とある騎士と従者のお話 |
「王様から竜退治という栄誉を申し渡された。いざ行かん、捕らわれの姫を助けに!」
「お待ち下さい騎士様。騎士様に物申しとうございます。騎士様は犬死になさろうというのですか」
「何を言う従者よ。お前には王様から賜ったこの聖剣が目に入らぬか」
「竜は飛びます。聖剣は届きますまい」
「ならば奴のねぐらの洞窟で戦おう」
「竜は火を噴きます。騎士様は丸焼けです」
「この聖鎧ならば火も効かぬわ」
「竜の咆哮は魂を破壊し、その吐息は毒をもたらします。これでも竜に勝つおつもりですか」
「むむむ。ならばどうやって勝つ」
「そも、国軍が束になって勝てるかどうか分からぬ相手に、騎士様一人が立ち向かう事自体が異常なのです。お気づき下さい、これは体の良い生贄です」
「そんな馬鹿な!」
「竜から生贄を要求された王は、選択肢が二つあります。国全体を挙げて竜を討伐するか、要求に屈するか。しかし竜に必ず勝てるとは限らず、勝てても疲弊した国は他国に攻め滅ぼされるでしょう。ならば、生贄を差し出す方が賢い選択です」
「そんな事、国民が認めるものか!」
「だからこそ、建前としての竜討伐です。騎士様は表面上は英雄ですが、中身はただの生贄です。その聖剣も聖鎧も、名ばかりの偽物でございましょう」
「お前の話は全て憶測ではないのか?」
「ならばなぜ、先日から護衛という名目で何人もの兵士が我々を見張っているのです? 彼らは周囲の警戒よりも、私達ばかりを気にかけておりました」
「……仮に、お前の話が本当だとして。姫はどうなる?」
「私は従者だから分かりますが、人間一人の世話は大変です。王様も、姫様の事は諦めていると思われます」
「俺はどうすれば良いのだ」
「逃げましょう。騎士様が助かる道はそれしかありません」
「国はどうなる。生贄を得られぬ竜が国を襲うかもしれぬ。ならば、俺の人柱にも意味がある」
「竜が生贄一人で満足すると思いますか? 騎士様の命は竜の腹をわずかに満たす程度に過ぎません。それではあまりにも悔しゅうございます」
「しかしそれでは国や王様が……」
「騎士様を見捨てるような王を見限って、何を気に病む事がございましょう。全てを救う事はできませぬ。そして、私は王ではなく騎士様の従者でございます」
「――分かった。今宵、国を発とう」
「地の果てまでお供致します」
こうして、騎士と従者はどこか遠くの地で幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
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国のため騎士を捨てた王。
命のため王と国を捨てた騎士。
エゴのため騎士に捨てさせた従者。
悪いのは誰だ、というお話。
説明 | ||
よくあるファンタジーにリアリティ追求してみたらというテーマ | ||
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