仮面ライダークウガ New Hero Unknown Legend[EPISODE08 解析]
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場所・時刻不明

 

気候の変わりやすい山中は、真っ昼間だというのにやけに暗かった。上空に出来た雲は分厚く、まるで空が迫っているような錯覚を覚えさせ、遠くの方で聞こえる野鳥のざわめきと羽ばたく音が、山中の印象をより不気味なものへと変化させる。

 

その山中の道を、一人の女性が歩いていた。ドレス風の洋服に、首に巻かれた白いスカーフと、肩にかけた白いストール−−そして、額に刻まれた薔薇の刺青。

 

行くべき場所へ行き、その債務を終えたように彼女はもと来た道を、周囲の空間と異なった空気を放ちながら黙々と歩き続けていた。

 

「バルバ」

 

その女性−−バルバのもとへ、約二メートルほどの影が舞い降りる。まるで鳥類のコンドルのように黒く、背中から生えたとてつもなく大きな翼がその影の内に秘めた強さを象徴しているかのようだった。

 

「ダグバは、どうした?」

 

怪人の姿から、黒ずくめの衣服と首から足先まである白いマフラーを纏った男性の姿に変えながら、それはバルバに話しかける。

 

「既に、向かった」

 

向かい合う男性に、淡々と告げるバルバ。それに対する男性もまた−−淡々と告げる。

 

「奴が、動き始めているな……」

 

「どうでもいい、ことだ……が、邪魔な存在であることには、変わりない」

 

「様子を、見続けるのか……?」

 

「いずれ奴もダグバの手により、再び死ぬ。相手にする必要は、ない」

 

二人の言葉の対象である『奴』にも、バルバは興味を示すことなく、その場から去ろうとする。

 

「奴はもともと−−我々と同じにして、我々とは相容れない存在なのだからな」

 

擦れ違う間際、バルバは男性に向かってそう言う。そのように言った彼女の表情もまた、冷淡だった。

 

「……」

 

そんな彼女に、男性は何も語らなかった。マフラーで隠された顔からは表情が読みとれないが、彼もまた、『奴』に対して、興味はない様子だった。

 

辺りで叫ぶ野鳥のざわめきがいっそう大きくなる山中を、二つの影は何の躊躇いもなく歩いていった。

 

 

 

AM9:31 関東医大病院

 

「状態は、非常に良好だぞ」

 

椿は、診察室にいる雄介にそう告げた。

 

「本当ですか?よかったー」

 

それに対し、雄介は心底ホッとした様子を見せる。まるで九死に一生を得たような感じで、張り詰めていた頬の筋肉が一斉に緩む。

 

「肉体にも疲労は残らず、アマダムにも大きな変化は表れていない。金の力をあまり使わなかったことが大きなポイントになったな」

 

「いや、いつも通りに眠れるんですけど、いつも以上に寝たーって感じがするんですよ。今朝も、すっごくスッキリしてたし」

 

今日は、最近恒例となった雄介の身体チェックの日だった−−と、言っても、雄介は近頃毎日ここに来ていたため、身体チェックも予定が空いている限りは、ほぼ毎日受けていたのだ。未確認との戦いが圧倒的に多い現在、雄介はクウガの力をいつも以上に使役しないといけなくなる。

 

その頻度が増せば、そのぶん負担が増え、結果的に雄介の身体に何らかの影響が現れる可能性が高くなる。

 

それを未然に防ぐために、雄介は自ら、椿にチェックを依頼していたのだった。

 

 

 

そして−−椿の言う『状態は非常に良好』という言葉には、雄介以外にもう一人、対象となっている人物がいた。

 

「渚さんの精神状態も良好、いたって健康な状態だ。このまま退院してもいいぐらいにな」

 

それは、渚だった。

 

精神状態が危険な状態なるのを防ぐために、雄介と共に外出させるという、危険な賭けを含めた計画は−−成功という形で幕を下ろした。今朝の身体検査にて、体調にも一切変化はなく、顔色も非常に明るかったそうだ。表情は相変わらずだったそうだが、それでも外出により得られたものは大きかったらしい。この結果をみて、今後も彼女の外出を検討するという声も、担当の精神科医から上がっているほどだった。

 

それを聞いた雄介は、自分の体調の結果について聞いた時よりも、嬉しそうな笑顔を浮かべる。そんな雄介の様子を、椿は苦笑いしながら見ていた。

 

「お前、自分の状態を聞いた時よりも嬉しそうだな」

 

「いえ、俺の時は良かった……って感じなんですけど、渚ちゃんの時のは、こう……良かったぁ!……って感じですかね」

 

