楽々・恋姫無双 八話
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ある日、桂花さんは風と稟と一緒に会議を終えて戻ってくる途中でした。

 

「なら、桂花は河北の匈奴の動きを放っておいてもいいというのですか?」

「そうは言ってないわよ。ただ、そこの問題は元からそこに住んでその民族と親しい現地の人たちに協商を任せた方が、都に居る私たちが行ったより騒ぎを起こさずに済むっ

 

てことよ」

「騒ぎを起こさないという点では桂花さんの言うとおりかもしれませんねー。でも、北方の匈奴族は昔から好戦的ですからね。一度は話し合いで解決しようとすると、こっち

 

を見下してくる可能性がありますよ?」

「風の言うとおりです。だから私が中央軍を連れて北方に討伐に……」

「……」

「桂花、聞いているのですか?」

 

稟が話しているのに、いつの間にか桂花さんの視線は他のところに向かっていました。

桂花さんの視線の先には、何かあからさまに罠と言わんばかりに不自然な膨らみが地面の上にありました。

まるで、その下に穴を掘って、布なんかで適当に隠してからその上に土を適当において出来たような膨らみでした。

 

「はぁ…ちょっと、待ちなさいよ」

 

桂花さんはため息をついてから、その場所に近づいて、

 

どすっ、

 

「キャッ!」

 

足を踏み入れた途端、案の定、下には穴があって桂花さんはその中に落ちました。

といっても、膝までもこない浅い穴でしたけどね。

 

「……へへっ」

 

そしたら、茂みから笑い声が聞こえます。

 

「誰よ!ここに穴をほったのは!一刀!またあなたでしょ?出てきなさい!」

「………」

 

桂花さんがそう態とらしく叫ぶと、茂みから((『移植ごて』|スコップ))を持って向こうへ逃げ出していった。

 

「……一刀殿?」

「……ぐぅー」

 

その光景を見た稟と風は呆気ない顔(一人は寝顔)をします。

 

「桂花、今あからさまに態と落ちましたね。一刀殿が何故桂花にこんなことをしてるんですか?」

「…はぁ……私のせいなのよ」

「どういうことですか?」

「ほら、この前あの子の誕生日だったでしょ?」

 

つい一ヶ月前に一刀ちゃんの三度目のお誕生日がありました。

あの日、桂花さんが一刀ちゃんにあげたブレゼントがあのスコップだったわけです。

 

「あぁ、あれですね。確か一刀君は私がくれた『宝ャ型飴ちゃん』の二倍は喜んでたと思います」

「で、今一刀殿が持ってるのがあなたが買ったきた移植ごてということですか?ならどうして桂花に悪戯を…?」

「……だからなのかもしれないわ」

「気に入ったから、逆に悪戯しちゃうってことですか?」

「そう、多分……それよ」

 

桂花さんはため息をつきながらその浅い穴を見ていました。

 

「華琳さまに話してみては如何ですか?華琳さまの言葉だと、一刀殿も悪戯をやめることでしょう」

「え、ええ……まあ」

「?」

 

稟がそう提案したものの、桂花さんは釈然としない返事をするばかりでした。

 

「稟ちゃん、稟ちゃんはわかってないのです」

「どういうこと?」

「桂花ちゃんは一刀君が自分に悪戯しかけてくるのを楽しんでいるのです」

「さすがは華琳さまに弄ばれた犬なだけはあるな」

「ちょっと風!変な言い方はやめなさい!」

「華琳さまに弄ばれる桂花……華琳さまと一刀殿親子が同時縛られた桂花をもてあそ……」

 

ほら、いわこっちゃありません。

 

「ちょっ、こっちに向いて立たないで、服にかか……」

「ぷっはー!」

「きゃーーーー!!」

 

今日も魏は平和です。

 

 

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一方、悪戯を完了した一刀ちゃんは華琳さまの部屋に戻りました。

 

「あら、一刀、随分と汚れてるわね」

「……?…あ」

 

母の言葉に自分の服を見た一刀ちゃんは、白い服が泥まみれになってることに気づきました。

 

「……<<パンパン>>」

 

服を叩いてみても、泥が染み付いてなかなか取れません。

 

「……汚しちゃった<<うるうる>>」

「はい、はい、泣かない。ちゃんと洗ったらまた綺麗になるよ」

「……ほんと?」

「ほんとよ。だから泣かないで、風呂沸かして置くからあなたも入って綺麗にしなさい」

「うん、わかった」

「誰かある」

 

華琳さまが叫ぶと、外に居た侍女さんが入ってきます。

 

「一刀を風呂に入らせなさい。着てる服は洗濯して着替えるものを用意するように」

「畏まりました。曹丕さま、こちらです」

「…………」

 

