仮面ライダーオーズ 旅人と理由と3人のライダー[002 居場所と笑顔と夢の追い方]
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璃朱がクスクシエを訪れた翌日の日曜日。映司は、買い物で、近くのデパートに出掛けていた……余談ではあるが、今彼は預かったお金をきちんと財布に入れていた。

 

彼の買い物の内容は、明日のクスクシエのメニューの材料である。「今週は、山のある地域特集よ!!」と知世子が騒いでいたからであるが、そのチョイスが「ブルーマウンテン」という、またマニアックなものだった。映司でさえ知らない、ブルーマウンテンの料理を知世子が知っていたのは、流石と言うべきなのだが、そこは触れないでおこうという暗黙の了解が映司、比奈、慎太郎の間で成立し、現在に至る。

 

ちなみに、比奈は知世子と一緒に店の飾り付けを手伝い、慎太郎は店の中と外の掃除。アンクに関しては……言う間でもないだろう。

 

現在、映司がいる場所は、クスクシエとデパートの中間点ほどの場所にある運動公園、時刻は、午前十一時を少しまわったところ。比奈から貰ったマフラーを首に巻き付けているとはいえ、まだまだ暖まっていない気候が肌に染み渡る。

 

映司は公園の中を見回す。しかし、『子供は風の子』という言葉はどこへやら、公園の中を走り回る子供は見当たらず、広場でゲートボールを行う老人達の楽しそうな声が聞こえてくるのみだ。今の子供達には、『こたつで丸くなる猫』という表現の方がしっくりくるなと思いながら、映司はデパートへと足を急がせる。

 

「あれ?」

 

二、三歩踏み出した時、映司の足が止まる。

 

映司の視線の先には、一人の少女がいた。薄い小型のデジカメをのぞき込み、昨日見せたものとは全く異なった表情を見せていた。

 

彼女の人差し指に、力が込められ、カメラのシャッターを切る。それと同時に、彼女の視線の先にあった白いハトが一斉に飛び散っていった。

 

そんなことにも目をくれず、少女は撮った写真を確認する。そこには、まさにこれから羽ばたこうとする白いハトが写されていた。

 

「いい写真、撮れた?璃朱ちゃん」

 

 

 

「あ、映司さん。バッチリ撮れましたよ!」

 

小さくガッツポーズをしていた璃朱に話し掛ける映司。すると、璃朱は先程撮った写真を自慢げに映司に見せてきた。

 

「確かに、よく撮れてるね。璃朱ちゃん、新聞も上手に書けるうえに、写真を撮るのも上手なんだね」

 

「そんな、たまたまですよ……」

 

あくまでも謙遜する璃朱に対し、映司は純粋に璃朱をほめたたえ続ける。「他の写真もみていい?」と言いながらも、デジカメの使い方が不明なため、結局、璃朱が操作しながらの、写真閲覧会となったのは、余談に留めておこう。

 

 

「もともとは、写真を撮ることが、私の趣味だったんです」

 

自分が撮影した写真を映司に見せながら、璃朱はポツリと言う。

 

「え……?」

 

「私が、まだ小学生の時に、父のカメラを借りて写真を撮ったことが切欠でした。撮ったものは、道端に咲いた小さな花だったんですけど、それでも一瞬しかない風景をこうやって形に残せることが、すごく楽しかったんです」

 

大切な思い出を抱き締めるように、璃朱は柔らかい表情で話す。そんな彼女の一言一言に、映司は聞き入っていた。

 

「その写真を父に見せた時、父は私のことを誉めてくれました。滅多に表情を変えなかったけど、私の写真を見て、凄く安らかな顔をしていたんです」

 

「……」

 

「それから、私は色んな光景の写真を撮るようになりました。こんな私が撮った写真でも、人の心を安らかにすることができる。誰かのために何か出来るって、心の底から思えたんです。ただ、そういった思いで撮っても、がむしゃらに撮った写真じゃ、『何も感じない』って友達に言われて……」

 

「だから、パワースポットっていうのを知ったんだね」

 

映司の問い掛けに、璃朱は無言で頷いた。

 