前者の様子をホッとため息を漏らす程度で済ませ、後者の様子を全身を使い、喜びを現す雄介。クウガに変身する彼をサポートする椿にとって、もう少し自身の体のことを重く見て欲しいと思うのだが、彼が常に他者の笑顔のために動く者であるとよく知っている椿は、何とも言えない複雑な心境だった。

 

「まぁ、渚さんのことを心配するのも大事だが、ほんの少しでも自分の心配をしろよ」

 

「はい、それは重々承知しています」

 

椿の忠告にも、軽い調子で返す雄介。実際には、彼自身も自分のことをしっかり考えていることを、椿自身も理解しているため、椿はこれ以上何も言わなかった。

 

「それより、もう一個大事な話がある」

 

苦笑いを浮かべていた椿の表情が一変し、真剣なものへと変わる。その緊張感が雄介にも伝わり、雄介の表情も椿同様、真剣なものへと変わった。

 

「お前は、現状をどう感じている?」

 

「……正直、全然分からないです」

 

雄介の答えに、椿は頭を掻きながらため息を吐く。

 

 

 

 

椿の質問の真意。

 

 

それは、主犯格の未確認生命体が何を目的に活動をしているのか、ということに他ならない。

 

 

現状としては、未確認生命体合同捜査本部が三班態勢で事件に臨んでおり、そのうち公の場に出ている情報としては、復活が確認された未確認生命体の被害状況、及び外出の際に注意を促すのみである。

 

確かに、未確認生命体自体の謎が未だに多いためそれらの活動についてを公の場に流すことで被害を食い止めるという対策に関しては、世間自体が未確認生命体の恐ろしさをしっかり理解しているため、問題視されている描写は殆どない。

 

−−問題とされているのは、経過した日数である。

 

群馬県の山間部における行方不明事件を一日目とすると、事件が発生してから、既に8日間という時間が過ぎてしまっている。

 

そう。

 

その8日間という時間を酷使してさえ、合同捜査本部は事件の糸口すら見いだせていないのだ。

 

事件が長引けば長引くほど、被害者の数も増え、被害者の不安も積もっていく。

 

溜まりに溜まった不安は、人の笑顔を失わせ、理不尽な悲しみと怒りしか残らないだろう。

 

雄介は勿論のこと、椿もその一人だ。彼は理不尽な死を人に与える未確認生命体に強い嫌悪感を抱いている。被害者達の体を解剖する度に、その怒りと悲しみを内に燃やしていた彼は、それでも被害者を一人でも減らすために懸命に使命を果たし、未確認生命体関連の事件に大きく貢献してきた。

 

そんな彼が何も手を出せずに、ただ増えていく被害者達を見るのは、果たしてどのような心境なのだろうか。

 

その心は、雄介や一条ら、前線で戦っている者達に劣らないほど、凄まじいに違いない。

 

 

今回の主犯格である未確認は、そんな彼を嘲笑うかのように、未確認生命体を復活させ、自分の足取りを眩ませている。

 

椿は、そんな未確認の行動に怒りを−−そして、焦りを感じていた。

 

「こんな状態では、正直、渚さんの身の安全を保証することは出来ない」

 

椿を焦らせている要因を、椿は口にする。その発言の意味を理解していた雄介の表情は、変わらずに固かった。

 

主犯格の未確認生命体に直接危害を加えられ、渚は数日間を過ごしていた。その期間は、未確認が復活した日の次の日からの一週間と、かなり長い。第42号の事件の時は被害者の体に症状が現れたのは4日間と、その段階では最も長い期間を使用していたとされているが、今回はそれを上回っている。

 

しかも、第42号はその期間中に、被害者達の精神に尋常ではないほどのダメージを与えていったにも関わらず、渚はこの一週間、全くそういった様子を見せていない。

 

その未確認が、彼女以外に危害を加えた様子がない以上、彼女の体調を観察する以外に、事件の調査に一役買うことはおろか、彼女を救う手だてもない。

 

かと言って、このまま彼女を放置し続け、彼女が死ぬのを待つことなど、到底出来ない。

 

身動きの取れない板挟み状態となっている椿は、言いようの知れない歯がゆさを口の中に溜め込んでいた。

 

「大丈夫」

 

そんな椿に、雄介は優しく言う。

 

右手でサムズアップをしながらそう告げた雄介の顔は、いつもの笑顔ではなく神妙なものだった−ーにも関わらず、彼の表情には諦めの二文字など全く無かった。

 

そんな彼の様子を、椿はポカンとした面持ちで見ていた。

 

「椿さんも、俺も、一条さん達も、みんな必死に頑張ってますから」

 

