世界を渡る転生物語 影技3 【森と共に生きる者】
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 カイラに小脇に抱えられ、まるで攫われるかのように連れ去られた俺。

 

 木々を悠々と飛び移るカイラに驚きつつも、俺はカイラが真っ直ぐ向かう先……自分の目に見える景色に心奪われていた。

 

 それはこの森の中でも一際立派で、他の木々よりも頭一つ飛びぬけた大きさを誇り……その木の枝はどの木々よりも尚広く枝を張り、その葉は若い木々にも負けないほど青々とその存在を主張していた。

 

 そう、まさに巨木。

 

 現代で言うビルみたいに大きい大樹だった。

 

 そして、その木の上部……一際太い枝の枝元に作られた、こじんまりとした小さな小屋。

 

 金属などが一切使われていない、自然工法の小さな小屋であり、大きな葉と枝を組み合わせ、重ね合わせて作られている屋根と、組み木のように組み立てられ、すべてが自然の材料で組み上げられた木製の柱や床板・壁板。

 

 そしてそれらは、この小屋自体が長年この木と共に歩んできたのか分かるほど、この小屋とこの木の枝・幹が同化しており、めり込んだおかげでこの小屋は安定性を強固なものとしていた。

 

 小屋の表面、外装にもこの木から伸びた蔓が絡まり、すっぽりと包見込むように覆われていて、遠目から見たところではこの木の一部としか思えない、自然の隠れ蓑を纏ったか迷彩が施されていて、安全性も高そうだった。

 

「見えるかにゃ? アレがアタシ達がいつも使っている小屋にゃ〜!」

 

「…………すげ〜……」

 

 どんどん近づいてくる大樹と小屋を指差しながらカイラがそう俺に自慢げに話すのを聞きながら、内心は─

 

(うわ〜、うわ〜〜! すげぇ! すげぇ! こんなの初めてみた! 本当にこんな家があるんだ!) 

 

 かなり興奮していた。

 

 ものめずらしいというものあったが、明らかに自分の常識を超える景色や建物に、感動すら覚えていたのだ。 

 

 恐らくは、カイラが名乗る際に言っていたこの森の守護役、侵入者のや森を監視する小屋というのも兼ねているのであろう。

 

ー跳 躍 飛 翔ー

 大樹近くの木から、今まで走ってきた加速力とカイラ自身の脚力を使って大きくジャンプし、大樹の……小屋の場所へと飛び移る俺達。

 

 その小屋の扉横。

 

 外に出てすぐの場所には、木々を覆う……俺みたいな子供ほどの太さのある蔓が、この大樹の天辺から張り巡らされており、この蔓を昇って木の頂上まで上れば、森一番のこの木の高さと相まって森全体を見渡せ、監視できるようになっているのだろう。

 

「ふふ〜ん、どうニャ? 刃。なかなかのもんでしょ〜!」

 

 そんな木の小屋を、得意げな顔をして胸をはり、むふ〜と自慢げに紹介するカイラ。

 

 俺はそんなカイラの言葉に素直に頷いて賞賛すると、カイラはご機嫌で小屋の中へと入っていき、小屋の中を案内してくれた。

 

 森の守護役が住むための一人分のスペースであろう、この小屋。

 

 狩猟用の道具だろう、弓のようなものや、木々や採取で使うのであろう、鉈や鎌など。

 

 この森で生活するために必要になりそうな道具一式が揃っていた。

 

 そして、その横の部屋には寝泊りするためにベッドが作られており、俺が湖のキャンプで作ったものよりもふかふかふわふわで、非常に寝心地がよさそうだった。

 

 二部屋しかないこの小屋ではあったが、この森の中で寝泊りするのには申し分ない広さといえた。

 

(いや、木の上に家を作るとか……ほんとすごいなあ。それ以前にこの木の大きさにもびっくりだけど)

 

 俺は、カイラに許可を取ってから、興味津々な小屋の中を動き回り、ベッドに座ってみたり、先ほど紹介された小さな物置の中を、刃物に触らないように注意されながら調べまわる。

 

 そして、ふと視線を感じて横目でカイラを確認すると……そんな俺の姿を優しい瞳で見つめるカイラがそこにいた。

 

 急に恥ずかしくなり、俺はごまかすかのように外の景色を見ようと、木のつっかえ棒で上に開け放たれている明り取りの木の窓から外を眺める事にした。

 

ー新 緑 広 大ー

 その覗いた窓から見える……一面の新緑。

 

 果てなく続くかのように見える……緑一色の世界。

 

 木々の頭がどこまでもそろい、まるで草原のように緑が広がっていた。 

 

(なんて……なんて雄大な自然……)

 

 前世界ではありえないほどの広大な景色に心を奪われ、眼前に広がる森林を呆然と……そして興味深く眺め続ける俺。

 

 それはまるで一枚の有名絵画のようだった。

 

ー優 撫 暖 手ー

「……綺麗でしょ? あたしも……ここから見える景色が好きなんだニャー」

 

「うん、ほんと……すごいや」

 

 先ほどまではしゃいでいた俺が窓の外から景色を眺めた瞬間、静かになってじっと外を眺めているの見たカイラが、俺と一緒に景色を眺めるべく、俺の後ろに立ち、俺にそう声をかけながら俺の頭を優しく暖かいその手で撫でてくる。

 

 しばしの間、カイラと一緒に景色を眺め、のんびりとした時間を過ごし─

 

「おっし、そろそろお風呂いこっかニャ〜? 刃も入るでしょ?」

 

 もうそろそろ行こうか、と俺の頭をぽんぽんと叩くと、カイラが物置のほうにあったクローゼットから着替えを引っ張り出し、悠々と小屋の外へと向かう。

 

「え? 風呂? そんなのどこにあるのさ」

 

(ここにある部屋は二部屋のみで、寝る事と物を仕舞う事しかできないはずだけど……というか食事とかはどうするんだろ?)

   

 そんな疑問を思い浮かべながらも、外へと向かうカイラの後についていくとー

 

「よっと」

 

ー跳 躍 落 下ー

 カイラがおもむろに小屋から飛び降り─

 

「えっ!?」

 

ー落 下 蹴 樹ー

 驚く俺を置いて木の幹を蹴り、隣の木の幹を蹴り、といった具合に飛び移り、蹴ることで落下速度を緩めながらもみるみる下へ下へと降りていく。

 

「よっと」

 

ー柔 軟 着 地ー

 そして猫のような獣人特有のしなやかさで音も立てずに地面に着地してみせたカイラ。

 

「ん? 何やってんの刃? 早く降りてこいにゃ〜!」

 

「いや、無茶いうなよ! そんな動きできないって! 普通に木まで届かないで落ちて死ぬわ!」

 

(15m以上はあるんじゃないのかこれ……! ビルの屋上から下を見たような感じなんだけど?!) 

