世界を渡る転生物語 影技2 【森の守護者】
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 【((解析眼|アナライズ・アイ))】が次々と目の前のあらゆるものをターゲッティングし、それが【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】に書籍として形ある知識となっていく現在。

 

 その知識達は、白く広大な空間を誇る【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】の本棚に次と収まり、埋め尽くし、瞬く間にその数を増やしていった。

 

 そして、俺はその増えていく知識の中から検索をかけ、人の食用に向く野草・山菜・果物などの情報をピックアップしながら、目の前に広がる森林の中から自然の恵みを得ようと必死だった。

 

 正直、こんなことをやったことがないからである。

 

(サバイバルとかやったことないし! キャンプとは全然違うんだぞ! ……現代人なめんな!)

 

 実に見事な逆ギレである。

 

 そんなくだらない事で内心取り乱しつつも、胡桃ににた硬い外皮を持つ木の実や、なんとも形容しがたい色である……ドピンクのキノコなど。

 

 毒性はあるが熱処理をすれば食べられる山菜など、多種多様な森の恵みになるものを【((解析|アナライズ))】しながら、その葉の形や色・においなどを記憶しつつ、後でまた取りに来れるように場所の記憶から生態系までを把握しながら森を進んでいく。

 

(う〜ん、といってもキノコとか山菜は処理しないと生では食べられないなあ……道具もないし……)

 

 とりあえず、調理器具も何もあったものじゃない現状では、山菜系もきのこも上手に食べれるはずもなく、記憶にとどめるだけにし、そのまま口に直接入れて食べられるものを食べるしかないと判断。

 

 それに基づいて取捨選択をし、最終的に調理不要な果実系を採取していくことにした。

 

 まずは、と丁度手ごろな高さにある葡萄のように赤い実を房にした果実を枝からもぎ取り、ものは試しと実の一粒を一口。

 

「ッ……すっぱあぁ……」

 

 口に広がる……目の覚めるような酸っぱさと、僅かな甘み。

 

 口を米の字にしながらも……今は贅沢をいっている場合じゃないと判断し、腹の足しになるならばと実をつぶさないように手に抱える。

 

 その後も、【((解析|アナライズ))】によって発見した果物をもぎ取り、その位置を覚えつつ両手に抱えていく。

 

 程なくして俺の両手は色とりどりの果実で一杯になり、元々好き嫌いもなく、甘いものを得意としていた俺は、活動拠点……いわばキャンプ地として選んだ、湖のほとりにある樹木の木陰へとその両手一杯の果物を持って移動し、俺の体が隠れるぐらいの大きな葉っぱを敷物代わりに地面に敷き、そこに胡坐をかいて座る。

 

 湖の近くにあった平たい岩をテーブル代わりにして果実を並べ、両手を合わせていただきます、とつぶやいた後、俺の……子供の拳大の赤い実を手にとって口にする。

 

ー小 口 頬 張ー

 シャクっという歯ざわりと共に口の中に広がるほのかな甘みと、瑞々しい果汁が俺の口の中に広がり、空腹だった俺の胃へと食料が流れ、俺の心に安心感が生まれる。

 

(おおう……まんま林檎だ、これおいしいなあ)

 

 名前は恐らくは違うのだろうが、大体前の世界と形が似通った果実を口に運び、シャクシャクという小気味いい歯ざわりを感じながら、それじゃあ次にと先ほどの酸っぱい葡萄?のようなものを口に運ぶ。

 

 甘いものを食べたせいで、よりすっぱさが際立ち、その味に再び口を米の字にして顔を顰めるものの、食べ慣れてくればこれも悪くない味だなと感じるようになった。

 

 次に俺の腕ほどもある巨大なバナナ?も発見していたので、どんなものだろうとその皮を剥く。

 

 房の根元をひっぱるとべろ〜んと皮が剥け、中の白い実が顔を除かせる。

 

 所々にくっついている白い筋を取り除き、その白い実目掛けて─

 

ー小 口 噛 付ー

 カプっといった擬音がするようなかじりつき方をして実にかぶりつき、もぐもぐと口を動かして食べてみると……なるほど、まさにバナナという味ではあるのだが……如何せん大型なせいか味がやや薄味であり、淡白な感じがいなめなかった。

 

 しかし量だけはあるので、その一本を食べきる頃にはおなかが一杯になり、俺は残った果物を近くに生えていた……丸みを帯びた卵型の大きな葉をちぎり、それに取ってきた果実を包んで落ちないようにそっと湖に浸し、折りたたんでUの字になった葉の上側、折った葉の重なった部分を岩で押さえ、中身がこぼれ流れないように工夫をする。

 

 こうすれば水で冷えた食べ物が食べられるし、果物の腐らないだろうという、素人考えではあったが。

 

 とりあえずは命の危機である空腹が去った事により、いくらか精神的余裕の出来た俺は、とりあえず野宿という観点からキャンプ地に決めた木陰……木の根元に寝床を作ることにした。

 

 子供であるとはいえ、自分の背丈よりも大きい草を千切り、せっせせっせと草の山を作り、ある程度の大きさになったところで、シーツや敷布団代わりに、先ほど敷物代わりにした大きな葉を摘み取り、敷布団・掛け布団に見立てて敷いてみた。

 

 以外にもいい出来栄えであり、作った自分も満足出来た所で、ならば寝心地はと─

 

「おりゃ〜!」

 

ー飛 込 包 込ー

 完成したベッドモドキにダイブしてみる。

 

 すると、敷き詰めた草がクッションとなって俺の体をふんわりと押し返すぐらいの中々悪くない感触。

 

 敷いた葉の先をくるくると巻いて枕にし、葉の掛け布団をかぶって寝てみると、意外なほど寝言地は悪くなかった。  

 

(おし……とりあえずはこれで今夜は過ごせるだろう。水もあるし……食べ物も豊富な森みたいだしな。ここを拠点に徐々に範囲を広げて、近いうちに人の住んでいる町を見つけないと……)

 

 今後の方針を決めつつ俺はベッドから起き上がると、俺は今後の対策を練るにしても、自身の状態を確認する必要があるな、と確認できている能力の【((解析眼|アナライズ・アイ))】・【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】に続く最後の一つ、【((進化細胞|ラーニング))】の検証に入る事にした。

 

(鍛えれば鍛えるほど、強さが増すとかっていってたけど……とりあえずは筋トレとかでいいのかな?)

