異世界冒険譚 月殺し編 其の玖 運命
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keiiti side

 

今日も興宮の児童相談所に陳情に行く。これで陳情は五度目。けど、今日から俺達の陳情には町会の人達も協力してくれる。

 

「皆、今日こそ絶対に相談所に沙都子の虐待を認めさせるぜ!」

 

皆にそう宣言し、相談所に向かう。

 

相談所につくとそこにいたのは人、人、人。大勢の人が相談所から歩道まで溢れるほどいる。

 

「圭一くん!」

 

遠くにいた村長さんが俺に声をかけてきた。

 

「一体何人に声をかけたんですか!?」

 

「さあねぇ。ただ町会の連絡網で緊急集合を掛けただけだよ」

 

それだけでこんなに人数が!? しかも、大きい音のほうを見てみると街宣車まであった。

 

「これが町会の力なのですね!」

 

梨花ちゃんが嬉しそうに言った。

 

「ああ! これなら俺達の訴えもきっと伝わるぜ!」

 

村の皆がこんなに協力してくれているんだ。絶対大丈夫だ。

 

「じゃあ圭一くん。そろそろ行こうか」

 

村長がそう促してきた。

 

「はい!」

 

俺はそう答え陳情に加わろうとした。しかし、俺は呼びとめられた。俺は声の方向を向く。

 

「どうも、どうも」

 

そこには大石さんとその部下と思われる警察官がいた。

 

「大石さん! ちょうど良いところに! これから中に「すみません。急ぎのお話があるんですよ」……え?」

 

話? これから相談所に陳情しようって時に?

 

俺が不思議に思っていると大石さんが信じられないことを言った。

 

「前原さん。警察としてあなたたちに命じます。ここにいる人達を解散させてください」

 

「な!? なんで……ですか?」

 

俺が聞くと大石さんが説明してくれた。役所の敷地内は特定の目的での専用は禁じられているらしく、さらに相談所の所長は業務の支障になると認定した場合、退去を命じることが出来るらしい。

 

「つまり、あいつらが警察に頼んだんですね」

 

「前原さん。相当向こうに嫌われちゃったって事ですなぁ。ですので、一度解散してから公安に集会の届けを出してくださいね」

 

くそっ! どこまで……どこまで俺達の邪魔をすれば気が済むんだ!

 

「おじいちゃん! 死守同盟なら押し切れるんじゃないですか!?」

 

詩音が村長さんに聞く。しかし、村長さんが言うにはここまで露骨に拒否されると長期戦になると言われた。

 

「畜生……これだけの人が集まって町会も力を貸してくれたのにそれを伝える事ができない……沙都子を……一刻も早く助けなきゃいけないのに!」

 

俺達はこれ以上、手も足も出せないのかよ!

 

進退窮まった。そう思ったときだった。

 

二台の黒の車が相談所の前に止まった。ドアが開き人が出てくる。和服を着た中年の叔父さんに眼鏡を掛けた白スーツの人。そのほか数人のスーツに黒眼鏡をかけた人達だった。

 

「前原君はいるか!?」

 

車から出てきた和服を着た人がそう叫ぶ。ヤクザみたいな迫力がある。

 

「お、俺ですけど」

 

正直怖かったので、少しどもってしまったが答える。

和服を着た人は俺に近づいてくる。

 

「安心しなさい。我々は君の味方だ」

 

俺の方に手を置きながら和服を着た人はそう言った。

 

「ありえない。おじさんが来るなんて……」

 

魅音が驚きながら言う。魅音の親戚の人なのか?

 

「さあ圭一くん。君が代表だ。相談所に行こう!」

 

そう言うと和服を着た人は俺を連れて相談所に向かおうとする。

 

「え? でも……」

 

警察から退去を命じられているんですけど。

 

「はいはい。ストップ。今、相談所に陳情者は条例で入れなくなってますよ」

 

案の定大石さんが俺達を止めてきた。

 

「おいお前ら。誰の命令できとるんじゃ」

 

和服を着た人が大石さんに尋ねる。

 

「相談所からの要請に興宮署の署長出動命令が出されまして」

 

大石さんの言葉に和服を着た人が反応し、怒鳴り声を上げる。

 

「警察が住民の陳情を妨害するとはどういう了見じゃ! 興宮署の署長には県議のワシから厳重抗議しちゃる!」

 

県議だって!?

