世界を渡る転生物語 影技6 【旅立ち】
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ー遊 泳 浮 遊ー

「あ〜……気持ちいい……」

 

 【((暴猪|ボールボア))】との死闘を終え、自分の血でかぴかぴになった服の血を流し、かつ【牙】族を避けるために湖にやっていた俺は、ジャケットやハーフパンツを脱ぎ捨てて湖に浸し、ふやかしながらゆっくりと湖を泳いていた。

 

(……前のときに食べたけど……【((暴猪|ボールボア))】の肉って脂が乗ってておいしいんだよね〜……不謹慎だけど楽しみだなあ)

 

 そんな事を考えつつも、俺は自分の体をゆっくりと動かして自分の負った体の傷が修復されていることを確認する。

 

 そこには傷一つなく、かつ【((進化細胞|ラーニング))】によって強化された俺の体があり、今更ながらその力に関心しつつ、俺はそのまま水泳を続ける。

 

 今頃は、先ほどカイラが空中に放り投げて発火した照明弾っぽいものを見て【牙】族が集まり、【((暴猪|ボールボア))】の解体作業に入っているはずだ。

 

 正直言えば、人恋しいという事もあって、その解体の中に混ざりたいという気分もないわけではないが……そんな事をすれば俺を匿ったという事でカイラに迷惑がかかるし、未だカイラに全てを教えてもらっていない我が身で森の外に追い出されるというのはどうしても避けたいのだ。

 

 ……何より、せめて時間まではカイラと分かれたくないという思いもある。

 

(……まあ、いっか。解体終わって【牙】族の人達が帰るまでゆっくりしてよ〜っと。気配消してれば見つからないだろうしね)

 

ー水 面 浮 遊ー

 全身の力を抜き、ふよふよと湖の水に浮かびながら目を閉じて自然に身を任せる。

 

 水面と溶け合うような一体感を感じながら、俺は湖に漂いながら穏やかな時間を過ごしていた。

 

 結構な時間が立ち、解体も終わっただろうな〜と湖の傍へと泳ぎ始め、湖から上がってふやかした服の血を洗い落とし終えたその時─

 

ー気 配 感 知ー

(あ……れ? なんか……気配がこっちに近づいてる?!)

 

 解体現場に集まる十数人の【牙】族が使う【リキトア流皇牙王殺法】の気配を感じていた俺の気配感知の知覚内に、大半の【牙】族がまとまって王国のほうに移動する中でその集団から二つの気配が俺のほうへと……湖のほうへと近づいて来ているのがわかったのだ。

 

(え?! な、なんでえ〜!?)

 

 正直、これには驚きを隠せなかった。

 

 以前、【((暴猪|ボールボア))】を狩った時に、カイラと俺の間で決めた話では……俺が【牙】族と出会う確率を減らす為、【リキトア流皇牙王殺法】の効力が及ばない湖に俺が隠れる事。

 

 カイラが【牙】族のみんなをこの湖へ越させないように先導・及び誘導してくれる事などが話し合われていたからだ。

 

 水に濡れた服を絞り、その話を思い返しつつも現状を打破するために俺はあわてて思考を巡らせる。

 

(と、とりあえず森の中へ─)

 

 とりあえず隠れなければと森の中へ脚を踏み入れようとした瞬間──

 

ー魔 力 伝 播ー

 俺が気配を捕らえている二人組の片方から、地面を伝って流れる【魔力】の流れを感じ、それはやがて俺のいる周囲の森の木々へと伝播してく。

 

(やばっ!)

 

ー飛 込 潜 水ー

 その【魔力】の伝達・力の気配を見た瞬間、俺の記憶に思い浮かんだ【リキトア流皇牙王殺法】の力を思い出し、咄嗟に湖に飛び込んで水中に潜る俺。

 

?【((瞳葉|リーズァイズ))】?

ー周 囲 葉 目ー

 

 俺が水に飛び込み、その水面の波紋が消えないほどの刹那の時間で、その【魔力】を受けて俺の傍のにあった木々の葉が瞳を開いて行く。

 

(あ、あぶなあ! 向こうに気配感知されていたのか……! それにあの距離からの【((瞳葉|リーズァイズ))】。この人、知覚特化型の【牙】族なんだな……)

 

 湖の中から見える外のその様子を見ながら、俺はちょっと気を抜いていて、気配隠蔽が疎かだった自分の迂闊さに苦笑する。

 

 【牙】族の中には、その動物的感と知覚が人よりも優れた特化型と呼ばれる人がいるようで、基本にそいういう人達は森の守護役に重畳される。

 

 もっとも、知覚に優れる分、戦闘能力にやや難があったりと、いい事だけではないようだが……。

 

 俺はそんな思考を巡らせつつ、【((瞳葉|リーズァイズ))】の知覚範囲内から逃れようと湖の中央目掛けて潜水し、こちらに迫ってくる気配を確かめるために水上の景色が見えるレベルで潜行を続ける。

 

ー柔 軟 着 地ー

「ちょっと、いったいどうしたんだニャ? ロカ。【((瞳葉|リーズァイズ))】なんて発動させるだニャんて」

 

「いえ……おっかしいわね〜……確かに湖の傍に【牙】族((以外|・・))の気配を感じたのだけれど……」

 

 木々を飛び移り、樹の上から着地し現れるのは、カイラと……しなやかな黒髪・黒耳・黒尻尾のロカと呼ばれた【牙】族。

 

(わ〜……やっぱりかあ……)      

 

 水面から少し顔を出し、静かに空気の補充をしつつその様子を伺うと……やはり気配が漏れていたらしく、警戒した表情のロカさんが自分の目と、湖の傍に展開された【((瞳葉|リーズァイズ))】を使って念入りに森の中を調べているのがよくわかった。

 

「ん〜……動物とか大型の鳥だったのかしら? ……まあいいわ」

 

ー魔 力 消 失ー

 そういいながら【魔力】をカットし、腑に落ちないといった表情をしつつも【((瞳葉|リーズァイズ))】の展開をやめるロカさん。

 

「……案外、湖の主とかかもしれないニャよ? まあ、守護役になってから誰もお目にかかった事はないらしいけどニャ〜」

 

「ま、そうかもね〜。しっかし、【((暴猪|ボールボア))】の解体は相変わらずべたべたになるわねえ……血が固まって服がだめになる前にさっさと洗っちゃいましょ? 今回は着替えも持ってきていないのだし」

 

「そうだニャ〜。小屋に行けばあるけど……さすがに今から戻るのも面倒だしニャ」

 

 そんな事をいいながら、肩に背負っている毛皮に包まれた【((暴猪|ボールボア))】の肉を下ろし─

 

ー着 剥 脱 衣ー

 俺が見ているのを知らず、その血塗れになって脱ぎにくそうな服を剥ぎ取るかのように脱ぎ出すカイラとロカさん。

 

「ブッっ!!」

 

(ちょ?! あ……まず!)

 

ー緊 急 潜 水ー

「ん?!」

 

「ニャ?!」

 

 俺が見ている先で脱ぎだした二人に思わず動揺して吹いてしまい、あわてて湖に沈んで隠れたのだが……俺の吹いた声を聞きつけ、気配感知をしながら湖を凝視する。

 

「……魚にしては随分大きな気配だったわよね?」

 

「そうだにゃ〜……本当に主かにゃ? ……ちょっと興味あるニャ……」

 

 じゅるり、と涎を拭うような仕草をしながら湖を凝視してくるカイラに─

 

「ちょっとカイラ? 無駄な殺生はだめよ? もうすでに【((暴猪|ボールボア))】の肉だってあるのだから。食料的にいえば十二分といえるんだからね?」

 

「わかってるニャ〜、ちょっと見てくるだけニャよ。先に服を洗っているといいニャ〜」

 

「貴女はいつも通りね……まあ、いってらっしゃいな。食い意地に負けるんじゃないわよ?」

 

「し、失礼にゃ! アタシだって狩人ニャよ?! それぐらいわきまえてるニャ! ま、まあいいニャ。と〜〜〜お!」

 

 ロカと呼ばれる【牙】族の人がその言葉を嗜めるようにカイラに声をかけ、カイラがそれに対して言い返しながら耳と尻尾をぶんぶんと動かしつつも、綺麗なフォームで湖に飛び込んでくる。

 

ー飛 込 潜 水ー

 すいすいとまっすぐ俺のほうに近づいてくるカイラと、ゆっくりと底に沈んで行く俺。

 

 そして当然、真っ直ぐこちらに向かってくるカイラが俺を見つけて─

 

「?!?!」

 

ー驚 嘆 息 吐ー

 驚きのあまりに口からゴボっという音を立てて空気を吐き出す。

 

「(ちょ?! な、何やってるニャジン?!)」

 

「(か、カイラこそなんでこっちに来てるのさ! 前に【((暴猪|ボールボア))】を狩ったときも、【牙】族がくるときは湖にいくからっていってたでしょ〜!?」

 

「(あっ……!)」

 

(忘れてた! 絶対そのことを忘れてたよカイラ!)

