仮面ライダーサカビト その四 《デルザー壊滅編》
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前回までの仮面ライダーサカビト。

代々木悠貴は悪の科学者に洗脳・改造され、“仮面ライダー”を殺害してしまう。

その後、意識を失った代々木は犬神歌守輝=コヨーテ・オルフェノク、改造人間兵士の少女:風祭真理奈に出会い、ヒトならざるモノ=イレギュラーを滅ぼそうとするレプリディケイドの一団との戦いに飛び込んでいく。

 

そのレプリディケイドたちのリーダーは自身もイレギュラー、改造人間であるはずの仮面ライダーV3だった。

代々木は改造人間サカビトを名乗り、V3と激闘を繰り広げるが、圧倒的なV3の力と技の前に敗北を喫する。

だが、代々木=サカビトの攻撃でエネルギーを使い切ったV3は真の姿=ドラゴンフライ・ワームへとその身を転じた。

戦っていたV3は、オリジナルV3の記憶と戦闘力をコピーした宇宙生命体、ワームだったのだ。

V3の正義の記憶ゆえにワームとしてヒトを襲うこともできず、それでいてオリジナルでもないという苦悩の中、他の怪人を全て倒そうとしていたのだ。

 

どさくさに紛れて、犬神と風祭はなんとか逃げ延びることに成功。

代々木を助け出すために風祭が提示したのは、第三の帝王のベルトと呼ばれるシズマギアだった。

そのベルトはオルフェノクにしか使えないが、並のオルフェノクならば変身しただけで絶命することさえも有り得るという噂。

風祭はそれを知らずに犬神に渡し、犬神はそれを分かった上でベルトを受け取った…。

時と場所は移り行き、1975年…栄光の七人ライダーがデルザー軍団を打倒し、ネオショッカーが現れるまでの空白の出来事を語る男が居た…。

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 諸君らには二〇一〇年では代々木悠貴が((拐|かどわ))され、奪還しようとする犬神歌守輝と風祭真理奈の決意を伝えるべきだろう。

 されど、されどである。

 それよりも先、彼らのこれからの戦いを伝える前に、((この私|・・・))から諸君らに伝えなければならないことがある。

 これは((この私|・・・))が誰であるか、そして何のために彼らを((監視しているのか|・・・・・・・・))を知ってもらう前に伝えるべき事である。

 最初から語るならば…それこそ、時間軸に沿って語るならば五万年前に遡らねばならないかもしれない。

 もしかしたら、この地球という星ができたときから、いや時間という概念ができる前から伝えるべきかもしれない。

 それは((仮面ライダーとは|・・・・・・・))((なんなのか|・・・・・))、そこから語ればいいとも思う。

 

 だが、私に残された時間は少ない。

 黒い亡霊によって戦いへと追いやられた九人のサイボーグに我が母艦を預けてからというもの、傾いていた砂時計はあるべき位置へと戻り、その砂を戻す術を私は持たない。

 だからこそ、七人のサイボーグの話を伝えなければならない。

 

 悪魔たちによってその身を((髑髏|どくろ))を思わせるバッタの化身へとその身を変えたふたりの男を…。

 そのふたりの男たちの起こした風を見、戦いへと赴いた男を…。

 悪に染まり、悪を行い、右腕の業を糧に死を乗り越えて戦う男を…。

 神を敬う者を助け、神を名乗る悪を挫き、そして破った男を…。

 そして五人の男たちに続き、一九七五年から一九七六年を戦ったふたりの男が加わった。

 

 密林に生き、友のために戦い、人でなくなっても人類の友として生きる男――アマゾン。

 

 邪悪なる存在だけがその名を恐怖し、天が、地が、人々が呼ぶとき、電光石火のごとく現れる強い名前を持つ男――ストロンガー。

 

 彼らはゲドン、ガランダー帝国、ブラックサタン、デルザー軍団と二年に及ばない時間で四つの悪を滅ぼした。

 一九七八年に次なる悪…ネオショッカーが登場するまでの平和と呼ぶには短すぎるインターバル。

 しかし、彼らに安らぎの日はなかった…これからお聞かせする話は、そのインターバルの物語だ。

 

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 一九七一年〜魔の国

 

 その場所を知る者は居ない。しかしながらその存在は知れ渡っている。

 人跡未踏。誰一人見たことがないにも関わらず、隣国の人々はその国を恐れ、夜はその国の者たちから隠れるように息を殺して朝を待つ。

 その国の名は――魔の国。人ならざる魔人たちが住まう巣窟。

 人知を超えた魔力を備える強靭な血肉を現代の魔術である化学の力をもって補填された改造魔人。

 巨人、鳥人、獣人、鉄人が集い、その頂点たる十三人の改造魔人を人々は恐怖を込めてその名を呼ぶ――デルザー軍団、と。

 

