二度目の転生はネギまの世界 第八話
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第八話「3:現実は非情である」

 

 

 エヴァを連れて町付近に戻った((我|オレ))は、すぐさま強力な認識疎外をエヴァと((我|オレ))に適用する。原作はほとんど思い出せぬが、確かエヴァは真祖にされてすぐに賞金がかかっていたはずだ。念には念を入れる必要はあるだろう。認識疎外が効いたことを確認し、町に入り、宿に帰る。

 

「すまぬな。一人客が増えるぞ」

「どちらさまで?」

「詮索は無用だ」

 

 懐から数枚の金貨を取り出し、主人に握らせる。ここ数年は盗賊や夜盗を狩ることで路銀を稼いでいるため、今はそれなりに裕福だったりする。この時代は金さえ積めばある程度はどうにかなるので、金のあるうちは大抵のことは気にする必要はない。

 金貨を懐に収め笑みを浮かべる主人に会釈し、二人で部屋に戻る。探索魔法で周囲に魔法の目がないか確認し、カーテンを閉めて物理的な目が来ないよう隠蔽し、対物・魔法障壁を展開。さらに対魔・魔法障壁と咒式干渉結界を重ねることで多少の攻撃なら無効化可能になる。

 少々厳重が過ぎたか? まあ、((我|オレ))の名が知られるのは得策ではない。これくらいなら誤差の範囲だ。

 

「さて、自己紹介がまだであったな。((我|オレ))はアルトリウス。アルトリウス・R・A・ノースライトだ。90年ほど真祖をやっている」

「あ、私はエヴァンジェリン・マクダウェルです。先月真祖にさせられました」

 

 先月か。ならばあのダメージも頷け……ん? エヴァにはアタナシア・キティなんてミドルネームがあったと記憶していたが……いや、((キティ|子猫))はまだしも((アタナシア|不死))などというミドルネームをつけたがる親などいないか。魔女認定されかねん。

 

「させられたとな? 自らなったのではなく」

「はい。私は真祖にさせられました。そして……私を真祖にした女は、私が殺しました」

 

 真祖にさせられた時のことを思い出したか、エヴァの顔が醜く歪み、魔力が荒れ狂う。うむ、やはりすでに殺したか。真祖化すると、自分が人間を外れてしまったことは何となく実感できる。リロイは血液と魔力の不足による喉の渇きに苛まされていたようだが……それがなくば、最初の実感は外れたことであったかもしれんな。

 

 「とりあえず魔力を鎮めよ。この程度ならば障壁は揺らがぬが、正直息苦しい」

 

 現在の((我|オレ))の魔力量は800程度。エヴァの魔力は((我|オレ))の6割強で500程度だろうか。障壁は揺らがずとも、息苦しさは増す一方だ。

 

「ご、ごめんなさい。私、まだ……」

「気にするでない。((我|オレ))の友も、真祖と化してしばらくは荒れていた。エヴァとは違い、自虐だがな」

 

 90年前。曖昧だった自我で行動した結果、リロイは((我|オレ))の姉を――彼の視点から見れば婚約者を――食餌として認識し、吸い殺してしまった。それと彼女の思いは、形こそ違えど同じ絶望だ。

 

「魔法を教える前に言っておく。ミドルネームを考えておけ」

「ミドル、ネーム? 何か意味があるんですか?」

「特に意味はないが、((我|オレ))もエヴァも、これより永遠を生きる。忘れたくない物事。背負わなければならない運命。それを忘れぬために、名に刻み込む」

「私の、背負うべき、運命……」

「((我|オレ))のミドルネームは姉と婚約者の名。それは真祖となった理由」

 

 直接その現場を見たわけではないから、((我|オレ))には強い感情はない。リロイのことは怒りにより覚えていても、二人は忘れてしまいそうだった。今もなお、ダイオラマに二人を納めていようとも。故に、名に刻み込んだ。

 

「それって、絶対に決めなくちゃいけないの? 今すぐに?」

「別にいつでもよい。((我|オレ))は村を出るときに付けたからな」

 

 そして、別につける必要もない。ただ、自分が自分であると認識するための、アイデンティティのようなものだ。

 

「少々出かけてくる。((我|オレ))が戻るまでここから出ぬようにせよ」

「? それじゃ、この宿から出ないね。なるべく早く帰ってきてね」

(素直だな、騙されたばかりだというのに……同族故に裏切らぬと思っているのか、話を聞いてもらって安心しているのか)

 

 まあ、どちらでも構わん。別に裏切る気も捨てる気も、今はない。障壁を維持できるように魔力を可能な限りこめ、音も気配もなく宿を出る……際に、宿の主人に一つ聞いておく。

 

「この近くに、賞金首に関して知ることができる場所はあるか?」

「賞金首? 酒場に行けばそれなりに情報は手に入りますが……」

「酒場か。承知した」

 

 銀貨を一枚はじき、今度こそ宿を出る。さて、確か酒場は……この先だったな。

 

「さて、原作では氷と闇……雷も使えたか。発火を終わらせたら方向はそちらで……っと、ついたな」

 

 さて、エヴァンジェリン・マクダウェル賞金首なのか。賞金首ならいくらなのか。それを確認しなければ、これからに差し支える。

 こういう場合は掲示板を探すべきだな。そこに賞金首の情報や討伐依頼が載っているはずだ。

 

「はいはい、どいてちょうだいな。新しい賞金首の情報だよ、っと」

「ほう、そこか」

 

 羊皮紙を使用している、ということは、それなりに重要度の高いものか。ならば見る価値が――む?

