地底王国
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りんさん、帰ってきておくれ・・

 

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古来、中山道というのは甲府盆地から西に行くには

3000m級の峰の連なる南アルプス山脈が横たわるため、

北に迂回し八ヶ岳との間の細い谷間を進み

諏訪湖まで迂回する事を余儀なくされてきた。

国道20号線も、中央高速道路も、JR中央線も当然のことながら

この地理的な呪縛からは逃れる事はできなかった。

 

だが、1997年以後巨額の費用と幾多の実験の結果を踏まえて

進められてきたリニア新幹線計画は。

2008年以降JR東海が主導して本格的に進めてゆくこととなり、

2010年には幾つかの計画ルートから

東京-相模原-甲府-飯田-中津川-名古屋を結ぶ

「南アルプス貫通ルート」が正式に選択された。

 

2008年の段階で土木技術的な諸問題を解決するため

二箇所のボーリング調査地点を設けた。

第一ボーリング調査地点は飯田市から天竜川をまたぎ

大鹿村役場から秋葉街道を南下した林道の終点に決定された。

第二ボーリング調査地点は衛星写真から早川第三発電所あたりと

暫定的に決められたが、地盤の状況が想像以上に悪かったことから

中間点付近での第三ボーリング調査地点を探すこととなった。

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鳳凰三山の南端に位置する夜叉神峠から見る風景はいつ見ても美しい。

ここからの白峰三山(しらねさんざん=農鳥岳、間ノ岳、北岳)は

他の場所では味わえないほどの雄大さを感じることができる。

この峠の下を通る夜叉神トンネルを抜けると

細く険しく曲がりくねった道路をひたすら降り

広河原に至る。

ここでバスを降り、ロッジ風の南アルプス市広河原山荘に

まっすぐ足を向ける。

 

登山基地としても知られる場所ではあるが、いまやここも観光地となった。

夏休みともなれば家族連れのキャンパーも多い。

ここで今回の調査の同行者と会う手筈となっている。

というよりこの場所を常宿としている男だ。

 

同行する山田さんは、山男としては小柄な体格をしているが

筋肉質な体をしている中年男で、本人曰く年の内半分以上は

この山脈の辺りを歩き続けていると豪語するだけあって

雪焼けなのか日焼けなのか赤ら顔をした精悍な顔つきをした男だ。

 

山田さんは地元の大学で地質学を研究する傍ら山岳ガイドとしても

数冊の著書とこのあたりの高原植物等を写した写真集などを出版している

知る人ぞ知るこのあたりの主と呼ばれているひとである。

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JR東海と国土交通省の依頼と云うこともあって

請け負ったゼネコンとしてもこの調査については、

鼻息は荒く、既にサイは投げられたのだ。

失敗は許されない。技術的な問題は必ずクリアして見せる。

だから事前調査の最終調査として快い結果を上げるように。

つまり第三ボーリング実験予定地をスムーズに確定せよ、

というのが今回の私に与えられた使命だ。

 

静岡から北上する県道37号線が湯島付近で

巨岩で塞がれてしまった事で広河原から南下して

徳右衛門岳を巻いて目的地である荒川岳方面に向かうことを

余儀なくされてしまった。

云ってみれば南アルプスのいちばんの秘境

ともいうべきところではあるが、ここを通る事によって

南アルプストンネルは東西の最短距離を走る事となる。

 

広河原を出発して既に一週間が過ぎた。

かなりの体力的な消耗を強いられたが山田さんが

新たに設定したルートの御陰で危険な目にも合わずに

蝙蝠岳を迂回して針葉樹林帯を抜けて

ようやく目的地の悪沢を越えた辺りに辿りついた。

 

その途上で朽ち果てた幾つかの小屋の跡を発見したが

山田さんに言わせると、昔の部落の跡だという。

しかし、こんな人跡未踏の様な場所に部落があったのか、と驚かされた。

山田さんによると、狩猟を生業とする部族が戦後まで居たそうだ。

10数件の小屋を過ぎると再び下り坂になる。

 