 魔の国の一角、雪男一族の住まう区画にやってきた男は人ではなかった。

 一見した印象はフェンシングの選手のようだが、襟元からは血管の浮いた首筋が覗く。

 いや、血管が浮いているのは首だけではない。

 頭部全体の表皮を剥ぎ取ったように血管が走り、その顔面をカバーするように透明のカプセルを装着していた。

 「スノウ司祭、居るか?」

 この人物こそ、デルザー十三人衆のひとり、ジェネラルシャドウだった。

 彼が訪れた雪男一族の城は氷雪で作られており、食い散らかされた哀れな被害者たちはその寒さのせいで凍りつき、土に帰ることも許されない。

 薄暗くどれだけの広さがあるのかすら分からない空間。その声は暗がりから反響として聞こえてきた。

 「おお。これはこれは…デルザー軍団の実力派、ゼネラルシャドウ殿ではないか。この寒さは人間出身のシャドウ殿では辛かろうに…今日はどういった用向きで?」

 「マシーン大元帥に頼まれてな。貴様にいくつか尋ねることが有る」

 「ほほぉ。流石シャドウ殿。雪男の血を引くこの私を追いやってデルザーに入っただけのことはある。 もう大元帥の信頼を買っているのか」

 その語気は朗らかで友好的とも取れるが、正しく解釈すればただの慇懃無礼だろう。

 スノウ司祭はジェネラル・シャドウが昇格する前まではデルザー軍団に籍を置いていたものの、シャドウに押し出される形で降格された。

 デルザー軍団は常に十三人。その中には血筋そのものを誇りとする者も多く、このスノウ司祭もその一派であった。

 「最近動いている人間ども…ショッカーという組織を知っているな?」

 「無論々々。あの連中の出方次第で我々の世界制服の手順が変わってくるのだからな、そうだ、ショッカーといえば…」

 「能書きはいい。あの連中が雪男族を素体にした改造体を使っている。心当たりは?」

 「…ほウ?」

 その怪人とは、名をスノーマン。

 捻りもない名前だが、その戦法・戦力も捻りを必要としないほどに強力、ダブルライダーを相手どって互角に戦った怪人だ。

 その戦いのデータを入手したのが、デルザーの事実上のリーダーであるマシーン大元帥だった。

 しかし、そのマシーン大元帥はエジプトで別の作戦を展開中であり、伝令としてシャドウを使ったというわけだ。

 「それはそれは…失踪した同胞は居たが、まさかショッカーに捕まっていたとはなァ…知らなんだ」

 「ほう? ならばなぜ一族の失踪したという報告を怠った?」

 「我が一族のことでお忙しいデルザー軍団を騒がせては失礼、と…おお、灯りも付けないのも失礼ですかな? ヒト出身のシャドウ殿では…」

 そう云いながら暗がりの中、次々と独りでに((蝋燭|ろうそく))の火が灯り、スノウ司祭の醜い容姿と作ったような笑顔を晒した。

 雪男というよりもゴリラか何かのように大きすぎる体を強引にキリスト教の司祭が着るような祭服に身を包み、首には十字架を下げている。

 氷の上を歩く足には靴も履かず平然としているが、それは((大きな足|ビッグ・フット))と呼ばれるように大きな足が入る靴がないだけだろう。

 「“知らなかった”、その言葉に偽りはないだろうな?」

 「もちろん。格下の改造魔人であるこのスノウ司祭がデルザー軍団であるシャドウ殿を欺くなど…あるはずがない」

 「…実を云えばな、貴様の一族が行方不明になったことは、消えた日には気付いていたのだ」

 そのとき、初めてスノウ司祭の笑顔が引きつった。驚きと苛立ちによって。

 「その日からだったな。貴様のしている((研究|・・・))が順調に進みだしたのも」

 「…マシーン大元帥に進言するつもりか、シャドウ」

 秘密裏に進めているつもりだったスノウ司祭はシャドウに秘密を看破され、その毛むくじゃらの肝を冷やしていた。

 他人、しかも自分が軽蔑する成り上がり者に、自分の心臓を握られているに等しい状況だった。

 だが、シャドウはあっさりとしていた。

 「フン、俺は大元帥の腹心というわけでもなければ義理もない。勝手にするがいい」

 「それは…見逃してくれるという…わけか…? 見返りは…?」

 「どうでもいいだけだ。俺が興味が有るのは――強者のみよ」

 スノウ司祭の眼球に、シャドウ以上の血管が浮かび上がった。

 「…ッきィ…貴様ァッ!」

 心臓を握られながら、こともあろうにシャドウはその心臓を投げ捨てた。興味がない、と。

 それは、デルザーとしての称号を剥奪されたという苛立ちと合わさり、スノウ司祭に激昂させる機会を与えた。

 「ゼネラルシャドウッ!」

 剛腕の起こした風は蝋燭の火を揺らし、シャドウの頭部を砕くべく迫るが、その一撃はジェネラルシャドウの頭を砕くどころかカプセルに触れる前で止まった。

 止めたのはスノウ司祭の背後から伸びた鞭。

 その鞭を操るのは全身に鱗、頭部には牛のような角の生えたデルザー軍団のひとり、ヘビ女だ。

 「へ、ヘビ女帝…貴様、いつから…っ?」

 「気づかなかったのかいぃ? スノウ司祭ともあろう男が足元を通り過ぎた一匹のヘビを見逃すとはねえ…」

 「この伝令はマシーン大元帥から俺とヘビ女に下されたものでな…それよりスノウ司祭、何か用か?」

 奇襲も通じず、腕利きのデルザーふたりを相手にして勝てると思えるほどスノウ司祭の頭は悪くなかった。

 悶々とした苦渋をかみ殺し、強引に笑顔を搾り出すことがスノウ司祭にできる唯一の反撃だった。

 「…いや、なんのこともない…ただな、そう、ただ腕を振りたくなっただけだよ」

 「ずいぶんと良いエクササイズだねェ…ところで今の私は((将軍|ジェネラル))より偉い女帝なんかじゃない、ただ将軍と一緒に居る女…ヘビ女さァ」

 「それは失礼。ヘビ女」

 「失礼ついでに檻の中にいる人間の子供を貰っていってもいいかねェ?」

 「…ヘビ女?」

 何か思うところがあるらしく、疑問を投げ掛けたのはシャドウだった。

 「デルザー屈指の名家、ヘビ女の頼みとあらば断れるはずもない、連れていきたまえ」

 「助かるよ、スノウ司祭」

 「しかし、あんな子供でいいのか? 人間たちからも家畜同然に扱われていた人間だ。歯応えも無さそうな痩せたロマだぞ?」

 その言葉に、シャドウの視線がヘビ女へと向いた。

 ロマ民族は諸説あるもののモンゴロイド系とされ、ナチスドイツによって大量虐殺された部族のひとつだ。

 ナチスドイツが滅んで久しいが、それでも差別されるべきと区別された者は長く虐げられ続ける。それは人間という生き物の修正されるべき習性だった。

 「…ロマ族だから助けるというのも薄汚れた同情心だと思うがな」

 「違うさァ、ジェネラルシャドウ。私はこの子の眼が気に入ったのよ」

 冷蔵庫のように冷えた檻の中から少年は痩せ細り、着ている服もパッチワークとも呼べない酷いツギハギだった。

 だが、その眼には魔人に対する怯えはなく、ただひたすらな闘志だけを剥き出しにしていた。

 それは魔人や人間、全ての者を認めようとしない敵意であり、シャドウが人間だった頃、鏡を覗くたびに会っていた眼だった。

 「…そういえば、シャドウ殿はロマの出身でしたなぁァ…相憐れむ、というか…」

 「トランプショットッ!」

