのよ」

「そうだったの…」

 

恵生は完全に起き上がった。

 

「それでどうするの?」

「とりあえず右策を追う、昨日のことを考えると右策はフィリーと一緒にあのフィリーの……アンベルツインの城にいるはず……。

ジュディス、協力してくれる?」

「それは少し難しいわね」

「なんで?」

「右策がああなっても私と右策の主従関係は続いているの。私に魔力供給もしているわ。

いくら令呪であなたを守ることを命じられても、マスターである右策を守ることが最優先に働いてしまう可能性があるの。だから……」

「そっか……、じゃあ仕方ない」

「それでも行くのでしょう?」

「ええ、今の右策を放っておけないから……」

「…分かったわ、協力は出来ないけど、ここであなたの帰りを祈って待ってあげるわ」

「ありがとうジュディス」

「その前に何か食べて行ったら?」

「そうね、腹が減っては戦は出来ないですもんね」

 

恵生は食べても腹に影響があまりないものを作り、そして食べて外出していった。

 

「とりあえず、裏影さんのところに行ってみよう…」

 

 

 

 

 

第11話    解き放たれしもの

 

 

 

 

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恵生は教会を訪れていた。

 

「ほう、思ったより元気じゃないか」

「まあおかげさまかな……小坂はどうしたの?」

「あいつの自宅に返してやった。あいつにとっては自分の家の土地が体にいいのでな…。

療養のため埋めてやった」

「埋めてやったって…」

「息は出来るわ」

「それならいい」

「それで俺に何の用だ?」

「手を貸してほしいの」

「手を?」

「あの黒い奴……右策にフィリーが攫われたの。それを助け出すには私一人じゃ無理。

だから……」

「だから助けろか……無理だな、仮にも俺は監督役、そんなことはできんな」

「そう……」

 

恵生はそのことを聞いて、教会から出て行った。

 

「仕方ない……」

 

恵生は教会から離れようとすると……。

 

「待て」

 

終死郎が後ろにいた。

 

「何の用?」

「手伝ってやる」

「は? さっき、手伝わないって…」

「それは監督役としてだ、俺個人としては手伝う気はないが、俺の目的のためだ、少しは手を貸してやろう」

「目的?」

「それは後で話してやる。それにここからアンベルツインの城の入り口の森まで距離はある。

送ってやる」

 

終死郎は車を手配し、恵生と共に車に乗り込み、アンベルツインの森へと向かった。

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恵生は終死郎と共にアンベルツインの森の入り口に着いた。

 

「それでは、12時間ほどで俺達が戻らなかったら勝手に帰れ。

12時間以内に俺一人、もしくはこの女かその連れが帰って来た時も帰れ。

その女が帰って来た時はその女を連れて帰れ、俺が帰るのが遅れてもな…」

「かしこまりました」

 

運転手はその場で待機した。

 

「さて、お前には一応これを渡しておこう」

 

終死郎は車のトランクからマシンガンを取り出し、恵生に渡す。

 

「それは剣刃もついているぞ」

 

マシンガンの銃口先にナイフのような刃がついていた。

 

「ほんとだ」

「そいつは接近戦用だ。接近戦では銃よりもナイフの方が早いからな」

「それであなたは?」

「何、気にすることはない。行くぞ」

 

終死郎が森の中に入っていく。

 

「待ちなさいよ」

 

恵生も終死郎の後を追って森の中に入っていった。

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二人は深い森の中を進んでいく。

進めと進めと木々ばかりであった。

 

「この方でいいのだな?」

「ええ……」

 

恵生は考える。今の恵生や終死郎では右策の黒い影にゼロにはまず勝てない。

フィリーを助け出す方法、それは奇襲のみ。

それもただの奇襲ではなく右策達に気づかれないという難易度の高いもの。

しかし恵生が考えているのではそれだけではない。

 

(どうやって右策を連れて帰れば……)

 

そんなことを考えていると……。

 

「お前、真浦右策を連れ戻そう、と思っているのか?」

 

終死郎が声をかけてきた。

 

「思ってるに決まってるじゃない。私は右策を助けるために……」

「やめておけ。今の俺達じゃ真浦右策、いやあの黒い影には勝てん。出会った瞬間、話し合いのひまも当て得られないまま殺される。それはお前の方が分かっていると思うが…」

「………」

 

終死郎の言っていることは尤もであった。

 

