老人時間旅行
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―老人時間旅行―

 

 いつか、また逢えますよね――

真っ暗な闇の中、女がこっちを見ている

「あぁ、また逢えるさ。いつかきっと」

 老人は目を覚ました。

夢は久しぶりに見る。

ふと老人は時計を見た。午前六時、今日も一日が始まる。

 

朝食を食べ終え、老人は家を出る。

向かったのは、近所にある天宮神社。

「おはようございます」

「おはようございます、白鳥さん」

 住職さんが笑顔を浮かべる。

「今日も奥さんのお墓参りですか?」

「ええ、一日の日課にしてますから」

 私の妻、白鳥冴子は四十年近く前に、事故で亡くなった。

あの日も今日みたいに桜が舞い散る晴れの日だった。

そして彼女が死ぬ前に言った事が今日の夢のことだった。

「冴子、今日は久しぶりにお前に夢を見たんだ……」

 私は冴子の墓を洗いながら、今日の夢の事を話した。

「今日はもう行くよ、また明日逢いに行くから」

 そう言って私は家に帰ろうとしたとき

また逢えますよね――

どこかで冴子の言葉が聞こえた。

あたりを見回すと、近くに古びた地蔵があった。

また逢えるようにお参りしなきゃ。私は衝動的にその地蔵にお参りをしていた。

またいつか、冴子に逢えますようにと

一瞬、辺りが静かになった。何も聞こえない。

 眼を開けると、私の隣に制服を着た若い少女がお参りをしていた。

どこかで逢ったことがあるような顔立ち。風に流れる長くて綺麗な黒髪。

ここは、私が高校生だった頃の時代。どうやらタイムスリップをしたようだ。

少女が目を開けこっちを向いた瞬間私はその少女が誰なのか何が起こったのか把握した。

「冴子ッ!」

 私は感動のあまり彼女に抱きついてしまっていた。

「え、何!? きゃあッ!」

「ずっと逢いたかったんだ! 冴子!」

「誰なのよあんた! てか離して!」冴子は必死に抵抗してくる。

「何やってんだ! このクソジジィ!」

 私は思いっきり少年に吹っ飛ばされた。

「大丈夫か!? 冴子」どうやら少年は冴子の知り合いだそうだ。

「ええ、てか遅い司」冴子が少し怒り気味でいう

 あれ、司ってどっかで聞いたことがあるような……んなバカな

「悪い、少し道に迷ってさ。んなことより早く帰ろうぜ」司がバツの悪そうに言った。

「そうね、帰りましょう」冴子は私を睨み付け去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってくれんか!」いかんいかんこのまま冴子に嫌われて終わるなんて……

「なんだよ、爺さんまだ何かすんのか?何かすんなら警察呼びますよ」司がこっちを睨み付ける

わたしは死に物狂いで今までの事情を説明した。

自分がタイムスリップをしたこと。

私が抱き着いた少女が死んだ嫁だということ。

 

「ぜってぇ、有り得ないって! タイムスリップなんてできるわけねぇじゃん」司が反論する

「確かに私だって自分の目を疑ったさ! だけど私の目の前にいるのは、正真正銘、私の高校時代のときの冴子にそっくりなんだよ!」

 私は必死に説明したが司は信じず、冴子は黙ったままだった。

だめだこいつ。何が何でも信じないつもりだ。何かタイムスリップを信じさせるような証拠があれば――

「とにかく、爺さん。あんたは――」

「ねぇ、おじいさん。私がここにお参りに来たときここには誰もいなかった。そして私がお参りをし終わったとき

 あなたはどこから出てきたの?」司の言葉をさえぎるように今まで黙っていた冴子が口を開いた。

「私は、タイムスリップする前の時代でここでお参りをしていたんだ。また冴子に逢いたいって願ってた。

 そしたら辺りが静かになって目を開けてみると冴子が居たんだ」

「だったらあなたはどこにもなくわいて出てきたってことになる」すると冴子は振り向いて――

「タイムスリップしてきたのね」冴子はニコッと笑って見せた。どーやら信じてもらえたみたいだ。

「冴子、おまっ!」司が落胆している。

「ねぇ! そんなことよりさおじいさんの住んでる世界の話聞かせてよ!」冴子が目を輝かせて聞いてくる。こうゆう所が可愛いんだよな。

「お、俺も聞いてやるよ!」司が照れくさそうにしている。

「別にあんたは帰って良いわよ」冴子がきっぱり言い放つ

「んなっ! っさい冴子、爺さん、俺にも聞かせてください。お願いします」司が顔を赤くして言う

 ますますこの少年は誰かに似ている

「そうじゃのう、何から話そうか……」

 私は今の事を身振り手振りをして話した。

 

「今は、こんなことが起こっているのじゃ」私が一通り話し終える頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