 シャドウが予備動作もなく投げたトランプは、スノウ司祭を驚かせたが、スノウ司祭に放たれた物ではない。((私に投げつけてきた|・・・・・・・・・))。

 「…どうかしたかいィ? ジェネラルシャドウ?」

 「ネズミだ。この寒さの中で動き回る、な」

 トランプが突き刺さっているのは文字通りのネズミ。

 私が小型カメラとマイクを仕込んでおいたサイボーグネズミだが、やはりシャドウは只者ではないといったところか。

 もう一匹忍ばせておいたネズミは物陰から動かさず、ただシャドウとヘビ女が立ち去る足音を集音していた。

 タイミングを計るのは難しくなかった。スノウ司祭が暴れだした。

 「ァァオァォォッッ! 人間出身の出来損ないゥあ、俺を、俺を見下しぁゃがってぇえィぁッ!」

 幼稚なまでの発散に砕け散る壁。

 ジェネラルシャドウを砕くはずだった豪腕は氷壁を砕き、気炎は氷を溶かす勢いだった。

 これ以上砕いては城が崩れる、そんなところで破壊は止まった。

 「ハァ…フゥ…見ていろシャドウ…いや、俺を降格したマシーン大元帥も…見下しやがったヘビ女帝も…全員だ。この死神博士から得た古文書さえあれば…!」

 怒り狂いながらも一切壊さなかった研究室にその大きな足で向かった。

 そこにはどこかから運び込まれたと思われる三体の赤い怪物を描いた壁画があった。

 以前、ショッカーは“アマゾンの呪い”という猛毒を入手し、アリガバリという改造人間に組み込んだことがあった。

 机の中に広げられたファイルは、そのときに密林からショッカーが仕入れた碑文のコピーだった。

 

 

 「((空我|クウガ ))の力を以って所有者をクワガタの魔人へと変える((霊石|アマダム))を備えたベルト…アークル」

 スノウ司祭はそのコピーを参考に壁画の文字をなぞり、解読を進めた部分を嬉しそうに読んだ。

 「高純度の霊石の結晶体である((獣の王|ギギ))の腕輪と((暁|ガガ))の腕輪は装備者をトカゲの魔人、((天尊|アマゾン))へと変える」

 壁画には腰に何かを巻いた赤いクワガタと、腕輪を付けた赤と緑の大トカゲが描かれている。

 そして、三番目に描かれた戦士も赤いものの、その姿は大きな鳥で、その手には指輪…スノウ司祭の手の中にある物と全く同じ指輪をつけている。

 

 

 「…我が((黄昏|ジョズ))と((大鷲|パギ))の指輪の戦士…((導人|トート))…ッ!」

 その壁画に描かれている文字は西暦二〇〇〇年まで解読されないもの。

 城南大学に籍を置くある女性によって判読され、リント文字…あるいはグロンギ語と呼ばれるものだった。

 同胞たる雪男の代償として得た資料によって、スノウ司祭は狂ったように解読を推し進めていった。

 

 

 

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 一九七五年〜魔の国

 

 魔の国の会議室には椅子や机があるわけではない。

 血のように溶岩が滾る洞窟の中で、人間ならば耐えられない高温に晒され、その中で耐える能力のないものは意見を述べる資格もないと云わんばかりに議論を重ねる。

 マグマに照らされても彼らは汗なんて流さないが焦燥から冷や汗を掻いているものはいる。

 魔人たちの中でも腕利きが揃っていたデルザー軍団が仮面ライダーに滅ぼされたという報を聞き、明日にでも攻めてくるかもしれない仮面ライダーへの脅威のために、彼らは最後の選択をしようとしていた。

 

 魔の国の住人は狼男や蛇人間といった魔人の子孫だが、その中で吸血鬼だけは魔の国に籍を置かず、独自の一派を形成していた。

 吸血鬼たちは自らを((牙|キバ))の魔人という意味を込めて名乗っていた――ファンガイア、と。

 

 

 「交渉は俺たち狼男族…ウルフェンが担当する…ということでいいな?」

 狼男の子孫だったデルザーの狼長官は、その子孫であるということを誇りに思い、壁に先祖の肖像画を飾って崇めているような男だった。

 その狼長官もストロンガーとの戦いで死亡したが、残った((狼男|ウルフェン))はとにかく高慢な種族だった。

 人間でもしばしば見られる現象だが、客観的な根拠があるわけでもなく、他の種族よりも自分たちが最も優れた種族であると疑わないのだ。

 「ちょっと待て! ((ガルル|・・・))、なぜキサマらがそんな大役に当るのだ!」

 発したのはマシーン大元帥の身内でミイラ一族の男。

 マシーン大元帥も狼長官と同じくストロンガーとの戦いで死亡しているため、この男は代理だ。

 「フランケン族やスフィンクス族には信認を得ている…が、何か不満があるか?」

 「大有りだ! あの怪力しか取り得のない単細胞どもの信認程度で…ッ!」

 云ってから、ミイラ代表はスフィンクスとフランケンが殴りかかろうと立ち上がっていることに気が付いた。

 両隣に座っていたスケルトン忍軍や荒ワシ師団の代表が抑えていなければ、その“取り柄と呼べる怪力”で殴りかかりにくるのは明らかだった。

 「いや、まあ…だが、三票では俺たち…ミイラ、ヨロイ、ジシャクと同票数にすぎない。

  ならば、デルザーリーダーであるマシーン大元帥が一族、このミイラ小元帥が交渉にあたるのが筋というものだ」

 「そのマシーン大元帥の指揮でデルザーは全滅したのを忘れたのか? それではスフィンクスやフランケンを単細胞とは呼べんなぁ、乾物怪人」

 今度はミイラ小元帥の方がが構えるが、それを止めるのは例によってヨロイとジシャクの族長。

 リアクションは大体決まっている。イライラするときは相手を殺そうとする、それが魔人の特性だ。

 一触即発、仮面ライダーと戦う前に身内で殺し合いが始まりかねないところで、一本の細い挙手がそれを止めた。

 「だったら…私たち、ゴーゴン族はウルフェンを支持しますよ。これで四表だ」

 「…影蛇太子…キサマが?」

 その男は、ミイラ男や狼人間の中では逆に浮く容姿。

 マグマの熱に照らされたその姿は、完全な人間、しかも笑顔を浮かべた少年だった。

 デルザー軍団には生来の魔人ではない怪人、ジェネラルシャドウが居た。

 彼はジェネラルシャドウと同じく人間出身――四年前にスノウ司祭からジェネラルシャドウとヘビ女が譲り受けた少年――だった。

 人間出身者でありながら、影蛇太子はヘビ女が率いていたゴーゴン一族の中でも屈指の実力者であり、この場でもゴーゴン一族の長として座っている。

 「キサマ、なぜガルルなんぞに…ッ!」

 「深い理由はありませんよ、ただガルル殿には世話になっていますし、彼の云うことも一理ある。

  …鋼鉄部隊や魔女の皆さんも、特に異論はないでしょう?」

 他の魔人たちも頷いた…だが、それは不満がないというより、他の連中は自分こそリーダーに相応しいと思っている。

 だが現状で四表以上の投票を得られるわけもなく、それならばミイラだろうとウルフェンだろうと、どちらでも構わないのだ。

 「では、話が纏まりましたね。ガルル殿、ファンガイアとの交渉はあなた方にお任せします」

 各自腰を上げ、それぞれの居住区へ戻ろうとするが、納得していないミイラ小元帥が声を張り上げる。

 「ま、待てぇっ! まだだ、スノウ司祭が…居るだろう!

