ISジャーナリスト戦記 CHAPTER08 沈黙逃走
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―――イギリス某所のアリーナにて。

 

蒼い翼が特徴的で目を引くISが優雅に踊るようにライフルを構えランダムで出現するターゲットを狙い打つパフォーマンスの中、俺は訳あって金髪グラサン姿でお嬢様を守る執事またはSP的な立場に置かれていた。詳しく申し上げると俺は現在、同行しているカリスマ少女・・・レミリア・スカーレットの執事として護衛中の身にあるわけである。・・・ほかでもない咲夜の代理として。

 

咲夜がIS学園から休日以外帰って来れないのとSASの操縦時間に余裕が生まれた事を理由にピンチヒッターとしてスカーレット家の執事を定期的に請け負わされることとなった俺は自身の『亡国機業』の動きを危惧する発言を受けて、該当しそうなイギリスの第三世代型IS『ブルー・ティアーズ』のスポンサーの一人となったレミリアを護衛すると同時に、永琳の依頼を受けてそのISの護衛を秘密裏にするように頼まれていた。

 

ちなみに金髪でサングラスなのは『睦月灯夜』として訪れていると余計なトラブルを呼ぶ可能性があるので変装(という名の変身)をして誤魔化しているためである。俺はサングラス越しに『ブルー・ティアーズ』を操り空を飛んでいるセシリア・オルコットを見つめポツリと呟きを漏らした。

 

「・・・・・・『ブルー・ティアーズ』、全方位オールレンジ攻撃を可能するBT兵器を初めて実装した試作機か」

 

事前に受けた説明によれば全六基の内四基がレーザー攻撃を、残り二基がミサイル攻撃を行うといった光学兵器にも実弾兵器にも対応した造りになっているという。まだ試作機なので欠点として、他の装備との併用が現状ではまるで不可能だそうだが画期的な技術なのは間違いない。将来性を見込めるからこそ狙われる可能性が高いと灯夜はビットの軌道を目で追っていく。その間にもまた一つターゲットが撃ち落とされた。

 

「―――で、あれから『例の連中』の手掛かりは掴めたのかしら執事さん」

 

顔を合わすことなくレミリアは俺を名前で呼ばず唐突にそう切り出す。普通なら突然何を言ってやがると返事をするわけであるがここに来て無意味な会話は不必要だった。話の趣旨を直感で把握した上で俺は勿体ぶることなどしないで低い声音を喉から出して答える。

 

「詳細までは判明してはいないがロシアの保有していたISが一機ほど紛失したそうだ。表向きは事故を装っているようだが十中八九嘘に決まっている」

 

「・・・根拠は?」

 

「ロシアの代表候補生が何の前触れも無くIS学園を数日休んでいるんだ。休んだ理由は『ISのメンテナンス』とあるが、その1週間前にはわざわざ開発先の人間が赴いてメンテナンスを行なっていると咲夜が報告してくれた。・・・恐らく、メンテナンスはカモフラージュで実際は『奪われたISの追跡』だろうな」

 

結局の所、追跡は失敗に終わったそうな。翌日、その代表候補生・・・更識楯無が登校した際には酷く無愛想な顔だったと同じクラスだという咲夜は教えてくれた。様子から察するに追跡相手は余程の強敵だったに違いない。

 

「そう・・・『連中』は早速第三世代型という新たな戦力を手にしたということね。ロシアは機密に関して途轍もなく厳しかったし、どんなISを開発しているかさえ不明だから盲点だったわ」

 

イギリスと違ってスポンサーになって情報を得ようとすることすら出来ないのだから無理もない。俺も咲夜の報告と自身の調査でここまで考察するのに一苦労だったぐらいだ。ましては仕事中に事件を起こされちゃあ対処のしようがない。

 

過ぎてしまったことは今はどう考えても仕方がないのでロシアのISの事は一先ず置いておき、今は目の前で飛ぶイギリスのISの事を考えることにする。

 

「既に専用機と化したISでも奴らは構わず奪取する可能性がある。ISはコアさえ初期化してしまえばいくらでもリサイクルが出来るんだからありえない話じゃない」

 

「ということは力づくで奪う手段を所持していると念の為警戒して見ていたほうがいいわね。いつ何時それが起きるのかわからないのだし」

 

「問題はそのタイミングか。奴らが隠密行動で狙いに来るか大胆にも人前で犯行するかが鍵だ。出方次第ではSASでの追跡に時間の差が生まれる」

 

前者なら発覚まで逃走を許すことになり後者なら発生してすぐに追跡を開始することが可能である。果たしてどちらの方法で連中が仕掛けてくるのか、もしくはこの警戒自体今回は杞憂に終わるのかそれは神のみぞ知る。

