真説・恋姫†演義 仲帝記 第二十九羽「雛鳥は欲を見せずに事を収め、臥竜は再び地に臥す、のこと」
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 歴史には必ず、大きな流れの分岐点、というものが存在する。

 

 日本で言えば、織田信長が死んだ本能寺の変や、第二次世界大戦で日本が勝っていたら等、結果が少し違えばその後の歴史は今とはかなり、その様相を異なる姿のものにしていたかもしれない。

 

 そうしたIFの先に生まれるのが、外史を含むパラレルワールド、というやつである。

 

 そして、この外史における反董卓連合と董卓陣営の戦い、所謂陽人の戦いもまた、その内の一つに数え上げられるといっても、過言ではないと思う。

 

 戦いそのものは、細かなずれこそあれど、概ね袁紹率いる連合軍が勝利を収め、彼女らは意気揚々と、目的地である漢の都、洛陽へとたどり着くことに成功した。

 

 連合参加諸侯それぞれが、それぞれに様々な思いを胸中に秘めつつ、都にて、皇帝を保護した後のことを、その後に来るであろう乱世へどう対処するかを、その脳裏にこそ密かに描きつつもけして表には出さないまま、表面的にはただ粛々と、一向は洛陽の門前へと到達した。

 

 しかし、そこでは思っても見なかった事態が、彼女らの事を待ち受けていた。

 

 虎牢関の戦いにおいて、董卓軍の虜囚となっていたはずの袁術が、漢の十四代皇帝劉協を伴って連合軍の前にその姿を現し、さらには、その袁術の手によって連合軍の最大の大義であった、“逆賊”董卓の討ち果たしを、彼女が行なったと。

 劉協から自分たちへの賞賛の言葉とともに聞かされた連合諸侯は、その思いもよらなかった出来事に、揃ってその言葉を失ってしまった。 

 

 袁術の手によって、高々と掲げられている“董卓”の首を、ただ呆然と、そして愕然としつつ、遠目にて眺め続けながら……。

 

 

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 第二十九羽「雛鳥は欲を見せずに事を収め、臥竜は再び地に臥す、のこと」

 

 

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 「諸侯よ、顔を上げい」

 『は』

 

 上座より聞こえた劉協の声に従い、その前面にて膝を着き頭を垂れていた連合諸侯が、言葉少なにそれに応えて正面へと、それぞれにその顔を上げる。

 その彼女らの視界に入っているのは、上座に設置された玉座に、龍の直垂を身に纏って座る、漢の今代の皇帝劉協と、その彼女の少し手前、一段下の左側に立つ李粛。そしてその李粛とは反対側の位置に立つ、袁術の姿があり、さらにはその袁術の配下である張勲と紀霊、諸葛玄の姿もまた、袁術のその直ぐ傍らにあった。

 

 「まずは諸侯よ。先にも述べたが、此度の義挙のほど、朕はいたく関心しておるぞ?特に、その発起人である袁本初よ」  

 「は、ははっ」

 「……そなたのその、悪を憎み善を真っ当せんとする“義の心”、まことに感服した。……褒めてつかわすぞ」

 「も、もったいなきお言葉にございます!」

 

 皇帝が自分の行動を認め、さらにその上で褒め言葉までかけてくれた事で、袁紹の思考は完全に舞い上がっていた。

 そんな袁紹のことを、空々しい顔をして見ている、他の連合諸侯。だが、その中で唯一、曹操だけが今の状況をいぶかしんでいた。

 

 (……まさか、ね。こういう状況になるなんてこと、完全に予測の範疇外だったわ。董卓が暴政なんて“していない”のは、こちらでも“初めから”分かってはいたことだったけど、いざ蓋を開けてみれば、董卓を逆賊として皇帝が認めてしまうなんてね……。……舞い上がってる麗羽はともかく、さて、ここからどう手を打つべきかしら)

 

 今回の反董卓連合が、袁紹の私欲を発端とした単なる茶番劇でしかないことぐらい、曹操とて始めから百も承知の上のことだった。

 だがそれでも、彼女はその真実を諸侯に黙殺し、自身が名声を得るそのために利用することを選んだ。そしてその思惑通り、曹操は水関への一番乗りという手柄を得、一応、その目的も達成することが出来はした。

