BORDER BREAK 〜The sky is the limit〜 First Department
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第一話 日常

 

 

 

 

誰かの呼ぶ声が聞こえる、聞き慣れた声だ

、きっとあいつだろう。

しかし、今はこの柔らかい物に包まれているようなうたた寝を大事にしたい、昨日少し夜更かししたのが悪かったのかもしれない。

先程より言葉の節々に棘が出始めた声を聞きながら、そう思った。

 

「うるさいな〜わかってるからほっといてくれよ」

 

どうせ遅刻するから早く起きろだろう、生憎俺の家から学校まで走って5分で着く、一回も立ち止まらず、尚且つ全速力で走らなければいけないが。

不意に声が止んだ、多分諦めたか呆れたのだろう。しかし、当初の目標は達成されたので問題は無い。静かになったのでもう一度寝よう、あと数十分もしたら頭もスッキリしたタイミングで起きれる筈だ。

そう思った矢先、後頭部に硬く細い物が強烈に当たった。数秒間頭を掻きむしり、痛む頭を抑えながら顔を上げた。

 

「いてーな、血が出たらどうすんだよ」

 

顔を上げ、目をこすり、はっきりとしない視界の先に、先程から俺を起こそうとしていた幼馴染の理彩が、1メートル物差しを持って立っていた。

 

「呆れた、何がわかってるからほっといてよ。辺りを見回して自分が置かれた状況をよく考えなさいよ」

 

辺りを見回すと、机や椅子が丁寧に並べられ、窓から綺麗な夕日が差し込む教室だった。

 

「あら?お前遅刻するから起こしてくれたんじゃないの」

 

「それは今朝の話でしょ、もう下校時間よ」

 

寝起きのせいか思考がはっきりしないが取り敢えず何がまずい事をしでかしたらしい。

 

「昼休憩から今の今まで、ずーっと寝てたのよ。先生も呆れて叱らずに帰っちゃったわよ」

 

適当に相槌を打って身体を伸ばした、身体の節々が非常に痛い。居眠りをしたら当然なのだが。

 

「卒業間際に本当気楽ね、単位大丈夫なの?」

 

「その辺は大丈夫、とりあえずギリギリの所で計算してるから」

 

呆れからくるため息と小言を言いながら帰り支度を終えた理彩が教室の出口に向かって有るいて行った。

 

「理彩待ってくれ!」

 

帰る間際にになって俺は異変に気付いた。

教室の扉の前で理彩が振り返った。

 

「どうしたの?」

 

「足が痺れて全く動かないんだ、助けてくれ」

 

今日何度目かわからないため息をついて、理彩は出て行った。

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第二話 帰り道

 

「ねぇレオはどうするの?」

 

なんとか足の痺れを取り、昇降口で待っていた理彩との帰り道。学校であった事について話していたら、突然痛い所をついてきた。進路の話で有る。無いわけでは無いのだが、別にこれと言って目標とする物も無い。

 

 

「たぶん普通の大学行って普通に就職する」

 

理彩は以外と言う顔をして言った。

 

「戦闘機のパイロットにならないの?夢だって言ってたじゃない」

 

こいつならこう言うと思っていたが、困った事に都合の良い言い訳が見つからなかった。

 

「・・・辞めた、俺には性に合わない」

 

俺の父、日本空軍の戦闘機パイロットだった。今は現場を退き、教官として後進の育成に当たっている。

小さい頃から父の話を聞き、自分いつかパイロットになって空へ行くのが夢になっていた。

だがある日、その夢は夢になった。俺の視線は空から地上へ、そして今自分の目の前にある事で精一杯になった。

別にパイロットが嫌いになったのでは無い、勉強がつらい訳でもない。

ただ、辞めたのだそれ以上でもそれ以下でも無い。そう自分に言い聞かせた。

 

「駄目?性に合わないとか、面倒とかそんな理由で諦めたら。夢は夢だから素敵なんじゃない、夢は手を延ばして掴めるから素敵なの」

 

少し目尻に皺を寄せ、小さい子を叱る母親のような口調で理彩が言った。

たまにこいつは人の心が読めるんじゃないかと、不思議に思う事が有る。小さい頃からそうだった、しっかり者で気が利き、自分や他人にも厳しく、そして人一倍思いやりがある。

成績優秀、運動神経も良く、容姿端麗。

そんな絵に描いたような女の子だ、モテない訳がない。たまに友達から『お前羨ましい』と言われる程、幼馴染のおれから見てもレベルが高い女子だ。

 

「ねぇ聞いてるの?」

 

不意に理彩が俺の顔を覗き込んだ。

傷一つ無い整った綺麗な顔立ちに、ナチュラルロングの自然な黒色の髪に夕日が差し、幻想的な一瞬を映し出す。

思わず顔を背け、鼓動が早くなった心臓を落ち着かせる。

 

「わかったわかった、ちゃんと考えるよ」

 

いつからだったろう、たまにこいつを幼馴染として見れなくなる時が有る事に気付いたのは、頭では否定しても心がゆうことを聞かない、そんなわだかまりの中で、無意味な自問自答を繰り返す事が最近増えた気がする。

 

 

「まぁそれなら良いけど。あ!それでねレオ今週末暇?」

 

携帯を開き、カレンダーを確認する。

今週の日曜日の欄は空欄だった。

 

「あぁ暇だけど、なんかあんのか?」

 

「駅前に新しい喫茶店が出来たの一緒に行こうよ」

 

「・・・お前又俺にたかるつもりかよ」

 

「前期の期末テストで補習を受けないようにしてあげたのは誰のお陰?」

 

前後撤回で有る。

こいつに弱味を握られている以上、俺の未来に平和は無い。確かに今までテストの類で平均点を切らないのはこいつのノートと、勉強会のお陰で有る、逆らう訳にもいかなかった。

 

「週末が楽しみー」

 

楽しそうに笑い理彩が俺の前を歩き出した。

俺は財布に羽が生えた気がした。

 

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第三話 終わり

 

 

「そう言えばお前はどうするんだ?やっぱり医大にいくのか」

 

理彩の歩みが止まった。

 

「わからない、お父さんの跡を継ごうとは思わないけどお医者さんにはなりたいし、でもこの街を離れるのは少し寂しいかな・・・」

 

理彩の父親は軍病院の院長を務めていて、俺の父とは高校からの親友だ。

まだ小さい頃、父の非番の日に連れられ家を尋ねた事が有る、第一印象は優しいおじさんと言う感じだった。そしてその横で、そっくりの笑顔をした理彩に会ったのも、この日が初めてだった。

ここ数ヶ月は理彩の家に行く機会が無いので、会って無いが。理彩の話だと、最近色々と多忙で家に帰って来てないと言っていたのを思い出した。

しかし、人に弱い部分を全く見せないこいつが弱音を吐く所を初めて見たかもしれない、正直驚きだった。

 

「あたしね、夢って言う夢が無いの。お医者さんになりたいのも、もしかしたら漠然とそう思ってるだけなのかも」

 

苦笑いを浮かべ、理彩が気まずそうに言った。

こんな時にフォローの一つぐらい入れてやれれば良いのだが、上手く言葉にする事が出来なかった。

 

「ごめんね、レオに色々言ったのに自分が宙ぶらりんだね。でも本当に、レオが羨ましいよ。ただただ目の前に有る事を見て生きてて」

 

「何だよそれ?遠回しに馬鹿っていってるようにしか聞こえないんだけど」

 

言い返そうにも、的を射ているので悔しいかな、なんとも否定出来なかった。

 

「あははは、バレた?」

 

悪戯ぽく笑い上目遣いで理彩が言った。

 

「でもねあたし知ってるよ、レオは目の前に有る物を誰よりも大事にしてるって事を、本当はそれを守るのが一番難しいのに絶対に逃げない、それに自分の大切な人の為に熱くなってどうにかしようとする熱血魂も持ってる」

 

聞いてるこっちが恥ずかしくなるような、セリフを吐かれて思わず顔が熱くなった。

突然理彩の顔が曇り、そして恐る恐る口を開いた。

 

「・・・・もしかしてレオが夢を諦めたのお母さんの」

 

理彩が言い終わらないうちに、口が勝手に声を発した。

 

「違う??」

 

急に大きな声を発したからだろうか、怖い顔をしていたのだろうか、理彩の身体がビクンと震えた。

 

「ごめん・・・」

 

理彩の声で我に返り、つられて俺も謝った。

 

「いや、俺も急に大きな声を出してごめんな、まぁ気にするな。俺は今の生活が好きなんだきっとこの先も、守る価値の有る目の前に有る事なんだ」

 

『お前と一緒に過ごしている今の生活』が、とは言えなかったが嘘は付いてない筈だ。

意味深な顔をして理彩が

 

「素直じゃないんだから」

 

と言った。

まさか今考えていた事も読まれたのだろうか、それだけは絶対に無いと祈りたい。

そうこうしているうちに、いつもの分かれ道に差し掛かった。

 

「じゃあ、あたしこっちだから、ちゃんと明日の朝は起きてよね、今度はフライパンだから」

 

ステンレス製のフライパンはさぞかし硬く取り回しが良いだろう。

 

「わかったわかった、今日は早めに寝るよ」

 

 

いつも通りの別れの挨拶を交わし。

いつも通りの朝のやり取りが有って。

また明日もいつも通りの別れの挨拶を交わす。

 

誰かが言った『不変とはつまらない物で有る』、確かにそうかもしれない。

でも俺は知っている、変わらない物を決して変えないで守る事が、どんだけ難しいか。それが大切な物なら尚更で有る。

でもいつか、変わる時が来るかもしれない。その時せめて大切な人だけは笑顔でいれるよう、俺は今を守るんだ。

 

だから自然と脚が動いた、理彩の後ろから迫るトラックを見た時。

理彩の両肩を掴むと車線上から突き飛ばした、自分の事は一切考えて無かったのがミスだった。トラックから身を守るように、手を顔の前でクロスした直後。全身に強烈な衝撃が走り、俺は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