深い渓谷を下りてゆくと派手にガレた斜面がある。

実はこのあたりが衛星写真では第三ボーリング実験予定地であったのだが

風化の激しい岩肌が脆くなって崩れたようだ。

いや正確には、崩れ続けていると云った方が正しい。

常に人間の頭大の岩が急斜面を落ちてくるといった塩梅。

第三ボーリング実験予定地としてはこれはいただけない。

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川が干上がった跡地で、山田さんは休憩しようというので

二人でビールを飲んだ。

このあたりで崩落の無い場所と云うと、おそらくはここから西に

回り込んだ稜線の脇のあたりが岩盤が固く適当ではないか、

という提案で私としては、現地を視察することを了承した。

 

その夜はその場でテントを張り、早めの夕食を済ませると

ふたりとも物凄い勢いで寝込んでしまった。

一度、用を足しにテントの外に出てみたが

満点の星空も東西両側に高い稜線で囲まれていると狭く見えたものだった。

真夏とはいえ、息は白く冷え込みが激しかったため

すぐさま寝袋の中に戻った。

 

やはり一週間も道なき道を辿ってきたせいか

疲れが溜まってきているようで。

寝付けないことはなかった。

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翌日、昼ごろから計画通り西に回り込んだ稜線の脇に回り込み

堅牢な岩盤地帯を抜けると一段下がった斜面が有りそこを下ると

小広く明るい草原が有り、地下を南アルプス貫通トンネルが走る

予定のこのあたりが第三ボーリング実験場に相応しい場所ではないか

と思われた。

 

衛星電話でゼネコンの本社に告げるとGPSでマーキング出来たと

伝えてきた。明日にも工事部隊の先遣隊を送りこむと喜んでいた。

 

だが、山の天候は女の機嫌ほどに分からないもので

物凄い豪雨に見舞われ、私と山田さんはそこから急斜面を上がった

岩盤の中程のところにある洞窟に雨宿りに逃げ込んだ。

洞窟の入り口は広く、上部に巨大な岩が突き出していたので

風が吹き下ろすような場所でもあり、雨が吹き込んでくることはなかった。

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だが日が暮れると気温は急降下し、

吹き上げる風が雨粒を巻き上げてきたため

洞窟の奥の方へと入っていかざるを得なくなった。

狭い通路の様なところを通ると広くなっていて

風を凌ぐために荷物を移動した。

 

ほぼ円形なその空間は何か人為的な痕跡を感じた。

固形燃料に火をつけると辺りがぼんやりと浮かび上がる。

確かに円形状のまるで部屋のような場所で

原始的な竈の様なものが石で拵えてあり

なんらかの火を使うような巨大な生物の痕跡が・・って

そんなの人間しかあり得ないじゃないか。

 

そこで私たちは恐ろしいものを見た。

 

竈の反対側にまるで枯れ草を藁の様にベッドのように敷き

その上に横たわっている白骨死体は

どうみても並大抵の人間の大きさではない。

しかも体毛に覆われていたようで、その痕跡も残っていた。

 

その頭蓋骨は頭部が小さく顎のあたりは

通常の人間の3倍程度ではないかと思われるほど発達しており

総じて言えば三角すいのような感じであったし、

犬歯も人の倍はあり、腕の骨の長さといえば掌が膝より

下まで達するほど長かった。

 

山田さんはひょっとして・・という前置きをしてから

「これが・・雪男だったのかもな」と

意外に冷静にさらりと云うのでびっくりしてしまった。

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山田さんは言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。

「このあいだ、部落の跡をみただろ?