 とはいえ、その為に彼女は、秘蔵の手段であった数え役満姉妹こと張三姉妹を表に出すという、下策に近いそれを使ってしまった為、諸侯に対して少々後ろ暗い所を抱えることにも、なってしまってはいたが。

 

 (……天和たちの事を差し引いたとしても、私的には十分な戦果と言えるし、ここはこれ以上、でしゃばらない方が得策かしら、ね)

 

 今この場で下手なことを言って、役満姉妹の事を蒸し返されたら、それはそれで都合が悪い。“例の首”が本物かどうかは分からないが、わざわざ藪を突付いて蛇を出す必要も無い、と。上機嫌に晴れやかな笑顔を浮かべている袁紹の後ろで、無表情で畏まった態度を、彼女はその後も終始、貫き通してたのであった。

 

 

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 「ところで陛下。この袁本初、一つお尋ねしたき儀がございます」

 「うむ。何か?」

 

 また何を言い出そうとしてるんだ、この馬鹿は、と。諸侯が自分の背後でそんな事を思っていることなど露とも思わず、袁紹は劉協に対し一つの問いかけを始めた。

 

 「美羽さん…いえ、我が妹である袁公路にございますが、どのようにして逆賊の首をお取りになられたのでしょう?確か美羽さん?あなたは先の虎牢関で、情け無くも虜囚の身になってしまったはずですわよね?」

 「……っ!」

 

 虎牢関にて袁術が名目上董卓軍の捕虜になったのには、自分にその大きな責任があったことなど、最早一切その記憶の中に残っている様子も無しに口にした袁紹に、他の一同は思わず愕然とした表情をその顔に浮かべ、その彼女の方へと一斉に視線を集める。

 しかし、当の袁紹本人はその事にまったく気付く様子も無く、周囲から浴びせられる白い視線の中、淡々と台詞を吐き続けていく。

 

 「まあ、どうせ美羽さんの事ですから、棚からぼた餅的な“偶然”が、たまたま!重なって、首を取れただけなのでしょうけど。そのあたりの過程、一応!聞いておいて置きませんとね。他の皆さんも、そのあたりはお気になられるのではなくて?」

 「……それはまあ、確かに」

 「気になることは、なりますけど……」

 「そうでしょう?というわけで美羽さん?私は別に、あなたの活躍なんかどうでもいいのですけど、一応、連合の総・大・将!として、聞いておいて差し上げますわ。おーっほっほっほ!」

 

 あまりに機嫌が良すぎるために気付いていないのか。皇帝の前だというのに、その事を気にもする事無く、例の高笑いをしながら袁術に事の次第を話すよう促す袁紹。

 その袁紹の台詞が続いている間、袁術当人は小さくその体を震わせながら、必死になって自分を抑えていた。今この場で、怒りに任せて全てを明かしたくなるその衝動を、両の拳をぎゅっと握り締める事によって何とか堪え、その顔に無邪気な笑顔を無理やり作ると、姉の問いかけに対し、“普段どおり”の言動でもって返し始めた。

 

 「……虎牢関から連中が撤退する際、何でかここまで一緒に連れて来られた妾達じゃったが、その妾達の前に、のこのこと、董卓めの奴がその姿を現したのですじゃ」

 「はい〜。お嬢様の仰るとおり、私達もどうしてここに連れこられたのか不思議だったんですけど〜、董卓さんが言うには、『名門の袁家の伝手を使って、なんとか穏便に、ことを済ませて欲しい』、とそう持ちかけてきたんですよー」

 「そうだったんですの?まあでも、董卓さんのそのお気持ちも分からなくも無いでもないですわ。三公を四度も輩出した名門、袁家の名にすがりたくなるのは、人として当然ですもの。おーっほっほっほ」

 「全くもって、麗羽嬢の言うとおりですね。いや、さすがは袁家の“御当主”。良く分かっていますねえ」

 「そうでしょう、そうでしょう。秋水さん?貴方こそ良く分かっていらっしゃいましてよ?おーっほっほっほ!」

 

 諸葛玄の袁家を、特に袁紹を讃えるその言葉を聞いて、ただでさえ良かった機嫌を更に良くし、袁紹は諸侯の中でただ一人、満面の笑顔で笑い続ける。

 

