仮面ライダーオーズ 旅人と理由と3人のライダー[003 オーズとバースと衝撃コンボ]
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「ハァッ……ハァッ……!!」

 

璃朱のもとから全力で走ってきた映司は、公園の入り口でようやく足を止めた。体に押し寄せる疲労により、立っているのもやっとだった映司は、公園の名前が掘られた、高さが胸部あたりまである柱にもたれかかった。

 

「ハァッ……ハァッ……!!」

 

酸素を欲する体中に口と鼻から大量に酸素を送り込む。不要となった二酸化炭素をそれらから大量に排出し、また酸素を送り込む。

 

その行為を何度も何度も繰り返すことで、映司はようやく落ち着きを取り戻した。

 

落ち着くに従って、映司の脳裏に映像が飛び交っていた映像が、より鮮明に浮き上がってくる。

 

−−自分が救えなかった、少女が声をあげて泣いている姿が。

 

「いい加減、女々しいよなぁ……」

 

ため息を吐きながら、映司は自虐的な笑顔を浮かべた。

 

正直、情けないと思う。その光景を思い出すだけで、息が詰まり、身動きが取りにくくなる。

 

現に、璃朱になんの断りもなしに、彼女の前から走り出してしまったのだ。こんな自分の態度に、少なからず彼女は戸惑いを感じているだろう。

 

これまでにも、そう感じさせてきた人は沢山いただろう。愛想笑いだけで誤魔化してきたものの、よくこれまで続いたな、とも思う。

 

−−忘れるとは言わないけど、早く乗り越えないと……

 

呼吸を整えた映司は、心でそう言う。

 

「一言、璃朱ちゃんに謝っておこうかな……」

 

そう決めた映司が、走ってきた道を戻ろうてした時だった。

 

――キャアアァァァァァァッ!

 

彼女の、悲鳴が木霊したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

璃朱は、目の前の光景を凝視していた。

 

−−なに、これ……?

 

−−なにが、どうなってるの……?

 

その光景に自身の冷静さを持っていかれた彼女の本能が、無意識にそう呟いた。

 

「璃朱ちゃん!!」

 

映司の叫び声が、璃朱をなんとか我に返させた。

 

「映司さん……」

 

「大丈夫!?怪我はない!?」

 

未だに何が起こっているのか判らない様子で、彼女は映司の方を見る。彼女の近くには、無惨に引きちぎられた彼女のショルダーバッグが転がっていた。

 

しかし、彼女はそんなことに気に留めず、ある一点を見つめていた。

 

「映司さん……わたしの、なか……から……化け物が……」

 

彼女の発言に驚きつつも、映司は彼女の視線を辿る。

 

−−そこにいたのは、人間とかけ離れた異形の存在だった。

 

形状は人間と酷似しているものの、その肌は黒に近いグレーで、全身の至る所を包帯らしき布が覆っている。人間でいう頭部にあたる箇所には、目を表しているかのような三角の穴が二つあり、フラフラとした足取りは何かを探して彷徨う亡霊を彷彿とさせる。

 

「ヤミー……!」

 

 

ヤミー。

 

人間の欲望を肥大化させ、その欲望のままに暴走する怪物である。それの行動はヤミーによって異なるが、ヤミーが出てきた人間−−ヤミーの親の欲望を満たすように行動し、それを繰り返すことで成長を続ける。

 

また、ヤミーにも種類があり、親とは別々に行動するものや親に寄生した上で親に行動させるもの。または、親の住処、もしくはそれに準ずる場所に卵を植えつけ、親自身が行動することにより複数匹が同時に成長するものなどがいる。

 

ヤミーは、その体をセルメダルという銀色の硬貨で形成しており、成長するに従ってそのメダルは数を増していく。ちなみに、映司達の前をふらついているヤミーは白ヤミーと呼ばれており、まだ成長途中の存在だ。これを倒しても、セルメダルは一枚しか入手することが出来ないのである。

 

「お前の方が先にいるとは、ちょっとは使えるようになったなぁ……」

 

ヤミーを見据え、その名前を口にする映司を、いつの間にか木の上にいたアンクがヤミーと映司を見下ろしていた。

 

ただし、彼の右手はクスクシエにいた時のものとは違い、緑や黄などの色を一部に施し、鳥類の両翼を模した物体が着いた赤い腕へと変貌していた。

 