 

賞金首

名称―不明

性別―男

特徴―金髪緑眼・身長180前後・20歳前後

賞金―10万ドル

備考―魔女認定済み(氷・火の2属性の魔法は使える模様)

 

 一部情報に、魔法使いのみ閲覧可能なように特殊な魔法が使用されているな。しかしこれは……おそらく((我|オレ))のことを指しているな。全く不愉快な。しかしこの程度の情報なら、((我|オレ))にたどり着くことは不可能であろうな。さて、エヴァの情報は……これか。

 

賞金首

名称―エヴァンジェリン・マクダウェル

性別―女

特徴―金髪紫眼・身長130前後・10歳前後

賞金―50万ドル

備考―魔女認定済み(((真祖の吸血鬼|ハイ・デイライトウォーカー))だが魔法は使えない様子)

 

 こちらは……似顔絵つきか。真祖であることが賞金額を上げているな。これでは一般人に被害が出て、賞金がつり上がる悪循環になるが……どうせ何も考えていないか、魔法を使えぬ幼いうちであれば一般人でもどうにかなると考えたか……後者であろうな。

 なにせ、魔法使いがいるようには思えなかったあの魔女狩り集団に普通に捕まっていたのだ。そう考える方が普通。

 

「情報はそろったな。そろそろ戻るか」

 

 とりあえず、エヴァに護衛術を教えなければ危険であるということか。まかり間違って人目につけば、それだけで追われることになりかねん。((我|オレ))は自分を守ることはできても、他人を守りきれる自信など無い。

 

「ん? にいちゃん、その手配書の特徴とあってへん?」

「そうなると、貴様もこの手配書の特徴に近いことになるが?」

「ああ〜、それは盲点や」

 

 突然話しかけてきた妙な訛りのある男。適当に見つけた手配書の人物の特徴に似ているため、それをうまく突いてみたのだが。

 

「でもうち、にいちゃんが村壊滅させたとこ見たで?」

「は?」

 

 何を言ってるんだ、と思った瞬間、理解できた。

 こいつが、((我|オレ))を賞金首にしたのか、と。

 

「武器取りな! 10万ドルやで!」

「「「「「うおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

 さて、ここで一つ問題だ。

 現在((我|オレ))は、酒場にいる賞金稼ぎ(おそらく魔法使い込み)に囲まれている。この状況をどのように突破するか。

 1:突如((我|オレ))はこの状況を穏便に収める良い案を思いつく。

 2:エヴァンジェリンが助けに来てくれる。

 3:現実は非情である。

 

(可能であれば1を選びたいところではあるが……無理だな。ここまで煽られた((雑種|バカども))がそう簡単に落ち着くはずもなし。2は、たとえ来ても足手まとい。となると)

 

 つまり答えは決まっている。3:現実は非情である、だ。本当に非情だ。非情に過ぎる。何故ならば。

 ((我|オレ))は、((無能|バカ))な((雑種|クズ))に情など持たぬからな!

 

「((我|オレ))の名はアルトリウス・R・A・ノースライト! 貴様らを殺すものだ! 『魔法の射手改 連弾 光の63矢』!」

 

 ((我|オレ))の背後に、光の礫が姿を現す。英雄王の見た目ならば、どうしてもこれはやりたくなる。次は((天地乖離す開闢の星|エヌマ・エリシュ))に近い魔法でも開発するか?

 

「死ね!」

 

 まあそれは置いておいて、少し遊んでやろう。

 最初は1本。次は2本。その次は4本撃つつもりだ。撃つたびに矢を倍に増やしてゆくこの遊び。回数はたったの6回。耐えて見せろよ?

 

「障壁を張るんや! 高々『魔法の射手』やで!」

「「「「「合点承知!!」」」」」

 

 どうやら魔法使いのみで構成した賞金稼ぎの集団か。面白い。障壁程度で((我|オレ))の『矢』を防ぎきれると思っているのか?

 ((我|オレ))を囲うように、魔法使い共の多重障壁が展開される。なるほど。確かに障壁突破の術式を付与しない『魔法の射手』では、せいぜい1枚か2枚破壊する程度。安全は保障されているな。((我|オレ))の『矢』が、ただの『魔法の射手』なら、な?

