真・恋姫†無双〜覇王を育てた男〜曹嵩編(プロローグ)2
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それから、俺は曹嵩の屋敷に住むこととなった。

部屋は侍女さんが使うのと同じ使用人のための部屋だった。。

俺は客人として扱いされた。特に酷い扱いをされることもなく、侍女さんとも最初は気まずくしていたが、少し時間が経つとたまに暇な時はおしゃべり相手になってくれたりもした。

 

でも、俺の主な仕事(?)は曹嵩の話し相手になってやることだった。

曹嵩は俺に関して多くの話を尋ねた。俺は最初は彼女が信じられる範囲内で俺に付いて話したが、結局俺がこの時代の人間ではないことを話して、彼女があまり驚かないのを見て、現代の色んなことに付いて俺が知っている限りを話した。

 

科学、経済、歴史、

 

特に曹嵩は歴史に関してとても興味深く俺の話を聞いた。

フランス市民革命、その後の王が象徴としてのものになり、市民が選んだ代表が政治をするという話や、その後女性の参政権、両性平等に付いての話は特にあれこれ詳しく聞いて、俺は俺が良く分からない所まで勝手に話さなければならなかった。誤解されなければいいのだが……。

 

でもだからと言って曹嵩が温室の中の華のように育てられたのかといえばそれは違った。

屋敷の中でも、曹嵩は多くのことを耳にすることが出来て、それなりの情報も入ってきた。

この時代で言うと、かなり教育されたと言えるぐらいの素養もあって、後色々と頭が切れていた。(でなければ現代知識をあんな簡単に受け入れることなんて出来るはずがない)

 

そもそも何故そんな聡明が曹嵩がこんな屋敷の中に閉じ込められているのかというと、

 

曹嵩の父である曹騰は元々宦官だ。当然子は産めない。

元夏侯氏である曹嵩が聡明で嗜みがあるのを見て養女に受け入れたのだが、その裏では更に権威のある名家に嫁入りさせて自分の宮中での立地を高めるという考えがあった。

で、曹嵩は結婚出来る年になるまで男との接触を完全に断つため、この屋敷に閉じ込めたというわけだ。

 

「お前はそれで良いのか?」

「何がかしら」

「自分の夫を親、というかあんな人間に決められて、しかもこんな所で閉じ込められている生活」

「良いわけないでしょ?でも、こればかりは私にどうにか出来るものではないのよ」

「逃げるだのなんだのすれば?」

「そのうち捕まって戻されるわよ。それとも静かに殺されるか」

「うへ……」

 

そんな籠の中の鳥のような曹嵩だったが、

 

「……夢があるわ」

「夢?」

「ええ、どうせ自分の意志と関係なく、好きでもない夫に結婚して、子を生むのなら、その子はこの天下で誰にも束縛されないほどに強い子に育てるって」

「…………へー」

 

三国志での曹操の姿を考えながら俺は彼女の話を聞いていた。

 

「私は今こんな立場だけど、私の子は誰にも命令されないまま己が思うがままにこの世を生きて欲しいのよ」

「まぁ…親なら誰でもそうなって欲しいだろうな」

 

実際、だれにも束縛されないとか、無理とは思うけど……

 

「ふと思ったんだけど」

「へ?」

「結婚してから旦那が急に死んだりしたら、後はやりたい放題じゃない?そしたら代理満足要らないじゃん」

「………へーー」

 

俺はこの時彼女に要らない知恵を入れてしまったのであった(汗)

 

 

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剣の実力だが、さっきも言ったように曹嵩はかなり才能に満ち溢れる(本人は器が足りないと言っていたが、あまりにも夢が大きくて逆に舐めてるのに見えるのが不思議だ)奴で、女にも関わらず凄い実力を持っていた。

真剣と言ってもこの時代の剣は凄く重い。

日本刀、しかも普段は竹刀に慣れていた俺にはとてもじゃないが扱い切れない刃物であったため、たまに稽古に付き合うようになると、大体の場合俺は曹嵩に負けた。

 