目を開ける。

身体の節々や腹の中に激痛が走る、居眠りから覚めた時とは比べ物にならない、おまけに息をする度に口から何か吐瀉して、溺れそうになる。

仰向けなのだろう夕焼けで真っ赤に、それでいて若干黒ずんだ空が見える。若干、赤過ぎる気もするが。

だんだんと痛みが引き眠くなってきた、目を開けようにも瞼が重たくて中々目を開けれない。思考もまとまらなくなってきた、何か頭にフィルターの様な靄が掛かっている。三半規管もおかしくなったのだろう、酷く耳鳴りがする。

耳鳴りの中で微かに誰かの声が聞こえる。

誰がなんと言っているのかはわからないが、名前を呼ばれた気がする。誰の名前かはわからないが、おそらく同じ名前をずっと呼んでいるように聞こえる。

何時の間にか視界も真っ暗になって、意識が薄れて行く。顔に水が落ちてきた、雨が降ってきたらしい。でも雨にしては少なすぎて、暖かった。

顔に掛かる水の正体を考えている中で、俺は暗闇に意識を飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

後書き

 

登場人物紹介

 

津守レオ

今作品の主人公18歳

パイロットの父を持ち自分もパイロットを目指すが、有る事件をきっかけで断念。

以後は自分の目の前に有る事と大切な人を守る事にこだわる。元々熱い心の持ち主だが普段はなりを潜めている。

趣味はゲームでどのジャンルもソコソコの腕前を持つ。

 

 

柏木理彩

レオの幼馴染18歳

幼い頃からレオの姉役を買って出て色々と世話を焼いている。

非の打ち所が無い美人なのだが本人に自覚は無い。

完璧な人間に見られがちだが、実は非常に繊細な心の持ち主で自分の弱い部分を人に見せない様気丈に振る舞う。

趣味は料理と読者。

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第四話 覚醒

 

 

誰かの呼ぶ声が聞こえる、聞き慣れた声だ

、きっとあいつだろう。

しかし、今はこの柔らかい物に包まれているようなうたた寝を大事にしたい。昨日少し夜更かししたのが悪かったのかもしれない。

 

「うるさいな〜わかってるからほっといてくれよ」

 

どうせ遅刻するから早く起きろだろう。生憎俺の家から学校まで走って5分で着く。一回も立ち止まらず、尚且つ全速力で走らなければいけないが。

もう一度寝よう、あと数十分もしたら頭もスッキリしたタイミングで起きれる筈だ。

 

 

 

 

何かがおかしかった、いつもなら間髪いれず強烈な衝撃が頭を襲う筈だ、それがいつまで待っても無い。

不振に思い目を開けた、しかし視界に霞がかかりはっきりとしない。

背伸びをしようとして手を伸ばしたら何か透明の壁に遮られた、どうやらカプセルのような物に入っているらしい。

だんだんと自分の置かれている状況がおかしい物だと気付いてくると同時に視界も鮮明になってきた。

目の前に有る透明の壁をとりあえず押し込んでみた、金具が壊れる様な音がして以外とすんなり開いた。

カプセルの縁を掴み身体を起こそうとするが思いのほか力が入らない 、何とか身体を持ち上げ、ずり落ちる様にカプセルから抜け出し床に落ちた。

以外にも高さが有ったらしく、床にぶつけた箇所に鈍く痛みが走る。痛みを堪えなんとか仰向けになり辺りを見回すと。金属が剥き出しになった壁に取り付けられた折り畳みの椅子が並び、足元の先には何やらコックピットの様な物が見える。

この風景は父の職場で見た輸送機の中に良く似ている。

一通り辺りを見回し、冷たい鉄の床の感触で自分が一糸まとわぬ姿なのに気付いた。

何か着るものを探そうと立ち上がろうとするが、足に力が入らず這うようにしか動けなかった。

何とか這って進むがすぐに息が切れその場から動けなくなった、口の中が異常に乾燥し思わず咳き込む、疲労感が襲い睡魔が押し寄せてきた。

頭の中では目まぐるしく色んな考えが飛び交い考えがまとまらない、ただひとつはっきりとしているのは何もかも訳が分からないだった。

自分の置かれている状況、この場所、そして目の前に有る足。

視線を上げるとレンジャーグリーンのジャンプスーツに身を包み、救命胴衣を着て、ヘルメットを被った隊員が座席に腰掛けていた。

声を出して助けを求めようとするが唸る様な音しか出なかった、手を伸ばして隊員の足に触れると糸が切れた様に座席から崩れ落ち床に散らばった。頭ごとヘルメットが転がり、白く肉の無い無表情の顔を見て俺は顔を背けた、不思議と驚きは無かった。

 

身体の力が抜けていくと同時に意識も段々と抜けていった。突然足元から頭にかけて空気が流れていった。金属を打ち付ける様に足音が鳴り俺の傍に立つと音が止まった。

荒々しく引っ繰り返され仰向けにされると、バンダナを巻いて頭にゴーグルをかけた女の子の顔が間近に有った。

ペンライトで顔を照らされ、指で瞼を押し上げられ目の中も照らされた。

 

脈を取られ、口の中に指を突っ込まれ、しっちゃかめっちゃかに身体を調べられた後、女の子は立ち上がり明後日の方向を向いて誰かを呼んだ。

 

「ゴードン?生きてる人が居るよ!」

 

何処か遠くで声が聞こえ早足で重たい足音が近付き、俺の傍でしゃがみ込んだ。

 

「おいお前、大丈夫か?」

 

引き締まった傷だらけの顔の男が俺の顔を覗き込む、険しい顔つきだが何処か心配してくれてる雰囲気が伝わった。

 

「チェスカ、車を回せこいつを村へ連れて帰るぞ」

 

チェスカと呼ばれた女のコは首を縦に振り俺から遠ざかって行った。

俺は男に担がれこの場を後にした、そこから何処かに寝かされた後心地よい振動を体に感じながら、ゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第五話 未来

 

 

どのぐらい眠っていたのだろう、額に冷たい何かが当たり目が覚めた。ゆっくりと目を開けると先程の機内では無く、コンクリートの天井と、低く鈍い音をたてながら部屋を照らす蛍光灯が見えた。

どうやらパイプベッドのような物に、寝かされているらしい。顔を横に向けると、タライと水差しが乗ったサイドテーブルと、その傍にタンクトップの胸部に装甲を施した服を着て、腰回りに工具を吊るし、短パンを履いた女の子がパイプ椅子に腰掛けていた。

 

「目が覚めた?丸三日寝てたから心配したんだよ。お水飲む?」

 

女の子はコップに水を入れて、差し出してくれた。受取ったコップの水を、一気に流し込んだ。乾燥していた喉が潤い、思わず咽せた。

 

「ちょっと待っててね、今人を呼んでくるから。あ、それとまだ横になっていた方が良いよ」

 

そう言うと女の子は立ち上がり、部屋を出て行った。コップをサイドテーブルに置き、再びベッドに横になった。

頭の中がはっきりしてくると、自分の置かれている状況の整理を始めた。

トラックに跳ねられ、気付いたら輸送機の機内に裸で居た。

どんなに考えても納得出来る答えは出ず、何れもこじ付けや、無理矢理な内容だった。

何とか答えをまとめようと試行錯誤を繰り返していると、扉が開き顔に傷を負った屈強な男が部屋に入ってきた。

男は、はち切れんばかりの胸筋をオリーブドラブのTシャツで閉じ込め、下はウッドランド迷彩のカーゴパンツとラフな格好だった。

ゆっくりとベッドに近付き、傍のパイプ椅子に腰掛けると口を開いた。

 

「気分はどうだ?」

 

 

「・・・三日前よりはだいぶ良い気がします」

 

男はフンと鼻を鳴らすと、コップに水を注いだ。

 

「自己紹介がまだだったな俺の名前はゴードン、トーマス・ゴードンだ」

 

そう言って差し出された手は非常に大きく、自分の手のサイズが幼い子供のように思えた。

 

「津守レオです、助けてくださってありがとうございました」

 

手を握り返す、ゴツゴツした手に力が入った。

 

「礼ならチェスカにしてやってくれ、あいつがお前を見つけたんだからな。ついさっきまでお前の面倒を見てくれていたやつの事だ」

 

そう言えばあの女の子に、見覚えも無くは無かった気がする。

 

「さて、起きたばかりで悪いんだが色々と質問に答えて欲しい」

 

ゴードンと名乗った男は手を前で組み、前屈みになって尋問のような事を始めた。

俺は自然と疑問になっていた事が、口から出た。

 

「あの・・・此所は何処なんですか?それに俺は何処に居たんですか?」

 

「質問は俺の質問に答えてから聞こう。良いな?」

 

ゴードンは諭す様に言った、取り敢えず相手が納得するまではこっちの質問には答えてくれないだろう。何しろこっちにはわからない事が多すぎた。

 

 

「その沈黙はYesと取っていいな?よし、じゃあ質問だ。何故所属不明の輸送機に居た?」

 

「わかりません、交通事故に有ってそっから記憶が無くて。気付いたら輸送機の中のカプセルに入ってました」

 

一瞬だけゴードンの視線が、鋭くなった様な気がした。

 

「分かった、次の質問だ。お前は何者だ?詳しく自分の身元を話してもらおうか」

 

俺は自分の年齢、生年月日、国籍、住所、職業、家族の名前まで洗いざらい喋った。

最初は普通に話しを聞いていたゴードンも、後半になるに連れて少し落ち着きが無くなってきた。

 

「だいたい分かった、今度はお前の質問に答えよう」

 

俺は先程と同じ質問を、ゴードンに問い掛けた。

 

「此所は何処なんですか?」

 

「此所はカビース村だ」

 

知っている限り、日本の地名では無い気がした。

「えーっと・・・・・そうだ今日は何月何日ですが?」

 

正直頭が混乱していて、質問が出てこなかった。

 

「R.E.049.03.11だ」

 

R.E?全く聞いた事の無い言葉だった。

何かの頭文字と言う事しか、想像がつかなかった。

 

「R.Eって何ですか?」

 

ゴードンは目を閉じ、暫くの沈黙の後ゆっくりと口を開いた。

 

「R.EとはRevive Era、復興暦の事だ。非常に残念なんだがお前の生まれた西暦はもう49年前に終わっている。この意味が判るな?」

 