「……」

 

「それに、一生懸命頑張っていないと、見えるものも見えなくなっちゃうと思います。だから、今は少しでも頑張らないと」

 

最後に「ウン」と頷きながら気合いを入れる雄介に、椿は吹き出す。その彼の表情は、先程までになかった明るさがあった。

 

−−どこまでも、不思議な奴だ。

 

椿は、そう思う。

 

彼が言うと、自分も自然に頑張ろうと思えるのだから。

 

「じゃあ、俺も頑張るか」

 

そう言いながら、椿も右手でサムズアップをする。それを見た雄介もまた、笑顔を浮かべ、サムズアップを返していた。

 

 

 

 

AM9:51 警視庁

 

部屋の前にかけられたスクリーンに映し出された映像を、一条は凝視していた。彼のスーツはかなりくたびれている上に、証明が暗いが彼の目元にはうっすらと隈が浮かんでいる。

 

そして、彼の横には高く積み上げられた二十本を軽く越える量のビデオテープ。それぞれには各県警の名前、日付、場所が記述されており、いずれにも共通して書いているのは、『防犯カメラ』という文字だ。

 

「お前、また徹夜か」

 

「今は、少しでも多くの情報が必要です。眠っている場合ではありません」

 

映像を見ていた一条の横に、部屋に入ってきた杉田が立つ。一条は杉田の声に応えつつも、やはりスクリーンに映し出された映像を凝視し続ける。そんな彼に、「ぶっ倒れたら、元も子もないんだぞ」と、杉田はぽつりと呟いた。

 

「それで、そちら側で何か判ったことはありますか?」

 

映像から一旦視線を外し、杉田の方へと向く一条。杉田は苦い顔をしながら、胸ポケットにしまった警察手帳を取り出し、パラパラとめくる。

 

「八方塞がりだな。手がかりらしい手がかりがまるで見つからない。だが、ひとつ妙なことがあった」

 

「妙なこと?」

 

眉を寄せる一条に、杉田は警察手帳の一ページを見せる。覗き込んだページには、この一週間で出現した未確認生命体の番号が記載されていた。

 

 

1日目:第6号 第41号

2日目:第6号 第23号 第34号 第38号 第41号

3日目:第5号 第7号 第10号 第14号 第18号 第34号

4日目:第5号 第21号 第27号 第40号

5日目:第7号 第14号 第22号 第27号

6日目:第21号 第22号 第40号

 

 

 

これを見た一条は、より一層表情を厳しくする。

 

 

−−最初の頃に出てきた未確認生命体が、後の方では出てきていない

 

当初の見解では、主犯の未確認生命体が何らかの目的のために、戦力を確保することが、その活動理由だという声があがっていた。

 

しかし、この情報を見る限り、復活した未確認生命体全てが同時に出てくることもなく、しかも、2回ほど我々の前に姿を現した後は、姿を現さなくなっていることから、これまでと同じように我々人間を殺すことが目的とは考えにくい。

 

仮に、今回の未確認が行うゲームが『復活させた未確認生命体を使って行う』ということだとしたら、復活させた未確認生命体全部を使った方が明らかに効率がよいだろうが、それを行わず、数体が交代しながらただ暴れまわっているのみなのだ。また、このような明らかに効率の悪い動きをするよりかは、自身の手で行えばいいのにも関わらず、主犯格の未確認が動きを全く見せない。複雑なルール、すなわちそれらが経験したことのなかった人間社会に紛れ込み、その社会の中でゲームを進めるようになった高い知識を持つ未確認生命体が、そのようなことをするとは、到底思えなかった。

 

これらの理由から、一条は今回の未確認生命体は、これまでの未確認生命体とは異なり、殺人目的で動いているとは考えにくい。

 

そう考えれば、今回の未確認はこれまでの未確認とは異なった考え方を持ち、団体で決められたルール通りに行動していない可能性も考えられる。現存する未確認生命体全てではなく既に死亡した未確認生命体を戦力として使役しているのは、大量虐殺事件を始めた未確認と真逆の動きをするためだと考えると、その可能性は十分に考えられる。

 

未確認生命体の能力を持ちながら、未確認生命体とは異なった考えを持つ者。

 

あるいは、未確認生命体の能力を持った、新しい勢力。

 

そのどちらかが、動き回っていると考える方が、現在の状況では自然なのである。

 

「……そいつはその力を使って、俺達に何をしようとしているんだ……?」

 

目的が判らない以上、合同捜査本部も未確認の動きを先読みして動くことが難しい。しかも、その目的がこれまでのように、殺戮という名のゲームでないのだから、杉田は余計に不気味に感じていた。

