そらおと/ZERO 第一章
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 眼前には青い空が広がっている。

 どこまでも遠く、遥かに続く空に吸い込まれそうだ。

 この空の向こうに彼女はいるのだろうか。

 

 彼女。

 忘れられないその名前を口にしなくなって、どれくらいの時間が経ったのだろう。

 一瞬のようでもあったし、とてつもなく長い時間だった気もする。

 

 空は遠く。

 それは自分と彼女との距離を示すかのよう。

 それでも、今でも鮮明に覚えている。あの出会いと別離を。

 

 今、自分はこの世界から旅立とうとしている。

 なら、もう一度くらいは口にしてもいいだろう。

 

 決して忘れられない。忘れないと誓った彼女の名を―

 

 

 

 

「―うむ?」

 気が付いたら布団の中だった。

「…あー」

 いまいちすっきり目覚めていない。おかしな夢を見たせいだろうか。

「誰だっけ…?」

 夢の中で自分が求めていた誰か。忘れないと誓った誰か。その名前がどうしても出てこない。

「まあ、いいか」

 どうせ夢だし忘れるという事は大したことじゃないだろう。

 

 そう考えて、なんとか自分をごまかした。

 

 

 朝飯はいつも通り、晩の残りだ。

 この家には自分一人しか住んでいない。その中でわざわざ朝飯を作るのはどうしても億劫になる。

 割と広い家だけに自分一人というのはもったいないと思うけど、住む人がいないんだから仕方ない。

 さっさと済ませて制服に着替える。後はのんびりと、いつも通りの時間に家を出るだけだ。

「………うーん」

 起きてからというもの、どうも頭がすっきりしない。なにかが引っかかっているような違和感。

 学校に着くまでに晴れてくれればいいんだけど。

 

「智蔵君、おはようございます」

 

 ――――。

「智蔵君?」

「―あ、ああ。風音、おはよ」

 声をかけられてから数秒。ようやく思考が追いついた。

 そうだ、涼やかな音色を奏でる可愛らしい鈴のアクセサリーをつけた彼女は風音日和。俺の幼馴染じゃないか。

 

 そして俺は桜井『智蔵』。

 風音の事は元より、自分の名前すら意識からすっぽ抜けていたなんてどうかしてる。

 

「どうしたんですか、調子が悪そうですけど…」

「んー、今日はちょっと朝からボーっとしちゃうんだよな」

「風邪ですか? 季節の変わり目ですし寝冷えしたとか」

 季節はもう春。

 日中が暖かくなって久しいが、まだ寝冷えするくらいの寒さは残っている。

「いや、風音の声を聴いてすっきりした。ようやく調子が戻ってきたみたいだな」

「ならいいですけど、無理しないでくださいね?」

「おう、心配すんなって」

 風音に言った事は嘘じゃない。こうやって幼馴染と話してる間にようやく目が覚めた気分だ。

 空は青く。心地よい春風が吹く通学路。

 俺はいつも通りに歩いていく。

 

 もう一度空を仰いだ。理由もなく、今日は特別な事が起きる気がした。

 

 

 

 

 そらおと/ZERO 第一章「桜色の出会い」

 

 

 

 

 

 風音と歩くこと数分、空見中学校の校門が見えた。二人でその校門をくぐる。

 俺は成績こそ万年低空飛行だけど、学校は気に入っている。授業自体は退屈だが学校そのものは好きなのだ。

「あ、桜井君」

「よう見月。お前も早いな」

 教室の前でさっそく理由の一つに遭遇した。

 

 見月そあら。半月前に都会から転校してきた優等生である。

 

 詳しい事情は知らないけど、家庭でいろいろあったらしい。

 少し気になるけど、それほど親しくない俺が突っ込んだ事情を聞く訳にはいかない。

 それよりも俺が気になるのは彼女の整った容姿とエロい体だ。

 なに、不潔?

