うそつきはどろぼうのはじまり 11
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いまいち事情が飲み込めないまま、アルヴィンはとんぼ返りでカルハ・シャールに舞い戻った。

帝都から、この活気溢れた港街までの距離は大したものではない。ワイバーンの足なら一日程度で辿り着く。現在進行形で請け負っている荷物は確かにあるものの、他の荷を運ぶついでに立ち寄っても、納期には充分間に合う。

いつものように執事の案内で屋敷を訪れると、執務室にはドロッセル一人だけだった。丁度仕事の切れ目だったらしく、いつもの事務椅子ではなく、脇の長椅子に腰掛けていた。男の来訪に気づき、茶器を置いて立ち上がる。

「あら、珍しいですね。こんなに短い間隔でいらっしゃるなんて。何か火急の用件でも?」

不思議そうな顔で問われ、アルヴィンは無言で肩を竦めた。

確かに、自分がこんなにも短期間のうちに同じ街を訪れることは滅多にないことである。彼の航路は、ある程度巡回する順序が決まっている。その方が効率が良いからだ。

届け先に荷を運び、その足で新たな顧客を見つける。それを世界各地で繰り返すことで、彼の仕事は成り立っている。

「今回は単なるお使いだ。ガイアス王とローエンが、あんたの返事を首を長くして待ってるよ。ご英断を、だとさ」

きちんと宰相の言葉まで伝えてやると、ドロッセルは、そう、と呟いたきり黙り込んだ。

「どうかしたのか?」

「いえ・・・。ただ、私に責任を投げつけておいて英断だなんて、ひどいことを言うものだなって。陛下はそんなことを言うような方には見えなかったのに・・・」

まるで前王の時代に戻ったようだわ、と領主は恨み節を言う。

これは相当根が深そうだ、と壁に凭れつつアルヴィンはこっそりと息をついた。

あの闊達な女領主が、ここまで沈鬱な表情を浮かべるのだ。イ・ルファン出立間際、ローエンが言っていた、リーゼ・マクシアの未来が掛かっているという言葉も、あながち大げさだとは言えまい。

再び瞑目しかけた彼女だったが、すぐさま物思いを打ち払うように苦笑した。

「ごめんなさい、忙しい時に何度も足を運んで頂いて。お願いする返信なのだけど、まだ書き上がっていないのよ。エリーはまだ答えを出せないみたいで」

当然よね、と領主は嘆息した。

「急に結婚しろだなんて。エリーじゃなくたって悩むわよ」

運び屋は思わず壁から背を離した。無意識のうちに、腕組みも解かれる。

「おい。今、結婚、って・・・」

ただならぬ男の様子に、ドロッセルの美しい眉が顰められた。

「ちょっと待って。アルヴィンさん、もしかして何も知らされていないの?」

「何にも」

男は頷く。

「ローエンからも?」

「ああ」

ドロッセルは呆然と首を振るしかない男を、まじまじと見つめた。信じられないとばかりに驚愕をいっぱいに貼り付けていた美貌が、見る見るうちに厳しいものに変わってゆく。

「・・・どういうつもりなのかしら、首都の方々は。仮にも元旅仲間の将来に関わることだというのに・・・」

「教えてくれ、領主ドロッセル。エリーゼが結婚するって、どういうことなんだ」

アルヴィンの切羽詰った問い掛けに、領主は少しだけ躊躇いを見せた。だがそれも束の間に終わる。

「いいわ。陛下やローエンが、どうして貴方に知らせなかったのかは分からない。でも私は、貴方は知っているべきだと思うから」

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