 

「でも、法律が……」

 

大石さんは少し押されながら言う。

 

「どうも、弁護士の園崎です」

 

白スーツの人が前に出ながら身分を明かす。今度は弁護士か。

 

「前原氏は雛見沢連合町会が委任した陳情団の団長です。こちらがその委任状」

 

そう言って園崎弁護士は一枚の紙を取り出し見せる。

 

「雛見沢連合町会は鹿骨市役所自治係の立会いの下で結成された善意の住民団体。よって前原氏は正当な代表者として認められます。この陳情を拒否するのは明らかな職権乱用でありこれは市職員服務規程にも違反します。以上から相談所署長の命令が失効するのは明らかです」

 

園崎弁護士は淡々と話す。

 

「それでもまだ警察は相談所に従うのかね?」

 

「あー、わかりました。ごめんなさい。どうぞお通りください」

 

そう言って大石さんは道を空けてくれた。

 

すごい。これが園崎家の力なのか。

 

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相談所内

 

「北条沙都子の即時保護についてお願いにあがりました。所長に会わせてください!」

 

受付嬢に言う。

 

その時、後ろの扉から相談所の所長が現れた。

 

「市長から全て伺いました」

 

そう言った所長は頭を下げる。

 

「本当に申し訳ありませんでした。直ちに対応します」

 

そう所長は言ってくれた。

 

「やった!」

 

所長が係長と呼んだ人が沙都子の家に電話を掛ける。

 

……後は沙都子。お前が助けを求めるだけだ!

 

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鉄平と少し話して沙都子が電話に出た。

 

「鉄平さんとの生活に問題はないですか?」

 

係長が沙都子に尋ねる。

 

「…………そうですか。問題ありませんか」

 

係長の言葉で沙都子がまだ鉄平をかばっていると分かる。

沙都子……あなたが助けを求めないと相談所も保護出来ないのよ? お願い。助けを求めて!

 

その時、圭一が動いた。係長から受話器を受け取る。

 

「もしもし沙都子。俺だ。圭一だ。……無事か? ……いいか? 沙都子が頷けば相談所が即時保護するように俺達が話をつけた」

 

圭一が必死に沙都子を説得する。雛見沢で沙都子を虐める人はもういなくなったこと。園崎家も沙都子を助けようとしてくれたことなどを話す。

 

「梨花。君が沙都子を説得するんだ。君にしか出来ない事だ」

 

雪人が私に話しかけてくる。

 

「そんなの……言われなくたって分かってるわ」

 

私がそう言うと雪人は微笑む。

 

「百年の魔女には俺の助言は要らなかったね。……今度こそ破ってやれよ。この惨劇を、君の手で」

 

「ええ!」

 

私は圭一に近づく。

 

「圭一。僕にかわってくださいなのです」

 

「ああ」

 

圭一が受話器を渡してくれた。

 

「……沙都子? 梨花です。圭一たちが全部終わらせてくれたのです。もう雛見沢は沙都子を敵にしないのですよ」

 

「…………そんなのって信じられませんわ」

 

長い沈黙の後、沙都子が言う。

 

「……そうね。私も信じられなかった。あなたが鉄平に連れ去られたこの世界はどうしようもない袋小路だと思って不貞腐れていたから」

 

でも、圭一が、レナが、魅音が、詩音が、雪人が。どんな悪い状況でも諦めず、運命に立ち向かってくれたからこの奇跡が起きた。

 

「今度はあなたが奇跡を起こす番! 私たちの手を……取りなさい!」

 

「……でも、その手は受け取れませんわ。……私は……もっと強くならなくちゃいけないんですの」

 

「……ええ。分かってる」

 