背中を冷たいものが走り、頭が真っ白になり。

足元から奈落へ崩れ落ちて行く気がした。

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第六話 混乱

 

 

 

部屋を出ると、扉の横で壁に背中を預けたチェスカが立って居た。

 

「どう?何か分かった?」

 

「奴が嘘を付いてる雰囲気は無かったがとても信じれる話しじゃ無かったな」

 

チェスカと廊下を歩きながら、先程のレオとの会話を話した。チェスカは黙って最後まで聞いていた。

 

「確かにとても本当の話とは思えないね、だって彼の話が本当ならゴードンより年上のお爺ちゃんだよ」

 

クスクスとチェスカが笑ながら楽しそうに話した。

 

「茶化すな、しかし奴もショックが大きいのだろう。少しそっとしといてやろう」

 

ベッドの上で俯き、魂が抜けたようなあいつの事を思い出した。

 

「で、これからどうするの?このままほっとくつもりじゃ無いんでしょ」

 

確かにこのまま放置しておくのも気が進まなかったが、具体的な解決方法は皆無に等しかった。

 

「取り敢えずマグメルに連れて行ったら?今の状況よりかは何かしら進展が有るかもしれないし」

 

打開策としてチェスカが提案した事は現状では一番の良策ではあったが、一番の苦肉の策でもあった。

 

「奴をボーダーにするのか?戦う事も知ら無い学生だった奴だぞ。其れにニュードに耐性が有るかも分らん」

 

「其れは、試験を受けて検査を受けなきゃ分からないけど。でも今彼にはこれ以上の解決策が有るとは思わ無いけど?仮にボーダーになればお金も溜まるし情報も手に入りやすい、上手い具合にトップランカーになれば重要機密に触れる機会が有るかもしれない」

 

正直、18そこらの子供に戦いを押し付けるのは残酷な話だ。其れに奴の話が本当なら、全く関係ない未来の戦いに巻き込む事になる。

即決はしかねた。

 

「ゴードンだって彼と同じぐらいにボーダーになったじゃない。彼だって覚悟を決めなきゃいけないのよ、其れにこれ以上は手助けしようがないわ」

 

昔の自分はどうだっただろう。

テストパイロットとしてブラストに乗りその後傭兵として戦場に出た。

あの時の俺には戦う為の理由や糧が有った、守らなければならない仲間が有った。

この世界に一人ぼっちの奴に、そんな物が有るとは思えない。

ましてや生きる為に戦うのは虚しく、切なく、苦しい茨の道だ。

そんな世界に奴を送り出さなければならないのは、酷な話しだとおもった。

 

「今はゆっくりとかんがえる時間をやろう、奴が自分で答えを出すなら其れが一番良い」

 

今現時点俺が出せる、答えの限界だった。

 

「そうね、まずは彼の答えを聞いてからでも遅くは無いかもね。でもきっと彼はボーダーになるよ、其れしか彼には道が無いから」

 

そう言うとチェスカは立ち去って行った。

俺はチェスカを見送ると窓に近付き、沈む夕日を眺めた。

 

「道が無いからか・・・・」

 

その道に必ずしも答えが有るとは限らない、

其れでも奴は選ばなければいけないのだろうか。

いや選べるだけの選択技は有るのだろうか。

 

夕日が沈み、暗闇が世界を覆う様は、まるで奴のこれからを暗示するかのようだった。

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第七話 非現実

 

頭が真っ白になった。

ある日突然未来にタイムスリップして、その世界はロボットを使った戦争中と言うゲームの様な、非現実な話しだった。

 

ゴードンさんから聞いた話によれば。

俺が交通事故に有ってから数十年後。地球の資源が枯渇し事態を重く見た人類は、エネルギー危機解決の為に政府や各企業が出資し。

国際研究機関、Global Resource Federation、通称GRFが設立された。

GRFは衛星軌道上に巨大研究施設エイオースを建造、太陽系全域を対象とした新資源探索プロジェクト、ソテル計画を発動。エイオースから無人探査機を飛ばして資源の捜索に当たった。

十数年後一つの無人探査機が持ち帰ったサンプルの中から、緑色に輝く不可解な物質が発見された。外部から刺激を与えると熱放出し、容易に形態を変化させ、他の物質と融合して増殖するこの物質は。

New-Dynamics、通称ニュードと名付けられ資源枯渇の打開策として脚光を浴びた。

GRFはニュードの研究を重ね、ニュードドライブを発明し一定の成果を上げ研究は軌道にのっていたかに思われた。

しかし、ある日突然エイオースで原因不明の爆発が起こり、施設に貯蔵していたニュードが地球へ降り注ぐ結果になった。

ニュードはその融合の対象が無機物だけでなく有機物を含み、人体に多大な悪影響を及ぼす毒性を持った極めて危険な物質でもあり、耐性を持たないものが接触したり、粒子の漂う汚染地域に入っただけでも、やがて死に至る極めて危険な一面を持った物質でもあった。

当初GRFはニュードの毒性について情報公開をせず結果、ニュードが降り注いた地域では大勢の人々が汚染によって死亡、地球全体をパニックにする事態を招いた。

そしてこれ以降地球の環境下改善を願い西暦から、Revive Era、復興暦に暦を改めた。

R.E.13年、環境保護とニュードの平和利用、及びGRFの解体を目論む。

Environment Union against Space Threat、通称EUSTが設立、ニュード汚染の完全除去運動とエイオース爆発についてのGRFへの責任問題を追及し次第に力をつけていった。

GRF、EUST共にブラストウォーカーと呼ばれる採掘機械でニュードの採掘を行っていた。

GRFとEUSTの武力闘争を激化させる一因となった出来事。コンスタンツァにて展開されたEUST系列のデモ隊に対し、GRFは武装したブラスト・ウォーカー隊による鎮圧を試みた。小さな小競り合いは大規模な戦闘に発展し、武装したブラストウォーカーに手も足も出なかったデモ隊は全滅、コンスタンツァの虐殺として世界に激震が走った。

この事件をきっかけにGRFとEUSTの全面戦争に発展、各地で大規模な戦闘を繰り広げた。

 

R.E.35年、かつてGRFが開発したニュードドライブを利用した人型兵器、ブラストランナーが誕生。最初のモデル、クーガーI型が戦場に投下された。

クーガーI型をリリースしたTSUMOIインダストリ社に続いて、エアロン・エアハート社、ベンノ社といった企業がブラストの製造に名乗りを上げるとともに、戦況もしだいに激化の一途を辿った。GRF、EUSTの抗争は「ニュード採掘施設の奪い合い」にあり、両者はブラストを操縦できる人材を確保すべく、傭兵たちに対して多くの報酬を用意する動きが出てきた。

R.E.38年には、両者に傭兵を供給し、傭兵たちの活動を支援する民間軍事会社「マグメル」が設立された。かくしてマグメルに登録したボーダー同士による代理戦争が始まった。

 

これが現在に至るまでの大体の世界情勢で有り、今現在の世界の常識だった。

 

事故に有ってから単純計算でも50年は経過しており、50年間で世界の変わりように驚きを隠せなかった。戦争にロボットを使うなんて、50年前には考えられない話しだった。

其れが今では、ロボット同士が入り乱れて戦うのが普通なのだから。

 

変わりすぎた、世界も、自分も。

これから先どうしようなど、検討も付かなかった。

ベッドの中で脚を抱え丸くなる。

俺が事故に有った後、父はどうしたのだろう?理沙は無事だったのだろうか?

様々な事が頭を駆け巡った、考えて、考えて、考えて、結局なに一つ答えに行き着く事は無かった。

不意にお腹が鳴った、そう言えば何十年も食事をしてない事になる、お腹が鳴っても不思議では無い。

食欲は無かったが、何も食べないのも身体に良く無いかもしれない。

検査衣のような服を脱ぎ、ゴードンさんが置いていった服に着替える、ブーツを履き立ち上がると部屋から出た。

窓の外はポツポツと光の点が見えるだけで外は殆ど暗闇だった。

廊下を歩きながら、チェスカとゴードンさんの姿を探した。

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第八話 選択

 

 

 

廊下を少し歩くと、懐かしい良い匂いが辺りに立ち込めた。匂いの有りかを探して歩き回ると、食堂の様な場所に出た。

そこでは中東系の民俗衣装のようなガラベーヤを着た人達が所狭しと座り、食事を取っていた。

 

辺りを見回していると、先程の女の子が手招きしているのに気付いた。

手を上げて応えて近付くと、机を挟んだ向かいにゴードンさんが座って食事を取っていた。

女の子の進めるままに隣に腰掛けると、カウンターからトレイに乗った食事を持って来てくれた。

食事の内容は見たところ軍用食のような雰囲気だったが、香りは食欲をそそる物だった。

料理をスプーンですくい口に運ぶと、身体に味が染み渡り、思わず涙がこぼれ落ちそうだった。

 

「久々の食事がレトルトの軍用食でゴメンね、本当はもう少し良い物を食べさせて上げたかったんだけど、今はこれしか無くて」

 

女の子が舌を出しバツが悪そうに笑った。

 

「いや、助けてもらって食事まで用意して貰えて、本当にありがとうございます。あ、自己紹介がまだでしたね、津守レオです、よろしくお願いします」

 

スプーンを置き、手を差し出すと女の子は笑顔で手を取り、話しかけた。

 

「チェスカ・フローラだよ、よろしくねレオ君、あと敬語じゃなくて良いよ」

 

チェスカと言った女の子は、屈託の無い笑顔で手を握り言った。三つ編みにされた赤毛のツインテールが良く似合っていた。

 

「さぁ、冷める前に食べちゃって。話しは其れからにしようよ」

 

チェスカの提案で食事が再開された。

特に会話は無かったが、久々の食事は楽しかった。

食事が終わり、チェスカが持って来たお茶で一息付いていた時、ゴードンさんが口を開いた。

 

「で、お前はこれからどうするんだ?」

 

答えれなかった、正直今ですら完全に状況を飲み込めていない。

明確な解決法に基づき、目指すべき目標など皆無に等しかった。

 

チェスカがゴードンさんに目配せすると、ゴードンさんがため息を付き言った。

 