 

 どうしてもカイラが抑えられずに湖に来てしまった際、最悪逃げられる場所として、【((瞳葉|リーズァイズ))】の眼の届かない湖の中を選んでおいたのだ。

 

 おいたのだが─

 

(まさかカイラが忘れてて案内してくるとは予想外だよ!)

 

 まさか約束を交わしたカイラ自身がこの湖に【牙】族を案内してくるというまさかの出来事に困っていると─

 

「(……むぐ、息、息! と、とりあえずあがるにゃジン!)」

 

「(ちょ?! 俺はまだ持つからって……おわ?!)」

 

ー襟 首 掴 浮ー

 驚きで空気を吐き出しすぎたのか、まだ大丈夫な俺の襟首を無理矢理掴んで水面へと上昇していく。

 

 仕方なしにカイラの影に隠れるように、ロカさんから身を隠すように水面へと上がる。

 

ー水 面 顔 出ー

「ぷっは〜〜〜〜!」

 

「(ふ〜〜〜ひ〜〜〜ふ〜〜〜ひ〜〜〜)」

 

 水面から顔を出して派手に呼吸をするカイラの後ろで、俺は静かに気配を消して息をする。

 

「……ちょっとカイラ、随分と長かったじゃない? 主は見つかったの?」

 

「ニャ?! あ、ああ〜、いや、やっぱ湖底は薄暗くて見つからなかったニャよ〜」

 

「ふうん? ……そ。ほら、貴女のも洗い終わったわよ? 体も洗い流したのならささっといきましょ?」

 

 訝しげな表情でカイラの顔を見ていたロカさんではあったが、洗い終わった服をひらひらと見せながら湖から上がって行く。

 

「(ジン、アタシが泳ぎだすと同時に湖に潜るニャ!)」

 

「(わ、わかった!)」

 

ー泳 行 潜 水ー

 カイラの合図に従い、カイラが泳ぎだした足に蹴られるように湖に潜水する俺。

 

 まっすぐロカさんの場所まで泳いで行くカイラが、着替え終わったロカさんから洗ってもらった服を受け取り─

 

「まあ、濡れているのが難だけど、今は暖かい時期だし、かまわないでしょ?」

 

「もっちろんにゃよ〜。どうせすぐに乾くしニャ! いや〜、さすがロカニャ! 若手【牙】族のうち一番家事が出来るお嫁さんにしたNo1に選ばれるだけはあるニャー! ……ねえ、ロカ? あたしの嫁に……な・ら・ニャ・イ・か?」

 

「?!」

 

 にゃっふ〜と笑みを浮かべながらロカさんにそういうカイラと、その言葉を聴いて固まるロカさん。

 

 そして僅かにカイラからその身を離して─

 

「……ねえ、カイラ? みんなから珍しいとか言われているけど……私はノーマルなの! というか【牙】族のみんなのほうが一般的にいえばおかしいからね?! その……同族内でのその手の趣味はないのよ?!」

 

「ニャ?! そんなにいい体をしているというのに……もったいない! ……じゅるり」

 

ー微 妙 距 離ー

 手をわきわきと動かしてじりじりと接近していくと、真面目で珍しくノーマルというロッカさんが、微妙な距離を保ちつつじりじりと後退していく。

 

「ちょ?! じょ、冗談よね? カイラ。貴女わかっててやってるでしょ?! それ以上近寄ったら思いっきり【リキトア流皇牙王殺法】でぶちのめすわよ?! カイラ!」

 

「にゅふふ〜♪ 照れちゃってかわいいにゃ〜♪ よいでわないかよいでわないか〜!」

 

「か、カイラーーー!?」

 

ー全 力 逃 避ー

ー全 力 追 走ー

 そしてニャッハーという勢いで眼を光らせ、襲い掛かるカイラから逃げるように絶叫して逃げて行くロッカさんと、それを追いかけて行くカイラ。

 

(今のうちニャジン!)

 

(わかった!)

 

 一瞬こちらに視線を流して意思の疎通を図り、ロッカを追いかけて行くカイラに苦笑で答え、湖面に顔を出してあたりを伺い、気配感知を密にしてから家への道を慎重に帰っていく。

 

 ……その際、俺の視界の端に大きな木の拳や脚が見えたのは……まあ、気のせいという事にしておこう。

 

 そして─

 

ー寝 台 倒 寝ー

(あ〜……もう……なんかいろいろ疲れた……)

 

 今では当たり前になった移動方法である、隣接する木と、この木を蹴って小屋の中へ戻ると……真っ先にベッドに倒れこむ俺。

 

 ぐったり横になっていた所に─

 

ー木 扉 開 放ー

「た、ただいまにゃ〜……」

 

「おかえり〜……って、随分ボロボロだねえ」

 

 程なくしてカイラが戻ってきたが、その姿はロカさんに思いっきり反撃されたのか、ややぼろぼろになっていた。

 

「うう……自分のせいだったとはいえ……つ……つかれたニャジン……」

 

「う……うん。肉体的にはどうって事ないけど、精神的に来たね……」

 

ー寝 台 倒 寝ー

 カイラもまたベッドに真っ直ぐ進んできて倒れこみ、二人でぐったりしながら……俺達はやがて意識をなくし、眠りについたのだった。

 

 

 

 

  

 翌日、【((暴猪|ボールボア))】の肉を、干し肉に加工する分と、当面食べる分へと切り分けた後、この森に生えていた、胡椒に似た実を乾かして砕いたものと岩塩を混ぜ、ステーキ風にした【((暴猪|ボールボア))】の肉と付け合せの野菜に振って、焚き火の上に設置された石焼板へと乗せてじっくりと焼いて行く。

 

ー肉 焼 香 匂ー

 熱せられた石が【((暴猪|ボールボア))】の肉を焼き、余分な脂を端から滴らせ、落としていく。

 

「じ〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜!」

 

「まってカイラ、もうちょっとだから!」

 

 晩御飯を食べないまま寝てしまった俺達。

 

 すでに限界まで減ったお腹をさすりながら調理を続け、その横ではナイフとフォークを構えたカイラが今か今かと焼きあがるのをまっている状況だ。

 

「はい、どうぞ」

 

「にゃっは〜! いっただきま〜〜す!」

 

 そして、ようやく焼きあがったステーキを木皿へと取り分け、我慢の限界とばかりにかぶりつくカイラと俺。

 

ー噛 付 食 飲ー

 いい勢いでガツガツとかぶりつき、うまうまといいながらもその食は進み、木製のコップに汲んだ湧き水で喉を潤す。

 

 朝から重い食事ではあったものの、そんな事を感じさせない勢いで食べきった俺達は、いつものように後片付けをし、火の始末をした後、これまたいつものようにゆっくりと体を慣らす準備体操と回避・基礎攻撃の確認をする俺達。

 

 そう、俺達という言葉から分かる通り、この準備運動ともいうべき基礎訓練。

 

 最近ではカイラも自分の基礎を確認するという名目で、俺に付き合ってくれるようになったのだ。

 

 回避・防御と攻撃・体術系の基礎を同時に行うように、互いにゆっくりとした軌道で行きかう拳や蹴りを回避や防御し、慣らし運転のように体を動かし、最適化した後。

 