 

「馬鹿な。『魔法の射手』が、砕け散らない!?」

「ど、どういうことだ! ありえん、ありえんぞ!」

「まずいですぜ、兄貴! 障壁が突破されます!」

「し、障壁強化! 急ぐんや!」

「無駄だ、無駄。ほれ、4撃目だぞ?」

 

 さらに8本追加。周囲の魔法使いがよけない限り、全て命中するように撃ちこんでいる。このことに、いつ気付くかな? っと、意外と耐えるな。ではさらに16本追加だ。

 

「も、もう駄目だ……!」

「逃げるんだ! 決死か10万か、じゃ割に合わねえ!」

「馬鹿、逃げるな! 今逃げたら……!?」

「残念だな。統制が崩れた時点で、貴様らの負けだ」

 

 さらに32本追加。これで計63本全ての光の矢が障壁に喰らいつき、1枚ずつ砕いていく。

 正気を取り戻した連中が必死に障壁を再構築するが、時すでに遅し。一度ゆるんだ防壁は、そう簡単に再構築できんぞ?

 みるみる内に、ついに彼らを守る最後の障壁となった。どうやら全ての魔力を注いでいるらしく、そう簡単には壊せない。このままでは魔力配給にそぐわぬ結果になりそうではあるな。ならば。

 

「イグネ・ナチュラ・レノヴァトール・インテグラ 地獄の深淵より来たれ 無明の主 灼熱の王 我が望むままに荒れ狂いたまえ 全てを浸蝕し飲み干し焼き尽くし 平穏なるこの世に旧き時代の煉獄を再び生み出さんがために 魂をも焼き焦がす悪意の黒炎を今ここに 『蝕みの焔』」

 

 ((我|オレ))が生み出した、禁忌の魔法を再現する。さて、((我|オレ))が構想した限り、このような状況下では……うむ。

 

「ば、馬鹿な……障壁を超えて来ただとぉ!?」

 

 にやりと笑みがこぼれてくる。((我|オレ))が想定したように、障壁に激突した黒炎は、その闇で((障壁を侵蝕していく|・・・・・・・・・))。気体でない限り、全てを侵蝕し焼き尽くす煉獄の具現。魔法に対しての効果を確認する時間がなかったためぶっつけ本番だが、意外とできるものだな。

 驚きか、恐怖か。障壁維持が放棄された瞬間、結界を飲み込んでいた闇と黒炎は虚空へと散ってゆく。対象が固体か液体でなくなれば消えるのは、想定通り。

 結界を蝕んだ炎が消えて安心する魔法使い共。だが、安心はまだ早いぞ? 黒炎は、まだ足元に生きているのだから。

 

「さらばだ」

 

 魔力配給が生きているか、対象がある限り焼き続ける。それが『蝕みの焔』。次はどれほど離れて魔力配給が続くか実験せねばな。

 影の転移を実行。転移先はエヴァの影。ずぶずぶと沈む間にも、炎はゆっくりと広がっていく。最後の置き土産だ。

 

「<((爆炸吼|アイニ))>」

 

 爆薬、トリニトロトルエンを生成。黒炎に侵蝕された床板を、酒場の出口・魔法使い・適当な床に散らばるように吹き飛ばす。

 直後に訪れる阿鼻叫喚。それを無視して完全に沈みこみ、エヴァの背後に表れる。

 

「エヴァ、逃げるぞ」

「うわっ!? お、驚いた〜。突然現れないでよ。心臓が止まって、寿命が縮むかと思ったわ」

 

 心臓付近を押さえるエヴァ。しかしエヴァよ。心臓が止まった程度では真祖は死なぬぞ?

 

「真祖の寿命は縮まぬがな。それより賞金稼ぎが((我|オレ))とエヴァンジェリンを標的にした」

「ええ!? 二人とも狙われちゃったの!?」

 

 激しくうろたえるエヴァ。それもそうか。((我|オレ))と出会ったのも、捕まっている時だったな。

 

「さらに言えば、二人とも賞金首だ。荷物を((我|オレ))の影に全て放り込め。移動する」

 

 遮音障壁は張っていないため、下から誰かが駆け上がってくる音が聞こえてくる。ふむ、もう嗅ぎつけたか。

 

「訂正する。時間がない。飲み込むぞ」

「え、心の準備ができてないから、ちょっ」

 

 全てを聞かず、問答無用で影に収納する。荷物が残っていないことを確認し、((我|オレ))自身は火で転移。さてはて、平穏に過ごせる時はやってくるのであろうか……

 

 

 後日、真祖であることがばれていたうえ賞金が100万ドルになり、二つ名に((黒死病|ペスト))と同じ語感である『((黒炎の死神|ブラックデス))』の名を冠することとなった。

 案外格好いいな。

説明
エヴァとホテルに帰ってきた。気になることがあったので近くの酒場に向かったのだが、そこで……
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クロスオーバー 魔法先生ネギま! エヴァンジェリン 

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