「今回はやめておけ。ルフィリーヤスをこっちで保護できればまだ猶予が出来る。

真浦右策と話がしたいのなら、真浦右策に対抗できる力を用意してからだ。交渉と言うのは可能な限り有利に運べるようにするための準備は必要なものだ」

「…………仕方ないわね、今はフィリーを助けることを第一ってことでしょ」

「そう言うことだ、時間がおしいからもう少し急ぐぞ」

 

二人はさらに森を進んでいく。

 

「…この森に満ちた呪い……、奴のものだな」

「? 裏影さん、あなたには右策の気配が判るの?」

「判ると言うより共鳴に近いな。けど万一、真浦右策と戦うことになったら俺はすぐにでも逃げる。

お前はともかく、俺じゃ黒化(こくか)した真浦右策を傷つけることが不可能だからな。戦っても勝ち目がない」

「待って、黒化って…右策は右策よ。おかしい影に取り憑かれているだけですぐに…」

「すぐに元に戻るか……。

言い忘れていたが、真浦右策を元に戻すにはあいつと影を切り離すしかないぞ。

そして方法があるとしたら二つ。

あの影本体を消滅させるか、真浦右策が影を実体化させるのを待つかだ。

今のお前じゃ影を倒せん。お前に出来ることは、影がこの世に誕生するまで、真浦右策の精神を繋ぎとめることだけだな」

「裏影さん、影の実体化って、右策が影そのものになるってこと?」

「いや、影の本体は聖杯の中にいる。これは前に言ったはずだ。

真浦右策を変貌させているものは聖杯の中にいるものだが、それもあくまで真浦右策の影。

奴がいなくては影は存在できない、形がないのだからな。だから真浦右策の影になることで物質界に現れる。

真浦右策と言う不完全な聖杯でなければ、中にいるものはこの世に生まれることはない。

だが生まれてしまえば、真浦右策とは別物。真浦右策を汚染している『呪い』も止まるはずだ」

「その影の本体は大聖杯の中……裏影さん、その大聖杯のある場所って知ってる?」

「知らないが予測はついている。だが正確な入口は彬渡に聞け。

鋼呂の管理者は元々は小坂だ。二百年前にアンベルツインが小坂と手を結んだのは儀式の場所の確保のため。小坂の後継者である彬渡なら教えられてるはずだ。

もし知らなかったら、ルフィリーヤスにでも聞くんだな。

尤もそれはルフィリーヤスを助け出してからの話だがな。

俺の予測、いや十中八九、この先には真浦賢蔵もいる」

「え?」

 

終死郎の発言に驚いた恵生。

 

「なんでそんなこと……」

「もはや聖杯戦争も終盤に近い。あの老人が動かないわけがない」

「でも賢蔵は右策に近づいたら殺されるって…」

「ああ、あの老人であろうと殺されるだろうな。だから少し距離を置いて真浦右策を見張っている。そんなところだろう。そして

あの老人の側にはアサシンのセラフィムにキャスターのベガも一緒に居るはずだ。

ルフィリーヤスの救出にはこの三人にも気づかれてはいけないと言うのが入る。

………話を戻すとしよう。このまま賢蔵の手にルフィリーヤスが落ちれば、真浦右策もルフィリーヤスも聖杯として使い捨てられる。

真浦賢蔵は『大聖杯』など使う気はないだろう。あの老人の目的を考えれば小聖杯だけで十分だからな。

だから大聖杯を壊そうとするお前の考えもそれでは何の意味もない」

「なっ!? そんなこと考えてないわよ」

「そうか、お前にとってはそれが最もいい打開策だと思ったんだがな…」

「けどそんなのがあることとか早く言ってくれれば……」

「壊していたか? 俺の目的は大聖杯の起動だ。お前に大聖杯を壊させるわけにはいかんな。

言ってなかったが、俺とお前は相容れぬ者同士。ルフィリーヤスを助け出したら敵同士だ。なぜならお前達と俺の目的は違うからな。

俺が興味あるのは真浦右策になろうとするものだけだ。賢蔵のような欲や望みはない」

「ふざけないで、あなたも賢蔵と同じよ。右策を利用して得体のしれないものを自分のものにしようとしてるじゃない」

「それは違うな。俺は生まれた後には興味ない、それにあれは人の手に余りあるもの。

現れるのは地獄と言う現象で、生まれたら俺も死ぬぞ」

「!?」

 

恵生は思わず絶句した。

 