「す〜……」

「は〜……」

 

 向き合ったまま大きく深呼吸をした俺達は、目を閉じて意識を集中する。

 

 自分の意識の中へと沈み込んでいく感覚と共に、俺達の意識はやがて頭から胸へと降りていく。

 

 そしてそこには心臓よりも少し上の部分に【魔力】を溜め込み、【魔力】を作るような貯水槽のような場所があり、便宜上入れ物という事で【槽】と呼ぶ事にしたソレの入り口をゆっくりと開いていく。

 

ー魔 力 流 動ー

 【槽】を開いた瞬間、【槽】の内側を満たしていた【魔力】は流れだし、肉体という器を満たし、そして大気に満ちる【魔力】に呼び水のように引き寄せられ、肉体の外へと流れ出そうとする。

 

ー魔 力 循 環ー

 その流れを体内に留める為に【魔力】を誘導し、流れに指向性をつけ体内を巡らせた後、巡った【魔力】が再び【槽】へと戻っていくように循環させる。

 

 そうして【槽】に戻る【魔力】と、全開にされた【槽】から湧き出す【魔力】がぶつかり合い、湧き出す【魔力】と合流しながら、再び開かれた門から循環の流れへと戻っていく。

 

 この工程で【魔力】が互いに練磨をするかのようにぶつかり合い、合流する際に磨き上げられ……最初は不純物・濁り・汚れのある淀んだ川のように、【魔力】という力に余分な意思や力が混ざっている【力】から純粋な【魔力】を削りだし、また、削りだした余分なものも練磨する流れの中で細分化され、砕かれてそれもまた【魔力】になり、やがて純度をあげた【魔力】は精神たる意思、イメージを明確に伝えられる伝達物質となり、その濃度をまして強力になっていく。

 

 そして、その【魔力】の流れは、当初濁流のようにぎこちなく氾濫した川のように体内を引っかかりながら流れていたものの……循環する間に川が土を削るように、その体内の流れを調節し、また体外へと支持なしに【魔力】が流れていかないように、そしてより純度をあげ、強力になっていく【魔力】に耐えうるよう、器たる肉体を強化・調整・練磨していく。

 

 このスムーズな流れは技や術が発動する際によりその速度・精度・威力を増大させる要因となり、【魔力】を扱うものにとってこの上ないアドバンテージとなる。

 

 【魔力循環】による練磨の恩恵はそれだけに留まらない。

 

 それは、【魔力】を溜め込む入れ物たる【槽】もまた、【魔力】が循環・練磨される工程によって鍛えられ、広げられてその大きさを増し、【魔力】の貯蔵容量を増やすことが出来るからだ。

 

 そして、その成長と循環の際、【魔力】を放出する門もまた大きさを増やし、一度に放出できる量を増やしていく。

 

 これこそが俺の考えた【魔力】鍛錬の概要だ。

 

 当初よりどんどん力強く、そして強力になっていく俺の【魔力】を見ていたカイラが、俺と一緒にこの【魔力】鍛錬をする事になり─

 

「……やってみてわかったけど……これすっごい重要な鍛錬ニャね。【魔力】って生まれつきのもんであり、体の成長に伴って容量が増えるものだとばかり思ってたし、国でもそう教えてるんだけどにゃあ……」

 

「え……そうなの?! 意識の集中にも役に立つし、やればやるほど自分に還って来るし……てっきりみんなやってるものだとばかり……」

 

ー魔 力 収 束ー

 やがて安定した【魔力】が体内を満たすようになると、俺とカイラは全開された循環による【魔力】の鍛錬をやめ、ごく少量の循環のみに留めて意識しなくても癖のように循環する【魔力】に互いに頷く。 

 

 そして─

 

「おっし! 早速この【魔力】でちゃちゃ〜っと【リキトア流皇牙王殺法】の基礎を見せてあげるにゃ〜! ま、ジンなら基礎さえ教えれば問題ないと思うし……それじゃあ、いっくよ〜!」

 

 そういってカイラが地面に手をつけて─

 

ー魔 力 伝 播ー

 地面に【魔力】を流し、流し込まれた【魔力】は波状に伝播していく。

 

 【リキトア流皇牙王殺法】……それは前に聞いた通り、【魔力】を介して自分のイメージの骨格を作りあげ、その骨格にそって土・石・岩・樹木・草木といった自然物で肉付けした拳や蹴りという形で攻撃するというものだ。

 

 そして、その攻撃方法には技としての分類上、基盤となる型がある。

 

 まずは─

 

 土……大地を形にする【土門】。

 

 木……樹木を形にする【木門】。

 

 これは武器となるものの素材であり、【魔力】を流し、技として形にする際の差異だろう。

 

 そして型。

 

 拳……その形を拳と模す【拳技】。

 

 蹴……その形を蹴りに模す【脚技】。

 

 人……その形を人形に模す【人威】。 

 

 感……その形を人の感覚に模す【覚技】。

 

 これは人の動きを模倣する事で型をイメージしやすいからだろう。

 

 拳や蹴りは【魔力】量・イメージの強さでその数を増やし、型はその個人次第で形を変える事ができる。

 

ー地 面 隆 起ー

 【魔力】を受けた地面は、その【魔力】に込められたイメージを形にし─

 

?【土門】【拳技】?

 

 その形を明確なものへと変える。

 

?【((土拳|サフィスト))】?  

ー土 拳 連 打ー

 

 拳を握り締めた手の数々が、天を目指すかのように地面から突き出される。

 

「か・ら・の〜!」

 

?【((岩砕|クラスロック))】?

ー巨 拳 剛 打ー

 

 その突き出した拳達が集約され、巨大な拳として突き出されたのだ。

 

「おお〜……何この使いやすさ……ジン、あんたほんといい事教えてくれたにゃあ」

 

 一瞬俺のほうを見て感心したように頷いた後。

 

?【土門】【脚技】?

ー蹴 魔 流 播ー

 

 脚から流れる【魔力】がその巨大な土拳に流れ込み─

 

?【((土脚|サレッグ))】?  

ー土 蹴 連 打ー

 

 その巨大な拳を土の脚の形へと変え、分離していく。

 

 そして、追加で【魔力】を流すカイラ。

 

?【((地砕|グランレイド))】?

ー巨 脚 踏 下ー

 

 その脚が纏まり、巨大な脚として踏みしめられる。

 

ー鋭 眼 開 眼ー

 

 その巨蹴が地面を踏みしめた瞬間、カイラの目が鋭く細められ─

 

?【土門】【人威】?

 

?【((野王武|ノーム))】?

ー土 人 連 立ー

 踏みしめられた威力で土煙が上がる中、土の人型が立ち上がる。

 

 これは【魔力】を流された人物のイメージ次第ではあるが、ある程度の自立をもって動くものであり、主人を守る防衛本能と、敵対相手に対する攻撃性を有している。

 

 それ以外にも追加で【魔力】イメージを送ることによって独自の動きをさせる事も可能である。

 

「……うん、前とは段違いだね……使い勝手がよくなってる」

 

 数十対の【((野王武|ノーム))】に囲まれたカイラが満足げに自分の【((野王武|ノーム))】を眺めて頷き─

 

ー還 元 土 塊ー

 【魔力】をカットし、【|野王武《ノーム》】達を大地へと還していく。

 

「さてと……お次は─」

 

ー魔 力 流 播ー

 再び大地に手を着いて【魔力】を流すカイラではあったが、それは大地を伝わり、大地に干渉する事なく一直線に樹木を目指す。

 

?【木門】【拳技】?

 

 そしてそれは─

 

?【((木拳|トラフィスト))】?

ー木 拳 連 打ー

 怒涛の木の拳の弾幕となって、木から伸び上がるように放たれる。

 

?【((樹柱|エアコルム))】?

ー巨 樹 拳 撃ー

 

 それは束ねられ、巨大な樹の拳に変化する。

 

?【木門】【脚技】?

 

 さらに追加される【魔力】でその【((樹柱|エアコルム))】が分離し─

 

?【((木脚|ムジャロ))】?

ー木 蹴 連 打ー

 無数の樹木の蹴りとなる。

 

?【((根檄|ルーツレイ))】?