沙都子は叔母の虐めを悟史の背中でやり過ごしていた事を悔いていた。自分が弱かったせいで悟史はいなくなったとそう思っている。だから鉄平の虐めに屈せず助けを求めない事で弱い自分と決別しようとしている。

 

「私が強くなればにーにーはきっと帰ってきてくれますもの」

 

「……沙都子……それで悟史が帰ってくるわけないでしょ。あなたは本当の強さを何も分かってない!」

 

今まで思ってきた事をここで言う。

 

「耐える事が強さだと思っているようだけど、それが昔とどう違うというの? それはただ悟史が帰ってきてまた庇ってもらうまでを耐えているだけ」

 

それじゃあ、前と変わらない。沙都子は弱いままだ!

 

「沙都子……悟史の強さをあんなに身近にいてまだ気づけてないの? あなたと同じように怯えていた。でもあの恐ろしい叔母に真っ向から戦った! あなたを救うために!」

 

私は今までたくさん強い人を見てきた。疑心暗鬼で怖がっていた圭一を必死で止めようとしたレナがいた。誰かが暴走しそうな時にいつも心配していた魅音がいた。そして……学校を占拠したレナと止め、運命が金魚掬いの網より薄い事を教えてくれた圭一がいた!

 

「それが……強さなのよ!」

 

お願い……それに気がついて!

 

side out

 

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satoko side

 

「……沙都子。あなたの後ろに鉄平がいるんでしょ?」

 

梨花が私に聞いてくる。

 

「……ええ、いますわ」

 

「さあ、その怖くて醜悪な顔を見なさい。沙都子あなたが悟史に対する罪を贖おうとするならば恐ろしさに立ち向かった悟史の勇敢さに気付きなさい!」

 

…………にーにー。

 

私はそっと後ろを振り返る。そこには…………酷く醜悪に笑った男の顔があった。

 

怖い……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!

 

「奥歯が震える?」

 

思考が麻痺した私の耳に梨花の静かで低い声が響く。

 

「足が竦む?」

 

怖い!

 

「背中の産毛がぞわぞわする?」

 

怖い!!

 

「その感触すべてがあなたを庇おうとする度に悟史が感じていたもの。そして分かって。悟史があなたに何を期待していたか。何を見習って欲しかったかを! それが分からなかったら……あなたは永遠に強くなんてなれない!」

 

梨花の言葉が私に突き刺さる。

 

「んー? なんじゃい。長い電話じゃのう」

 

「沙都子。この一年でどれだけ強くなったのかを悟史に見せなさい。さあ、悟史のような勇気を今こそあなたの胸に宿しなさい! 沙都子!」

 

それは……それはこの人に逆らって助けを求めるという事?

 

さっきぶたれた痛みと叔父が戻ってきてから幾度となく受けた痛みが甦る。

 

さっきのだけでこんなにも痛いのに……なのに目の前で助けを求めたりしたら……

 

私の頭に”死”という文字が浮かぶ。

 

にーにーも同じ怖さを感じていたんだ。自分だって怖かったのに私が泣く度に守ってくれていた。なのに……昔の私は……ただにーにーの背中にしがみついていただけ。

 

「沙都子。これから受話器を相談所の人に戻す。あなたの口で伝えなさい」

 

梨花に言われる。

 

「沙都子。あなたの勇気を見てるから」

 

その言葉から梨花の信頼がわかる。私なら絶対出来ると思っている。

 

「……梨花」

 

「もしもし、電話をかわりました。沙都子さんにもう一度お尋ねしますが……鉄平さんとの生活に問題はありませんか?」

 

さっきの人の声が電話に出てさっきと同じ質問をしてきた。

 

「おい。まだ終わらんのかいのぉ? ああん?」

 

叔父が話しかけてきた。 その瞬間、恐怖が戻ってきた。怖い! 体が震えて足が竦む。

 

にーにー……

 

私がにーにーの事を考えたその時、聞こえてきた。

 

(……沙都子)

 

にーにー?