 

 などと考えつつも、ふとルナちゃんからの手紙でこの世界は争いが絶えない世界だと聞いているし、命に関わる事も多そうだなと考え、闘うにしても逃げるにしてもまずは体力がなければ話にならないと仮定。

 

  それならばと、自分自身にむん! と気合をいれつつ、まずは脚力と体力を鍛えるためにも、湖のほとりを周回して走ることにした。

 

ー小 走 周 回ー

 小さな歩幅で、とっとっとっとと最初は軽めに流しながら、キャンプ地を基点として時計回りに湖を回って走り出す。

 

 ひょうたんのように、大小二つの丸が合わさったような形のこの湖は、全長でいえば2km、幅でいけば広いところで1kmはあるだろうか。

 

 元々体力のあるほうではなかったし、最悪疲れたら湖の水を飲んで喉を潤しつつ、ゆっくりと走ろうと決めて走り出したのではあるが─

 

ー息 弾 息 継ー

 ハッハッハッハッと規則正しく息をしながら、小さくなった体……歩幅で走り続ける俺ではあったが、自分の体がいつまでたっても疲れない事に疑問を抱いていた。

 

 そんな疑問を抱きつつ、それならばと徐々にスピードを上げながら湖に沿って走っていたのだが……正直いってこの体、すさまじくハイスペックなようである。

 

(汗も出るし、息も上がってはいるけど……そこまでの苦しさがない……いや、苦しさを感じるけどすぐ治るといったほうが正しいか)

 

 最初の走り始めこそ体の重さや息苦しさ感じたものの、ある一定ラインを超えたあたりから自分体全体の細胞がざわめくような感覚を感じ始め、苦しさが成りを潜め、連続して走るのになんの抵抗も感じなくなったのだ。

   

 俺はそれをいいことに、手や足の振りを大きくしてさらにスピードをあげ、自分の最高速度ともいえるほどの走りを慣行してみる。

 

 いきなり全力疾走になったことにより、息苦しさと体の倦怠感が俺を襲うがー

 

ー細 胞 活 性ー

 俺の全身の細胞という細胞が軋むような感覚と共に突然その倦怠感が改善され、俺の体がそのスピードに見合うように最適化・進化を促していくのを感じた。

 

 それはスピードと同じように、走るフォームにも影響しはじめ……より早く、より風の抵抗を受けない姿勢へと最適化されていく。

 

ー疾 風 疾 走ー

 前傾姿勢になり、両手を大きくかつ早く振る俺は、一歩一歩を子供の歩幅とは明らかに違う広さで、飛ぶように軽快に走っていく。

 

 最初のちょこちょこした走りとは雲泥の差だった。

 

 この湖の周囲を回ると……約10kmぐらいはあるだろうか。

 

 前なら1kmも走らないうちにばてて座り込んでいただろうが、今の俺はその工程をさしたる疲れもなくあっさりと走りきり、既に10週を超えるほどに走りこんでいた。

 

ー急 緩 停 止ー

 そうして走り続けていた俺ではあったが、このままではキリがなさそうだと判断し、木の葉のベットが見えた辺りから徐々にスピードを緩め、ゆっくりキャンプ地へとたどり着く。

 

「はっはっはっ……ふ〜……」

 

 リズムを刻むように行われていた呼吸も大きく深呼吸をした瞬間に整えられ、走っている最中に絶えず感じていた全身を駆け巡る血液の流れや細胞のうずきが収まっていく。

 

(マラソン選手じゃあるまいし、こんな子供の体でこれをあっさりか? 途中で全力疾走してたけど、そのスピードもあがってたみたいだし……)

 

 ほてった体を冷やすために、俺はジャケットとハーフパンツを抜いてベッドに置き、黒いスパッツとシャツの上下姿になって、先ほど敷いた敷物の上に寝転がる。

 

(……そうだ、体も汗かいてるし……体の疲労もない。いっそのことこのまま水泳をしてみるか)

 

 俺はそう考えると、早速実行するために体を起こし、手と足に履いていたグローブとブーツ、靴下を脱いで丁寧に畳みつつ、上下のスパッツはそのままにー

 

「とう!」

 

ー水 面 飛 込ー

 両手を上に伸ばし、手と手を掴んで三角形を作りながら湖に飛び込む。

 

 派手に水しぶきがあがり、俺の体はス〜っと沈みこむ感覚を感じながら湖の深い部分へと入り込んでいく。

 

 ある程度まで沈み込んだところで両目を開き、まだ下がある意外に深い湖の中を眺めながらも……ひどく幻想的な風景に心奪われる。

 

 青い透明感のある水の中を、淡水魚と思われる魚がゆったりと泳ぎ、あるいは群れを成している。

 

 湖面から降り注ぐ光が魚のうろこに反射し、キラキラとした光を発していた。

 

