双子物語-25話-
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「澤田雪乃さんはいる?」

 

 いつものように過ごしていたある日、別のクラスの生徒から声をかけられて私は

その子に近づいていって話を聞くと、どうやら生徒会の美沙先輩に呼ばれているとのこと。

なんだろう・・?と私は首を傾げながら呼ばれや場所。生徒会室ではない場所へと足を

向けて歩いていた。途中、何か気配を感じて後方を振り返るが何も見えなかった。

 気にせず、指定された場所へ近づいていく私。風が穏やかで暖かい日差しがぽかぽか

で気持ちがいい。でも、時期が時期だからうっかり昼寝でもしようものなら風邪を

引きかねない。

 そんなぽかぽか日和を近くの木にもたれかかりながら少し待っていると私を発見した

先輩は少し慌てて走ってくる。息が上がっている。手を膝について少し休む先輩は

肩が上下に揺れていた。どれだけの距離を走ったのだろうか。

 

「そんなに慌てなくてもいいんじゃないですか?」

「な、何を言う。女子を待たせるわけにはいかないよ」

「先輩も女子じゃないですか」

 

 おどけている先輩に少し微笑みながら私は呼んだ理由を聞き出そうとすると先輩は

何気ない世間話を始めてきた。仮にも生徒会に所属している人間。用もなく人を

呼び出すとは思えない。この何気ない会話の内容から、その話をどう持ってくるのか。

 

「それで、あのコンビが面白くてね」

「あの・・・先輩」

「で、ゆきのんは最近どうよ」

「先輩・・・!」

「は、はいぃ・・・!?」

 

 私の少し力の入った声に一瞬びっくりした先輩は変な声を出していた。私は疑いの

眼差しで半ば呆れた顔をしながら先輩に問いかけた。

 

「まさか、そんな話をするために呼び出した訳じゃないですよね・・・?」

「ぎくっ・・・」

「先輩?」

 

 まさか、口でぎくっとか言う人がいるとは思わなかったが、先輩が少し後退るので

じりじりと私も間合いを詰めていくと、やがて観念したかのように情けない声を上げる

先輩。

 

「ご、ごめん。だって・・・ゆきのんと喋りたかったんだもん・・・!」

「はい・・・?」

「ここんとこ生徒会の仕事が溜まって忙しかったから、雪乃分が足りてなかったの・・・」

「そんなイジケルような仕草をしても、全然似合っていませんよ?」

 

 はぁ、まさか。みんなのアイドルで王子様役な美沙先輩がこんな子供のような言葉を

出すとは予想がつかなかった。溜息を吐きながら私はさも当然のように先輩に一言告げる。

 

「わざわざ人を使わなくても、私の教室に来ればいいじゃないですか」

「・・・考えてもごらんよ」

「はい?」

「大規模なファンクラブができている私に特定の人物に会いに来てると知ったら

どうなる?」

 

 言われた通りに考えると、絵にしたくないような地獄絵図が完成してしまった。

そういえばここの学園の人数はかなりのものでその大半をファンクラブの会員になって

いる生徒がいると考えると背筋がゾッとした。私としたことがとんだ考えなしなことを

してしまった。

 

「・・・地獄絵図ができますね」

「でしょう!?」

「だからって、わざわざ会いに来ることもないでしょうに」

「もう、だから!私には必要な養分なの!頭使う人の糖分補給するようなもの!」

「何なんですか、その例えは・・・ってぎゃあっ!」

 

 すると、不意を突かれて先輩に抱きつかれて変な声を出してしまった後、私は必死に

私の胴の後ろに手を回している先輩の手を解いた。

 

「急に抱きつかないでください!」

「ゆきのんの匂いくんくん」

「人の匂いを嗅がないでください・・・!」

 

 そんな言うことを聞かない犬を叱るように静かに怒ると、急に視線を感じて我に返った

私はこの中庭の出入り口を見やるがぽつぽつと生徒が見えるから、わからなかった。

いきなり、抵抗をやめた私に先輩は気になって私の体に埋めていた顔を上げて聞いてきた。

 