  

 カイラは、軽い調子で俺にこれを……降りて来いという。

 

(…………いや、いやいやいや! なんという無茶ぶり! 素人に要求するレベルじゃね〜!?)

 

「大丈夫大丈夫! その小屋の扉の横をみるニャ」

 

「……横?」

 

 カイラに言われるままに、小屋の扉の横を見ると─

 

ー太 蔓 巻 付ー

 その視線の先には、天辺から根元にいたるまで巻きついた、太くて長い蔓があった。

 

 木の幹にそって木の根元まで無数に生えているそれは、どれもが丈夫で太く、俺程度の重さではびくともしない太さであった。

 

 そして、それはつまり─

 

「ふっふっふ〜、わかってるんにゃろ〜? ジン。ほらほら、男の子なんだからそれでささっと降りてくるニャ。お風呂がまってるよ〜!」

 

 下から俺に手を大きく振り、笑いかけながら降りて来いと催促するカイラ。

 

(……う〜……行くしか……ないのか……)

 

 眼下に見えるカイラと、小屋から地面までの距離に恐怖しつつも─

 

「おりゃあ!」

 

ー蔓 掴 下 降ー

 俺は男は根性! とばかりに意を決して木の蔓にしがみ、恐る恐るゆっくりと地上目指して降りていく。

 

 予想通りの耐久性をしめす蔓の数々は、俺が掴んでもまったく動く気配もなく、抜群の安定感を持って俺を下へと誘ってくれる。

 

 だんだん【((進化細胞|ラーニング))】の力もあって慣れてきた俺は、徐々に降りるスピードをあげていき─

 

「と、とうちゃ〜く!」

 

「お〜、出来たね〜! 偉い偉い! まずはこの木から自由に上り下りできるようになる事からはじめようニャ? そうしないと食事とお風呂とかが自由にできないからニャー」

 

 どうにか下まで降りきることに成功した。

 

 そんな俺を褒めながら頭を撫でるカイラが、当面の目標として自由自在に生活空間であるこの樹木の上り下りを出来るようにする事をあげてくる。

 

(……なるほど、食事とかお風呂は下で取って、寝泊りは上でするというのがここの定番なわけね……早く自由に上り下りできるようにならないとな)

 

 俺自身、そのカイラの言葉を目標に定め、ご飯とお風呂という生活の要二つを得るために努力することにした。

 

「じゃ、こっちこっち。道覚えるんだよ?」 

 

「うん」

 

ー先 導 歩 行ー

 そう俺に声をかけながら、カイラが俺の先に立って歩き出して森の中へと入っていく。

 

 子供の歩幅で、カイラの背中を追いかけながら歩いていくうち、ふと地面が他の場所よりも硬く、草のない土の地面である事に気がついた。

 

「ん……?」

 

 ふと気になって地面に視線を落とすと、そこには何度か人が歩いた形跡があり、草がないのは踏み固められ、人がここを頻繁に通っている証だった。

 

 その道はカイラが進む先でもあり、獣道でありながらも幾度も通ったことで足場がしっかりとしていて、見分けがつけやすかった。

 

「……何やってるのかニャって……おお! そっかそっか。この道に気がついた? なかなかやるニャ〜ジン! そうそう! 自然の中、まして森においては、まずは足元にある足跡の形跡を追うというのが【狩り】の基本ニャ」

 

 俺が足元を見て足跡を発見したのを見つけたカイラが、心底嬉しそうに笑顔を零した後、感心したような声で俺に笑いかける。

 

(なるほど、俺が出会わなかっただけで……ここは大自然なんだから当然動物ぐらいはいるよな……)

 

 その言葉を聞いてかなり無防備だった自分を思い出し、にわかながらも周囲を見渡して警戒心を露にする俺。

 

「あっはは! うんうん! ジンは賢いニャ! そうやって警戒する事は、敵襲を想定した際絶対必要な事ニャ。自然界ではその感覚を失ってしまえば……いつ捕食されてもおかしくないしニャ。逆に、得物を狙うときはその警戒心を動物が感じ取って逃げてしまうから……ま、そこも追々教えてあげるニャ! やれやれ、これは教える事が沢山あって大変だニャー♪」

 

 肩をすくめ、やれやれと首を横に振りながらも……その口からでる言葉と態度は、心底楽しそうな弾んだ声だった。

 

 その気分を代弁するかのようにゆらゆらとゆれる尻尾を見て俺も自然と笑顔になりながら、再び歩き出したカイラの後ろを付いていく。

 

 そして程なくして森をぬけ、藪をぬけ……少し開けた広場のようば場所に出た俺達。  

 

 目の前に見えるのは崖のように切り立った山肌であり、緩やかな傾斜を持つその小山の麓に……それはあった。

 

ー湯 気 熱 気ー

 湧き上がる湯気が白くたちこめ、それが風に乗って掻き消えるその景色。

 

 先ほど眼にした緩やかな山肌の傾斜。

 

 そこを、川のように流れる二筋の流れ。

 

 一つはこの山から流れる湧き水であり、無色透明で冷たく、口に含むと非常においしい水だ。

 

 そしてもう一つは、先ほど遠めで見えていた熱い温泉だ。

 

 黙々と揚がる湯気が、隣を流れる湧き水と通りぬける風によって散らされるものの……その温泉は手を翳せば熱さを感じるほどであり、下にいけばいくほど徐々に温度が下がっていった。

 

 その二つの流れの間に、温泉側に斜めに湧き水側から水が合流できる仕組みになっており、そこを塞いだり開いたりする事で温度調節ができるような工夫が凝らされていた。

 

 そしてその温泉と湧き水を溜めるために、その流れの先に作られたのが、地面をカイラが肩まで浸かれるほどのわりと深く掘り、幅5mほどの大きさのその穴を、いい香りのする木の板を張り巡らせて作られた浴槽だった。

 

 そう、天然温泉。

 

 自然に湧き出した間欠泉に少しだけ手をかけた、自然の恵み。

 

 そして湯量も豊富な掛け流しの天然温泉であった。

 

(うわ、うわ〜! 天然の温泉とか……! はじめてみた!)

