戦姫絶唱シンフォギア 〜騎狼の絶咆〜 2節 
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2節 「Neue zwingen」

 

 

―――Was gleicht wohl auf Erden dem Jagervergnugen?

―――Wem sprudelt der Becher des Lebens so reich?

―――Beim Klange der Hurner im Gr?nen zu liegen,

―――den Hirsch zu verfolgen durch Dickicht und Teich,

 

 

私の中で残響する、1つの歌。狩人が―――魂を食らう獣が血に塗れ、それでも尚歌い続けた歌。

私の師であるあの人は言った。これはお前らのように、人を魅せる歌ではない。魂を贈る唄だ=\――そう言っていた。……わからない。英語ではないらしく歌詞の内容がわからないのもあるが、私には言葉の意味がわからなかった。

何故あの人はこの唄を歌う時、あれほどまでに澄んだ目をしているのか、何故動きが格段に変わるのか。理解ができない。

 

 

「…………私です」

 

 

ポケットで震えていた携帯を取り出し、静かに答えを返した。

またノイズが出たらしい。それほど驚くことでもない。いつものように本部へ趣き、場所を知り、向かうだけ。

小走りでエレベーターに向かい、その身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

†★†★†★†★†★†★†★†★†★†★

 

 

 

 

 

「……………………また、ノイズか」

 

 

本部で状況を見ていた俺は、そう反応するしかできなかった。

ノイズなど慣れたものだ。あの異色のノイズ以外は……な。黒く変色するノイズなど聞いたことがない。そもそも変色が自由なのは知っているが、あいつらは大抵決まった色にしかならない。

だというのに……黒、か。

 

 

「場所が絞り込めたら向かってくれ。今回も期待している」

 

「……やめておけ。俺はいつ、過去の過ちを繰り返すかわからんぞ」

 

「あれは奏の決めたことだ。お前の責任ではない」

 

「俺の((責任|せい))さ。俺が……出し惜しみをしなければよかっただけだ」

 

 

今更悔やんでもどうにもならない。そんなことはわかっているさ。わかっていても……後悔はやめられない。

事実に変わりはないのだからな。あれは俺の不注意だ。

 

 

「俺は今回戦力になれるかわからん。新武装の実戦実験をしたい」

 

「新武装? また何か作ったのか」

 

「ああ。今まで反動が強烈故一般化できなかったのだが、その効力を限界まで落とし、尚且つ下げた威力を覆す制圧力のある武装だ」

 

「……それには、期待してもいいんだろうな?」

 

「なんとも言えん。使用には制限がかかるし、量産も容易ではない。……実験へ行ってくる」

 

 

すぐ近くで発生しているノイズの下へ向かい、((絶対の十字架|フル・クロス))を展開せずに紙とペンを持って歩み寄る。まずは俺の耐久性の実験だ。危険と感じればノイズを殺せばいい。

バル○ン星人のようなノイズが道端にいたので、そいつらの真ん中へ行って立ちすくむ。こいつらは攻撃ということをしてこない。せいぜい道を阻むか体当たりをするか、その程度だ。

体を抑えられた状態で計測を開始し、体の各部に異常がないか常に調べ続けた。

 

 

「…………ノイズの個体差による炭化開始への時間差は無し。ほぼ同等の性能を持ち、形態による行動パターンの変化あり……。しかし特性である炭化・及び変形などに異変は無い……」

 

 

20秒ほど経過した時、俺ではなくノイズの方が炭化してしまった。どうやら1体あたりが炭化させる事のできる質量、及び効力は人一人分らしい。……しかし、俺とて無傷ではない。流石に指先の感覚が危ういな。

2つのノイズに挟まれたので、片方を押し返す。一体ずつ検証したいのだ。

 

―――押し返す? いや待て、押し返せた?

ノイズは……触れられないのでは? …………どういうことだ。これでは俺の仮説は破綻する。よもやノイズとは存在の塊≠ナはないのか?