あそこは狩人の部落だったんだ。

つまり鹿や熊やいろいろな動物を殺し、捌いていた人たちだ。

故に他からの人たちには中々受け入れられることができず、

計らずも謂れ無き差別や迫害に遭ってきたらしい。」

 

「謂れ無き迫害・・。

彼らの特異な信仰というのも迫害されるきっかけとなったのも事実でね。

彼らはこの山岳地帯を領く山の神を崇拝していたんだが。

山そのものを御神体としたものと思われていたんだが

実は雪男ではなかったのか、とも言われている。」

 

「私が調べたところでもあそこの部落が解放されたのは

戦後10年ほどたった頃だ。

それまであそこの部落では山岳部族らしい

そういう営みがあったんだ。」

 

この地方にも雪男伝説が明治から昭和の初期

いや、戦後でも残っていた、という話は聞いたことがあるが。

まさか・・実在したと云うのか。

「だって、2M以上あるだろ、その骨。

そんな人間、滅多にいないぜ!」

そうだけど・・

「やったな、世紀の大発見だよ!」

山田さんは妙に嬉々としていた。

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「な、奥にもっとなんかあるかもしれんぞ!」

山田さんは荷物をほどくとケービング用の機材をとりだし、

ヘッドライトやらケミカルライトやらを広げた。

山田さん、マジですか?はしゃぎ過ぎですよ!と制する

私の云い分など耳にも入れないようで。

 

「だってね、キミ。雪男の存在が実証されたわけだよ。

これは世界的な大発見だよ。」

しかし、クライアントは・・どういうでしょう・・そんなものがでたら

工事計画全体が凍結されてしまうかもしれませんよ!と

血相を変えてみせたが山田さんはもう止まらない様子だった。

 

「いいかい、リニア新幹線に雪男!

これでここいら一帯は世界的に知れ渡るぞ!」

 

山田さんは、いずれにしても奥へと進むつもりでいたようで

ケービング用のハーネスを身に纏いズンズン奥へと進んでいったので

私も着いて行ったのだが、洞窟はすぐに狭くなり

縦に突き出す岩と岩の間の僅かな隙間を縫うような進み方をしていったが

身体の作りの大きな私はとうとう進める限界にまで来てしまった。

 

私は引き返す事を求めたが、山田さんは地質調査の一環だ、

として聞き入れず、無線機と最近の調査には欠かせない

光ファイバーのケーブルを持ち出して私にここで待っていてくれ、

と云い残し、先へ進んでいった。

 

地中での連絡では短距離でなら無線機でも使えなくはないが

地中の磁性体等に影響が現われるため昔ながらの有線さながらに

光ファイバーを用いる。このケーブルが優れもので、携帯電話を接続すると

簡易のテレビ電話としても使用できる。

 

山田さんはこのケーブルを1000m、私も200m程持っていた。

小柄だが山男を自認する彼は、いとも簡単に狭い隙間を進んでいった。

前進するにつれ、私の手元に丸められた光ファイバーのケーブルが

手繰られてゆく。

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トランシーバーに反応があったため、ヘッドセットをつける。

雑音に紛れて、山田さんの声がする。

「隙間を抜けた。あぁ、広い。広い空間がある。

天井は高くて見えないが、鍾乳石のような巨大な壁が見える。

湿気がひどいな。足元に・・」

 

「足元に深い谷があるようで、底の方に水でも溜まっているのか

川でもあるのか、私のヘッドライトが反射されているように見える。

いや、なにか発光する植物でも繁茂しているのか?」

 

ヘッドセットから耳を劈くような雑音がして耳から離してしまった。

と、同時に、ケーブルが勢いよく巻き出されていった。

匍匐前進でも、歩行する速度でもない。

狭い洞窟の中で走るはずが無い。

滑落したに違いない!