 

「それのヒントを得るために、今回の捜査管轄にあたった方々に、その地域の防犯カメラの映像をお借りしたんですが……」

 

「何か、判ったのか?」

 

「手がかりとは言うには程遠いかもしれませんが、復活が確認された日にちとその場所から、主犯の未確認の足取りを探ってみたんですが……」

 

一条はそう言うと、近くにあったホワイトボードに張り付けられた巨大な地図に向かう。そして、発見された未確認の番号と日にち、確認された数を見つかった順に、細かく記載していく。

 

1日目:群馬県 21 22 23 計3匹

2日目:埼玉県 6 38 41 計3匹

3日目:新潟県 5 14 計2匹

4日目:茨城県 18 40 計2匹

5日目:静岡県 7 34 計2匹

6日目:千葉県 8 27 計2匹

 

 

「えらく、バラバラだな……」

 

一条が書き終えた文字を見ながら、杉田は呟いた。

 

実際にその存在が確認された県があまりにもかけ離れている。一日単位で移動を続け、主犯の未確認は、他の未確認の復活を続けている。実際にはさらに多くの未確認が復活している可能性が高いが、それでも移動する距離が大きすぎるのだ。

 

しかも、この移動自体も非常に効率が悪い。1日目から2日目の移動はまだ判るが、それ以降はそれぞれが隣接した県ではないうえに、方向もバラバラだった。

 

移動すること自体は、未確認生命体第36号が電車を使っていたために不可能とは言い難いが、こうまでも不規則に動き回ること自体が意味不明である。目的の真相ならまだしも、その概形すらも見えてこない。

 

「この移動にも、何か意味があるって言うのかね……」

 

もはや投げやりな様子で思考を続ける杉田。連日の未確認騒動により、相当疲れている様子だ。

 

その中で、一条はホワイトボードをジッと見つめていた。

 

『別の考え方』

 

数日前、雄介が言っていたことを思い出す。

 

ここまで過去の未確認と異なった活動をする今回の未確認生命体。これまでに積み上げてきた知識は勿論、これまでとは異なった考え方を持って事件に臨まなければならない。

 

故に、一条は思案を練り続ける。

 

 

 

−−何故、離れた場所に?

 

−−そこでしか、出来ないから?

 

−−場所が固定されているなら、なぜここまで効率の悪い移動をする?

 

 

−−なぜ、効率のいいやり方をしないのか?

 

「まさか……」

 

「どうした?」

 

とある考えが浮かんだ一条に、杉田が話しかける。

 

「主犯の未確認がなぜこのような移動をするのかについてですが、もう一つの可能性がありました」

 

「もう一つの、可能性……?」

 

「−−何かを、探しているのでは……?」

 

「探す……?」

 

一条の発言に、杉田は首を傾げた。

 

これまでの未確認の行動−−それは、人を殺すということに大差がなかった。最近では、設定したゲームのルールに合った人間を捜すということも行動の要因に含まれているが、それでもその根本には、人を殺すことが前提となっている。

 

ところが、今度の未確認はどうだろう?何らかの目的があるにしろ、自らが人を殺すための行動をしているようには思えない。復活した未確認が確認された場所には、人がほとんどいない場所もいくつかあるためであり、本気で人を殺すことを目的とした行動なら、少なくとも東京などの都会で行うはずだ。復活した未確認の手により多少なりとも被害者はでているものの、自分の手で人を殺害すること自体は一切行っていない。

 

これからの点から、一条は今回の未確認には殺人ではなく、何か別の目的を持ち、行動しているのでは、と考えていた。

 

そう考えると、効率の悪い移動の説明についても、かなり強引だが、結びつけることができる。何かを探す−−即ち、それを求めるためにあちこちをさ迷っていると考えれば、この未確認の行動も、かなり規模の大きい迷子の動作のように見えなくもない。

 

無論、そんなことはあり得ることではないと、言い出した一条自身も感じていた。だが、その強引な考えが一番しっくり来るのもまた事実であることに違いないのである。

 

現に、それを聞いた杉田も苦い顔をしていた。あり得ないとは思いつつも、それを否定することも出来ない−ーその、強引な仮説の信憑性はあまりにも大きかったのだ。

 

「だが、それなら……奴は一体、何を探してるんだ……?」

 

杉田の質問に、一条は無言で首を振る。強引な仮説は、それを決定付けるものが何も無いため、仕方ないと言えばそれまでである。

 

しかし、それが最大の謎である。これまで奇妙な行動を続ける未確認が、一体何を探しているというのか。

 

