うそつきはどろぼうのはじまり 59
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お人良しの自分が言うのも何だが、レイアも大概気が良い。素直で天真爛漫の彼女のことだ、助けを求められて断るようにはできていない。大方、急病人が出た、是非とも手を貸してくれとでも言い寄って、上手に引っ張り出したのだろうが、人質の人選が完全に間違っている。

これでは彼女の両親に顔向けできない。何より実家の父母の反応が恐ろしすぎた。母は泣くだろうし、父など問答無用で勘当を言い渡しそうだ。いや間違いなくそうする。あの父なら絶対やる。

こめかみを押さえ始めた若き医師に、警備隊長は切り出す。

「誘拐されたからには、向こうには何かしらの要求項目があるはず。先生、心当たりは?」

「ありすぎて困ってるところ」

ジュードは苦笑した。心当たりは、それこそ山のようにあった。人の心は複雑だ。単純な営利目的なら推測可能だが、妬みや逆恨みの可能性にまで範囲を広げると、もはや無限の彼方である。

「そういえば・・・」

それまで黙って控えていたプランが声を上げた。

「外出許可証には、行き先を書く欄がありませんでしたか?」

職務で何度か書いたことのあるジュードも、はたと手を打つ。

「そうだった。エデさん、そこには何て?」

二人から意気込まれ、警備隊長は慌てて手元の資料をめくる。

「ええとですな、確か・・・そう、ニ・アケリアです」

ニアケリア、と看護師が呟く。その声には明らかな落胆の色があった。

「随分と辺鄙な土地に向かったものですね。というか、本当にあるんですか? 遠い昔に滅びた、伝説の村だと思っていましたが・・・」

「罠だと思います。追っ手を惑わせるための、偽の情報でしょう」

だがジュードは首を振った。

「いや、それこそが相手の要求だよ」

どういうことです、と疑問の視線を投げてくるエデを前に、ジュードは軽く腕を組んだ。

「ニ・アケリアは実在する。旅の最中、立ち寄ったことがあるんだ。村の背後には霊山がある。マクスウェルを初めとする精霊を祀る険しい山だ。そしてその山頂に、精霊界への道は開かれていたんだ」

説明する傍ら、医師は一人確信を深めていく。

「すると、連中はそこで道を開こうと? 縁ある地だから、再び通じる可能性も高いと踏んだので?」

「多分。レイアは開けなかった時の保険だ」

ちょっと待ってください、とプランが口を挟んだ。

「保険って・・・。もし推進派だけで道が開いてしまったら、レイアさんはどうなってしまうんです・・・?」

同性として最悪の事態を想像した看護師に、ジュードは淡々と答えた。

「人質としての価値はなくなる。用済みじゃないかな」

「そんな・・・!」

「だから、そうなる前に助ける」

きっぱりと言い切った青年の目には光があった。どのような困難であれ、やり遂げると決めた不屈の意志が輝いていた。

ジュードはその場で二人に事後を頼んだ。

「プランさん。申し訳ないけど、しばらく留守にします。休診の札を掛けて、僕が戻るまでエデさんの所で匿って貰ってください」

「わかりました」

「僕は霊山で小刀を振るう。宰相ローエンに、そう伝えてください。それだけで分かるはずです」

支度を整え、自室から出てきたジュードに、警備隊長は声を掛けた。隣には心配顔のプランがいる。

「先生。単身では危険です。何人か、私の部下をお連れください」

この申し出を、だがジュードは丁寧に断った。

「向こうの油断を誘いたい。大丈夫、僕はそんなに大人しくはないから」

にこりと笑って見せると、エデは五年前の出奔時を思い出したのか苦笑いを浮かべた。

「・・・そうでしたね」

「でしょう?」

看護師は未だに不安そうだ。しかし元がア・ジュールの間諜だけあって、この非常事態にも関わらず随分と落ち着いている。

「巻き込んでしまって、本当にすみません」

ジュードの謝罪に、プランは静かに首を振った。

「どうかお気をつけて」

「プランさんも」

二人だけの見送りを背に、ジュードの単独行が始まった。

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