 馬鹿もん、見月の体は健全な男子ならば興味を持ってしかるべき素晴らしいものなのである。

 なので俺の嗜好は正しい。異論は認める。

「桜井君も早いよね。………で、そのいやらしい視線を何とかしてほしいんだけど」

「何のことだ? 俺にはさっぱり―」

「智蔵君?」

「はっ!?」

 しまった、今日は風音も一緒だった。

 彼女の冷たい視線が背後から容赦なく突き刺さる。

「昨日、見月さんが不快な思いをするからやめてねって言ったよね?」

「ハイ、ソウデスネ」

 いかんいかん、このままでは風音の冷凍光線で凍死してしまう! 何とか話を逸らさなければ!

「ところでいつもの名物、始まってるか?」

「うん、今日はまた早いね」

 三人で校庭を見下ろす。そこには対峙する一組の男女の姿があった。

 

「………いい加減にしつこいぞ、美佐子」

「うふふ〜。英君こそ観念したらどうなのかしら〜?」

「断る。制服をどう着ようが個人の自由だろう」

「決まった服装だからこその制服なのよ〜。上着もネクタイもない制服は制服じゃないわ〜」

「仕方ない。実力で押し通る」

「させないわ〜。今日こそ捕まえて生徒会室に拘束、もとい連行よ〜」

 

 早朝から校庭で始まる異種格闘技戦。

 中国拳法を思わせる掌打を放つ、三年の守形英三郎先輩。

 レスリングスタイルで相手を組み伏せようとする、同じく三年で生徒会長の五月田根美佐子先輩。

 どちらもこの学校の名物生徒である。

「ねえ桜井君、改めて聞くんだけどアレって本当に毎朝の光景なの?」 

「おう。いつもの事だ」

 こっちにきて半月しか経っていない見月には異様に見えるかもしれないけど、まぎれもなくわが校の日常なのである。

 ………大丈夫か、この学校。

「あ、今日は五月田根会長の勝ちみたいですよ」

 風音の声につられて校庭に視線を戻すと、会長が守形先輩にチョークスリーパーを決めていた。

 

「…美佐子。もう少し恥じらいを覚えろ。当たっている」

「当ててんのよ〜」

 

 あの体勢だと会長のふくよかな『アレ』が押し付けられるのは当然だ。

 おのれ守形先輩、ああいう時だけは羨ましいっ!

 しかしこれで守形先輩は今日一日を生徒会室で監禁される運命である。それだけは同情しよう。

「智蔵君、もうホームルームですよ」

「ああ、今いく」

 風音に連れられて教室に入る。今日も一日のんびりといきますか。

 

 

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「ん〜。今日も一日お疲れさん」

 放課後は俺にとって一番ほっとする時間だ。なにより退屈な授業から解放されたという解放感が良い。

「お疲れ様でした。でも授業中の居眠りはもう少し控えめの方がいいですよ?」

「善処するー」

 風音も俺も本気で言っている訳じゃない。

 俺が居眠りの常習犯だという事はクラスで周知の事実だ。これは俺と風音のいつも通りのやりとりなのである。

「私は畑の事があるから帰りますけど、智蔵君はどうします?」

「そうだなぁ」

 風音は2年前に両親を亡くしていて、農業で日々の生計を立てている。

 ただ、泥だらけの自分を学校の人達に見られるのが恥ずかしいらしくてそれを隠している。

 俺も時々手伝いに行くんだけど、ほっかむりで顔を隠している事がほとんどだ。

「今日は俺も手伝いに行っていいか?」

「あ、ごめんなさい。今日はちょっと…」

「そっか。そりゃ残念」

 申し訳なさそうな風音に無理は言えない。

 この様子だとお客さんでも来るんだろう。俺が一緒だと色々と誤解されるかもしれない。

「んじゃ俺はうちに帰って春を愛でるとするか」

「愛でると言っても、智蔵君の場合は『春画』ですよね?」

 風音の言う春画とはつまりエロ本である。まったくもってその通りなの反論できない。

 あと、風音の笑顔がちょっと怖い。なので戦略的撤退をしようと思う。

「待ってろ麗しい春の息吹、今いくぞっ!」

「あ! もう智蔵君ー!」

 三十六計逃げるにしかず。俺はダッシュで家路を急ぐのだった。

 