が、動かないで母を見つめる一刀。

華琳さまは一刀ちゃんがそう見る理由を知っていました。

でも、華琳さまはまだ仕事が残っているのです。

そして、それを知らない一刀ちゃんでもありません。

 

「行ってくるね」

「ええ」

 

一刀ちゃんはそうだけ言って侍女さんの後を付いて行きました。

 

「……これじゃあ、駄目なのにね……」

 

華琳さまは一刀ちゃんが去った後そうつぶやいてました。

 

 

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「はぁ…まったく、稟のあの癖、治らないのかしら。…もうあの子の鼻血のせいで着られなくなった服がいくつか数えきれないわ」

 

場所を替えてここは風呂場の手前。

稟の鼻血を全身に浴びた桂花さんは丁度風呂が沸く日だということもあって、お湯を沸かすように頼んで風呂に入る準備をしていました。

 

ガラッ

 

「うん?」

「あ、荀ケさま」

 

服を脱いでいた桂花さんが脱衣場の扉が開く音を聞いて後ろを向くと、一刀ちゃんを連れた侍女さんが待っています。

 

「あ、桂花お姉ちゃん」

「……そう、あなたも洗うために来たの?」

「うん」

 

さっき悪戯した相手に対して逃げるつもりもなく、寧ろ綺麗過ぎる笑顔を跳ばすこの小悪魔を見て桂花さんは呆れるばかりです。

 

「あなたは一刀の新しい服を持ってきて頂戴。一刀さんが洗うのは私が手伝うわ」

「………かしこまりました」

 

それにしてもこの侍女さん、すごく残念そうに見えます。

 

侍女さんが出て行くと、一刀ちゃんは自分で上着のボタンを外し始めて、目の前に異性がいることも構わず、直ぐに素っ裸になりました。

まぁ、この年に異性とかそういうのはあってないようなものですが……

 

「ほら、桂花お姉ちゃんも早く脱いで」

「分かったわよ」

 

桂花さんも血に汚れた服を脱いで、タオルを巻いて一刀ちゃんと一緒に中に入ります。

もともと今日は風呂を沸かす日じゃないので大風呂場の中に水はありません。

でも要望がある時は、小規模でお湯が湧かせるように、小さく作られた浴槽があります。

そこには華琳さまの命令により、すでにお湯が沸かされていました。

 

「あちっ!」

 

いきなり浴槽に入ろうと足先を入れた一刀ちゃんは直ぐに足を引っ込めます。

 

「ほら、こっち来なさい。入る前に体洗うわよ」

「はーい」

 

桂花さんの言う通りに従って、一刀ちゃんは桂花さんの前の風呂場の椅子に座りました。

一刀ちゃんが座ると、桂花さんは浴槽から汲んできた水を一刀ちゃんの頭のてっぺんから注ぎました。

 

ざぁー

 

「うぅぅん」

「ほら、目閉じてなさい」

 

桂花ちゃんはまず髪を洗うための薬(毛髪健康のためのシャンプー華琳さま特製)で、一刀ちゃんの髪を洗い始めます。

 

「んんん」

「そんなに力入れて目閉じなくても大丈夫よ」

「だって、目に入るんだもん」

「入らないようにちゃんとするわよ。それより痒い所はない?」

「ない!」

「まぁ、当然だけどね」

 

慣れた動作で一刀ちゃんの髪を洗い終えると、最後にまたお湯で髪を流します。

後は石鹸(華琳さま特製)で一刀ちゃんの体を洗います。

 

「はい、背中は出来たから。こっち向いて」

「うん」

 

何の恥ずかしがることもなく前を向く一刀ちゃんと、それをまた何の心の動揺もなく体の隅々まで洗う桂花さん。

華琳さまが見たらなんとも思うかちょっと曖昧なのですが、まあこれはこれで微笑ましいので結構としましょう。

 

というより、この二人、今こういうやりとりが出来る状況なのかがいまいち疑問なのですが……

 

「はい、出来たわよ」

「桂花お姉ちゃんも洗ってあげる」

「え?…そうね。じゃあ背中だけお願いしようかしら」

 

桂花さんはそう言って一刀ちゃんに背中を向けました。

 

「ちゃんと洗える?」

「うん、いつも洗ってもらってるから」

 

そう言いながら一刀ちゃんはちっちゃな手で桂花さんの背中を洗い始めました。

 

「………一刀」

「うん?何、桂花お姉ちゃん」

「穴ね、掘るの楽しい?」

「うん、楽しい」

「あれ、私以外他の人が落ちたりしたことあるの?」

「うん?……………ない」

「一刀ちゃん?」

「………侍女のお姉ちゃんが一度だけ」

「ちゃんと謝った?」

「うん…でも洗ったばかりの服また汚れちゃった」

「……」

「………怒った?」

「そうね、ちょっとだけ」

 