「正気なの? そこまで判ってて、自分も殺されるのは判ってても、右策をそんなものにしたいの!?」

「そうだ。俺は誕生するものを祝福する。それはどんな状況だろうとどんな対象だろうと変わることはない。

生まれようとする命と意思を阻むことは出来ん」

 

終死郎は少し間をおいてまた話してきた。

 

「八子空、この世に純粋な願いがあるならば、それは生まれたいと言うことだけではないのか?」

「けれど……、右策に憑りついているものは……」

「生まれていないのであれば悪ではない」

 

そして二人は森を進んでいくのであった。

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幕間

 

 

 

 

 

 

アンベルツインの城では聖杯としての正装を用意するとしてフィリーは右策と離れていた。

そしてその右策を見張る形で遠くから見ている者がいた。

真浦賢蔵とセラフィムとベガであった。

 

「随分と黒くなっていますね」

「当たり前じゃ、聖杯の中に居るものは黒い存在、復讐者(アベンジャー)なのだからのう」

「復讐者(アベンジャー)……そんなものもいたのか」

「一度だけな……。そ奴の呪いを見るのは儂も初めてじゃがの…」

「その呪いの結果があれですか」

「そうじゃ、しかし右策の奴、思いのほか、精神を保っておるな。

あの状態でサーヴァントを二体も使役してるとは思えんな」

「二体…」

「セイバーの他にサーヴァントを一体、とっているのか」

「そういうことじゃ…」

(アーチャーは違う。ルフィリーヤスの方に行っているはず。

となると残りはバーサーカーとランサー、そのどちらかと言うことですか)

 

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

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恵生と終死郎はアンベルツインの城の外までやって来た。

 

「やっと着いたわ…」

「今のところ気づかれてないようだが、時間の問題と見るべきだな。

それではどこから侵入するか……」

 

城の正面は当然危険。奇襲を考えるにはどこから裏口になりそうなものを探さないといけない。

終死郎が城の周りを少し見てみると、城の三階の窓を発見する。

 

「あれだな」

「あれって…三階くらいはあるわよね」

「ああ、あそこから侵入するぞ。罠がある可能性も考慮してな…」

「でもどうやって…」

 

恵生は窓の近くに大きな木があり、その木の枝は窓の側にまで届きそうなものがあった。

 

「あれを使えばって…」

 

恵生は木を見ているうちに終死郎は思いっきり城の外壁を登りはじめていた。

 

「え、ええええ?」

「どうした、早く登れ」

「登れって言われても……」

「こうして登っているのは俺だけだ。お前はそこの木にでも伝って登れ」

 

終死郎は普通に登り終え、恵生も何とか近くの木から飛び移ることに成功した。

窓は運よく開いており、城の中に普通に侵入した。

 

「さてと……フィリーはどこに…」

「可能な限り慎重にな…」

 

二人が慎重に歩いていると……。

 

「!!」

 

普通に廊下を歩いていたフィリーを発見する。

 

「フィリー!」

「エミ、それに……ウラカゲ」

「ふ」

「エミ、なんでここにいるの?

なんでこんな奴と……」

「フィリーを助けるためよ、とにかく逃げましょう」

「無理だよ」

 

フィリーは助けを拒んだ。

 

「なんで?」

「僕を助けたら、またエミが殺されそうになる。僕はエミを助けるためにウサクやケンゾウと一緒に来たんだよ。

それなのにエミが助けに来るなんて間違ってる!

早く逃げて! 今ならまだ逃げれるから!」

 

フィリーはそんなこと言うが恵生の答えはとうに決まっていた。

 

「ふざけないで、私を助けるために逃げて?

私はフィリー、あなたを助けるために来たのよ。

今更フィリーを置いて帰れない。帰るのはフィリーも連れてよ、フィリーの言うことは聞かない」

 

恵生はフィリーを無理矢理持ち上げる。

 

「うわっ!」

「このまま行くわよ!」

 

恵生はすぐに来た道を戻り、入ってきた窓から思いっきり飛び降りた!