 

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 で、3時間後。

 

「お、俺の馬鹿野郎…」

 とぼとぼと校舎に戻ってくる俺。

「山田君から買った至宝の一冊を忘れるとか、どんだけボケてんだよ…」

 クラスメイトから買ったエロ本を忘れて取りに来るという不甲斐なさ。

 今日の俺は本当にどうかしている。

「ん…?」

 

 そうだ、本当にどうかしていたから。

 

「何の音だ…?」

 

 こんなにもあっさりと。

 

「銃声…?」

 

 日常から転げ落ちたんだろう。

 

 

 

 

 音は校舎裏から聞こえてくる。

 俺は自分でも無意識のうちに隠れながらそれを覗き込み。

「―――」

 その光景を見て、言葉を失った。

 

「ちぃっ! 猪口才ね!」

「…猪口才なのはそっち」

 

 争っているのは女の子。しかも俺より年下なんじゃないかと思える子だった。

 一方は青い髪をツインテールでまとめた薄着の女の子。

 もう一方は看護婦と思われる衣装をしたショートカットの女の子。

 それだけならまだ納得できる。いや、しちゃいけないけどギリギリ現実と思える光景。

 だけど、彼女たちには一目でわかるくらいに現実からかけ離れた異物があった。

 

「羽…?」

 二人の少女の背中には、見間違えようのない羽が生えていた。

 形や色は違っても、それが空を飛ぶ為にある事はすぐに理解できた。

 ツインテールの女の子が勢いよく空へ飛び立ったからだ。

 

「パラダイス・ソングっ!」

「っ!」

 

 空へ飛んだ女の子が口からよくわからない衝撃を発する。

 ショートカットの女の子がそれを爆弾でそれを相殺する。あれは確か、手りゅう弾というやつだろうか?

「………夢見てんのか、俺」

 そうとしか思えない光景。それは全く現実感のないものであり。

 

「アンタだけはここで始末してやるっ!」

「…こっちのセリフ」

 

 それでいて疑いようのない、圧倒的な暴力の渦だった。

「逃げよう、うん」

 ここは危険だ。巻き込まれたら死ぬ。

 なにせよくわからない女の子が空を飛んだり、爆弾を持って暴れているのだ。俺にできることなんてない。

 

「ニンフさん、突っ込みすぎよ! 深追いはダメ!」

 

「―は?」

 だというのに、神様は俺を現実に返す気はないのか。

 向こうの非現実な空間から日常の一部だった声が聞こえる。

「あれ、見月じゃねぇか…!?」

 ニンフと呼ばれたツインテールの女の子の後ろに立つ女子。

 それは間違いなく半月前に転校してきたクラスメイトの見月そあらだった。

「どうなってんだよ、これ…!」

 いよいよもって混乱してきた。

 何がどうなって見月があんな物騒な所にいるのか。しかもその渦中の女の子と知り合いみたいに振る舞っているのか。

 正直に言おう。もう、わけが分からない。

「どうする…! どうするよ…!?」

 このまま見なかったことにして逃げるか?

 危険でも見月を連れ出して逃げるか?

 いや、それとも警察を呼ぶべきか?

 迷いと困惑で頭が沸騰しそうになって―

 

「あら、だめよ夜中に一人歩きなんて。危ない人がいたらどうするの?」

 頭から冷水を浴びせられた。

 

「っ! だ、誰だよお前ら!」

 実際に水を浴びせられたわけじゃない。ただ、そう感じただけだ。

「さあ? 誰だっていいじゃない」

「そうよ、これからキミは―」

 いつの間にか俺の背後に現れた二人の女。

 あの少女たちと同じような羽を持ち、猛禽類を彷彿とさせる腕や足を持つ美女。

 

「―死ぬんだから」

 

 その彼女達の声にこもる殺気を浴びたんだから、冷たいと感じるのは当たり前だった。

「あ」

 振り下ろされる鋭い爪が俺の首を刈り取ろうとして。

 