 「……ですが、そこで逆賊に慈悲を与えてしまっては、それこそ袁家の名折れ、と。七乃…張勲の進言によって、表面上はそれを呑む振りをし、相手が油断して我々の戒めを解いたその瞬間に、この私が董卓の首を落として見せました」

 「つまり、今回の功は巴、紀霊にあるのじゃ。そしてそれは、その主君である妾の功となるわけなのじゃ。つまるところ、此度の連合の第一の功は、このわ・ら・わ・という事になるわけなのじゃ!分かって頂けましたかの?麗羽姉様?ぬはははー!」

 「……っほっほ……って、え?」

 

 ぴた、と。袁術の最後の言葉を聞いたその瞬間、ぽかんとした顔で固まる袁紹。そして、徐々にその事を彼女の脳が認識し始めると、先ほどまでの上機嫌は何処へやら、苦虫を噛み潰したような顔になって歯噛みをし、まるで先ほどの袁紹の様にけたけたと笑う袁術のことを、ぎっ、と睨みつけるのであった。

 

 

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 「さて、諸侯よ。今聞いたように、此度の義挙の第一の功は、この袁公路にある。だが、その袁公路。これに関する報酬は何も要らぬ、と。そう申しておっての」

 『なっ』

 「それは当然の帰結、というやつですよ。……僕たちは今回、陛下のため、漢の為、ひいては民の為に、事を起こしたのですから、こうしてそのお役に立てた以上、それだけで十分なはず……ですよね?美羽嬢」

 「……妾は別に、くれるという物は何でももら、むぐっ?!」

 「はいはーい。お嬢様ー?これ以上駄々こねちゃあ駄目、ですよー?……向こう一年間、蜂蜜禁止にされたくないですよねー?」

 「……むぐ」

 

 コクコク、と。自分の口を押さえる張勲に、袁術は渋々といった目をしながら頷く。

 

 「そういうことで、じゃ。その分の褒賞は残りの諸侯に、均一に振り分けることに」

 「お待ちください、陛下」

 「む?何かの……っと、そちは」

 「平原にて相を務めます、劉玄徳に御座います。陛下のお気持ちはありがたく思いますが、私も、公路さんと同様、今回のことについての褒賞は全て、辞退させていただきます」

 「……ほう」

 「……玄徳、貴女」

 「おい、桃香。それでいいのか?」

 

 袁術同様、自分も褒賞を受け取る気はさらさらない、と。そう劉協に向かって発言をした劉備に、その場の誰もが驚きを隠せず、拱手をして劉協の顔を真っ直ぐに見つめる彼女のことを、ある者は不信、ある者は驚嘆の視線を、それぞれに向けて凝視した。

 

 「……愛紗ちゃんたち、あ、いえ、私の仲間たちとも話し合って決めたことなんです。それに虎牢関では、いくら董卓さんが悪い人だったかもとは言っても、その将兵さんたちにとっては主君である人の事を馬鹿にして、あそこに居た人達を怒らせてしまいましたし。……ただの自己満足かもしれませんけど、それも含めて、今回の事は私達にとっての良い教訓となりましたから、これ以上は何も、望むつもりはありません」

 

 長々と。饒舌に自分の想いを熱く語った劉備の顔は、どこか清清しさすら感じさせる、何かを振り切ったような、そんな真摯な表情をしていた。

 

 「……なら、あたしらもそれに乗っからせてもらうかね」

 「文台殿もか。……なら、私も賛成するしかないか」

 「ま、母上には怒られるかもしれないけど、ここであたしらだけ褒美を貰っちゃあ、居心地が悪くなるし。……はあ〜、母上の怒鳴り声が耳に聞こえてきそうだ……」

 

 劉備のその発言を機に、孫堅に公孫賛、馬超までもが、この戦いでの恩賞の辞退を口にし、最後には曹操までもがそれに賛成を表明した為、最後に残された袁紹も、それについて不満を言うことなど到底出来様はずもなく。

 結局、諸侯に振舞われるはずだった恩賞については、今回の戦で家族や身寄りを亡くした者達、その全てに対する基金とすることで、全員が承知をしたのであった。

 

 

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 「そういえば陛下。董卓の旧臣たちは如何したのでしょうか?」

 