「自分で勝手に動き回っているのを見ると、あいつはウヴァのヤミーだな……」

 

−−ヤミーは、欲望を持った人間に、セルメダルを投入することで生み出される存在である。−−ヤミーは、欲望を持った人間に、セルメダルを投入することで生み出される存在である。では、そのヤミーを生み出す存在はなんなのか。

 

その正体の名は、グリード。

 

約800年前に姿を現したそれは、人間の欲望を暴走させることに加え、その圧倒的な力によって世界を終焉に向かわせる存在……と、映司はアンクから聞いている。

 

アンクが言ったウヴァという名前は、そのグリードのうちの一体であり−−同時に、アンクもまた、グリードの一体である。

 

グリードは人間の欲望からヤミーを生み出し、増やしたセルメダルを糧に自身を保っている存在だが、ヤミーと決定的に違う点が存在する。

 

それは、コアメダルというメダルの存在だ。

 

ウヴァを含め、グリードはその体を構成するセルメダル以外にもコアメダルといった特殊な力が宿ったメダルを体内に有している。そのコアメダルにも種類があり、ウヴァはクワガタ虫、カマキリ、バッタの力を宿したメダルを体内に取り込んでおり、他のグリードも3体の動物の力を宿したコアメダルを体内に有している。各グリードのコアメダルは全部で各種3枚ずつの計9枚存在しているが、体内に9枚全てを有しているグリードは現在存在しない。

 

コアメダルが彼らの力の大元となっているため、彼らの体からそれが抜け落ちると力は格段に低下し、自身の存在を維持することが出来なくなる。故に、グリードである彼らは不足している自身のコアメダルを求め、完全な状態に復活し、自身の欲望を達成しようとしている。現にアンクは自身のコアを2枚しか所有していないため、右腕しか再生していない。しかし、『完全な肉体を手に入れる』という欲望を胸に、現在ではヤミー関連の事故により意識を失っている泉 信吾の肉体を乗っ取り、自身のコアメダルを探しているのだ。

 

「アンク!早くメダル!」

 

木の上で白ヤミーを冷静に観察していたアンクに、映司が叫ぶ。そんな彼に対し、アンクは苛立った様子で舌打ちを返す。

 

「やるからには、セルメダルしっかり稼げよ!!」

 

叫ぶと同時に、タカの刻印が刻まれた赤色のメダル、トラの刻印が刻まれた黄色のメダル、バッタの刻印が刻まれた緑色のメダルを取り出すと、アンクはそれらを映司に向かって放り投げた。

 

それらを右手でキャッチしながら、映司は空いている左手でちょうどメダルがすっぽり収まるほどの空洞が3つほど空いた、黒色と淡い青色が基調となった物体−−オーズドライバーを腹部に当てる。すると、オーズドライバーの両端からベルト状の帯が飛び出し、映司の腹部にそれがしっかりと固定される。

 

映司は、両手に持ったタカのメダルとバッタのメダルをそれぞれ空洞の右と左に挿入した後、中央の空洞にトラのメダルを挿入する。ベルトに付属していた機械−−オースキャナーを右手に握り、地面と平行だったオーズドライバーの右端を叩き上げオーズドライバーを斜めにすると、右腕と左腕もドライバーと同等に傾け、姿勢を一層鋭くする。

 

そして、オーズドライバーに挿入した3枚のメダルを、映司は右手に持ったオースキャナーで一気に通過させた。

 

「変身!」

 

メダルの色と同じ色の光の輪が、それぞれのメダルを中心に浮かび上がる。

 

映司の声を切欠に、映司の頭部、胸部、脚部を無数の円状の物体が回転し始める。

 

『タカ!』

 

頭部の円状の物体が、タカのメダルの刻印を。

 

『トラ!』

 

胸部のそれが、トラのメダルの刻印を。

 

『バッタ!』

 

脚部のそれが、バッタのメダルの刻印を、映し出す。

 

『タ・ト・バ!タトバタ・ト・バ!』

 

奇妙な歌声と共に、3つの刻印が1つの円盤に収束され、それが映司の胸部へと飛び込んだ。

 

すると、映司の体が全く別の姿へと変化していた。

 

黒を基調としたボディの頭部、腕部、脚部の彩色がそれぞれ異なっていた。

 

頭部は、赤い鳥を模し、人間でいう目の部分には緑色の複眼が装飾された仮面。

 