  全員が知っている通り、彼はジェネラルシャドウが入るまではデルザー軍団に籍を置いていた改造魔人だ。

  ならば、彼の意見を求めるまで結論は…!」

 「あの男は意思表示すら拒否した。決定権はない」

 数ヶ月前、ブラックサタンとの戦いが続いているときからスノウ司祭は根城から一歩も外に出ていない。

 ヘビ女がジェネラルシャドウの救援に日本へ向かったときも、何もせずに引きこもっていた始末だった。

 「…こんな大事を投票なんぞという軟弱な方法で決定するなど…! 我らは改造魔人、実力だけが全てよ!」

 「最初に投票式にしよう、と言い出したのはお前だぞ。ミイラ小元帥。

  …まあ、腰巾着のヨロイやジシャクの得票があるからそう云い出したんだろうが…アテが外れたな」

 「…そもそも! そこの影蛇太子は生来の魔人ではない!

  あのジェネラルシャドウと同じ、卑しい人間出身だ、そいつの投票を認めるなん…ッゥ?」

 

 そのときだった。

 ミイラ小元帥が突然、バランスを崩した。

 近くに居たヨロイやジシャクの代表が手を差し伸べるのが間に合わないほど急に、ミイラ小元帥の身体は自ら飛び込むようにマグマの中に落ちていった。

 ミイラ小元帥の断末魔が洞窟の中を反響したが、それだけだった。

 

 「…おやおや、ミイラ小元帥殿は…マグマの中を遊泳する趣味が有るようで…」

 

 誰ともなく、気付いていたが口にはしなかった。

 方法は分からないが、ミイラ小元帥を殺したのはこの影蛇太子だと。

 一族を誇りに思う魔人たちは誰もが、今のミイラ小元帥のジェネラルシャドウへの暴言は確実に影蛇太子の琴線に触れると認識していた。

 

 

 ――その認識が誤りであったことを知る魔人は、誰一人いない。

 後の展開から推測するに、影蛇太子は単純に早くその会談を終わらせたかっただけだろう。

 ガルルを信認したのも、ミイラ小元帥を暗殺したのも全てはその方が話が早く終わると判断しただけ。

 この怪人は魔の国の存亡にすら興味がなく、この怪人は父母同然だったジェネラルシャドウやヘビ女の死に何も感じていない。

 

 影蛇太子は何にも興味がなかった。

 人間は成長の過程で感情や道徳を身に付けるが、影蛇太子にはそれがない。

 生まれながら他者に虐げられて育ち、同じように差別される人間を踏み台にして生活し、それを当たり前だと思っていた。

 “なんとなく世界が嫌い”、だから改造魔人として世界制服には賛同していたが、デルザー軍団が滅んだ今、彼は魔の国に居るメリットがなくなった。

 

 「じゃあ、僕はこれで失礼しますね…皆さん」

 

 純粋な笑顔を浮かべて、影蛇太子は溶岩の間を出て行き、そして魔の国そのものから姿を消した。

 更なる強さを求めて。もはや理由すら思い出せない憎悪を抱え込み、世界そのものを壊せるだけの力を求めて。

 

 

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 影蛇太子の姿が消えてから数時間後、ガルル率いるウルフェンはファンガイアの交渉係を迎えた。

 敵意がないことを示すため、わざわざ人間の姿…ガルルは次狼という青年の姿に変わり、部下の狼男たちもヒトの姿をしている。

 だが、ファンガイアも人間化できるにも関わらず、そのファンガイアは怪人の姿で登場し、しかもその人選にウルフェンたちは眉を潜めていた。

 「どういうことだぁぁ? なぜ…交渉にキングやビショップではなく…あんたが来る?」

 交渉に赴いたウルフェンたちは誰ともなく変貌していた。

 盛り上がる筋力は衣服を突き破り、その代わりとばかりの剛毛が全身を包む――ウルフェンの真の姿、狼男だ。

 「…お前たちを殺して…俺は俺に…ご褒美を与える」

 ファンガイアはその役職をチェスの駒に例えて呼んでいる。

 族長はキング、その伴侶クイーン、参謀格のビショップ、その三人ならば交渉に来るのも理解できるが、その場の男は同じくチェスの駒に例えられるが、どう考えても交渉役ではない。

 実際のチェスでは甚大な突進力を駆使して敵陣を駆逐する剛力、ルーク…腹の底から戦いを楽しむような声を出すルーク。

 その姿は吸血鬼というよりもステンドグラスを散りばめたようなカラーリングの怪物。

 言葉や態度からは知性は見られず、破壊だけを求める獣性を感じた。

 そう、それは子供だけのもののはずだ。感情を向き出しにして全力で力を振るう幼稚なまでの残虐性は。

 「答えろ、オイっ」

 「ゲーム…スタート…!」

 腕時計のタイマーを動かし、ルークはウルフェンたちに向けて突撃する。その姿はポーンの集団を跳ね飛ばすルークのごとく。

 負けじとウルフェンは牙や爪、中には狼長官と同じプラズマエネルギーを駆使するものも居たが、介さずにルークは次々とウルフェンたちを潰して命を奪っていく。

 ウルフェンたちには悪いが、デルザー壊滅後に交渉という名目を使っていた点を考えれば、ファンガイアたちの目的には大凡の見当は付く。

 

 これは((私|・・・))の推測に過ぎないが、デルザー軍団が戦力を温存しつつ世界を征服しようとした理由がこれなのではないだろうか?

