仮面ライダーオーズ 旅人と理由と3人のライダー[004 圧倒的と困惑と映司の過去]
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『ウオォォォォォ!!』

 

ガタキリバヤミーが絶叫する中、映司とアンク、バースはその存在を凝視していた。

 

その、存在感。

 

威圧感。

 

なにもかもが、過去に映司達が戦ってきたヤミーとは段違いのものだった。

 

「アンク、ヤミーってコアメダルまで欲望の対象にするのか!?」

 

「知るか!……こんな馬鹿げたこと、今までになかった……!」

 

なんとか態勢を立て直す映司は、アンクに向かって質問を投げかける。だが、アンクから返ってきた答えから察するに、このような経緯を、アンク自身も知らかったらしい。その取り乱し方は、普段冷静な彼からは想像もつかない程のものだった。

 

『……ふ。こいつはとんだ拾いものだったな』

 

ヤミーを生み出したウヴァも想定外……といった様子だが、彼にとっては嬉しい誤算だったようだ。なにせ、蓄積したセルメダルを回収する予定が、自分から欠けていたコアメダル全てが手元に戻ってきたのだから。

 

『こうなっては、もうこのヤミーに用は無い。さっさと完全体になるとするか……』

 

そう呟くと、ウヴァは叫んでいるガタキリバヤミーに向かって近づいていく。

 

「……っ!」

 

「ちっ……!こいつはマズいな……」

 

それを遠くから見ていた映司とアンクは大きな焦燥感に駆られた。完全体となったウヴァの戦力が未知数なうえに、手元にあるコアメダルでは、それに対抗できる可能性はほぼゼロに近い。

 

−−−それだけは、止めなければ……!

 

映司とアンクの意志が一致する。映司は体に鞭を打ち、アンクは映司に渡すメダルをメダルホルダーから抜き取る。

 

だが、そうこうしている内に、ウヴァがガタキリバヤミーに接近する。一瞬、もう駄目か、と映司とアンクは思うも、それでもメダルを受け渡そうとしていた。

 

そして接近を終えたウヴァが、ガタキリバヤミーの体に触れた瞬間……

 

 

『グッ……!』

 

 

ガタキリバヤミーが腕から生えた巨大な鎌で、ウヴァを切り裂いていた。あまりにも予想外な出来事に、ウヴァだけでなく映司とアンクも目を見開いた。

 

『知りたい……もっと……世界中の色々なことが……』

 

『こいつ……!!』

 

何度も鎌を振るい続けるガタキリバヤミーの攻撃をかわしながら、ウヴァは苛立ちを募らせる。あと少しのところで完全復活できたのに、それが自分の生み出したヤミーに攻撃をされては、もともと短気で感情的なウヴァにとっては相当なものだろう。

 

『俺のヤミーのくせに、俺に逆らう気か!!』

 

一撃の隙をみて、ウヴァはガタキリバヤミーの攻撃を回避し、後方へと飛び上がる。その空中でウヴァは触角から緑色の電撃を発生させ、それはガタキリバヤミー目掛けて飛来する。その大きさは、彼が苛立っていることもあいまって、相当大きなものとなっていた。

 

『知りたい……もっと……!』

 

ところが、ガタキリバヤミーはその電撃に対して、僅かな電撃しか放たなかった。それがウヴァが放った電撃に衝突するが、ウヴァの電撃にかき消されてしまう。

 

−−だが、残ったウヴァの電撃はガタキリバヤミーに直撃せず、ガタキリバヤミーの周囲の地面に降り注いでいた。

 

『なにっ……!?』

 

ガタキリバヤミーに電撃が命中しなかったことを見て、ウヴァは驚愕する。だが、ガタキリバヤミーはそれだけでは終わらなかった。

 

『ウオオォ……オオオオオォ……!!』

 

砂塵の中でガタキリバヤミーが低い唸り声を上げる。その声は徐々に高さを上げ、宙に待っていた砂が空気の変化に従い、大きく渦巻き始めていた。

 

その砂塵の中を凝視するウヴァ、映司、アンク、バース。だが次の瞬間には、宙を舞っていた砂塵が周囲に拡散し始める。

 