ー巨 樹 蹴 撃ー

 

 それは束ねられ巨大な脚となり─

 

?【木門】【人威】?

 

 それは再び分かれると共に、他の樹木からも湧き出していく。

 

?【((枝縷斑|エルフ))】?

ー木 人 連 立ー 

 そしてそこに現れるのは……樹木で作られた木人形の群れ。

 

ー還 元 樹 木ー

「……ふう、とまあこれが【リキトア流皇牙王殺法】の基礎となるもんだニャ。【覚技】のほうは視覚・聴覚の共有という特殊性からこれが全部できるようになってからだニャ〜」

 

「そっか、うん、わかった!」

 

 そういって木人形を樹木へ戻した後、俺に対してウィンクをしながら微笑むカイラ。

 

 そんなカイラに真剣に頷く俺。

 

 そして……【リキトア流皇牙王殺法】の修行へと入る事になるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、そんな修行を開始して再び時がたち─

 

?【((土拳|サフィスト))】?

ー土 拳 相 殺ー 

 俺とカイラの【((土拳|サフィスト))】がぶつかりあい、砕け散る。

 

「はっ!」

 

「にゅ!」

 

ー攻 打 防 衛ー

 その砕ける【((土拳|サフィスト))】をかいくぐるようにカイラとの間合いをつめ、体全体を使った右拳をカイラの腹めがけて振るうが、それをカイラが【((腕受け|アーム・ブロック))】で受け止める。

 

「うかつニャ!」

 

ー魔 流 伝 播ー

 そのままカイラが右足に【魔力】を込めて踏み込み─

 

?【((土脚|サレッグ))】?

ー土 蹴 連 打ー

 

「っちいい!」

 

 踏み込んだ足周りから【魔力】を受けて盛り上がった土が足の形となり、俺を蹴り上げんと襲い掛かるが、俺はその脚の一つを蹴って空中に飛び上がる。

 

ー蔓 掴 流 魔ー

 木々から垂れていた蔓を掴み【魔力】を流し─

 

?【((木拳|トラフィスト))】?

ー木 拳 連 打ー

 蔓から伝った【魔力】が木へと伝わり、木の枝や幹が木の拳となって【((土脚|サレッグ))】を迎撃し、砕きながらカイラへと迫る。

 

「甘い甘い!」

 

?【((岩砕|クラスロック))】?

ー巨 土 拳 撃ー

 カイラがその口元に笑みを浮かべつつ、足元に【魔力】を流すと、その地面から人の背丈ほどある巨大な拳がアッパー気味に打ちあがる。

 

 それは【((木拳|トラフィスト))】を打ち砕き、蔓をつかんで旋回し、木の枝へと着地した俺へとまっすぐに迫る。

 

「っと! そうきたか!」 

 

?【((樹柱|エアコルム))】?

ー巨 樹 蹴 撃ー 

 幹の部分からそれを迎え撃つべく、同じく巨大な木の足が真っ直ぐ横へと突き出され、【((岩砕|クラスロック))】の巨大な拳を横から破壊して伸びて行く。

 

ー樹 拳 騎 乗ー

 そして俺はそのままその伸びる【((樹柱|エアコルム))】へと飛び乗り、その影へと隠れて─

 

?【((樹岩|シンヤン))】?

ー木 拳 拿 捕ー

 カイラの上へと差し掛かった瞬間、【((樹柱|エアコルム))】へと【魔力】を通し、大きな木の拳は細分化されて小さな拳の集合体となり、カイラを包囲して捕まえようと展開される。

 

「っ?! にゃんとおおお?!」

 

ー後 転 回 避ー

 とっさに後方に宙返りしながら、そのまま手を着いて離れて行くカイラ。

 

「む〜、惜しい!」

 

「あ、あぶなかった……にゃっと!」

 

?【((野王武|ノーム))】?

ー土 人 連 立ー

 その回避の時についた手で【魔力】を流し、それが【((野王武|ノーム))】となって地面から起き上がる。

 

「っ! まだまだ!」

 

 カイラが避けた事で地面へと突き刺さっている樹木の【((樹岩|シンヤン))】の元へとバックステップし、【魔力】を流して─

 

?【((枝縷斑|エルフ))】?

ー木 人 連 立ー 

「いけ〜!」

 

「やらせないニャ!」

 

ー人 型 迎 撃ー

 互いの【((野王武|ノーム))】と【((枝縷斑|エルフ))】が放つその……拳で、蹴りで、膝で、肘で。

 

 互いに相対する人形達を打ち砕いて行く。

 

「はあああ!」

 

「やああああ!」

 

ー疾 風 近 接ー

 

 その間を掻い潜るように疾走する俺達が─

 

ー爪 蹴 迎 撃ー

 

ー『はっ!』ー

 

 カイラの突き出した右爪の刺突と、それを打ち落とすために繰り出された俺の右ハイキックが激突する

 

ー身 体 軋 音ー

 

 互いにぶつかり合った部位が軋む音を立てて─

 

「ぐ……うああああ!」

ー弾 返 吹 飛ー

 

 やはり攻撃力・重さ・技・速度において劣る俺がその威力に押し返され、弾けとぶように錐揉みしながら後方に飛ばされる。

 

「まだ終わらないにゃ!」

ー流 魔 脚 播ー

 

 その踏みこんだ左足から【魔力】が流れ─

 

?【((地砕|グランレイド))】?

ー巨 脚 踏 下ー

 

「がっ?!」

 

 錐揉みしながら飛んでいた俺を、カイラが放った【((地砕|グランレイド))】が捉えて─

 

ー全 身 軋 音ー

 全身をくまなく襲う強力な衝撃に肉が、骨が軋む音を立てる。

 

ー打 上 吹 飛ー

 そのまま俺はその勢いによって上空へと打ち上げられる。

 

 森の枝を折り、葉を落としながらも俺は森の上空へと抜け、飛ばされた後を口から出た血が追うように線を描く。

 

(う……あ……ああ)

 

 朦朧とした意識の中、上がるだけ上がった俺の体は自由落下を始める。

 

 それは徐々に加速度をつけ、スピードを上げて落ちて行く。

 

 細胞の軋む感覚と共に始まっている【((進化細胞|ラーニング))】の超回復ではあったが、さすがにその落下スピードより速いという事はない。

 

 治りきらないまま、俺の体は森の中へと落ちて行く。

 

(く……そ……まだ、まだ……だ!)

 

ー流 魔 樹 木ー

 俺は全身に【魔力】を這わせると、そのまま放出して今触れている木へと【魔力】を流す。

 

?【((枝縷斑|エルフ))】?

ー木 人 連 立ー 

 

 樹木の横から俺を受け止めるように上半身の木人形が起き上がり、俺の意思を組んで地面との落下を阻止しようと動く。

 

ー木 人 砕 受ー

 俺を受け止めた【((枝縷斑|エルフ))】が、加速度のついた俺の落下に耐え切れずその身を破壊され、その下の【((枝縷斑|エルフ))】が、といった感じで俺を受け止め続ける。

 

 【((枝縷斑|エルフ))】が砕けるたびに俺の落下速度は遅くなっていき─

 

ー樹 人 受 止ー

 木の根に近い部分に現れた【((枝縷斑|エルフ))】が、俺を落下寸前で受け止めきる。

 

(よし、やれ……た)

 

「じ、ジン?! 大丈夫にゃ〜〜〜?!」

 

 どうにか成功した自分の【((枝縷斑|エルフ))】に満足していたところに、焦ったようにかけられるカイラの声。

 

(カイラ……本気出しすぎだよ……)

 

 俺は遠くから駆けてくるカイラを見ながら、全身を治している【((進化細胞|ラーニング))】の動きを感じつつ……その意識を失った。  

 

 それから数時間。

 

 意識が戻る俺の頭に感じるやわらかくて暖かい感触。

 

 そして心配そうに俺を覗き込むカイラの顔。

 

 その手が俺の頭を優しく撫でていた。

 

(お……?! なんでカイラの顔がこんなに近く……って、これはもしや……男が一度は夢見る……膝枕というやつでは?!) 