 会合の終了間際、ふと、曹操が思い出したように劉協に対してその事を問いかける。確かに、董卓自身は死んだのかも知れないが、その配下だった将兵達はどうなったのか、と。

 特に、董卓軍、いや、大陸最強の武人である呂布の今後、それが彼女にとってはもっとも聞きたかったことだった。

 後の世に、人材コレクターとしてもその名を残している曹操である。呂布を配下にと欲しがるのも、道理といえば道理であったが、劉協の返事はその彼女を落胆させるものでしかなかった。

 

 「おお。そういえばまだ話していなかったな。まず、董卓の参謀であった賈文和という者だが、主君の死を知ると同時に、自らその首を斬り、主の後を追い居った。……董卓のこと、あれは本気で慕っておった故、誰も止められなんだそうだ……」

 「それから、董卓軍随一の剛の者であった呂奉先だが、虎牢関からは戻らず、その姿を途中で消してしまったと、そう報告が来て居る。……何処に行ったかは分からぬが、あれほどの者、そう長くは世が放っておくまい。いずれ、どこぞの将としてまた再び、表舞台に出てくるであろうな」

 「そして残る張文遠と華雄だが、華雄将軍については本人の強い意向により、ここに居る袁公路の下に降ることになった。……主君を討った者に仕える等、正気の沙汰ではないと思ったが、あれ曰く、『自分はただ、より強い者の下で、自分の武を振るえるのであれば、その相手が誰であろうと構いはしない』……と言うことだそうだ。張文遠については、朕の下に残ってもらい、禁軍の将として朕を助けてもらう手筈となっておる。……以上が、旧董卓軍諸将のそれぞれである」

 「……そう、ですか」

 

 劉協と李粛から返されたその返事に、曹操は大きく嘆息を吐いて肩を落とす。しかしそれと同時に、呂布が在野の士となったのであれば、まだ自分にも、彼女を登用できるチャンスはあると、そう自分に言い聞かせる事で、納得することにしてもいたあたりが、曹操らしいといえばらしいのかもしれない。

 

 こうして、劉協と連合諸侯らの会談は無事、滞りなく終了し。その日の夜には、諸侯を讃えるための宴席が、劉協の名の下に盛大に行なわれ、恩賞を断ったその代りにと言われた諸侯には、それへの参加を断る事など出来ることも無く、宴は深夜遅くまで続けられた。

 

 それから二日後。

 

 最終的には思わぬ形になってしまったとは言え、一応の目的を果たすことに成功した連合軍は、袁紹の解散宣言を受けてその場で解散。

 各諸侯はそれぞれの領地へと次々に戻って行き、こうして、陽人の戦いはその幕を下ろしたのである。 

 

 そして、諸侯の全てが洛陽の地を離れた、同日の夜。

 

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 「……なんとか、上手い事収まった……かな?」

 「そうだな。……ま、月と詠がこの世から居なくなってしまった形になったのは、計画の範疇のことだったとは言え、ちょっとばかり悔しいけどよ」

 「千ちゃんの気持ちも〜、分からないではないですけど〜。陛下と〜、月ちゃんの決断〜、間違っては居なかったですよ〜」

 「それはそうなんだけどよ……でもやっぱ、なあ?」

 

 洛陽の街の、とある一件の宿。

 その一室において、これまでのことを振り返っている人物達が、そこにその顔を揃えていた。

 

 「千州の気持ちは嬉しいけどね。……そりゃあ確かに、最初に陛下と月の話を聞いたときには、ボクも反対はしたけど。……でもまあ、終ってみれば、これが一番、良い方法だったかも知れないわ」

 「詠ちゃんの言うとおりですよ、千州さん。……やっぱり、私には相国の座は分不相応なものだったと思うし、それに、詠ちゃんと一緒に居られるなら、地位なんて私には関係ないですから」

 「月ぇ……」

 

 とても朗らかなその二人、今は既にその本来の名を捨ててしまった、董卓こと月と、賈駆こと詠のやり取りを、微笑ましく見つめる一刀、陳蘭、雷薄の三人。

 

 「けどよ。やっぱびっくりしたぜ?最初はよ。陛下と月から、董卓仲頴を死んだことにして、しかもその上で、偽善者どもの集まり、いや、阿呆と馬鹿の集まりでしかない連合の連中を、褒め称えて迎え入れる、なんて言われた時にはさ」