(うわ〜、綺麗だな……)

 

 そんな事を考えながら、まるでスキューバダイビングを楽しむかのように両手両足を動かしつつ、目の前の景色を楽しみつつ、そろそろ苦しくなってきたので一度息継ぎのために潜水状態から湖面へと体を向ける。

 

ー湖 面 顔 出ー

「ふぅ〜〜〜〜はぁ〜〜〜!!」

 

 湖面から顔を出した俺は残った息を吐き出した後、大きく息を吸い込んで新鮮な空気を体に取り込む。

 

 そして立ち泳ぎをしながら、顔を巡らし、周囲を確認した後……思いついたことを実行しようと湖の淵まで向かい、今度はゆっくりと湖の淵に沿いながらゆっくりと泳ぎ始める。

 

 左右の両手を動かし、バタ足をしながらクロール・平泳ぎ・バタフライ等、自分の記憶にある限りの泳法を行っていく。

 

 どの泳法で泳いでいても、泳いでいるうちに細胞が活性化するような感覚と共に、水の抵抗と水を掻き出すその泳法の尤も適した泳ぎ方に最適化されていき、どんどんと泳ぐ速度が増していく。

 

 一人で自由形リレーのようなことをしつつ、俺は湖を一周し終わり─

 

「ふ〜……」

 

 大きく息をした後、クールダウンするかのように背泳ぎをしながらぷかぷかと浮かび、視界に写る青い空を見上げていた。

 

(空の青さが濃い……空気が綺麗だからだろうな)

 

 ぼんやりと、そう考えながら、緑の濃さや空の青さ、そしてこの水の綺麗さなど、前の世界との差異を感じながら、俺は消えつつある俺自身の過去をぼんやりと思い出していた。

 

 ルナちゃんの事だろうから、未だ記憶に残っている両親や兄姉達の幸せは約束されているだろう。

 

 先立ったことに関しては申し訳なく思うが……ルナちゃんの加護で幸せになると考えれば親孝行もできたと思っている。

 

(……まあ、問題的にいえば、今現在、俺が一人で…………寂しいって事だけかな……)

 

 見上げた空がなぜかぼんやりとにじみ始め、ゆがみ、視界が悪くなる。

 

「ッ! しっかりしろ俺!」

 

ー水 中 潜 行ー

 頬を伝う暖かな感覚を感じ、俺は自分を叱責しながら背泳ぎからひっくり返って水中へと潜水していく。

 

 ……もう、過去は過去であり、過ぎ去った事。

 

 今は唯ひたすらに前へ。

 

 今を生きること、そしてこの先、この世界を生き残ることが今の俺の課題なのだから。

 

 湖の水と、頬を伝うものが同化し溶け込む中、俺は体をうねらせて、息が続く限りまるで魚のように潜水し続ける。

 

 時には隣を泳ぐ魚と競争したりしつつ……俺は自分自身が納得出来るまで、そして俺自身が飽きるまで湖を泳ぎ続けたのだった。   

 

  

 

 

 

 そうして数時間泳いだだろうか。

 

 泳ぎ終わった俺は、周りに誰もいないことを確認しつつ、裸になって体と服を洗い、きっちりと絞った後で上下の衣服を近くの木の枝に干す。

 

 ハーフパンツ一丁という姿のまま、太陽が真上に輝くのを見て、そろそろお昼ごはんだなと湖に沈めておいた葉に包んだ果物を引き上げる。

 

 瑞々しい果実達は湖の温度によって冷やされており、その甘みを引き立てていて大変おいしく、俺はおもうままにその食料を食べつくしていた。

 

 おなか一杯食べた俺は、果物の皮などを近くの茂みに木の枝で穴を掘って後始末をした後、服が乾くのを待って夕食の調達に乗り出すことにした。

 

 そして、そこで感じる……ここの世界に着いたばかりの自分との違い。

 

 先ほどまで苦労して歩いていたこの森を、さして苦ともせずに歩けているのだ。

 

 ここまで結果がはっきりでるというのはやる気が出るもので、俺は明日も頑張ろうと心に決心しながらも、先ほど覚えた果物がなっている場所に向かって果物をもぎ取ってきた。

 

(う〜ん、欲をいうと限りないところだけど……ちょっと調理したものが食べたいかも。まあ、今はそんな事を考えても仕方ないか、食べられるだけでありがたいしな)

 

 などと考えつつも、俺は再び両手に抱えられるだけ果物を?ぎ取っていく。

 

 大きなバナナを冑のように頭に被り、両手に果物を抱えながらも……今のところ順調な初めてのサバイバルに満足していた。

 

 そうしてキャンプ地に向かう中、ふと目に映ったライチににた実。

 

(もう一つぐらい取っていこうかな)

 

 白い実でとても甘く、唯種が大きく硬い外皮で、食べるところが少ないのが難点だったが、食の種類を増やすという点では取っておいて損はないだろうと、少し欲を出してその果物をもぎ取ろうと果物に手をかけた瞬間ー  

 

ー緑 葉 開 眼ー

 その果物のそばにあった緑色の葉。

 

 その葉に線が入ったかと思うと……くわっとその線が開き、その裂け目から覗いていたのは……((瞳|・))。

 

「……え?」

 

 そう、葉に瞳が着いて俺を見つめていたのだ。

 

 そんな衝撃的なあまりの出来事に俺が何も出来ず、果物に手を伸ばしたまま固まっていると─

 

ー連 開 緑 眼ー

 

 一斉に周りの木々の葉までもがその体に瞳を作り、俺を一斉に包囲するかのように俺を一点集中で見つめたのだ。

 

(え……えええええええ?! な、な何これ?! 何のホラー?! こ、こここの森は食人樹木の集団とか何かなの?!)