「どうしたの?」

「い、いえ・・・誰かに見られていたような・・・」

「まさかぁ、この場所でこの位置はなかなか人には見られないことで有名なんだよ?」

「・・・」

「どうしたの?」

「先輩、有名な時点で人に見られないなんてことありますか?」

「あっ・・・」

 

 肝心な所で少し抜けている先輩に苦笑しながら先輩の体を私から引き剥がすと、まだ

物足りなさそうにぶぅぶぅと何やらボヤいている。私も少しシワになった制服を軽く叩い

て直すと、私は先輩を諭すように呟いた。

 

「そんな先輩が誰かに見られたら幻滅されますよ。だからもう、帰ってください」

「ゆきのんが、生徒会にはいってくれれば、こんな面倒なことしなくて済むのに〜」

「しつこいですね・・・」

「・・・でも、まぁ。これ以上しつこくして嫌われるのも嫌なのでこの辺で退散しますか」

 

 私は頭を抱えてやや、前のめりになる。本当に私に会いに来たいがための行動だったの

か。こんな後輩を持つ生徒会長は大変だなぁと少し同情してしまう。そして、帰ろうと

した矢先に思い出したかのように、先輩が一度私の所へ戻ってきて語りだした。

 

「そうだ、学園祭についてなんだけど」

「今回の中で一番大事な話じゃないですか・・・!」

 

 悪気なく笑顔で返す先輩に私は軽く雷を落とした。テヘッと言ってぺろっと舌を出す

仕草をした先輩に私は優しくも冷たい眼差しを先輩に向けながら話を始めたのだった。

今やりたいこと、クラス内で上がってるモノ。クラス内では無難に喫茶店や出店。

遊び感覚のあるお化け屋敷みたいなものまである。しかし、そんな内容だからか、それか

やる気がないからこその、この内容なのか。私はあまり納得していないこの現状を

先輩に話した。話しているうちに、先輩のふざけていたことに対してはすっかり忘れて

普通の表情に戻っていた。それを聞いた先輩は先ほどとは違い、少し真剣な眼差しを

私に向けて一緒に考える素振りを見せてくれる。普通にしているとかっこいいのにな。

 

「なるほど・・・。で、雪乃ちゃんは何をしたいのかな?」

 

 呼び方がふざけてる時と、変わるのが何だか不思議な気持ちになる。そんな私に

気付いてか気付かずか、先輩は私の意見を聞きたがっているようなので私はその質問には

即答した。

 

「わかりません」

「え?」

「まだ決まってません」

 

 決まっていないにもかかわらず、納得できていない。まるでワガママだが何か特別な

ことをしたい。他の学校ではしていても、このお嬢様校ではあまりやっていないことを。

ただ、まだ何も浮かんでいないから何ともいえないだけだ。

 

「そう」

「はい」

「だったら資料室でも使う?」

「はい?」

 

 同じ言葉でも発音がひっくり返るようなおかしな声だったが、先輩は至ってマジメに

聞いてきた。

 

「生徒会に話を通してくれれば、図書室の奥にある資料室の中に入れるけど」

「え、あっ・・・」

 

 またとない機会。私はこういう気になったことを調べるのが何よりの幸せなのだ。

資料室とか聞いてしまうと、うずうずしてしまう。そんな私を見てはにかむ先輩。

 

「放課後、覗いてみる?」

「は、はい・・・!」

 

 先輩の誘いに気合が入る私はそのまま興奮した声を少し抑えて返事をした。それまで

の時間を過ごすのは少ししんどく感じるほど待ち遠しかったのだ。待ち合わせ場所は

生徒会室前。早めに教室を出て待ち合わせ場所まで早歩きで行くと既に先輩は腰に手を

当てて待っていた。

 

「おっ、来た来た」

「お待たせしました」

「じゃっ、行きましょうか」

 