腕部は、胸部の円盤−−オーラングサークルのトラの刻印から出た黄色いラインが肘あたりまで延び、肘から先は虎の腕を彷彿とさせる黄色い腕。

 

脚部は、オーラングサークルから出た緑色のラインが延び、膝上からはバッタの脚を彷彿とさせるデザインが施された緑色の脚。

 

 

 

オーズ。

 

 

 

800年前、グリードを封印した存在。グリードの力の源であるコアメダルを用い、メダルから引き出せる能力を駆使するその存在は、神に等しい存在とされてきた。

 

グリードとの闘いの後、オーズの力共々封印されてきたらしいが、アンクから詳しく聞かされていないため、映司はグリードとオーズは天敵通しという程度にしか解釈していない。

 

今、映司が変身したオーズの姿は基本形態であるタトバコンボと言われる形態だ。様々な能力を使い分けるオーズだが、それは相手の戦法をみた上で実行される。このタトバコンボは機動力に優れ、なおかつ映司の身体にも強い負荷を与えないため、彼が変身する上で最もよく使用される形態だ。

 

「はぁっ!」

 

オーズは腕に意識を集中させる。すると、オーラングサークルから延びた黄色いラインが光り、その光が腕の先へと走っていく。光が腕の先に到達すると、腕に折り畳められていた爪−トラクローが展開される。

 

次に、脚へと意識を集中させると脚に延びた緑色のラインが光り、オーズはそのまま白ヤミーの方へと大きく跳躍する。

 

「セイヤッ!」

 

跳躍した勢いのまま、ふらつくヤミーの背中を蹴り上げた。オーズの奇襲にヤミーはバランスを崩しかけるが、なんとか踏みとどまると、自分に危害を加えたオーズに反撃しようとして距離を詰めてくる。

 

『ウウゥ……ヴァアアァア……!』

 

フラフラと近寄りながら、縦横無尽に腕を降り続けるヤミーの攻撃をオーズはかわす。そのお返しと言わんばかりに、ヤミーにトラクローを使って3回ほど攻撃すると、ヤミーは後退り、なんとか姿勢を立て直していた。

 

『知りたい……もっと……知りたい……』

 

ヤミーの発言を聞き、オーズは足を止めた。

 

そうこうしていると、ヤミーは足下にあった木の枝を拾い上げ、それを眺める。

 

そして−ー

 

『ングッ……』

 

その木の枝を体内へと取り込んだ。

 

『知りたい……もっと……たくさんのことが……世界中の色んなことが……』

 

大きな独り言を言い続ける白ヤミーを、オーズとアンクは黙視する。そうしている間も、白ヤミーは地面に転がっている小石や風に飛ばされたポスター、挙げ句の果てには誰かが落とした携帯電話を次々と取り込んでいった。

 

「知識欲か……典型的な欲望だなぁ……」

 

「知識欲……?」

 

白ヤミーの欲望の源を把握したアンクの声に、オーズは首を傾げる。

 

「けど、あれって色んなものをただ取り込んでるだけじゃないか?」

 

「人間の赤ん坊を考えてみろ。食い物や危険な物、なんでもかんでも口に入れ、それでそれがどういうものなのかがやっと判る……言ってみれば、あのヤミーは生まれたての赤ん坊のように色々取り込むことで、それが何なのかを知ろうとしているだろう」

 

アンクの説明に、オーズは納得をした様子を見せるが、同時に人間ではないアンクに指摘されたことに少しショックを受けていた。

 

そんな、オーズに目もくれず、アンクは、白ヤミーを黙視していた。

 

(しかし、あのヤミー……なかなか成長しないなぁ……そこそこメダルは貯まっているはずだが……)

 

アンクはグリードの能力のひとつで、これまでヤミーの活動を正確に感じ取っていた。それは、ヤミーの中にセルメダルがある程度蓄積し、ヤミーが成長する際の合図でもある。

 

しかし、アンクはそれを感じたにも関わらず、白ヤミーは未だに成長する兆しを見せない。そこらにあるものを手当たり次第に体内に取り込んではいるが、そのどれもが知識欲を充たす存在ではない、ということなのだろうか。

 

(これじゃあ、何のために映司にメダルを渡したのか……)

 

アンクはセルメダルを回収するために、オーズの力の源であるコアメダルを渡している。だが、それはヤミーの中にある程度、メダルが蓄積してからの話だ。一体のヤミーから、大量のセルメダルを回収するというのが彼の基本的な考えだ。