 最初からデルザーたちは世界征服してからはファンガイアとの戦闘を想定していたからこそ、そのあとのリーダーを決めようとしていた。

 デルザー軍団にとっては人間が人間の技術で改造した少数精鋭である仮面ライダー以上にこの((吸血鬼|ファンガイア))たちが脅威だったのだろう。

 しかし、デルザー軍団の予想以上に仮面ライダーは強く、敗れ去ってしまう。

 結果としては、今まで牽制していたデルザーが居なくなり、ファンガイアに魔の国を滅ぼす好機を与えてしまう形になった。

 

 

 また首がひとつ、壁面に叩き付けられてトマトのように潰れた。

 

 

 ウルフェンだけでなく、騒ぎを聞きつけて他の魔人たちも参戦する。

 魔女一族の毒ガス攻撃、鋼鉄一族のチェーン戦法、フランケン一族のナイフマシンガン。

 だが、どの攻撃もルークに有効なダメージを与えられないままにいたずらに命を散らしていく。

 これがデルザー軍団ならば話は別だろうが、彼らが全滅するのは時間の問題に見えた。

 そんな中、累々と死体が積上げられていく残り少ないウルフェンたちのひとりが、息も絶え絶えになりながら別の仲間へ声を掛けた。

 「逃げてくれ! ((次狼|ジロー))さんッ!」

 だが((次狼|ガルル))は意に介せず、ルークと最前線で火花を散らしている。

 「こんなときに冗談を云うんじゃァないっ、三狼ッ」

 「いいや、三狼の云うとおりだ。こいつは…俺たちの爪では…((牙|きば))では倒せん。

  お前は…次狼はもっと強い((牙|キバ))を手に入れて、いつの日にかコイツを切り裂くのだァッ!」

 残り少ないウルフェンたちも言葉にはせずとも、背中越しにそれを肯定している。

 生き残るのが次狼ならば文句はない。そう云わんばかりに。

 「しかし…!」

 「行けぇッ! ウルフェンの血を絶やすわけにはいかん! 次狼…いや、ガルル! 必ず、必ずいつの日にか…」

 言葉も途中に、その狼男の((上顎|うわあご))がルークの振るう杖の一撃で跳ね飛ばされた。

 だが、その死体は語る。いつの日にかウルフェン族は蘇るべきだと。そのためにお前は生きるべきだ、と。

 「う、ル、う」

 彼の発する声は既に人間の言葉ではなかった。

 狼の雄叫びを上げて彼は走った。仲間を捨て、背を向けて逃げるという恥を晒してもガルルは走った。

 全てはウルフェン族のために。あえて汚名を着てウルフェン族でも飛びぬけて速い駿足で走りぬけた。

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 時を同じくして、別のカメラからの映像に私は目を奪われた。

 そこは雪男族の巣、薄暗い雪洞。

 ジェネラルシャドウと入れ替わりにデルザー軍団から降格となったスノウ司祭の住まう城。

 デルザー軍団に次ぐ戦力を有するスノウ司祭ならばルークにも対抗できる、そう踏んで何名かの魔人が呼びに行ったが、誰一人戻ってこなかった。

 スノウ司祭は、デルザー全滅の報を聞いても動きをとらず、ただ己の研究だけに没頭していた。

 逆境の集中力が新たな発見をスノウ司祭に与え、そして“真実”に到達していた。

 

 「…ありうるのか、そんなことが…」

 

 リント文字を解析してたどり着いた真実を信じられず、彼は虚ろに呟いて自分の拳に付けられた指輪を見た。

 古代インカ帝国の超科学が、なぜ天尊や導人を作ったのか、それは私も興味のあるところだ。

 それは同じ人間を相手にするには強力すぎる。

 では、((何を倒すために|・・・・・・・・))存在しているのか?

 真実への余韻に浸るスノウ司祭に、呼び声が掛かった。

 

 「スノウ司祭! なにをしているんですか! ファンガイアの迎撃をお願いします!」

 「ファンガイアァ〜?」

 どうでもいい、そう云わんばかりにスノウ司祭は呼びに来たジシャク一族の男を睨み付けた。

 「さっきからお前以外に八人も来たぞ。色々な種族の連中が…全く以って…五月蝿い…」

 正気ではない目付きで、スノウ司祭はジシャク一族の男を睨め付ける。

 だが、ジシャク一族の男も引くわけにはいかない。現在進行形で多くの同胞がルークによって轢殺され続け、一秒遅れるだけで犠牲が増えていく。

 「研究だかなんだか知りませんが…今は! 魔の国存亡の危機なのです!」

 「魔の国…ああ、どうだっていいだろう。そんなことは」

 「どうだっていい…ですとぉ…ッ?」

 ジシャク一族の男は氷の居城の中に入り込んでいく。

 段差が豊富で暗がりでよく見えないが、廊下にはスノウ司祭の研究材料が散らばり、それを超えながらなんとか入り込んでいく。

 羽交い絞めにしてでも連れて行くつもりだ。

 「五月蝿い、実に五月蝿い。俺は“敵”を倒さねばならん」

 「ええ。ですから、ファンガイアのルークを…!」

 「違う、ファンガイアではない。もっと大きな“敵”だ」

 障害物に足を取られそうになりながらも、ジシャク一族の男はスノウ司祭の元にたどり着いた。

 そのとき、やっと気が付いた。スノウ司祭の手元にある物の正体を。

 「…ああ、ちょうど良いか。首が九つ必要なのだよ、このジョズとパギの指輪を覚醒させるためには…」

 スノウ司祭のゴリラのような腕がジシャク一族の男に巻きついた。

 やっと気が付いた。薄暗い部屋の中、自分が踏みしめていたものの正体を。

 ドクターケイトの一族、狼長官の一族、岩石男爵の一族…累々と積上げられた死体の数々。

 そのどれにも首がなく、そしてスノウ司祭の手元に八つの胴がない首が並べられていた。

 「な、なぜぇ…ッ!?」

 「気にするな、これも手段だ」

 スノウ司祭は臭い息を感じるほど近くでジシャク一族の男にそう呟き、指に力を込めた。

 「…ィッ…っぎぃいいいい…」

 数分後、別の魔人がスノウ司祭を呼びに来たが、そこには既に誰も居なかった。

 

 

 

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一九七五年 日本

 