 

 ちゃぽんとそのお湯に手を入れてみると……ややぬるめではあったが長いことつかるには丁度いい温度であり、この温度ならばゆっくり出来そうだと少し頬が緩む。

 

 そう考えた瞬間、この場にいるのは俺一人ではない事を思い出し─

 

(あ、でも……ここは男の意地として、カイラに先に入ってもらうとしよう! 俺は周囲を警戒する事にして─)

 

 さすがに一緒に入浴するのはまずいだろうとカイラにそれを伝えようとした時─

 

ー脱 衣 快 速ー

 

 俺の目の前であっさりとその服を脱ぎ始めるカイラ。

 

「って、なにやってんの〜!?」

 

 そんなカイラを見て、慌てて後ろを向いて視線を逸らす俺ではあったが─

 

「ん? 何って……お風呂入るんだけど?」

 

 何当たり前な事いってんの? という雰囲気の声と共に衣擦れの音が聞こえ、俺は顔を真っ赤にしながらも、自分が後から入るという意思を示すために声をかける。

 

 そんな俺の言葉を聴いて溜息を吐くカイラ。

 

「あ……いや……だってほら……俺男だッ?!」

 

ー体 掴 浮 遊ー

 そして、俺の抗議の言葉は、俺の体を掴んで持ち上げるカイラの行動によって止められ─

 

「ちょ?!」

 

「にゅっふっふっふ〜♪ な〜に恥ずかしがってるのかニャ〜? 子供は子供らしくするのが一番ニャ〜♪ と〜〜う!」

 

「おわ〜?!」

 

ー空 中 打 上ー

 カイラに持ち上げられていた俺の体が、カイラの台詞と共に軽々と宙に投げられると─

 

ー瞬 間 脱 衣ー

 カイラの手が動いたと思った瞬間、あっという間に俺の衣服が剥ぎ取られ─

 

ー温 泉 飛 込ー

 俺は盛大に水飛沫をあげながら頭から温泉に飛び込むハメになった。 

 

「にゃっは〜!」

 

ー眼 光 怪 輝ー

 その目をキュピーンと光らせると、奇声を発してジンの後を追うように温泉に飛び込むカイラ。

 

「ぷはっ! 何するのさカイラ! ってうおおお?!」

 

「にゃっは〜! よいでわないかよいでわないか〜♪」

 

「や! ちょ! まっ?! アーーーーッ?!」

 

 温泉から抜け出そうと暴れるジンと、そんなジンを見てますます逃がさないと後ろから抱きつき、体中を触ってくるカイラ。

 

 そして……十数分後。

 

「ふぅ……」

 

「…………」

 

 やり遂げたといういい笑顔で額を拭うカイラと、口から何か白いものを吐き出しながら気絶し、服を着せられて倒れているジン姿があった。

 

 

 

 

 

ー朝 日 燦 々ー

「……はっ?!」

 

 瞼に感じる、眩い太陽の明かりを感じて俺は((目を覚ます|・・・・・))。

 

「……ぇ?」

 

(目を覚ますって……どいう事?)

 

 お風呂に入った後の記憶がなく、いきなり朝を迎えてしまったことに疑問まみれの俺が、どうなったのかを理解できずに思考の海に沈んでいると─

 

「んにゅっふ〜♪」

 

ー顔 擦 抱 締ー

 

 俺の髪の感触を確かめるように、俺の頭にこすり付けられるカイラの頭。

 

 彼女の柔らかく、すこしくせのある髪が、俺の頭にカイラの頭を擦り付ける際に俺の首筋を撫でる。

 

 抱き締められる女性特有の体の柔らかさと、首元に感じるこそばゆい感覚が─

 

「って、何ぃ?!」

 

「んにゅ〜? うるさいニャジン……」

 

「いや、いやいやいや、何これどういう状況?!」

 

(温泉入りにいって……なんでいきなり寝てるって……ぁ……ああああ?!)

 

 頭をこすり付ける、という状況。

 

 即ち、今の状況といのは─

 

(ええっと、それじゃあこのやわっこい顔に当たる感触ってもしかして─?!)

 

 思わず考えたことに対して思考が停止し、顔が真っ赤になる。慌てて体を離そうとするが……カイラの抱きつきはそれを許さない。

 

「んん〜、もう! ジン! 暴れちゃだめニャよ? 昨日お風呂で倒れてからずっと寝てたんだから……」

 

 ぽふぽふと俺の頭を抱き締めながら叩く感触で、俺は顔を上げてカイラの顔を見る。

 

 するとそこには心底心配したというカイラの顔があった。

 

「……カイラ?」

 

「……ごめんにゃ〜……ちょっと調子に乗りすぎたにゃ」

 

ー柔 軟 抱 擁ー

 俺がカイラに呼びかけると、謝罪の言葉を口にしながら再び俺を優しく抱きしめ、頭を撫でるカイラ。

 

(暖かい、な)

 

 そんなカイラに抱きしめられる暖かさに、不意に無くしてしまった家族の温かみを感じ……俺の心はこの世界に来てからの緊張の連続で張っていた気を解くには十分すぎるほどの効果があった。

 

 その安心感を得た瞬間、俺は自らの瞼の重さを感じて─

 

ー瞳 閉 安 眠ー

 

 その意識は再び……感じられる温もりと共に眠りの中へと誘われていった。

 

 

 

 

 

「……こんな森に、こんな小さい子が一人か。……心細くない訳……ない、よね……」

 

 自分に温もりを求めるように、自分に体を寄せて眠ったジンの頭を撫でながらカイラは思う。

 

 深い事情は聞けなかったが……リキトア森林の中でも特に【牙】族の修行のために環境が整えられているこの森は……基本的に誰も寄り付かない。

 

 その理由としては、我ら【牙】族の【リキトア流皇牙王殺法】の闘士がこの森の周囲を見張り、【牙】族の闘士が育つのに不必要な人間が入り込まないように、迷うものがいれば導いて遠ざけ、森の得物を狙う盗賊や密猟者がいれば排斥しているからだ。

 

 リキトア女王の通達も出されており、よほどの事がないかぎり、この森に対する接触はない。

 

(そんな森に迷い込む、か。……偶然我らの目を欺けたのか……それとも─)

 

ー……捨てられたのかー

 

ー噛 締 歯 鳴ー

 そんな考えに至り……思わず歯がなるほどに食いしばってしまう。

 

(こんなに可愛い、いい子を、捨てる……か!)