自分ならまだ大丈夫だけど、他の人たちにまで迷惑かけるぐらいになっては、流石に不味いと桂花さんも思ったのでしょう。

 

「一刀ちゃんもう庭に穴掘るの禁止ね。」

「え?!」

「移植ごても没収」

「えー、やだー、桂花お姉ちゃん、ボクが悪かったから贈物取らないで」

「ダメよ。洗濯物が汚れたぐらいならまだ大丈夫よ。知らない人が怪我したら大事件なのよ」

「うぅぅ゛ぅ゛ん」

 

普段なら駄々なんて良くしない一刀ちゃんが、凄く嫌そうに桂花さんに唸ります。

 

「じゃもう穴掘らないから、持ってだけいるから、うん?うん?」

「駄目よ。あなた私に知ったら怒るってわかって事故あったの教えなかったでしょ」

「だって……だって…」

「……」

 

概ね、侍女さんも一刀ちゃんのことだから他の人たちに何も言わずに洗濯しなおしたのでしょう。

きっと城内の人たちなら、一刀ちゃんのせいで事故に会うとしても、それを事件にしようとする者は居ないはずです。

でも、それだけではならない時だってあるものです。

しちゃ駄目なことをした時はちゃんと罰を与えなければならない。

曹魏の曹孟徳の信賞必罰は、一刀ちゃんだって例外とは言えないのです。

 

「……」ウルウル

 

風呂場なのでわかりにくいですが、たしかに一刀ちゃんの目は潤んでいます。

でも、一刀ちゃんもコレ以上言って無駄だって分かったのか、もう駄々をこねたり、泣いたりすることはありません。

 

「…もうお湯入ってなさい。ちゃんと百まで数えるのよ」

「…うん」

 

力が抜けたような顔の一刀ちゃんは桂花さんの背中を洗うために使っていた石鹸を桂花さんに渡して、お湯に浸かりました。

 

「いち……に………さん……よん…」

「………」

 

この城で、一刀ちゃんに怒れる人は、華琳さまを除けば桂花さんぐらいしかいません。

春蘭さんや秋蘭さんや大体甘やかすし、三羽烏の皆も怒れない。稟さんは怒っても一刀ちゃんがあまり聞かないので意味がなくて、風の場合悪事を手伝うことさえもあるので

 

、結局一刀ちゃんは良い子じゃなければ、城でほぼ好き勝手にやれる状況なのです。

今回だって桂花さんが一刀ちゃんに聞いてなければ、きっといつか大事件になって華琳さまの耳に入ったかもしれません。

その時は華琳さまが自ら(やむを得ず)一刀ちゃんに罰を与えなければならないので、それを事前に防ぐ桂花さんの責務は、かなり重要だと言えます。

 

「桂花お姉ちゃん……入ってこないの?」

「行くわ」

 

桂花さんがお湯に入ると、一刀ちゃんが桂花さんの近くに寄ります。

 

「何?甘えても駄目だからね」

「…うん」

「………」

 

もちろん、躾が出来るといって、躾ける人の気持ちもいいはずはありません。

基本一刀ちゃんは悪いことはしない子なのでそんな心配はほぼしないのですが、それでも今回みたいに問題を起こすと相応の罰はつきもの。

せめてやだやだって駄々を言った方が、躾ける人としてはまだ心が良いかもしれません。

一刀ちゃんはまだまだ幼いにも関わらず、自分の行為の悪さを知っていて、その罰を避けようとしないのがまた桂花さんの心を痛くするのです。

 

「あのね、桂花お姉ちゃん」

「何?」

「桂花お姉ちゃんは…ボクが穴掘るの迷惑だった?落ちて服汚れたりして……ボクのこと嫌いになった?」

「………そんなことないわよ」

 

一刀ちゃんは、そんなことより自分が好きな人たちに嫌われるかどうかがもっと心配な子です。

そういう子が、人に迷惑かけるようなこと、そうそうやるはずもないわけですが……

 

「あなたは、私があなたのもの取って、私のこと嫌い?」

「ううん、ボクが悪いから」

「じゃあ、一刀はまだ私のこと好きなのよね?」

「うん、桂花お姉ちゃんのこと大好き」

 

と言いつつ、一刀ちゃんはさっき自分を泣かした相手を嬉しそうに抱きつきます。

こんな子に罰をあげるなんて、誰が好きでできるものでしょうか。

 

 

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風呂から出て、ちゃんと体と髪も乾した後、二人は脱衣場で用意されていた着替えの服に着替えました。

 