その中から現れたのは……ガタキリバヤミーの頭部から発生した電撃が固まった、巨大な球体だった。地上から数メートル浮かぶその球体の大きさはガタキリバヤミー自身の体躯を遥かに越すほどであり、地面から生えた雑草が燃え上がるほど、高密度な固まりとなっていた。

 

それを見た総員は、背筋に寒気を覚える。あんなものをまともに食らえば、ひとたまりもないのは勿論、むしろ生きていられるかどうかさえも危ういだろう。

そんな中、ガタキリバヤミーが動き出す。その電撃の球体を浴びせるべく、標的−−ウヴァの方へと向き直る。

 

『させるか……!』

 

それを見た瞬間、ウヴァはガタキリバヤミーへと走り出す。最も命中精度が高い距離から放たれる前に、少しでもその距離を離れ、なおかつガタキリバヤミーに一撃を浴びせるために、だ。

 

『ウオオォ!!』

 

『ヴァァアアァァ!!』

 

そのウヴァに対し、ガタキリバヤミーは電撃の球をウヴァに向かって投射する。

 

だが、直線的な移動しかできない球を喰らうほど、ウヴァもバカげてはいない。自身の脚力で右側に跳び、回避すると、ウヴァが直前までいた地面に大きなクレーターが出来る。しかも、その周辺の大地も広範囲で焼け焦げていた。まるで非常に小さな水爆がこの公園に投下されたかのような現象を目の当たりにした総員は、全身が硬直してしまう。

 

『ウオオォ!!』

 

その中で、ウヴァは唯一動き回り、ガタキリバヤミーへの接近を続ける。より直線的に、より速度を上昇させながら、ガタキリバヤミーへと接近し、右腕から生えた鎌で斬りつけようとした。

 

−−まさに、その瞬間だった。

 

『ガ……グアアァァアア……!』

 

ウヴァの体が、炎を上げて燃え始めたのである。

 

その光景に、映司にアンク、バースはただ驚くばかりだった。

 

燃えるウヴァはなんとか炎を消そうと懸命に体をこすりつけるが、炎は消えることなく燃え続ける。

 

−−人体自然発火現象。

 

人間の体が突如として燃え上がる現象。

 

この現象には様々な仮説が立てられているが、その中のひとつでプラズマが人体に偶然移ったことにより、発生するという仮説がある。

 

ガタキリバヤミーが先程発生させた電撃の球体が放電したことにより、生成されたプラズマがウヴァの体に移ったことが、発火の決め手となったのであろう。

 

 

『オ……オオォォォ……!!』

 

体中の表面を大量のセルメダルに戻し、なんとか炎を沈下させるウヴァ。だが、それでも受けたダメージは大きかったのか、息を荒げながらも、なんとかその場から逃げ出そうとしていた。

 

「ハッ、自分が作ったヤミーにボロボロにされるとは、ザマァないな、ウヴァ」

 

散々に嫌みを言い放つアンクだが、その表情には余裕などなかった。先程のような芸当を、いとも簡単に行うことが出来るヤミーは、下手をすればウヴァ自身より質が悪い相手だ。グリードにすら手を焼いている状態なのに、これ以上厄介な存在が増えるとなると、ただでさえバースという邪魔者の登場に苛立っているアンクにとって、さらに不愉快としか言うことが出来ない。

 

「……今回ばかりは、稼きを優先している場合じゃないな!」

 

これ以上、ヤミーを放置しておくと危険であると判断したバースは、ガタキリバヤミーにクレーンアームの一撃を中距離からぶつけようとする。

 

『ヴアアァァ……!!』

 

だが、その一撃も触角からの電撃により簡単に弾かれる結果となる。そのやり取りを見て、「中距離じゃ、埒があかないな」とバースは、近距離用の武器を装着するために、新たなセルメダルを投入しようとする。

 

だが、十数メートルあった距離を、ガタキリバヤミーが一瞬で詰め寄っていた。まだ態勢を整えていないバースに向かって拳をぶつけようとする。バースはバックステップでなんとかかわすものの、その直後にガタキリバヤミーが脚のバネをフルに使った跳び蹴りが炸裂し、バースは後方へ吹っ飛ばされてしまった。

 