 

だが、今のアンクは、すぐにでもヤミーを倒させ、セルメダルを回収しようとしている。

 

何故か。

 

−−セルメダルを、横取りさせないためだ。

 

「おー、おー。やってるねぇ!」

 

ヤミーと戦闘するオーズと、それを傍観するアンクとは別の方向から、男の声が聞こえた。

 

切りそろえられた短髪に、口元と顎に生えた髭。服装は茶色のダウンジャケットに深緑色のブカブカのズボン、黒色のブーツ。自身の胴体ほどの大きさのミルク缶を軽く担いだ、見るからに豪快そうな男性だ。

 

「ちっ……来やがった……!」

 

「伊達(だて)さん!」

 

心底鬱陶しそうにアンクが呟き、オーズは男の名前を叫ぶ。

 

伊達 明(あきら)。

 

最近、映司達の前に現れた、鴻上ファウンデーションの臨時社員である。

 

「俺も、混ぜてもらいますか」

 

そう言うと、伊達はあるものを取り出す−−碧色の球状の物体が固定されたバックルの横手に回し手がついた物体がとりつけられた、ベルトだ。

 

右手にそれの一端を握った伊達は、自分の体を中心に、それのもう一端を時計周りの方向に放り投げる。生じた遠心力により、ベルトが伊達の体に巻き付き、放り投げられた一端がバックルに到達し、固定される。

 

伊達はさらに、右拳に乗せたセルメダルを親指で真上に弾き、それを左手で掴み取っていた。

 

「変身」

 

掴んだセルメダルを碧色の球状の物体の左側にある空洞に挿入すると、それが鮮やかに輝き出す。次に伊達は、回し手を2回ほど回すと、『カポーン』という音が空間を振動させた。

 

その直後、伊達の周囲を碧色の光が包み込み、同色、もしくは酷似した色の金属が、制御プログラムのような電子的な動きで伊達の体に纏わりついていく。

 

碧色の光が収まった後、伊達がいた場所には、全く異なった存在が佇んでいた。

 

シルバーのプロテクターに、バックルの球状の物体が着いたものを両肩、両腕、両脚、腰の左右、そして胸部に着いており、全身は黒を基調としたスーツ。プロテクター以外の胸部は碧色の鎧で覆われており、顔面の大部分がU字の複眼で覆われている。

 

仮面ライダーバース。

 

鴻上ファウンデーションが開発した、セルメダルを活用してヤミーに対抗するための肉体強化ユニットである。

 

「んじゃあ、稼がせてもらいますか!」

 

叫ぶと同時に、バースは大型銃−バースバスターを構える。照準をフラついているヤミーに合わせると、バースは思い切り引き金を弾いた。バースバスターの銃口からはセルメダルが発射され、命中したヤミーの体からは火花が飛び散っていた。

 

「火野!アンコ!悪いけど、またメダルはこっちが全部いただくから!」

 

ヤミーが倒れた際に、オーズとアンクに近づいてきたバースはそのように告げる。するとアンクは精一杯の嫌みを込め、「ハッ」とバースを鼻で笑い飛ばす。

 

「残念だがなぁ、そのヤミーを倒しても、メダルは一枚しか手に入らないぞ」

 

「え!?そうなの!?」

 

アンクの発言に、そのことを全く知らなかったバースは驚いた様子のリアクションを見せる。「そんなこと、マニュアルに書いてあったっけか……?」と、まともに読んだこともない、バースやヤミーについて纏められたマニュアルに文句を言い出す光景はなんともシュールだ。

 

「良かったなぁ。ひとつお勉強になって」

 

これぞとばかりに、最大限の嫌みをバースに向かって言い放つアンク。それに対し、オーズはアンクをなんとか宥めようとするが、言われた当のバースは「ま、いいや」とあっさり流す。

 

「一枚だろうがなんだろうが、俺が全部もらうよ。きっちり、これだけ稼がないといけないからね」

 

そう言うバースは、ピッと人差し指を天に向かって指す。

 

それが意味するもの。

 

一億という、金額。

 

伊達は、その目標のために、戦いに臨んでいるのだ。

 

「じゃ、そういうことで」

 

「あ、ちょっと……」

 

一方的に話を終わらせ、フラフラと立ち上がろうとしているヤミーに向かうバースに、オーズは話しかけようとしたが、バースはそのまま行ってしまう。

 