…………これは、追加実験が必要だな。

 

 

「言われてみればおかしいものさ。我々は奴らに触れられない。しかし攻撃を受けた時、もがけば奴らも押されるように動いていた。……それに、攻撃を受けるということは触れているということだしな」

 

 

いくらかの矛盾点。

これは……希望の光が見えなくもないな。

 

 

「……さあ実験だ。これは楽しみが増えたな」

 

 

まずは武器による打撃だ。

持っていたボールペンを逆手に構え、ノイズがこちらに触れる瞬間に突き出す。―――ヒット。破壊はできなかったにしろ、ノイズは怯んだ。

タイミングをずらしてもう1度、2度と繰り返す。

早すぎても当たらないし、遅くても当たらない。どうやらノイズがこちらに触れると認識した一瞬だけのようだな。

 

 

「ボールペンによる刺突は護身程度か……。素手も試すか」

 

 

―――ッ!

 

…………驚いた。まさか突進してくるとはな。

しかし、今の一撃でノイズを破壊できた。これは貴重な情報だな。弦十郎に報告だけでもしておくか。

支給されていた通信機で弦十郎につなぎ、群がるノイズを相手にせずに避け続ける。

 

 

「弦十郎、どうやらノイズにも打撃が通じるようだなッ」

 

『知らなかったのか?』

 

「今実験していたのだが、まさか通用しようとは―――ア?」

 

『それは既に櫻井理論で証明されているぞ。読んでいなかったのか?』

 

「………………………………ア?」

 

『……昔お前にデータを渡したはずだが』

 

「…………」

 

『…………』

 

「…………」

 

『…………読んでいなかったのか』

 

 

………………………………ア?

まさか、そのまさかか……? 確かに昔渡された覚えはあるが、読まずに捨てた覚えもある。では俺の開発してきた武装は……一体……。

 

 

『……いいんじゃないか? 有効であることに変わりはないだろ?』

 

「いや、まあ……そうだが。なにか……俺はこの20年近くを無駄に過ごしていたのか?」

 

『…………無駄と言うな』

 

「……はぁ。わかった。もういい。一度戻る」

 

 

戻る途中に端末へ櫻井理論を送ってもらい、エレベーターの中で読み返した。

位相差障壁―――別世界にまたがった存在であるノイズには云々……。つまり、これのせいで物理攻撃が通用しない、ということらしい。

…………うわ、俺の努力半分くらい無駄じゃねェか。

他にも俺が疑問に思っていたことも書いてあった。クソが。渡された時素直に読んでおけばよかった。労力の無駄だ。

 

 

「弦十郎!」

 

「……どうした」

 

「こういう項目が書いてあるのならさっさと言え……!!」

 

 

逆切れだが文句のある奴は手を上げろ。

ふむ……今度からは俺も他人の書物には目を向けるとしよう。

これでは死の可能性を上げてしまう。

 

 

「…………まあいい。これは俺のミスだ。……で、この空気はなんだ」

 

 

何故か本部が静まり返っている。

……む、翼は……いた。なぜうつむいている?

 

 

「アレをみろ」

 

「―――?」

 

 

顎先で示された方を見てみると、メインモニタにデカデカとアルファベットが書かれていた。

GUNGNIR………………ガングニール!? 馬鹿な! 何故あの反応が!?

 

 

「どういうことだ弦十郎!」

 

「見ての通りだ。我々にもわからん」

 

「馬鹿な……何故ガングニールが……!」

 

 

…………クソッ!

だからか。道理で翼が機能していないわけだ。よもやこの名を出されて正気でいられるわけもない。あいつにとって、それだけ大きな名だ……。

俺が行くしかあるまい。こうなった以上………………こういう時こそ俺が行かねば。

 

 

「弦十郎、ヘリの用意はできるかッ」

 

「手配はしてある。だがお前1人で行く気か?」

 

「当たり前だ。何の為に俺が雇われて―――」

 

 

―――ドクンッ

 

 

「ッ…………!?」

 

 

…………何が起きた。

何かの……鼓動? わからん。だが……何故だ。なぜ……焦点が合わない?

体に力が入らん。立っているのか? 今俺は何を見ている? なにをしている!? ……なんだ……! なにが起きた!