「伏せてトモキっ!」

 

 横合いからの衝撃に阻まれた。

「がぁっ…!?」

 耳が、キーンと、する。

 直前に聞こえた声はあのツインテールの女の子のものだった。

 俺は言われた通りに伏せている。それは体が勝手に反応したと言っていい行動だった。

「オレガノっ!」

「わかってるっ…!」

 さっきの衝撃で半ばいかれた耳と目で何が起こっているのかを知ろうとする。

 どうやらさっきまで殺し合いをしていた女の子は、俺を殺そうとした女達から俺を守ろうとしているらしい。

「もう、なんでこんな所にいるの!?」

「み、見月…!?」

「走って! ニンフさんじゃ二人も相手しきれない!」

「いや待て、これってどういう…」

「いいから走って! どこにだっていいから!」

「くそ…! どうなってんだよ!」

 見月に促されて走る。

 立て続けに起こる異常事態に俺の心はさっきからパンクしたままだ。落ち着いて考える事なんてできやしない。

 

「誰か、ちゃんと説明してくれよ…!」

 答えはない。月の光が俺をあざ笑うかのように煌々と照らしていた。

 

 

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 走る。とにかく走る。

 足がパンパンになっても走り続ける。見月に言われた通りに何も考えないで走る。

 きっと俺にできることはそれしかないから。

 そうさ。あんな非常識な事、俺は知らない。どうだっていいじゃないか。

 このまま逃げ切って忘れてしまえばいい…!

 

「はっ…! はっ…!」

 そうして、小高い丘にたどり着いた。

「あれ、なんで、俺」

 こんな、何もない所に来たんだろう。ここにあるのは黙して語らない大桜だけなのに。

「俺の馬鹿、さっさと町に…!」

 そうだ、人目がある場所に行かないと。

 そうすればこんな夢みたいな事もすっきりと忘れてしまえる。

 

「ここまでね。まったく、手を焼かせるんだから」

 

 だというのに、その前に明確な終わりがやってきやがった。

 俺を殺そうとした二人の美女が悠然と俺へと歩み寄ってくる。

 こっちは徒歩、向こうは飛行だ。最初から逃げ切れるわけなかったんだ。

「…誰なんだよ、お前ら。見月はどうした」

 もう自棄だ。せめてこいつらがなんで俺を殺したいのか、見月が無事かどうかだけでも確かめてやる。

「アンタを殺すのは私たちのマスターが望むからさ。ほかに理由なんてないよ」

「マスターだぁ? 誰なんだよそいつ。俺は知らないぞ」

「知らなくていいのよ。今の回答だけでもサービスと思いなさいな」

「ちょっと、早く済ませないとベータが追ってくるわよ?」

「そうね。ああ、さっきの子達はみんな無事よ。適当にあしらって逃げてきたから。これで満足?」

 結局わからない事だらけだ。それでも。

「ふん。満足じゃねーけど、納得するしかないだろ」

 見月が無事だと分かっただけでも御の字だ。

 よし、死んだらあいつの枕元に化けて出てやろう、そうしよう。

「いい子ね。じゃあ、さよなら」

 

 再度振り下ろされる鋭い爪。これが数瞬後に俺の首を刈り取るだろう。

 ごめん風音。俺、もうお前の畑の手伝いに行けない。

 畜生、まだ中学生だぞ俺。なんでこんなわけわかんない死に方しなくちゃいけないんだ。

 誰か説明してくれよ。そして、できれば―

 

 

「―助けて、くれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんです、マスター。貴方の御身は、私が―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは今日何度目かの、現実離れした光景だった。

 

「な…! ここで召喚だと…!」

「くそ…! ここまで来て!」

 

 でもそれは、今までみたいに俺を不安にさせるものじゃなくて。

 

「退きなさいアサシン。いえ、ハーピー。それとも、ここで倒れますか?」

 

 桜色の髪をした長身の少女が、俺を殺そうとした鋭い爪を掴み取っている。

 気が付けば、俺を安心させるように彼女の羽が優しく包み込んでいた。

 