 

 その眼前の非常識を見て感じたのは……圧倒的恐怖。

 

 考えてもみてほしい。

 

 そこらじゅうの植物に眼が生えてこちらを見ているのだ。

 

 正直ホラー以外の何者でもないだろう。

 

 混乱した思考が脳内を駆け巡る中、俺はこの体の恐怖が訴えるまま、周囲の視線を避けようと回れ右をして─

 

ー全 力 疾 走ー

 迷うことなく両足を動かし、自らの持てる力を注ぎ込んで全力疾走をする。

 

(と、とりあえずはキャンプ地へ! それでもこの瞳が追ってくるのならもう湖に飛び込むしかない!)

 

 必死に果物を抱きかかえたまま、俺は自らの安全を最優先で考えながら【((進化細胞|ラーニング))】を駆使し、全力疾走の速度をあげて駆け抜ける。

 

ー連 開 緑 眼ー

 その俺を逃がさんとばかりに、俺の行く手を遮るかのように、また追いかけてくるかのように次々と開いていく行く先々の木々の葉に生える眼。

 

(こわ! こわこわこわこわこわこわこわこわ〜!? な、なんだ?! なんだこれ?!)

 

 未だ嘗てない、あまりのホラーっぷりに俺の混乱は有頂天であり、完全な涙目なのを自覚していた。

 

(で、でももう少しで湖! キャンプ地! がんばれ俺!)

 

 歯を食いしばり、悲鳴をあげそうになる自分をどうにか叱咤しながら、さらに全力疾走の速度をあげて逃げる。

 

 そして、徐々に森が開け、鬱蒼とした木々の間から漏れる光が強くなり、視界には湖面の青く輝く光が見え始めた。

 

(見えたあ!! もうちょっと! もうちょっとだああ!)

 

 視界に見えたその湖面の輝きに自らの身の安全の希望を見出しつつ、俺は疾走を続けて森を抜け出そうと─

 

ー土 拳 顕 現ー

 したその瞬間、俺の行く手を遮るように地面から突然生えてくる……土気色の手。

 

 土の拳ともいえるそれは、その掌を開き俺を捕らえんと迫って来たのだ!

 

「みぎゃああああああああ?!?!」

 

(うわあああああああ?! つつつついにゾンビモノになってきた?! ここはあれか! バイオなハザードな世界だったか?!)

 

 あまりの恐怖についに絶叫を口から漏らしてしまいつつも、俺はその手を避けるために全力疾走の速度のまま、その土の手を飛び越える。

 

ー飛 翔 跳 躍ー

(……え? あれ?! 何この高さ!)

 

 ふと気がつくと、俺は自分の背丈よりも遥かに高い位置を飛んでいた。

 

 スピードが乗っていたとしても、正直在り得ないほどの高さを飛んでいた事に驚きを隠せないまま、俺は地面に着地─

 

ー連 拳 土 木ー

 した瞬間、俺の目の前を遮るほどに現れた、土の拳と、木々の幹からまるで生えるかのようにこちらに向かってくる木の拳の数々。 

 

 そして、その手のどれもがその手を開き、俺を捕らえようと迫ってくるのだ。

 

「みぎゃああああああああああああ?!?!!??」

 

 ついに涙目から思わず半泣きになってしまい、思わず腰が抜けそうになってしまった俺は悪くないと思うんだ、うん!

 

 まるでソンビ映画で壁を背にした瞬間、自分を捉えようと壁を破って生えてくるゾンビの手を想像ざせるような目の前の光景。

 

 まさに恐怖である。

 

(無理無理無理! リアルハザードとか勘弁して〜?!)

 

 火事場の馬鹿力とも言うべきもので掴んでくる手を蹴り飛ばし、殴り倒し、踏み台にしてどうにか突破し、ようやく湖への道が開ける。

 

(や、やったやったやったーーーー!)

 

 ようやく開放されると内心の喜びを隠し切れずに最後の木々を抜けて森を突破しようとした瞬間─

 

ー土 塊 隆 起ー

 湖周辺、目の前の土がぼこぼこと音を立てて盛り上がり─

 

ー土 人 連 顕ー

 土人形ともいえる、見た感じ不気味な人型が次々と大地から盛り上がって立ちはだかった。

 

「ぎゃあああああああああああああ! でででたあああああ?!?!」

 

ー緊 急 停 止ー

 ついに来た! と現れた人型の群れに絶叫をあげ、思考が真っ白になり、とりあえず眼前の恐怖の対象につっこむまいとその両足を停止する俺。

 

 地面が抉れ、草がつぶれ、土煙を立てながら停止した俺は、どうにかこの土人形達から逃げようと、必死に逃げ道を探すが、まるでティーフェンス! ディーフェンス!といわんばかりにガードの硬い土人形から逃れられるはずもなく……。

 

ー土 手 掴 束ー

「ひ?!」

 

 その隙を逃すまいと、俺の足元から現れた土の手が俺の両足を掴み─

 

ー連 土 手 拘ー

 木々から伸びた木の手が俺の両手・肩を、そして地面から生えた土の手が俺の両足・腰などを掴んでいく。

 

 我が人生に逃げ場無し。

 

 そんな辞世の言葉が浮かんでくるほどの絶望が俺の心を支配する。

 

(ああああああ……転生した初日にこれか……ルナちゃん、ごめんなさい……こんなに一杯能力とかもらってよくしてもらったのに、そちらに戻ることになりそうです……)

 