「情けないわね。それでも男なの?」

 

地面に倒れた俺に剣を伸ばしながら曹嵩は言った。

 

「逆に問おう。それでも女か?」

 

俺もまあ口では負けるつもりはなかった。

 

「……」

「確認射殺すんな!やめろ!人の一張羅に何するんだよ」

「ふん」

 

でも結局勝負に負けていたことには変わりはない。

たまに俺が勝つ時もあったけど、それは何かのアクシデントが起きたり、何か気まぐれなことが起きた時ばかりだったから、俺が日本刀で彼女と戦ったとしても、勝てるという確信はない。

 

「貴方の時代では戦はなくなったって言ったわよね」

「ああ、剣を習うと言っても、ただの精神修練ぐらいのものになったな。まぁ俺はそれでも結構正式にやったほうなんだけどな……女に負けるとちょっと凹むな」

「……その割にはあまり凹んでるように見えないのだけれど?」

「だってお前に負けたんだし……ね?

「……どういう意味なのか聞いてもいいのかしら」

「剣を頸につけて話せと言われても困るんだが……」

 

閉じ込められたと言っても、逆に良いこともあった。

ここはどうやら賊やら何やらがあまり来ない険しい位置にあるらしく、曹嵩がここに居るのはそういう輩からの保護の意味も兼ねてあった。

まぁ、来た所でこいつに勝てる奴らがそうそう居るとは思えないのだけど

 

「って本当に刺すな!」

「ものすーっごく侮辱された気がしたわ」

 

 

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曹嵩と一緒に居ることは色々と命の危険を感じる仕事だったけど、外に出たら死確定な俺にとって他の選択肢はなかった。

でも、だからと言って彼女と一緒に居るのが嫌だったのかといえば決してそんなことはなかった。

なにせ綺麗だったし、俺が今まで見た女の子の誰よりも美しかったと断言出来た。

 

「一刀様が来てから、曹嵩さまは大分変わられました」

「そう?昔はどうだったんだ?」

「大分落ち着いている…というより、あまり活発な方ではありませんでした。わたくしもあまり心を開いてもらえなく、無気力で過ごすことが多かったです」

「………今の姿だとじゃ想像できないんだがな」

「ふふっ」

 

でも、最初に会った時無心に漏らした以来には、彼女の前でそういう話をしたことはない。

意識的にしないようにしていたのだけど、何故なのかと言うと、どうせ彼女は他の男に嫁入りされるように決めつけられているからだ。(夫が誰だろうが知ったことではないが)

後々他の人の妻になるような人にそんなこと言った所で後で辛くなるのは俺の方ばかりだと思ったのだ。

 

「感謝いたします」

「………」

「一刀様?」

「曹嵩が結婚すると、お前も付いていくのか?」

「…解りません。ですが、そうなることを望んではおります」

「そう……」

「……?」

「いや、まぁ、後のこと今考えてもどうしようもないっか」

 

その時はまたその時だ。

 

「………」

 

 

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曹嵩の屋敷にいて数ヶ月が経ったある日だった。

ある日はいつものように曹嵩の話相手をしていたら、侍女が急いで入ってきた。

 

「曹嵩さま、曹騰さまが今お屋敷に参られました」

「なんですって?」

「今ここにか?」

「はい、今直ぐ一刀様を避難させなければなりません」

「何故急に……解ったわ。一刀、彼女に付いて行きなさい」

「分かった」

 

そして俺は侍女さんに付いていった。

 

侍女さんは屋敷の裏にある倉庫の鍵を開けてそこに俺を入らせた。

 

「ここに隠れてか?」

「はい、急な訪問でしたのでいつまでいらっしゃるだろうか解りませんので、詳しい状況は後でお話します」

「ああ、早く曹嵩の所に行け」

「はい、では」

 