「お前が倒れていた輸送機は、今から約40年ぐらい前に突然空から降ってきたらしい、この村の長老が証言してくれた。機内の機器はチェスカが修理を試みたが、不可能だった」

 

視線を横のチェスカに向けた、チェスカは顔の前で合掌すると、申し訳なさそうに言った。

 

「ゴメンね、なんとか修理をしてみたんだけど、なんせ復興暦以前に製造された機械だったから部品も足りなくて、代用が効かなかったのよ」

 

「いえ、見ず知らずの俺の為にそこまでして頂いて恐縮です」

 

椅子に座ったまま頭を下げる。

 

「話しを戻そう、現時点ではこれが限界だ、情報量が少な過ぎる。そこで提案なんだが、マグメルに登録しないか?」

 

マグメル、それは今現在の戦争を肩代わりして、傭兵を斡旋しているPMC。

 

「傭兵になって戦えって言うんですか」

 

心拍数が上がり、無性に喉が乾く、冷や汗も背中を伝う。

 

「情報を得る為には資金や地位、時には信頼だって必要だ。手っ取り早くこの三つを手に入れるなら、マグメルに登録して戦うのが一番早い。お前だって理解出来ん訳では無かろう」

 

心臓が早鐘を打っている、気分も悪い。

傭兵になって戦うと言う事は人を傷付ける事だ。

確かに、仮にこのまま地道に情報を漁っていっても、たかがしれている。話しを聞く限り、この世界で戦う事は全てだ。戦って有名になれば其れだけ世界の深い部分に触れる機会が、有るかもしれない。

しかし、そこまでして自分は答えが欲しいのか?生きる希望が欲しいのか?

人を傷付け、時には殺してまで、生きて行く必要や価値は有るのか?

様々な考えが頭を駆け巡り、声が出なかった。

 

「甘い?そんな事では生き残れんぞ?」

 

突然ゴードンさんが大きな声を出した。

騒がしかった食堂が静寂に包まれ、視線がゴードンさんに集まる。

 

「確かに平和な世界で生きていたお前には酷な話しかもしれん、だが、これが今お前が生きている世界の常識なんだ。生きる為には汚い事を平気でやってのける連中が大勢居る、中途半端な気持ちでこの世界に入るなら、構わん今すぐ諦めてとっとと何処かで静かに暮らせ」

 

雷に打たれた様に動けなくなり、何も言えなくなった。

 

「ちょっとゴードン?いくら何でも言い過ぎよ。レオ君にも考える時間をあげないと」

 

チェスカが立ち上がり、語尾を強めて言った。

 

「黙っていろチェスカ?今のこいつはきっと流されるままに傭兵になって、きっと後悔する。今諦めるなら、キッパリと諦めた方がこいつの為にもなる」

 

チェスカは何か言いたげだったが、言葉をぐっと飲み込んで、そっぽを向いて座ってしまった。

俺は何も言えなかった、まさに図星だった。

きっと何だかんだ言って、傭兵になっていたと思う。どう足掻いても、其れしか有効な解決策が見つからなかった。

でも俺自身決断する事が出来なかった、目標も戦う為の明確な理由も、おれには無かった。

 

静まり返っていた食堂も、いつしか先程の喧騒に戻っていた。

俺は冷めたお茶の表面を見つめながら、何も言えない時間がただ過ぎて行った。

-9ページ-

 

第九話 決意

 

 

 

 

結局なに一つ決められないまま話し合いは終了して、いまは自室に戻り横になっていた。

 

「傭兵か ・・・・・」

 

布団の中で思わず呟いた。

何で目が覚めたのだろうか、どうしてこの時代なのか、考える全ての事がネガティブな物だった。

 

「理沙 ・・・・・」

 

あいつはどう生きたのだろう、幸せだったのだろうか。もうこの時代には生きている筈も無いが、会いたかった。

もし今度、目が覚めた時あいつが隣で立っていて、前みたいに叩き起こしてくれたらどんなに幸せだろう。叶う筈も無い夢を思いながら、目を閉じた。

 

「でもねあたし知ってるよ、レオは目の前に有る物を誰よりも大事にしてるって事を、本当はそれを守るのが一番難しいのに絶対に逃げない、それに自分の大切な人の為に熱くなってどうにかしようとする熱血魂も持ってる」

 

不意に理沙の言葉が頭を過ぎった。

その時俺の中で忘れていた、大切な物を思い出した。

 

「そうだ、決めたんだ、自分の目の前に有る事を守るって」

 

事故に有った時、薄れていく意識の中で僅かに感じたあの暖かい水は、理沙の涙だ。

変わらない物を決して変えないで守る、でもいつか変わる時、せめて大切な人には笑顔で

いて欲しい。

単純な事だった、其れだけの事なのに、俺は守れなかった。

 

「帰るんだあの頃に」

 

あくまで推測だが、ロボットだって有る時代だ、もしかしたらタイムマシンの一つや二つ有るかもしれない。

推測する可能性はゼロじゃない、だから動くんだ。

ただ目の前に有る事を守ると、決めたんだから。

 

明日になったらゴードンさんに話して、傭兵になる為の手続き取ってもらおう。

そして、何とかして情報を集めるんだ。

 

そう胸に決めると、気分も楽になり、睡魔が押し寄せてきた。

まどろむ意識の中で一瞬、理沙の笑顔が頭にうかんだ。

後書き

 

新規登場人物紹介

トーマス・ゴードン

ニュード汚染耐性保持者41歳、18歳の時GRFの職業訓練学校からブラスト部隊に引き抜かれるが、上司に反発し除隊。

その後は企業のテストパイロット等をこなしながら経験を積み傭兵へ、一時は幹部候補にまでなったが、有る事件をきっかけに傭兵を辞め放浪の旅に出る。

その後ジャンク屋のチェスカに出会い以後行動をともにする。

趣味はベンチプレスとギター

 

チェスカ・フローラ

後天性ニュード汚染耐性保持者18歳

幼い頃からジャンク品の解体や修理を手掛ける。12歳の時に誤ってニュードに触れて瀕死の重症を受けるが、奇跡的に回復しニュードに耐性を得る。

メカニックとしての腕は一流で、彼女がチューニングしたブラストは一級品と言われるほど。

たまたま旅をしていたゴードンと出会い、以後行動を共にする。行く先々で、機械の修理を手掛ける移動商店を営業中。

趣味は機械いじりとバスケ

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第十話 試験

 

 

カビース村を出て数週間、ゴードンさんが運転するジープに揺られて、マグメルの中東支部を目指す。

 

あの後、ゴードンさんにお願いして、マグメルの中東支部に連れて行ってもらう約束を取り付けた。ゴードンさんは何も聞かずただ「分かった」と一言だけ言って承諾してくれた。

 

「レオ君〜、アレがマグメルの中東支部だよ」

 

助手席に座っていたチェスカが、サングラスをずらして前を指差した。ジープの後部座席の窓から顔を出して前を見ると、空港にビルを突き刺したような建物が建っており、空港からは絶えず輸送機が飛びたっていた。

広大な敷地内に入り、駐車場にジープを止めて空港の中に入ると、そこは広く開放的なロビーだった。今まで行ったどの空港より広く、辺りを見回しながら二人の後ろから付いて行った。

 

受付で試験の手続きを終わらせると、受験票を渡され係りの人に案内されるまま受験会場に向かった。

二人は試験が終わっても色々と手続きがまだ有るので、待っていてくれるとの事だった。

二人の声援を受け受験会場に入ると、様々な柄の迷彩服を着た人達と制服を着た人達が椅子に腰掛け机に向かっていた。

自分も空いている席に腰掛け、しばらく待っていると。綺麗な金髪で、胸の谷間を強調した制服を着た美女が入ってきた。

受験生達がざわめく中、女性は透き通る様な声で話し始めた。

 

「皆さん初めまして、システムオペレーターのフィオナです。今回は我が社のボーダー選抜試験へ、ようこそおいで下さいました。これより筆記試験を開始致します、尚これ以後は私語は厳禁です、カンニング行為が発覚した際は、それ相応の罰があると言う事を肝に命じて置いて下さい」

 

諸注意が終わると、別の試験官が問題用紙を配り始め、全員に配り渡ると試験が開始された。

内容は世界情勢と一般教養だった。

世界情勢については前もって二人から聞いていたので問題は無く、一般教養についても其れ程難しい問題は無かった。

試験は一時間程で終了し、直ぐに採点にかけられ合格者が発表された。

無事合格だったが、現段階で受験生の半分近くが落第し、部屋から出て行った。

 

合格者は次の部屋に案内され、上着を脱がされると、身体検査を受けさせられた。

心電図とレントゲンの様な物を取り、最後に医師との面接が有った。

待合室で待っていると受験番号を呼ばれ、診察室にはいると眼鏡を掛け、ボサボサの髪をした男性がカルテを持って座っていた。

 

「津守レオ君だね、座って」

 

言われるがままに椅子に座ると、医師は暫くカルテと俺の顔を交互に見ていた。

 

「あの〜何か問題でも有るんでしょうか」

 

痺れを切らし、恐る恐る聞いて見た。

 

「いや、問題は無い。問題は無いが・・・・君は実に面白い身体をしているね」

 

医師の口角が上がり、眼鏡の奥が一瞬光った。

身の危険を感じ医師と少し距離を取る。

 

「驚かせてしまってすまない、私はマグメルの顧問医師のDr.レインだ、よろしく」

 

握手を求められたので、仕方なく応じた。内心まだこの医師に対して、警戒は解けなかった。

 

「君の検査結果だが、問題は無かろう。ゴードン君も中々の人材を見つけてきたものだ」

 

レイン医師との会話で、見知った共通の知り合いが出て来て驚いた。

 

「ゴードンさんを御存知なんですか」

 

「あぁ、彼は元マグメルの特殊部隊を率いたボーダーだ」

 

初耳だった、この数週間二人からそんな話しは一切聞かなかった。

何となく只者では無いと思っていたが、まさか特殊部隊の隊長とは思ってもみなく、そんな人物に推薦されていたと知った途端、胃が少し縮み上がった。

 

レイン医師にお礼を言い診察室を出ると、医師からの合格を貰った受験生は次の実技試験の会場に向った。

 