 

 一年に一度、交代で森の中を見張る守護役という役目を女王より仰せつかり、つい最近この森の守護役に付いたのが自分でよかったと思う。

 

 本来、森の入り口で対処されるはずの外部の人間が、ここまで深部にたどり着くと……大抵問答無用で排除される。

 

 その結果は……優しくても強制的に森の外への強制退去。

 

 もし、森の獲物や、我等【牙】族に牙を向けていた場合は……物言わぬ骸になる。

 

(……あるいはそれを狙ってこの森に捨てたのか? 自分で殺せないから獣の餌か……もしくはアタシ達に殺させようとでも?!)

 

 起こさないようにとジンに配慮しながらも、そんな考えに至り悔しさと悲しさを表情に浮かべるカイラ。

 

(……まあ……アタシの他の仲間達でも……こんな素直で可愛い子を排除しようと……ましてや殺そうだなんて思わないだろうけど……)

 

 抱き締める温もりを確かめつつも、カイラは自分たちの仲間を思い浮かべる。

 

 自分達【牙】族は基本、他種族にも指摘されるようにおおらかで明るく、気まぐれだ。

 

 ただ、何事にも例外というものはあり、当然、任務に忠実で生真面目な人物だって存在するのだ。 

 

 ……ごく少数だが。

 

 まあ、そんな【牙】族でも、事戦いとなれば話は別になる。

 

 狩猟の民として、牙もつものとして……相対したものを倒すのに躊躇いなどない。 

 

 そうしなければ、この大自然では生きていけない事を、彼女達は身を持って知っているからだ。

 

(……この子と一緒にいられるのは……いいところ一年。……さっき、足跡の追跡や気配を必死に察しようとしたあの態度。それに最初に出会ったときの、【((土拳|サフィスト))】を避けたときのあの跳躍……) 

 

 カイラが思い浮かべるのは、ジンを捕獲しようとして【リキトア流皇牙王殺法】を駆使して追いかけた出会いの時。

 

 ジンはこんな小さな体、そしてこの年齢で【リキトア流皇牙王殺法】を避けれるほどの動きを見せ、危機的状況でいつも以上のスピードが出ていたとはいえ……カイラ自身がそこそこ本気で追いかけなければ鳴らないほどのスピードで逃げていたのだ。

 

 この歳の子供ならば、ある程度逃げた後で体力がつき、捕まえるのも楽だったはずなのだが……それを踏まえるとジンは相当な才能と伸び代を持った子供といえるだろう。

 

(……ならば……この一年の間に……アタシがこの子に身を守れる方法と、一人でも生きていける術を教え……森の外に逃がしてあげるしかない……! )

 

 毎年、【牙】族ではこの時期、森の守護役によって、新人の指導と森の守護役としての教育が行われるのだが……今年は新人、つまりは【リキトア流皇牙王殺法】の闘士となれる条件を満たすものがおらず、必要鍛錬を行った後、来年に回される事が決まっているのだ。

 

 それにより、新人育成のなくなったカイラは本来の役割であるこの森の守護役をこなしている訳であり、今現在侵入者以外でこの森に入るものは守護役の自分だけ。

 

 一年おきに守護役が交代する事は決定事項であり……折角知り合ったこの子を、今すぐこのまま外に出すのは……できない。

 

 知り合う前にもし、この子が死んでいるのであれば……自然に還して上げるのが普通だ。

 

 しかし……もう知り合ってしまったのだ。

 

 ……愛しい、と思ってしまったのだ。

 

 出会い、誓ったという事もあり、カイラの心はすでに決まっていた。 

 

 最低限のラインは、この森で生活できるレベル。

 

 そして……この森は大自然の中であり……大自然内の唯一のルールは……弱肉強食なのだから。

 

 ならば……来年守護役が交代するまでの一年をフルにつかい、その間にジンが一人で生きていく為の術と、身を守る力を与えるために……鍛えるあげるしかないのだ。

 

(……でも……それでも……今は、今だけは─)  

 

 時折動くジンの動きにくすぐったさを感じながらも、腕の中に確かに感じる暖かな感触に目を細めてしまう。

 

 カイラは、ジンの頭を撫でつつ……温もりを求めるようにこちらに体を預けてくるジンが寂しくないようにと抱きしめ続ける。

 

 数時間後、ジンが目を覚まして現在の状況に気がつき、その顔を真っ赤にして慌てるすがたに萌えて鼻血を出し、その体を離すその時まで。

 

 

 

 

 

ー鼻 血 噴 出ー

 俺がふと目を覚ますと……俺は未だにカイラに抱きしめられていたままの状況だった。

 

 見上げれば、優しく微笑むカイラの顔があり、俺が抱き締められていた事が急に恥ずかしくなって顔を赤らめながら、カイラに放して貰うように、カイラの顔を見上げて話しかけると……なぜか俺の顔を見ていたカイラが唐突に鼻血を噴出させたのだ。

 

「ぉぅわ〜〜?! 起き抜けになんなの?!」 

 

 まさかの流血に、俺はえびぞりにカイラの腕を脱出。

 

 ボールのようにまるまって転がり、ベッドから退避する。

 

「んっごふう?! ご、ごめんニャ?! ジン!」

 

ー後 頭 叩 手ー 

 俺に謝りつつ即座に鼻を押さえて鼻血を押さえ、天井を向いて首筋を叩いて鼻血を止めるカイラ。

 

 なんともバイオレンスな形で、俺達はようやく朝を迎えたのだった。

 

ー空 腹 腹 鳴ー 

ー『あっ』ー

 

 そして、二人のお腹から聞こえる……空腹を訴える自然現象。

 

 そういえばと、昨日は俺も気絶し、カイラもまた気絶した俺を看病するためにそのまま寝てしまった事で、食事を取っていなかったのである。

 

 空いているお腹を抱えて朝食を取るために下へと降る事になり─

 

ー蔓 掴 下 降ー

 風呂に入った時と同じように、先に降りるカイラを追って木の蔓を掴んで降り始める俺。

 

 そして、下降しだした際に感じた違和感。

 

(……前、降りたときよりも格段に楽になってる……)

 

 また成長したのか、と前よりも二倍以上の速度で降りる自分の体に驚きを隠せずに、微妙な表情をしながらも地面へと到着し─

 