 

「いててて……」

 

三階から飛び降りたため足がかなり痺れていた。

 

「いきなり飛び降りるとは思わなかったぞ、八子空恵生」

 

終死郎は少し壁を降りて飛び降りてきた。

 

「とにかくは救出成功だ。後は逃げるだけだが……」

 

終死郎が城の方を見る。

 

「お前達、先に逃げろ」

「え?」

「俺が時間稼ぎの罠を仕掛けておく。それをよこせ」

 

恵生は終死郎に言われてマシンガンを渡す。

 

「お前達はその隙に逃げろ」

「けれど……」

「何、サーヴァントやあの黒い影が相手となるとまともな時間稼ぎは出来ん。

だが何もしないよりはいいだろう。さっさとしろ、直に奴らも気づくはずだ」

「分かったわ。フィリー、行くわよ」

「うわっ、エミ……」

 

恵生はフィリーの手を掴んで走り出す。

 

「さてと…まずは誰が追って来るか………」

 

終死郎は適当に罠の準備をする。

そしてしばらくしているうちに城の中が騒然となる。

 

「ぬぬぬ、ルフィリーヤスめ、逃げおったか。さしずめあの女であろうな」

「どうやら命知らずのバカだったようだな」

「………」

「ではこのベガが直々に……」

「いや、キャスター、お主には別のことを頼んでおきたい。追跡はアサシンに任せる、儂も後でいくとしよう」

「分かりました……主」

「うん?」

 

セラフィムが右策の方を見ると右策は黒い影からある人物が現れる。

 

「あれは…」

「あいつに追わせる気か……」

「では我々は…」

「いや、こちらも別の道で奴らを追うとしよう。

アサシン、ゆけ」

「はい」

 

アサシンは恵生達を追っていった。

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「はあ……はあ……」

 

恵生とフィリーは森の中を走っていた。

 

「はあ………はあ………、フィリー! もっと早く!」

「これ以上は……」

 

フィリーは息を切らしていた。

恵生も息を切らしてはいたが、フィリーは恵生以上に体力がなかった。

その上に体も小さい。そして恵生に引っ張られていたので、嫌でも体力を使わされる。

 

「はあ……はあ……」

 

そんな時であった。

 

「まだそこにいたのか?」

 

恵生達とは距離があったはずの終死郎が恵生の横に現れた。

 

「裏影……」

「ルフィリーヤスはこちらで運ぶとしよう」

 

終死郎がフィリーの手を掴んで、フィリーを自分の肩に乗せる。

しかし終死郎の速度は変わらず、恵生の横を並んで走っている。

 

「は、早い……」

 

しかもフィリーを乗せてなおかつ早い速度なのに息一つ切らしてない。

 

(本当に人間?)

「………ちっ!」

 

終死郎は服から何かを取り出し、右斜め横に投げつける。

投げたものは短刀であり、短刀は弾かれる。

 

「……このスピードで短刀を弾くもの………アサシンか」

「ご名答です」

 

セラフィムが終死郎の少し離れた横に姿を現す。

 

「ルフィリーヤスはお前に任せる」

 

終死郎がフィリーを恵生に渡す。

 

「そのまま走って逃げろ。追手はアサシンだけではない、真浦右策が別のサーヴァントを出して追って来てるぞ。

俺の罠もすぐに破って来るだろう。早くしろ」

「でもあなたは……」

 

終死郎は短剣を取り出す。

 

「俺は足止めでもしてやるさ。ああいった手合いには慣れてるものでな」

「それじゃあ任せるわ、フィリー!」

 

恵生はフィリーを引っ張って何とか力を振り絞ってさらに走り出す。

 

「ではな……」

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幕間

 

 

 

 

 

 

終死郎は立ち止まり、セラフィムと対峙する。

 

「まさかあなたとこうして戦う時が来るとは……」

「思っていただろ」

「正直そうですね。あなたと初めて会った時から気持ち悪い男だと思っていました」

「ふ、言うではないか」

「ほぅ、お主か、あれの足止め用の罠を仕掛けていたのは」

 

セラフィムの後ろに隠れるように賢蔵が現れる。

 

「なんだ、老人も来たのか」

「しらばくれおって、儂もいたことに気づいていたであろう」

「真浦右策の追手はやはりあっちに行ったか」

「ははははは、そこまで見抜いていながら何故自ら囮となった?

よもや情に流されたと言うまいな!」

「…なに、八子空恵生を助けたつもりはない。

俺はこっちに用があっただけだ」

 

終死郎は賢蔵の方を見る。

 

「儂に用があったと?」

「そうだ、このままでは俺も八子空も森からは出られず殺される。

ならば死ぬ前に、自分の目的のために行動するのは当然だ」

「ではお主はルフィリーヤスがどうなろうと構わぬと? あ奴を救いに来たのではないのか?」

「俺は救いに来たのが俺の目的とは違うな。それにここでアサシンを倒して八子空恵生を助けに行っても間に合わん。

だから俺にはもう関係がない」

「ではわざわざこの場に残ったのは…」

「ルフィリーヤスをお前に渡さないようにすることか、ここでお前を殺すかと言うことだけだ」

「ははははははは!