 

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第十一話 適性

 

案内された場所はロッカールームだった。

受験番号の書かれたロッカーを開けると、緑色をした至る所に装甲を施したウェットスーツが一枚掛かっていた。

係員の指示でその服に着替える事になった。

服は一見着にくそうに思われたが、以外にもすんなりと着替える事が出来、動きもそこまで制限される事はなく、ストレスは全く感じなかった。

 

全員着替え終わり、次に案内された場所は拾いドーム上の空間に、フライトシュミレーターのような箱型の筐体が並んだ場所だった。

筐体の前に灰色の作業着を着た人達が並んで待っていた。

最初に比べると、だいぶ人数の減った受験生達が整列させられると、目の前の作業着を着た一団の一人が一歩前に出た。

 

「受験生の諸君、これより実技試験を行う、試験内容は至って簡単だ。このシュミレータに座って居るだけで良い」

 

実技試験と聞いていたので走力テストや、障害物走等を想像していたが、拍子抜けな内容で、肩透かしを食らった。

 

「諸君達が今着ているバトルスーツは、対衝撃緩和機能だけで無く、生命維持機能や、各機器類との相互リンク等も兼ね揃えた優れ物で有る。合格した暁には機体同様に、大切に扱って貰いたい」

 

説明を聞く限り、正直この服一枚でどれだけの技術が詰まって居るか想像も出来なかった。案外車一台分ぐらいの、価値が有るかもしれない。

 

「其れでは、番号を呼ばれた順番に奥からシュミレーターに搭乗し待機せよ」

 

最初の一団がシュミレーターの中に搭乗すると、シュミレーターが想像を絶するスピードで動き始めた。搭乗待ちの他の受験生も、空いた口が塞がらない様子だった。

シュミレーターが止まり、降機した受験生は皆足下がおぼつかなかったり、トイレに駆け込んだり、最悪の場合、気絶して居る者もいた。

全員が無事にシュミレーターを降りる事は無く、搭乗待ちの受験生の顔は皆青白く、まるで処刑台に立った死刑囚の様だった。

 

「今回の受験生は根性が足りんな、次最後の組だ。根性を見せろ」

 

遂に俺の番が来た、ここまで来たら腹を括ってせめてシュミレーターが止まるまで、意識を保つ事に集中するだけだった。

シュミレーターの中に入ると、アニメやゲームで見た事の有るコックピットそのままだった、シートに腰掛けベルトを締めると座席の左右に有るレバーを掴んだ。

左のレバーは、人差し指と中指の部分にトリガーが有り、親指部分にはアナログステックとその横にボタンが一つ付いていた。

右のレバーは、レバーと言うよりもマウスだった。一つ普通のマウスと違うのは親指が当たる部分にもスイッチが有る事だった。

まぁこんなマウスも有るかもしれない。

 

「其れでは試験を開始する、気を引き締めろ」

 

試験官の合図と共に、目の前のスクリーンが何処かの機内に変わった。

小気味好い振動と共に目の前のゲートが開くと、そこは広大な空だった。

信号がオールグリーンになるとカタパルトオフィサーが発射手信号を出した。

その瞬間画面の景色が飛ぶ様に後ろに行き、青い空が画面一杯に広がった。

 

「レオ、当たり前かもしれないが空には限界が無いんだ」

 

昔、父がパイロットだった頃、幼い俺を膝に乗せてよくこの言葉を呟いていたのを思い出した。今でもこの意味は良くわからない。

空に放り出された途端落下が始まった。

思ってたより揺れもひどく無く、昔乗ったジェットコースターの方が何倍も酷かったと思った。

地面が迫ると急に速度が弱まり、足下から頭にかけて重力の移動があった。地面に降りると、今度は景色が高速で変わっていった。

揺れや振動も体感的には、車に乗っているのとさほど変わらず。小気味好い振動が睡魔を運んできた。

頭が垂れかかって来た時、ブザー音と共にシュミレーションが終了した。軽く身体を伸ばしてシュミレーターから降りると集合場所に戻った。

全組が終了し、合格者が発表されると、現時点で最初の受験生の五分の一しか、残って無かった。

試験官が全員の結果を見ていた時、突然名前を呼ばれた。

 

「津守レオ、前に出ろ」

 

居眠りをしそうになっていたのがバレたのだろうか、ただならぬ予感を感じながら前に出た。

 

「お前ブラストに乗った経験は?」

 

居眠りの事を咎められるのではと、思っていた俺は想定外の質問に驚きながらも、試験官の質問に答えた。

 

「いいえ、有りませんが」

 

試験官が眉を潜めてもう一度テスト結果を見て言った。

 

「吐き気や、身体の調子は?」

 

さっきからこの試験官は何が気になっているのか、さっぱり分からなかった。

 

「吐き気は有りません、身体の調子も至って普通です」

 

受験生の中からざわめきが起こった、別に嘘は言って無かった。

 

「脳波、心拍、共に正常。睡眠の兆候もみられる程リラックスしている」

 

受験生のざわめきがより一層強まり、背中に好奇や、嫉妬等、様々な視線が突き刺さった。

 

「素晴らしい、お前の成績は歴代最高だ、適性に関しても全く問題ない。最終試験に合格してこれからの活躍に期待するぞ。其れでは合格者の諸君には最終試験を受けてもらう、試験開始は30分後とする、其れまで各自体調を整えておくように。以上?解散?」

 

今までテストの類で褒められた事は無かったので、内心浮き足立つ程嬉しかった。

しかし、傭兵になるにしても、其れほど過酷なテストでは無かったと今にして思った。テストも次で最後だった、ここで機を抜いて落第しない様に、気よつけなければいけない。

ベンチに腰掛け少し休憩しようとした時、背後に誰かが立つのを感じた。

 

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第十二話 悪意

 

 

「おい、お前がエースパイロット候補かよ」

 

振り返ると、バトルスーツを着たガラの悪い三人組が立っていた。

 

「先輩が話しかけてやってんだ、返事の一つぐらいしたらどうなんだよ」

 

面倒くさい連中だった、テスト中に目を付けられて落とされでもしたら、溜まったもんじゃ無い。この手の連中は、無視するのが波風を立てずに回避出来る一番良い方法だった。

 

「なんだお前?ビビってんのか」

 

下品な笑い方をしながら一人が詰め寄る。俺はまともに相手をせず、無視を決め込んでいた。

ただ連中も何にも反応しない俺がつまらなかったらしい、いきなり胸倉を掴みねじり上げた。

 

「何とか言ったらどうなんだよ?」

 

あまりにも理不尽で、短絡的な行いに堪忍袋の緒が切れそうだった。

頭突きを出すのを堪え、胸倉を掴んでいる男を睨み付ける。

 

「何だ?その目は、其れが先輩に対する態度か?」

 

男が拳を振り上げる、その時不思議な事が起きた。振り上げられた拳が突き出されるまでが、非常にスローモーションになったのだ。

周り全ての環境がスローだった、男達の後ろで作業に当たる人の動きも、歩いてる人達の動きも。

 

「貴様らなにをやっとるんだ?」

 

先程の試験官の怒声が飛び、辺りが普通の時間のながれに戻った途端、身体が熱くなり、血液がすごい勢いで身体を巡り、脈が異常に早くなっているのを感じた。

男達は舌打ちをして俺から手を話すと、試験官から逃げる様に立ち去って行った。

 

「何が問題でも有ったのか?」

 

試験官は、事の顛末を聞こうと近づいてきた。

 

「いえ、何も有りません」

 

俺は息を整えて言った。ここで事を荒げても、何も得な事は無かったので、俺は無関係の様に装った。

 

「なら良いが、ここの連中は全員が、全員、善良な人間とは限らん。そういった連中とは出来る限り接触するな」

 

其れだけ言うと試験官は持ち場へ戻った。

息を吐きベンチに座り辺りを見回す、先程の連中の姿は何処にも無かった。

しかし先程、今まで経験した事の無い感覚に襲われた。実際全てがスローモーションになっていたが、自分の動きだけは何となく、制限されていないような気がした。

額に浮かんだ汗を拭う、だいぶ脈拍も落ち着き、呼吸も元に戻ってきた。

恐らく、慣れない環境と、シュミレーターに乗ったせいで起きた、一種の酔いと同じ物だと自分を納得させた。

休憩時間が終了し、受験生が移動を始めていたので、自分もベンチから立ち上がり最終試験会場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

新規登場人物紹介

フィオナ・イグナティッド

マグメル社のシステムオペレーター、年齢不詳。その美貌から好意を寄せる男性も多いが、その大半は顔面蒼白で帰ってくることが多いらしく謎多い人物。10ヶ国の言語を操り、各国出身のボーダーと疎通ができるエリートでもある。

趣味は裁縫と買い物

 

Dr.レイン

マグメル社顧問医師、43歳。

ニュード耐性保持者として、ニュード接触患者の治療にあたり、その腕は「神の手」と称される程の腕前。一見変人気質に見られがちだが、至って真面な人間で、常識人。

趣味はビリヤードとチェス

 

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第十三話 機体

 

最終試験前に案内されたのは、ブラストの格納庫だった。

様々な機体が並び、機体の整備に慌ただしくメカニックが作業に追われていた。

受験生の皆が、おもちゃ屋に連れて来て貰った子供のように、目を輝かせて辺りを見回していた。其れは例にも漏れず、俺も同じだった。

 

「皆さん、ここまでお疲れ様でした」

 

立ち止まり前を見ると、最初の筆記試験の時に挨拶をしたあの美女が、特徴的なシールを貼ったファイル片手に立っていた。

 

「さて、だいぶ人数減りましたが、これから最終試験を開始します。試験内容は、戦闘演習になります」

 

受験生の中で、今日一番のざわめきが起こった。其れもそうだった、一度もブラストに乗った事も無ければ、操縦方法だってわからない人間が殆どだった。

そんな連中にいきなりブラストに乗って戦えなど、冗談にしては笑えない話だった。

 

「御心配なく、装備は全ての模擬弾や訓練用を使用しますので、機体が破壊力される事は有りません。それに戦闘演習と言っていますが、訓練終了まで棄権をしなければ合格になります」

 