「お姉ちゃん、コレ」

 

そして、一刀ちゃんは快く移植ごてを最初くれた人に返しました。

 

「…ごめんね、一刀」

「ううん、ボクが悪いことしたから」

「いいえ、あなたのせいじゃないわ。私が移植ごてなんてあげたから…」

「そんなのことないよ。ボク桂花お姉ちゃんに贈物もらえて凄く嬉しかったよ」

 

それでも、アレですね。

やっぱりお誕生日プレゼントだったものなのに、タダで奪うというのは少しやりすぎな感があります。

 

「代わりにほしいものとかあるの?」

「代わりに?ボクが言っても良いの?」

「ええ、なんでもいいわよ」

「じゃあね、じゃあね。ボク前からほしいものあった」

「何?私にあげれるものなの?」

「うん、ソレ」

 

と言いながら、一刀ちゃんは桂花さんのネコミミ帽子を指しました。

 

「え?……これ?」

「うん!それほしい!」

「うーん……わかったわ。まあ他にもあるし、ほら、あげるわ」

「あはっ!」

 

桂花さんが自分の帽子を外して一刀ちゃんにあげると、一刀ちゃんは以前誕生日に移植ごてをもらった時の倍は嬉しそうな顔でそれを受けました。

 

「ありがとう、桂花お姉ちゃん、ボク桂花お姉ちゃん大好き!」

 

そして一刀ちゃんは興奮した顔で帽子を持って先に脱衣場をさりました。

 

「はぁ……次の誕生日になんかあげる時はもう少し考えないとね」

 

桂花さんはそんな一刀ちゃんからもらった移植ごてを見ながらそう呟くのでした。

その移植ごては以後にも桂花さんの部屋の一隅の飾り物として飾ってあるようになりました。

 

 

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その日の夜、

 

「あら、一刀その帽子は桂花のじゃない。どうしたの?」

「もらった」

「桂花から?……ふふ、そうしてると仔猫ちゃんみたいね」

 

華琳さまはパジャマと合わせて桂花さんからもらった帽子を被ってる一刀ちゃんを見てそう言いました。

 

「おいでなさい。灯り消すわ」

「うん」

 

そうやってまた一刀ちゃんの一日が終わります。

これからも一刀ちゃんの物語の数々は絶えることないですが、今日はここまで……

 

 

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復帰後初投稿は、久しぶりに楽々にしてみました。

 

 

次回からの楽々ですが(あるかはわかりませんが)幼児な一刀ちゃんから少し時間を未来に走らせようとします。

 

黙々・恋姫†無双が始まる時にありますが、一刀ちゃんが始めてこの世界に来たのは9才の時でしたね。

6才に行ってみようと思います(前フリ何の関係もないっw)

 

前世の一刀ちゃんは、誰よりも悲しい人生を送ってきた子供の一人でした。

それでも、いや、それだからこそ、一刀ちゃんはこの世で誰よりも良い子で、誰よりも人々の心を傷めた子供だったのです。

 

だけど、今回は…今度は……

 

 

 

同人祭りなどで登場したことがある蜀と呉の王さま方々の娘たちも登場させるつもりです。

設定に付いてはここにて参考。

 

http://www.tinami.com/view/282065

 

他の国の将たちと一刀ちゃんを絡めることを期待してる方々が多いと思われますが、

この物語では基本一刀ちゃんは華琳さま専用です。

たまに桂花や秋蘭たちに貸切されることはありますが、それでもせいぜい魏の将たちにまでです。

華琳さまが過保護なせいです。自分のせいじゃありません。

 

なので、そんな他の将たちと絡めない分、他の国の姫たちを絡めてみようと思います。

 

 

現在思ってるのはこんな感じです。

 

 

@蜀で学校を作った。

A試験的に運営する際に、魏と呉の王子、姫君も蜀に留学がてら行かせることになる。

B蜀の姫君と一年ぶりの再開。

Cそのまま学園物語にジョブチェンジ(嘘)

 

みたいな感じに考えだけしてます。

 

どうなるかはわかりません。

 

ノシノシ

 

説明
ほぼ四ヶ月ぶりの更新となります。

楽々は華琳さま&桂花無双な気がします。
バランスとかもはや考えてない。
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コメント
猫耳一刀ちゃんの挿絵を強く、強く!!所望します!!(マルボロ)
Aでお願いします(莊)
ネコミミ一刀ちゃんは稟には見せられないな。大惨事になるwww。(アルヤ)
あまりに報われなかった一刀君に少しでも多くの幸運を祈ります。そして猫耳一刀君は想像するだけで可愛いです。(山県阿波守景勝)
タグ
真・恋姫†無双 恋姫 一刀 桂花 華琳 韓国人 

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