侍女さんが倉庫の扉を外から閉じて、俺一人だけが残った。

ここが倉庫と言ったが、実際の所、倉庫よりも曹嵩が収集している本を置いた書庫だった。

大してすることもないこの屋敷の中で、俺が居ない昔では曹嵩はこの本を読みながら時間を潰したという。

経書や経済書、大概が社会科学系の本ばかりで、奴がどれだけこういう知識を貪っていたか一目で知られるような場所だ。

 

当たり前の話だが、日本でごく普通の生活をしてきた俺は漢文なんてろくに読めたものじゃない。

曹嵩がたまにここにある本を持ってきて俺に文字を教えることをいい時間つぶしに使っていたが、それぐらいだ。まだ一人で読めるような段階に来てはいない。

でもあまりにもすることがなかったから、音を出しては危険だということも忘れてぶらぶら歩いていたら本棚から外されて落ちてある本が一冊あったから俺はその本を取ってみた。

 

「……!」

 

無心に見た本の題名に、他の文字は知ったこっちゃないが『恋』という一文字だけが目に入ってきた。

中身を見ると、漢文が広がる中、男女が夜人が通らない場所で口付けをする挿画一つを見て、俺はこの本が恋愛小説であると推測した。

 

「こういうのも読んでたんだ、曹嵩って」

 

まったくそういうものに関心ないかのような顔しているのにな。

というか、曹嵩にとっては男という存在はただ自分の夢を叶うための手段に過ぎなかった。

曹嵩には自分がいつか産む子が天下の誰よりも高くなれるようにしたいというだけで、そのため必要な財力、己の智謀、コネとかは大事にしていたけど、夫になる男なんて誰でもどうでも良いと思っているようだった。

ぶっちゃけ種さえ提供してくれれば後は夫はこっそり毒殺して彼の財力を自分のものにするとかそういうことも簡単にやりこなしそうだった。

ほぼ毎日彼女の剣に刺されそうになる俺から言わせてもらうと、こいつの夫になる男は、この世で一番不幸な生を生きるに違いない。

 

 

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曹騰は(顔は見てないが)案外早く帰って、俺も直ぐに倉庫から出てこられた。

 

「何しに来たんだ?」

「………」

 

曹嵩が黙っていると、侍女さんが代わりに答えた。

 

「曹嵩さまの嫁入り先が決まったらしいです」

「!本当か」

「……ええ」

 

思ったより早かった。

いや、いつかはそうなるだろうと、まるで遠い未来のように感じていたが……目前にしてみるとまた妙だ。

 

「で、もうこの屋敷から出るのか?」

「違うわよ。決まったというのは約束したってだけ。本当に婚姻するのはまだまだ先よ」

「親同士で婚姻約束したというわけです。聞くと向こうの旦那は今年で13才ぐらいらしいですから」

「そういや、曹嵩って今……」

「私は今年で17よ」

「本当に互いの顔を見るのは、あと一年は後になるでしょう」

「ふーん」

 

まぁ、互いが子供の時に婚姻することを親たちで約束するということは珍しい話ではないが、それにしても随分と幼い旦那に決まったな。

 

「相手の顔とか分からないのか?」

「さー、多分父本人も確認してないんじゃないかしら。家柄だけ見たら後は結婚出来る男が誰だって……」

「嫌な話だな……最初から知ってたのだけど」

 

政略結婚ってそういうものだろうけど……。

 

「一刀」

「うん?」

「……いいえ、やっぱなんでもないわ」

「……まぁ、元気出せ」

 

俺は欝な顔をしている曹嵩を励ますつもりで言った。

 

「まぁ、相手がどんな奴だろうが関係ないことだ。要はこの屋敷から出られたら、後はお前自由に、お前が望んでいたことが出来るということじゃないか」

「私が望むものが何か、あなたに分かるの?」

「英雄を育てることだろ?要するに」

「英雄……ね」

「そう、歴史に残るほどの豪快な英雄。この劉邦や項羽のように、数百年が経っても人たちが憶えてるような偉い人間。そういう器の人を育てるのが、曹嵩、お前が望んでいたことだろ?」

「………そう…ね」

 

でも、曹嵩の顔はあまり晴れなかった。

元々こういう作業は苦手だ。頭を掻きながら俺は言葉を選んだ。

 