こうまで手掛かりが何もない状況だともはや神にすがりつきたいとも思うのだが、幸いにもまだ宛はあった。

 

始原の地、九郎ヶ岳遺跡で発掘された碑文である。

 

碑文には、これまでに戦士クウガについての記述や碑文を書いた一族のリントと、それらと敵対していたグロンギ(現世でいう未確認生命体)などの民族文化、さらに桜子が発見した『凄まじき戦士』に関する文章が残されていた。

 

この碑文は、リントの一族が未来にてグロンギの封印が解かれた時のために、グロンギへの対処法を記すことを目的の一つとして作られたとされている。ならば、この碑文の中にグロンギを復活させる存在についての記述がないかを、長野県警にいる桜子に調べてもらうことが出来れば、何か発見があるかもしれない、と一条は踏んでいた。

 

一条の筋が通っている案に、杉田はただ頷くことしか出来なかった。情報が手に入る可能性は低いとはいえ、今は少しでも情報が必要な時だ。四の五の言っている時間など全く無いことは、杉田にも判っていた。

 

「判った。こっちはこっちで色々当たってみる」

 

「お願いします。ところで、何か桜井さんから連絡はありましたか?」

 

「定時報告以外には何も無しだ。人員増加、それに捜査範囲を拡大してはみたものの、引っかかるものすら見つかっていない」

 

「そう……ですか」

 

杉田の発言に、一条は視線を落とす。

 

これだけ時間をかけているのに、行方不明になった青年の手掛かりを全く掴むことが出来ない。これ以上、時間をかければ益々手掛かりは消えていくだろう。

 

一条ら警察の中には、ただただ不安と焦燥感が募っていた。

 

 

 

 

その時、一条の携帯がけたたましく鳴り響いた。

 

「はい、一条……亀山か」

 

電話の主の名前を呼ぶ一条。

 

『一条さん!今すぐ報告したいことがありまして!』

 

「落ち着け、一体何があった?」

 

取り乱した様子で話し続ける亀山を、宥める一条。−−しかし、その取り乱し方はあまりにも大きい。電話越しでも、十分分かるほどに、だ。

 

『実は、長野県内で別の行方不明事件を追っていて、事件現場付近の防犯カメラを確認していたんです。そうしたら、カメラの中に、なんと言えばいいか、やけに人に似た馬鹿でかい生き物みたいなのが移っていて……』

 

人に似た馬鹿でかい生き物。

 

その発言に、一条は強く反応した。

 

「亀山、その画像をこちらに送ってくれ!大至急だ!」

 

『は、はい!』

 

携帯の通話を切らずに、指定のアドレスを亀山に告げながら、一条は画像が届く場所へと足を走らせる。その後ろを杉田も走りながら追いかけていく。

 

 

ほんの十数秒後に目的の部屋に到着した一条と杉田は、すぐにパソコンをチェックする。すると画面には一件のデータが着信していた。一条はすぐにそのデータを開く。

 

 

 

 

 

そこには、異様なものが移っていた。

 

木の生えた山道、遠くに見えている川は別にどうにも思わない。だが、画面の右端に映っているのは、確かに人間の形をした、しかし人間とはかけ離れた異形だった。

 

 

人間でいう顔面と体の縦半分は映っていないものの、腕、胴体、足、そのどれもが人間では無かった。しかも、その異様さを現すように−−いつか、雄介が言っていた黒い靄のものを纏っていた。

 

「これは……」

 

「こいつが、今回の未確認……!」

 

一条と杉田は、その異様な姿をこれまでの経験から、一瞬で未確認生命体であると断定した。

 

「亀山、この映像はいつ、どこのものだ?」

 

一条はその存在を確認した後、再び亀山へと話しかける。

 

−−だが、電話口から聞こえてきたのは、衝撃の一言だった。

 

「……なんだって…!?」

 

その衝撃に、一条は表情を驚愕のものへと一変させる。そして、亀山からの連絡が終わったのか、一条は通話を切り、力なく胸元のポケットへと携帯を終い込んだ。

 

「どうした……?」

 

一条の様子がおかしくなったことに疑問を覚えた杉田は、彼に問いかけた。

 

「それで、この画像が撮られた時間と場所は……?」

 

「……」

 

杉田の問いかけに、一条は放心状態だった。しかし、一条は徐々に亀山から得た情報を口に出していた。

 

「撮られた時間は、今日から10日前……」

 

その発言に、杉田もまた驚愕する。その日にちは、未確認の復活が確認された日の2日前なのだから。

 

「なに……?」

 

「場所は、K-47地点……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「九郎ヶ岳遺跡付近です」

 

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第9話となります。
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