 「オマエ、コレ乗れッ!」

 「乗りません! アマゾン、乗らないッ!」

 どこかで見たような光景は、空港で繰り広げられていた。

 それぞれ経緯は異なるも、正義は一つとばかりに悪の組織と戦い続けた英雄、七人ライダーの内の五人とそれに協力した立花藤兵衛が居た。

 居ないふたり…本郷猛=仮面ライダー一号と結城丈二=ライダーマンは、先に飛行機に乗って異常を確かめていたが…異常は残っていた組が起こしていた。

 「バイクにはもう乗れるだろ、大して変わらないから!」

 「ジャングラーはトモダチ! でも飛行機キライ…アマゾン、機械、キライッ!」

 騒いでいたのは七人ライダーの一人、山本大介こと仮面ライダーアマゾンだった。

 彼はターザンのように密林で育ったため、日本に来た当初はそのギャップから不自由することが多かったが、友人のマサヒコ少年の指導で克服した。

 だが、反射的な恐怖…日本に来たばかりの頃から抱いていた文明や機械への恐怖は完全に払拭されたわけではなく、今に至る。

 つまり、目的地…魔の国へ出発するための飛行機に乗ることを拒否する、といった具合だ。

 「昨日説明しただろアマゾン。

  デルザーは滅んだが、魔の国はまだ何かたくらんでるかもしれない。だから明日調査に行く、と」

 説明したのは歳も近い神敬介=仮面ライダーX。

 七人ライダーの中でもリアリストで硬派の彼だが、騒ぐ後輩ライダーを落ち着かせる方法はよくわからないらしい。

 「アマゾン、船でひとりで行く! ケースケたちは先行け!」

 「移動に何日かけるつもりだ、お前はっ!」

 よほど緊張しているらしく、山本大介の日本語は初めて来日した当事と同じく覚束ない物になっていた。

 そんな先輩ライダーを見れば、無数の怪人を倒してきた城茂=仮面ライダーストロンガーも驚き、困惑している様子だ。

 それに気が付いたのか、一文字隼人=仮面ライダー二号は城茂に話しかけた。

 「…ビックリしただろ? 昨日は普通に喋ってたからよ」

 「いえ、まあ…」

 「恐縮すんなって。俺もお前もアマゾンも兄弟みたいなもんだ。アニキがバカやってたらバカだって云ったっていいんだよ」

 仮面ライダーは兄弟…という言い回しは、仮面ライダーV3=風見志郎も使っていた表現だ。

 命懸けのデルザー軍団との戦いを勝ち抜いて他の仮面ライダーのことを城茂は信頼もしているが、情報は立花藤兵衛から聞かされた程度しかない。

 しかもその内容は本郷猛は優しかっただの、一文字隼人は楽しかっただの、何に役立てたら良いのかすら分からない主観的なものが多いのだった。 こういうときどうすればいいか、“現段階において”末弟たる城茂にはわからなかった。

 六男(山本大介)に手を焼いている五男(神敬介)に、面倒見のいい三男…風見志郎が前に出てきた。

 彼はGODと戦う神敬介の救援にも最初に駆けつけ、そしてストロンガーが最初に出会った他の仮面ライダーでもある。

 その手腕を見ようと、城茂は風見志郎に注目した。

 「わかった。大介、お前の言いたいことはわかった…それはそれとして、あれなんだ?」

 風見志郎が指差した方向を山本大介が…そして城茂が振り向いた瞬間、鈍い音と山本大介の嗚咽が聞こえてきた。

 城茂が視線を戻せば、崩折れる山本大介と、それを支える風見志郎の姿があった。

 「茂、向こうに着いてから起こすんだぞ。飛行機の中で暴れると大変だからな」

 「お、おう…わかった」

 昏倒した山本大介を抱きかかえ、城茂は先輩ライダーの意外な一面に空いた口が塞がらなかった。

 「志郎、やりすぎだろ。それは」

 「一度決まったことにウジウジと女々しいことを云った大介が悪いんですよ、オヤジさん」

 「…あんたに比べたら、大概の男は女々しいですよ」

 風見志郎は、一度決めたらなんとしてでもやり遂げる信念の男だ。

 もし決めたら、自分の血液を全て後輩ライダーに輸血した直後の満身創痍の身体でも敵怪人を倒しに行く。

 そのとき輸血された後輩ライダーである神敬介は、以降は風見志郎を先輩と呼んで認めている。

 離陸時間が近くなったことを知らせるアナウンスが飛行場に響いた。

 

 「…じゃあな、行ってくるぜ」

 

 城茂は、誰にともなく呟いた。

 他の仮面ライダーは人類の平和のために、魔の国に行って闘う意思があるかを確かめに行くが、城茂にはもうひとつモチベーションがある。

 デルザー軍団との戦いで散っていった仲間、岬ユリ子との墓前の誓い。

 次に墓参りにくるときは、全てのデルザー軍団を倒した報告をする…そう誓った。

 

 デルザー軍団は全部で十三人、しかし七人ライダーが倒したのは十二人。

 残るひとりが未だに世界制服を企んでいるならば、容赦せずに叩き潰す…そのために、城茂は、ストロンガーは行く。

 六人の偉大な兄弟と共に岬ユリ子に最高の報告をするために、敢然と戦い続けるのだ。

 

-8ページ-

 

 

一九七五年 日本

 

 飛行機というのはひとりでは動かせない。

 操縦士はもちろんのこと、管制塔でそれぞれの運行を管理しなければならない。

 仮面ライダーの乗った飛行機が離陸する頃、空港の管制塔では平穏無事な運行が行われている…はずだった。

 「アレが仮面ライダーたちの乗った飛行機か」

 本来は統制するべき人々を昏倒させ、空き家のようになった管制塔から仮面ライダーの乗ったジャンボジェット機を見据える異形。

 彼らはデルザー軍団が壊滅する直前、岩石大首領が各国から呼んだ組織の残党たち。

 だが正面対決では七人ライダーに勝てない、そう判断した怪人たちは、このときを待っていた。

 最大の戦力であるバイクを使えないシチュエーション、それどころか飛行機を落すだけで中の仮面ライダーを高確率で殺害できる。

 「これで我々も…((次なる組織|ネオショッカー))に迎えられるというわけだな…」

 「油断するな、飛行機を爆破しても仮面ライダーのことだ。何人かは脱出するかもしれん」

 「急ぐぞ。こんなことで時間を食うわけにはいかん…我々は長沼博士の招致、そして筑波博士を…んん?」

 管制塔の窓を覗けば、飛行場が見える。それが当たり前だ。

 そこに現れた三つの人影。自信に溢れ、背筋は太陽に向かって真っすぐ伸びた男たち…一文字隼人、風見志郎、神敬介だ。

 「き、キサマら! 飛行機に乗ったのではなかったのかッ!」

 「仮面ライダーを甘く見るなっ、お前たちの作戦は見破っていたっ」

 「あの飛行機には本郷さんたちだけではなく、多くの人々が乗っている。断じて襲わせはしないッ!」

 「行くぞ! 風見ッ! 神ッ!」

 