 ひたすらティーフェンス! とゆらゆらとゆれて人の壁となっている、目の前のゾンビモドキのエサになるんかなあ、などと諦めと共に考えていたその時だった。 

 

ー猫 柔 着 地ー

「や〜っと捕まえた。君が侵入者だね? 随分と梃子摺らせてくれちゃって……中々やるね〜君」

 

 俺の頭上。

 

 太い木の枝に着地した人影が、俺に声をかけてきたのだ。

 

ー果 物 噛 切ー

 俺が捕まった際に撒き散らしたはずの食料がなぜか木々の手に掴まれていて、その一つの洋ナシに似た実を、木の手が運んでその人影に渡す。

 

 そしてそれをシャクっという音と共に一口頬張る。

 

「よっと!」

 

ー柔 軟 着 地ー

 そう一言口にしたその人影は、その頭上の高い枝から真っ直ぐ俺の目の前へと飛び降り、普通なら投身自殺とも取れなくないその高度を音もなく着地をして見せた。

 

 半ば呆然としながらも、目の前に現れた人影を見た瞬間、俺の体には衝撃が走った。

 

 栗色に近い茶色の髪。

 

 くりっとした瞳に、獣のように尖った特徴的な八重歯。

 

 顔や体全体に、傷のような形のペイント模様。

 

 そして何より……腰部分から生えて、ゆらゆらゆれる、いい毛並みの尻尾と、頭の上……髪の間から顔を出す……もふもふしてぴこぴこと動く……獣の……いわゆる猫耳。

 

(獣……耳……だと?)

 

 木々の手や土の手につかまれ、周りを土人形に囲まれつつも、目の前の女性……というよりも少女か、のそのあまりにもな容姿に恐怖を忘れ、釘付けになる俺。   

 

「さってと……ここは自然の国といわれるリキトア、その数ある森の中でも……我々【牙】族が我らの御技……【リキトア流皇牙王殺法】の修行につかう森。そんな森に……人間のおじょーちゃんはなんで進入したのかな? もしかしてとは思うけど……迷子?」

 

 その口元に笑みを浮かべつつも、腰に手を当てて俺の目の前に立って見下ろすその獣少女が、その目に警戒の色を浮かべて俺の目の前までやってくる。

 

(うわ〜、本物の獣……人? だ〜……耳動いてる! しっぽ動いてる! あ〜、いいなあ〜もふもふしたいな〜)

 

 今までの恐怖から一点、目の前にある本物の獣耳としっぽという神秘に見入ってしまう俺。

 

 興味が先走り、少女の言葉を聞き逃してしまったのを知らずに見続けていると……それを見ていた獣少女が当惑の表情をして頭をかいた後、腰に両手を当てて俺と視線を合わせる。 

 

「……う〜ん、沈黙をもって答えとするというのはなかなか見上げた根性だとは思うけど……」

 

 そう言いながら俺の目の前でその眼を閉じる獣少女が─

 

「答えがないなら、その体に聞くことになるけど……いいかい?」

 

ー獣 眼 開 眼ー

 その眼を俺の顔の前で見開く。

 

 その眼に現れる……縦長に見開かれた瞳。

 

 獣などが怒りをあらわにした時に見せる瞳。

 

 そして、その意味。

 

ー殺 気 強 襲ー

 その瞬間、獣耳やしっぽに浮かれていた俺に襲い掛かる、圧倒的恐怖と悪寒、そして重圧。

 

 心臓を鷲づかみにされるような威圧感。

 

 頸元に刃物を当てられているような絶望感。

 

 そう……これはまさに……殺気。

 

 必殺の意思を示す、狩る者と狩られる者を隔てる……絶望的な壁。

 

「ひぅ……?! ひっ……!?」

 

 死のイメージが俺の脳内を満たし、背筋どころか全身に噴出し、滴る冷や汗。

 

 何もかもをかなぐり捨ててでも逃げ出したいという感覚に襲われながらも、逃げられない圧倒的な恐怖。

 

 俺の瞳からは涙があふれ、俺の全身はガクガクと小刻みに震えていた。

 

(怖い……怖い怖い怖い怖い! 逃げたい逃がして逃がして助けて助けて!)

 

 逃げようともがくが、逃がさないとばかりに全身をきつく締め上げる土と木の手。

 

「答えな! なんでこの森の……しかもこんな奥地まで入ってきた!」

 

 威圧感……殺気がさらに増す中、振るえる体気が遠くなりそうな心に鞭をうち、必死に口から言葉を紡ぎだす。

 

「ひっ……い、(前世の世界の)田舎から出てきて、お、お、お金もなかったから、た、食べ物をもらおうとして森に入って……遭難しちゃっただけなんでふ!」

 

「?!」

 

(い……いたひ……)

 

 恐怖のあまりにしゃべっている間に口の中を噛んでしまい、口の中に血の味が広がる。

 

 その言葉を聴いた瞬間、驚いたように体を起こして瞳が元の形に戻る獣少女。

 

 殺気の重圧が霧散し、俺の体全体が緊張から介抱され、力が抜ける。

 

 口の中の噛んでしまった部分を舌で触り、それが【((進化細胞|ラーニング))】で治っているのに驚きつつも……殺気の霧散した目の前の獣少女をそっと涙目で見上げる。

 

 そして、俺の視線と獣少女の視線がぶつかった瞬間。

 

 瞬間沸騰したかのように獣少女の顔が真っ赤になり─

 

ー噴 鼻 血 弓ー

 突如鼻血を噴出してのけぞる獣少女。

 

「おわ〜?!?!」

 

 辛うじて血の直撃は間逃れる位置だったので、どうにか血染めにならずにすんだ事に安心しつつ……俺の目の前で芸術的な血のアーチを描いた獣少女は、自分の背後にあった木の幹に手をつき、鼻を押さえる。 

 

(え?! な、なんだ? どっかからの攻撃か?!)