「すっかり暗くなっちまったな。冴子帰ろうぜ」

「そうね、おじいさんじゃあまた明日ね!」

「じゃあな、じいさん」司と冴子が手を振る。

「じゃあな二人とも気をつけて帰るんだぞ」

そういって私は冴子たちと別れた。さて、私はどうするかな。

 

「なぁ、冴子。あの爺さんさ冴子が爺さんの亡くなった奥さんにそっくりだって言ってたじゃん」

「それが、どうしたのよ。司」

「いや、どう思ってんのかなぁと思って……」司は言葉を濁らす。

「どうって何よ。私もいつかは誰かと付き合って結婚するの。当たり前でしょ、あんたにとやかく言われる筋合いはないの」冴子は暗闇の中で光ってるものをいじりながら言う

「いや、だから俺―― ってお前爺さんから携帯とかいうやつ盗んできたのかよ!」

「いやだって、すんごい気になるんだもん、携帯。っじゃあたしかえりこっちだからじゃあね」冴子が片手で手を振る

「じゃあな」

 その夜――

「司!」

「う…るさいな、母ちゃん。今何時だと思ってんだよ…」

「冴子ちゃん。まだ帰ってきてないんだって!」

「え!?」司はあわてて家を飛び出した。

 

「爺さん! 起きて爺さん!」誰かに体をゆすられる。誰だこんな時間に

「なんじゃ、人が寝てるというのに」

「爺さん! 助けてよ! ねぇ爺さん!」司が泣きながら言う。

「落ち着くんじゃ! 司何があったんじゃ」

「冴子が……行方不明なんだ!」

「なんじゃと!」

「爺さん、爺さんのいる世界の道具なら、冴子を見つけれるでしょ!」

「と言うても冴子は道具を持っとらん」

「冴子、確か携帯とかいうの持ってた!」

「それじゃ!」私は走り出していた。

 

「冴子! 冴子!」

「ん…誰?」

「冴子俺だよ! 司だ!」

「あれ、私なんでここに……?」

「道路が昨日のどしゃ降りでぬかるんでて足を滑らしたんだ」司が説明する。

「そっか私、転んじゃったのね」

「歩けるか?冴子」司が聞く。

「足ひねっちゃったみたい。」冴子が右足をさすりながら言う。

「じゃあ私が――」私が言いかけた時

「俺がおんぶしてやるよ」司が言う。

「うん、お願い。」その時私は忘れかけてた昔の記憶を思い出した。

「おぉ、そうじゃった!」

「どうしたの?爺さん」司が聞く。

「もう私が住んでる世界へ帰らなきゃならん。悪いがもう一回あの地蔵のところへ来てくれんか?」そう言って私たちは地蔵のところへと向かった。

 

「爺さん。元気でなまた変なことすんなよ」司が笑いながら言う

「わかっとるわ、司。お前が大切なものは、絶対に離しちゃだめだぞ。どんなときだって」

 じゃなきゃ私と同じ運命をたどる。司、白鳥司。高校時代の自分、私は、知らないうちに自分に逢ってたんだな。

「分かってるよ、爺さん。俺ぜってぇその約束まもっから!」

「頼もしいぞ、司。さすが私じゃ……」

「ん、爺さんなんか言ったか?」

「いや何も。冴子、すまなかった、そして今までありがとう。」冴子の方を見る。

「え、こっちこそありがとうね!おじいさんおかげでいろんなこと知れたしさ!」

「冴子、また逢えてよかった。そしてさよなら」

「また! 逢いに行くから! 絶対、おばあさんの姿かもしれないけど! 絶対逢いに行くから!」私は微笑みながら静かに目を閉じた。

 辺りが静かになる――

 

「あなた……あなた」聞き覚えのある懐かしい声。

「ん、誰?」私は目をこすりながら聞く、まぶしい昼下がり。どうやら戻ってきたみたいだ。

「あなた、自分の奥さんの事を忘れるなんて……ひどいなぁあんなこと言ったくせに」女の人はこっちに向かって微笑んでる。

「冴子……。冴子なのか!」私は驚いた。

「そうですよ。私は生きてますよ、約束通り逢いに来ましたよ」冴子はずっと微笑んでいる。

「そっかぁ……また逢えたんだ」私は自然と涙が出てきた。

「さぁ帰ってお昼にしましょう。ほら」冴子が手を差し伸べる。

「そうじゃの」ありがとう、あの頃の自分。

 

50年前――

「爺さん、行っちまったな」

「そうね、司早く帰るわよ」

「そだな」司は冴子を負ぶって夜道を歩く

「あ、あのさ冴子」

「何、司」

「お、俺お前のこと――」

「好きよ」冴子がぽつりと言う

「え……」司は目を丸くする。

「あ、あんたはどうなのよ!」冴子が照れながら言う。

「お、俺はお前を絶対離さないから!」

「そう……良かった」

 

 

説明
老人のタイムトラベルの話です。
終盤で力尽きはしょったりしているところ多いです
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