 

(……沙都子。がんばれ。君なら、出来る)

 

にーにー!

 

「…………けて」

 

「……はい? っ! もう一度! もう一度お願いします!」

 

相談所の人が聞き返してくる。

 

「私を……」

 

私は勇気を振り絞る!

 

「私を助けて!!」

 

「おんどりゃああ! 裏切りよったんなああああ!!」

 

叔父が怒鳴る。

 

「あんたなんか大っ嫌い! ここから……出て行って!」

 

「このがきゃあああ!」

 

叔父が腕を振り上げ、振り下ろそうとする。

 

「――!?」

 

でも、その腕が途中で止まる。

 

私が不思議に思った次の瞬間、警察官が家に入って叔父を押さえ込んだ。

 

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目の前で叔父が警察官の皆さんに連れて行かれている。私には婦警さんがついていてくれている。

 

私の前に黒い車が止まる。

 

「沙都子ちゃん!」

 

車のドアが開いて梨花、ねーねー、圭一さん、レナさん、魅音さん。皆が出てきた。

 

「……酷い傷」

 

レナさんが私の顔を見て言う。

 

「ほっほっほっ……このくらい……平気でしてよ」

 

私は笑いながら言う。

 

「梨花……見ていてくださいまして? 私……やる時はちゃぁんとやるんですのよ」

 

「ええ、あなたの勇気ちゃんと見てた。あなたは戦って……勝ったのよ!」

 

梨花が走りよって抱きしめてくる。

 

その暖かさに私は安心して泣き出してしまいました。

 

side out

 

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yukito2 side

 

俺は沙都子の家の近くで姿を隠しながら一部始終を見ていた。

 

「ふぅ……ようやく終わったか」

 

風の魔法で聞き耳を立てて悟史の声マネを((肺力狙音声|ハイパワーソニックボイス))で沙都子だけに届けたり、鉄平が沙都子を殴ろうとした時に殺気を放って止めたり、細かい事で辛かった。

 

梨花たちが乗っている車も沙都子の家の前に着いた。

 

これで。ようやく終わったんだ。おめでとう。沙都子。

 

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次回予告

 

 

 

死というものは突然訪れるもの。自分の死であっても友の死でも家族の死でもそれは変わらない。

 

でも、友に死が訪れる事が分かっている時、あなたはどうしますですか?

 

泣く? 笑う? 怒る? 逃げる? それとも……守る?

 

 

次回

 

月殺し編 其の拾

 

新月

 

 

あなたは……どうする? くすくす……

 

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こんにちは、作者です!

 

私は二次創作を書くとき常々思っている事があります。それはもっと早く書きたいという事です。早く書ければそれだけ趣味や勉強の時間が増える! 書く量が増える! 良い事ずくめです!

 

と、言うわけで感謝の執筆を始めようか。朝起き、祈り、構え、打つ!(タイピング的な意味で)

 

それではまた次回。【バイバイ】じゃなくて【またな】だしwww!

 

説明
交通事故によって死んでしまった主人公。しかし、それは神の弟子が起こした事故だった!?主人公はなぜか神に謝られ、たくさんの世界へ冒険する。
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コメント
ZERO&ファルサさん。コメントありがとうございます。ひぐらしのなく頃には部活メンバーが四苦八苦しながら辛い現実に立ち向かう物語ですからね。未来を知っている雪人があれしろこれしろって言うのは違うと思ったんで、裏方をやってもらいました。(RYO)
okakaさん。コメントありがとうございます。沙都子は耐える事が強さだと思い込んでいたんですよね。でも、悟史は耐えるだけじゃなくて立ち向かう勇気を持っていた。悟史も強いですけど悟史の強さを分かった沙都子も強いですね。雪人は目に見える活動は難しいですからね。(RYO)
今回何もしてないなと思ったら地道にやってたんですねw サーセン(ZERO&ファルサ)
立ち向かう勇気こそが暗い運命を変えるための鍵だったんですね・・・っていうか雪人こっそりチートで援護www(okaka)
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