そうか、その為にわざわざ殺されに来おったか。よかろう、裏影終死郎、教会の外れ者がどこまで足掻くか見届けてやろう」

 

賢蔵は笑う。

 

「ふん」

「秘剣、燕返し!」

 

終死郎の短剣とセラフィムの燕返しが激突する。

 

「はあ!」

 

セラフィムが終死郎に近づき、終死郎に向かって木の葉の剣を振るう。

終死郎はそれに対応するように新しく短剣を取り出し、取り出した短剣で木の葉の剣を防ぐ。

 

「やりますね」

「接近戦が苦手だとは一言も言ってないからな」

 

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

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「はあ……はあ………」

 

恵生達は必死に逃げる。

二人は感じていた。

後ろからとんでもないものが迫っていることを……。

 

(このままじゃ逃げきれないかも…)

 

恵生はこのまま走っていては逃げきれないと感じた。

 

(まだどこかに隠れて少しやり過ごした方がいい)

 

恵生は走りながら隠れれそうな場所を探す。

 

「………あそこ! フィリー、あそこに隠れるわよ!」

「え?」

 

恵生は何とか地面の裂け目を見つけてそこに隠れようとした瞬間。

 

「!!」

 

二人の後ろから何かとてつもないものが飛んでくる。

 

「早く!」

 

二人はギリギリのところで裂け目に隠れる。

その飛んできたものは地面を完全に抉り取っていた。

 

「あれって……」

「攻撃? でも一体誰の……」

「ふぅ〜、ふぅ〜」

 

その攻撃の一番進んだ先にはある人物がいた。

 

「あれは……」

「ランサー」

 

そこにいたのは変貌したエリオであった。

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幕間

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

終死郎とセラフィムの戦いは熾烈を極め、近くにあった小屋の所まで移動していた。

互いに服がボロボロで双方血を流していた。

 

「くぅ…」

「ふふふ、サーヴァント相手によくもったと褒めてやるべきかの」

 

終死郎は短剣を三本取り出す。

しかしその短剣は終死郎が持っている最後の短剣であった。

 

「それで最後のようですね」

「見抜かれているか」

「あなたがその三本を投げ終えた時、私は秘剣燕返しであなたを斬り殺します」

「ほぅ……だが俺がその三本でお前を倒すと言うこと考えていないのか?」

「その心配はありません、すべて撃ち落します」

「さすが吸血忍者のセラフィム、話に違わぬ強さだな」

「あなたに褒められてもいい気分にはなりません」

 

二人はしばらくこう着する。

そしてこう着が解かれる時、二人は同時に動き出した。

攻撃を先に仕掛けたの終死郎であった。

終死郎は短剣を一本、一本と投擲する。

 

「燕返し!」

 

しかし投げられた短剣はすべてセラフィムの燕返しにより弾かれてしまった。

 

「これで終わりです」

 

セラフィムが新しく燕返しを繰り出したその時であった。

突如と終死郎の後ろから大量の剣が飛び出し、セラフィムを後ろの木に磔にする。

剣はすべてセラフィムの服のみを貫通して磔にしているだけでダメージはない。

 

「っ!」

「なっ!?」

 

セラフィムだけでなく賢蔵も大いに驚いた。

終死郎はその隙を逃さなかった。

終死郎は一気に賢蔵の元に近づき、賢蔵の頭を鷲掴みにする。

 

「ぬ…貴様……」

「喋っていると舌を噛むぞ」

 

終死郎は賢蔵の体を力いっぱい地面に叩き落とす。

 

「ぬぅ」

 

それも一度だけではない何度も何度も叩きつける。

終いにはジャンプし、10メートルほどの高さから叩きつけ、賢蔵の体をぐちぐちゃにした。

 

「そうか、儂を殺すのか! よかろう、好きにするがいい。

じゃがそれでお前の望みが叶うと思っておるのか!?」

 

賢蔵の体で生きているのはもはや頭のみ。

それなのにもかかわらず賢蔵は普通に喋る。

 

「『我命じる、我はここにて悪しき魂を浄化せしめる者、悪しき魂の罪を葬り、罰を与えんとする』」

 

終死郎は何かの呪文を唱え始める。

 

「何とも救いようのない男よ。まだ人並みの幸福を求めているのか?

