白桃
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隊長もお一つどうですか?

差し出されたソレは、甘くて瑞々しい香りを放っていた。

 

 

『ありがとう』と言い、受け取った皿の上には2切れの白桃。

そのつるんと光沢のある様に、嗜好がグッと首をもたげる。

戦闘の合間のちょっとした寛ぎのひと時。

たまたま食堂に集っていたシンやレイ、そしてルナマリアやメイリン等へと、給仕場から声がかけられたのはほんの数分前の事だった。

 

『実は、食べごろの桃があるんだけど・・・ちょっと数が少ないんだ!良かったら、お前さん達で食べないか?』

 

日頃命を張ってくれている戦闘要員さん等に、俺からのささやかな感謝の気持ちを込めてのプレゼントだ!

そんな事を言って、調理場で手早く皮を剥き人数分に切りわけ皿に乗せ、俺達の元へと持ってきてくれた1人の若い調理員。

彼が、その実ルナマリアの事を酷く気に入っているのは、恐らく周知の事実だ。

まあ、そんなちょっとした邪念を感じつつも、手渡された桃の皿をニッコリと笑顔で受け取り、『いつもありがとう!』とハキハキとした口調で礼を述べたルナマリアに、俺は内心軽く微笑んで。

けれど、その笑顔のままトテトテとこちらに一直線に向かってきた彼女に、今度はえ?と驚いた。

 

「隊長もお一つどうですか?お好きでしたら、ですけれど。」

「あ・・・ありがとう。」

 

皿を受け取った俺に、ルナマリアは満面の笑みを向ける。

その背後、どうにも黒いオーラを放つ白い料理服姿の男を感じて、思わずパッと手元に目線を落とした。

いわれの無いやっかみは受けたくは無い。

ただでさえ、自分はこの艦で浮いている存在でもあるのだから・・・。

 

「うわ!甘くて冷たくて美味しい〜♪」

 

ハイハイっとシンとレイに桃の皿を手渡すと、ルナは早速椅子に腰掛け男からの捧げ物を口にしていた。

その様が本当に生き生きとしていて、見ていて飽きない。

ただ実際に会話をするとなると、ちょっと疲れる事しきり。

要はこのメンバーのムードメーカーという事なのだろう。

其処に居てくれるだけで、場が盛り上がる。

そんな事を思いつつ、俺は脇に添えられた果物フォークを手にした。

つぷりと白い果肉に突き刺して、一つを口へと運んで・・・。

 

『お前っ・・・今、何か考えただろう!? 』

 

瞬間に脳裏に蘇ってきた過去の一場面。

それに、思わず手が止まった。

そうだ・・・あれは?

確か、去年の夏の事だったか?

場所はアスハ邸の一室、月明かりの素晴らしい晩だった。

 

『カガリ様、デザートに桃は如何です?』

 

彼女の乳母であるマーナさんが唐突にそう尋ねてきて、カガリは嬉しそうに首を縦に振った。

そして数分後、台車に乗せられやってきたのは仄かに甘く香る籠に乗った薄桃色の果物。

それを目の前で手早く剥いて、皿に切り盛ってくれたマーナさん。

 

『あ!そういえば・・・桃はお前の好物じゃないか!』

 

マーナさんから桃の皿を受け取りつつ、カガリはそこでハッとして俺の方を嬉しそうに振り向いた。

そうして一つをフォークで突き刺し、俺の方へと差し出してきて・・・。

 

『ほら!味見してみろよ!』

 

小首を傾げて自分を見つめた彼女に、正常男子の俺はクラリと脳が揺れていた。

自分の好みを覚えていてくれた事もそうだが、心の中で特別な感情を抱く女子からこういうシチュエーションを取られれば、男としては嬉しいもの!

ただ・・・そこに監視員たる乳母の姿さえなければ良かった。

 

『ありがとう。』

 

努めて冷静を装い口を広げれば、ソッと入り込んできた冷たい果肉。

その心地良さにホウッと胸が寛いで・・・。

 

『美味しいか?』

 

目の前で自分の反応をジッと見つめる彼女に、俺はまた心拍数を上げながら頷いた。

ああ、とても美味いぞ・・・と。

やがて嬉しそうに自分の口へと桃を頬張った彼女は、その実によく熟れた味に舌鼓を打つ。

そしてマーナさんが剥いた一つ目の桃をペロリと平らげた。

 

『もう一つ剥きましょうか?』

 

尋ねた乳母に、カガリは首を縦に振った。

そうして何気に一つの桃を手に取って。

 

『桃ってさ・・・人の肌みたいだよな?』

『え?』

『この柔らかい外皮とか、触ってると気持ち良いし。』

 

ナデナデと桃を擦る彼女を見つめながら、俺は言われてみればそうかもしれぬと思った。

人の肌、それも・・・そう、女性の・・・。

そこで思わず、何故か俺の目はカガリの胸元へと向かう。

桃の外皮を例えるならば・・・?

 

『お前っ、今、何か考えただろう!?』

『っ・・・え!?』

『何となくだけれど・・・そんな気がする!』

『いや、俺はっ・・・別に、その!!』

『その・・・?』

『・・・。』

『このスケベ・・・!』

 

その触感は柔らかくて心地良い、けれど同時に脆くて壊れそう。

仄かに香る甘い匂いも、そのえも言われぬ瑞々しさも、彼女の肢体に良く似ていると思えたから・・・。

乳母の面前で『スケベ』と言われた事に、あの時の俺は酷く狼狽したものだった。

とはいえ、今となってはあれもまた彼女との良き思い出に感じる。

 

 

 

「・・・どうしたんですか?」

 

気がつけば、自分の方を不思議そうな顔で見つめているルナマリアが居た。

それにカッと胸の奥が熱く火照り、けれど俺は無表情を装う。

 

「いや、別に・・・。」

 

もう一切れを口の中に収めて、そうして皿を返却場所へと持っていく。

御馳走様でした・・・と告げた俺に、調理場からはキッと強い眼差しが返ってきたりもした。

だがそれを気づかぬフリで遣り過ごし、独り先に自室へ戻ると言い食堂を出る。

 

・・・元気で居るのだろうか・・・?

 

独り残してきてしまった彼女の事を、今更ながらに案じてみる。

セイラン家との政略結婚から、国家元首拉致誘拐というとんでもない状況へと発展した彼女の現状。

恐らく、キラと一緒にAAに居るのであろうから・・・。

 

ふと胸元に手をやり、そこにある固い石の感触を探った。

きっと、大丈夫。

彼女は、きっと・・・大丈夫だ。

 

・・・いつか・・・君の元へと戻る!

 

俺は口の中に残る桃の味を感じながら、胸にそう強く思い刻んだのだった。

 

説明
SEED DESTINY間、アスランがミネルバに配属されてすぐの頃のお話です。
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SEED DESTINY アスラン カガリ  

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