 

 

 

 

 

−−だが、その行き先を複数の物体が防いでいた。

 

「おわっ!?なんだ、こいつらは!?」

 

バースの行き先には、先程までオーズとバースの標的だったヤミーと酷似した物体がウヨウヨと歩いていた。例のヤミーとの相違点は、身を覆う包帯は少なく、汚れており、顔の部分には黒い穴がポッカリと空いていた。

 

そのヤミーが十数体という群れを成して、バースの周りを取り囲んでいた。

 

「屑ヤミー……!」

 

その存在を確認したアンクが、またも憎々しい様子で、その名を口にした。

 

 

屑ヤミー。ヤミーでありながら、ヤミーでない存在。

 

通常のヤミーとは異なり、こちらは親となる人間を必要とせず、複数体一気に生成することが出来る利便性があるが、通常のヤミーのように欲望を果たすような行為は一切起こさず、また成長もしないので、体内にはセルメダルを一切蓄積しない。通常のヤミーがセルメダルを稼ぐ戦闘員であれば、屑ヤミーは足止め専門のヤミーと言った方がピッタリと当てはまるであろう。

 

「うわ、こっちまで……!」

 

いつの間にか、オーズの周りにも大量の屑ヤミーが押し寄せてきていた。オーズ、バースは屑ヤミーの対応に追われ、白ヤミーはその間に取り込もうとする物を探し始めていた。

 

「ちっ……映司!」

 

「え!?」

 

「こいつで、屑ヤミーを追っ払え!」

 

アンクは取り出したメダルを、オーズに投げ渡し、オーズはそれをキャッチする。オーズの手の中には、クワガタの紋章が刻まれた緑色のメダルがあった。

 

オーズは有無を言わず、オーズドライバーのタカのメダルを外し、タカのメダルを納めていた場所にクワガタのメダルを納め、再び三つのメダルを、オースキャナーで読みとらせた。

 

『クワガタ、トラ、バッタ!!』

 

体の各部分の周辺を回っていた無数のメダルが、それぞれの紋章を映し出すと、それらは再びオーラングサークルに収束され、オーズの胸部に飛び込む。

 

すると、タカの形状を模した赤色の覆面が、クワガタの形状を模し、橙色の複眼を有した緑色の仮面へと形を変えた。

 

「うおおぉぉ!!」

 

オーズが叫ぶと、クワガタの覆面の角の部分から、緑色の稲妻が周囲に拡散する。それを浴びた屑ヤミーの数体は粉砕され、屑ヤミーがいた場所には、砕かれたセルメダルの一部が転がっていた。

 

「セイヤァ!」

 

オーズは次に腕に意識を集中させると、既に開いていたトラクローが輝き出す。それを残りの屑ヤミーに食らわせることで、オーズの周囲の屑ヤミーは一匹残らず崩れ落ちていた。

 

 

 

だが……。

 

『フンッ!』

 

「グアッ!」

 

次の瞬間、オーズは背後から、鋭い爪のようなものの一撃を食らっていた。深くまではいたらなかったものの、思いがけない一撃により、オーズは膝をついた状態で、背後を振り返る。

 

『オーズ、アンク……これ以上の邪魔はさせん……』

 

そこにいたのは、クワガタの角のような角を頭部から生やし、両腕に生えたカマキリの鎌を彷彿とさせるかぎ爪やカマキリのような複眼、昆虫の外骨格や節足的な突起に覆われたような体格を有した緑色の化け物だった。

 

「ウヴァ……今度のヤミーはよっぽどノロマだなぁ……お前もとうとう欲望を見れないほど、バカになったか」

 

『フン……勝手にほざいてろ』

 

アンクと言い合いながらも、ウヴァは鉤爪でオーズを切り裂く。

 

「うぁっ!?」

 

切り裂かれた場所から火花が飛び散りる。オーズはなんとか距離をとろうとするが、機動性と俊敏性に長けたウヴァは一瞬で距離を詰め、鉤爪によるダメージをオーズに確実に蓄積させていく。

 

その様子を見ながら、アンクは舌を打つ。いくら映司がオーズとしての戦闘に慣れてきたとはいえ、相手がグリードとなると勝手が異なってくる。メダルを有しているなら対抗できるかもしれないが、今手元にあるメダルを渡してもウヴァに邪魔されるのは目に見えている。

 