 

 

「どうした!!」

 

「………………なんだ……? 力が……入らん!」

 

 

血が流れ出た。

喉を走るこの感触はそうだ。内部からこみ上げる流血に耐え切れなくなり、吐血したときの感覚。

……俺は、俺に何が起きている?

 

 

「弦十郎! 俺は今五感のうち視覚と聴覚が機能していないのかもしれん! ……俺の外見に変化があれば肩を1度叩け。変化がなければ2度だ!」

 

「体を起こせ! いいな!」

 

 

返事が聞こえない。

マズいな。聴覚と視覚が麻痺するなど致命傷だ。これでは……戦えんぞ。全盲で戦う者など聞いたことがない……!

トン、トン……。合図は2度、つまり変化が無いということ……。なんだ、何が起きた! 何故このような時に限って俺は戦えない!!

 

 

「大丈夫か、銀狼ッ」

 

「…………弦十郎、目は……俺の右目はどうなっている!」

 

 

触覚を頼りに眼帯を外し、されるがままに腕で首を動かされる。

触覚と嗅覚は正常だ。味覚などどうでもいい。しかし……!

 

 

「右目……。なんだこれは! どうなっている!?」

 

「なになにっ、なにが起きたのよ!」

 

「なにが……あった。なにか異変があったのか、おい!」

 

 

―――ドクンッ……

 

再びの激しい鼓動。

駄目だ。この鼓動が聞こえる度に……力が入らなくなる。俺の心音ではない。一体……なんの……!?

 

 

「司令! 新しい反応が出ました! すぐ近くです!」

 

「なんのだ!」

 

「これは……ノイズじゃない、聖遺物の反応です! 管理番号ありません!!」

 

「場所を特定しろ!」

 

「……………………出ました……! 丁度……ここです!」

 

 

なにも……聞こえない。何が起きている。

翼は立ち直れたのか? もう向かっているのか? それとも新たなノイズが出たのか? なんなんだ……ハッキリしてくれ!

 

 

「司令、彼から……銀狼さんから反応が出ています! 天羽々斬にも引けをとならない巨大な反応です!」

 

「んなっ……こいつからだと!?」

 

「どういうことよそれぇっ!」

 

 

―――ドグンッ!

 

…………!?

強烈な一撃。胴全体を圧迫されるような、呼吸の止まる衝撃だった。……また、血を吐いている感触がする。

何が起きているのか、せめて視覚だけでも回復すれば……!

これでは俺は戦えない…………防人の、その覚悟を試さねばならんのか……!?

 

 

「翼! そこにいるのならこちらへこい!」

 

 

ビクッ、と、誰かの気配が揺らいだ。よかった、ある程度の気配探知は未だに機能しているようだな……。

細い指が俺の手を握ってきたので、俺もその手を握り返す。

 

 

「すまない……こういう時にこそ力になるのが俺の役目だが、今はそうも言っていられない状況になってしまった。今から俺の言うことを胸に刻め。言いたくは無かったが……防人として、最も重要であり、不要なことだ」

 

「どういうこと……ですか」

 

「いいか、防人―――つまりお前は『剣』だ。それは決して風鳴翼ではない。それを忘れるな」

 

「………………防人……剣としての、役割」

 

「弦十郎! こいつに……翼にノイズの位置を知らせてくれ。今の俺には何もできない。今この言葉がお前らに届いているのかも……わからない……!」

 

 

ドグンッ!

 

 

「―――………………がはっ……!?」

 

 

呼吸ができない。

息を吸おうとしても、履くことができない。これでは過呼吸で……!

クソ……クソックソックソォッ!! 何故だ! 何故俺はこういう時に限って無力になる! 何故だ……教えてくれ!!