「あの脚力……バッタのメダルの影響か……。ウヴァの奴、どこまでも余計なことしかしないな……」

 

「アンク、今のうちにメダル!!早く伊達さんを助けないと!!」

 

ヤミーの動きを観察するアンクに向かい、映司が叫ぶ。映司に与えるメダルを考えるアンクだが、機動力の大きいバッタのメダルが奪われたうえ、その能力を使用する相手に、有効な組み合わせのメダルが思い浮かばない。

 

 

「ぐはっ……!」

 

そうこうしている間に、ガタキリバヤミーによってバースは公園内に植えられた樹木に叩きつけられてしまう。

 

「虫が集合すると、やったら強くなるわけね……覚えておかねーとな……」

 

余裕な口調で話すバースだが、その言葉の所々が掠れており、立ち上がろうとする足はガタガタと震えていた。バースに変身することで増長された体力も限界が近いのだろう、彼は自分を立ち上がらせようとするので精一杯だった。

 

そんなバースを、ガタキリバヤミーは右腕の大鎌で容赦なく切り裂いていた。

 

『ガアァっ……!』

 

切り裂かれた場所から大量の火花が飛び散り、倒れ込んできたバースの腹部を、ヤミーはさらに殴りつけ、バースを大きく吹き飛ばしていた。

 

「ガハッ……!」

 

「伊達さん!!アンク、何でもいいから、早くメダル!!」

 

「うるせぇ!!」

 

地面に叩きつけられたバースに向かって、叫ぶ映司。早く助けなければ、と思い、アンクを急かすものの、アンクは映司を怒鳴り散らす。

 

「あんな奴と戦えるメダルがあれば、とっくに渡してる……!」

 

憎々しげに言いながら、アンクはバースに迫り来るガタキリバヤミーを睨みつける。

 

メダルにいくらかの種類があるとは言え、ガタキリバヤミーに有効な組み合わせのメダルは存在していない。仮に適当なメダルを渡したとしても、返り討ちにされるのは目に見えているし、途中で交換させてもその隙にやられ兼ねない。

 

今、対峙しているガタキリバヤミーは、それ程の力を持った相手なのである−−認めざるを得ない現状に、アンクは盛大な舌打ちをしていた。

 

「しゃあねぇ……火野、アンコ!!危ないから近づくんじゃねぇぞ!!」

 

何とか立ち上がったバースは映司とアンクに叫びながら、セルメダルをバースドライバーに挿入する。

 

『Breast Canon』

 

バースドライバーから機械的な音声が鳴り響き、バースの胸部に、両側に大きな掴み手がついた砲身部が赤い大砲−−ブレストキャノンが生み出される。

 

その後に、バースはセルメダルを2枚、バースドライバーに挿入し、ハンドルを回す。

 

『Cell Burst』

 

大砲が甲高い音を放ちながら、砲身部から緑色の光が溢れ出す。だが、バースはさらにメダルをバースドライバーに挿入し続ける。

 

『Cell Burst』

 

『Cell Burst』

 

幾度も同じ行為を繰り返す度に、ブレストキャノンから発せられる音は大きく、高く。

 

そして、砲身部の緑色の光はとてつもなく大きくなっていく。

 

「こいつで……最後だぁ!!」

 

手元にあったセルメダルを全て投入し終え、さらにハンドルを回す。

 

『Cell Burst』

 

その瞬間、機械音の音量も、砲身から溢れる光も最大となる。それを見届けたバースは、ブレストキャノンにある掴み手を、それぞれ両手でガッシリと握り締め、砲身をガタキリバヤミーへと向ける。

 

だが−−

 

「マジかよ……!」

 

呆気に取られた様子で、呟くバース。

 

バースの目の先にあったもの−−それは、ガタキリバヤミーが例の電撃の球体を生成し終えた光景だった。

 

「あんなものを、また作るとは……どこまでも厄介な奴だ……」

 

高密度な電撃の球体をまたもや瞬時に作り出す芸当を見て、アンクはそう呟く。

 

「伊達さん、早くよけて!!」

 

今にも球体を手放そうとしているガタキリバヤミーを横目に、映司はバースに懸命に叫ぶ。

 

「心配御無用!!あれを食らう前に……」

 