「沢山の人が、畏敬の心を沢山浴びせ続けていた場所……人の思いが、結果的に人の心を穏やかにしているってことなんじゃないかって思ったんです。だから、そういった場所に行ってみれば、人の心が穏やかになれる理由を肌で感じられるんじゃないかって、思って……」

 

璃朱は、そう言うと手の中にあるデジカメを軽く握りしめる。

 

そんな彼女の表情が意味するものを、映司はよく知っていた。

 

−−夢を叶えたいと願う、切実な思い。

 

誰の心にもある、純粋で、切ない思い。

 

それが手に取るように判ったのは、映司もその思いをよく知っていたからだった。

 

「……私、変なんですかね?」

 

そう思っていた矢先、璃朱の声が突然低くなる。

 

 

 

「誰かの心を癒やす写真を撮りたいって思ってるのに、今はパワースポットに向かうことばっかり考えてるんです……写真を撮るには、必要だと思うんですけど、それでも、何か追っている夢と違う気がして……」

 

「いいと思うよ」

 

映司は、明るく言う。

 

璃朱の声が暗くなったのを元に戻そうとするように、いつも通り、そう言う。

 

「俺も、旅に出ていた時は、きちんと理由があった。これをしたいっていう願いがあったんだ」

 

「……」

 

「でも、本当はさ……世界を見たいなんて、これっぽちも思わなかったんだ」

 

映司の発言に、璃朱は驚いた。

 

世界中を旅してまわることは、どこか目的となる地域があってのことで初めて成り立つことだろうなのだろうが、それ以外に国外に出て、旅をする理由なんて考えられない。

 

それなのに、映司はその理由がなかったという。

 

「理由もないのに、旅をしていたんですか……?」

 

意味が判らなくて頭を悩ませている璃朱に対して、映司は言葉を続けた。

 

「……ある人に、会いたかったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−−映司が、まだ5歳の時の話だ。当時の映司の両親は、映司に構う暇などなかったため、日本にいる叔父と叔母の家に預けられていた。

 

ゴールデンウイークになろうが、盆休みになろうが、年末になろうが、映司に顔すら見せることはなく働いていた。挙げ句の果てには、誕生日にさえ電話も手紙も寄越さなかった。

 

夜中に目が覚め、叔母が電話をかけているのを何度も見た。いつになっても、両親に甘えることはおろか、顔すら合わせることができずに悲しんでいる映司を、彼女は心配していたのだろう。映司を起こさないように、声を抑えて電話に叫ぶ彼女を何度も見ていた。ほんの少し聞こえた会話の内容から、話し相手は両親であることも、映司は理解していた。

 

そして、電話をした翌日、叔母はいつもつらそうな顔を隠し、無理やりな笑みを浮かべて、映司と接していた。

 

そんな彼女の様子を、映司は見ていて辛かった。自分のせいで、叔父や叔母には迷惑をかけてしまう。

 

そして、映司は結論を出した。

 

−−この場所にも、自分はいてはいけない

 

 

 

幼さの割に、妙に冷め切った思考。

 

そのような結論を出すのに、映司は躊躇わなかった。

 

それほどにまで、映司は人の暖かさを感じることが出来なくなっていたのである。

 

 

そんな日が数週間続き、映司は当時通っていた保育園でも、誰とも話さなくなった。最初は普通に遊んでいた友達でさえ、今の映司に話しかけることすらなく、保育園の先生達が何度話しかけても、聞く耳を持たなかった。

 

 

 

『君は、ここで何をしてるの?』

 

保育園の給食をほとんど食べずに庭へやってきた映司に、一人の男が話し掛けた。

 

−−自分の先生と同じくらい、もしくは少し年上の人。

映司はあくまでも、その程度の印象しか抱かなかった。

 

『今、給食の時間じゃなかったっけ?早く行かないと、給食みんなに食べられちゃうよ?』

 

木でできた滑り台の階段に座り込んでいた映司の視線に合わせるように、背をかがんでみせる男。

 

それを無視する映司は虚ろな目で、給食を食べている同じ組の子供達を見つめる。わいわいと楽しそうに給食を食べる園児達の中には、当然ながら映司の姿はなく、彼を心配している者も見当たらなかった。

 

 

『誰かと喧嘩でも、したのかな……?』

 

