ISジャーナリスト戦記 CHAPTER06 邂逅ノ時(前)
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―――11月上旬。秋という季節も次第に寒さをじわじわと印象づける冬の季節へと移り変わろうとしていたその頃、灯夜は珍しく会社に出勤していなかった。別にとうとう誘拐か暗殺でもされたわけでもない。どんな事があろうと仕事熱心な彼ならまずサボることは有り得ないのであるがこれにはそれなりに深い理由がある。

・・・そう、休刊だ。モンド・グロッソの特集に引き続き、環境関係について大々的に特集をやらかしてしまった為、灯夜はともかく他のメンバーがばバテててしまったのだ。加えて重なった文とはたての修学旅行によるサポートメンバーの一時的離脱、いくら灯夜が記事作成にただ一人勤しんでも雑誌的に成り立たせるのには無理があった。という訳で会社を立ち上げてから働き詰めであったこともあり彼は今現在、鋭気を養うためにも休暇中の身にある。

しかし、だらだら過ごすのにこれといって定評があるわけではない彼は正直突然与えられたような休暇をどのように過ごそうかと真剣に悩みこんでいた。適当に時間を潰すのも勿体ないと考える次第である。そんな矢先、タイミングを見計らったように高校時代からの友人から電話が入る。相手は男友達の中で一番の仲である森近霖之助こと、こーりんだった。彼は高校で行動をいつも共にしていたメンバーで久しぶりに会って旅行しないかと誘ってきたのだ。

休暇中に特にやる事がない以上、この誘いに断る理由が存在しなかった。故に灯夜は何の疑いも持たずに快く参加を申し出て、今は霖之助が運転する車の助手席で景色を眺めながら寛いで座っていた。

 

「・・・しっかし、静岡か。かのグンマーと並び立つ魔境を友人との旅行先に選ぶとは流石こーりん、やるなぁ〜」

「別にサイレントなヒルに行くわけじゃないんだから変な想像はよしてくれよ。普通に伊豆の旅館に行ってあちこち観て回るだけだからね」

「そう言っておいて実はその旅館も曰く付きだったりするんだろ?・・・ああ、安心してくれ。それ相応の準備は整えてあるから」

「・・・また御札とか持ってきたのか。いや、そのおかげで昔ピンチを救われたのは覚えているけどさ。何度も言うようだけど、今回は変な噂とかない本当にごく普通の宿だから」

温泉が有名なのはさておき確かに何処からどう見てもパンフレットを見る限り、家族連れがよく訪れそうな普通な旅館だった。都市から離れてはいるものの自然を残している場所に建てられているので快適には休暇を過ごせそうではある。

「だがこの時、こーりんは旅館に隠された恐るべき真実があるとはまだ知りもしなかったのである。・・・次回に続く!!」

「にとりも変なナレーションとテロップ入れてそれらしくしなくていいから。というか、何で君もそんなものを持ってきたんだ」

「「―――えっ?何となく・・・」」

「ハモるなっ!!」

「いやだって、昔肝試しした場所でホラーゲーム的謎解きをする羽目になっただろ。その時一番足を引っ張ったこーりんが選んだ宿じゃあ、何が起こるかわからんて」

点字とかパズル読解知識がなければ即死でしたって言うぐらいあの時は本当にヤバかった。というより、何でISの世界でそんなことに巻き込まれるのかという驚きの方が強かった。生き残れたはいいもの、もう一度巻き込まれてみるかと言われたら絶対にノーと言えよう。

「ま、旅館自体が大丈夫でも霖之助が何かしら呼び寄せてしまう可能性はなくはないわね」

「ああ。例えば、リア充に嫉妬した生霊とかな。彼女のいるこーりんは確実に狙われるだろう。俺を含む他3人は大丈夫でも」

幽香が何気なく発言した言葉をフォローし、さらりと酷い事を言う灯夜。そんな彼に霖之助はハンドルをしっかり握ったまま慌てた反応する。

「ちょっ、何でそんな事知っているんだい!?まだ誰にも話していない話なんだけど!!」

「何でって・・・・・・そりゃ、お前の彼女が通っている大学にうちの可愛い義妹が通っていて、しかも親友だからに決まっているだろ。ちなみにその大学は俺が卒業した大学ね」

