所属不明機撃退
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「バーバラ!バーバラ!弾持ってこい!早く!」

「お待たせしましたアリシア!」

 ゼルノグラード型の神姫「アリシア」は同型の神姫「バーバラ」を振り向かずに弾を受け取ると、手早くガトリングの装填を済ませ、照準を敵に合わせた。

 轟音と共に銃身から無数の弾丸が飛び出す。が、着弾を前に敵影は物陰へと姿を隠してしまう。立ち上る煙を前に、アリシアは舌打ちを打った。

「あいつらいったい何者だ」

「わかりません。自分の記憶する神姫ラインナップには存在しないものです」

 彼女たちはゼルノグラード4体によるチーム「アルファ・ベット」である。とあるミリタリー好きの人物をマスターとした、一般の神姫たちだ。

 いつものようにマスターの留守を利用して部屋一面を使った模擬戦を行っていた彼女たちであるが、突如乱入した不明機体によってその日常は破壊されたのだった。

「とにかく、一度キャサリンたちと合流しなければ……」

 忌々しげに呟いたその時、彼女たちのそばを一発の弾丸が通過した。彼女達が陣地として積み上げたブロックをあざ笑うかのように吹き飛ばしながら、離れた場所にあったもう一つの陣地に着弾する。

轟音とともに、2人胸に埋め込まれたCSCから幻聴のようなものが聞こえてきた。

――この戦いが終わったら、マスターに新しい武器買ってもらうんだ――

「キャサリン!ディアナ!」

 バーバラが悲痛な叫び声があげる。

もうもうと白煙が昇る陣地はブロックが散乱し、跡形もない。アリシアは銃弾の発射地点に向かって引き金を引くが、すでに敵の姿を見失ってしまった。プラスチックの模擬弾が転がる音だけが空しく響き渡った。