 

夜に開かれる関係者のみが参加するパーティーまで俺達は警戒を緩めずにお嬢様と執事をずっと装い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が流れるのは早い。『ブルー・ティアーズ』の公開テストがついさっき終了したかと思えばもう立食パーティときている。アリーナから車に乗って近くのホテルへと向かった俺達は案内されたフロアにてスポンサーらの交流会のようなものに参加していた。

 

SASを動かす可能性もなくはないので巷で話題のノンアルコール飲料を手にし、遠巻きに『ブルー・ティアーズ』の操縦者セシリア・オルコットと会話をするレミリアを見ていた俺は誰も寄せ付けないオーラを出しながら適当に料理を摘み待機する。

 

「これ、美味いな・・・」

 

腹が空いては戦は出来ぬというから手当り次第に取り皿によそったわけだが、世界一メシマズ国家と噂のイギリスにしては美味だった。・・・多分、イギリスの食事が不味いとか言われるのは『料理が出来る人が少ない』とか『個性的すぎて万人受けしない』とか、『昔が雑だったから』みたいな理由が背景にあるからなんだろうね。

 

そう思いながら、肉をむしゃむしゃと喰らっていると不意に肩を叩かれる。首を動かさず視線だけで相手を確認すればそこに居たのは『ブルー・ティアーズ』の開発者にしてかつてSAS開発に関わっていたという女性だった。永琳から話は伝わっているようでレミリアに同行していた俺が誰なのか解っている状態で彼女は小声で囁く。

 

「・・・上手く化けたわね、ジャーナリストさん?」

 

「・・・今は執事の『バジーナ』ですよミシェルさん」

 

自らも他人に聞かれぬよう返答する。てか、何で『バジーナ』やねん。俺は最終的に地球に隕石落とす人の偽名でも、牛乳瓶みたいな眼鏡をかけたオタクの少女でもない。レミリアのネーミングセンスに悪意を感じる。

 

「ところで警備体制の方はどうですか?」

 

「万全と言いたいところだけど貴方にとっては万全ではないんでしょうね。揃えられるだけ揃えてみたけれど本当に来るのかしら『例の連中』は」

 

「来なければいい、そう思ってる時に限って奴らは来ますから用心に越したことはないですよ」

 

予想が確かならば来るはずだ。調べることが可能だった現状で開発されている第三世代型で奴らが興味を引きそうなISは今のところ『ブルー・ティアーズ』のみ。セシリア・オルコットもかなりの扱い手ではあるもそれ以上の手練が奪取し使用するとなるとまともに戦って勝てる相手ではなくなる。その危険性を考えて俺はパーティーの参加者に不審人物はいないかよく観察した。爆破物や不審物は前もって調べた結果設置されていなかったがそれだけで安心していては警備の意味がないのである。

 

「(テロリストって生き物は大体自身の存在をアピールする。前の誘拐事件だってそう・・・奴らは争いの種を生み出すことを商売にしているんだ。だから、気を緩めるな)」

 

フロア入口、外へ続くテラスの入口、通気口のそれぞれを数分間隔で監視し侵入者の出現に備える。扉の外には量産型ISで武装している社員がいるというが突破されない保証はない。何時でも自分が対峙できるポジションにつく。

 

レミリアがセシリア・オルコットとの会話を終え自分の下へ帰ってくるなりトイレに行ってくると言うのを聞き注意を怠らぬよう言葉を交わした後、別行動をしていたにとりへの定時連絡を済ませた俺は止まっていた食事を再開させる。だが、ぬるくなってしまった料理に文句を言わずに食べつつセシリアを見守ろうかと視線を向けたその時―――――事態は急変した。

 

 

 

 

突然、フロアの明かりが消え失せる。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと何ですのっ!?」

 

辺りが急に暗くなったことで慌てるセシリア。彼女だけではなく参加していたスポンサーらも不安な空気に包まれる中、灯夜はSASのバイザー部分をすぐさま展開しサーモグラフィーを起動させる。

 

亡国機業の連中も所詮は人間である為、幾ら何でも体温までは誤魔化すことは出来ない。そう睨んだ彼はセシリアを中心としてパーティーの参加者全員の動きを捕捉する。現状では彼女のメイドのチェルシーのみが寄り添う形で彼女の傍にいる程度だが油断は出来ない。

 

緊張が走る中チカチカとランプが次第に点滅を繰り返し始める。暗くなった直後にブレーカーを確認しに向かったスタッフが妨害を受けず無事に復旧に成功したのだろうかと思った灯夜はSASの展開をバレないように切って完全に明るくなるのを待つ。程なくしてレミリアが帰って来た数秒後にはフロアは元の明るさへと戻った。・・・そして、再度セシリアを確認すれば彼女は待機状態の『ブルー・ティアーズ』をまだ身に付けている。