どうしたものか……アンクが頭を悩ませていた時だった。

 

『Crane Arm』

 

遠くのほうから電子的な音声が聞こえたかと思うと、オーズとウヴァの間を巨大な鉄の塊が通り過ぎる。お互いに間逆の方向に飛び、それをかわした後、オーズはうつ伏せの状態から、鉄の塊が飛んできた方向を見る。

 

「火野!危ないから、ちょっと引っ込んでろ!」

 

声を上げたのはバースだった。ただし、その右腕には先程通り過ぎていった鉄の塊と、それを支える柱のような巨大な物体がバースの腕に装着されていた。

 

クレーンアーム。バースが使用する専用武器の一つだ。

 

バースは用途に応じて、様々な武器を使い分けることができる。このクレーンアームを使用することで、周囲にいた屑ヤミーを一気に蹴散らし、それと同時にこちら側へ攻撃の手を伸ばしたのだ。細々とした戦い方を好まない、実に彼らしい戦い方だ。

 

「今回は、あんたで稼がせてもらおうか!」

 

叫びながら、バースはバースドライバーの横にある空洞に、セルメダルを投下する。

 

『Caterpillar leg』

 

再び鳴る電子音と同時に、バースの足がまるでブルドーザーの車輪を模したかのような装軌車両へと変化する。変化が終わると同時に、その車両が回転をはじめ、バースはクレーンアームをウヴァに放ちながら、ウヴァへと接近を始める。

 

「おらぁ!!」

 

『グッ……!』

 

「うわ!ちょ、ちょっと伊達さん!危ないって!」

 

バースのクレーンアームの一撃を、ウヴァは何とかかわしていくが、その攻撃はオーズさえも巻き込まんとする勢いであった。この流れに便乗してウヴァを倒そうとする余裕があるわけもなく、オーズも必死に回避行動を取っていた。

 

「だから、言ってるだろ。危ないからどいてろって!!」

 

オーズの発言をまるで耳にしないで、攻撃を続けるバース。

 

この隙に乗じて、アンクはオーズにメダルを与えようと手持ちを確認する。一方、オーズも同じことを考えていたようで、アイキャッチでメダルが渡されるタイミングを見計らう。

 

『グゥッ……!』

 

「映司!」

 

そして、ウヴァとクレーンアームが、オーズとアンクの両者から離れた瞬間、アンクはオーズに向ってメダルを投げ渡す。

 

受け取ったメダルは、チーターの紋章が刻まれた、黄色のメダル。オーズはそれをバッタメダルと入れ替え、すかさずオースキャナーでメダルをスキャンする。

 

『クワガタ!トラ!チーター!』

 

オーラングサークルのバッタの紋章がチーターの紋章へと変わり、バッタを彷彿とさせた足もチーターを彷彿とさせるそれへと変化する。

 

「ハッ!」

 

掛け声を発するや否や、オーズはウヴァへと駆け出す。そのスピードは先ほどの比ではなく、常人が捕らえるのが困難なほどの走行だった。

 

「セイヤー!」

 

加えられた勢いによる強い一撃が、ウヴァを襲う。

 

『グアッ!!』

 

あまりにも早すぎる攻撃にウヴァは防御をとれず、まともに直撃を受けてしまい、その傷口からはセルメダルが溢れ出す。その勢いに便乗したバースのクレーンアームがウヴァを襲い、さらに多くのセルメダルが零れ落ちる。

 

「おぉ、大量大量」

 

「映司!メダルを取られんなつったろ!!」

 

「無茶言うなよ!」

 

戦闘中であるにも関わらず、談笑を始めるオーズ一同。その対応に、ウヴァはとうとう我慢の限界を超えた。

 

『貴様らぁ……調子に乗るなぁ!!』

 

本気で怒ったウヴァが角から緑色の凄まじい電撃を放出する。それを回避することが出来なかったオーズとバースは地面に倒れるが、傷は思ったより深くはなく、二人とも再び起き上がろうとする。

 

「む……虫なくせに強いじゃないの……」

 

妙な持論を語りながらも、バースは再びクレーンアームをウヴァに向けた。それに敵対するウヴァも頭の角からバチバチと稲妻の奔流を垣間見せており、今にもそれらが解き放たれそうな雰囲気となる。

 

しかし−−

 

「きゃっ!?」

 

聞き慣れた声が、オーズの背後から聞こえた。

 