 

 

 ド ク ン … …

 

 

……………………ああ、クソッ……………………なんだこの衝撃は……。受けたことのない……痛みだ……。

この時、俺は既に意識を手放していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ウヌは我らに何を求める』

 

 

…………意味がわからん。

目を開けたそこは、一面灰色の世界だった。色の区別は僅かな濃淡のみで、おおよそ蛍光色などというものはどこにも見当たらなかった。……どういうことだ。というかここはどこだ。

見渡す限り灰色の大地と空。それに地に突き刺さった数多の武器。刀であったり槍であったり、銃であったり砲弾であったり。何がなんだか理解できん。武器に統一性が全くない。

 

 

「…………砂漠……とは、少し違うのか」

 

 

寝ていた体を起こし、まとわりつく砂を払い落とす。

足元はしっかりしているのに砂だ。蹴れば舞い上がるし、掴めばサラサラと崩れていく。まるで抑揚のない現実に見える。どれだけ求めても掴むことのできない、形なき夢。

 

 

「これは……。あいつの使っていた槍、か……?」

 

 

大きな矢印のような槍。剣になり、槍となり、時には射程武器にもなった槍。―――これは、ガングニールが……奏が使っていたアームドギアだ。

周りを注視してみれば、見覚えのある武器ばかりだ。かつての戦友が使っていた散弾銃であったり、グローブのような武器であったり、戦斧であったり……。

なにが起きている。ここは……なんの世界だ。

 

 

『ウヌの見てきた世界だ』

 

「誰だッ!」

 

 

唐突に聞こえた声。

見た限り人はいない。音声の出るような装置も見当たらない。どういう……ことだ。

 

 

『我らはウヌらに縛られてきた。しかし、それもここまでのこと』

 

「何が言いたい。俺達がお前らを閉じ込めていたとでも言うのか」

 

『否。我らはウヌらに力を奪われていた』

 

「力を……? 教えてくれ、お前は何者だ。何を望む」

 

『対等な立場を望む』

 

「…………対等?」

 

『我らはウヌらを嫌っているわけではない』

 

「……何者かを教えろ」

 

『我らは常にウヌらと共にいた』

 

 

俺達と、共に……?

声の主は感情の無いかのように、淡々と話し続けた。まとめるとこういうことらしい。

  常に共にいたというのに俺達人間は我らを下に見て、その力を引き出そうとしない。我らは俺達を助けたい。だがそれが通じない。使われている限り―――

ということらしい。

 

 

「―――久しぶりだな、オオカミさん」

 

「ッ…………。その声、まさか……」

 

 

ふと、後ろから重みを感じた。

誰かに寄りかかられたような、苦にならない……安堵すらも覚える重み……。

 

 

「毎日毎日、泣いてくれてありがとうな」

 

「……見えていたのか」

 

「あんたが泣いた時だけ、こっちと空間が繋がってるみてぇなんだ。その度に声が聞こえて……」

 

「……………………どうやら、かなり恥ずかしい場面を晒していたようだな」

 

「嬉しかったさ。いつもいつもそれだけが楽しみで、次はいつになったら会えるんだろうって思ってた」

 

「……フン。いつでも会えるさ。((双翼の小鳥|ツヴァイウィング))を守る隼だからな、俺は」

 

「…………だな。そう……だよな」

 

 

小さな……啜り声。

ああ、泣いているのか。わざわざ……俺のような狼のために。

 

 

「見るなっ。見ないで……くれ」

 

「……見えないさ、ここからでは」

 

 

ふと振り返り、弱みを隠そうとする彼女の体を抱きとめた。

シンフォギアを身にまとう彼女は強くあろうとした。だが人間だ。弱みもある。

 

 

「なあ、あたしの夢……覚えてるか?」

 

「ああ。心の体も空にして歌いたい……そうだろう」

 

「そっちじゃなくてだよっ」

 

 

少し慌てたような声。

その反応が楽しくて、つい苦笑してしまう。

 

 

「……知らんな」

 

「…………意地悪すんな」

 

「お前の夢は……ここでなく、現実で教えてくれ。俺もそのほうが対応しやすい」

 

 

離れ際に彼女の頭を撫で、静かに下がった。

ここは現実ではない。仮想世界の中でうつつを抜かしても意味はない。

 

 

「オオカミさん―――いや、隼人さん」

 

「……なんだ」

 

「これを持ってってくれ」

 

 

こちらを向いた彼女は刺さっていた槍を取り、俺に渡してきた。

激槍ガングニール。前に阻むもの全てを薙ぎ払う槍。奏の使っていたアームドギアだ。

 

 

『ウヌよ、我らが同胞を持て』

 

「……どういうことだ、お前ら」

 