 三人の男が繰り出すのは、多くの子供たちが憧れて怪人たちが畏怖してきたシークエンス。

 一文字隼人は腕を振り出し、拳でタメを作ってからジャンプする所作。

 風見志郎は、一文字隼人のものに似ているが明確に異なり、腕の位置を素早く入れ替える。

 神敬介のものは頭上で両腕を交差させ、腕を振り下ろすダイナミックな立ち回り…これこそが、仮面ライダーを仮面ライダーたらしめる動きだ。

 

 

 「変身…トゥッ!」

 

 「変身、V3ァッ!」

 

 「大変身ンッ!」

 

 

 一文字隼人は仮面ライダー二号、風見志郎は仮面ライダーV3、神敬介は仮面ライダーX…悪を砕く正義の姿が示現している。

 管制塔の窓ガラスを蹴り破った三人ライダーのマフラーが空港の風を受けて舞う。

 部屋の中に居るのはフクロウやモモンガといったガランダー帝国の獣人たち。

 どれもアマゾンライダーに倒された再生怪人だが、それ以上に眼を引いたのはその後ろにいる男だ。

 改造人間ではないが、羽飾りのついたカブト、槍のような杖、鋼鉄の甲冑を身に付けたその容姿はアマゾンや立花藤兵衛の伝えていたものだった。

 「キサマ…ゼロ大帝かっ!?」

 そう、その姿はガランダー帝国皇帝ゼロ大帝そのもの。

 だがここに居るはずがない。その男はアマゾンが倒しているのだ。

 「これは一体…?」

 「うろたえるなXライダー。影武者がひとりとは限らない、そういうことだ」

 仮面ライダーV3が云っているのは、ゼロ大帝には見分けも付かない影武者が居たという事実に起因する。

 部下の獣人たちは誰一人本来のゼロ大帝を知らず、その影武者にしたがっていた。

 「そうだな。アマゾンライダーは影武者をふたり倒した程度でガランダーは滅んだと思い込んだようだがな…」

 我こそが真のゼロ、言葉だけでなくその威圧感も本物。ウルトラなキャプテンとでも呼称したくなる威圧感を持つ。

 実際、影武者であったゼロ大帝もアマゾンと正面から戦い、ガガとギギの腕輪が揃っていなければ決着はどうなっていたかはわからない。

 真贋どちらだとしても、決して侮れる相手ではないことを百戦錬磨のライダーたちは知っている。

 「オヤジさん! その人たちをお願いします!」

 水を得た魚、とばかりにドサクサに紛れて現れていた立花藤兵衛が空港の職員たちを連れ出していくが、怪人たちは取り合わない。

 二号、V3、Xの三人ライダーに対して隙を見せるわけにもいかない。三人ライダーと再生ガランダーの戦いが始まった。

 

-9ページ-

 

 一九七五年〜飛行機の中

 