 

 そんな事を考え、現状を理解した瞬間、恥ずかしくなって赤くなっていく俺の顔。

 

「お、ジン! やっと起きたにゃあ。……よかった。しっかし……ほんと、ジンの体も大概人外だよにゃあ……。正直やりすぎたと思ったあの攻撃を受けて生きてるなんて……。生きてるのはうれしいけど、普通のやつがくらったら全身バッキバキのボロボロでオダブツなはずにゃよ? アタシの【リキトア流皇牙王殺法】の中でも破壊力は抜群なんだから……」

 

 頭をなでる手を休めずに、呆れたような……、そしてどこか安心したような顔を見せるカイラ。

 

 俺はカイラに苦笑を返しながらも、撫でられる頭をそのままに【((進化細胞|ラーニング))】で修復された身体の動かせる部分を動かす。

 

 気絶している間に重要部分の修復はほぼ終わったらしく、やや鈍い痛みはあるものの、これもすぐ治るだろう。

 

 ……肉体修復後も消えない、服や体についた血のあとだけが異様に生々しいけどね!

 

「あはは。……流石に死ぬかとは思ったけど……、なんとか生き残れたよ。今日もありがとねカイラ」

 

 そういって今日も俺に付き合ってくれたカイラに向けて笑顔を零す。

 

 すると、俺の顔を見てカイラが目をまん丸に見開いたあと、顔を真っ赤にしてそむけ、頭を撫でていた反対側の手で鼻を押さえる。

 

「っ……!!! や、やばいにゃ……。不意打ちはかなりクルにゃ……」

 

 と、つぶやいて体をぷるぷると振るわせるカイラ。

 

(そんな事をいいながらも頭は撫でるんだ……)

 

 それでも頭を撫でる手を休めなかったのはさすがというべきなのだろうか。 

 

 自分自身の魅力がいまいちわからないので困惑しながらも、俺達はしばらくのんびりするのだった。

 

 徐々に追いついてくる俺の圧倒的技の吸収率に驚きながらも、それを良しと楽しそうに笑って俺と戦ってくれるカイラ。

 

 いつものように狩りをして、狩った獲物をいかにおいしく料理するかで悩んだり、その皮をなめして物をいれる背負い袋を作ったり、その骨や牙を加工して矢の鏃にしたりと、充実した毎日が過ぎて行く。

 

 そうして、時が流れ、俺がこのリキトアの森に来てから、もうすぐ一年になろうかという今日も、俺はカイラと共に修行に明け暮れていたある日。

 

「おっし、いくニャ!」

 

「ああ!」

 

ー戦 闘 体 制ー

 互いに戦う姿勢を見せ、今まさに激突しようとしたその瞬間。

 

ー女 性 悲 鳴ー

 その二人の間を引き裂くように、遠くから森の中を響いて届く悲鳴。

 

ー『?!』ー 

 

 即座に鍛錬を中止し、俺達は頷き合って声のした方角へと駆け出す。

 

ー樹 上 跳 躍ー

 気配感知を最大まで引き上げて捜索しながら、俺達は木々を飛び回る。

 

「……くっそ、一体どこだ……? ……って、カイラ?」

 

「…………っえ? な、何かいったかニャ? ジン」

 

 カイラと並んで気配感知を行う俺の横で、その顔を険しくしているカイラに気がつく。

 

 その表情は、いつも飄々としていて明るいカイラには不釣合いな……鍛錬中にも見せたことがないほど深刻そうな顔であった。

 

「……もしかして、声の主に心当たりがあるの?」

 

「ッ……!! まあ、ニャ。ジンも知ってるはずニャよ。こっちの方角は……あの子の……ロカの受け持つ区域だから……」

 

「っ?! え……じゃあ!」

 

「……とにかく急ぐニャ!」

 

 はやる気持ちを抑えて、俺達は木々を飛び移る速度を上げていく。

 

 そして─

 

 俺達の気配感知、および視界に飛び込んでくる森の入り口にあたる森の端。

 

 その場所がまるで切り開かれたように木々がなぎ倒され、そして─

 

「っ……!!!! ロカァアアアア!」

 

「……ぁ……ああ……カイ……ラ?」

 

ー獣 女 倒 付ー

 その木々に埋もれ、体中を傷だらけにして血塗れになって倒れているロカさんの姿がそこにあり、その姿を見たカイラが絶叫にも近い叫び声をあげる。

 

 ロカさんのそばでその状態を確かめるカイラと、俺が到着した瞬間─

 

「……っち、めんどくさいことになったな……【牙】族がもう一匹か」

 

「まあまあ、この森にさえ入れれば、後は獲物も取り放題ですぜ旦那! 旦那の望む【獣魔】も選り取り緑! ここは天然の魔獣の宝庫ですからねえ」

 

ー『?!』ー

 

 そこには……【牙】族しかいないはずのこの森に存在する……俺と、俺以外の人間の姿があった。

 

 ロカさんを【リキトア流皇牙王殺法】で助け出すカイラを見つめて忌々しげに舌打ちする、頭から虎と思しき毛皮を被った……大柄で筋肉質な男と、いかにもその男を先生と呼び、付き従っている下っ端風味の……悪徳商人といった小太りで油ギッシュな愛想笑いを浮かべた男。

 

「──貴様ら……ここがリキトアの森と知っての……【リキトア流皇牙王殺法】を極めんとする大事な森と知っての行いか? 我等【牙】族の同胞を……我等の神聖な森を汚して……我等【牙】族の誇りを汚して…………生きて帰れるなどと思うなよォォ!!」

 

ー獣 咆 殺 気ー

 ロカさんの具合を見た後、その身柄を森から放すために【リキトア流皇牙王殺法】で運びながら、侵入者の男二人に対して圧倒的殺意をもって殺気を叩きつけるカイラ。

 

「ひっヒイイイイイ?!」

 

「……っ! なるほど、そこに転がる【牙】族とは格が違うようだな……ならば俺も全力でいかねばなるまい」

 

 そのカイラの殺気をあびてひるんで腰を抜かす小物と、一瞬怯えた後、警戒の度合いを引き上げる虎男。

 

「ひ、ヒヒヒ! そうだ! そうです! 旦那なら恐るるに足らずですよ! あの怪我をした【牙】族をかばいながらなんて……いくら【リキトア流皇牙王殺法】の使い手でもできるはずがありませんしね! それに……私の伝で【牙】族を非常に高く買ってくれるところもあるのです! できれば生かしていただければさらにいいですね! ヒヒ! ヒヒヒヒヒヒヒ!」

 

 しかしながら、その虎男の様子を見て勢いを取り戻し、悦に浸った表情でロカさんとカイラを舐めるような視線で見つめる小物。

 

(……森を勝手に壊し、進入し……挙句の果てにロカさんとカイラを……売る……だ……と?)

 

 怒りに燃えるカイラの背後で、俺は森の中に運ばれたロカさんの怪我の様子を見ながら……カイラの怒りが伝播したように静かに怒っていた。

 

「あ……だ……れ?」

 

「…………安心してください。貴女に害を与えるものじゃありません。今は……ゆっくり休んでくださいね」

 

「う……ぁ……」

 

ー意 識 消 失ー

 

 そういって目を閉じ、その意識を無くすロカさん。

 

「…………ジン、ロカの怪我、どんな感じだった?」

 

「……何とか重症は免れてる。頭を強く打ったせいで意識が朦朧としてるって感じだね」

 

「そっか……」

 

 俺が後ろから近づくと、肩越しに振り返ってロカさんの状況を確認してくるカイラ。

 

 俺はそう報告しながら、カイラの横を通り過ぎてその侵入者の目の前に立つ。

 

「ジン?! 何を─」

「……ほう、【牙】族しかいない森に……人間の小娘だと? 先客がいたとはな」

 

「ひ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! 旦那! その小娘ならば高く売れること間違いなしです! 出来れば顔を傷つけないようにお願いしますよ?」

 

 そんな俺の行動をいぶかしむ目で見つめるカイラと、姿を見て嘲笑を浮かべる虎男。

 

 そしてさらに欲望に歪んだ顔で、濁った視線を俺に向ける小物。

 

「貴様等アアアアアア!」

 