「退くぞ、間もなくベータも来る…!」

「チィっ…!」

 二人の殺し屋が月夜に飛び去っていく。

 それを見届けて、彼女は俺の前で膝をついた。

「…私の名はイカロス。貴方の召喚に応じ、アーチャーのクラスで現界しました」

 イカロスと名乗った少女は、翡翠色の瞳で俺をまっすぐに見つめて。

「マスター、手を」

「あ、ああ」

 言われるままに彼女の手を取る。

 あの恐ろしい爪を止めたとは思えない、華奢で綺麗な手。

 彼女に触れていた右手に3本の鎖が絡み付いていく。それは彼女の首輪から伸びている物だった。

「契約は完了しました。これより私は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共に」

 そうであってほしいと願うように。そうしてみせると誓うように、彼女は俺に告げる。

 

「どうぞご命令ください。((私の鳥籠|マイ・マスター))」

 

 桜色の風が月夜を駆け抜けていく。

 桜の花びらが舞う中、こうして俺と彼女は出会った。

 それは決して忘れられない日々の始まり。

 苦しくも愛しい武闘劇の開幕。

 

 

 そして、避けられない別離の始まりだった―

 

 

 

 To Be Continued

 

 

 

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 interlude

 

 

 広大な劇場を思わせる広間で、その男は豪奢な椅子に腰を下ろしていた。

 

「申し訳ありません! あと一歩の所で…!」

 その男に跪き、許しを請うのは先ほど桜井智蔵を殺そうとした双子の天使だった。

 二人の表情に智蔵を追い詰めていた時のような余裕はない。

「…アルファーが現界したか」

「はっ、はい!」

 それもそのはず。この男こそが彼女たちの主であり、絶対者なのである。

 『アサシン』というクラスでこの世界に存在する彼女たちのマスター。

 否、それ以前にハーピーという双子にとっての創造主なのだから。

「どうした? 何をおびえている?」

「そ、それは…」

 彼女たちのマスターはその報告を聞いて機嫌を損ねたようには見えない。むしろ顔には愉悦すらにじんでいる。

「なに構わん。アルファーが不在ならばお前たちでも可能かと思っただけだ。アレが現れてしまっては、お前たちではかなうまい」

「はい… 申し訳ございません」

 ハーピー達にとっては歯がゆい事なのだが、イカロスの戦力は自分たちを大きく上回る。

 もはや自分たちが桜井智蔵を殺すことはできないだろう。

 マスターからの命令を遂行できないという事は、彼女たちにとってこれ以上ない不名誉だった。

「アルファーの相手ならば用意してある。お前たちには別の役目を与えよう」

『はいっ!』

 男の言葉にハーピー達は安堵する。

 それは自分たちが許され、まだ必要とされているという事への喜びだった。

 

「カオス」

 男の声に応えるように広間の扉が開く。そこから一人の少女が静々と歩いてきた。

 黄金の髪を黒いフードで隠した幼い子供。だが彼女もまた非現実の産物だ。

 鋭利な刃物のような禍々しい形状をした3対の翼がそれを明確に物語っている。

「やはりお前に頼るしかないようだ。私を勝たせてくれるな?」

「ええ、もちろんよ。マスター」

 朗らかに笑うカオス。それは自分がマスターに愛されているという喜びに満ちている。

 その微笑みに、僅かだがハーピーは嫉妬した。自分たちが劣る存在なのだと明確に示す構図に。

 彼女たちは内心で誓う。機会があれば桜井智蔵を自分たちが討つと。

 それはカオスへの対抗心であり、マスターへの献身だった。

「ではアサシン。再度、お前達に命じる」

 だが、その献身は。

 

「バーサーカーに捕食され、その武装を捧げろ」

 

 マスターへ届く事はなかった。

 

 

 

 

 もはやこの幕間において語るべき事はない。

 アサシンのクラスは自らのマスターの手によって、早々にこのゲームから退場した。

 

 

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「ニンフと!」

「アストレアの!」

 

 

 

  教えて! エンジェロイ道場!