 

どうやらスタッフに確認したところ、さっきの停電はただのごく自然なトラブルだったようだ。警戒が杞憂に終わり自然と肩の力が抜ける。

 

「やれやれ・・・些細なトラブルでさえ一大事に感じちまうぜ」

 

「ホント、そうよね・・・」

 

お互い溜息をついて安心した顔をする。しかし、そんな表情をしていたのも束の間。近くにいたミシェルだけは携帯を片手に深刻な表情で皆から離れるように電話をしていた。

 

「・・・ええ、わかったわ。取り敢えず落ち着いて行動しなさい。こちらはこちらで対処するから―――」

 

それだけ言って彼女は電話を切った。会社で何か研究中にトラブルでも発生したのかと俺は勝手に思っているとこちらの視線に気がついたのか目と目が合う。そして流れるような手つきで彼女は問答無用で俺の手首を掴みフロアの外へと連れ出した。困惑を無視して彼女は人気のない場所で俺に詰め寄り口を開く。

 

「―――やられたわ、連中に」

 

「連中って、亡国機業か!?だが、セシリアはまだISを所持して・・・」

 

意味不明な発言に戸惑うも彼女は続ける。

 

「そうじゃないのよ。これはスポンサーにさえ話していない、完全に身内しか知らされていない内容なのだけれどよく聞いて。・・・実は、BT試作機はもう一機あるの」

 

「何っ!?」

 

知らされていなかった思いもしない情報に俺は驚愕する。だが時間が惜しいので事情把握を優先し情報を外へ向かう出口に向かいながら聞けるだけ聞き出す。

 

「何重にもロックして警備もしていたというのに迂闊だったわ。まさか、外に出ていた『ブルー・ティアーズ』ではなく内部に引き籠っている状態の『サイレント・ゼフィルス』に目を付けられるなんて―――」

 

「それより性能の方はどうなんだ、同一か?」

 

「いいえ、BTに関しては『ブルー・ティアーズ』よりも多いわ。それに操縦者がいない状態でアレには『ブルー・ティアーズ』の戦闘データが移植されて蓄積されている、実質、姉よりも頭の良い妹よ」

 

「そりゃ贅沢な機体だな、親のスネをかじって生活している娘かよ!!」

 

ISは女性しか扱えないのだから息子という表現は適切ではない為、娘とさせていただきました。そんな事を言っている間にもロビーを通り過ぎてホテルの入口へと到着する。

 

「今から追跡して間に合うかしら・・・・・・」

 

「やってみないことにはわからない、俺も善処するが期待はすんなよ!!」

 

こっちは劣化ISという名のSASしか所持していないのだから捕獲は難しい。精々、一泡吹かせる程度が限界かもしれないのだ。

 

追跡部隊の座標データを受諾した灯夜はホテルの影へ隠れSASを展開すると、スラスターを全力で吹かし高く舞い上がると流星の如く速さで星空へと飛び去る。

 

「――――待ってろよ、亡国機業!!」

 

せめて、土産程度にはなる情報を手に入れてやると意気込んて彼は向かった。

 

 

 

 

 

「・・・あら、流れ星かしら?」

 

呑気なことにセシリアはパーティーの裏で何が起きているのか知らないままパーティーを続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜灯夜追跡中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、まんまと会社内の研究所を襲撃し目的通りのISを手にした亡国機業の一人である少女M(エム)はというと、鬱陶しい追跡部隊を何の躊躇いも抱かずに撃ち落とし順調に森林地帯の上空を薄ら笑いを浮かべながら飛行していた。

 

「・・・フン、他愛もない」

 

しぶとく残っていた最後の量産型ISの一機を後ろを振り向かずに始末した彼女は全身に風を感じながらそう呟く。

 

彼女が操縦しているISは『ブルー・ティアーズ』のデータの恩恵を受けていた為に彼女自身が経験を積ませる必要も無く勝手に一次移行しており、あらゆる条件下での戦闘訓練を受けていた彼女にとって既に手足と化していた。故にもはや只の第三世代型ISではなく人機一体となった『サイレント・ゼフィルス』にワンオフ・アビリティーすらない量産機が敵うはずもない。

 

「フフフ、ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

それはもう高笑いをしてしまうぐらい圧倒的であった。優越感に浸り彼女は一人子供のように無邪気にはしゃいで飛ぶ。そんな時折、ISに乗る前から所持していた通信器から連絡が入る。―――相手は、彼女の嫌いな上司、スコールからだった。途端に無愛想な表情へと戻し彼女は応答する。