「お? 前よりも全然早いニャ〜? やるね〜刃!」

 

「あ……えと……うん」

 

ー頭 撫 柔 手ー

 俺を素直に褒めて頭を撫でるカイラに、思わず微妙な答えを返してしまう。 

 

「? まあいいにゃ。とりあえず朝食は軽めのものでいくから、森に取りにいくよ〜!」

 

「うん、わかった!」

 

 そんな俺の様子に首をかしげながらも、カイラと一緒に朝食を求めて森の中へと入っていく。

 

 そして、俺と一緒に採取作業を行う中─   

 

「いいかニャ? ジン。この草は薬草の一種でメジンの葉というニャ。磨り潰して傷口に当てれば殺菌と傷の癒着を早める効果があるニャ。このハート型の形が特徴ニャ。そんで……そうそう、この丸い葉の周りがギザギザになっているのが解毒作用があるエギフの葉ニャ。これはそのままかじっても良し、加工してもよし。……食べる場合は覚悟しないと……かなり苦くてまずいけどニャ……」

 

 カイラが一本一本、葉の形と色・匂い・などを俺に渡して確認させながら、俺にその薬草を摘ませていく。

 

「……ジンは一人旅だろうし、危険はつきものニャ。その命を少しでも守る方法を、そして傷を追ったときの治療方法を知っておくのは重要な事にゃよ?」

 

 やや厳しい表情を作りながらも、俺に次々と薬草の指示をだすカイラ。

 

 俺はそんなカイラの言葉を一言一句逃すまいと真剣に聞きながら、カイラの指示通りに薬草をつんでいった。

 

 【((解析|アナライズ))】が進み、カイラの補足説明を聞きながら、薬草を記憶をしつつ、【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】の知識を補足していく。

 

 その間にも、細長い葉を持つ薬草・スフェスが内服用であり、これは内側から新陳代謝を促進させ傷を癒すもの。

 

 笹のような形のカウタの葉は、葉と根のどちらにも薬効があり、葉は二日酔いなど軽い症状、根は神経系の麻痺や、肉体の麻痺などの症状の強いものの症状を癒す。

 

「後は……この薬草と呼ばれるものの中でもっとも高い効能を齎すのは……この世界にあって【((自然|神))】の象徴である……この世界全ての力を担うとよばれる巨大な御神木、【((世界樹|ユグドラシル))】からなる葉や枝、その樹木の皮や根など、【((世界樹|ユグドラシル))】を構成する全てのものが、この世界で一番の薬効をしめすといわれている。しかし【((世界樹|ユグドラシル))】は……ごく一部の選ばれたものにしかその力を渡そうとはしないから……手に入れるのも至難を極める物だし、望んでも手に入るとは思わないほうがいい」

 

 胸に手を当てて祈るような体制をとりながら、【((世界樹|ユグドラシル))】の事を語るカイラ。

 

 いつもと違うその表情と口調に驚き、俺がカイラを不思議そうに見守っていると─

 

「……【((世界樹|ユグドラシル))】というのは、自然とともに生き、自然をその力として扱い、やがて大地に還る我が【牙】族にとってもっとも神聖な……全てを育み、全てを受け入れる母なりしものだから……ね。自然とこういう体制をとってしまうのよ」

 

 真面目な顔をしながらも、俺の頭を優しくなでるカイラ。

 

「さってと! ちょっと真面目にやりすぎたかにゃ? にゃっはは! このままだとどんどん朝食が遅れちゃうニャ! 次は食べられる野菜や果物を紹介するニャー!」

 

 一度目を閉じた後、その顔に再び笑顔を作るカイラが、食べ物になる物を次々と摘み取っていく。

 

 俺が食べたリンゴのようなものがプフェルの実で、味もリンゴで水分が取れる果実。

 

 でっかいバナナがロピシュの実で、エネルギーになりやすい、消化のいい食べ物らしい。

 

 ライチのような種のデカイ実の少ない果実がレシェーの実といい、甘さと滋養強壮の効果があるのだとか。

 

 すっぱい葡萄のような果実がルベンの実といい、そのすっぱさから消化を助ける効果があるのだとか。

 

 オレンジのような大きい果実がアンダリの実というらしく、甘さと酸味がほどよい爽やかな味で、これを絞って飲み物にしたりするのだとか。    

 

「ルベンの実なんかは今あま〜い種類を【クルダ】で作ってるらしいにゃ。それでおいしい酒を作っててちょっとした名物らしいにゃよ?」

 

(ルベン……葡萄で作った酒ってことは……ワインかな?)

 

 その他にも、根元部分が芋になっている植物のカトや、にんじんのアロ、キャベツのようなコウやレタスのようなサラト。

 

 そんな森の豊富な恵みを摘み取りながら自然に感謝しつつ、二人で一緒にとった果物や、生で食べられる野菜にかじりついて朝食を取る。      

 

「ん〜! やっぱ食べ物に困らないっていう森の恵みには感謝にゃね〜!」   

 

 ほくほくとした顔でとりたての果実や野菜を食べながら、そうだね〜と笑いあう俺達。  

 

「そいういえばカイラ、この野菜を剥くナイフとかないの?」

 

「ん? ああ、あるよ〜。でも小屋の中だニャ。他の調理器具もほとんど小屋の中にしまっちゃってるニャ〜」   

 

(ぅぉぃ)

 

 えへへと笑うカイラを見てちょっと溜息をつきつつ、俺は昼食は何か作れないかを考える。

 

(う〜ん……でも味付けがなあ……調味料……あるんだろうか?)

 

「あ! いっとくけど料理ができないわけじゃないニャよ? 唯単純にめんどくさいだけで!」

 

「や、それはどうなの?!」

 

 どうもそのまま食べられる森の恵みが多すぎて、そのまま食べれるから料理をする必要性を感じないらしい。

 

(う〜ん、調理したものを食べたいなら……自分で作るしかないな……がんばってみよう!)