これまでの試験とは違い、えらく受験生に自主性を持した試験内容だった。

何やら怪しげな最終試験だが、ここまで来て引き下がる訳にもいかなかった。

 

「それでは、各自受験番号にあてがわれた機体に向かいメカニックから操作方法、及び説明を聞いたらその場で待機して下さい」

 

受験生達が各々の機体に向かい、俺も自分の機体を探し始めた。

 

「レオ君〜こっちだよ〜」

 

不意に自分の名前を呼ばれ、顔を上げ辺りを見回す。すると、作業着を着た連中の中に一人だけ異色な服装をした、赤毛のツインテールが目に入った。

 

「チェスカ?!何してるんだよこんな所で?」

 

スパナ片手に、チェスカが腰にてを当てて言った。

 

「機体の整備に決まってるじゃない、コレでも一応マグメルに登録しているメカニックなんだから」

 

色々と聞きたい事は有ったが、今は試験に集中するべきだった。

 

「試験が終わったら全部ちゃんと話して貰うからな」

 

「勿論、隠してた訳じゃないけど、ちゃんとレオ君に話すよ。でも凄いね、適性試験歴代トップって。本当にただの学生だったの?」

 

「うん、ただのゲーム好きの学生です」

 

チェスカは目を見開いて言った。

 

「ゲーム好きだからって、エースパイロットの素質が有るとは限ら無いよ。何かレオ君に、秘められた力が眠っているのかもしれ無いよ」

 

先程の出来事が頭を過ったが、あれはあれで、自分を納得させたつもりだったので、今さらほじくり返して考えるのもどうかと思った。

 

「とうかした?レオ君」

 

思いつめた顔をしてたのかもしれない、チェスカが心配そうに、顔を覗き込んでいた。

 

「何でもないよ、ちょっと最終試験で緊張しちゃって」

 

チェスカは笑顔で俺の背中を叩いた。

 

「大丈夫、大丈夫。落ち着いてやったら絶対合格間違い無しだよ、何てたって私が調整した機体で出るんだから」

 

見上げると其処には、角張った身体つきに、軍用らしい装甲を施され。頭部には一つのモノアイカメラが輝いている5.6メートルの機体が立っていた。

 

「TSUMOIインダストリ製の世界初のブラストランナー、クーガーI型だよ。性能面は積載量が少ないだけで目立った弱点も、突出した性能も無い平凡な機体、だから変なクセも無いし、凄い乗りやすいと思うよ」

 

チェスカに案内されコックピットに乗り込む、内装はシュミレーターと殆ど変わらなかった。

チェスカに簡単な操縦方法を教わり、画面に表示される各種メーターとレーダーの解説を受ける。

 

「基本的な操作方法と画面に表示される物の説明は以上だよ、何か質問は?」

 

今まで経験してきたゲームを駆使したら、理解するのにさほど難しい物では無かった。

 

「大丈夫、今の所質問は無いよ」

 

「本当?流石優等生、理解が早くて先生も鼻が高いよ」

 

何故かチェスカが、自慢気に鼻を鳴らして語った。

 

「さて、次は兵装についてだけど、今回君が搭乗する兵装は、強襲兵装。その名の通り、高機動戦闘が可能で、機動戦は勿論の事、いざという時は、撤退戦、防衛戦にも回れる言わば、戦場においての主軸になる兵装だよ。そんで、次は装備についてだけど、まずは主武器、M90サブマシンガン」

 

機体右のマニピュレータに装備された、人間で言うMP9の様な形状の銃器が、股の間に有る簡易ディスプレイに表示される。

 

「サブマシンガン系統に言えるのは、その連射力と集弾性能、そして低反動。近距離から中距離においての要になる武器だよ、ただし威力が低いか連続で当ててこそ効果が出るから、その辺も考慮してね」

 

説明を聞く限りは優秀な武器だが、完璧な武器など存在しないので、安心はしないようにしなければいけない。

 

「次は補助兵装、デュアルソード。」

 

機体後部にマウントされた、片刄の大剣がディスプレイに表示される。

 

「近接戦闘用の大剣ね、ソード系列の中では軽くて扱いやすいけど、範囲も狭いし、、其れなりに振りも大きいから使うタイミングを、良く吟味して」

 

確かに距離の有る相手に突進しても、後退して飛び道具で蜂の巣にされるだけだ。

いかに効率良く相手を一撃で無力化する事が近接戦闘の基本であり最重要ポイントだと、本で読んだ事があった。

 

「あとは、副武器が有るんだけど、今回は演習だから使わないし説明は省くね。ここまで駆け足で色々説明したけど何か質問有る?」

 

「いえ、大丈夫です。後は実際動かしてみて確認します」

 

まずは身体に基本動作を慣れさせなければいけない。その為には実際に操縦するのが早かった。

 

「よし、じゃあ上で応援しとくから頑張ってね」

 

チェスカがコックピットから離れると、ハッチが閉じられ、頭部のカメラが起動し、目の前のスクリーンに外の景色が映し出された。

レバーを操作し、左のマニピュレータの調子を確かめる。ラグ等の異常は無く、操作性には問題は無かった。

流石、自他共に認める一流メカニックと言うべきだろうか。

突然スクリーンの端にウィンドウが開かれ、フィオナさんが映し出された。

 

「皆さん準備は宜しいでしょうか、其れではこれから皆さんを演習会場へお連れ致します」

 

振動と共に、ブラストが乗っている整備台が上昇を始め、天井のハッチが開いた。

ハッチの向こうは、ローマのコロッセオの様な闘技場に、コンテナが無造作に置かれた場所だった。

 

「改めて試験内容を確認します、今回の戦闘演習では、皆さんに実際の戦闘を体験していただく事が、目的です。もし戦闘からの離脱を希望する際は、ブラストの武装解除をして下さい」

 

スクリーン上部に、一緒に試験を受ける仲間達が、リストアップされる。受験番号の横には状態が表示されていた、今は全員、待機中と表示されていた。

視線を動かすと、右側に立って居たブラストと目が合った。ブラストが左の拳を握り、親指を立てて突き出した。同じ様に俺も相手と同じポーズを取り、応える。

 

「其れでは皆さんの検討を祈ります」

 

フィオナさんが映し出されたウィンドウが閉じると、画面上部に10分間をカウントダウンするタイマーが、表示された。

 

「これで最後なんだ、何だって乗り越えてみせる」

 

自分に言い聞かせる様に意気込み、レバーを握る。

ブザー音と共に武器の安全装置が解除され、待機中から戦闘中へと上部の表示が変わった。

 

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第十四話 圧倒

 

 

 

突然上空から真黒い何かが、複数落ちてきた。

タイマーはすでに、カウントダウンを始めている。恐らく今回の演習で、仮想敵になる相手だろうと想定した。

土埃が止み、落下点が見える様になると、そこには俺達のデザートカーキの機体色に対して、真っ黒の塗装を施されたクーガーI型が立っていた。

目視で確認出切る相手の機体数は5機、対して俺達受験生は10機。恐らく相手は、其れなりに操縦出来る人間か、もしくはAIか。どちらにせよ、二人で一機を抑えれば、何とかなるかもしれない。

頬に汗が伝う、レバーを持つ手が震えているのに気付く。スクリーンに映るじっと動かない相手と、自分の緊張と恐怖が入り混じり全く動けなかった。他の受験生も微動だにしなかった。

沈黙の時間が一分程過ぎた所で、ついに相手が動いた。

銃器を構えた瞬間、反射的に吠えた。

 

「散れ?」

 

レバーを操作してすぐ側に有ったコンテナの影に隠れる、コンマ数秒差で俺が立っていた場所に、無数の銃弾が飛来した。

逃げ遅れた他の受験生は、銃弾の嵐を受けて後退させられ壁に磔にされていた。

影から腕だけを出して応戦する、マニピュレーターの中のサブマシンガンが、火を吹き暴れ出した。当たらなくて良い、ただ、この場所から移動する時間と、仲間の体制維持の時間が稼げれば良かった。

敵機の銃撃が止み、四方へ散って行った。俺はその中の一機に、目標を絞った。

ブーストを噴射し、ダッシュで移動する。完全に先手を取られ、対した抵抗も出来ぬまま、流れは相手に掴まれていた。

考え事をしていたせいか、目の前のコンテナに激突した。コックピット内が大きく揺さ振られ、おもわず前のめりになる。

やはり移動中の振動や、ぶつかった時の衝撃が有るところなどゲームと違う所か。ベルトが食い込んだ箇所に鈍く痛みが走った、バトルスーツを着てなかったら、この程度で済まなかったかもしれない。

操作に関してはそこまで問題は無いが、この痛みがゲーム等では無く、今目の前で起きている事が現実だと、改めて実感させてくれた。

体制を整えて辺りを見回す、制限時間はまだたんまりと残っていた、だが早くも味方の表示が、戦線離脱になっている機体が何機かあった。

このままのペースで行ったら、後数分後には俺一人になるかもしれなかった。

コンソールパネルを操作して、味方と連絡を取ろうとした時、ロックオンアラートが鳴り響いた。数秒差で、背後から衝撃が襲ってきた。

クイックターンを決めその場からブーストジャンプをしながらサブマシンガンを発砲する、敵機はダッシュでコンテナの影に隠れ、着地した自分も同じ様にコンテナの影に隠れた。

マガジンを交換しながら、同じ機体でもこうもキレの有る動きが出来るのは、やはり経験の差なのかと思った。

 

「おいおいもう少し楽しませてくれよ、エースパイロット候補さんよ」

 

聞き覚えの有る声が聞こえ、慌てて左右の確認をしようとした瞬間、機体に強烈な衝撃が走り、吹き飛ばされた。空中で受身を取って、手を付きながら滑る様に着地する。

視線を上げると、ショルダータックルをしてきた機体の後ろに、ニ機の機体が立っていた。

 

「ストライクってか」

 

下品な笑い声が、無線を通して聞こえる。この笑方には聞き覚えがあった、先程、絡んできた三人組の笑方だった。

 

「さてさて、エースパイロット候補さんよ、そろそろ本気で楽しませてくれよな。じゃなきゃ、二度とブラストに乗りたく無いって思わせてやるよ」

 