 

『こちらスコール。エム、聞こえて?』

 

「聞こえているさ。何なんだ突然・・・・・・」

 

上司相手にタメ口を叩く彼女を叱ることなくスコールは話を続ける。

 

『まったく、相変わらずね貴女。・・・まあいいわ、その様子だと奪取には成功したようね』

 

「当たり前だろう。あんな手緩い連中に私が遅れを取るとでも思っていたのか」

 

『いえいえ、貴女の腕前ならきっと大丈夫だと予想していたわよ』

 

「・・・フン」

 

白々しい。反逆することがナノマシンによって禁じられていなければ殺してやりたいくらいだという気持ちを抑えエムは適当に相槌を打つ。それに対しイラつくような笑みでスコールは余計なことを言った。

 

『帰還するまでが任務よ、寄り道はしないように気を付けて帰ってきなさい』

 

「・・・・・・。・・・了解」

 

バイザーに隠れた目元を歪ませて彼女は静かに通信を切り、意識をISの操縦に傾け再び飛行に集中する。・・・が、一度乱されたペースはそう簡単には戻らなかった。

 

「・・・畜生め」

 

毒づいた言葉は虚しく空へと小さく響く。そんな苦虫を噛み潰したような彼女の声はやがて思いがけない形で大きく反響して返ってくることになる。

 

 

 

―――その証拠に、撃墜したISらが不時着した彼女の背後から謎の渦状の電流が放たれた。

 

 

 

「―――ッ!?」

 

鍛えられた直感が作用して間一髪でそれをエムは回避する。しかしながら、動揺は大きく思わず静止してしまう程それは不意打ち過ぎた。警戒して攻撃が放たれた方角を確認するがISの反応はまるで感じられない。

 

「遠距離に特化したISでも投入してきたのか・・・・・・?」

 

もしくはステルス性の高いISが追手として加わったかだ。先程までの余裕を捨て去って身構えると第二射、第三射が立て続けに放たれ彼女を襲う。対する彼女もやられっぱなしなのは嫌なのか避けつつ反撃としてレーザーを手持ちのライフルから発射し対応する。だが、そうした上でもなお依然攻撃は止まない。

 

覚悟を決めてビットを展開し全方向からの攻撃にエムは備える。見えない未知の敵に対して無策であり無謀とも言えるこの行為は今の彼女に行える最大限の抵抗でもあった。スコールが言っていた言葉の意味をこの状況で彼女は理解する。

 

「(―――ちっ、あの女・・・こうなる事を予期していたとでも言うのか。ここでやられでもしたらお笑い種だ―――あぶり出してやるっ!!)」

 

射撃系の武装をフルオープンにして全方向へ向けて乱射する。どんなに姿を隠せても逃げ場がなければどうしようもない、そう高を括った彼女は狂ったように叫ぶ。

 

「墜ちろ、墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろォォォォォォォオ!!!」

 

息が荒くなるまで容赦なく撃ち尽くされた攻撃は真下の森の木々を薙ぎ倒し破壊の爪痕を残す。流石にくたばっただろうと肩で息をして周囲を確認すると攻撃を受ける前の静かな空気がそこにはあった。漸く倒したかと安心して彼女は帰路に着く。

 

 

 

 

 

それも・・・・・・自身の背後から回し蹴りを放つ存在にまったく気づかないままでだ。

 

 

 

 

 

「―――おらよっ!!」

 

・・・気づいた時にはもう遅かった。突如として現れた黒いISらしき存在は踵部分に備わった刃を振りかぶり叩きつけるように斬りかかっていた。手加減など皆無の一撃がエムの全身を伝わる。

 

シールドバリアーが無ければ即死だったに違いないその一撃に彼女は見事耐えきったものの、相手は賞賛することなく今度は大剣を出現させて接近してきた。苦し紛れにもビームソードを出現させて斬り結ぶ。

 

「・・・貴様、何者だっ!!」

 

ISなら反応するはずのコア・ネットワークが全くもって機能しない、ほぼ全身装甲の機体が人一人分の距離まで詰め寄ってくる。申し訳程度に露出した口元だけでは相手が何者なのか判断するのは無理があった。相手は荒っぽい口調でエムの問いに返す。

 

「そいつは俺のセリフだ、亡国機業!!親に教えられなかったのか、人のモノを盗んじゃいけませんってよぉ!!」

 

女のハスキーボイスには思えない声音が至近距離で叫ばれる。一人称から判断してもそれは紛れもなく『男の声』であった。だとしても、矛盾がそこで発生する。

 

