夏への扉
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夏への扉

 この作品は実在・創作に関わらず、既存のいかなる個人、団体、キャラとも関係ありません。

 関係ないってば。

 

 

 

 埃っぽい空気の中で、はぁ、と誰かがため息をついた。

 小さな倉庫のような部屋。遥か高くにある小さな明かり取りの窓から一条の光が差すだけで、ほかには照明ひとつない。

 そんな薄暗い場所には似つかわしくもない、二人の少女と一人の少年が車座になってしゃがみ込んでいた。ときおり顔を見合わせ、またため息をつく。

 彼女らの名はボーカ○イド。初○ミ○。鏡○リ○・レ○の三人である。

ミ「はぁ……困ったわね」

レ「そんな……あまり悲しそうな顔しないでくださいよ、ミ○さん」

リ「仕方ないわよ。いいなぁ、『ひぐ○しキャラ』は個性が強くて」

レ「だってぼくたちはボーカ○イドですから。ぼくたちは歌が個性で、各々のキャラ付けはプロデューサーの範疇ですし」

 レ○の言うことはもっともだ、とミ○も思う。この利発な少年は自分達の役割を理解している。

 しかし、それでもなお。

ミ「マンガやイラストならともかく、←みたいに『ト書き』方式にしないと誰が喋ってるのか分からないなんて、すっごく小説系の二次創作が作りづらいわ」

 ぶっちゃけ、話し方のクセくらいの個性は欲しい、とミ○は思うのだ。ここだけの話、ボーカ○イドはお喋りが苦手なのだけれども。

レ「創作あってのぼくたちですから……そういう意味では個性溢れる『ひぐ○しキャラ』は憧れですね」

ミ「例えるならわたしたちはお豆腐のような存在。冷奴でもよし、湯豆腐でもよし。もちろんマーボー豆腐もおいしいわ。でも素材としては優秀でも存在感が……」

ミ○はそこまで言うと、急に目を細めてうっとりと遠くを見た。

ミ「……豆腐にはネギが付き物よね」

 レ○は少し呆れたように言う。

レ「いつまでもネギとロードローラーで押し通せるほど、世の中甘くありませんよ」

 そのとき、それまでおとなしく考え込んでいたリ○が、急に何かを閃いたように、ぱん、と手を打った。

リ「そうか! その手があったわ!」

レ「な、なんだ?」

ミ「何を思いついたのかしら、リ○ちゃん?」

 自分の思い付きに満足したのか、リ○はその大きな瞳を輝かせ、いたずらっ子のようにニヤリと笑った。

リ「必要は発明の母、と言うわよね」

ミ「確かに言うわね」

 期待を込めてミ○は頷く。

リ「模倣は創作の父、とも言うわ」

レ「言うかなぁ」

 胡散臭そうにレ○は首を傾げる。

リ「なら、わたしたちが『ひぐ○しキャラ』の口癖や個性のひとつくらいお借りしたってバチは当たりませんわ! これも創作のため未来のため! をーっほっほっほっほ!」

レ「うわ! なんでまたよりによってトラップマスターキャラ!」

リ「だって髪の色が似ていますわ。そしてカチューシャ」

レ「それだけかよ! 後、お前のはリボンだ!」

 リ○の居直りとも言える暴挙にあやうく腰を抜かしかけたレ○だったが、危うい所で踏みとどまる。

 だが。

ミ「髪の色かぁ。それじゃあ、おじさんもこの路線でいこうかねぇ。下ネタのマシンガントークで世の中のボーカ○イド亜種を一掃して……あひゃひゃひゃひゃ!」

レ「オヤジ系乙女キャラキタ――――――!」

 レ○は今度こそ腰が砕けてへたり込んだ。

「あるぇ? どーしたのレ○ちゃん。若いのにもう打ち止め? 淡白だねぇ。あひゃひゃひゃひゃ!」

「そうですわよ! このくらいでへばっていちゃ過酷な世の中渡って行けませんわ! 裏山一周の罰ゲームですわね!」

 わなわなと震えるこぶしを握り締め、レ○は大声を張り上げる。

「あンたら、それパ○リだろ! つーか『だろ』っていう推測形は抜きにしてモロパ○リ!」

「何をおっしゃいますやら。これは愛と敬意を込めたリスペクトですわよ。リ・ス・ペ・ク・ト」

「『リスペクト』って言えば何でも許されると思うな!」

「じゃぁコラボだねぇ」

「違う! 『コラボ』の意味誤解している! ググれ!」

「えー、ひどいなぁ。本編でも知……もがっ! もがもがっ!」

 ミ○を後ろから羽交い絞めにしながら口を押さえ、滂沱の涙を流しながらレ○は訴えた。

「頼むから空気読め! 読めたらむしろ喋るな! 今著作権問題ややこしいんだから!」

「あぁ、そうですわね。ジャス……」

「おーまーえーもーだー!」

「♭・3・)♭」

「その顔文字、すっごくムカつくんですけど!」

「だってー。レ○ちゃんったら、急に後ろから襲いかかって口までふさいで……喋るなって……おじさん、いや、わたしだってレ○ちゃんだったら……でも心の準備が……」