ガタキリバヤミーが、バースに向かって電撃球を放ち。

 

「撃つ!!」

 

バースが、ガタキリバヤミーに向かい、ブレストキャノンを撃ち放つ。砲身に充満していたエネルギーが一気に放出され、真っ直ぐ電撃球に延びていく。

 

 

そして、双方は衝突した。ぶつかり合ったそれらは、一歩も退かずに前へと進もうとする。拮抗して生じた衝撃波が周囲に拡散し、映司とアンクは手でそれを両手で防ぎながら、その戦いを見守っていた。

 

「ウオオオオオオオオォォォ!!」

 

腹の底から、限界に近づいた体力を全てつぎ込み、叫ぶバース。その叫びがブレストキャノンから放出される砲弾により強い力を与える。

 

そして、数秒に渡る拮抗が崩れ去る−−勝利したのは、ブレストキャノンだった。

 

「ラアアアアァァァァ!!」

 

電撃球を弾き飛ばしたブレストキャノンは、そのままガタキリバヤミーに一撃を喰らわせた。かなり威力が削り取られてもなお、高い威力を持ったそれはガタキリバヤミーに確かなダメージを与えていた。

 

 

 

だが、そんなことにバースは−−否、映司もくれなかった。

 

弾き飛ばされ、その規模が格段に小さくなった電撃球が、あろうことか、璃朱の方へと向かっていたのである。

 

「しまった……!」

 

慌て、璃朱を助けに向かおうとするバースだったが、これまでのダメージが邪魔をし、体が言うことをきかないために、動くことすら出来なかった。

 

「璃朱ちゃん、早く逃げて!!」

 

「……っ!!」

 

注意を促す映司に、しかし璃朱は顔を歪ませるだけだった。先程の電撃球の被害を間近で目の当たりにして、完全に体が竦んでしまっているのだ。

 

懸命に体を動かそうとするも、力の入らない体は、石のように固まっていた。次第に迫り来る恐怖が焦りを生み、さらに大きな恐怖を煽る。

 

迫り来る電撃球を前に、自分の未来が想像できたのか、璃朱は全てを諦めたかのように、目を閉じていた。

 

 

 

−−その暗闇の中で、二つの叫び声が聞こえた。

 

「おい、映司!!」

 

「よせ、火野!!」

 

叫び声に反応し、璃朱は再び目を開ける。

 

そこにあったのは、こちら側に全力で走ってくる映司だった。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

先程のダメージのせいでふらつきながらも、懸命に走る映司。だが、その速度は、それを感じさせないほどのものだった。

 

「ハッ!!」

 

そして、その勢いのまま、残った力を右足に込める。

 

電撃球が間近に迫っていることに臆することもなく。

 

速度を全く落とすこともなく。

 

映司は璃朱に向かって、その腕を目一杯伸ばしながら、飛び込んでいた。

 

 

 

 

−−そして、その腕が璃朱を突き飛ばした瞬間、電撃球が映司の影を飲み込み、爆発した。

 

 

「映司!!」

 

「火野!!」

 

爆発により飛び散る砂煙に向かい、アンクとバースは叫ぶ。

 

電撃球が小さくなっていたとはいえ、地面にできた大きなクレーターと大きな爆発は二人に、映司の死を想像させた。

 

時間の経過と共に、砂煙が少しずつ晴れていく。

 

 

その先には……

 

 

 

 

「グッ……」

 

 

−−力無く倒れている映司がいた。彼の様子を見る限り、直撃は避けられたようだが、爆発の余波を避けることは出来なかったようだった。

 

「映司さん……!!」

 

「璃朱ちゃん……怪我はない?どこか痛い所とかない?」

 

「それより、映司さんの方が……!!」

 

なんとか立ち上がった映司は自分よりも、璃朱の方を心配し始める。璃朱の方に怪我はなかったが、彼女は明らかに自分よりも傷を負っている映司のことを心配していた。

 

「あぁ、俺なら大丈夫大丈夫。それより、本当に大丈夫だった?」

 

苦笑いを浮かべながら、あくまでも璃朱の心配をする映司。そんな映司の強引さに、璃朱はつられて頷くことしか出来なかった。

 

「そっか……良かった……」

 