 

 気合をこめてぐっと握り拳をつくる俺。

 

「ん〜、おいしかった〜!」

 

「うん、そだね〜!」    

 

 二人で草原に寝転びながら伸びをする。  

 

 そして、寝転んだ俺達の視界に移る……太陽を受けて輝く森の木々の緑と、空の青。

 

 そして、風に流れ行く雲の白。

 

「……ねえ? ジン」

 

「ん? なあに? カイラ」

 

 そんな景色に見とれている俺に、ふとカイラが話しかけてきて─ 

 

「え〜っと……ジンって、何歳なの?」

 

「…………んと、6歳、だったかな」

 

 俺自身の事を聞きたいのだろうが、俺が一人でいた事を知っているので聞きずらいのだろう。

 

 カイラが控えめに俺に質問をしてくるのを聞きながらも、俺もまたこの世界に来た瞬間に6歳に((なってしまった|・・・・・・・))ので、なんとも微妙な受け答えになってしまう。

 

(……そうえば……転生しちゃったから……誕生日っていつなんだろ)

 

 6歳だと手紙に書いてあったから、年齢に関しては素直にそう変えせはしたのだが……。

 

「……((6歳だった|・・・))かな、だって?」

 

「ん? あ、うん。……俺……最近までの記憶が(転生のせいで)曖昧なんだよ……6歳っていうのは漠然とわかるんだけど……誕生日もわからないし……」

 

 俺の言葉に体を起こし、複雑そうな顔をするカイラが俺を心配そうな顔で俺を見つめ、俺はそんなカイラに大丈夫だから、と手をひらひらさせつつも事情を説明する。

 

「記憶が……?! じゃあ……」

 

「うん……ここにどうやって来たのかも(【((転生の門|ランダムゲート))】のせいで)わからないんだ……」

 

「そ……っか……」

 

 なんとも説明しにくい部分を隠しながらカイラにそう答えていくと、カイラが俺の傍へとやってきて─

 

ー柔 軟 抱 擁ー

 

「え?! ちょ! カイラ?!」

 

ー頭 撫 優 手ー

 

 カイラが後ろから俺を抱きしめて、慌てる俺の頭を優しく撫でる。

  

「……ん、じゃあ……じゃあさジン。アタシと出会った日を……誕生日にしなよ。記念にもなるだろうしね」

 

「……え?」

 

 後ろから抱き締められいるため、表情は伺えないが……ひどく優しく、悲しみにみちた声でそう提案してくるカイラ。

 

(そっか……そうだな。この世界に飛んできた日が……誕生日ともいえなくもないか……)

 

 俺は名前についで自分の誕生日も決める事になり……俺の誕生日は、現世での時刻でいう、6月1日となった。

 

「ありがと、カイラ。誕生日まで決めてくれて」

 

「ううん、気にしない気にしない! 誕生日おめでとう、ジン。アタシは……ジンと出会えて嬉しいよ?」

 

ー頭 擦 頬 擦ー

 

 そういいながらしきりに俺に頭や頬をこすり付けてくるカイラ。

 

 俺はそんなカイラの行動に思わず笑ってしまいながらも─ 

 

「か、カイラくすぐったいってもう! でも…………ほんと、ありがとうねカイラ」

 

「……ん♪」

 

 心からの感謝をカイラに告げ、しばらくカイラにされるがままに時が過ぎ─

 

「お? そろそろお昼時かニャ〜? ん〜……お昼は魚にするか! ジン、小屋から皮袋に入った調理器具セットを持ってきてくれないかニャ? ナイフとか鉄串とか入ってて結構重いから気おつけるんニャよ〜?」

 

「ん、わかった〜!」

 

 俺を解放したカイラがそんな事を頼んできたので、それに頷いて俺は小屋に向かうために木の蔓を掴んで小屋を目指して大樹を上っていく。

 

ー蔓 掴 上 昇ー

 

(く……やっぱり登りはきついか)

 

ー細 胞 活 性ー

 

 下りに比べ、きつい昇りの道にやや顔を顰めて上っていくが、最近ではおなじみになってきた軋むような感覚と共に……そのきついという感覚が緩和され、俺の体は進化していく。

 

 それは俺の上るスピードを徐々にあげていき……依然とは比べ物にならないほどの速度で小屋にたどり着く。

 

(ほんとすごいなこの体。……あ、いや……そんな事をしてる場合じゃないや。え〜っと調理器具……調理器具……あった、これだ!)

 

 自分の体にちょっと非常識さを感じつつも、俺は物置を探ってベルトつきの皮で腰に下げるように作られた厚い皮で出来たバッグを見つけだす。

 

 中には鉄串や皮の鞘に納まったナイフ、そしてフォークや木で出来た皿などが収められていた。

 

 子供の身ではとてもじゃないが腰に巻きつけられないので、おとなしく背負う事にし、襷掛けで胸の前でベルトを止める。

 

「よっと……!」

 

ー掴 手 下 降ー

 重さがかかった事で体に再び負荷がかかるものの、それもすぐ慣れて元のスピードと遜色ないスピードで俺は蔓を掴み、足をかけて木を降りていく。

 

「お〜、とってきたにゃ〜? おっし、それじゃ次は競争ニャ〜! アタシと出会った湖までいくよ〜!」

 

ー疾 風 疾 走ー

「あ?! 待ってよカイラ!」

 

ー追 走 疾 走ー 

 俺が降りてくるのをまっていたカイラが、俺の無事を確認して微笑み、即座に俺と出会った湖まで走り出す。

 

 俺もそんなカイラに慌てながらも追従し、背中にある調理道具が跳ねないように、体の上下運動をなるべく抑えて走っていった。

 

 時々カイラが肩越しに後ろにいる俺を確認しつつ、木々の合間を縫って迷い無く森を突き進んでいく。

 

 徐々にスピードを上げながら走り続けるカイラの背中を必死に追いすがって走り続ける俺。

 

 そして─

 

ー湖 面 煌 輝ー

「やっぱり……綺麗な湖だな」

 

「ん〜、そうだね〜」

 

 目の前に広がる、太陽の光が水面に反射されてキラキラと輝く、美しい湖。

 

「って、そういえば釣り道具はどうするの?」

 

「ニャ? 釣り? そんなのしないニャ。素もぐりでブスっとやるニャよ〜!」

 

(えっ?! 素もぐり……は、まあ……わかるけどブスってなんなの?)