 

これはシンフォギア≠セ。

俺は適合者ではないし、シンフォギアをつかうなどもってのほか。

不可能だ。

 

 

「あんたの武器は確かに強力だ。けど実用的じゃない。だからあたしの力を使ってくれ」

 

「…………無理だ。俺は聖遺物を持っていないし、適合者でもない。シンフォギアは使えん」

 

「違う、それは。あんたは力を持ってる」

 

『我らはウヌに使われるのではない。ウヌは我らが使うのでもない』

 

 

力そのものはあるのだろう。だがそれは、ノイズに対する力ではない。

それに…………この謎の声も、よくわからない。

 

 

「説明してくれ。俺には……理解できん」

 

 

俺はシンフォギア奏者でも、適合者でもない。

俺が歌を歌って得ることができるのは調律だけ―――ただ自分の動きを整えることだけだ。

その俺が、アームドギアを……?

 

 

『我らが力を授け、ウヌも我らに力を授ける。使うのではない、協力するのだ』

 

 

互いに力を預ける、そう言いたいのはわかる。

 

 

「今、あたしは戦えない。でもあんたは戦える。翼たちを守ってくれ」

 

「……………………クソッ。ああわかった。その依頼を引き受けよう。たが条件がある」

 

「言ってくれよ、あたしにできることならなんでもするぜ」

 

 

依頼―――その言葉には、逆らうことのできない絶対的強制力を持っている。

俺は依頼が全てだ。依頼で動き、依頼で生きる。

だがそれには報酬がつきものさ。

 

 

「絶対に目覚めろ。お前は俺に力を渡した、ならばその力を行使した結果を見届ける義務がある。だから絶対に目覚めろ。これは命令だ」

 

「…………わかった。努力する。だからさ……1つ、いいかな」

 

「言え。お前らしくもない」

 

 

おずおずと、許可を求めてきた彼女。

いつもならば自分からガンガン言ってくるというのにな。

 

 

「あんたのこと……その、隼人って呼んでもいいか?」

 

「……勝手にしろ。―――この武装、しかと受け取った。ありがたく使わせてもらう」

 

『我らが同胞の名を((咆|さけ))べ、狼よ』

 

「……ガングニール……いや、GUNGNIRか」

 

「………………隼人」

 

「どうした」

 

「あ、いや……柄じゃないんだけどさ。い、行ってらっしゃい、隼人」

 

「…………フッ……ククク。ああ、行ってくる。戻る時までに目覚めてくれよ」

 

 

彼女から槍を受け取り、静かに構える。

なにをすればいいのか、手に取るように理解できた。こいつの使い方も、どのような思いを持っているのかも。

 

 

「笑うなぁ!」

 

「笑っていないさ。……ではな。行くぞGUNGNIR!」

 

 

俺の咆びと同時にGUNGNIRは((黒く|・・))輝き、世界を包み込んだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『バイタル復活しました!』

 

『酸素濃度正常!』

 

『各部チェックを済ませろ!』

 

 

……………………眩しい。これは……医療室……か? 目を開けて見てみれば、完全防護の医務官が数人、俺を取り囲んでいた。……どうやら俺は、ここに担ぎ込まれたらしいな。

体についていたセンサーを引っ剥がし、側の作業台においてあった服をとって着替える。脱がされていたのは上着だけなので、ものの数秒で着替えは終わった。

医療室を飛び出し、本部へ駆ける。

 

 

「弦十郎ッ」

 

「お前―――大丈夫なのか!」

 

「ああ、復帰した。戦況はどうだ」

 

「……今は翼が向かってくれている。お前は……出るのか」

 

「……援護がせいぜいかもしれんが、無力よりはいい。ヘリを出してくれ」

 

「わかった」

 

 

((絶対の十字架|フル・クロス))で作られた腕を確かめ、動きに異常が無いことを確認する。

……む、随分動きが軽くなっているな。支えがとれたか?