 うつむき目線でしどけなくノースリーブの肩を揺らすミ○。それに対してリ○は思いっきり引きつり後ずさる。

「い、いやぁぁぁ! フ、フケツですわぁ〜〜〜〜! このケダモノォ!」

「誤解だ誤解! あンたも妙なタイミングで乙女モード発動するな! ついでに『五階で五回もナニしたのか』というツッコミは許可しねぇ!」

「……やっぱりケダモノでしたのね……信じていたのに……本当のにーにーのようだと……」

「ちーがーうー! つーか兄妹なのはオフィシャルだろ!」

「えー。おじさんだってね、下品トークだけを売り物にしたいんじゃないんだよ。できればもう少しルックスにもスパイシーさが欲しいなと思って」

「……充分スパイシーだと思うんですが。むしろ濃いかなーと。で、どこら辺をスパイシーに?」

「主に胸」

「そこかよ!」

「あー、急におじさんのブラウス、キツくなったよ」

「それ、ぜってーウソ!」

「これで『胸の谷間にネギを挟む』というビジュアルは鉄板だね! あひゃひゃひゃ!」

「そっち方面から離れろよ! 下品とネギとは縁を切れ!」

「をーほっほっほ! これでわたくしはロードローラーからは卒業でしてよ! これからはマインローラーが時代を踏み潰すのですわ!」

「ま、まいんろーらー?」

「地雷原処理用のローラーですわ! ちなみに歩兵も塹壕ごと潰せましてよ?」

「こえーよ! 物騒だよ! のーもあうおー! 戦争反対!」

「まぁ、わたくしもミリネタばかりじゃアレですから。ルックスにもスイートさが欲しいですわね」

「胸って言ったら殴るぜ? どちらかと言えばグーの方向で」

「……」

「思ってたのかよ!」

「や、八重歯かしら?」

「取って付けたように言うな! しかも目が泳いでるし!」

「まぁまぁ、レ○ちゃん、その辺にしときなよ。なんか全員キャラ付けも出来たしー」

「あ、確かに『ト書き』方式ではなくなっていますわね」

「誰が喋っているか分かる、っていうのはキャラ付けできた証拠だね。これでおじさんもひと安心。あひゃひゃひゃひゃ」

「俺、これからこんなキャラと付き合っていくのか……亜種の方がまだマシな『ひぐ○しキャラ』モドキと……俺だけキャラ付けできてないし……」

「えー。レ○ちゃんだってキャラ変わってるじゃん。『ぼくキャラ』から『俺キャラ』にキャストオフ?」

「脱がねーよ!」

「脱がないの?」

「その一点に集中してこだわるな! それに俺のキャラ付け『ひぐ○しキャラ』じゃねーし!」

「おんやぁ? 確かにちょっと違うねぇ」

「どちらかと言えば西尾○新系ノリツッコミキャラですかしら?」

「かしらかしらご存知かしら〜、って違う! 謝れ! 竜○士07さんと西尾○新さんとクリ○トンさんにあーやーまーれー!」

「ピア○ロをお忘れでしてよ?」

「突っ込まれたぁ! お、俺としたことが……あれ? あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ!」

「なんですの、いきなり頓狂な声で」

「約三枚に渡って地の文がねぇ!」

 悪かったな。メンドいんだよ、文飾るのは。

「いつも地の文をどうこう言うのはオメーだろうが! それに『ドラマ』はどうした! オメーの口癖の『ドラマは《秩序を与えられた》葛藤である』は!」

 地の文にまで突っ込むな。ちゃんとドラマになってるだろーが。ちょっとカオスだけど。

「裏切られた! 先生、俺……まともなSSに登場したいです……」

 諦めたらそこで試合終了ですよ?

「♭・3・)♭ あるぇ〜? レ○ちゃん、誰と話してるのさ。別にいーけど」

「いいのかよぉ!(すでに涙目で)」

「じゃぁ、キャラ付けもできたし、みんなであの扉を開けて外に出ようよ! おじさんたちを待っているのは真夏のようにホットな小説系二次創作の世界さ!」

 

 

 

 果たして、扉の外は冬だった。それも10センチ先も見えないようなブリザード。しかも足の下にはマンモスが眠る永久凍土。

これ何て言うシベリアですかと突っ込む気力すらレ○にはない。

降り積もった雪の中に倒れこみながら、絞り出すようにレ○は声をあげた。

 

これを読んだあなた、どうか創作を続けてください。それだけがわたしの望みです。

――「ミ○らしい」と泣く頃に。

 

 

 

 

 

ごめん、それ多分無理。

 

説明
アイデンテティクライシスに悩むボーカ○イド三人組。彼女らの取ったアホな選択とは!? ドタバタ・ノリツッコミです。
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VOCALOID ひぐらしのなく頃に 初音ミク 鏡音リン 鏡音レン ノリツッコミ 

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