両想いストライカー【おまけ】
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「若者は宵っ張りだから」

「有り余る体力を持て余しているんだよ」

 何故か突然、椿が夜にこっそりと行っている夜間練習の話題をしている。

 本人は秘密のつもりでいるようだが、チーム内に知れ渡っていた。

「オーバーワークにならないものかな」

 堺は、呆れ声を上げながらくじを引く。

「あれだけのスタミナがあるなら、大丈夫じゃないの」

 隣に立つ丹波が、根拠のない返事をしながら同じようにくじを引いた。

 今、チーム全員で部屋割りのくじ引きをしている。

 この日から始まった夏キャンプの練習内容は、達海のアイディアによるものであった。選手たちは、これまで経験したことのないものであったため、疲労困憊である。

 そして、明日は明日で予測のつかない練習をすると暗に言われている。そのため、選手たちは少しでも体力を温存したい。疲れた体を回復させたいと、思いながらくじ引きをしている。

 くじ引きで運悪く、いびきの大きな人間や寝相の悪い人間とは同部屋になりたくない。それに男と同じ部屋にはいられないと、公言している厄介な男も避けたいところだ。

 丹波や堺のようなベテランですら、気まぐれな王子様との相部屋は避けたいと、思っている。

 二人は、自分たちが引いたくじの内容を見せ合った。

「この数字は、部屋番号かな」

「そうみたいだな」

 額を寄せ合って確認している隣で石神が口を開く。

「あ。椿と同じ部屋だと、夜中こっそり抜け出すかもしれないね」

 そう言いながら石神は、何の悩みもなさそうな顔をしてくじを引いていた。

「俺は、寝ているから気付きそうもないけど」

「丹波さんと違って、俺は眠りが浅いタイプだから」

 繊細だし、と石神は続けた。

「どこが繊細だ」

 堺が眉根を寄せて嫌そうな顔をしているが、石神は柳に風と、言わんばかりに涼しい顔で受け流した。

「でもさ。椿だと変に気を遣われて、こっちが気を遣いそうだなぁ」

 ぽつりと丹波がつぶやく。

「確かに椿って、俺たちが同じ部屋ってだけでテンパりそうだな」

 石神の言葉に堺は、思わず苦笑してしまう。確かに人付き合いの苦手そうな椿は、年上を相手した時にひどく慌ててしまいそうだな、と思う。

 他の若手も同じように気を遣うだろう。だが、基本的にどんな選手も体育会特有の上下関係で育ってきているため、ある程度は慣れているはずだ。

 しかし、椿の場合は気持ちが空回りしてうまくいかないところばかりが想像できた。

 三人は自分たちが引いたくじの数字を見比べた。

「俺たち、見事にバラバラだねぇ」

「気を遣う若手が増えるってことだな」

「俺たちが、気遣う相手はあまりいないからな」

「昔は、いろいろ気を遣ったからいいんだよ」

「お前が気を遣っているところを見たことないぞ」

 そう言い合いながら、くじに書かれた部屋に散って行った。

 

説明
冬コミケ新刊のおまけ無料配布ペーパーです。
表紙イラストのイメージに沿った可愛い世良と堺さんのお話です。
冒頭部分のみのアップです。
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