「くそ!一発の威力がありすぎる。まさか違法改造の神姫じゃないだろうな」

 アリシアが周囲を睨みながら呟いた。

「その可能性も考えられます」

 応えるバーバラは今にも泣きだしそうな表情をしている。声も震え、ようやく絞り出したかのような大きさで「しかし……」と続けた。

「我々はごく普通の一般的な神姫であり、今日もただ室内演習を行っていただけです。なぜいきなり襲われるのでしょうか」

「知らん!」

 バーバラの気弱な態度をかき消すように、アリシアは声を張り上げた。

「そんなものは戦いが終わってから考えろ。今は敵を倒すことだけが我々の任務だ!違うか!?」

 物陰から飛び出してきた一体を捕捉し、引き金を引く。一直線に走る弾雨は謎の機体を絡め取り、沈黙させた。

 なおも敵機を睨むアリシアの後ろで、バーバラは瞳を拭い、頬を張る。

なにを弱気になっているのか。

自らはゼルノグラード。戦場で銃を握るのが生きがいのはずだ。それを未知の強敵に遭遇しただけで震え上がるとはなんたる失態。

強敵との戦いは誇りに思えど、怯えてはならない。

そのことをCSCに刻み込むと、彼女は背筋を伸ばして敬礼をとった。

「サー、イエッサー!その通りであります!」

「なら今すぐその臆病風を投げ捨てろ!敵に見せつけてやれ!我々はゼルノグラード、誇り高き戦場の兵(つわもの)達だと!」

「サー、イエッサー!」

 アリシアはガトリングの弾を撃ち尽くすと、背中に背負ったライフルを前に構える。それにならい、バーバラもハンドガンを握った。

「そんな装備で大丈夫か?バーバラ」

「大丈夫です。射撃には自信があります。問題ありません」

「よし。この戦いが終わったら、わたし達二人でマスターをお迎えするぞ!」

「イエッサー!」

 ブロックで築いた陣地から飛び出す。それを待っていたかのように所属不明機がニ体、黒い髪をたなびかせて物陰から飛び出してきた。

 今、まさに最終決戦の火蓋が切って落とされたのだった。

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 五反田あずまは、最近ある問題に悩まされていた。

 台所の嫌がらせ屋。黒い物体。端的に言えば、「G」の出現。ここ2、3日で遭遇した数はすでに10を越えていた。

 2040年となっても未だこの問題は解決されず、しかも長年のあいだ殺虫剤で駆除され続けた結果、あらゆる薬剤に対して耐性まで持ってしまった。

自ずと物理攻撃による駆除が主流となるわけだが、いかんせん多勢に無勢。しかも目標が小さく、しぶといとなれば完全な駆除は不可能とも言える。

 なら神姫に駆除させるかというと、あくまで武装神姫は神姫同士でのバトルを想定しているものであり、害虫への殺傷能力はほとんど備わっていない。

 そんなこんなでほとほと困り果て、友人である広小路に相談したところ、こんな提案がだされた。

「じゃあ、コンバットさん導入してみたら?」

 コンバットさん。それはKINRYU社が開発した、全長約10p程度の害虫駆除専用美少女型ロボットである。

 神姫とは同ジャンルでありながら別系統に進化したそれは、神姫のように高度な感情プログラムを有してはいないものの、武装の豊富さと着せ替えの自由さによって神姫と共通した愛好者も多い。

「おまえミリタリー関係好きだろ?コンバットさんはミリタリー志向で作られてるから、おまえも気に入ると思うぜ」

 そう言って広小路は机の充電器からコンバットさんを取り出す。

ショートカットの黒髪にタクティカルスーツを着たそれはたしかに五反田の趣味にマッチしたものであった。

「たしかにいいな、これ。けど売ってるところ見たことないぞ。どこで売ってんだ」

「薬局」

「薬局?ホビーショップじゃなくて」

「そう。神姫ばかりやってるから気づかなかっただろ」

「ああ、とんだ盲点だな。明日あたりでも買いに行ってみるか」

「どうせなら貸してやるよ。ウチには全部で4体のコンバットさんがあるから、全員出動させればすぐに終わるさ」

「4体って……またずいぶん持ってるな。そんなにコンバットさんが好きなのか」

 その言葉とともに、広小路は盛大にふきだし、笑い声をあげた。

「ゼルノグラード4体も持ってるおまえに言われたくねーよ」

「だな」

 五反田も一緒に笑う。

ひとしきり笑いあった後で、広小路に向かい合うと、彼は頭を下げた。

「すまんな。正直アリシア達に金をつぎ込みすぎてコンバットさんを買う余裕があるか心配だったんだ」

「だと思ったぜ。どうせなら自慢のゼルノグラート達と一戦してみるか」

「無理があるんじゃないか?片や正々堂々のバトル目的で、片や害虫駆除目的。模擬戦と実戦くらい立場が離れてるだろ」

「そうか?お前のところ全国大会でもいい成績残してるんじゃなかったっけ。戦術で勝負すればなんとかなるんじゃね」

「もともとの武装に差がある、てことさ。せいぜい死亡フラグを立てるのが精一杯だろ」

「やつらすぐフラグ立てようとするからな。じゃあ、すぐにコンバットさんの準備整えるから、ちょっと待ってろ」

「ああ、よろしく頼む」

 

                          †

 

 そんな会話があったのが昨日のことである。

彼はその日のうちに自宅の配置図をコンバットさん達に覚えさせ、翌日のバイトに行っている間に「G」の駆除をさせることにしたのだった。

家ではゼルノグラートたちがいつものように模擬戦をしているだろうが、コンバットさんたちには神姫たちの邪魔をしないよう命令しておいてある。一斉に背筋を伸ばし、張りの良い「イエス、サー」という声に信頼を託して、彼は仕事へと向かった。

だが、それは大きな間違いであった。

コンバットさんは問いかけられたら必ず「イエス、サー」と言う。それがたとえ「プログラム上理解できない」ものだとしても。

そしてもう一つ、致命的な欠陥がある。

他社製品のロボットが稼動していると、それを「害虫」とみなして攻撃してしまうということだ。事実、KINRYU社は公式でライバル会社が発売している害虫駆除専用ロボット「ホイホイさん」と一緒に稼動させないようにと声明を発表している。

「ただいまー」

 バイトから帰り、意気揚々と声をかける五反田は、首を傾げた。

いつもなら「お疲れ様です、マスター」という声とともにゼルノグラード達のお迎えがあるはずだった。

しかし、今日は金髪ではなく、黒髪の一団が玄関で待ち構えていた。そばには白いビニール袋が置かれている。

「お帰りなさいませ、マスター。本日の戦闘報告を申し上げます。チャバネ23匹、クロ12匹、データ外生物4匹……」

説明
お久しぶりです。おかげさまで風邪が治りました。一時期37,8℃いった時は「インフルキタ――(゚∀゚)――!!」と思いましたが、検査の結果陰性でした。季節性の風邪だそうです。皆さんも健康には気をつけませう。
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