お主にはそのようなものは絶対に得られないと理解したのではないのか!」

 

終死郎は詠唱しながら血の文字を小屋の壁に書いて賢蔵に見せる。

 

「理解してないと思っているのか?」

「『そして悪しき魂を浄化し、永劫に封ぜしめよ』」

 

終死郎の詠唱は続く。

 

「理解しながら儂を殺す。やはり貴様は欠陥者じゃ。この世の道理に溶け込めぬまま、傍観者であり続けるがよい!」

 

終死郎は最後の詠唱と同時にまた血の文字を書く。

 

「消えろ、外道」

「『聖魂に還れ(エクスキューナー)!』」

 

終死郎の詠唱が終わると、終死郎の手に掴まれていた賢蔵の体が光だし、そして消滅していった。

 

 

 

 

 

 

幕間終了

 

 

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恵生とフィリーは裂け目に隠れることで何とか追跡者のエリオから隠れる。

 

「ふぅ……」

「こうして隠れてるけど、いつかは見つかるよ」

「分かってる……」

 

しかし恵生はなぜエリオがすぐに自分達を見つけられないのかを考える。

 

(エリオのスピードなら私達に簡単に追いつけたはず…、それなのにこんなに時間がかかってる。

罠に引っかかってたとしてもどんなサーヴァントちょっとした罠でこんなに時間がかかるはずがない……)

 

そして一つの答えを導き出す。

 

「もしかして目が見えてない?」

 

恵生が裂け目から顔を出してエリオの方を見る。

エリオの格好は黒いコートに金色のこわばった瞳になっていた。

しかし見えてはいなかったようであった。

その証拠に風で揺れた木に反応してそちらの方を攻撃した。

エリオは木を壊して立ち止まる。

 

「ううううううう、あああああああああああああああ!!!」

 

エリオらしからぬ雄たけびを上げる。

恵生は顔を引っ込めた。

 

「あれって……」

「多分、バーサーカーの狂化をランサーにつけたんだと思う」

「そっか…」

 

目が見えず理性がない。

だからと言ってこうして隠れていてもいつかは見つかり殺される。

とは言っても何とか走ってもエリオの出すスピードを考えると絶対追いつかれ殺される。

つまりはこのままでは確実に殺されると言うこと。

恵生はどうやればこの状況を打開するかを考え着く。

 

「……………」

 

恵生は自分の左腕に付いている聖骸布を見た。

 

「外に出て、エリオを倒してくる」

「え?」

 

恵生がいつの間にか左腕の聖骸布を握っていることに気づいたフィリー。

 

「ダメ! それだけはダメ! アーチャーの腕を使ったらもう戻れなくなる! 死ぬんだよ、ううん、使う前にきっと殺される。

エミが……悪いことをしてないエミがそこまでする必要ない!」

「それは我慢するわ。死にそうになっても我慢する。

それと私だって悪いことの一つや二つはしてきたわよ」

「え……?」

 

恵生にとっては右策を選んだ時点で今までの自分を殺した。これは今までの自分から見れば立派に悪いことだと思っている。

 

「フィリーはここで待ってて」

 

恵生はフィリーとエリオの距離を可能な限り離し、そして奇襲をかけて倒すことを画策する。

しかしあまりに距離が離れすぎているともし聖骸布を解いた時に不慮のことが起こらない可能性もなくはないためそんなに離れすぎてはいけない。

そしてようやくエリオがいい距離にまでやって来た。

 

「……………」

 

恵生は外に出てくる。

エリオは気づいていなかった。

恵生は出てきたと同時に聖骸布を引っ張る!