三機が取り囲むように散開する、コンソールパネルを操作して味方に救援を要請したが、応答は無かった。レーダーを確認すると、残りの敵機を四機で抑えていた。

確かに想像していた理想の形だが、一人で三機を相手にするのは、想定外だった。

ロックオンアラートが鳴り、三機からロックオンされている事を警告した。

まずい状況だった、正直振り切れる気はしない、制限時間は、丁度半分を過ぎたところだった。

 

「だからさっきも言っただろ、黙って無いで何とか言えって?」

 

三方向から銃弾の嵐が機体を襲い、機体の制御が効かなくなる。何とか振り切ろうとするが、一機が必ず移動方向に回り込み包囲から突破する事が出来なかった。

 

揺れるコックピットの中で、下品な笑い声が無線からずっと垂れ流しになっていた。

 

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第十五話 不利

 

 

「あんなの卑怯よ、レオ君にいくら素質が有るって言っても、彼は今日始めてブラストに乗った人間なのよ。それに相手はBクラスのボーダーでしかも、バディを組んでいる人間だって話じゃない。息の有った波状攻撃で包囲されたら、誰だってなす術ないわ」

 

試験会場の上に有るオペレータールームでチェスカが、試験監督のフィオナに食って掛かっていた。

 

「チェスカさん、彼の友人として御心配される気持ちは分からなくも無いですが、彼等ののとっている行動は、至って戦場では基本的な行動です。三機による波状攻撃で敵機に反撃の隙を与えず、撃破する。一対一の決闘など戦場では意味を無しません、大事なのは、いかに被害を最小限に抑えて、効率良く敵機を撃破し、前線を上げて戦いを有利に運ぶ事なのです。其れにこの試験は、彼らが勝つ事が目標では有りません。戦場において、無意味な退却や敵前逃亡等しない様に、あらかじめ戦場の洗礼を試験で受けて頂く事が、今回の試験の主旨です。チェスカさん、理解して頂きましたか」

 

感情を表に出さず、フィオナが淡々と事務的にチェスカに言った。

チェスカが反論しようとした瞬間、後ろからゴードンが引っ張った。

 

「チェスカ其れぐらいにしておけ、仕事の邪魔だ」

 

そう言うとゴードンが、チェスカを引っ張りながらフィオナから離した。怒りが収まら無いチェスカの矛先はゴードンへ向いた。

 

「何するのよゴードン?あなたはどっちの味方なのよ?」

 

ゴードンが、ため息をつきながら言った。

 

「フィオナさんが言ってる事は間違いじゃ無い、戦争と言うものはそう言うものなんだ、どんなに汚くても勝てば良い。連中がやってる事は教科書に書いてある様な、基本戦術だ。其れに奴もこんな事覚悟の上で、この世界に入った筈だ」

 

「でもあれじゃあ、嬲り殺しじゃ無い」

 

「チェスカ、奴が俺にマグメルに連れて行ってくれと言った時、奴の目には昨日の食堂で話した時の様な、迷いや、困惑した目をしてなかった。揺るぎ無い信念を持って堂々と、俺に言ったんだ。そんな奴がたかがこんな事で、折れる訳が無い」

 

ゴードンの話を聞いたチェスかは、頭を垂れて何も言わなくなった。ゴードンは、チェスカの肩に手を置き言った。

 

「其れに、よく見てたら奴も中々上手い具合に、立ち回ってる。CSされない様、其々の射線から頭を庇ってる。こんな芸当はブラストに長年乗っている連中にだって、中々出来ん」

 

ゴードンの言葉に驚き、チェスカが顔を上げ、演習を映し出しているスクリーンを見る。

確かにはたから見れば、好き勝手に撃たれて居る様に見えるが。よく見ると、CSは全くされていなかった。

 

「こんな芸当が出切る奴だ、もうこの包囲網から突破する糸口を、見つけているかもしれないな」

 

ゴードンが不敵な笑みを浮かべ、言った。

 

「どう言う事?」

 

「見ていろ、じきに奴の反撃が始まるさ」

 

チェスカは不安げにスクリーンのむこうで、戦う一人の青年を見守った。

 

 

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第十六話 反撃

 

 

「くそ、しつこい連中だ」

 

状況は全く変わらなかった、どんだけダッシュして物陰に隠れても、すぐに追い付かれて又同じ事の繰り返しだった。

 

「実戦だったらもうぶっ壊れてんだろうな」

 

コックピット内が、今日何度有ったか分から無い大きな揺れに見舞われる、その度に悪態を付き、無線から響き渡る笑い声に、神経を逆撫でされる。

しかし、この包囲網からの突破口は見つけた、あとはタイミングだけだった。

ブーストを蒸かし、ダッシュして物陰に隠れる。

 

「何回隠れれば済むんだよ、いい加減真面目に戦え?」

 

敵機が追い付き銃を構えた瞬間、後ろの光景を見逃さなかった。

 

「そこだー!!!!!!」

 

ブーストジャンプを駆使して二つの敵機を飛越し、一番奥でリロードをしていた敵機の腕を払い、相手の頭部に右肘打ちを放つ。

包囲網からの突破口、其れはリロードのタイミングを突く事だった。

どんな銃器でも弾切れは有る、永続的に攻撃しているように見えて、所所におたがいをカバーし合いながらリロードをしているのを見逃さなかった。

 

「クソッタレ?前がみえね?」

 

狙い通り、敵機一機の頭部カメラを破壊力する事に成功した。カメラを破壊された敵機は所構わず銃器を乱射し始めた。

 

「馬鹿野郎?俺は味方だ、撃つのを止めろ?」

 

味方のフレンドリーファイヤーで、体制を崩した敵機に、背後からタックルを放ち、吹き飛ばす。

 

「テメー?今回の演習ではブラストの近接打撃攻撃は、禁止されてんだぞ?」

 

タックルを受けコンテナにぶつかった敵機が振り返り、銃器を構え様とする。

 

「あんた等も何度か俺に使っただろ、おあいこ様だ。其れに、実際の戦闘を教えてくれるんですよね、センパイ?」

 

相手が引き金を引く前に、相手の胴体目掛け皮肉と、強烈な前蹴りを放つ、コンテナと前蹴りで挟まれた機体は装甲が破損し、機体制御が出来なくなったのか崩れ落ちる様に倒れて、動かなくなった。ちょっとやり過ぎたかもしれ無いが、死にはして無いだろう。

先程、俺をコンテナの影まで追撃してきた機体を探したが、何処にも見当たらないので、頭部カメラを破壊され、あさっての方向に銃器を乱射している敵機を無力化しようとした瞬間、頭上から迫る影を捉え振り返ると、先程探していた機体が、空中で剣を振りかぶりながら突っ込んできた。

バックダッシュをしたが、剣の軌道を完全に躱す事はできず、胴体を庇おうとした右のマニピュレーターが斬られた。

今までにない衝撃が機体を襲い、はるか後方へ吹き飛ばされる。頭を抑え、敵機の追撃を警戒してスクリーンへ顔を向けるとコックピット内に、今まで聞いた事の無いアラート音が響き渡っていた。

右のマニピュレーターの肘から先が切断され、視線の先に、M90サブマシンガンを握った手が転がっていた。

 

「チッ?浅かったか」

 

目の前の敵機が、訓練用防護プレートが施されてい無い、両刃の大剣を構える。

 

「ガインさん?今回の演習では実戦用の装備は使用が禁じられています。直ちに其れを仕舞なさい?」

 

ウィンドウが表示され、フィオナさんが相手に警告を促した。

 

「うるせー?こんなガキにコケにされて黙ってられるか?」

 

強制的にウィンドウを閉じられ、以後はブラスト同士の近距離回線のみに切り替えられた。

 

「一応これでも試験監督の一人なんでな、こんな風にお前の回線を制限する事も出来るんだよ。さてクソガキ、先輩が本当の戦場を教えてやるよ??」

 

敵機がダッシュで一機に距離を詰め、剣を振り下ろす、体制を立て直し、左のマニピュレーターで背部にマウントされたデュアルソードを抜き、攻撃を何とか受け止める。

デュアルソードに施されていた保護プレートが、相手の刃で剥がれ落ちる。

 

「これでイーブンだな、手加減無しで行くぞ?」

 

鍔迫り合いから相手が押し込まれ、続け様にタックルで吹き飛ばされる。

片腕一本では、ブラストのフルパワーの鍔迫り合いを完全に受け止める事は出来なかった。

 

「ほらほら、さっきの勢いは何処行ったんだよ?」

 

息継ぎの無い斬撃を、受け止める事しか出来ず、どんどんと後退させられていき、ついに後が無くなった。

膝蹴りを喰らい壁に押し込まれる。

 

「これで終わりだー?」

 

上段に構えられた大剣が眼前に迫る。

その瞬間、頭の中に走馬灯の様に思い出が駆け巡った。

 

「こんな所で死にたく無い、帰るって決めたのに、守るって誓ったのに」

 

様々な思いが頭の中で交錯した時、脈が止まり、血液の流れが緩やかになった様な感覚に襲われた。

その瞬間、全ての時間の流れが緩やかになり、敵機の攻撃も止まっている様に緩やかに振り下ろされてきた。

 

「殺られてたまるかあぁぁぁぁぁぁ?」

 

反射的に咆え、相手の左側を通り抜け様に、胴を抜く。

 

「な・・・何が起こったんだよ・・・・」

 

時間流れが戻ると、後方で上半身と下半身が両断された機体が、倒れていた。

 

「ハァハァ、またさっきの感覚がウグッ?」

 

レバーから手を離し胸を抑える、先程とは比べ物にならない、身体の熱さと、脈拍の凄さだった。血液が沸騰しているかのように身体が熱くなり、呼吸がままならなくなる。

それでも何とか動悸を落ち着かせ、デュアルソードを納刀した瞬間、脚部に爆発が起こり、前のめりで倒れた。

倒れた視線の先に、先程装甲を破壊し、機能を停止していた筈の機体がM90サブマシンガンを構えて立っていた。

 

「ハァハァ・・・・・ブッ殺してやる?」

 