皆様にご報告を。生前一人っ子でありました私にもついに妹ができました(義理だけど)。名前は霊夢だけれど断じて腋巫女だったりはしないのであしからず。

「初めて知ったよその事実!どうして教えてくれなかったんだ!?」

「別に聞かれなかったし、久しぶりにあったわけだし・・・・・・それにご自慢の彼女とマニア、いやメニアックなプレイをされた霖之助君には聞かれても話しませんよ」

「メニアック・・・?気になるわねその内容」

はい、背後の席でドS(親切)さんがサムズアップを始めたようです。興味津々なニヤニヤした顔でこちらを見ております。彼女がこうなったらもう話さないわけにはいかなくなった。

と、ここで追い詰められそうな身を一先ず落ち着かせるためか霖之助は近くにあったパーキングエリアへと車を移動させる。ちょうど小腹がすいてきたので昼食にはタイミングがバッチしだった。

駐車してすぐに息を深く吸った彼は焦る気持ちをどうにかして灯夜に詰問する。

 

「・・・・・・ふぅ。で、何処まで知っているんだい君は?」

「んー・・・お前が魔理沙ちゃんの歯を磨いてあげるという上級者向けのプレイをしたってところぐらいかな」

さらりと誤魔化すことなく事実を言い切ってあげました。これで彼はもう逃げられない。

「わぁお・・・///。意外に大胆なことをするんだね、こーりんは」

「フフフ・・・・・・」

にとりが顔を若干赤らめて驚いた表情をする。そして隣にいる幽香はというとさっきよりも余計にニタニタと笑みを浮かべ女王様モードへと移行していた。

「まさか、盗撮していたとかないだろうね・・・?」

ギロリと軽く殺意を感じさせるような瞳が灯夜へと向けられる。

「そんな怖い目で見んな、幾ら何でも犯罪者のするような真似はしないさ。俺はただ―――」

「―――ただ?」

シートベルトを外しドアのロック手動で解除して外へ出ながら彼は話を続ける。つられるように皆も外に出るとその間に一旦区切った言葉の続きをとうとう彼は口にした。

「霊夢を通して、なかなかデートの時間が取れないバカップルのスキンシップの方法を特別に教えてやっただけさ。つまり、原因は俺にあるわけ(どやっ!)」

だが、私は謝らない。何故なら、私も甘やかしすぎた義妹にその行為を強要されたのですから(涙)。

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

「ハハッ・・・・・・リア充末永く爆発しろーーーーーーーーー!!!!」

彼女・彼氏いない歴=年齢の諸君よ、俺たちの春はこれからだっ!!だからご斉唱下さい―――リア充末永く爆発しろ、と。

「「リア充末永く爆発しろ〜!!」」

「君達も僕を揶揄うんじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 

霖之助の怒りが天元突破したのを放っておき俺達は昼食の場へと足を運んで適度に休んだ後、無事に事故を起こすことなく旅館へと着きましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ISジャーナリスト戦記っ!!」(アイキャッチ的なモノ)

 

 

 

 

 

 

旅館に到着したのが午後2時頃だったことから、周辺を夕方までぶらつくことにした灯夜達は忘れないうちに食べ物以外のお土産などを見て回っていた。

「んー・・・これかな?いや、こっちの方がいいかな」

「色合い的に青がいいんじゃないかしら。緑はワイングラスよりも普通のグラスの方が合っているわよ」

そして、彼が現在手にとって見比べているのは旅館周辺にあったアンティーク系の商品を取り揃えたお店のワイングラスだ。既に自分のモノはカゴに入れている為、ここでは自分以外のある人物専用のモノを品定めしている。

「そうだな。・・・じゃあ、ワイングラスと普通のグラスを二つとも買うか」

「いいの?入浴剤セットも買うのでしょう、財布の方は大丈夫なのかしら」

「大丈夫だよ、元々来れない慧音の分も計算して資金は持って来たんだからな」

幽香の心配を気にすることなく灯夜は手持ちのカゴにグラスの入った箱を次々と入れていく。

本来ならば一緒に来ることが出来たかもしれない慧音は残念なことに修学旅行の引率の教師としてお仕事中なのだ。向こうは向こうで旅行を楽しんでいるかもしれないが、旧友と再会できないことは悔しいに違いない。そんな彼女に少しでもこちらでの旅の気分を味わってもらうために代金をケチる事なく彼は高かろうがお土産を片っ端から選んでいた。