 

「!!」

 

引っ張った瞬間に激痛が走った。

イカロスの魔力が自分に入って来たのだ。

 

(耐える……耐えるんだ! 右策はこれ以上の痛みをずっと味わってきたんだから……)

 

しかしそれでもとんでもない激痛に一瞬意識を失いそうになる。

だがそんな時ある人物が前に立っているのが見えた。

それが幻だと分かっていながら見えた。

 

「ついて来れますか?」

 

幻のイカロスが恵生に問いかけた。

 

「ついて来れますか? あなたの方こそ、ついて来なさい!!」

 

恵生は幻のイカロスに返答し、完全に聖骸布を解放した。

そしてエリオの前に立つ。

 

「投影……開始」

 

恵生は左腕をあげながら静かに詠唱した。

 

(イカロスのあの弓、アポロンはダメ。打つ前に避けられる。だとしたら接近戦用の武器しかない)

 

ただし投影できるのは自分が見たことある物、もしくはイカロスが知り、投影したことがあるものに限られる。

そして恵生はイカロスの記憶からある剣が浮かび上がる。

 

(これでいくわ)

 

投影した剣は恵生は見たことない剣であった。

しかし恵生はイカロスの記憶のおかげで知っていた。

その剣の名前は『超振動光子剣chrysaor(クリュサオル)』。

イカロスが投影出来る最強の防御、aegisを軽々と切り裂ける剣。

aegisを切り裂く剣ならサーヴァントも斬ることが可能である。

 

「………」

 

恵生は頭の中が割れたような感覚がした。しかしもう遅いし、恵生は止まる気はない。

恵生がゆっくりとエリオに近づく。

エリオが気づいて恵生に攻撃をしようとした瞬間、chrysaorはその刀身を伸ばし、エリオの体を突き刺す。

 

「ぐううううううううう!!」

「はあああああああああ!!」

 

突き刺さった瞬間に恵生はchrysaorを力いっぱい振る。

その瞬間にエリオの体は半分に切れると同時にストラーダも破壊された。

 

「ぐうううううううおおおおおおおおお!!」

 

エリオは苦しみながらも狂ったように恵生に近づこうとした。

だが恵生に近づく前に消滅した。

 

「ごめんね、エリ……オ…」

 

恵生は何とか聖骸布を左腕に巻く。すると先ほどまであった激痛はひとまず治まる。

それと同時に恵生は倒れる。

恵生は意識が朦朧とする中、自分の目の前にはゼロが立っていた。

 

「ゼロ……」

「よく倒せたな」

「………」

「俺は別にルフィリーヤスを連れ戻したりするために来たわけじゃない。様子を見に来ただけだ」

 

ゼロが振り返る。

 

「右策からの伝言だ、大聖杯で待つ。それと、あの神父がアサシンのマスターを殺してアサシンがこちらに向かっている。

奴の令呪の縛りは消えている。来ても無碍にしてやるな」

 

ゼロはそう言って去っていった

 

「エミーーーーーーーーー!!」

 

フィリーが出てきて、恵生を何とか運ぼうにもなかなか運べない。

フィリーが引きずりながら恵生を運んでいるとそこにセラフィムがやって来るのであった。

-12ページ-

 

 

幕間

 

 

 

 

 

 

恵生がエリオを倒す少し前である。

終死郎は賢蔵を消滅させ、疲れたとして小屋の壁にもたれる。

 

「完全にあのクソ虫を消しましたね。あれが邪な石の塊だと知っていたのですか」

「ああ、色々あってな…。石を使ってこの世界に干渉している霊体だと知っていた。

肉体を千切ったところでは死なん。殺すのなら跡形もなく粉々にするか…」

「先ほどのように霊体そのものに攻撃するかですか。

あのクソ虫にとってはあなたは天敵だったようですね」

「それでどうするんだセラフィム。魔力提供がなくなったお前なら俺の聖言でも倒せると思うが」

「でしょうね。いくら私がアーチャーほどではないにせよ、単独行動のスキルを持っていたとしても、今の私ではあなたに勝つことは無理でしょうね。

私の持つ単独行動のスキルランクでは最高で1週間が限界のはずですが、私の服に刺さっているこの剣のせいで、今の私では1日もつかどうかですね」

 

終死郎は鼻で笑う。

 

「それでお前は主の仇討ちでもするか?」

「いいえ、私もあのクソ虫は嫌っていました。これでようやく令呪の縛りもなくなり清々しました。

ただ一つ納得できないことがあります。

私があなたの最後の短剣を撃ち落した時、あなたの背後から私を磔にしている剣が出てきました。

城に行く前にあなたが事前にここまで仕掛けていたものとは思えません。

それにこの剣、私の魔力を吸収しているようですが…」

「それもそうだ。その剣は本当に突然現れたのだからな」

「? それはどういう意味でしょうか?」

 

終死郎は黙って自分の心臓を指差す。

 