 「…一文字さんたち、どうなりましたかね」

 「心配は要らん。敵がなんであれ、あいつらが任せろと云ったんだ…言葉通りに受け取ればいい」

 本郷猛は正に後輩ライダーたちに全幅の信頼を寄せているらしく、空の旅を楽しむ余裕すら見せている。

 この男にとって一文字隼人はもうひとりの自分と云って差し支えのない戦友であるし、風見志郎も血の繋がった弟同然。

 そのふたりが認めた神敬介を疑る理由も皆無。最初にして最高の仮面ライダーであるという事実は、城茂も空気で感じ取っていた。

 「しかし、風見の奴…ここまでやらんでも…」

 結城丈二は、出発時に風見志郎に叩きのめされた山本大介を見て、半ば以上呆れている。

 毛布に包まって眠っている山本大介を見て、城茂は邪魔だろうとギギの腕輪に手を伸ばすが、それを結城丈二が手で制する。

 「云ってなかったか? ((ギギの腕輪|それ))は取れない。アマゾンの生命維持に大きく関わっている…取ろうとすれば確実に目を覚ますぞ」

 城茂は意外そうに更なる説明を求めた。

 立花藤兵衛からは戦いぶりや人柄は大量に聞いていたが、技術的な面はほとんど聞いていない。

 「アマゾンは古代インカ帝国の超技術で改造されている。

  ((金属部品改造人間|サイボーグ))というよりも、もしかしたら((生体部品改造人間|バイオボーグ))といった方が適切かもしれない」

 「…ちょっと待ってくれ、本郷さんよ? じゃあ、その古代インカ帝国ってところには…そんな技術が有ったとでも云うのか?」

 「そういうことになる。現に俺たちの目の前に居るじゃないか」

 信じられないといった様子で、城茂は山本大介をまじまじと見つめた。

 「じゃあよ? その古代インカ帝国ってヤツはゲドンなんてのが現れるのを見越してたっていうのか?」

 「いいや、ゲドンの十面鬼も古代インカの技術を使った改造人間だった。

  アマゾンの能力から考えれば、ギギとガガのふたつの腕輪は揃っての使用を前提にしている、と推測した方が妥当だな」

 科学者としての一面も持つ結城丈二の解説に、同じくショッカーに天才と称された本郷猛も異論を唱えない。

 その技術には不明な点は多いものの、もたらされる超常的な能力は明確に戦闘を目的とし、ふたつの腕輪が揃ったときのアマゾンライダーは無敵と云える存在になる。

 「じゃあ…なんだ。そのギギの腕輪とガガの腕輪ってヤツは((何と戦うための力なんだ|・・・・・・・))?」

 「手がかりを持っていたはずの人物はもうこの世にはいない」

 古代インカ帝国の科学を受け継いだ長老バゴー、そしてその同志であった日本人科学者香坂とその助手の松山、彼らはことごとくクモ獣人に殺されてしまった。

 そうなってしまえば、考古学は専門外である本郷猛や結城丈二にはその謎を追求する方法も時間も残されてはいない。

 「それってつまり、気にせずほっとけ、ってことだよな?」

 「本人が全く気にしていないことを俺たちが意識するのも変だからな、本郷さんじゃないが安全な空の旅を楽しむのも…」

 そのとき、揺れた。ジャンボジェット機が物理的に揺さぶられるように。

 大して珍しいことではないが、多いことでもない。他の乗客の間にも衝撃が広がり、アナウンスを待った。

 《この機はミー、デルザー軍団のジェットコンドルがハイジャックした!》

 デルザー軍団…その固有名詞は、妙にハイテンションな声が緊張という形で素顔の仮面ライダーたちを含む乗客たちの心を揺らす。

 目的は自分たちか、戦闘力はいかほどか、自分たちが乗ったせいでこの飛行機を戦いに巻き込んでしまったか…幾多の逡巡の回答を含む言葉がスピーカーを通して流れてきた

 《ユーたちは人質だ! ミーはユーたちを人質にして、多額の身代金を日本政府に要求するのが目的ッ! これからユーたちは我がアジトに運ばれる!》

 城茂は自らの耳を疑った。目的が矮小すぎる。

 己の戦闘力と戦果に誇りを持ち、一撃で日本を壊滅させるほどの大規模作戦を行ってきたデルザー軍団とは思えないのだろう。

 しかし、思えはしなくとも城茂のすることは変わらない。乗客たちを守り、この許せない悪を倒すのだ。

 「…ただの偶然…ですかね? 本郷さん」

 「そのようだな。俺たちが狙いならとっくに飛行機を落としているだろう」

 「いつものことですが…またですか」

 自嘲気味に結城丈二が笑うのも無理もない。

 彼が仮面ライダー四号を名乗る前からのことだが、普通に生活しているだけで偶発的に敵の作戦を目撃したり、襲われたりする。

 それは七人ライダー全員に共通することで、それが四人も固まって敵の本拠地を目指すのだから、敵の一体や二体、襲ってこないのも無理はない。

 「ツイてるんだかツイてないんだか、わかりませんね。我々は」

 「ツイてますよ、確実に」

 城茂はトレードマークの黒手袋を脱ぎ、発電用コイルの巻きついた手の平を露出した。

 「わざわざ魔の国くんだりまで行って、それで俺たちと戦う気があるか、なんて((欠伸|あくび))の出そうな確認をしなくて済むんだからよ」

 七人ライダーの核弾頭、好戦的な態度を取らせたらこの男の右に出るもの無し。

 喧嘩上等のストロンガー、城茂は真骨頂とも云うべき好戦的な態度を隠そうともしていなかった。

-10ページ-

 

 「いくら出るかなぁーッ! 身代金、ユーたちでいくら出るかなぁああー!」

 わめく怪人は、自分がハイジャックした飛行機に天敵たる仮面ライダーが居ることに気が付いておらず、底抜けなまでに楽天的に喚いていた。

 

 

 

To Be Continued

http://www.tinami.com/view/514091

 

-11ページ-

 

 以前、二次設定を原作出典だと思わせて迷惑をかけたことがあるので、独自設定の解説。

 

 

 岩石大首領がデルザーの魔王>

 作中のドクターケイトの発言から魔王と呼ばれる存在があるのは事実。

 ただ、信仰上の対象が別にあったり、別の生物を指している可能性も有るので、独自解釈設定。

 

 風見を呼び捨てにする結城>

 ストロンガーの直後だったら結城が風見を『風見さん』と呼んでいないとおかしいんですが、

 書いてて、どうやっても違和感があったので呼び捨てに変更されています。

 

 ジェンラルシャドウがロマ出身。>

 テレビ中では全く言われていない書籍出典の設定。

 昭和の特撮ヒーローの設定って、書籍によって結構違ったりするので、あくまで当作品ではこう扱っている、って次元。

 

 デルザー軍団は常に十三人>

 オリジナル。ジェットコンドルを入れて十三人という設定はありますが、

 単に強いヤツを集めたら十三人だったのか、十三人に拘っているのかは不明。

 

 クウガとアマゾンが同種の存在>

 完・全・独・創ー♪ 俺がー、書いてやるーー♪

 1:古代の超自然的技術で創られたオーパーツで変身する。

 2:所有者の精神力や、死に瀕した際に未知の力でパワーアップ。

 3:(基本的な)メインカラーは赤。

 4:敵と同質の存在である。(クウガとダグバ、アマゾンと十面鬼)

 5:作中で設定の真相を誰も分からないまま終わる。

 …など、意外と共通点の多いクウガとアマゾン。

 クウガを漢字で空我と書くのは公式ですが、アマゾンを天尊と書くのは創作。

 グロンギ語でギギはシシ、ガガはアサになるのも事実ですが、実際には無関係。

 大体、クウガとかアークルはグロンギ語変換で日本語に直せないし、固有名詞がグロンギ語に変換できるのも妙な気はする。

 …どうでもいいけど、ダイセツダン、もひょっとして、古代インカ帝国の言葉なんじゃなかろうか。

 まだ日本語に不自由な内から使ってた言葉だったし。

 もちろん、導人=トート関連もオールオリジナル。

 余談ですが、原作では古代インカ帝国は2千年は前から存在しているので、クウガよりアマゾンの方が古い戦士。

 また、超古代インカ帝国は文字という文化を持っていなかったらしいので、そのあとリントから輸入したんじゃないかー、みたいな脳内解釈あり。

 

 ショッカーがグロンギ語の資料を持っている>

 これはサカビト作中でも言ってますが、アリガバリの“アマゾンの呪い”の存在からアマゾンの調査はされたはず。

 十面鬼ゴルゴスのゲドンが他の暗黒組織と繋がっていたとすると、まあ資料的に持っている可能性はあるかなー、と。

 というわけで、上のアマゾンとクウガが同種、ってのと含めてのオリジナル。

 

 

 

説明

 全仮面ライダー映像作品を同じ世界観として扱い、サカビトを中心に各々の謎を独自に解釈していく。

 サカビト=代々木悠貴は改造人間であるが、仮面ライダーではない。
 仮面ライダーを倒すために悪の科学者によって拉致・改造され、子供を庇った仮面ライダーを殺害してしまった一般人だ。
 人々から英雄を奪った罪を贖い、子供たちの笑顔を守るため、サカビトは今日も戦うのだ。

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