「カイラ!」

 

 俺までその欲望にさらされたことによって怒りの沸点を超えたカイラがその眼を見開き、怒りで獣の瞳になりかけるが……そんなカイラを俺は手で制する。

 

「っ?! ジン?!」

 

「……大丈夫。カイラはロカさんを。……ロカさんに見つかったんだ。ならこれは……俺のこの森での最後の修練になる。それに……あいつ等は許せない!」

 

 戸惑うカイラではあったが、俺の言葉の意味を感じ、一瞬つらそうな顔をみせてそっと後ろに下がる。

 

「ふ……フハハハハハハハハハハハ! 小娘! 俺を笑い死にさせる気か! ……まあいい、そこの【牙】族共々、俺の手で痛めつけてそんな生意気な口が出せないようにしてやるわ!」

 

「ヒヒ! 今日は実にいい日だ! こいつらの売り値は折半といきましょう、旦那!」

 

 下卑た笑みと笑い声を輪唱させる二人。

 

 その刹那──

 

「─黙れ……!」

 

ー怒 気 殺 烈ー

 俺は生まれて初めて……本気で抱いた殺意の元に殺気を目の前の二人に叩きつける。

 

「ヒィイイイ?!」

 

「う……な、何?! 唯の小娘ではないな?! 貴様!」

 

 油断していたところに殺気を浴びて、その顔を青ざめさせて腰を抜かす小物と、思わず一歩さがる虎男。

 

「……これ以上、お前等に言う事なんて何もない……! この森を! 俺の師匠を! そしてその友達を傷つけた罪……その身で……その命で償え!」

 

「…………ガキが! ほざくなああああ! はぁぁぁぁああ!」

 

ー深 吸 笛 鳴ー

 俺に罵倒されたのが頭にきたのか、虎男が懐から骨で出来た笛のようなものに吸い込んだ息を吹き込み、笛を鳴らす。

 

 すると、普通の人間には聞こえないほどの高音で笛の音が鳴り響き─

 

ー獣 圧 咆 哮ー

 その笛の音に答えるかのように、重低音の叫び声をあげ、地響きを起こし、森の木々をなぎ倒して現れるのは…………既に何度か戦っている二頭の【((暴猪|ボールボア))】。

 

ー『!!!』ー

 

 群れを成すはずがない【((暴猪|ボールボア))】が二匹ならんで姿を現すこと、そして笛の音で現れたという事に驚く俺達ではあったが……この状況を見て俺の中で情報が統制・統合される。

 

(……まて、笛を吹いて呼び出した……つまり【((暴猪|ボールボア))】を使役する、だと? ……まさかこいつら!)

 

「フハハハハハハハハハハ! どうだ?! この魔獣使い・笛吹きゼドー様の笛の音に引き寄せられる魔獣のこの力はよお!」

 

「さすが旦那です! ヒヒヒヒヒ! あの少女も【牙】族もこれで一網打尽ですね! もったいない事ですが……【牙】族を減らしたとなれば……雇い主の【ソーウルファン】も報酬に色をつけてくれるに違いありません! それで我慢するといたしましょう!」

 

 俺の殺気から余裕がなくなり俺達を殺すことに変更した二人組が、【((暴猪|ボールボア))】を呼び出したことで心に余裕が生まれたのか、その顔に再び愉悦の笑みを浮かべる。

 

「……【ソーウルファン】……だって?」

 

「そう! そうです! ヒヒヒ! この森に定期的に【((暴猪|ボールボア))】を放して暴れさせ、【牙】族とこの森の混乱を狙っていたのですが……微々たる効果しか得られませんでしたからね! そろそろ期日も迫っていますし……今日は我々が直接手を下そうとやってきてあげたのです! 【ソーウルファン】に……そして【|獣魔導士《ヒュレーム》】達に上質な【獣魔】を供給するため! 【((獣魔導士|ヒュレーム))】が扱うのには不向きな【((暴猪|ボールボア))】を使ってこの森を襲わせて魔獣を確保しなくてはいけいんですよ! そして……今日は実にいい日だ! 【牙】族という敵まで減らせるという大金星なんですから! これは高額が期待できますよ旦那!」

 

「ふん! 小娘! いくら貴様が只者ではないとはいえ、【((暴猪|ボールボア))】二匹など相手にできまい! フハハハハハハハ! もらったぞ〜!」

 

ー笛 鳴 襲 掛ー

 高笑いをしながら骨笛を鳴らすゼドーに呼応し、咆哮を上げながら俺に牙で突撃を慣行してくる【((暴猪|ボールボア))】。

 

 それはさながら並び立つ重機の如く、木々をなぎ倒し、蹴散らしながらこちらへと真っ直ぐやってくる。

 

「ジン!」

 

「大丈夫!」

 

 カイラがロカさんを背負いながら、目の前の光景に一度引くように声をかけてくるが─

 

「いや……俺がやる! やって……みせる!」

 

ー全 速 近 接ー

「ジン?!」

 

 俺は並び立って真っ直ぐ突っ込んでくる【((暴猪|ボールボア))】の間へと、全速力で体を滑り込ませるようにして疾走し─

 

ー暴 猪 牙 撃ー

 

 俺を通すまいと【((暴猪|ボールボア))】が互いの牙をぶつけ合ったその刹那の瞬間を潜り抜け、俺は大地に両足を踏みつける。 

 

ー流 魔 蹴 播ー

 そして俺の両足から伝播した【魔力】が大地に伝わり、それは─

 

「それに少女だの小娘だの……俺は……男だあああああああ!」

 

ー『?!』ー

 

?【((地砕|グランレイド))】?

ー巨 蹴 双 列ー

 

 先ほどの件に加え、女扱いされたことに対する怒りを爆発させつつ叫び、放たれた【((地砕|グランレイド))】の双蹴は─

 

 【((暴猪|ボールボア))】の重心の少し後ろ、その巨体を捕らえる。

 

 苦悶の叫びを上げる【((暴猪|ボールボア))】の巨体が、【((地砕|グランレイド))】の巨大な足の力によって空中に蹴り上げられ、重心の少し後ろを蹴り上げられたことにより、顔が下向きとなって落ちて行く【((暴猪|ボールボア))】。

 

 そして─

 

「はぁ!」

 

ー地 面 双 拳ー

 

?【((岩砕|クラスロック))】? 

ー土 拳 双 腕ー

 

 その【((暴猪|ボールボア))】の落下地点。

 

 地面に叩きつけた両手から伝たわる【魔力】が巨大な両腕となり、打ち上げられ、落ちてくる【((暴猪|ボールボア))】目掛けて、迎え撃つように伸び上がる。

 

 落ちる【((暴猪|ボールボア))】の重さと、迎え撃つ【((岩砕|クラスロック))】の拳が相乗し─

 

ー突 刺 猪 顔ー

 それは頑強な【((暴猪|ボールボア))】の鼻を、顔を、そしてその巨大な牙をへし折り、その顔へとめり込ませ、破壊していく。

 

 拳に沈み込んだ【((暴猪|ボールボア))】が【((岩砕|クラスロック))】で浮き上がっていき─

 

 すでに絶命している【((暴猪|ボールボア))】のその巨体は空中を舞う間もぴくぴくと動く。

 

 そしてそれは─

 

「な……に?」

 

「ひ?! ヒエエエエエエエ?!」

 

 人間である俺が【リキトア流皇牙王殺法】を使って【((暴猪|ボールボア))】を倒したことに思考停止をしていた二人の頭上へと差し掛かる。

 

「くっ!?」

 

 ゼドーがその身を翻し、とりあえず【((暴猪|ボールボア))】の落下地点から逃れようと後方回避をしようとした矢先。

 

ー足 手 纏 掴ー

「なっ?! 貴様!」

 

「だ、旦那ああ! 私を見捨てる気ですねええ?!」 

 

 その体の示すとおり、まったく運動性能のない小物が一人逃げようとしたゼドーの足元へしがみつき逃すまいとしがみつく。

 

「は! 放せええええええ!」

 

「い! 嫌です! さあ旦那! この私を連れてこれを避けて─」

 

