平成竹取物語
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 奈良県北葛城郡広陵町三吉、真美ヶ丘ニュータウン近くの竹林を、将大はロープを持

ってうろついていた。そして気が付いた。竹では首つりができないことに。すでに午前

2時をまわっている。

 

 竹林の中ほどにボーッと光るものを見た。不気味に思ったが、その正体を確かめたく

なり、恐る恐る近づくと・・・

 斜めに切られた切り口のひときわ太い竹が光り、そのそばには、古風で、ちょっと異

様な風体の少女が立っていた。

 

「こんばんは。竹灯篭ですか、ろうそくを灯してはるんですね。そやけど1本だけ?」

「待ちわびたぞよ。翁はいかがいたしたのじゃ」

「は?」

「翁を待つ間に、わらわは成長したもうた。まもなくわらわは己が力では戻れなくなる

のじゃ」

「何言うてんの。訳分かんないよ〜ン」

 

「千年に一度というは、ここでの時の流れであるが、月の都より、選ばれし者が探索に

参るのじゃ。そして数多の情報を持ち帰る。この地に初めて来たりしより13歳までは、

この竹を通じて行き来ができるのじゃが、それを超えるとしばらく月の都へ戻れなくな

る。使者の到着を待たねばならぬ。もう猶予ない。今さら情報も集められぬ。そこでじ

ゃ、そなたがわらわと共に来てはくれぬか?」

「さっぱり訳分かんねェけどよォ、いいよ。将来の見通しもなくってさァ、死のうと思

ってたしィ。俺将大」

「将大? それはなにか?」

「名前。君の名は?」

「さっぱり大和言葉が通じなくなっていようぞ。わらわのあざな(字)はかぐやである

ぞよ。もう猶予ない。満月が見えなくなると戻れぬ。さあ、参るぞよ」

「どこへ?」

「月の都」

「どうやって?」

「この竹の中が月に通じておる。さ、御手を」

 

 かぐやが片足を竹の空洞に突っ込むと、足が消えた。そしてもう片方の足、腰、胸が

消え、ぬっと突き出た顔と差し出された右手だけが残っている。

 将大は目を剥いて見ていた。

「ささ、御手を!」

 将大はかぐやに手を取られ・・・無音で無視界の世界を彷徨う夢のような感覚を持っ

た。

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 気が付くとそこは明るい。かぐやの存在を確認すると少し安堵した。

 周囲に目をやる。歴史か古文で習った覚えのある、奈良時代だか平安時代だかの風景

がそこにあった。はるかかなたには、ウサギが餅つきをしているような形をした山並み

が見える。

 

「ここが月の都? 地球が見えへんじゃん」

「ここからは見えぬ。そなたが申すは帝がおわす都のことかとおもほすが、そこから見

ゆるは今いる所より、はるかかなたの外側なる所。満月の夜には餅をつくウサギを眺め

たものじゃ」

「ほんじゃ、なんで明るいの?」

「光り輝いておるは、それあそこを見じゃれ。お天道様がずっとあそこにおわして回っ

てなさる。一周りが1年となろう」

 

 白くまばゆく光る物体が上空にあり、目を細めてみるとそれには模様がみられた。お

そらくその模様で、回転の様子を知るのだろう。

 そして月の都というのは、月の内部深くにあったのである。

 我々が見る月の海が山となっているらしい。

 ウサギが餅つく形の山は、((天香具山|あまのかぐやま))という。

 

 月の都人は、地球時間の千年ごとに大和地方の情報や文化を仕入れて都造りをしてき

た。主に月への関心度が知りたかった。月の都を襲撃されることを恐れていたのである。

 将大から情報を引きだした。が、全く理解できなかったし、あまりにも少ない。引き

こもりがちだった将大自身も、知らないことばかりだったからである。

 将大はポケットから携帯電話を取り出し操作を始めたが、圏外、である。情報を教え

てやろうと思ったのだが。

 ただ、ウルトラマンや宇宙戦艦ヤマトの存在を知って、警戒を強めることとなった。

 

 将大はゲームをしたかったのだが、かぐやの案内で月の都を見学し、祭りを楽しみ、

都人の珍しい生活を共にして、その長閑さと優雅さに魅せられ、時の流れを忘れていっ

た。

 しかし、お天道様が1周する頃になると、奈良の自宅が恋しくなってきた。親しい友

達はいなかったが、家族に会いたいと思うようになってきたのである。

 

「なんと仰せらるか、そなたには迎えの使者はいないのか? 今しばらくは竹に通じる

道は途絶えておろうに」

 

 しだいに落ち込んでいく将大を憐れんで、月の使者を代わりに立て、牛車で送ること

になった。

 

 満月の夜、将大はかぐやに別れを告げ、牛車に乗り込んだ。

「将大よ、この箱はわらわの宝。帰り着いたならば開けてみよ」

 

 

 真美ヶ丘ニュータウンのそばの竹林は、竹を少しばかり残して公園になっていた。

 [竹取物語公園]  

と表示されている。

 ベンチに座ってかぐやの宝の箱を開けると、鏡が入っていた。

 顔を映してみる。すると瞬く間に黒髪は白くなり、顔には皺ができ、白く長い髭が生

えてきた。

 そう、翁の姿になってしまったのである。

 

 

 両親はすでに亡くなり、町には知人もいなくなっていた。月にいたことは誰にも信じ

てもらえなかった。奇異の目で見られただけである。

 どうにか生活の目途は立てたが、50年もの間留守にしていたことを知った。

 

 今では満月の夜ごとに、餅つくウサギを眺めてはかぐやを想い、涙を流すのであった。

説明
千年ごとに月からの使者・かぐや、が訪れる。
竹林に現れたのは翁ではなく・・・
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 竹林 満月 

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