 

 

 

「って何よこのタイトルは」

「エンジェロイドの『ド』と道場の『ど』をかけたんですよ。ニンフ先輩はそんな事もわからないんですか?」

「そうじゃなくてっ! このド直球で頭の悪いタイトルは誰が考えたのって言ってるの!」

「もちろん筆者ですよ? そんなの当たり前じゃないですか」

「あー… 頭痛くなってきたわ…」

「で、某作品を丸パ○リしたこのコーナーですけど。何やるんですか?」

「本編じゃ語れなかった設定とか、裏話とか色々よ」

「へー。つまり手抜きの言い訳コーナーですね」

「ええ、デルタにしては珍しく間違ってないわ」

 

 

「さて、読者の方が真っ先に疑問に思う事なんだろうけど」

「智樹が主人公じゃないですよね? 智蔵って確か…」

「そう、トモキのおじいちゃんね。ほかの登場人物も基本的にそういう流れよ」

 

 桜井智樹   →桜井智蔵(祖父)

 見月そはら  →見月そあら(祖母)

 守形英四郎  →守形英三郎(祖父)

 五月田根美香子→五月田根美佐子(祖母)

 

「それぞれの容姿は同じと思ってもらっていいわ。要するにトモゾウ≒トモキって事」

「へー。でもなんでこんなめんどくさい事したんですか?」

「詳しく話すとネタバレになるから秘密。一つヒントを言うと、本編中で私がトモゾウをトモキって呼んだけど、あれ筆者の誤字じゃないから」

「??? つまりニンフ先輩が智蔵さんを智樹と勘違いしたんですか?」

「さてね、これ以上はまだ秘密よ」

 

「それともう一つ。当たり前だけど、トモゾウ以外の人たちは名前も性格も筆者の捏造。つまり原作にないものよ」

「智蔵さんは原作に沿ってるんですか?」

「うーん、微妙。トモキの回想や夢でのアレっぷりから、トモキと同じなんだろーなーという筆者の推測による分が多いわね」

「適当ですねー」

「まあ、二次創作におけるオリジナル設定って事で。基本的な性格も同じだし、違和感は少ないと思うんだけどね」

 

 

「さて、今回のエンジェロイ道場はここまでよ」

「今後も続くんですか、これ?」

「まあね。次回は私たちの性能、つまりステータスについてよ」

「ホント、丸パ○リですねー。これ許されるんですか?」

「許されなかったら容赦なく打ち切りね。元々シリアスの練習兼模索の話だから」

「でもプロットはちゃんと最終回まであるんですよね?」

「ま、一応ね。続けば全七話予定だそうよ?」

 

「それじゃあ、また次回があれば会いましょう」

「まったねー」

 

説明
『そらのおとしもの』の二次創作になります。 
 今回の目標:バトルものシリアス、および中編への挑戦。
       完全オリジナルが困難なため、某作品をオマージュ(パ○リ)して練習する。
       ただし練習といっても基本全力で。自分がどこまでシリアスに迫れるかを探究する。

*某作品を思わせる設定やストーリーがありますが、クロスオーバーではありません。
 つまり青剣さんとか赤い悪魔さん達は出てきません。
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コメント
枡久野恭様へ 日和嬢の内情については第三章で詳しく書く予定です。色々と込み入った話なのですが、現状こそ彼女の望んだ立ち位置である事は事実です。(tk)
BLACK様へ イカロスさんはポジションと性格的にはセ○バー向きなんですが、武装と戦闘スタイルが剣士向きじゃありませんよね。それにエンジェロイドで剣士といえばあの娘が筆頭候補なわけで。(tk)
智蔵さんの時代に日和がいるという設定に妙に納得がいきました。そういや、別人の生なら何度でも送れるんでしたよね。うんうん(枡久野恭(ますくのきょー))
俺以外にもFate的な話を見れるとは・・・。アーチャーがイカロスなのはもはやお決まりですよね。俺もFate的なものを書いたときにイカロスをアーチャーにしましたからね。(BLACK)
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そらのおとしもの シリアス fate の皮をかぶった何か 

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