 「そうだな。そしてその為に、死んだ王允の首まで使うんだから、あの皇帝陛下、可愛い顔してとんだ狸だな」

 「へぅ。そ、それは流石に言い過ぎじゃあないかと……」

 

 要するに。

 水関も虎牢関も破られ、後が無くなってしまった董卓軍を、誰一人死なせる事無く、同時に、洛陽の街を戦火に晒さずに済ませるためには、董卓が既に討たれてしまっていることにするのが、もっとも確実で手っ取り早い手段だと、連合勢が洛陽へ到達する前、劉協と董卓本人の口から、全員にそう提案された、と言うわけである。

 

 もちろん、一刀や袁術は当然の如く、董卓配下の張遼や呂布達は猛反発した。自分達にしても、兵たちにしても、さらには民達ですら、最後の一人になるまで戦い続ける、そんな腹積もりで居た所に、その主君がもうこれ以上の犠牲は出したくないから、自分を公的に死んだことにしてくれと、そう言ってきたのだから。

 劉協と李粛、そして董卓の三人以外では、その策を推したのは張勲と諸葛玄そして一刀のみ。残りの面子は揃って反対し、ぎりぎりまで彼女らを説得し諌言したのであるが、最後には董卓自身が床に頭をつけてまで、全員に生命を大事にして欲しいとまで言った以上、最早誰にも、それを覆す事はできなかったのであった。

 

 「まあ、なんにしても、だ。万事丸く収まったわけだし、一応、めでたしめでたし、っても良いんじゃねえの?」

 「……だな」

 「あ〜、そ〜いえば〜、陛下はこれから〜、どうなさるんでしたっけ〜?」

 「……美紗、あんた……聞いてなかったの?……陛下はここに残って、李粛殿の補佐を受けて洛陽とその周辺の政を、相国といった間の臣下を置く事無く、自らなされるそうよ」

 「……皇帝の親政、か。上手く行くと良いけど、な」

 「それは大丈夫でしょ。李粛どのは有能だし、都の守りについても、霞が居れば何の心配も要らないでしょうしね」

 「そうだね、詠ちゃん」

 

 都周辺のみとは言え、皇帝が親政を行うのはまさに久方ぶりの事ではあるが、その補佐を行なう李粛は優れた能吏であるし、治安を預かる禁軍の将には張遼が就いている以上、そちらにも何の問題も無い。

 そして近々、劉協から大陸全土の諸侯に対し、とある勅命が下されることにもなっており、それが滞りなく運びさえすれば、大陸は再び漢の名の下、安定した時代へと入って行く事が出来るはずだから、今は何の心配もせず、自分達のこれからのことを考えたほうが良い、と。

 最後に賈駆がそう閉める事でその場は解散し、明日の汝南へ向けての出立に備え、身体を休める事にした一刀達だった。

 

 

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 そして翌朝、長安経由で汝南の地を目指し、洛陽を出立する一刀達の姿があった頃。

 

 「……良い天気、だな……。……桃香さまや雛里ちゃんたち、もう、平原に戻った頃、かな……?」

 

 南へと、隊商を組んで進む商人たちの中に混じり、荷を満載した荷車の空きスペースに乗って、空を仰ぎ見ているベレー帽の少女が居た。

 

 「……今度会うときには、桃香様の慈悲に今度こそ応えられる、本当の意味での軍師になって居ないと……」

 

 手に持った羽扇で空を指し示し、流れ行く雲の群れをじっと見据える、彼女。

 

 「……あの雲の様に、時は無常に流れていく……。それが、平穏な流れのまま、流れ続けるのなら良いけれど、雲は時に嵐を呼び、大地に無慈悲なまでの爪痕を残す……」

 

 それが、何時、如何なる形で訪れるかは、未だ少女にも分からない。だが、ただ一つだけ、はっきりといえることがある。

 

 「……その時が来た時こそ、私が本当の意味で、桃香さまの、世の中の役に立てる、その日となる……」

 

 彼女にそう予感させる確信めいた何か、それは、少女の中に確かに存在している。

 

 「……地に臥せる竜。それが私だと、水鏡先生は仰っていられた。……その私が、今こうして、もう一度勉強しなおすために先生の下に戻る。今一度、地に臥せて力を蓄えるその為に」

 

 地に臥せた竜は、己一人の力では、天に昇る事は出来はしない。魚が、水無しに生きられないように、竜は雲を必要とする。

 