 

私はケーブルに携帯端末を繋ぎ、山田さん!と

何度も呼びかけたが応答が無い。

やがてケーブルが巻き出されてゆくのが止まった。

大雑把だが200m程、巻き出されただろうか。

ケーブルにはまだ余裕があった。だが。

 

私は茫然自失となり、自分の身体が通り抜けられない

狭い亀裂の前でなにも出来ることが無い事に苛立った。

私は半泣き状態で、山田さん、山田さんと繰り返した。

 

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暗い洞窟の中で私は孤独感にさいなまれていた。

しかも後ろには人間のものとは到底思われない

巨大霊長類の骨が横たわっているのだから。

云い様の無い恐怖感に囚われていた。

 

暫くすると携帯端末に山田さんの音声だけ入ってきた。

私は眼から涙が溢れ出た。よかった、よかったと言い続け

早くこちらに戻ってくるようになんども言った。

「いいかい驚くなよ。

いや、驚かない方がおかしいぜ。

いま、先ず俺は、とんでもないところにいる。」

 

私は暗闇に放置されていたためか、普段とは想像もできないほど

山田さんに向かってあれやこれや、怪我は無いか、

どうやって上がってくるのか、と、しつこいほどに言葉が噴出した。

 

「そして、とんでもない・・いや

驚くべき・・ひとたち、と一緒にいる。」

 

私は山田さんが滑落し頭でも打ったのではないかと思い

落ち着け、パニックを起こすな、と話したが笑い声がした。

「おいおい、そんなんじゃないぞ。俺の頭は大丈夫だ」

 

早く上がってきてくださいよ、というと

「おいおい、私はいま温泉に浸かっている。

なかなかいい湯だ。もう少しここに居させてくれよ。」

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「この辺りの天井と云い床と云い、温泉のせいだろうか

発光性のコケが繁茂している。

ライトが無くても青白くボンヤリと見えるほどだ。

キノコや、地衣類、強靭なミズナのような植物が

そう、栽培されているんだ。」

 

「そして、僕の目の前には10人ほどのひとに囲まれている。」

私は山田さんが・・おかしくなった・・と思った。

「信じられないだろ、あたりまえだよな。僕自身、信じられない!

このひとたちは・・不思議だな・・僕の頭の中に直接話しかけてくるようだ。

さっき、滑落して擦りむいた膝を介抱してくれている。」

私はあまりに馬鹿げた様なことを云うので山田さんに画像を送るように

告げたが、失敗に終わった。

 

撮影時のストロボの発光に驚いて逃げてしまったという。

それから暫くして、音声が復旧した。

「彼らはずっとここで暮らしてきたんだ。強い光は苦手らしい。

いま、あやまっているところだ。彼らは、先天性のアルビノのようだ。

真っ白な肌をしている。」

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「鍾乳洞の中で、入り組んだ洞窟を最大限に有効活用している・・。

例えば、温泉の熱、水、それを使った野菜の栽培・・

彼らはこれを主食に生きて伸びてきたんだ!」

 

「彼らは・・なるほど。天上いるんだろう大量の蝙蝠の

糞から発生するガスを使っている。

火力が弱いながらも火を使っているらしい。

なんとも効率的なエネルギーの使い方なのか・・感動的ですらあるな。」

 

「彼らは非常に統率された社会を築いているんだ。

食料の配分や資源の効率的な使い方、はては婚姻に至るまで。

暗く狭い環境の中で十分に適応して暮らしている。

しかし・・彼らはどこからきたのか・・遭難者の子孫なのか?」

 

「彼らの中で一番の長老と話す。

彼らの統制をとっているのは・・彼らしい。」

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「彼らの祖先は、なんということだ・・。

彼らの祖先たちは、この山の神に捧げられた人身御供だというのか?

山奥の孤立した部落では貧しさから

口減らしと狩猟のお礼をこめて

山の神に年に一度、若い娘を捧げていた。

娘がいない年は、若い男の子を捧げていた、と。」

 

「全身を毛に覆われた人語を解さない大きな山の神は

その凶暴で荒ぶる神々の印象の外見とは懸け離れていて

とても優しく温和な性格で、捧げられた子供達を、

我が子同然に大事に育ててくれた。」

全身を毛に覆われた・・と想いを馳せれば、骨となった雪男のことか?