「何が、良かっただ……こっちはメダル3枚も取られるわ、訳の分からんヤミーが生まれるわ、セルメダルは一枚も手に入らない……さんっざんだ!」

 

映司が心底安心している横から、いつの間にかいたアンクが野次を飛ばす。彼がこちら側に来たことを考えると、どうやら、いつの間にかガタキリバヤミーは逃げていたようだった。

 

「璃朱ちゃんが無事だったんだ。別に良かったじゃないか」

 

アンクがそういった態度をとるのはよく知っていたものの、映司はムッとした様子で言い返す。

 

「ハッ……相変わらず甘ちゃんだな……死にかけといて、よくもそんな台詞が吐けたもんだ」

 

「おい、アンク!」

 

「……今回のヤミーはマジでやばい……そんなんじゃ、本当に死ぬぞ。嫌なら、自分をもっと大事にするんだな」

 

アンクの嫌みを受け、映司は黙り込む。だが、その嫌みの中に隠された、遠回しな気遣いにも、彼はきちんと気付いていた。

 

「次に、奴が出てきたら確実に潰すぞ。あれは、かなりメダルを稼げるからな……」

 

そう言いながら、アンクはその場を後にする。

 

相変わらずメダルのことしか、言わない彼だが、なんだかんだ言っても、映司に気を遣っている。メダルを稼ぐ手段としか考えていないだろうが、それでも映司は少し嬉しく思っていた。

 

「あの、映司さん……」

 

「ん?」

 

「さっきの怪物って……」

 

「あ……」

 

璃朱の問いかけに、映司はしまったという表情を浮かべる。自分一人で行動していたため、彼女をフォローすることが出来ず、結果的にヤミーとの戦闘を目の当たりにさせてしまったのだ。

 

「えっと、さっきの怪物はさ……」

 

彼女に隠すことが不可能と感じた映司は、簡潔にだが説明を始めた。

 

あの怪物は、人の欲望から生まれた存在であること。

 

生まれた人の欲望を満たすように行動を繰り返すこと。

 

そして、人の欲望を暴走させた姿でもあること。

 

「じゃあ……あれが、私の欲望の本当の姿なんですね……」

 

「あれはヤミーが勝手に暴走しただけで……ほら、璃朱ちゃんの夢とは全然違うでしょ?」

 

「でも、私の夢から生まれたんでしょ……?」

 

璃朱の言葉に、映司は口を閉ざす。それを肯定ととった璃朱の口元は、少しずつ震えだしていた。

 

「やっぱり、私の夢は……追っちゃいけなかったんだ……」

 

「違うよ……」

 

「何が違うんですか!?」

 

璃朱の怒鳴り声が、周囲の空気の流れを停止させた。

 

そして、声をあげた璃朱は−−大粒の涙を流して、泣いていた。

 

「散々迷って……自分が納得できる写真が撮れなくて……それをパワースポットなんてものを言い訳に誤魔化して……挙げ句の果てに、こんなに……こんなに、映司さんを傷つけて……」

 

泣きじゃくりながら、璃朱はポロポロと言葉を漏らしていく。

 

映司は、そんな痛々しい姿の璃朱に、何も言うことが出来ず黙って見ていた。

 

「こんな……こんな夢なんて……」

 

夢を追っていたことがあるからこそ、映司にも判る。

 

夢を追う時は何よりも一途に追うことが出来るが、その夢のせいで付けられた傷はとてつもなく大きい。

 

それに一途であるからこそ、それに不安を感じた時に、人はかつてないほどに不安定になったりするものなのだ。

 

大きすぎる希望であるからこそ、それについて回る不安もとてつもなく大きい。映司や璃朱が追っているものは、まさしくそれだった。

 

故に−−自分の夢が他人を傷つけたという事実に、璃朱は完全に自分の夢への自信を失っていた。

 

「……っ!!」

 

「……璃朱ちゃん!!」

 

何も言うことが出来ず、その場に居づらくなった璃朱は、その場から走り出す。咄嗟に追おうとした映司だったが、脳裏に焼き付いた彼女の涙が、映司の足を止める。

 

「璃朱ちゃん……」

 