 それが、大地を破壊する荒れ狂う雲か、はたまた、恵みをもたらす静かな雲かは、まだ分からない。けれど、と。彼女は思う。

 

 「……次に出会う雲。それこそが、私を天に昇らせてくれる、真の雲となるだろうな……。それが、桃香様ならいいんだけど……」

 

 己の贖い難い罪を許し、建前上は追放と言う形を取りながらも、再出発のための機会をくれた主君、劉玄徳。

 

 少女は思う。

 

 願わくばもう一度、世に大徳と呼ばれたあの方に、お仕え出来ますように、と。

 

 伏竜、もしくは臥竜と、世に呼ばれたその少女、諸葛孔明。

 

 彼女の願いは、果たして、天へと通じたのだろうか。それとも……?

 

 蒼き空は黙して何も語らず、ただ、中天に輝く日輪と、白き空の旅人を、見守るのみであった……。

 

 〜続く〜

 

 

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 狼「やっと書きなおせたあああああっっ!!と言うわけで、久々更新、仲帝記の第二十九羽です!」

 輝「おひさ〜♪後書き担当、輝里でーす」

 命「皆元気にやって居ったか?後書き担当その二、命じゃ」

 狼「いやあ、手違いでデータが全部消えたときはどうしてくれようかと思ったけど、何とか出来るもんだねえ」

 輝「まあ、今後はちゃんと、別にバックアップ、取って置くようにね」

 狼「いやもう、全くもって仰るとおりで・・・・・・・以後、気をつけます」

 

 命「ま、なんにしても、じゃ。これで反董卓連合編は終わりじゃな?」

 狼「そうです。月と詠以外の将の行き先も決定したし、諸侯のことも何とか上手く収められた・・・と、思う」

 輝「美羽ちゃんが褒美断っちゃったものだから、誰も自分だけが褒美を貰う、って言うわけには行かなくなっちゃった、ということね」

 命「そうじゃな。結局、今回のことで少しでも得をしたのは」

 狼「華琳と堅ママ、それと美羽だけ」

 輝「蜀組も損しかしてないし、朱里が陣営から離れたし。でもさ、なんだか朱里一人に、責任全部負わせた感がないでも」

 狼「んー。文中には書いては居ないけど、一応、愛紗も雛里も、それなりの罰は受けてるんで、その辺は・・・次から始まる拠点の中の一つに、組み入れる事にしますので、お許しいただけたら幸いです」

 

 命「で?次はこれの拠点と、例の親父殿の厨二全開なアレと、どっちを書くのだ?」

 狼「いや。その二つの前に、企画物を少しの間挟みます。題して」

 輝「第二回!どきっ!?笑ってはいけない二十四時in恋姫!」

 命「・・・またやるのか、アレを」

 狼「おう。ようつべで本家を見てたらまた書きたくなったんでな♪と言うわけで、既に出演者さんたちから許可も頂き、ある程度ネタも集まったので、そろそろ開始と行こうかと、思っております」

 輝「ですので、暫くそんな遊びに、付き合ってやったってください」

 命「では、今回はここまで!」

 狼「それではみなさん!」

 

 『再見〜!!』

 

 

 

  