 

「中には逃げ出す子供もいたが

部落に帰るとすぐに親たちに殺されてしまった。

そんなこともあって子供たちは山の神と暮らすことを選んだ。」

 

「山の神はひとりではなく、かなりの家族だった・・

冬の雪が積もる頃には、このあたりの洞窟をねぐらにしていた。」

つまりこの洞窟も雪男の巣だった、と。

 

「子供達は、すくすくと成長し、青年・乙女と成り

そして山の神たちと交配し、彼らと神の間に子どもが生まれた、と。

それが、彼らの・・祖先だというのか・・」

 

雪男と人間の合いの子だと?

私はなにか常軌を逸したような

まるで熱に浮かされるような山田さんの話に

酷く気分が悪くなった。

 

しかしいったい、いつの話だというのだ。

「最後にここに来た娘は・・昭和・・になってからだと・・いうのか!」

100年にも満たない「昔」にまで・・「雪男」が生きていたという事か・・

 

その後の山田さんの話す言葉のひとつひとつはまるで

ある種族の歴史であり文明の継承の物語のようにも聞こえた。

山田さんの声も完全に学者の声になっていた。

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山田さんと彼らの長老との話は続いていた。

山の神たちは山の高いところを四季折々に住まいを変えながら

移動しながら暮らしていた。

時に狩りをし、時に木の実を食しながら。

恐らくは南アルプス全域を巡って生きていたのかもしれない。

雷を避け、雲に紛れ、人知れず彼らはこの山脈の中で生きてきた。

 

山の神は厳しい自然の中で、

時に厳しく、時に優しく

子ども達に生き抜いていく知恵と方法を教えていった。

人語を介さずとも意思を疎通する方法を。

食べられる山菜を。またその栽培方法を。

動物性の栄養の取り方。兎や猪、鹿、川魚の獲りかたも。

あらゆる有限なエネルギーの効率的な使い方などなど。

 

体毛が薄い彼らの子孫、つまり今の彼らに近いひとたちは、

冬季の厳しい気温低下に耐えることが出来ないものもいた。

大型の猛獣の餌食になるものもいた。

遺伝的な病気を患い苦しみながら息絶えたものもいた。

自然の猛威の中で失った家族に対して山の神たちは

彼らのやり方で悲しみを表し手厚く弔った。

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そして温暖な洞窟の奥で寒さに弱い彼らが生きていけるように

彼らの教育を施していった。それは“社会”をもたらし

さらに今の彼らの統率に繋がる所謂“法”をもたらした。

だが、狭い洞窟の奥の鍾乳洞の中で多くのものが

暮らしていくには限界があった。

 

山田さんの声が崇高なる自然の法則に畏怖を感じはじめていた。

だが自然児として彼らに共感を覚えているようだった。

苛酷な自然環境に対応し、順応し、共存してゆくための法則を。

その最も敬虔で、慎み深くなければならない部分を。

その最も残酷な部分を。

最後に山の神たちは彼らにその部分を身を呈して教えた。

 

山田さんが伝える話は、ここで大きく趣向を変え始めた。

それと同時に山田さんの声色が徐々に変化した。

山田さんにはこの後何が語られるのか薄々と分かっているような

なにか悟りきったような話し方をしだした。

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つまりこの鍾乳洞ではせいぜい10人しか生きてゆく事ができない。

決して強いものではなく。決して賢いものではなく。

いちばん適した10人だけがここで生きてゆける。

そのため適応できないもの。

10人に入れなかったものは、生き残るもののために

自らその身を呈する。

親も子も関係ない。神ですらその立場は関係ない。

自らの血肉を分け与えて_。

この自然の中で生けとし生けるものの全てに課せられた過酷な試練。

 

社会が出来上がり、法が形成されつつある中で、「適した者」とは。

権力と策謀に富んだ歪んだ性格と高度な知性と残忍さを合わせ持った

者が、他者を戦わせ、その血肉を自らに取り込んで生き続けて。

 

山田さんの声がひっくり返り、悲しそうに叫ぶように・・

「つまり、あなたがたは・・共・・」

山田さんの声はそこで途切れた。

呻き声と断末魔の声が

スピーカーからではなく岩の隙間から反響しながら聞こえて

私は山田さん!山田さん!と呼び続けた。

 