 あっさりとしたやりとりをして、私と先輩は階段を一番上まで上ってから奥の方へ

歩いていくと図書室と書かれたプレートが見え、その中に二人で入っていく。

そして、先輩が図書委員に話をしているのを眺めつつ、古い本が多く並んでいるのだろう。

古き良き匂いが私の鼻をくすぐる。柱に寄りかかりながら待っていると先輩は話がついた

のか私のほうへ歩みを進めてきた。

 

「中に入りましょうか」

「はい」

 

 私は表情を固くして入る。一般の生徒も入れるとはいえ、生徒会絡みの場所なのだから

よほど大事な資料もあることだろう。そう考えると、無駄に力が入るものである。

 だが、私のそんな考えも少しわかるのか、苦笑しながら先輩は私に気を遣って。

 

「そんなに、緊張しなくてもいいから」

 

 と言ってくれた。

 

 中に入ると、鉄製のブックラックが部屋中に敷き詰められていて、中にある全てが学園

に関する資料が置いてある。およそ10年位で埋まるというのだから、その毎年の膨大な

データ量に驚かされる。それを簡略化してまとめたのが生徒会室に置いてあるらしい。

 

 毎年の学園祭に関する詳細を参考に素早くページを捲っていく。しかし、2時間ほど

して、何も感じられるものがなかった私は先輩に声をかけて出ることにした。あまり

長居をしても関係者に悪いというのもあったし、何より、みんな同じような内容に

参考になるものがなかったというのが正直な話であった。

 

 そして、帰りの準備をしてから、先輩と一緒に歩き、校舎と寮の分かれ道の所で

先輩は夕日の逆光する所に立って聞こえるか、聞こえないかの声量で私に声をかけた。

 

「自分のやりたいことをやればいいよ」

 

 私が返事をするかしないか、が訪れる前に先輩は少し小走りで私の前から去っていった。

その言葉は私を信用してくれているから、と取っていいのだろうか。とはいえ、やりたい

ことと言っても、限りがある。何を本当にやりたいのか、それを考える時間が必要である。

 

「どないしたん?」

 

 部屋に戻って顔からベッドに倒れる形で唸っていると、軽く心配したような言葉を

かけてくる瀬南。私はうつ伏せになっている状態から一度立ち上がって制服から私服に

直してもう一度、仰向けになって横になった。

 

「いやね、学園祭のことなんだけど」

「あぁ、どんなんやりたいか決まったんか?」

 

「いや、まだなんだけど」

「したら、適当なモンでええんちゃう?」

 

「せっかくの年に一回のイベントだもん。せっかくだからみんなが楽しいと思える

モノにしたいじゃない」

「とはいえ、あまりハリキリすぎると周りからもヒンシュク買うしなぁ〜」

 

 瀬南の言うことも一理ある。あまり一人だけがんばりすぎても周りが引いてしまう。

それでは意味が成さない。私はその辺との兼ね合いや自分が何をやりたいかわからない

まま、翌日を迎えた。

 またも、どこかの生徒が私に言伝に来て、似たような内容で私は心の中で溜息をついた。

まさかの二日連続とは。私が先輩のファンクラブ会員達に目を付けてられていると

知っての行動なのだろうか。詳しい内容まで知らされていなかったけど、多分くだらない

ことなんだろうなぁと思えた。

 放課後まで、今度はじっくりと頭を使って久しぶりに勉強ができた気がする。そして

ほとんどの内容が頭に入った。こういう時はすごく気持ちがいいものだ。気分が良いまま

先輩の待つ生徒会室まで歩いていると急に腕を引かれて人気のない廊下に連れて行かれ

壁を背にし、顔の横に手をつかれる。目の前には以前に私をやっかんでいたファンクラブ

会員の一人である。えぇっと、影代さんだったっけ・・・? 影が薄いからやや記憶に

入っていない。そんな人が憎しみの顔ではない、どこか寂しげな表情で私を複雑な眼差し

で見つめていた。

 

「どうして、あなたはそんなにあの人に好かれるの・・・?」

「・・・」

 

