真・恋姫†無双〜とある外史の妖術使い〜12
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「皆さん幸せな顔でトリップしてますねぇ〜」

 

「うんそうだね〜、って風さんや、もう発音完璧じゃないですか」

 

黄色の頭巾をつけた男たちは、表情をだらしなく緩め、

瞳を空ろにしながら、楽しそうに『えへへ……』とか、張三姉妹の名を幸せそうに、各々呟いている。

 

手にしていたはずの農具も混じったそれぞれの得物は既に地面に落ちており。

秋蘭率いる五百前後の一軍が、手際よく賊達を縛り上げていっている。

 

その間も無論、彼らは完全な無抵抗。未だ『幸せな幻覚』という忘却の極致にいた。

 

「お兄さんの頭の中を覗ける風にとって、この程度お茶の子さいさいなのです。

包茎が自立行動できるぐらいに当たり前のことなのです」

 

「宝ャな。発音は一緒だけど色々まずいからな、風さんや」

 

「そうですねぇ、お爺さん。早く帰って日向ぼっこしたいものですねぇ」

 

「そうだねぇ、婆さんや。さっさと帰って……いやいや、

なんかこれが普通のノリになるのっていろいろまずいって。

おまけに話が繋がってないからな。ああ、どこから突っ込めばいいんだよ」

 

いつもの漫才的な会話を交わしつつ、お姫様抱っこ状態の風と一緒に、

宙から、乱を起こした黄巾の一団の三千人程度をさっと幻術にかけて、無力化した俺たち。

 

風の特質上、感情を操る操作系の術が得意ということが判明し、

二人の合わせ魔法で一瞬にしてこの状態なんだが。

幻覚の内容とかは風が制御してくれたので、効果的な幻術としか判らない状況。

 

「どんな幻覚を見せたんですかね、風さんや。

それと、最近の外出時に、この抱っこ姿勢が常駐化していることも合わせて回答をお願いします」

 

「後者については、人が息をするのは当たり前のこと、とお返事致しましょう〜」

 

いや、全く判らないです。

にゅふふ、と得意気に、かつ満足気に微笑む彼女は愛らしいのだが、

それで流されてしまう程には、俺はもう純粋ではなかった。

 

「むぅ。風がどれだけ体重管理に気を使っていると思っているのですか。

当たり前のことを当たり前にするには、弛まぬ努力が必要なのですよ、お兄さん」

 

「おお、それはごめんよ、風。って、あれ?」

 

あれ、俺叱られてる? なんで?

 

「さて、肝心の幻覚の中身ですが」

 

そして、流れるようにスルーされる現実。

 

「天和・地和・人和ちゃんそれぞれ、推しメンの一人が目の前で自分の為だけに歌ってくれている、

そんなイメージを送り込んでやったのですよー」

 

なぁ、五龍。俺はもうどこから突っ込めばいい?

俺の嫁がここまで電波なわけがない……。

 

「むしろお兄さんの世界に頑張って順応している、と言って頂きたいのです」

 

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「なんとも歯ごたえが無いものだな。被害が一切無いというのは確かに良いことなのだが」

 

秋蘭が捕虜の確保を終え、天幕の中に戻ってくる。

両手の平を上に向け、肩をすくめる彼女は、瞳を伏せ苦笑いしつつ言葉を続けた。

 

ちなみに彼女にも、華琳の指示もあり、真名を呼ぶことが既に許されていた。

他の主力メンバーにおいても同じである。

但し、記憶は戻ってない。というか、華琳に戻す事を禁じられている。

 

『これ以上相手が』とか『回数が減ってはたまらない』とか、

ぼそぼそと理由は教えてくれたけど、どうにも断片的にしか聞こえなかったので要領を得ない。

 

……照れる華琳は可愛くて、見蕩れてたのも一因だな、多分。

普段は凛々しくて堂々としてるから、余計にああいう一面が出ると、目が離せなくなるんだ、うん。

仕方が無いことなんだ。

 

「姉者が出動する時は、完全無力化はしないでもらいたいものだ。

鬱憤が溜まって、暴れ出しかねないからな」

 

「「あー」」

 

見事、ハモる俺と風。秋蘭の言う事はごもっともである。

 

「本格的な乱の鎮圧の前に、兵達の調練を兼ねる一面もある。暫くは、北郷と風の幻術は封印だな。

華琳様に無理はされられなくなる状況であれ、当面必要は無いだろう」

 

「華琳様の悪阻、ちょっと重いですもんね〜。そろそろ安定期に入るとは思いますが」

 

……うん、まぁ、その、そういうことなんだ。

俺単独で、春蘭や桂花には近づかないように心がけている。命がいくつあっても足りないからな。

 