「いや、逆に考えよう。結婚する相手が凄く良い男かもしれないじゃん。ほら、お前が持ってたあの恋愛小説に出るような恋愛とか出来るかもしれないし」

「なっ、なんで貴方がそれを知ってるのよ!」

 

暗かった曹嵩の顔が一気に赤く染まり上がった。

 

「さっき倉庫に隠れていた時ちょっと床に落ちてたから見た」

「な、何勝手に見てるのよ!人の本を!」

「いやだって落ちてたら拾うだろ、普通」

「拾ったらそのまましまっておけばいいじゃない!何読んでるのよ、馬鹿!どうせ文字も読めないくせに!」

「まぁ、確かにそうなんだが……でも、実際そういうのを読んでるということは、そういうのに憧れたりするんだろ」

「…………っ」

 

曹嵩は黙り込んだ。

よし、勝った。久しぶりに勝った。

 

「……椎花、私今日は疲れたから一刀と一緒に出ていきなさい。一人で休みたいわ」

「畏まりました。一刀様」

「あ、ああ」

 

不機嫌になったのか簾を下ろして背を向いて寝る曹嵩を後にして、俺と侍女さんは外に出た。

 

 

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「…そういえば、侍女さんの名前初めて聞いたな」

「はい?」

 

ここに数ヶ月もあったのに、いつも世話になってる侍女さんの名前は初めて聞いた。

 

「椎花さんって言ってたんだ」

「………訂正してください」

「え?」

「今わたくしの『真名』を呼びましたね?訂正してください」

 

いつもの穏やかな雰囲気はなく凄い剣幕で俺のことを睨みつく侍女さんを見て俺は慌てた。

 

「お、俺がなんか不味いことでも……」

「人の真名を勝手に呼んでおいて何を言うのです」

「え、…真名って?」

「………?もしかして、真名のこと知らないのですか?」

「知らん。何?真名って」

 

ここに来て随分経ったけど知らなかった。

 

「真名というのは、その人の真の名と書いて真名です。親や心を許した人でなければ呼ぶことを許されません。もし勝手に呼んでしまったら場合によっては殺されても文句を言えないこともあります」

「げっ!そんな風習あったの?」

 

聞いてないぞ、そんな話。

 

「すまん!知らなかった。というか侍女さんの名前自体聞くの初めてだった!」

「……まぁ、宜しいかと思います」

「え?」

「一刀様は今まで曹嵩さまの力になってさし上げたのですから、わたくしとしてもその礼と言ったらなんですが、わたくしのことは椎花って呼んでくださっても構いません」

「いいの?さっき凄い大事な名って」

「構いません。一刀様はこの屋敷で曹嵩さまが誰よりも頼っている方、曹嵩さまに仕えるものとしてこれからも曹嵩さまを良く支えて欲しいという意味も兼ねています」

「な、なんか重いな。俺、別に曹嵩に大したことしてないぞ?」

 

普通に話し相手ぐらいしてるだけだし、ぶっちゃけ居候なわけだし。迷惑人以外の何者でもない。

 

「………一刀様、さっきおっしゃっていた小説のことですが、どういう内容なのかはご存知で?」

「……?いや、知らん、ただ挿画を見てそういう感じかなぁと思っただけ」

「…そうですか」

「侍女さんは知ってるの?」

「……………」

「……椎花さん?」

「はい、ですが今の一刀様には知らない方が宜しいかと」

「…なんか馬鹿にされてる気が…」

「そう思われるのでしたら、己の実力でその小説を読んでみては如何でしょうか」

「?」

「では」

 

椎花さんは謎を抱いた俺を置いてそのまま自分の部屋に入ってしまった。

 

………

 

 

 

 

 

説明
つづくつもりはなかったのですが……

ちなみに曹騰は宦官ではありますが、特に悪い人ではく、かなり後漢の忠臣となる人たちも沢山探してきたらしいです。曹操の人材癖は祖父から来てるのかもしれません。つながってないけど
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