「・・・でも、意外よね」

「ん、何がだ?」

今度は保存が効くお酒を選び始めた灯夜の隣にしゃがみ込んだ幽香は如何にも不思議そうな顔をして彼に尋ねる。

「慧音とは小学校から大学にかけてずっと一緒だったんでしょう?今時、幼馴染に可愛い女の子がいるっていう環境なんて滅多にないのに何で告白とかしないのよ」

その発言を受けてぴくりと灯夜の手が選んでいた焼酎の手前で止まり彼の全身が強ばる。また、次第にゆっくりと下に降りていく腕には何故か気力がないように感じられた。

「・・・・・・バカ言え、ガキの頃の俺ならともかく今の俺にそんな大層なことができるわけないだろ」

「・・・どういう意味よ」

溜息混じりに呟かれた彼の自嘲。この何か夢を諦めた感じのする態度により一層幽香の疑問は膨らむ。だが、灯夜の口から返ってきた答えはその疑問を丸々払拭させるほどの濃ゆいダークな内容であった。

 

「前にお前の研究所に行った時に話した内容から解っていると思うが俺は今、相当危ない橋を渡っている」

「例の弾丸の事ね・・・で、あれから何か情報は掴めたのかしら」

「まあな、十分過ぎる程の収穫は得られたさ。・・・だが、知ったと同時に俺の今の立場の危うさを改めて自覚する羽目になったよ」

まだジャーナリストとしての道を歩む前ならば、慧音やその他の女性を好きになって告白することだって出来たはずだろう。何故ならその頃はまだISすら発表されていない、何気ない青春の日々だけがそこにあったのだから。

しかし、ISが発表されてから自分はどんどん危険な道へと首を突っ込んで行き、ISに危機感を覚える学生からISを危険視する一人のジャーナリストと化してしまった。それに伴い何時誰かに狙われてもおかしくはない死と隣り合わせの日々が始まったのだ。

「幸い、まだ最初に就職した会社以外では命の危機を感じたことはないが、本格的にヤバくなるのはこれからだと俺は思っている。かの篠ノ之束にマークされるのだって時間の問題だろう」

彼女は興味あるものにしか注目しない。今こうして安全な生活が送れているのは未だに自身が興味対象として認識されていないからだとは思っているも、何時しか目障りな対象として認識して命を狙ってくるに違いない。・・・そうなった時に家族が居たらどうなる?

「会社は俺を切り捨てれば生きながらえることは不可能じゃない。けど家族となっては話は別だ、確実に狙って俺を包囲し追い込んでくる。そうなってからでは全てが遅い」

「・・・つまり、貴方は自分という最小限の犠牲で済むように事を進めようってわけね」

「ああ。実家の方は自分達は自分達で何とかすると言ってくれているが、あのマッドサイエンティスト相手に持ちこたえられるか正直不安だけどな」

保険は念の為俺も凝らしているも万全かと問われれば答えはノーだ。完全なんてありえない、そう思ったほうが懸命か。

これ以上話し込んでいてせっかくの旅行時間を無駄にするのは勿体ないので、暗い気持ちを振り払い立ち上がるとさっさとレジに向かって俺は歩を進める。

「ご会計、3万7500円になります」

「じゃ、現金の丁度で」

カード払いをするまでもなく現金で代金を支払った灯夜は荷物を片手に、そのまま別のところを見ていたにとり達の下へ駆け寄る。そこには先程までに見せていた真面目で悲しそうな表情とはうって変わった楽しそうな様子が見て取れた。

 

 

 

「・・・・・・。・・・一匹狼で貴方一人を戦わせはしないわよ、絶対に」

少し離れたところで幽香は拳を強く握り締め、小さく決意の言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その夜、灯夜が一人寝静まった頃を見計らって霖之助は彼との二人部屋をこっそりと抜け出してにとりと幽香が泊まっている部屋へと訪れていた。

別に彼はやましいことをするために彼女らの部屋に行ったわけではない、この旅行中に灯夜を誘導する予定の場所に関する打ち合わせを行うために向かったのである。その証拠に表情は普段のような愛想の良い顔ではなく真剣さが只々増した男前の顔へとなっていた。