 何とも言いづらい雰囲気。何を言ってもダメそうな状況。息の詰まる空気が漂う。

でも、彼女の言いたいことはなんとなく伝わってきた。それだけ、先輩のことが

好きなのだろう。聞いている私も切なくなってきてしまう。だから何かを言おうと

していたら彼女はもう一度私の腕を強引に掴んでずんずんっと力を込めて歩き出す。

どこへ連れて行かれるのだろうか。普段は通らない道を進み、建物自体もやがて

古くなっているように感じる。所謂、旧校舎ってやつだろうか。その中の一つの部屋

に私は入らされた。埃っぽくて日が当たらない部屋だが、どこかで嗅いだことの

ある匂いがする。すると、廊下からこぼれていた光が閉じて闇に染まると、さすがの

私も少し焦って扉を叩く。すると向こうから消えるような声で。

 

「美沙先輩との時間が終わるまでそこにいなさい・・・。一度、辛い目に会うといいのよ」

 

 と、私にではなさそうな口調で辛そうに呟く彼女の足音は徐々に遠のいて気配を完全に

感じなくなった。さすがにこのままだと辛い私は、電気のスイッチがどこにあるかを

私は手探りで探していると、何か硬い突起物に手がぶつかった。上に向いているソレを

降ろすと少し時間を置いて辺りを薄暗く照らしていた。

 よほど古い蛍光灯を使っているのか、端がそれぞれ黒くなっていて、やや灯りが

チカチカしている。長居をすると、こちらまでチカチカしそうだ。私は辺りを見回すと

木製の本棚のように大きいのが並んでいるのを見つけると、その場所を眺めた。

すると、そこは前日に入った資料室より遥かに古い資料が並んでいるのを見つけた。

いつの時代のものだろう。おそらくは、使い物にならないと踏んで捨てるのに躊躇した

モノたちがここに集められたのだろう。

 積もっている埃を払いながら私はそれらを読むことにした。幸いに時間もたっぷりと

あるし、変に重要視されていない場所のせいか、居心地がよかった。近くにもちょっと

オンボロだけど椅子あったので、一つ気になる資料を手にとって椅子に腰をかけて

じっくりと読むことにした。その時、私はすっかり先輩との約束を忘れていたが、先輩は

今どうしているのだろう。

 

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―――――――――――――黒田美沙視点――――――――――――――――

 

 どうせ誰も来ない部屋だから鍵はあると思って職員室に行ったら誰かに借りられていた。

そして、時間もなかったからとりあえず雪乃ちゃんとの待ち合わせの場所に立っていた。

30分経過しても雪乃ちゃんは来ない。1時間経過しても来たのは生徒会の後輩だけだ。

 ここまで遅く来たことは今までに一度もなかった。本来なら携帯を鳴らしてはいけない

規則だが、何やら嫌な予感がしていた。しかし、携帯を何コールしても一向に出てこない。

簡単なメールも送ってはみたが反応はない。どういうことなんだ。その時に生徒会室から

後輩二人が出てきて、深刻な表情をしていたのか、心配させてしまったようだ。

 

「どうかなされたのですか?」

 

 二人のうち、大人しい楓が私に声をかけてきた。私は不安に思っていたことを一度は

口に出そうとしたことを噤んで塞いだが、もし雪乃ちゃんの身に何かあったらと考えたら。

私は二人から視線を逸らしていた体を二人の正面に立たせ、普段は表に出さない表情で

楓と裏胡に現状の説明を話した。

 

「まさか・・・」

「何か思い当たりが?」

 

 楓が何かを知ってそうなのを裏胡が問いかけた。楓はゆっくりと記憶を辿るように

目を瞑って考えていたところを、裏胡は急かすものだから、私は楓の邪魔にならないよう

裏胡を腕で制止させた。すると、その後すぐに楓は私に向かって言葉を投げかけた。

 

「私と澤田さんのクラスと同じ影代さんという生徒が借りていったと聞きました」

「その子は!?」

「残念ながら私が知っている限りではどこにいるかまでは・・・」

「役に立たないなぁ・・・楓は」

 