「なっ・・・男だとぉ!?そんなバカな・・・・・・ISは女にしか―――――」

 

「乗れないと思った?・・・・・・残念、工夫を凝らせば気合で乗れましたぁ!!」

 

不気味な笑みで男は零距離からミサイルを脚から発射する。接近戦に集中していた彼女は避けようがなくモロに喰らい突き放された。その間にも男の攻撃は続く。

 

「巫山戯るな・・・そんな事があってたまるものか!!」

 

負けじと彼女も実弾を発射しビットによる波状攻撃で対抗するがその体勢を立て直した直後の攻撃は有り得ないスピードでこと如く回避される。終いには腰から放たれたナイフ付きのワイヤーに両腕を縛られ身動きが取れない状況に追い込まれる。必死に抵抗し腕を動かすがまるで自分の腕ではないように言うことを聞かない。

 

「・・・クソッ!動けっ!」

 

「無駄だ・・・・・・これで決める」

 

大剣を戻し今度はライフルを出現させた男のIS(?)は奇襲を受けた時と同じ光を徐々に銃口へと集め始める。・・・何ということだろう、今度の射撃は規模が違った。先程の攻撃より軽く二倍の光が溢れているではないか。

 

直撃すれば只では済まされないと悟ったエムは最後の抵抗としてビットを突撃させる。高性能爆薬が積まれたシールド・ビットが彼女に代わって決死の特攻を試みるが―――――時既に遅し。男の充填の方が一足早く完了し巨大な閃光がビット諸共エムを包み込んだ。回避不可能の決定打となる一撃を喰らいわけがわからないままISと共に墜落していく。

 

『内部エラーが確認されました。操縦者の安全を優先して不時着します、衝撃に備えてください』

 

「エラーだとォ!?・・・・・・・こんな時にぃぃぃぃぃぃ!!」

 

機体のバランスがトラブルにより保てなくなった彼女は吸い込まれるように森林へと翼をもがれ墜ちていった。

 

 

 

・・・そして、男はそれを見つめ誰にも聞こえない大きさの声で呟いて言う。

 

「悪く思うなよ・・・・・・正攻法で戦ったら勝つのは不可能、それ故の集中力を乱しながらの奇襲攻撃だ」

 

SASは灯夜が自身の専用機としてカスタマイズしていった結果、機動性が優秀な特殊偵察機へと出来上がっていた。彼はそれを理解した上で己の体力の限界値と合わせて計算し如何にしてIS・・・それも格上の機体に挑むか思考し作戦を打ち立てた。

 

どう足掻いても正攻法で正面から攻撃するのは勝利へと繋がらない。それを理解していた灯夜はまず自身を『見えざる敵』として成り立たせ相手の集中力を掻き乱すことにする。撃墜されていた追跡部隊の被害状況から相手は手にい入れたISに乗って興奮している可能性があると予測した故の作戦だった。そして、見事予想は的中し相手の少女は一斉射撃を繰り返しエネルギーを消費すると共に体力を消耗していくことになる。これこそが強敵を弱体化させるための作戦の第一段階であった。

 

さらに第二段階で彼は一時的に攻撃を停止し『撃墜に成功した』と錯覚させることで相手に安心感を持たせた。SASはISと違ってコア・ネッツワークを所持していない為、熱源を把握するサーモグラフィー機能でもなければ見つける事など不可能に等しい。流石はスニーキングと言うだけのステルス機能だ。後は言わなくてもわかる通り今の状況へと至る。

 

「・・・・・・」

 

灯夜は無言のままISが引き摺られたような跡を残して不時着した先を凝視し見つめた。ハイパーセンサーで確認するからに相手はISが強制解除されたのか動かないまま大木の前で横たわっている。近寄った瞬間に起きる様子は今のところ見られない。

 

ゆっくりとSASを降下させ抉られた地面のちょうど手前に降り立ち銃口を構える。三分ほど待って相手の出方と伏兵の有無について立ち止まったまま調査したが特に問題は見られなかった為、意を決して俯せに近い姿勢で蹲り横たわる少女へ彼は接近した。安全確保を優先し問題のISの待機状態と思われる左手の指輪に手をかける。・・・が、依然にして少女は動かないままで抵抗はなかったままだった。

 

量子変換でISを保管すると今度は腰のロケットアンカーを作動させナイフを取り外した状態で全体をSASから取り出す。これは拘束用の縄を持っていなかった故の代替案だ。ワイヤーなら強度は抜群で自力で拘束から抜け出すのはまず無理だろう。そう思って縛りやすい体勢に相手を動かす為に必然的にお姫様抱っこをする。

 

 

 

 