何も出来ずに、その場に立ち尽くす映司。自分の不甲斐なさに嫌気がさした彼は、ただただ走っていく、痛々しい彼女の背中を見守ることしか出来なかった。

 

「……」

 

そんな様子を、バースから戻った、明が見ているとは知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、映司はその後、一旦クスクシエに戻り、比奈に一通り事情を説明した。彼女には、璃朱のことを任せ、自分は知世子から許可を貰い、今日一日休暇を貰った。

 

情けない顔をしていることが、自分でも分かっていたし、こんな顔を誰かに見せながら、仕事をすることは知世子にもお客さんにも失礼だということを知っていたからである。

 

「……はぁ……」

 

映司は、先程の公園を一人で歩いていた。自分でも、なぜこのような場所を歩いているのかさえも分からない。

 

璃朱に会えるかもしれない、という僅かな可能性もあったが、彼女がここにいるとは考えられなかったし、会った所で、何か言えるとも思えない。

 

−−結局、あの時、なんて言ってあげれば良かったのか

 

そんな言葉が、延々と頭の中を駆け巡り、結果的に何も思い浮かばず、ただため息が募るだけだった。

 

「随分、情けない格好だねぇ」

 

 

映司の前から、男の声が聞こえる。

 

「伊達さん……」

 

俯いていた顔を上げると、そこには「よっ」と言いながら、手のひらをあげる明の姿があった。

 

「彼女と喧嘩して、謝る言葉も見つからないかぁ……お前、本当に情けないなぁ」

 

小馬鹿にしてくる明に対して、映司はやはり意気消沈した様子だった。

 

「自分でもそう思います……ただ、今のあの子の心境を俺もよく知ってます……」

 

「知っていたんなら……何か言葉をかけてあげても……」

 

「知っていたからこそ、何も言えなかった……今、あの子はそれほど傷ついていて、誰の言葉も聞けないと思うんです。変な慰めをかけたら、もっと傷つけちゃうかもしれませんし……」

 

「……」

 

「だからといって、放っておくことも出来なくて……だから、何か言葉はないかって……」

 

そこまで言って、映司は「ハハ……」と乾いた笑い声をあげた。

 

「なんか、言っていることおかしいですね……」

 

そんな映司もまた、明には痛々しく映っていた。無理やりに自分を笑わせようとする、その姿を見て、明は頭を掻く。

 

「やっぱりね……」

 

「え……?」

 

明の発言に、映司は聞き返す。

 

「お前、自分を粗末に扱い過ぎ。笑いたくもないのに、無理やり笑おうとするなんて、自分をもっと悲しませるだけだ」

 

「あ……」

 

ようやく、気づいた様子を見せる映司に、明呆れかえった様子で盛大なため息を吐いていた。

 

「さっきの戦いといい、どうしてそこまで、自分を粗末に出来るの?」

 

明は、先程の戦いの映司の行動に疑念を感じていた。

 

意図していなかったとは言え、自分の一撃をまともに浴びた彼は、変身により強化されていたとはいえ、かなりのダメージを負っていたはずだった。

 

そんな状態にも関わらず、映司は生身のまま、璃朱のもとへと走り、下手をしたら命を落としかねない行動をしたのだ。

 

そんな彼の行動は、あまりにも無茶苦茶過ぎていた。

 

−−自分を泣かせないように、行動する

 

それが明の活動のポリシーであるが故に、映司の自分を泣かせる行動について、明は疑問を抱いていた。

 

「俺は……他の人達が傷つくのは、嫌だって感じるから、です……」

 

明の問い掛けに、映司はそう返していた。だが、明にとってはそれは想定外だったようだった。なにせ、あまりにもお手本すぎる内容たったのだから。

 

「けど……」

 

だが、映司は言葉を続ける。

 

「一番は、俺が後悔したくないからですかね……」

 

「後悔……?」

 

映司の言葉に、明は眉を寄せる。

 

「実は……俺、どうしても助けたかったのに、助けられなかった女の子がいたんです……」

 

映司は、その言葉を重々しく繋いでいく。

 

 

 

−−そして、映司が紡ぎ出すのは、映司が無茶苦茶な行動を繰り返すようになった、あの出来事の詳細だった。

 

説明
オーズ作品の第4話となります。
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