「え!?」

 

とっさに背後を振り返るオーズ。するといつからそこにいたのか、璃朱が木の影からこちらを覗いていたのだ。

 

「くらえ、虫頭!!」

 

『ウオオォ!!』

 

オーズが璃朱に気をとられた瞬間、バースがクレーンアームを、ウヴァが電撃を放つ。二つはお互いを弾き合い、双方の対象に到達することはなかった。

 

 

 

 

 

だが、クレーンアームは電撃の衝撃により、璃朱の方向へと向っていたのだ。

 

「きゃあああああああ!?」

 

「璃朱ちゃん!!」

 

チーターレッグで出し切れる限界のスピードで、オーズは璃朱のもとへと向う。そのかいあって、クレーンアームが璃朱へと衝突する前になんとかオーズはたどり着いたが、それをかわすための時間がオーズにはなかった。

 

「ぐああああ!?」

 

璃朱を軽く突き飛ばしたその瞬間、オーズにクレーンアームが直撃し、オーズは大きく吹き飛ばされる。その大きすぎる威力は、オーズが飛ばされた先にいたアンクまでを巻き添えにしてしまうほどだった。

 

「グアッ!」

 

「あぐっ!」

 

余程の一撃だったのか、オーズドライバーから、全てのメダルが抜け落ちてしまい、オーズは映司の姿へと戻ってしまう。アンクも咄嗟にメダルを自身の中に取り込んだものの、何枚かのコアメダルを吐き出してしまう。

 

それに真っ先に反応したのは、ウヴァだった。なにしろ映司とアンクの手元にあるコアメダルを手に入れれば、自分ははれて完全復活ができるのだ。これ以上のチャンスはないといっても過言ではないだろう。

 

そのことを、映司もまた理解していた。自分が倒さなければいけない相手がより大きな力を手に入れてしまえば、苦しんでいる人が益々増えてしまうのだ。

 

−−完全復活だけは避けなければ。

 

言うことのきかない体に鞭を打ちながら、散らばったメダルをなんとか回収していく。

 

トラのコアメダル。

 

チーターのコアメダル。

 

そして、クワガタとバッタのメダルに手を伸ばそうとする。

 

しかし、映司の手にそれが届くことはなかった。

何者かが、そのメダルを拾ったからである。

 

 

 

それは、伊達が変身したバースでもない。

 

 

 

 

ましてや、ウヴァでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、璃朱から生まれた白ヤミーだった。

 

「……っ!!」

 

予想外の敵に、映司は一瞬言葉を失くす。それは、バースやウヴァも同じである−−なんせ、今まで、ヤミーがコアメダルを自分の意志で持ったことなどなかったのだから。

 

そうこうしている間にも、白ヤミーはアンクから放出されたメダル向って歩いていく。アンクは何とか、自身を信吾の体から分離させ、いくつかコアメダルを回収するも、白ヤミーに一枚奪われてしまっていた。

 

 

 

 

 

そして、白ヤミーの手元には三枚のコアメダルが揃っていた−−クワガタ、カマキリ、バッタの三枚のメダルが。

 

 

『知りたい……もっと、知りたい……』

 

 

輝くコアメダルを眺めながら、つぶやく白ヤミー。

 

そして数秒間、それを眺めていたかと思うと−−白ヤミーはその三枚を体内に取り込んだのだ。

 

「……っ!!」

 

突然の出来事に、映司だけでなく、アンク、ウヴァ、バースも息を呑んでしまう。

 

その直後、ヤミーに変化が現れた。体中から緑色の光の奔流が溢れ、体の形状が変わっていく。

 

頭部は白色に、胴色の4本の角が生え。

 

腕からは、およそ60cm前後の丸みを帯びた切り裂きやすい鎌が。

 

足は俊敏性と力に満ち溢れた隆々とした筋肉がついていた。

 

その姿を、映司、アンク、ウヴァはそのヤミーに良く似た概形を見たことがある−−なぜならば、それはオーズが変身するガタキリバコンボの概形にそっくりだったのだ。

 

 

『知りたい……もっと……世界中のことが……もっと知りたい……!!』

 

満ち溢れた力を、しかしそれに満足しようとしないヤミー−−ガタキリバヤミーは、全身から緑色の莫大な雷を周囲に浴びせ、その大きすぎる産声をあげていた。

 

 

説明
オーズ作品の第3話となります。
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