ー頭 上 暗 転ー

 そして、日を遮って奴等を捉える【((暴猪|ボールボア))】の巨体。

 

「ひっ?! ど、どけええええ! 放せええええ!」

 

「い、嫌だああああああ?!」

 

ー跳 躍 頭 上ー

「……お前が……お前等が呼び寄せたんだ……ならお前等が責任もって─」

 

 その【|暴猪《ボールボア》】の上へと飛び上がりながら、俺はその二人へと─

 

「持って帰れええええ!」

 

ー回 転 踵 落ー

 体に回転を加えた一撃を【((暴猪|ボールボア))】の体へと叩き込み─

 

ー『ひ、ひいいいいああああああ!』ー

 

 恐慌の叫び声をあげるガドーと小物に対し、【((暴猪|ボールボア))】の巨体が俺の踵落としによって加速して─

 

ー重 圧 潰 殺ー

  

 【((暴猪|ボールボア))】の巨体が地面に穴を開けて沈み込み、地響きを響かせる。

 

 何かが砕けるような音と、つぶれる音を耳に聞きながら、俺は自らの起こした結末をしっかりと見届け、胸に刻む。

 

(いくら下種でも……命は命。……こいつらの行動を反面教師として糧とし、自らを省みるために胸に刻み込もう。俺自身が……こうならない為に)

 

ー目 礼 黙 祷ー

 胸に手を当て自らが手を下した命に対する礼を取った後、俺は背を向けてカイラの元へと歩いて行く。

 

「カイラ、小屋に運んで治療しないと」

 

「ジン……うん、わかったニャ。それと……ありがとニャ? この子のやられた分を返してくれて」

 

「ううん、気にしないで。でも……ごめんね? やりすぎて……本来なら国に引き渡すんだったんだろうに」

 

 おそらく原型を留めていないであろう、あの二人組のことを考えると、自分がやりすぎて後始末が大変になり、尚且つ背後関係を聞き出すことができなくなってしまったことを今更ながら後悔する。

 

ー柔 手 撫 頭ー

「ん〜ん! 気にしなくていいにゃ! もしジンがやらなくても……アタシが確実に八つ裂きにしてたし……ニャハハハハ」

 

 ロカさんを背負ったまま、俺の頭を撫でるカイラ。 

 

 そして─

 

「……でも……ロカに、みつかちゃった……ニャ〜……」

 

ー萎 耳 垂 尾ー

 今までどうにかやり過ごしてきた【牙】族との接触。

 

 気絶寸前だったとはいえロカさんについに見つかってしまったのだ。

 

 カイラの友達だからとは思うが……真面目な性格のロカさんだからそこらへんがどうなるかはわからない。

 

「……とりあえず今はロカさんの体のほうが大事だし、小屋にいこうよ」

 

「そう、だニャ。はっ!」

 

ー樹 上 跳 躍ー

 とりあえず【((暴猪|ボールボア))】の方は放置し、俺達は木々を飛び移ってロカさんの体を休めるために小屋へと向かっていく。

 

 そして小屋へと跳んで入り、ベッドに寝かせた後。

 

 カイラとの修行でカイラと自分を実験台にして腕をあげた簡易治療を施す。

 

 薬草を塗って治療効果の相乗を狙い、同系統の効果のある薬草を傷口に貼り付けて打撲と傷の両方に効果を期待する。

 

「おし……これでよしっと。カイラ、問題ないよね?」

 

「うん、大丈夫ニャ! ジンは本当に……優秀ニャね〜……」

 

ー後 方 抱 着ー

 そういいながら後ろから俺を抱きしめるカイラ。

 

ー抱 着 顔 擦ー

 顔を俺の頭にこすり付ける癖は相変わらずだ。

 

 しかし、その擦り付ける力はいつもより弱く─

 

 抱きしめる力はいつもより強く……。

 

 そんなカイラに俺も抱きしめるカイラの手に手を重ねる。

 

 静かな時間の中、しばしお互いの温もりを感じる時間を過ごし─ 

 

「……そういえばこの森に来てから カイラには大分長いこと世話になってるよね……」

 

「そう……だね。もうすぐ1年ってとこじゃないのかにゃ? ……ジンの誕生日を祝って……その日を旅立ちの日にしようと……思ってたんだけどニャあ……」

 

ー耳 尾 撫 揉ー

 カイラの獣耳と尻尾が力なく垂れ下がるのを見て、思わず可愛いと思った俺が手を伸ばしてもふもふする。

 

「ん! こら! もう……すぐ遊ぶんだから」

 

「もふもふ……もふもふ〜!」

 

「まったく……ジンはいつもそうなんだからニャ〜」

 

 その顔に苦笑を浮かべるカイラ。

 

「カイラ、長いこと……ありがとうね。カイラがいなかったら……今頃どうなってたか」

 

「ん、いいんニャよ。……アタシも楽しかったしニャ!」

 

 お互い立ち上がり、眠っているロカさんを一目見た後……カイラに促されて俺達は物置へと向かう。

 

 そして【((暴猪|ボールボア))】の皮をなめし、作り上げたバック……リュックサックの中へと次々と旅立つために必要な物資を詰め込んでいく。

 

 自分に衣服に始まり、簡易調理器具セットや俺とカイラで調合したり、乾燥させたりしていた薬草等の治療用品。

 

 【((暴猪|ボールボア))】の乾燥肉、水をいれた大型の水筒、チーズの塊等の保存の利く携帯食料等。

 

 そして、ついこの間仕留めた【((暴猪|ボールボア))】の肉を、香葉に包んだものまで入れてくれた。

 

「カイラ、いいのこんなに?」

 

「いいんニャよ〜! アタシ等は基本こういうのは使わないからニャ〜。あまったら持って帰るだけだしニャ」

 

 大人用に作り上げたリュックサックいっぱいに詰め込めるだけ詰め込んだ後、俺が背負えるように背負うベルトを調節する。

 

ー大 包 背 負ー

 カイラにその荷物を背負わされ、カイラと共に再び【((暴猪|ボールボア))】を倒した森へと、木々を飛び移って向かって行く。

 

 そして……【((暴猪|ボールボア))】の死体を一瞥する中、俺はカイラと向き合う。

 

「不幸中の幸いというか……ロカが抜けたことによってこの先から簡単に森の外へと抜けれるニャ。そしてその先の小高い丘に……ここらじゃ有名な【((呪符魔術士|スイレーム))】が住んでるから、興味があるならちょっと挨拶してみるといいにゃ。同じ人なら話ぐらいは聞いてもらえるだろうからニャ〜!」 

  

ー柔 手 頭 撫ー

 そして俺と視線を合わせて微笑みながら、俺の頭を撫でるカイラ。

 

 しばし無言で見つめあい、微笑みあう中、俺の胸中に蘇るのは二人で過ごしたこの一年。

 

 俺をここまで押し上げてくれたのは間違いなくカイラだった。

 

「んじゃ……長いことお世話になりました! カイラ……、いや、師匠!」 

 

ー誠 心 誠 意ー

 こみ上げてくる思いと共に、心からの礼を込めて頭を下げる。

 

 本当に……本当にカイラには世話になった。

 

 いくら感謝してもしたりないぐらいに……。

 

「……ねえジン? ……その、本当に困ったことがあったら何時でも尋ねておいでね? リキトア守護隊にアタシの名前を出せばいいから! いつだって力になるから……」

 

ー柔 軟 抱 締ー

 そんな礼をしていた俺の体を起こして、柔らかく抱きしめるカイラ。

 

 離れがたい思いがあるのか、俺の頭を撫でる手はわずかに震えていて……俺も感謝をこめて、あまり抱きしめ返さなかった手に力をこめて抱きしめ返す。

 

 一時の間、互いの温もりを感じたあと、互いに体を離す。

 

「うん……。ありがと! んじゃあいくよ!」

 

 万感の思いからー

 

 若干涙目になりながら笑顔を向ける。

 

 その瞬間─

 

ー鼻 血 噴 出ー

 またしても鼻血をだしながらのけぞるカイラ。

 

「く〜……、油断してたにゃ……。涙目上目使い+笑顔とは……こ う か は ば つ ぐ ん だ!」

 

 そんな訳のわからないことをいいながら鼻を拭くカイラ。

 

 そして落ち着いてから俺と目線を合わせると……。

 

「さよならはいわないにゃ。またあえるからにゃ! だから、いっておいでジン!」

 

ー頬 顔 口 付ー

 そう言いながら頬にキスをしたのだ!