無視している映司に構わず、話し掛けてくる男。その問いかけにも無視を決め込もうとする前に男は言い直した。

 

『……それとも、みんなと一緒にいたくないとか……?』

 

『……っ!』

 

 

自分の本心を見透かされ、映司はその男に対して、初めて反応を見せた。

 

−−なぜ、そのようなことが判ったのか。

 

不思議で仕方ないといった表情で、映司は男の顔を見つめる。

 

『あっちの方を見ながらさ、凄く寂しそうな顔してたから……もしかしてって思って』

 

まるで、映司の心と会話をするように言葉を返す男。

 

だが、それよりも映司は男の言葉に引っかかっていた。

 

−−凄く寂しそうな顔をしていた

 

その発言は−−自分がいるべきでない場所に、他ならない自分が憧れを抱いていることを意味しているに他ならない。

 

 

なぜ。

 

初めて会った男に、そのようなことを言われて、なぜ自分は戸惑っているのか。

 

−−その発言が、図星だったからだ。

 

必死に強がって、守っていたことを、ピシャリと言い当てられた映司の体がガタガタと震え出す。

 

必死に押し留めてきたのに。

 

悲しくないと思い込んで、孤独だと思いこむことから自分を守ってきたのに。

 

それを言い当てられたことで、映司は再びそれへの恐怖を抱いたのだ。

 

『ねぇ……』

 

悲しみに支配されていた映司に、男が話し掛ける。その優しい声は、周りを見れなくなっていた映司の心に響き渡っていく。

 

『上、見てごらん』

 

言葉のまま、映司は上を見る。

 

その先にあったもの。

 

それは、視界いっぱいに広がる、雲一つない青空だった。

 

 

−−その見慣れた光景に、映司は釘付けになっていた。

 

 

 

『どう?』

 

隣の男が言う。

 

『なんだか、少し軽くなった気がしない?』

 

視線を男の方に向けると、その男も笑っていた。

 

そして、映司は思う。

 

−−その笑顔は、頭上に広がる青空のようだ、と。

 

『空ってさ、俺達みたいに不安になったり、泣いたり、怒ったり、笑ったりするんだ。今みたいな青空は、空は笑っている状態』

 

『……』

 

『どっちかが笑顔だとさ、もう片方も笑顔になれるよね。そうするとさ、人と人がお互いに近づけて、仲良くなって、その人の居場所が出来ると思うんだ』

 

その時になって、映司は理解する。

 

目の前にいる男は、自分も笑え、と言っているのだ。

 

だが、それは自分がいたい場所にいることで苦しんでいる映司には、安すぎる発言だった。

 

『笑え、ないよ……』

 

『え……?』

 

『みんな、僕のことをいつも気遣ってくれてる……そのせいでみんな、笑顔がなくなっちゃったんだ……』

 

初めて、男に対して口を切いた映司。その声には、嗚咽が所々に滲んでいた。

 

『それなのに、僕が笑っていいはずないよ……』

 

『いいと思うよ』

 

その発言に、映司は顔を上げた。

 

『みんな、君の笑顔のためにやってくれてるんだからさ、君はそれに、素直に応えてあげたらいいと思う。嬉しかったら笑って、悲しかったら泣いて。たまに言葉にして、相手にどんどん伝えていけばいいと思うんだ』

 

『……』

 

『君はもっと素直になっていいんだよ。変に考えたりしないでさ、相手と一緒に笑ったり泣いたりしたらいいんだ』

 

『……』

 

『相手のこと、自分勝手に決めつけちゃうだけなんて、哀しすぎるから……』

 

『……っ!』

 

映司はその一言で気付く。

 

自分に気を遣っていた相手が、自分から距離を置いていたのではなかった。

 

距離をとっていたのは−ー自分自身だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が、他の人と関わりを持つようになったのは、それからだったんだ」

 

今度は映司が、思い出を抱きしめるように話す。

 

「初めてだったんだ……俺がいたいって思った場所で、笑っていいって言ってくれたのは……」

 

本当に、あの時の男性には感謝している。

 

他人との関わりに何の価値も見いだせなかった自分が、他人と笑いあったり泣きあったりすることの素晴らしさに出会えることが出来た。

 

 