 

 俺は調理器具は持ってきたものの、銛のような魚を取るようなものを持ってきていないことに疑問を覚え、首をかしげていると─

 

「ああ、こうやるニャ」

 

ー爪 伸 鋭 利ー

 カイラが手を手刀の形に構えるのと同時に、シャキーンという音と共にカイラの爪が伸びたのだ。

 

 俺が目を丸くして驚愕する中、得意げなカイラが伸びた爪を自慢しながら─

 

「これでブスっと突き刺すんニャよ!」

 

 そういってへっへ〜んと笑うカイラではあったのだが……。

 

「いや、俺それできないから!」

 

(いくら【((進化細胞|ラーニング))】だからって流石に爪は伸びないって……)

 

 俺が顔の前で左右に手を振りながらカイラにそう突っ込む。

 

「ニャ?! あ、あはははは! そ、そうだった」

 

 俺を【牙】族として扱っていたらしいカイラの顔に冷や汗が流れ、しまったーと表情に出した後、うんうんと唸りだす。

 

「う〜ん……あ、じゃあこれを使うよ」

 

 俺は背中から外した調理器具のバッグから、串焼きに使うのであろう、60cmぐらいの長さの鉄串を一本取り出して手にもつ。

 

「俺はこれでブスっと行く事にする」    

 

 そういって笑いかけながら、カイラに見せるように鉄串をもって突く練習をしてみせる。

 

 そんな俺に対して苦笑をうかべながらも、頬を爪を伸ばしていないほうの手でこりこりと掻くカイラ。

 

「ま、まあ今回はアタシのミスだから……ジンの分もとってあげるニャ!」

 

 そういいながらカイラが上着を脱ぎだすを見て、俺も自分のジャケットを脱ぐ。

 

 互いに身軽になった姿で湖の淵に立った瞬間、カイラの耳や尻尾を見て、ふと気になった事を尋ねてみた。

 

「んじゃいくかニャ〜?」

 

「……ねえ? カイラ」

 

「ん? 何? ジン」

 

 そう、今回は魚を素もぐりで獲るのである。

 

 つまりは、水に入り、もぐり、泳ぐ。

 

「……カイラって泳げるの?」

 

(猫って水が嫌いなイメージしかないんだけど……)

 

 前世にある記憶を辿り、思い出した事か出た素朴な疑問だったのではあるが─

 

「泳げない【牙】族なんて唯の猫ニャ」

 

「そ、そっか」

 

(どっかで聞いた台詞だな……)

 

 ふふん! と鼻で俺の言葉を笑いながら、なにやら効果音がつくようなほど胸を張るカイラ。

 

「それじゃ、今度こそ……いくニャ〜!」

 

「お〜!」

 

ー連 続 飛 込ー

 どぼ〜んという音と共に水飛沫をあげて湖に飛び込む俺達。

 

 す〜っと手馴れた動きで潜っていくカイラが、目の前を通る大きめな魚を視界に捉えると、右手を構えて─

 

ー爪 伸 刺 突ー

 右手を伸ばすのと同時にカイラの爪が魚の胴体を貫いた。

 

 瞬く間の早業に思わず呆然としていると、俺のほうを見てにかっと微笑み、魚を置くために湖面に浮上していくカイラ。

 

(……流石だな……!……なら俺も……) 

 

 俺も目の前を通る魚を後ろから追いかけ、口に加えていた鉄串を右手に持ち替えて─

 

(おりゃ〜!)

 

ー鈍 突 回 避ー

 俺の気配と、攻撃を感じた魚が、俺の水圧でうまくつけない鉄串を悠々と避けて逃げていく。

 

(む〜〜! 難しい!) 

 

 そう水圧。

 

 潜水している今、俺の体全身にかかる水圧が、俺の動き全てを阻害していた。

 

 突き出す腕に負荷がかかり、そのスピードが圧倒的に落ちるのだ。

 

(う〜ん、これはかなり厳しいな……もっと工夫して……)

 

 そう考え込む俺の目の前で、動かない俺の目の前を通り過ぎようとしている魚を視界に捕らえ─

 

(水の抵抗を極力少なくして……コンパクトな振りで、スクリューのように捻って推進力を得る!)

 

 俺の射程内に入る瞬間を狙い、集中力を高めて─

 

(ふっ!)

 

ー鋭 捻 刺 突ー

 先ほどより早い突きが繰り出されるが─

 

ー刺 突 回 避ー

 そんな俺の刺突をギリギリで回避して逃げていく魚。

 

ー爪 伸 刺 突ー

 そして俺がしとめ損なって顔を顰めるの視線の先で、静かに魚の後ろから近寄り、最小限の動きで魚をしとめるカイラ。

 

 自分の動きを俺に伝えるためだけに、俺の目の前で実践をして軽く頷き、再び湖面へと浮上していくカイラ。

 

(そうか、まずは視線に入らない事、そして突きをもっと鋭く、コンパクトに……)

 

 魚は真横に目がついているため、普通よりも視界が広く周囲を見渡しやすいのだ。

 

 真横にいた俺が動けば当然それに反応できるわけで……その事を理解した俺は、再び見つけた魚の後ろに回り込む。

 

(視界の後ろに入って、その視界に入らないように集中して─)

 

 目の前で悠々と泳ぐ魚に対して─

 

(水の抵抗のない、最小限の動きで……突く!)

 

ー鋭 突 刺 突ー

 抉りこむように先ほどとは段違いのスピードを見せる俺の刺突が、目の前の魚を後ろから一直線に前へと突き抜ける。

 

 綺麗に鉄串に刺さった魚を見て俺は─

 

(やた! やったーってくるっくるし!)

 

ー空 気 吐 出ー

 思わずはしゃぎすぎて空気を一気に吐き出してしまった俺は、魚を手に空気を求めて一直線に湖面へと浮上していく。

 

ー湖 面 顔 出ー

「ぷっ……すううああああああああああ、ふううううう……」 

 

 そして俺は水面に出た瞬間、自分の体が求めるままに大きく深呼吸をして、体に酸素を送り込む。

 

「じ、ジン?! 大丈夫かニャ?!」

 

 カイラがあまりにも長く潜水をしていた俺を心配そうな顔で見つめていたが─

 

「カイラ! やった! やったよ!」

 

ー刺 魚 水 揚ー

 ザバッっという音と共に串刺しにした魚を水から引き上げ、笑顔を浮かべてカイラに見せ付ける俺。

 

 その顔には笑顔が浮かぶ。

 

「?! お、おお〜?! もう取れたのかにゃ?! ジンはすごいニャ〜!」

 

 カイラがそんな俺に驚愕していたが……俺の笑顔につられるかのように笑顔を見せ、そんなカイラに俺は意気揚々と魚を持ってキャンプに向かう。

 

 カイラはすでに5匹ほど魚をしとめていて、俺がこの世界に来た時に敷物代わりに敷いた大きな葉の上に魚を並べていた。

 