―――が、いざ抱き起こした際に相手の顔を垣間見ると・・・そこには信じられない人物と瓜二つの顔が存在し目を瞑っていた。

 

 

 

 

「・・・織斑、千冬・・・だと?」

 

いや、本人にしては体格が幼すぎる。そもそも本人なら確かIS学園で今頃勤務しているはずだ。だから、今抱きかかえているのは只の似ている人間なだけだ。そう自分に言い聞かせ改めてよく観察する。

 

「年齢的に一夏と同じ中学3年辺りが妥当か・・・だが、余りにも似すぎている」

 

一瞬、ドイツ軍のクローン計画の噂が脳裏をよぎるが時期が合わないと首を横に振って頭から離れさせる。勝手な予想をしなくても尋問すればいい話だと決めて拘束することを優先し灯夜は野宿の準備へと一人取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間がどれだけ流れたことだろうか。薪を燃やして暖を取り尚且つ明かりを確保した俺は仮眠を数十分置きに取って少女を見張っていた。時刻は午前十二時を過ぎた頃である。

 

ISスーツだけでは寒かろうと執事服の上着を拘束の上からかけてやったはいいが少女は一向に起きずにいた。朝まで持久戦に持ち込もうかと最初は思いはしたがそれでは自身の体力が持たない。というか、気絶時間が幾ら何でも長かったので俺は痺れを切らし始めていた。

 

「・・・仕方ない、奥の手を使うか」

 

じゃあ最初っから使えよと突っ込まないでくれ、使わなくともすぐに起きると思ったたんだから。内ポケットから万が一パーティーで眠らされた際の為の気付け薬を取り出し蓋を開ける。刺激臭が開けた瞬間から漂うが気にせず、少女の鼻近くまでビンを持って行き手であおいで嗅がせた。・・・途端に少女の瞳がパッチリと開かれる。

 

「こ、此処は―――!?」

 

飛び起きて状況を把握しようとした少女は自身が縛られて拘束されていることに今更ながら気がつく。時間が取られるのも面倒なので簡潔に今どんな状況なのか親切に教えてやった。

 

「此処はお前が俺に撃墜されて墜落した地点から10m離れた地点だ。逃げ出されるのを阻止するためにキツめに縛らせてもらっている。で、一向に起きないもんだから気付け薬を嗅がせた。今ここ、OK?」

 

火を挟んで胡座をかき説明してやると納得した様子で睨んできた。拘束を解けとでも言いたそうだが無理な話だ。

 

「・・・私のISは何処にある」

 

「当然預からせてもらっているさ。それに元々お前のじゃないしな」

 

つまり君は今、丸腰の状態でございまする。話の主導権は勿論俺が握っているというわけだ。

 

「私をどうするつもりだ、尋問したところで何も話さないぞ」

 

「はぁ・・・強情だな。何なら・・・・・・押し倒してでも無理矢理聞き出してやろうか?」

 

する気はないよ、本気でする気はないよ?あくまで脅しです。俺はそこまで鬼畜じゃあ〜りません。

 

「・・・そんな事で私が屈するものか、冗談は大概にしておけ」

 

絶対に、○○○なんかには負けない→○○○には勝てなかったよぉ・・・パターンですね、わかります。本当に有り難うございました。見事なまでの死亡フラグです。

 

「じゃ、遠慮なく行かせてもらおうか。・・・(怖い意味で)女泣かせと恐れられた俺の本気を見せてやる」

 

ワイヤーから外しておいたナイフを手にしISスーツに照準を合わせる。セルフ特殊効果で瞳も紅く光らせて覆い被さった。・・・さあ、ジャパニーズホラーの真髄を見せてやる。

 

「き、貴様!止めろ、止めてくれ!」

 

まさか本気でされるとは思わなかったのか少女は引きつった顔で叫び謝罪する。出来ないことを出来ると言うからこうなるんですよ、まったく・・・。

 

「で、喋ってくれるのか喋ってくれないのかどっちなんだ?」

 

「喋りたくとも喋れないというのが本音だ。・・・機密事項を外部に漏らさぬように私の体内にはナノマシンが埋め込まれているんだ」

 

成程、組織の人間に完全には信用されてない故の措置ってことか。聞けば話そうとしたり反逆しようとすると酷い吐き気に見舞われるそうだ。・・・でも、それなら何かおかしくないか?