「朱羅もおめでたであることだしな。

まぁ、魏の国父として、キリキリ働いてもらわねばならんぞ、北郷。

華琳様が動けない時には、お前が実質、我らの代表の代わりを果たす事になるのだ」

 

「俺にやれる事はもちろん全力でやるさ。華琳の負担を極力減らし、無事に子供を産んで欲しい。

それは、俺の願いだ」

 

「ああ、それは私の願いでもある。華琳様が『覇業』と『女としての幸せ』という、

ある意味真逆にあるものを両方手放さずに進めるように、私は全力で支えるさ」

 

なんて優しい顔で、優しい声で、秋蘭は華琳の名を呼ぶのだろう。

それは眩しくすら感じて、俺の華琳への想いが少しでも空ろなものがあれば、

とても直視できないだろう、そう思ってしまう。

 

「秋蘭ちゃん。お兄さんを憎く思うことは無いのですか?」

 

不意に、真剣さを込めた声で。風は秋蘭に問いを投げかける。

俺の膝の上で暢気にお茶を啜っていた筈の風は、僅かに身を硬くして。

そう、風は長い付き合いだから判る事だけど、緊張の色を僅かに表に出してしまっていた。

 

「いや、どちらかといえば、嫉妬、かな」

 

天幕に入ってきた時と似たような、苦笑い混じりの調子で、秋蘭は答える。

 

「華琳様が今まで犠牲にしてきていた少女の一面を、いとも簡単に北郷は暴き出し、

さらに、華琳様を魅力的な女性に変え続けているのだから。

あの色艶、可憐さというものは、本気で惚れた男でなければ、引き出せるものではないからな」

 

秋蘭の答えに、俺は顔が熱くなり、血が登るのを感じる。

恥ずかしい、だけど、嬉しくて、それでいて、そう思ってくれていることを誇らしく感じて、

俺は思わず自分の口を手で覆ってしまう。ニヤけてどうする、俺。

 

「さらに、自分が母となったと知った華琳様の、

あの満たされた、幸せに溢れた顔を見て、私が言える事などあるものか。

私に出来たのは、一緒に嬉し涙を流すくらいのものさ」

 

「確かに、華琳様、すっごく綺麗になりましたから。

朱羅ちゃんもそうですけど、母親になるだけで、あれだけ綺麗になるものなのでしょうか?

風は悔しくて仕方が無いのです。

早くお兄さんに種馬ぶりを遺憾なく発揮して頂いて、風も腹ぼてにして頂かなくては〜」

 

「がはっ、げふっ! ふ、風っ! は、鼻に入っ、いつーっ」

 

感動の余韻が風の爆弾発言で見事吹き飛び、

むしろお茶を吹きかけるのを無理やり堪えて、鼻に逆流。

 

「なんともしまらないものだな。まぁ、それが北郷らしいか」

 

秋蘭のフォローに返事する余裕もなく、俺は襲い掛かる痛みと戦うのであった。

 

「おやおや、お兄さん。痛そうですね、なでなで、なのですよ〜」

 

誰のせいなんだよっ、全く!

 

「でも、早くお兄さんの子供が欲しいのは本当なのですよ……?」

 

耳元で囁く風の声は艶がこもった妖艶なもので。

俺はこの小悪魔には勝てっこないと、改めて認識するのであった───。

説明
リバビリをかねまして。

風さんが見事に暴走してくれました。
なんでこんなに動かしやすいんでしょう、彼女。
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コメント
華琳も風も大好きダーーー???(迷い猫@翔)
神木ヒカリさん ありがとうございます!(作者がお礼を言ってどうする / 叡渡さん うん、種馬だしw愛して欲しいんです、恋姫だものw / 道端の石さん:はい、戻らなくても以下略ですね。でも、抱き合ったら思い出すとしか思えないんですw(通り(ry の七篠権兵衛)
>殴って退場さん 風ですからw / jonmanjirouhyouryukiさん 華琳さんが恵まれてもいいと思うの。 / ノワールさん この柔軟性が風ですよw華琳さんが一番手ってアリよね。(通り(ry の七篠権兵衛)
うpお疲れ様です。 そして華琳様ご懐妊おめでとうございます。 まあ記憶が戻らなくても食われてしまいそうな気がしますけどね……(道端の石)
華琳さま、おめでとうございます。(神木ヒカリ)
風は順応早いですな……思考が柔軟なんでしょうね。 秋蘭は大人ですね〜……そりゃ、華琳が警戒するのも無理は無いかと。 妊娠したんですか、良かったな華琳…ヤキモチ妬いた甲斐はあったようですな〜。(ノワール)
風、ノリ凄過ぎるww。(殴って退場)
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とある外史の妖術使い 一刀  秋蘭 真・恋姫†無双 元・童貞伝 華琳さまダウン中 

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