 俺は早速、調理器具の中からナイフを取り出し、魚の腹を切り開いて内臓を取り、水で洗って─

 

(っ、そうだ! 湖! ここなら─)

 

 と、そこまで処理した瞬間、俺はふと前の知識の中から思い出した知識を参考に、【((解析|アナライズ))】と【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】を駆使して検索する。

 

(『【((検索|アナライズ))】開始……検索完了。現在位置より10m離れた─』)

 

「ジン?」

 

「ん、ちょっとまっててねカイラ。魚の下ごしらえしといてくれる?」

 

「? わかったニャ」

 

 俺はそういって検索結果先に真っ直ぐ進んでいき、首をかしげるカイラをおいて俺は目的のものを探し出す。

 

 そして─

 

「あった、これかあ! 結構大きいな……」

 

 俺の目の前にあるのは、青い岩。

 

 そう、結晶化した塩の塊、岩塩だった。

 

「っへへ〜、発見、湖塩……いや、岩塩っていったほうがいいかな?」

 

ー持 抱 持 上ー

 

 一抱えほどあるそれを持ち上げ、俺はカイラのいる場所へと急ぐ。

 

「ニャ? ジンそんな綺麗な岩なんて持ってどうしたニャ?」

 

「へへ〜、これ食べれるんだよカイラ。っと、ほら、ちょっとなめてみな?」

 

ー一 欠 削 出ー

 

 ナイフで少し削った岩塩をそっとカイラに差し出す。

 

「え〜? 石にゃよ? まあいいか……」

 

 そしてカイラがおもむろにひょいっと口にその人かけらを放り込む。

 

ー口 内 舌 転ー

 

 その瞬間─

 

「……うえっぺ!ぺ! しょ、しょっぱあああああい!」

 

ー疾 走 飲 水ー

 

 口から岩塩の欠片を吐き出し、舌をだしてぺっぺと口から出した後、涙目で湖に走り、水を呑みだすカイラ。

 

「あっはは! っと、魚に塩をかけてっと……」

 

「な! なななな何するニャアアアア! ジン!」

 

 そんなカイラを横目に、下処理をして葉の上に並べられた魚の上に、ナイフで丁寧に細かく削った岩塩を振りかけていく。

 

 そして、ようやく口の中の辛さが収まったのか、その目を三角にして涙目になり、ぶんぶんと尻尾をふって抗議するカイラ。

 

「あはは、ごめんごめん! 魚だけでも美味しいとは思うけど、塩ぐらいは振っておきたいんだよね〜!」

 

 カイラが準備してくれていた、落ちた枝を集めて枯れ葉を中央においてある焚き火に、調理道具の中から火打石を取り出し─

 

ー火 打 火 花ー

 

 着荷させるための小さな火花が火打石から出るものの、中々火がつくまではいかず─

 

(むむ……難しいな……)

 

ー火 打 火 花ー

 

 【((解析|アナライズ))】を駆使し、何度か火打石を打ち付けて大きく火の出る位置を確認して─

 

ー火 打 強 打ー

 

 一番強く火花の出る部分を見つけて少し強く火打石を打ち付ける。

 

ー火 花 着 火ー

 

 その大きな火花が枯れ葉に引火し、徐々に火が大きくなっていく。

 

ー木 材 燃 焼ー

 

 パチパチという音と共に火が徐々に大きくなり、俺はその周りに串にさした魚を並べていく。

 

「まったく、酷い目にあったニャ、ジン!」

 

「ごめんって、美味しく焼くから勘弁してよ〜」

 

「む〜!」

 

 未だにプンプンと怒るカイラを宥めながら、細かく丁寧に魚をひっくり返していく。

 

 魚の焼ける香ばしく美味しい匂いによって、怒っていた顔が徐々にゆるんでいき、涎を出すほどのだらしない顔になっていく。

  

「カイラ、涎涎!」

 

「ニャ?! ふ、ふん、まだまだだニャ!」

 

(強がりをいってもその尻尾と耳は正直だな……!)

 

 思い切りぶんぶんぴこぴこと動く耳と尻尾に和みながらも、俺は焼けた魚の一本をカイラに差し出す。

 

「はい、カイ「にゃっは〜! いただきま〜〜〜す!」うおおお?!」

 

ー焼 魚 噛 付ー

 

「あつ! でも……にゅっふ〜! 塩加減がいい感じニャ〜♪」

 

 一瞬熱さで顔を顰めるも、ほくほくと嬉しそうな顔で魚を食べるカイラに俺も嬉しくなりながら一緒に焼けた魚を食べる。

 

 調理器具に入っていた木のコップに水を汲んで呑みつつ、俺達はシンプルだけど、久々に調味料をつかった食事を頂くのだった。

 

 

 

 

 

『ステータス更新。追加スキルを含め表示します』

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    6歳

種族    人間?

身長    102cm

体重    27kg

 

【師匠】

 

カイラ=ル=ルカ NEW

 

【基本能力】

 

筋力    DDD⇒C NEW

耐久力   DD⇒C NEW

速力    C⇒CC NEW

知力    DD⇒C NEW

精神力   DD⇒C NEW

魔力    D

気力    D

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

サバイバル C⇒B NEW

薬草知識  C⇒B NEW

食材知識  C⇒B NEW

 

【運動系スキル】

 

水泳    C⇒B NEW

 

【作成系スキル】

 

料理    C

 

【戦闘系スキル】

 

格闘    D

リキトア流皇牙王殺法 D

 

【魔術系スキル】

 

無し

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S ⇒SS⇒SSS⇒EX- 

最優    A ⇒AA⇒AAA⇒S-  

優秀    B ⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C ⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D ⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E ⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F ⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

衣服一式

説明
 緑深い森林の奥地に転生・転送させられた俺。

 いきなり遭難という現実に頭を抱えつつも、与えられた能力に助けられ食料を確保し、野営の準備を終えた俺は、早速とばかりに自らの能力を確認する。

 【((進化細胞|ラーニング))】の能力を確認しながらも、唐突に一人の寂しさに襲われつつも果物を採取しようと森に入ったのだが、突然木々の葉に眼が開くというホラーな事態に巻き込まれる。

 俺を容赦なく拘束する土と木の拳たちと、そこに現れる森の管理者と名乗る獣少女……【四天滅殺】【リキトア流皇牙王殺法】カイラ=ル=ルカ。

 これが俺とカイラとの出会いだった。

※ルビ治しました〜!
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