 

「今言ったのってさ・・・よく考えたら『機密を隠すための機密』じゃないか?」

 

「―――あ」

 

機密の機密は機密。人はそれをウロボロスの輪、もしくは無限ループと呼びます。・・・エンドレスループ、はっじまるよー!『にゃあい!』←お前は呼んでねぇ。

 

俺の指摘に気づいたのか迫り来る嘔吐感に身構える少女。俺もエチケット袋を用意してあげるが・・・・・・全然平気っぽい。

 

「どうしてだ、何時もならばこんな間すらないのに・・・・・・」

 

「故障でもしてるんじゃないか?どれ、診察してやろう」

 

SASを用いて少女の体をCTスキャン並に正確に解析してみると首の後ろ辺りに小型のチップが埋め込まれていた。より鮮明に真実を明らかにするために更に解析を進めると意外なことが判明した。

 

「ナノマシン自体は動いてるっぽいんだけど『吐き気を強制的に出す』って指令を出す部分がどうもイカれているみたいだな」

 

「・・・つまり、私はナノマシンを気にしないで機密をベラベラと話せるという事か」

 

「・・・まあ、そういう事になるな」

 

原因として考えられるのはガンカメラのEMP(Electo Magnetic Pulse)電磁衝撃波発生装置だな。アレには電離層の乱れを引き起こす事により通信や精密機器を一時的に使用不能にする機能が備わっている。人体には無害のように設計してあるから直撃を受けても内部のナノマシンと外部のISが動作不良になるだけで済んだというのが事の真相か。

 

彼女を縛る内側の枷もなくなったことで俺はアドバンテージを保ったまま尋問を開始する。まず聞き出さなければならないのは・・・少女の名前と容姿だ。

 

「では聞くが、亡国機業でのコードネームは?」

 

「・・・M(エム)だ、それ以上それ以下でもない」

 

付けたやつネーミングセンスねぇな。もっとカッコイイコードネーム与えてやれよ。

 

「・・・何故、織斑千冬と同じ顔をしている」

 

「・・・・・・。知ったら後戻りは出来なくなるぞ・・・いいのか?」

 

それ程までに重大な情報なのね。でも、知ったところで構わない。こちとら既に退路が存在しない一本道を渡っているのだから今更怖いものなんてない。

 

「いいさ、危ない事に首を突っ込むのは慣れている。構わず話してくれ」

 

どんな事実が待ち受けていようと受け止めてみせよう。それがジャーナリストとしての俺の生き方だから。

 

覚悟を決めて真っ直ぐと瞳を少女に合わせる。揺らめく炎が静かな空気を演出する中―――――彼女はついに真実を吐露した。

 

 

 

「―――私は織斑マドカ・・・織斑千冬のクローンだ。そして、亡国機業のトップである彼女の父親の『織斑春一(おりむらしゅんいち)』の・・・とある研究の素体No.0でもある」

 

「何っ・・・」

 

驚きしかなかった。クローンであるかどうかは大体読めていたがまさか消息不明の織斑千冬の親が秘密結社『亡国機業』のボスであったとは予想外だった。俺の驚愕を無視して彼女は続けて父親がどのような人間なのか語ってくれた。

 

「・・・あの男は根本的から狂っているんだ。人は遺伝子を調整することによって簡単に超越者になれるのだと信じて疑わなかった」

 

己の持論を学会から否定されてなおその考えは揺るがなかったという。計画はどこまでも完璧だったようで彼は自分を必要としてくれる存在をただ只管に探し求め続けた。そして、その過程で彼は『織斑千冬』という娘を誕生させることになる。

 

「・・・織斑千冬も真っ当な生まれじゃないのか」

 

「ああ、彼女(ねえさん)はあの男が一番初めに研究し高コストを支払った上で開発に成功したオリジナルの、正真正銘の超越者だ。量産する為に生み出された私とはまるで違う」

 

生み出した彼女の存在をアピールしていく内に彼は亡国機業に目を付けられた挙句に気に入られ幹部の地位を与えられた。しかし、当時のボスは高コストである千冬をそのまま量産することを許さず低コストで済ませるよう強いらせた。そこで彼が考えたのが千冬を元にしたクローン人間である。

 

「通称『サマーズ・チルドレン』計画・・・それにより私は性別を変更しないままの素体として最初に生み出された」

 

「ちょっと待ってくれ。性別を変えないままって、まさか・・・・・・性別を変えた男の素体もいるってことかよ!?」

 

「その通りだ。そいつは調整が不十分だったことと計画に気づいた織斑千冬の介入もあって失敗作の烙印を押されて何も知らずに呑気に暮らしているがな。・・・全く、忌々しい。殺してやりたいぐらいだ」

 

・・・おい、巫山戯んなよ。てことはアイツは・・・一夏は・・・・・・!!彼女を縛っていたワイヤーを乱暴に掴み怒りに任せて無理矢理直立させる。

 

「呑気に生活しているだと・・・笑わせんな、アイツはアイツで必死に生きているんだぞ!!自分だけ不幸だと思ってんじゃねえよ!!」

 