 

 土人形や土の手、木の手に掴まれたまま動けず、辛うじて動く頭を動かせるだけ動かして辺りを警戒するが……あるのは獣少女の作り上げたらしい土人形と、湖のみ。

 

(違う、攻撃じゃないな。だとすると……いったいなんで……?)

 

 いきなり鼻血を噴出した獣少女に理解ができず、首を傾げる俺。

 

「く……あぶにゃい。涙目上目使いとは……あやうく萌死を体験するとこだったにゃ……」

 

 鼻血を押さえつつ、何かをつぶやく獣少女。

 

ー後 頭 手 叩ー

 上を向き、首元を数回叩いて鼻血を止めた獣少女がようやく俺に向かって振り向き、まるで俺の全身を嘗め回すように上下に視線を走らせる。

 

 そして、なぜか愉悦にそまった表情になる獣少女。

 

ー口 糸 引 涎ー

 その唇から透明な体液がたらりとたれ下がるのを見た瞬間ー

 

ー悪 寒 背 筋ー

 ぞくっと先ほどとは質が違う悪寒が走る。

 

「……お嬢ちゃん……よくよく見ると……すっごい美人さんだね〜♪」

 

「?!」

 

(な……んだ……と?!)

 

 全身をガッチリ補足されて動けない俺に、その眼を妖しく光らせて歩み寄ってくる獣少女。

 

 ……なぜかその両手は、わきわきと非常にいやらしい動きをしていて─ 

 

(え?! 何?! これはなんのピンチ?! ……待て、待てよ?! 落ち着け俺!)

 

 何か得たいの知れない危機感に混乱する俺だったが、冷静に思考をめぐらせるように勤め、現在の情報を整理する。

 

(……恐怖の仕方が変わったけど……これは一体どうゆうことだ?! ええと……俺がこの森の侵入者だ⇒何のためにこの森に入ったかわからなくて警戒・俺を脅す⇒理由を話すと同時に鼻血を拭く獣少女⇒鼻血を収めて振り向いた後のなめまわすような視線⇒((お嬢ちゃん|・・・・・))、美人さんだね? という一言とともに口元から流れ出る……涎⇒お嬢ちゃんという言葉から俺を女の子だと勘違いしていることは明白⇒なのに涎をだす=女の子だけど女の子が好きな獣少女=【同性愛者】)

 

(……よし。待て! 待とうかちょっと?! つまり俺は別な意味で食われる寸前という事か?! こ、これは誤解をどうにかして解くしかないッ! うん! 主に俺の貞操のために!)

 

 自分で分析し、答えにたどり着いた俺は……戦慄する。

 

 そして、今目の前にある危機に対し、どう対処するかを必死に考える俺がいた! 

 

「ちょ?!……お、お姉さん、おねえさん! いっとくけど俺男! 男だから! その涎は拭いてちょっと離れてくれないかな?!」

 

 俺は必死になって瞳に妖しい光を灯す獣少女に声をかける。

 

 同性愛者ならば俺が男だと聞けば興味を無くすに違いない!

 

 そんな一縷の望みを託して必死に呼びかける声に、きょとんとした顔をした後獣少女。

 

 しかし─

 

「ニャッ?! 嘘だッ! そんな超美少女といった外見なのに! そんな事ありえない! こんな美少女が男なはずはないニャ!」

 

 ふんと鼻で俺の言葉を笑い飛ばし、再び手をわきわきさせながら寄ってくる獣少女。

 

 その顔には再び愉悦の表情が浮かび、じりじりと近寄ってくるその気配はさかりのついた獣のようだった。

 

(ちょ?! なにこれ! すっごい身の危険を感じるんですけど?! お、おおおちけつ! と、とりあえず説得だ! そんで逃げる!)

 

 必死になって考えを巡らす俺。

 

 そして、そんな俺の脳内では─

 

(『解析完了。警告!警告! 性的な意味で危険です! 危険度Aクラス』)

 

 目の前の現状を解析した【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】がそんな結果を内部空間ディスプレイに【CAUTION!!】という黄色い文字を出しながら警告の声を盛大にあげていた。

 

(うおおお?! そ、そんな事言われてもこの状況じゃ逃げれないし……こ、ここは説得あるのみ!) 

 

「ま、まって、ね? ね? と、とりあえずこの土の拳はずしてみようか? まずは話し合いで解決しようよ!」

 

 眼前に迫る別の恐怖に、必死の抵抗を試みる俺。

 

(ど、どうにか貞操の危機を回避しなければ!)

 

 しかし、そんな必死の抵抗も空しく─

 

「大丈夫大丈夫……。確認すればわかるニャー♪ ……じゅるり」 

 

 土の拳と木の拳が解除され、俺が地面にぽてんと尻餅を着き、俺はやっと開放された我が身にほっと一安心しつつも、この場から急いで離れようとするのだが……先ほどまともに浴びてしまった殺気のせいで腰が抜けてまったく動けなかった。

 

 そんなあせる俺に悠々と近づく獣少女。

 

ー左 手 拘 束ー

 そして、その手を伸ばした獣少女が、俺が逃げられないようにとがっちりと左手で掴んだ後、右手が俺の服に伸びてきて─

 

「ちょっ、まっ、ワキワキするんじゃねええ! やめて! 脱がさないで! アーーーーーッ!」

 