今、映司が可能な限り、関わった人との繋がりを守ろうとしているのは、その男性の教えを尊重しているからである。

 

「素敵な人だったんですね……」

 

「うん……でも、その日以来会っていないんだ」

 

璃朱は、映司の発言に眉をひそめた。

 

 

 

 

 

例の男性と出会った翌日、映司は外国にいる親元に引き取られることになっていた。なんでも仕事が一段落ついたらしい、ということを叔父と叔母から聞いていた。叔母からの電話を幾度となく受けていた両親は、年相応の子供らしく育っていなかったことを考慮しつつ、そのような決断に至ったのだろう。

 

そのような話に、映司は戸惑ったものの、結局はそれを了承した。その時は、自分の居場所などどこにもないと思っていたから、自分がいる場所はどこでもいいと自暴自棄になっていたのが、最大の理由である。

 

しかし、男性と会った後の映司は違った。自分がいるその場所で、笑っていいことに気付いた彼は、人が変わったかのように素直に生きるようになっていた。年相応の子供らしく、明るく振る舞う彼の近くには、子供大人問わず、多くの人が集まるようになっていった。

 

人との関わりを大切にするようになった彼はやがて青年へと成長し、自分を変えた男性に合うために日本に戻ってきた。

 

しかし、映司がいた保育園で聞いたところ、その男性は今、世界中を冒険している最中とのことだった。今どこを旅しているのかも判らず、いつ戻るかも判らない。故に、彼に会える確率は絶望的に低いということらしい。

 

だが、映司にとって、それは諦めの言葉にはならなかった。

 

 

微かに残っている、男性の記憶。

 

青空を見上げていたあの時、清々しい笑顔になっていた男性は、きっと誰よりも青空が好きに違いない。

 

そのような思い込みを、胸に抱きながら映司は世界中を旅することを決めた。

 

あの時言えなかった−−今だからこそ言える礼の一言を告げるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが、俺が旅に出た切欠」

 

語り終えた映司を、璃朱は呆気に取られた様子で見つめていた。

 

そんなちっぽけな理由で、小さすぎる可能性のみで、世界中を旅してきたと言えば、誰だって呆れ果てるだろう。

 

−−しかし、逆を言えば、映司にとって、それほど大きなことだったんだろう。

 

そう考えると、璃朱は映司に多大な影響を与えた男性との経緯についてを益々知りたくなっていた。

 

「それで、その人には会えたんですか……?」

 

「ううん、まだ」

 

話を戻そうとした璃朱に対して、あっけらかんと言う映司。世界中を旅したとはいえ、手掛かりが壊滅的に少ないのだ。むしろ、それで見つけられるとしたら、この世界中の人間は恐ろしく単純な生き物となってしまうだろう。

 

「でも……」

 

呟く。

 

「俺はその旅を切欠で、世界の大きさを学んだんだ」

 

映司が旅してきた国々。

 

高度な技術が街をひしめく国や、商業が発達している国。

 

自然の作物が豊富にとれる国や、過去の歴史を尊重し、独自の宗教をもった国。

 

戦争により、明日の生活さえも不安に包まれた国。

 

その人々と触れることで、映司は色々なことを学んできた。

 

自分の小ささと世界の大きさ。

 

ちっぽけな理由で争う人々の心の醜さや、ちっぽけなものでも守ろうとする人々の心の美しさ。

 

どれもが、映司にとってはかけがえのない思い出だった。

 

その旅の中で−−自分がやるべきことを知った。

 

 

 

「その旅でさ、色んな場所を巡って、紛争が起きている地域がまだまだ沢山あるってことを知ったんだ。それで、そこの人達の為に、何かしてあげたいって初めて思ったんだ」

 

「……」

 

「でも、その人に会うってことは諦めてないよ」

 

映司ははっきりと言う。

 

「その人と会うためにも、その人が見てきたものを俺も見なきゃいけないって思ったんだ」

 

誰かが笑顔で接すると、もう一方も笑顔になる。

 

その発言の意味が分かるようになった今だからこそ、映司は考えられるようになった。

 

そう言った男性も、誰かと常に笑顔と接してきたのではないか、と。

 

「勿論、そういった人達を笑顔にしたいって思ったんだけど、こうした活動を続けていれば、いつかその人にも会えるかなって思って」

 