「俺はここが変に呪われているのでな……」

「まさか、あなたもあの者と同じように呪われている……」

「俺の呪いはあいつのものとは別物と見るべきだろうがな…」

「………そうですか」

「ちなみにその剣の名前は『命の集約(ライフエレナジー)』。持っていたり、突き刺さった周辺にいるだけで魔力を吸収する代物だ」

「私の魔力がなくなっているのはそのためですか。なら仕方ありませんね」

 

セラフィムは何とか自分を磔にしている剣をどうにかしようと服を破り、その場から離脱した。

 

「行ったか。

セラフィムの性格上、真浦右策と契約するはずはない。大方、八子空恵生の方に行ったのだろう。

まだ生きていれば契約出来、うまくいけば追跡者も排除できるからな……」

 

セラフィムがいなくなったのを見届けると、終死郎は疲れのあまりうたた寝をする。

そしてしばらくしてうたた寝から目を覚ます。

 

「少し寝ていたようだな、では俺も行くとしよう」

「どこへ?」

 

すると自分の近くに右策がいた。

右策の姿は恵生と別れた時と違い、全身を黒い泥によって覆われており、髪の色の白へと変色していた。

 

「完全に汚染されたな、真浦右策」

「あんたが俺をこうしたくせに……」

「否定はしない。だがそうなるのを望んだのはお前自身だ」

「そうだね、俺はこの力を手に入れてから今までの弱い俺は死んだ。

今はすごく気分がいいんだよ、ちっぽけな命を踏みつぶしたりするのが、快楽だよ…」

「ふん、自分が変わったことを完全に認めたな。それは二重人格でも何でもない。それも完全にお前そのものだ」

「!!」

「まあお前を生かしたのはお前を復讐者(アベンジャー)の契約者とさせたかったからだ。

そしてお前は『この世全ての悪』を誕生させようとしている。俺がしようと思っても出来なかったことを簡単にやり遂げてようとしている」

「簡単にだと……こんなに俺が苦しんでるのにか!」

「お前の苦しみを知る気もない」

「ああ、そうだよね。あんたはそう言う人だったよな」

「話はそれだけか? 俺は逃げさせてもらうぞ」

 

終死郎が立ち上がって走り去ろうとした瞬間。

 

「ふふ」

 

右策は自分の片手を何かを握り潰すような動作をする。

すると……。

 

「ぐはっ!」

 

終死郎は心臓を抑え、倒れそうになる。

終死郎は何とか持ちこたえ、右策の方を見る。

 

「貴様……」

「神父さん、あんたは8年前の聖杯戦争で八子空断に心臓を撃たれて死んでるんだ。

けどその時のあんたのサーヴァントが聖杯の中身を浴びてそれと同調。

あんたはサーヴァントと融合して、心臓を泥のものにして生き延びた。

そしてあんたはごく一部だけどそのサーヴァントの持ってた力を使えるようになった」

「分かっているじゃないか…」

「言っただろ? あんたのその心臓は『この世全ての悪』のもの。俺は今や『この世全ての悪』。

あんたの心臓を潰すくらい簡単だ。今度はあんたの全身も潰してやろうか?」

 

右策が終死郎を黒い影で襲おうとした時。

 

「! ぐああああああ!」

 

右策が苦しみだす。

 

「これは……まさか、ランサーが負けただと……! くぅうう」

 

聖杯のためにエリオの魂が入り込む。

このままでは自分の精神は完全に『この世全ての悪』に負けてしまう。

右策は何とか耐え、精神を保つことが出来た。

 

「はあ…」

 

右策が終死郎のいた方を見る。

そこには終死郎が着ていた神父服の上着のみがあり、終死郎の姿がなかった。

 

「逃げたか…、まああの体じゃもう長くはもたないか…」

 

右策はその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

幕間終了

説明
この物語は作者が「Fate/Zero」を見た影響で「Fate/Stay night」の話を基に作った作品です。
基となった話はアニメ化されてないルートをメインとしているため、ネタバレが嫌な人はあまりお勧めできません。
また話によっては原作のシーンなどを見ながら作っている場面もあり、原作で出てきたセリフと全く同じやほとんど同じなところもあることをご了承ください。
なお、サーヴァントにつきましてはクロスオーバー的にまったく別の作品からの参加となっています。

今回から、基としているルートの話の(わかる人しかわからないと思いますが)大幅な部分改変していたり、原作まんまのセリフが多くなってます。
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