ー瞬 間 脱 衣ー

 あっという間に剥ぎ取られ、宙を舞う俺の服。

 

 そして─

 

「……驚いたニャー……、まさかホントに男だなんて。でも……このまま成長するならこれはこれでおいし……ンッンン!」

 

「う……うううう〜〜〜〜……」

 

 じっくりと裸体を視姦し、ぐったりとうなだれる俺を驚愕した表情で見つめた後、危険な言葉を口走って口元を歪める獣少女。

 

(もう……お婿にいけない〇rz)

 

 すばやく服を取り返し、涙目で服を着込みながらもがっくりと〇rzをする俺。  

 

 しばらくなんともいえない雰囲気が漂った後、不意に獣少女が咳き込みながら地面に腰を下ろす俺の目の前に座り込んで目線を合わせてくる。

 

「んん! っと、そういえば警戒ばっかりしてお互いまだ名乗ってなかったね。アタシはこのリキトアの森・【牙】族専用森林【牙々森林】守護役をおおせつかっている【四天滅殺】【リキトア流皇牙王殺法】カイラ=ル=ルカっていうんだ。アンタは?」

 

「……蒼焔 刃だよ。こっちの呼び名だと……ジン=ソウエンかな? えっと……カイラさ「カイラでいいにゃ! 裸を見せあった仲じゃな」一方的に裸にひん剥いて確認しただけだよね?! 誤解をまねくような言い方しないでくれるかなカイラ!」

 

「にゃっはは〜! 気にしない気にしない! 眼福だったしにゃ〜♪」

 

「気にするわああああああ!」

 

 にっこにことしたいい笑顔でぽんぽんと俺の肩を叩いてくるカイラに向かい、先ほどひん剥かれたことを思い出して吼える俺。

 

(ちくせう……なんでこんな目に……)

 

 眼からあふれそうになる汗を必死に我慢する俺。

 

「にゃははは。んで……さっき聞いたけど、本当に迷子になってこんな最奥までやってきたのかにゃ? ここは基本【リキトア流皇牙王殺法】の修行場所だから、あたしら【牙】族以外は入らない場所なんだけど?」

 

「……うん。気がついたらこの森に入ってて……とりあえずこれ以上動いたらさらに迷子になりそうだから、偶然見つけた湖の近くにキャンプしてて……とりあえず食べ物を見つけてしばらくここから探索して町まででようと思ってたんだけど」

 

 【牙】族の修行専用……。

 

 先ほどから扱っていた木の葉に眼をつけるのとか、土や木の拳、そして土人形などだろうか。

 

 【リキトア流皇牙王殺法】と名乗っていたし、先ほどの不可思議な現象がそうなのだろう。

 

 前世界ではありえない光景、あまりの恐怖で【((解析|アナライズ))】していたのを忘れてしまっていた。

 

 襲われている間もきっちりと俺の瞳のターゲッティングが動いて目の前の不可思議現象に対して【((解析|アナライズ))】を進めてはいたのだが、俺自身が心に余裕がなく、それに気をまわす余裕がまったくなかったのだ。

 

 とりあえず、現状で分かる事はカイラが【牙】族という半獣人の種族であること。

 

 この森は【牙】族専用で、【リキトア流皇牙王殺法】という技を習得するのに使う重要な森である事。

 

 ……全種族なのかはわからないけど、【牙】族……少なくともカイラは同性愛者っぽいという事。 

 

(……うん、これは素直にでていこう。身の危険も感じるし……カイラ自身はそう悪い人じゃなさそうだし、町の場所を聞いて……きちんと謝って森の外まで送ってもらおう)

 

 俺はカイラの人と也をみて、悪い人じゃなさそうだと素直に判断し、それならばと考えを実行するためにカイラに声をかける。

  

「う〜……勝手に入ってごめんなさい、カイラ。えと……すぐ出て行くから、申し訳ないんだけど、森の出口まで送って─」

 

 とりあえず、さっき木の拳が一箇所にまとめてくれた果物を受け取とり、俺は立ち上がって行動に移そうとしたのだが……。

 

ー立 上 即 転ー

 

「……あれ?」

 

「……何やってるにゃ?」

 

「あ、あはは! ごめんね? すぐに─」

 

ー立 上 即 転ー

 

 そう、先ほどの殺気で腰が抜けたのがまだ治っておらず、立ち上がろうとすると足腰がふにゃっとなってとてもじゃないけど立てそうになかった。

 

(う……うう〜……初めての殺気が怖すぎたというのはあったけど……これは情けないなあ……)

 

 自分の不甲斐なさにしょんぼりしつつ、カイラに事情を話すべく言葉をかける。

 

「……ごめんカイラ……殺気にあてられたので……腰が抜けちゃったみたいだ。申し訳ないんだけど、立てるまで休ませてくれるかな?」

 

(さすがにこればっかりはどうしようもないよなあ……。まあ【((進化細胞|ラーニング))】に期待するしかないか……)

 

 精神的負担から肉体にかかった負荷だったので、肉体的負荷だけの時よりも時間がかかっているのだろうなと、【((進化細胞|ラーニング))】に対しての予想を立てつつ、無理して立たずに体育すわりをして回復するのを待つことにした。

 

「にゃ?! ああ〜そっか、脅かしてすまなかったにゃ〜……。どうも最近盗賊やら【ソーウルファン】のやつらが活発でねえ。さすがに……子供にむかって大人気なかったかにゃ……反省反省。しっかし……ジンもなっさけないニャ? 男の子なんだったらもう少し鍛えたほうがいいにゃあ」

 

 バツの悪そうな顔をして頭をかいた後、開き直ったように俺を指差して情けないぞといいはなつカイラ。

 

(いやいや! 一般人に殺気とか感じるような危機なんてありえないから! 何無茶いってんのこの人!)

