IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第二十四話〜対話の果てに
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 ずっと座り込んでいる私の目の前にはあの深紅のIS――ナイチンゲールがいる。福音の感覚はなくなったから倒したと思うけど、このISからは叫び声が聞こえてくる。無理やり戦場にだされて亡くなった人たち。忠誠を誓った人の為に亡くなった人たち。そんな命の光を無残にも散らしてしまった人の叫びが頭に響いてくる。

 

 怖い。死んだ人の、憎しみや妬み。人の心を闇に連れ込むほど深い深い闇。このISはそれらを背負って此処にいると思うと、さらに恐怖を感じてしまう。

 

[君のその感じ方、カミ―ユやクェスに――織斑光輝にも似ている。もう可能性など……!]

「光輝……くん? 可能性?」

 

 とにかく逃げたいのに足が竦んで動けない。一体何を言ってるの……?

 

[君や光輝は純粋だ。だからこそ言う。一人で溜め込むな]

「そ、それってどういう――」

「エリスさんっ!」

 

 その声にハッとして振り向けばνガンダムを纏った光輝くんがこっちに向かって来ていた。でもいつものような元気を感じられない。身体の限界がきているのか、それともなにかあったの?

 

「大丈夫、エリスさん?」

 

 そう言いながら私の隣に降り立った。

 

「私はいいの。問題は光輝くんだよ……」

「僕なら大丈夫。だから心配しないで。 ね?」

「だ、ダメ!」

 

 私は足が竦んだ状態で精一杯光輝くんの足にしがみ付いた。そんな状態でいったらダメだよ……。

 

「私、感じるんだ。光輝くんが無理してるのを……。ここから逃げよう? 無理に戦う必要なんてないから……」

「そうだね。無理に戦う必要なんてないさ。僕は話に来たんだ」

「え?」

 

 戦うのではなく、話し合いに? 相手はちゃんと応じてくれるの?

 

[話し合いか。そもそも心の闇を真っ向に受けて、よく立ち直れたものだ]

「それはみんなが助けてくれたからです。暗闇の中、光も届かない場所でいろんな人の叫びを聞いて、絶望して、死にそうだった僕の心に光が現れました。人は戦うことでしか分かり合えない。戦ったとしても確実に分かりあえると言う訳じゃない。だから僕は一度、光を拒絶しました」

 

 私はしがみついていた足をゆっくり離した。やっぱり、闇は怖いものだよ。光輝くんですら屈服したんだから……。

 

「でも僕は光に助けられました。人の心の光、人の心の闇。この二つを受け入れること。そして……僕はみんなの声を聞きました。闇の中で受け入れることも拒んでいたけど、僕は一人じゃないって。みんなが居てくれるって分かったから。それだけで嬉しかった。その想いが光も闇も受け入れるようになると。すぐには無理だけど、少しずづなら……」

 

 光輝くんの声が震えている。自分はもう一人じゃないという嬉しさに泣いている。仲間いてくれるからが強くなれる。闇をも受け入れることが出来る勇気をくれる。その声に私の胸が高鳴る。

 

「私も――私も勇気が欲しい。闇の部分も受け入れる勇気が……」

[大丈夫だよ。人は生きてる限り一人じゃない。仲間がいればどんなものにも立ち向かえる勇気が湧いてくるよ]

 

 アムロさんの言う通りだ。私にはクラスメイトのみんなや他の組の友達がいる! 何より、好きな人が、光輝くんがいるから!

 

「私、頑張って受け入れるよ。すぐにでは無理でも少しづつなら……!」

「うん。それでこそエリスさんだね」

 

 光輝くんは今までで一番の笑顔を見せてくれた。夕日の光がまるで光輝くんを優しく包み込んでいるようで、その姿は凄くカッコよかった。

 

 

 

[それならカミ―ユみたいになることはないか……。だが、光を見せても人は変わらないさ]

[シャア、貴方は急ぎ過ぎてるんだ。この二人のように少しづつその輪を広げていけば――]

[いくら暖かみを感じても人は変わらない……それをわかるんだよ!]

 

 シャアの哀しみを光輝とエリスは感じていた。シャア自身、暖かみを感じて人を信じていたのに、人が変わることはなかった……。

 

「そんなことない!」

 

 二人と一機から離れた所からそう叫ぶ声が一つと影が五つ。光輝エリスがその方向に向けば――

 

「私はあの光の――暖かみのおかげで自分を見つけることが出来た!」

「あの光は凄く綺麗で、心が安らいだんだよ」

「光輝は悲しみも優しさも人の想いも分かってる!」

「私に本当の強さを教えてくれた光輝さんはあなたなんかに負けませんわ!」

「あの虹の架け橋は人と人を繋ぐ光。それは並大抵じゃ立ち切ることなどできない!」

 

 専用機持ち五人のヒロインズが夕日に照らされ、機体の色と混ざり合う。そして。夕日の色に染まっているISが一機。純白の白は何者も受け入れる……。

 

「零落白夜にあの光が纏った時に感じた暖かみはいつまでも忘れることのできない……いろんな人の暖かみを感じたんだ。それを受ければ誰とだって分かりあえるんだよ!」

 

 専用機全員がここに集い、それぞれの想いをシャアにぶつける。

 

[君達の瞳は純粋だな。光輝君から渡った心の光をちゃんと理解している。だが人間がみんな分かりあえるなど、ありえないさ]

[シャア、まだそんなことを言うか! この子たちの内なる可能性を信じろ! この世界はISの影響で女尊男卑になっているが、この子たちのような気持ちを持つものが増えれば世界は――人は変わっていける!]