「山田さん!おい、山田さん!大丈夫ですか?!応答して下さい!」

私の声は洞窟に響いた。反響し、彼らのもとにも届いただろう。

すると、スピーカーがブルブルと震えるような低い振動音を伝えた。

そして聞きにくいが、わかりやすい悪意を秘めた、そして嘲笑を漂わせて。

その声は云った。

 

「馬鹿め、山田は死んだわ。」

 

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なにか強引な力でケーブルが引っ張られて、

まだ見ぬ何かが私に近寄ってきているのを感じた。

それは物凄いスピードで急速に這い上がってくるようだ。

まるで地獄から悪魔が這い出るように。

彼らが、この狭い岩の隙間を駆け上がってくるというのか!

 

思わず私は洞窟の入り口に向かって走り出した。

だが、足を踏み外し、岩盤の斜面から滑落してしまった。

20m程落下して、私は骨折してしまったようだ。

動く事ができずに迫りくる脅威を確認しようと洞窟の入り口をみると

闇夜に白く浮き上がるように立つ小柄な、ひとではない霊長類の姿があった。

私は、その咆哮を聞いたとき、絶望の余り気を失ってしまった。

 

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5

 

「田中さん!田中さん!」

私は耳元で名前を連呼され、身体を激しく揺らされて

気がつくと足元に酷い激痛を感じた。

ゼネコンの先遣隊が待ちきれずにヘリを飛ばしてきて

私を発見してくれたらしい。

 

私はおそらく昇る朝日に救われたのではないのか、と考えた。

だが私の漏らした幾つかの言葉と喚き散らさずにはおれなかった

一連の事柄と山田さんの捜索依頼の件が祟って。

 

私はいま、白い壁に囲まれた病室にひとり収監されている。

 

説明
某ノベリストさんの「跡地」コミュのために書きました。

1970年代中盤「エクソシスト」の登場で名門ハマー・フィルムの
お家芸たるホラー映画が一気に陳腐化してしまい弱体化してしまった
英国映画界で、「スター・ウォーズ」出現前に必死に細々と
SF・ホラー映画を創り続けたアミカス・プロダクションの雄!
ケビン・コナー監督作品のエドガー・ライス・バローズ原作シリーズ第二弾!

「地底世界ペルシダー」の映画化!
もうこれだけで見なきゃダメだろ!
さすが英国な「サンダーバード」ライクな「鉄モグラ」の
写真を見せられた日にゃ、即行で劇場に駆けつけたよ!

え?怪獣が『突撃! ヒューマン!!』みたいだったり?
全編スゲエ貧弱なスタジオ撮影だったり?
音楽が陳腐なシンセだったり?
え?ダグ・マクルーアの映画だろ?

あんまり安い出来なんでドン引きだったが。
冷酷無比なモフ・ターキン提督を演ずる前年になんとも楽しげに
お気楽博士を演じているピーター・カッシングとか。
キャロライン・マンローの胸とか。
キャロライン・マンローの胸とか。
キャロライン・マンローの胸とか。
観るべきところはいっぱい。(おっぱい)・・・アララ

さて一応、幹事長勤めます「跡地」コミュ用のジックリなホラーなホラ話。
ラブクラフティアンぶりを怒涛のように展開しております。
ひとによっては「アーサー・ジャーミン」的なものを感じるかもしれません。
ひとによっては「ピックマンのモデル」的なものを感じるかもしれません。
ひとによっては「ランドルフ・カーターの陳述」的なものを感じるかもしれません。
ひとによっては「潜み棲む恐怖」的なものを感じるかもしれません。

いよいよ「怪獣小説」への道が開かれるかw

絵師さんとのコラボ希望!の
不肖・平岩の「山の神さまサーガ」であります。
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東宝特撮 怪奇 ラブクラフト 雪男 山の神さまサーガ 

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