一夏はあともう少しで運命の日を迎える。全ては篠ノ之束に関わってしまったことが原因でだ。生まれの問題もあるだろうが大方あの女のせいで一夏は不幸になるのだ。

 

「・・・お前が仮に一夏の立場に立ってみたらなわかるはずだ。近くには世界を引っ掻き回し玩具のように遊ぶ馬鹿女がいるんだぞ、いつあの女が起こすトラブルに巻き込まれるわからないんだぞ!!そんな何が起こるかわからない日々が幸福だとでも言いたいのか、他人の不幸を利益にしているテロリストさんよォ!?」

 

「私の14年間の監禁生活に比べれば遥かにマシだ!!姉さんが私も守ってくれれば汚いこんな泥に塗れた日々を送らずに済んだのに、どうして――――」

 

失敗作のアイツが優先されておめおめと生きているんだ、と言って彼女は泣き崩れる。自然とワイヤーを握る手も緩まり彼女はぺたりと座り込んで大粒の雫を地面へ垂らした。距離をとってみればただの泣きじゃぐる子供にしか見えない。

 

「運が悪かったとしか言えないな。人として生きている以上、その日その日毎に運勢の善し悪しは変化していく・・・・・・」

 

おみくじで大吉を引いたその日は幸福だろうが次の日も大吉・・・幸福である保証はない。今度は真逆の大凶を引き不幸になる可能性だってある。そんな感じで時は流れていく。

 

「今回のIS奪取だってそうだ・・・上手く盗めたとしてもこうやって捕まっている。俺が近くでパーティーに参加していないか、後日に日を変えていればこんな事態にはならなかっただろうよ。だから・・・俺の運が良くてお前の運が悪かった、たったそれだけだ」

 

「なら・・・・・・私には何時になっても救いは来ないということなのか?私は家畜のような日々を一生過ごさなければならないのか!?」

 

悲痛な思いがじわじわと伝わってくる。・・・無理もない、14年間の人生にそれだけ救いがなかったということなのだから。再度近寄って膝を折り曲げ同じ視線の高さまで頭を下げると―――俺はたった一つだけ言葉を投げかけた。

 

 

 

 

「そんなに自由が欲しいか。―――――だったら、抗ってみろよ」

 

 

 

 

「・・・え?」

 

今の彼女を縛るモノは俺が破壊してしまったから存在はしない。だから、もう従ったままの奴隷のような人生をこれ以上歩む必要はないのだ。

 

「いずれ俺は・・・俺と仲間達は篠ノ之束と亡国機業、それぞれの計画を叩き潰すつもりだ。だが、その為に必要なピースがまだ揃っていない」

 

何故この世界が危機的状況に陥り崩壊するのか知るためには二つの存在についてもっと詳しく知り、知らされていない秘密を解き明かしていく必要がある。・・・が、俺が動ける範囲というのも限られている以上、絶対的に協力者がいなければ全ての真実には至れない。

 

そこで俺は少女・・・織斑マドカに提案する。

 

「内側から亡国機業を崩壊させるんだ。その間だけはどうしても今までと同じように従うことになるが・・・・・・状況次第では早く自由の身になれる」

 

スパイとして利用する形にはなってしまうもこれが一番ベストな方法だ。ここで彼女を亡国機業から抜け出させてやりたい気持ちもあるが、その後の降りかかる危険性を考えればやむを得ない。

 

「・・・さあ、どうする?」

 

人形のM(エム)として生きるか、人間の織斑マドカとして生きるか。灯夜は彼女に選択を迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後、大空には朝焼けに包まれ大きく手を広げて飛んでいる鋼鉄の鳥が一羽がいたという。目撃したジャーナリストは優しい笑みを浮かべてカメラのシャッターを静かに切った。

 

-2ページ-

 

はい、私の小説のマドカさんは「千冬のクローン型強化人間」という形で落ち着いています。一夏はその男版で失敗作だからと言われて千冬に引き取られということになっています。織斑父は千冬にナノマシンを入れてなかったために反逆されました、まる。

次回は今回端折った部分の説明回と一夏パートの予定。別名、考察&原作直前回かな?

 

 

マドカからもたらされた情報を元に真実へと迫っていく灯夜。その途中で彼は二パターンのクローン型強化人間が存在することに気がつく。

そして、受験勉強に勤しむ時期である一夏は妙な視線を感じつつも妖夢と共に己を鍛えていく。全てが始まるその瞬間まで―――――

次回、『CHAPTER09 不動信念』 お楽しみに。

説明
気がついたら1万3千字超。

長くてゴメンね。てへぺろっ
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