破壊された脚部の状況から恐らく、装填されているのは、模擬弾では無く、実弾だろう。

機体は全く動かず、今回ばかりは打つ手無しだった。

半ば諦め、死を覚悟した瞬間、敵機の背後で爆発が起こり、機体がボロ切れの様な状態で転がっていた。

 

「甘い?そんな事では生き残れんぞ?最後の最後まで気を抜くんじゃない?」

 

無線から、ゴードンさんの叱咤の声が響く。

視線の先にはクーガーとは違い、重装甲を施されたブラストランナーが、白煙を上げているバズーカ砲を構えて立っていた。

制限時間は何時の間にか過ぎていた。

俺はインカムを外すとシートに身体を預け、深く息を吐き、緊張の糸を解いた。

 

 

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第十七話 結果

 

 

「ボーダー二名重傷、ブラスト三機破壊、内二機は大破。何か申し開きは?」

 

「「有りません」」

 

試験が終わった後、ブラストから降機した俺とゴードンさんは、MPに捕縛され一時拘留された後、フィオナさんの執務室に連れて来られ、事情聴取を受けさせられた。

 

「津守レオさん、事前に今回の仮想敵のボーダーと接触が有りましたね」

 

「はい、間違い有りません」

 

感情の無い声が、俺に重くのし掛かる。事情聴取と言う雰囲気で、さらに押し潰されそうだった。

 

「ではメカニックから、ブラストの近接打撃攻撃の使用は禁止されているのは、伝えられてましたか?」

 

「はい」

 

「わかりました、ではゴードンさん。貴方は試験中の会場に武装したブラストで乗り込み、試験を妨害し、そしてブラストを一機大破させましたね。違いますか?」

 

「・・・・・間違い有りません」

 

「ブラストで乗り込んだのは、彼を守る為ですか?其れとも、事態の鎮圧の為ですか?」

 

「両方です、試験の枠を逸脱した戦闘行為の鎮静化と、彼の救助の為に、ブラストに搭乗し、出撃しました。結果、ブラストを破壊した件につきましては、どの様な処罰も甘んじて受けます」

 

正当防衛と言い張りたかったが、結果、過剰防衛と言われても仕方ない程、機体を破壊し過ぎた。死人が出無かったのは、幸いだったが、実際誰が死んでもおかしく無かった。

無論、殺されかけた側からして見れば、助けてくれたゴードンさんは、お咎め無しにして貰いたかった。あの時ゴードンさんが居なかったら、この場で聴取されているという実感も無いのだから。

 

「わかりました、今回の件についてお二人の処分を言い渡します」

 

せっかく二人が協力してくれた試験が台無しになり、申し訳ない気持ちで一杯になった。

良くて不合格、悪かったら何をされるか検討も付かなかった。

 

「今回の試験は記録を処分し、一部のボーダーの上官命令無視、及び反乱行為の鎮圧に当たったとして、お二人には特別給与を支給します」

 

頭の中がハテナで一杯になった、てっきり罰を受けると思っていたのに、まさか褒められる等、想定外だった。

 

「確かに機体を破壊した行為はいただけませんが、先に仕掛けたのは相手側なのも事実です。それに彼等は実戦兵器を使い、上官命令を無視した時点で、処分されても文句は言えません。命あるだけましだったと思って頂きたいものです」

 

安堵のため息を付き、思わず座り込みそうになった。

 

「ただし、今回の特別給与は機体修理に当てますので、そのつもりで」

 

確かにそこまで世の中上手く出来ていない、お咎め無しだけで充分だった。

 

「それと津守さん、今回の試験の結果ですが・・・・」

 

肝心な事を忘れていた、今回の試験が記録から処分されるなら、試験自体無かったことになり、合格者は出ないのだろうか。

 

「鎮圧に当たった功績を認め、特例として合格と認めます。以後ボーダーとしての活躍を期待します」

 

声に出して喜びたい所をぐっと堪え、拳を握り、心の中で飛び跳ねた。

 

「また何か有ったら呼び出す事が有るかも知れませんが、今日の所は話は以上です。何か質問は?」

 

「「有りません」」

 

「わかりました、ではもう下がって頂いて結構です。お疲れ様でした」

 

一礼し、執務室から出ると、ゴードンさんは何も言わず立ち去ろうとした。

 

「あの?ゴードンさん」

 

「何だ?」

 

ゴードンさんが立ち止まり、振り返った。

 

「今日は助けて頂いてありがとうございました」

 

感謝の言葉を伝え、頭を下げる。

 

「礼ならチェスカに言え、お前を助けに行こうと、乗った事も無いブラストに乗ろうとしたんだからな」

 

チェスカの優しさに、思わず笑みが溢れた。

 

「だが、今回は訓練で良かったが、あれが実戦ならお前は死んでいた。仲間との連携をもっと重要視すれば、あんな連中にここまで振り回される事は無かった筈だ。其れを肝に銘じておけ」

 

確かに単騎で突っ込み過ぎた所は有ったかもしれない、仲間を信頼して無かったのも、事実だった。

あれが最初から実戦だったら、囲まれた時点で俺は終わっていた。

 

「だがな、包囲から突破して各個敵機を撃破していく流れは見事だった。良くやったなレオ」

 

心なしか、ゴードンさんが少し微笑んだ様に見えた。そして試験に合格したよりも、ゴードンさんに褒められた事の方が嬉しい自分が居た。

 

 

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第十八話 異質

 

 

 

マグメル中東支部の医療練の廊下を、フィオナが歩いていた。一つの扉の前で立ち止まりノックする、数秒の間の後扉の向こうから応答が有り、ノブを回し入室する。

 

「失礼します、御用は何でしょうか、Dr.レイン」

 

扉の向こうでは、レインが椅子に座りパソコンのディスプレイを見つめていた。フィオナが入室するのを確認し、椅子から立ち上がる。

 

「フィオナ女史、済まないね忙しい所呼び出して。コーヒーは如何かな?インスタントしか無いが」

 

レインが棚に置いて有るドリップ式コーヒーメーカーのサーバーを手に取り、マグカップに注ぐ。

 

「いえ、結構です。其れより御用とは?」

 

レインがコーヒーを口に含みながら、デスクの上のフォイルをフィオナに差し出す。

フィオナがフォイルを開くと、そこにはレオの診断結果がファイリングされていた。

 

「津守レオの診断結果のようですが、これが何か?」

 

何枚かめくった後、フィオナがレインに問い掛ける。レインは無言のまま、診断結果の欄の一つを指差す。指し示された欄を見たフィオナの顔に困惑の色が出る。

 

「ニュード耐性が無いのに何故、合格を出したのですか」

 

本来その欄には合格者なら、先天性、後天性のどちらかが必ず書かれる。だがレオの其れには耐性なしと表記されていた、そのような人間が合格するのは有り得ない話だった。

フィオナが語尾を強めてレインに問い詰めた。

 

「彼は先天性でも後天性のニュード耐性保持者じゃ無い、ただの普通の人間だ。其れは測定でも確認されている、だがニュードの拒絶反応も無く、寧ろ非常に安定した関係にある。私も戸惑ったよ、こんな人間は始めてだからね」

 

フィオナが、信じられないといった雰囲気で言った。

 

「そんな馬鹿な、耐性保持者じゃない人がニュードに触れたら、拒絶反応を起こして細胞が結晶化して死に至る筈じゃ」

 

レインが肩を竦め椅子に座った。

 

「事実なのだからしょうがないよ、先人だって言っている『科学でも証明出来ない事が有る』ってね。其れともう一つ面白い事が有る、普通ニュード耐性保持者は何らかの形でニュードを摂取しなくてはいけない。だが彼は普通の人間だ、言ってる意味が分かるかな?」

 

フィオナが目を閉じ、眉間を指で摘む。レインが苦笑いを浮かべながらパソコンに向かう。

 

「彼の情報は?ここには年齢、生年月日以外の個人情報が、全く書かれてないのですが?」

 

「とっくに調べたさ、だがこれを見てくれるかな」

 

フィオナがパソコンのディスプレイを、覗き込む。

 

「情報閲覧制限、コードNo.00、どういう事ですか?」

 

「ここにくる人間で、マグメルの権限でも情報閲覧出来ないロックが掛かった人間は、始めてだよ。コードNo.00、特級政府関係者、軍の秘密工作員の類に掛けられる制限だよ。しかし驚きだね、政府なんて有って無いものだ、軍に至っては構成されている兵士の大半がマグメルが管理している兵士だ。そんな世の中に、彼はとても異質な存在だね」

 

レインが笑みを浮かべながら、フィオナの方を向いた。

フィオナがディスプレイから目を離し、レインに向き直る。

 

「この事を知ってる人間は?」

 

「君と私しかいないよ」

 

フィオナは顎に手を当て少し考えた後、口を開いた。

 

「Dr.レインこの事は他言無用で、最重要機密として取り扱って下さい」

 

レインは手を上げ了承すると、又パソコンに向かい作業を始めた。

フィオナは部屋から出ると、誰も居ない静かな廊下を、自分の執務室に向かい、足早に歩き出した。

 

「津守レオ・・・・・」

 

この時、ぞっとする様な妖艶な含み笑いをしているのに、フィオナ本人ですら気付かなかった。

 

 

 

 

第一部終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
誰しも一度は別世界を夢見る。
勇者になったり、カラフルなヒーローになったり、ロボットのパイロットになったり。
しかし歳を重ね、普通に生きて行けば現実はそんな事起きやしないと知る。
でも現実と非現実の境界は意外に脆く、一度逸脱してしまえばそれが普通で、それが現実だと知らされる。


突然傭兵となり、戦場に出る事になった主人公。戦う事が普通のこの世界で生きていく中、生きる為に闘い、そして戦う事が自分の存在理由の筈だった。
数々の人と出会い、別れ、そして、本当の自分の存在と生きる意味を知る。
ーーー
SEGAのアーケードゲーム、ボーダーブレイクの二次創作です。
ただ不特定多数の版権物のネタを含みます、
それを探して頂くのも御一興かもしれません。
誤字脱字、文法ミス等は生暖かい目で見守って、きつく御指導頂けたら幸いです。
又、感想、要望等書いていただけたら大変喜びます。

小説家になろうで同時掲載中
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