 申し訳なさそうに謝る楓に文句をつける裏胡。今のは当然、裏胡の方に非があるのだが

謝ろうとしない裏胡にキレる楓。この二人はいつもこんな調子だ。私は溜息を吐いてから、

いるかどうかはわからないが、探す価値はあるだろうと、二人を置いて先に走って、楓に

教えてもらった旧資料室へと急いで向かった。部屋の前には少し狼狽えている少女がいた。

少女の手には鍵が握られている。

 

「どうしたの!?」

「か、鍵が・・・鍵が・・・」

 

 少し震えている手から鍵を受け取って差し込んで回そうとするが何かがひっかかって

いるのか、鍵穴が壊れてしまったのか、どんなに力を入れても回るような気がしない。

さすがの私も少し慌ててしまう。もう少ししたら部活の子たちも下校するような時間帯だ。

 

「中に誰かいるの・・・!?」

「さ、澤田さんが・・・」

 

 私の気迫に怯える女子生徒を見て思った。そうか、もしかして彼女が楓の言っていた

女生徒か。色々言いたいことはあるが、まずはここを開けて雪乃ちゃんを確認することが

先決。ここは、外からしか鍵が開け閉めできない場所だ。だから向こう側から開けて

もらうことはできない。

 

「澤田さん・・・!いる!?」

 

 だが、内側は真っ暗で返事も戻ってこない。私の不安は募るばかりだ。そんな時、後ろ

からケンカしながらも走ってこちらへ向かってくる楓と裏胡の姿があった。ケンカ途中

でもこんな動きができるのか、何たるコンビネーション。私がそう思っていると楓が

私に聞いてきた。

 

「どうでした!?」

「それが、鍵が使い物にならなくて困ってるのよ・・・」

「中には誰かいました?」

「それが返事が戻ってこないの」

 

 なるべく平静を装って話をするが、解決策が見つからずにいると、頭を使うことに

疲れたのか裏胡はイライラが頂点に達したのか、すごい唸り声を上げて叫んだ。

 

「こんなオンボロのドアなんて蹴破ってしまえばいいんですよ!!」

 

 私と楓の制止を振り切って裏胡は渾身の体当たりをドアにぶつけると、痛んでいた木製

のドアは耐え切れなくなり、内側の方へ倒れていった。

 

「ちょっと、裏胡!もし、ドアの先に誰かいたらどうするの!」

 

 ドアを壊した裏胡にげんこつを与える楓。だが、運良く、ドアの倒れた場所には誰も

いなかった。問題はその先に椅子の前に細くて綺麗な足が見えたことだった。

ということは、椅子に誰かが座っているということだ。暗くて返事がないというのを

考えると嫌な予感しか感じなかった。私はその椅子に座っている人物に向かって

走り出していた。

 

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――――――――――――――――澤田雪乃視点―――――――――――――――

 

 はっ、つい眠ってしまったようだ。私は目を瞑りながら思考が戻っていくのを感じた。

ちょうど、参考になりそうな資料を見つけて読み耽っているうちに、ついに寿命が切れた

蛍光灯が辺りが闇に包まれてからすることがなくて、つい睡魔に襲われてしまったようだ。

それにしても、何だか周囲が騒がしい。私は目を擦りながら開けると待ち望んでいた光が

ドアの方向から漏れているではないか。だが、光の当たり方がおかしい。

 普通は開いている所から光が当たるはずなのだが、今はドアの形状と同じ範囲に

灯りが当たっているではないか。これはドアがない状態と同じってことだ・・・。

ドアが・・・ない?