 

 カイラのあまりの無茶っぷりに戦慄しながら、カイラを見つめていると、カイラが俺をみて考え込むような仕草をとる。

 

「ん〜……ねえ? ジン。あんた……どこか宛のある旅なのかい?」 

 

「? いや……、宛はないよ。とりあえず右も左もわからないし……いろんな国々を回ってみようかな〜とは思ってるけど」

 

(まあ実際、この世界にきてばっかりでわからないことだらけなわけだし、お金もないので途方にくれていたのは間違いないわけなんだが……)

 

 そう返事を返してカイラを見つめると、カイラは何かを決心したように頷いて俺を見つめてきた。 

 

「よっし、決めた! これも何かの縁だしにゃ! これからこのカイラちゃんがしばらく面倒見てあげようじゃないの! 幸い今はこの森にいる守護役はアタシ一人だし……ジンが身を守るための護身術や修行をつけるのにもうってつけだしニャ! そして小さいながらもきっちり寝れる小屋もあるし! それに……そんな歳で一人旅なんてわけありなんでしょ? なら少しは腕っ節も強くないと!」

 

 そういいながら、俺の頭を撫でてその顔に人懐っこい笑みを浮かべるカイラ。

 

(笑うとかわいいもんだなあ。獣っぽい八重歯がキュートです)

 

 そんな笑顔に見蕩れながら、カイラが言ってくれた提案を吟味する。

 

(……俺一人じゃ何をするにしてもたかが知れるし……、あの先ほどの殺気……そして森の守護役という言葉から、カイラは恐らく一流どころともいえる戦士なのだろう。そんな一流な人物に鍛えてもらえるというのは何者にも変えがたい魅力だ)

 

 それと同時に、先ほどから【((解析|アナライズ))】を行っていた【リキトア流皇牙王殺法】という技術。

 

 それをあと何度かこの眼で見て、そして【((解析|アナライズ))】すれば、その技術を俺のものにする事も可能だろうという結果が【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】から送られてきているだ。

 

 それに……この世界では争いが耐えないと宣言されている手前、自分の身を守れる切り札や技は多いに越した事はない。

 

 そう考えた俺は、カイラの提案を飲む事にし─

 

「う〜……んじゃ……悪いけどお世話になります」

 

ー平 身 低 頭ー

 素直にカイラの好意に甘え、頭を下げてお願いする。

 

「うんうん! にゃははは! まっかせなさ〜い♪ っと、そろそろ夕暮れ時だし……アタシの住んでいる小屋に案内するニャ! 今日はとりあえず歓迎会もかねて、小屋にある食事をお腹いっぱい食べて! 一緒にお風呂入って汚れを落として! アタシのベッドで一緒に寝よ〜〜♪」

 

「……え? ちょ?!」

 

ー首 掴 脇 抱ー

 俺の言葉に満足げに微笑んで頷いた後、いうよりも早く俺の襟首を掴み、俺を小脇に抱えるカイラが─

 

ー跳 躍 飛 翔ー

 その両足に力を込めて、獣人特有のしなやかさでもって超人的な跳躍を見せる。

 

 木の枝につかまり、勢いをつけて一回転をした後、次々と木々の枝を飛び移って疾走していく。

 

ー木 々 飛 乗ー 

 まるで物語でみた忍者のような動きで、木々の枝を飛び移り、疾走するカイラ。

 

 そんなカイラの動きに感嘆しながらも、俺はカイラの腕の中で考えていた。

 

(ルナちゃん……、俺早まったかもしれない……すごい危機(主に貞操の)を感じるよ……)

 

 振り落とされないように必死にカイラにしがみつきながらも、楽しそうに笑うカイラの横顔に凄まじい不安を感じながら、俺はされるがままに運ばれていったのだった。

 

(『危険!危険!性的危険度がSに到達しそうです!』)

 

 ……俺の脳内内部空間、そのディスプレイに赤々とパトランプが点灯し、大きく【DANGER】の文字が掲げられる【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】の告げる警告の声を聞きながら。

 

 

 

 

 

 

登録名【蒼焔 刃】

 

種族 人間?

身長 102cm

体重 27kg

 

【基本能力】

 

筋力    D⇒DDD new

耐久力   D⇒DD  new

速力    D⇒C  new

知力    D⇒DD  new

精神力   D⇒DD  new

魔力    D

気力    D

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

サバイバル C new

植物知識  C new

 

【動作系スキル】

 

水泳    C new

 

【作成系スキル】

 

料理    C

 

【魔術系スキル】

 

無し

 

【戦闘系スキル】

 

格闘    D

リキトア流皇牙王殺法 D new

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S ⇒SS⇒SSS⇒EX- 

最優    A ⇒AA⇒AAA⇒S-  

優秀    B ⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C ⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D ⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E ⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F ⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

衣服一式

 

説明
 月の女神ルナの力により、転生という道を示され、世界を渡った俺。

 自分に与えられた外見と、これからを過ごす心構えから自らの名を【蒼焔 刃】と名づける。

 ルナちゃんのサービスなのか、過剰ともいえる能力をもらい、美少女とも思えるほどの外見をもらったものの……現状を一言でいえば子供の迷子。

 森の中での遭難という状況に、湖で水は確保できることからと、俺は【((解析|アナライズ))】を駆使して食物を探し始める。

 【((進化細胞|ラーニング))】で死ぬことはないものの、現代では決して行うことのなかった自然下でのサバイバル生活が幕をあけたのだった。
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