説明
どうにか書き直せました。

というわけで、仲帝記の続編、久々のうpです。

ども、似非駄文作家の狭乃狼ですw

さて、これにていよいよ、反董卓連合も終了。

連合諸侯、そして、董卓軍諸将がどうなったか。

では、今回も駄文・ざ・ワールドへ、逝ってみよーwww
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コメント
皇帝の前でもあの高笑いを響かせる、その肝の太さに感服しました。一身これ胆なり、なんて言われるのもそう遠くないハズ…… まぁ、空気が読めない、と言われるのが先でしょうがw(y-sk)
恋はどこへ? このまま劉備のところへ行くのか、はたまた別のところか・・・(T.K69)
RevolutionT1115さま、それはねねのことでしょうか?だとしたら大丈夫、ちゃんと恋と一緒にいますからねwww (狭乃 狼)
なんかちびっ子軍師1名行方不明な気がするのは私だけ??(RevolutionT1115)
関平さま、とりあえず、恋の次の出番はしばらく先です。さて、一体どこで出てくるでしょうねえ?www(狭乃 狼)
cupholeさま、第二回、やりますよーwお楽しみにwww(狭乃 狼)
陸奥守さま、怒りは静かに胸に秘め、荒ぶらせる時を待っている・・・のかもw朱里の雲になるのは・・・ベタか意外か、さあどっち?www(狭乃 狼)
もののけ犬というかヒトヤ犬さん、忘れたのなら前話を参照してくださいw(狭乃 狼)
ノエルさま、北か南か、さて、大渦が生まれるのは果たしてどちら・・・?ww(狭乃 狼)
シグシグさま、ねねは恋とセットが定番になってますから、多分言うまでもないと思ったんでしょうwさて、麗羽はともかく、最初に動くのはどこでしょうね?w(狭乃 狼)
第2回だと!?(cuphole)
月の配下達は桃香勢に対する怒りを納めたのかな?後朱里の雲になりそうな人はテンプレだと桃香か一刀だと思うけどここは一つ我々の意表をついてもらいたい。(陸奥守)
あれ?朱理何がありましたっけ、どうしてこんなことに、忘れてしまいました(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
「雛鳥は再び己が身を籠へと収め、諸侯は徒華のみを得て元の鞘へと散るの事」でしょうか。乱痴気騒ぎも一先ずの幕、されど畝りは未だに止まず。次なる渦は何処やら。次回も期待させていただきます。(ノエル)
恋と(誰も話しに出さなかったが)音々がどうしているのか楽しみです。乱世の引き金を引きそうなのは麗羽ですね、第一功とはいえ領地の変動はなく美羽は太守で麗羽は州牧だから兵力では麗羽に大きく負けているし第一功を取られた恨みから袁家対決がありそうな予感。(シグシグ)
mokitiさま、とりあえず、今後はお名前、これで行かせて頂くことを謝っておいて。 はたして朱里は再び天昇る龍となれるのか?彼女の雲となるのは果たして・・・?w(狭乃 狼)
朱里の行く先に幸あらんことを・・・。(mokiti1976-2010)
summonさま、そこはもう、いわずもがな、とwww(狭乃 狼)
駄名家は結局駄名家のまま終わり、これからまた駄名家らしい行動を起こす予感がしますね。(summon)
yoshiyukiさま、あー多分、余りのショックのために出なかったんじゃあないかとw さて、一刀が恋姫たちと顔を合わさなかった事、今後どう影響していくでしょうねえ?w(狭乃 狼)
本初さんが、「妹の功は、姉であり袁家当主である私の物」と言いださなくてよかった。結局、一刀君のお披露目はなかったようで、ゲームとの違いがどう影響するのやら。(yoshiyuki)
デスヨネー(アルヤ)
アルヤさま、果たして麗羽、このまま大人しく・・・しているわけ、無いデスヨネーwww(狭乃 狼)
くくくっ、麗羽ザマアwwwwww(アルヤ)
ロウェンさま、多分・・・大丈夫・・・じゃない、かな?アハハ(^ω^;)(狭乃 狼)
叡渡さま、さあ、どうでしょうかねえ?(・・・・・まずい、バレバレ過ぎている・・・ッ)www(狭乃 狼)
蜀の軍師が雛里一人で大丈夫だろうか・・・(ロウェン)
氷屋さま、あはは、やっぱ丸分かりですか<朱里の件w まあ、一応、肯定も否定もしないでおきますけどw 麗羽は別に、何もしなくても暴走してるような気もするけど、さて、恋はこの後、何処で出てくるでしょうねえ?www(狭乃 狼)
朱里が美羽のとこへいくフラグかこれは?w 麗羽の暴言に必死に耐えた美羽・・・大変だったろうにねえ。つかこれは美羽に嫉妬して麗羽が暴走しそうですよねこれは。さて恋ちゃんはどこへいったのでしょうか?w(氷屋)
戦国さま、朱里=孔明ですよ?・・・忘れられているかもしれませんがw 朱里「はわわっ!?しょ、しょんなこと無いで、はわっ!?」 (狭乃 狼)
書き直しお疲れ様・・あれ?何でだろう?朱里のセリフが三国志の孔明に見えるwwさて、拠点話も気になりますね・・・次はどんな話になるんだろう?いよいよ、領地取り合いになるか?(戦国)
瓜月さま、是非是非気にしていて下さいwww(狭乃 狼)
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