 

 

「…………待っていろよ、翼……!」

 

 

エレベーターに乗り込み、屋上にあるヘリポートへ急ぐ。

俺は槍を―――武器を受け取った。はたしてそれが俺に使えるのか……いや、違うな。俺に力を引き出すことができるのか。

緒川慎次にヘリを操縦してもらい、現場へ急行することになった。

 

 

「よく、あの状況で目覚めましたね」

 

「俺に休む暇など無い。常在戦場とは俺が体現しているようなものだ」

 

「……そんなにまっすぐだと、いつか折れますよ」

 

「構わん。俺は元来……その為に製造された」

 

「…………製造?」

 

「ッ……。いつか話す。2課の皆にも、その時が来れば」

 

 

余計な事を言ってしまったな。気を引き締めねば。

 

 

「それより、今日は武器が少ないですね」

 

「まだ実験段階の物が多い。非常時に確かなモノ以外使えるわけがなかろう」

 

「言えてます」

 

 

苦笑気味の慎次を見ていると、全てを知られているような気もしないでない。

昔からつかみ所のない奴だが……まあいいさ。その方が俺も当たりやすい。

 

 

「このまま高度を上げてくれ。広域殲滅を行う」

 

「了解です」

 

 

俺の言ったとおりにヘリは上昇し、下にいる翼やノイズが点に見える程になった。

この辺りでいいだろう。あまり高すぎても威力が下がる。

 

 

「助かった。行ってくる」

 

「お気をつけてどうぞ」

 

「……ああ」

 

 

ヘッドセットを外してハッチを開け、パラシュートを付けずに飛び降りる。

俺は―――奏者ではない。人の悲鳴で奏でる狼だ。俺は奴らに力を授ける、奴らは俺に力を還元する。だから―――

 

 

「共に奏でよう、((戦|いくさ))の戦律をな」

 

 

数多のノイズに囲まれている翼を助けるには、一度に高面積を制圧できる武装でないと駄目だ。なら俺が選ぶのは、実銃では扱うことすらできんが―――ZE M134だ。

俺が形を望むと同時に、両腕にマウントされた黒い塊が現れた。瘴気のようなものを醸しだすそれは、確かに俺の望んだ形―――M134 MINI GUNを表していた。

本来であれば18キロにも及ぶ銃だが、今はそれが軽く感じる。素材が違うのか? それにバッテリーやベルトもついていない。……だが、こいつは撃てる=@ そう確信できた。

着地と同時に両手のトリガーを引き絞り、秒間100発という弾丸の嵐を撒き散らした。

 

 

「隼人さん!?」

 

「前を見ろ! ここは戦場だ!」

 

 

驚きのあまり振り返った翼に襲いかかってきたノイズを撃ち殺し、すぐに殲滅作業へ戻る。

本来ベルトリンクされた弾丸が入る給弾口には、銃身から発生している黒い瘴気が入り込み、弾丸を射出していた。重量を気にしなくていいのは嬉しいが、これはなにか…………欠点があるな。

…………ああ。そういうことか。

 

 

「無闇やたらに使う武器ではないな。当然といえば当然だが…………地形を変えてしまいかねん」

 

 

発射されているのが実弾かどうかはわからないが、見事に施設を破壊していた。

確かにこれを使い続ければ、街など簡単に壊せてしまう。今後使用は控えるか。

 

 

「翼! やれ!」

 

「―――っ!」

 

 

10メートルを優に超えるであろう巨人型ノイズは、ガングニールの反応を示した少女を襲おうとしていた―――が。

それを超える巨大な剣に突き刺され、炭となり消えていった。

 

―――天ノ逆鱗―――

 

巨大化させたアームドギアを落下させることで得る、恐らく一番威力の強い翼の技だ。

俺には真似できない、あいつが編み出した……な。

 

 

「((任務完了|コンプリート))。…………こちら銀狼、ノイズの消滅を確認。至急事後処理を」

 

『了解した。すぐに1課へ通達しよう』

 

 

俺の手にした不明確な、影の様な掴めない力。

だが1つ確信できたのは、この武装はわざわざ高いコストを使わずともノイズを駆逐でき、カウンターのように要領の悪い技でもなく、尚且つ歌を必要としない。

 

 

 

―――だが、これは滅びの旋律に変わりなかった―――

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銀狼 シンフォギア 戦姫絶唱シンフォギア 

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