[だったら私に見せてみせろ! 人の心の光を! この闇を打ち破れるかな?]

 

 ナイチンゲール――シャアの周りに黒いオーラが溢れている。人の心の闇を具現化していて、それは一夏たちにも見えていた。

 

「あれがあのISの闇なのか? アムロさん、一体どうするんだよ!?」

[大丈夫だ、一夏。光輝、分かるね?]

「はい! シャアさんに僕達の想いを!」

 

 νガンダムを纏った光輝からも緑の光が溢れている。νガンダムもナイチンゲールもそれぞれから緊迫した空気が流れている。他の七人はそれを見届けることしかできない。これは光輝の覚悟でもあるからだ。

 

 二機は同時に瞬間加速を行い、ガシィン! という音を立て、お互いに手を押し合う形になった。同時に緑と黒のオーラが周りに拡散する。

 

「貴方にだって分かっているはずです……この想いがあれば人と人は分かりあっていけると!」

[だが君のような暖かみを持ったとしても、人はお互いを傷つける。それを分かるんだよ! 光輝!]

「分かってます! だから――」

[だからこそ――]

「[世界に人の心の光を見せなけりゃならないんでしょ(だろ)!?]」

「……っ!」

 

 オーラは二人を中心に広がっているが光が闇を包み込んでいく。無闇に消すのではなく、闇をも受け入れる強さを……。光輝は今まさに人の心の闇すら受け入れている。

 

「あの悲しみの籠った叫びが消えていく……? それに光が……」

[闇が……消えていく。それに暖かな光が、包んでいく?]

 

 光が周辺の領域を包み込み、またたく間に周辺は心の光でいっぱいになる。まるでアクシズ・ショックにも似ている。

 

 二人は自然と押し合いを止め、静止している。光輝や専用機組は驚きから周りを見渡している。

 

[これはまるで……]

[アクシズを包んだ時と同じじゃないか……]

「アクシズって――うわっ! な、にこれ……」」

 

 突然、光輝が光の繭に包まれる。しかし光輝は不思議と恐怖は感じずに安らぎを感じ、そして徐々に意識を失っていった……。

 

 

 

「ここは宇宙、なの?」

 

 目が覚めてここが宇宙なのだとすぐに分かった。だって地球が見えるんだもん。

 

「青くて綺麗だね。でも地球を包んでいるあの光ってまさか……」

 

 そう。地球の周りにあの光――人の心の光が漂っているのだ。アムロさんの話していたアクシズを押し返した時のことだろうか。地球を包むかのような光は鮮やかなカーテンみたいだ。見惚れていると後ろから声をかけられた。

 

[あれが全部、サイコフレームのおかげだとは思いたくないな]

 

 振り返ればそこにはアムロさんがいた。軍の制服らしきものを着ていて、如何にも軍人って感じがするけど、あまり似合ってない……と思う。

 

「サイコフレーム?」

[簡単に言えば機体の性能を上げるものだよ。でもまだ謎の部分が多くてね、なぜか人の意志を共鳴して未知のエネルギーを発するんだ。現に君も体験したはずだよ。あの暖かみを具現化できたのもサイコフレームの力だが……全部が全部そうは思いたくないね]

「確かにそうですね……。でもそう想う心があったからこそ反応してくれたんじゃないですか?」

[確かにそうかもしれないな。それは人の力だね]

「シャアさんにも見せたかった……人は力を合わせば、どんなことだって乗り越えられるって」

[さっきシャアに会ってな、また人を信じれるかもしれない。そのきっかけを作ってくれた光輝君にお礼を伝えてくれ、と言われたよ]

 

 あのシャアさんが……? そっか、僕達は分かりあえたってことなのかな? それが嬉しくて僕は自然と顔が弛んでしまった。

 

「その純粋な君の気持ちが人を照らしていく。そして君の強さでもある。君なら力の使い方を分かっているはずだから、これを授ける。光と闇を受け入れて、本当の意味を知った君なら……」

 

 そのアムロさんの声とともに周りがバッと光る。眩し過ぎて眼を開けられないけど

 

「ニュータイプは戦いの道具ではないことを忘れないでね」

 

 そう言う女性の声を聞き、僕は――

 

 

 

 繭に包まれてから数分。未だに変化はなく、エリス以外は心配していた。光輝はどうなってしまったのか? そしてナイチンゲールも動かない。攻撃するべきなのか?

 

「エリス! 光輝はどうなってるんだ!?」

「わ、分からないよ。ただ、無事なのは確かだよ。あの繭から凄い暖かみを感じるから。それにあのISは待っているようだよ?」

「待ってるって何を!?」

「分からない……っ! 光輝くんっ!」

 

 そうエリスが叫んだ瞬間、繭が解かれていく。その中からでてきたものに全員が驚愕した。

 

 まず目につくのは翼のようなものが背中に着いているが良く見ればフィンファンネルで、左右のフィンネルラックに装備されている。背中の中央にスタビレーター、その下にスラスター、プロペラタンクが装備されている。青と白の二色の装飾はシンプルで綺麗だ。天使のようなその姿は見たものを魅了するほどのものがある。

 

[それは……二次移行、か]

「そうです。νガンダムが二次移行した姿、 HI−νガンダムです!」

 

説明
福音を倒した三人だが、光輝は一人でエリスを助けるために急ぐ。そこでシャアに想いをぶつける……! νガンダムにも変化が!
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心の闇 心の光 インフィニット・ストラトス 

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