「・・・首尾はどう?」

「今のところは大丈夫そうだよ、灯夜にはまだ気づかれてもいない」

豆電球のみの僅かな灯りの中で彼女らは明日の行動とそれぞれが調べた情報のやりとりを開始する。

「やっぱり彼、世間にも政府にさえも伝わっていない情報を持っているわ。他人を巻き込まないように妙に必死になっているようだし・・・」

「狙われているかもしれないって自覚はあるみたいだね。でも、問題はその知り得ている情報の規模なんだよね〜」

最終的に自分達の活動に取り込むつもりであることから、流れ的に彼を支援する事になるのは皆理解していた。ただし、その支援の大きさはやはり彼が抱えている秘密の規模に比例しているのだ。大きければ大きいほど内部での活動は活発にしていかなければならない。

「まあ、予想が確かなら今の政府のバックアップを受け入れられるだけの情報は持っているはずだ、って映姫さんは言っていたけれど」

「果たして灯夜がそれを受け入れるかどうかが鍵ね、彼の性格からして拒絶する可能性があるのが否めないわ」

「手助けが無くても自分で何とかしちゃうのが灯夜だしね」

ならば、正攻法での説得は実質不可能と考えても良い。しかし、これは予め想定されていた事なのだからまだ対策の施しようはある。

「彼を売るようで悪いけど、方法はやはりコレ(・・)しかない・・・・・・タイミングの方はわかっているかな?」

「任せて頂戴。向こうで待機している彼女達が上手く動けるようにちゃんと離れるわよ」

「何が起ころうと焦らないで行動して、って先輩に言われているもんね」

明日は予定では筍の取り放題の場所・・・つまりは、妹紅が管理している言わば彼女のテリトリーとも言うべき場所に向かうことになっている。旅行を開始して早々、荒事に巻き込み時間を潰してしまうのは彼には悪いとは思っているが如何せん彼女らには時間がないのだ。

悪く思わないで欲しい、と久しぶりに会った友人へ向けて三人は心の中で謝罪すると勘づかれないうちにそれぞれの寝床へと舞い戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・『亡霊』退治は実力行使じゃないと無理なのかね」

霖之助が部屋を出た後に一旦目を覚ました灯夜は、携帯端末をいじりながらテラスへと出て酒をグラスに注いで一人煽っていた。

ディスプレイに表示されるのは日本語の言葉ではなく異国の言葉ばかりで、たとえ誰かが横から覗いたとしても理解に困る内容ばかりである。だが、灯夜は何食わぬ顔で読み解き表情を変化させていた。

「性別まで誤魔化して探りを入れても判明したのは一部幹部とボスのコードネームだけか・・・素性すら掴めないんじゃどうしようもねえ」

この女尊男卑の世界で男のまま行動して得られる情報にも限りがあった。だから渋々≪正体を判らなくする程度の能力≫を使い女性に変身し調査を試みたわけだが、迫れたのは『オータム』そして『スコール』というコードネームのみ。いずれかがアラクネを所有しているところまでは予想できるが、詳細な情報が乏しい上に大会での事件以来IS関連の事件が起こっていないのでそれ以外の情報がこぼれ落ちる機会がまるでなかった。

「篠ノ之束だけでなくテロリストもどうにかしないとこの先危ういってか・・・・・・だったら、出し惜しむ必要もなくなってきたな」

言論で戦うのも限界がある。時には言論が通じない相手と物理で戦わなければならない時だってあるのだ。基本争うことは嫌いだがテロリスト相手ならば話は別だ、徹底的に叩きのめすだけである。

端末を懐に仕舞って空いた広がっている右手に風を集めて纏わせると数秒の間それを灯夜は見つめる。そして程なく霧散させた後、グラスの中身を飲み干し容器を片付けると霖之助が出ていく前と同じように布団に横になった。

 

 

―――夜明けと共に、邂逅ノ時が近づく。

説明
後編は執筆中。しかし、そんな時に奴らは俺たちに攻撃を仕掛けて・・・今に至る。
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コメント
とりあえず、にじファン掲載分の移転完了ですね! お疲れ様です。 さてどんなパワードスーツが出てくるのか楽しみにしてます。(ぼるてっかー)
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