そこまで言って、映司は理解の方へと向き直る。

 

「だから、璃朱ちゃんも自分の行動に疑問を持たなくていいんだ。大切なのは、自分がしたいことを見失わないこと」

 

「自分がしたいことを、見失わない……」

 

「そうすれば、自分の夢をちゃんと追えるし、忘れることもない。自分の夢のためだったらさ、臆病にならずに進んでいっていいんだよ」

 

映司の発言に、璃朱は黙り込む。

 

その沈黙が映司には少し気まずかった。自分と同じような気持ちを抱いていても、同じ方法で事態を解決できるとは限らない。

 

あくまで、アドバイスのつもりで言ったことだったが、それが余計に彼女を悩ませているのなら、自分の一言は余計になったのかもしれない。

 

「あ……あくまでも、参考にして貰えればって話。じゃあ、俺はもう行くから」

 

気まずさを紛らわせるように、映司はそそくさとその場を立ち去ろうとした。

 

「あの……」

 

その瞬間、璃朱が映司を呼び止めた。

 

「映司さんは、その活動の最中なんですか……?」

 

「え……?」

 

何気ない、一言。

 

 

「まだ、その男の人に会えてないんだったら、映司さんはまだ活動を続けてるってことかなって思って……」

 

その一言が、映司の時間を停止させた。

 

 

 

そして、映司の脳裏に浮かぶ光景。

 

 

 

 

爆発する建造物。

 

 

 

大きく舞い上がる炎。

 

 

 

泣き叫ぶ、少女の姿。

 

 

 

大量の資金と引き換えに引き戻される自分。

 

 

 

そんな自分に助けを請うように、悲しみに満ちた多くの瞳。

 

 

 

それらが、映司の中を一気に駆けめぐっていた。

 

 

 

思い出す度に、胸が強く締め付けられる。そのような光景が一瞬で全てを持って行きそうな錯覚を覚え、それに抵抗するように映司は激しく呼吸をして、なんとか落ち着かせる。

 

 

「今は、ちょっと休憩中……かな?」

 

璃朱に心配をかけないように、無理やり笑顔を作って応える。

 

しかし、璃朱はその笑顔を見て、気まずそうな顔になった。そして、それ以上は聞いてはいけないような気がしたのか、彼女も気まずそうな表情になり、黙り込んでしまう。

 

「じ、じゃあ、俺もう行くから!」

 

 

気まずい空気に耐えきれなくなったように、映司は璃朱をその場に残し、全力で走り出す。

 

「あ……映司さん……!」

 

璃朱は、映司を呼び止めようとする。しかし、彼はもうこちらを振り向こうとはせず、何も考えないように必死に走り続けていた。

 

−−そんな、彼の背中はこれまで見たことがないほど悲しそうな背中だった。

 

 

 

なぜ。

 

あそこまで、彼が態度を変えたのか。

 

なぜ。

 

彼はあれほどにまで、悲しそうなのか。

 

世界を旅するということは、人をあそこまで変えさせるほどの出来事が沢山待っているということなのか。

 

それほどにまで、多くの人の思いが入り混じり、さらに多くの人の思いに影響を与えるのだろうか。

 

 

自分が行く、パワースポットに関しては、それ以上の何かがあるということなのだろうか。

 

 

 

知りたい。

 

 

 

もっと、知りたい。

 

 

 

世界にある、自分の知らないことを、もっと知りたい。

 

 

 

璃朱の中で、急激に思いが膨らんでいく。

 

自我が吹き飛びそうなほどにまで、大きく。大きく膨らんでいく。

 

 

 

その最中、背後で物音がする。

 

−−まるで、コインが落ちたような音が。

 

 

 

『その欲望を……』

 

 

声に反応し、璃朱は振り返る。

 

するとそこには、言いようの知れない、右手に銀貨のような物体を持った異形の存在があった。

 

そして……。

 

 

『解放しろ……!』

 

 

 

その一言と同時に、璃朱の額に銀貨のような物体を挿入した。

 

説明
オーズ作品の第2話となります。
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タグ
仮面ライダーオーズ クロスオーバー(の予定) 原作寄り 

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