 

「どういうことなの・・・!」

『うわーーーーーー!!出たーーーーーー!!』

「ひゃっ・・・!?」

 

 頭に入る情報量の多さに驚きを隠せない私は大量に聞こえた叫び声に派手に反応して

いつもより高くて甘い声で軽く悲鳴を上げてしまった。恐る恐る顔を上げると、起きた

ばかりと灯りの逆光でよく見えない。だが、かろうじて人が4人いるのがわかる。

ドア付近に二人、そして、本棚の部分で一人、押し付けられているような・・・。

すると、体に軽い衝撃が走る。本棚の方で一人を押し付けていた方が涙ぐんだ声で

抱きついてきたのだ。

 

「よかった・・・!」

「え、へえ?」

 

 少しばかり、目が慣れてきたら、そこにいた人たちは私がよく知っている生徒ばかり。

柊裏胡さんと倉持楓さん。そして私を閉じ込めた影代さん。影代さんは気のせいか体を

震わせながら涙ぐんでいるように見えた。

 

「どうしたんですか・・・この状況」

 

 生徒会二人が心底驚いたまま固まっていて、影代さんも話す状況にもない。だから

私に抱きついてきた先輩に私は声をかけていた。

 

「どうしたも何も、雪乃ちゃんの呼吸がひどく弱っていたから・・・!」

「あっ・・・あ〜・・・」

 

 初めてこういう状況に遭遇した人はみんな揃って携帯電話で救急車を呼ぼうとする人が

ほとんどだったが、ここにいる人たちもそういう考えの持ち主だったか。

 

「私・・・たまに呼吸が止まったりするんですよ・・・」

「はぁ・・・!?」

「皆さん、ごめんなさい。心配かけてしまったようで・・・」

 

 状況があまりよく飲めなかった私は帰りの道中どんな状況になっていたのかを

恥ずかしそうに俯いて、あれから喋らない先輩以外の他の3人から事情を聞いた所

私が遅かったことで先輩が心配して、私の様子がおかしかったことに気が動転した

先輩がすごい剣幕で影代さんに詰め寄ったとか。あまりに怖かったのか某マンガの

主人公のように真っ白になっているように見えた。可哀想に・・・。それにしても・・・。

 

「先輩・・・」

「あう・・・」

 

 私の言葉に怒られるのかと、思ったのかビクッと強めに反応する先輩。そんな先輩の

前に立って私は礼をした。

 

「心配をおかけして申し訳ございませんでした」

「へ?」

「少し感動しちゃいました」

 

 私のことでこんなにもいっぱいいっぱいになっている先輩は初めて見た。なのに、

こんなに頑張った先輩を誰が叱れるだろうか。私は精一杯のお礼を述べると、先輩は

慌てて私の行動を止めさせた。私は元の姿勢に戻すと視界に入った影代さんへと向ける。

怯える影代さんに私は声をかけた。なるべく、優しくかけたつもりだが、本人は過剰な

までにびくついている。

 

「影代さん、ありがとう」

「・・・え?」

「おかげで学園祭の出し物について、少し考えがまとまったわ。あの場所で」

「・・・」

 

 聞いてか聞かずか、影代さんは俯くような感じで頷くとぽつんっぽつんと、少しずつ

床が濡れていく。泣いているのだろうか?

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

「いいわよ、もう。過ぎたことは・・・それよりも、もうこんなことしないように」

「は・・・はい・・・」

「風邪引きたくないから」

 

 この時期のこの時間帯はとても寒いんだからね。と付け足すと冷静になっていた

柊さんと倉持さんにツッコミを入れられた。だが、場を和ませようとした行動も不発に

終わってしまったという。その話はあっという間に校内中に知れ渡り、私にちょっかいを

出そうという気持ちを持つ生徒の噂はすっかり消え失せていた。それからというもの、

私はクラスメイトの倉持さんと、親友の柊さん。そして、瀬南と美沙先輩とで学園祭の

出し物への企画の相談をしながら着々と事を進めていた。もちろん、他のクラスメイト

には気付かれないように。最終段階でのサプライズ発表というやつだ。

 

 風が少しずつ冷たくなっていく、葉も色を変え、青い空の高さも変化しているように

感じる。季節の移り変わりを肌で感じつつ、私は頑張っていた。学園祭はもう間近だ。

 

説明
過去作より。高校生編。雪乃が割とタフに感じるのは親から
受け継いだ強大な運と度胸のおかげ。
体自体はけっこう弱いのです。
今回も嫉妬する生徒がちょっかいを出してきますが、
どうなることやら。少しでも楽しんでいただければ幸いです
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