 

「?! わひゃ?! わ・わ・わああ〜! い、いってきます!」

 

 恥ずかしさのあまり、一気に顔に血が上って顔が熱を持つ。

 

(うおお、顔が真っ赤になる! いかんいかん、ダッシュで離れなければ!)

 

 そう思って駆け出した背中に……。

 

「ジ〜ン! 10年したら、あたしとイイコトしようね〜♪」

 

 そんな俺を見送りながら笑顔で手を振るカイラの表情が悪戯めいた顔になり、俺に対して爆弾発言が投げられた!

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

ー羞 恥 凝 固ー

 さよならのために振っていた左手がその形のまま止まり、俺は言われた言葉を反芻して思考がショートする。

 

 顔を真っ赤にしたまま、カイラに見送られながら恥ずかしさのあまり全力ダッシュでその場を後にした。

 

ー(『危険!危険!10年後の貞操喪失危険率が100%になりました』)ー 

 

 頭の中……【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】では警報音がMAXで流れていた。

 

 

 

 

 

 そして─

 

「いっちゃった、か……」

 

 真っ赤な顔で照れながら去っていくジンの背中を見えなくなるまで見送ったアタシは、胸に迫る寂しさに思わず胸の部分に手を当てながらも、しばらくジンの去った方向を眺めていた。

 

「……いつ、このカイラ姉ちゃんを頼ったっていいんだからね? くだらないことで野垂れ死んだり、大怪我したりしたら……許さないんだから……」

 

 そういいながら、アタシは【((暴猪|ボールボア))】の解体をするため、そして……【ソーウルファン】にかかわりのある馬鹿二人の死体の確認をするために、空中に集合合図用の照明具を投げる。

 

 それは眩い光を放って空へと広がり、アタシの位置を知らせ─

 

 程なくして集まってくる【牙】族の仲間達に指示を出し、始まる【((暴猪|ボールボア))】の解体。

 

 そして事情を話す際、この頃頻繁に起こっていた【((暴猪|ボールボア))】襲撃の裏も報告することになった。

 

 その際、そいつらの襲撃でロカが決して軽くない傷を負ったことも話す。

 

 話を聞いた【牙】族の一人が、その報告をもって女王陛下の下へと赴くこととなり、その報告と同時に【牙】族の薬師、を手配してくれる事になった。

 

 その場を【牙】族の仲間達に任せ、アタシはロカの様子を見ると告げて解体を任せ、一路ジンと過ごしていたあの小屋へと戻る。

 

 そして、小屋へと飛び移り、その扉を開けると─

 

「っ……あら、カイラ。おかえりなさい」

 

「っ……ロカ! 気分が悪いとかないかニャ?!」

 

 ベッドの上で眼を覚ましたロカが、アタシに声をかけてくる。

 

 頭を強く打っていたことを心配してアタシが声をかけるが、大丈夫だと手をひらひらさせて落ち着くように促すロカ。

 

「……私もまだまだね……【((暴猪|ボールボア))】程度にやられるなんて……」

 

 肩を落として落ち込むロカにそんな事はないといいながら、襲撃者の話をする。

 

 それを聞いてその表情を怒りに染めるロカではあったが─

 

「そういえば……あの蒼髪の娘はどこにいったの?」

 

「うっ?! あ……あはは! 頭でも打って夢でもみたんじゃないのかニャ?! ロカ」

 

 自分でもわかるぐらいにあからさまなごまかし方をしてしまうアタシ。

 

「……馬鹿ね。貴女の面倒見の良さを私が知らないとでも思ってるの? ……そっか、私が来たから……もう、行っちゃったのかしら?」

 

 あきれたようにため息を吐いて、真っ直ぐにアタシを見つめて話しかけてくるロカ。

 

「うん……丁度いいといったら悪いけど……さっきロカの守護地域を抜けさせて森の外へと送り出したニャ」

 

「……そう。貴女が育てたというなら……さぞいい子だったんでしょうね?」

 

「もちろんニャよ! 心も、そして技も……闘士候補生なんて比べ物にならないぐらいのいい子……だ、ったニャ」

 

 ロカの言葉に頷いて話を返した瞬間、ふとジンと過ごした日々が蘇る。

 

ー流 頬 伝 涙ー

 そして不意に頬を伝う……涙。

 

「まったく……貴女はほんと涙もろいんだから……ほら、いらっしゃい?」

 

「っ……」

 

ー柔 軟 抱 擁ー

 ロカが苦笑を浮かべてアタシを抱きしめ、頭をぽんぽんと叩いてくれる。

 

 しばらく声を殺して泣いた後、カイラに促されてジンと過ごした日々の話を、【リキトア流皇牙王殺法】が使えるというところを抜いて話していく。

 

(ジン、どうか……どうか無事で……)

 

 ロカがアタシの話を聞いて頷いてくれる中、アタシはそれを願わずにはいられなかった。

 

 

    

 

 

『ステータス更新。追加スキルを含め表示します』

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    6歳

種族    人間?

性別    男

身長    114cm

体重    29kg

 

【師匠】

 

カイラ=ル=ルカ 

 

【基本能力】

 

筋力    B-⇒BB  New

耐久力   B-⇒B  New 

速力    B-⇒BBB New

知力    B- 

精神力   BB⇒BBB New

魔力    B-⇒BBB New

気力    B-⇒BBB New

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

サバイバル A 

薬草知識  B⇒A  New

食材知識  B⇒A  New 

罠知識   B⇒A  New

狩人知識  B⇒A-  New

魔力操作  B⇒A-  New

気力操作  B⇒A-  New

応急処置  C⇒A  New

 

【運動系スキル】

 

水泳    B ⇒A New 

 

【探索系スキル】

 

気配感知  B ⇒A New

気配遮断  B ⇒A New

罠感知   B ⇒A- New

足跡捜索  B ⇒A New

【作成系スキル】

 

料理    B ⇒A- New

精肉処理  B ⇒A  New

皮加工   A 

骨加工   A

木材加工  B

罠作成   B

薬草調合  C ⇒B+ New

 

【戦闘系スキル】

 

格闘         B⇒A-  New

弓          S

リキトア流皇牙王殺法 B-⇒A+ New

 

【魔術系スキル】

 

無し

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

正射必中  S (射撃に補正)

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S ⇒SS⇒SSS⇒EX- 

最優    A⇒AA⇒AAA⇒S-   

優秀    B⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

衣服一式

お手製の弓矢薬草一式     

食料一式       New

簡易調理器具一式   New

皮素材        New

骨素材        New

説明
 【((灰狼|グレイウルフ))】との死闘を潜り抜けた俺。

 精神と肉体に大きなダメージをもらいつつ気絶し、自らの能力である【((進化細胞|ラーニング))】で体が治った事によって拒絶されると覚悟しながらも、複雑な思いのままカイラに話しかけるが、そしてカイラから発せられる肯定の……その程度で見捨てるなんて馬鹿にするな、と激昂して顔を背ける優しいカイラの……俺を受け入れてくれる言葉に涙を流し、カイラの背中で涙する。

 仕留めた獲物の解体を学びながら、命を奪うという事に対しての心構えを心に刻み、始まる修行の日々。

 気配遮断・気配感知など、森で生きるための狩りの仕方を教えてもらいながら体を鍛える毎日の中、森の破壊者【((暴猪|ボールボア))】と出会い、俺達は【リキトア流皇牙王殺法】を使って【((暴猪|ボールボア))】を撃破する。

 戦い終わって互いの無事を確認しつつ、俺はこれから【((暴猪|ボールボア))】を解体しに来るであろう、【牙】族たちに出くわさないように、また何かあった場合対処しやすいようにと場所を決めた湖へと歩を進めるのだった。

※【魔力】などの解説は独自理論ですので、気に触ったら申し訳ありません。

※ルビ修正しました。
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